2006年11月15日

南亮進・牧野文夫(編)(2005.3)『中国経済入門[第2版]世界の工場から世界の市場へ』日本評論社

 乙が読んだ本です。
 少しは、中国経済を勉強しようと思って買って読んでみました。
 内容は、13章に分かれており、それぞれが中国経済のある面に焦点を当てて現状を記述しています。
 目次は次の通りです。
 第1章 世界の工場か、世界の市場か?―中国経済の軌跡と展望
 第2章 社会主義市場経済とは何か?―漸進型移行経済と政府の役割
 第3章 メイド・イン・チャイナは世界市場を席巻するか?―工業化と成長要因
 第4章 国有企業改革はどこまで進んだか?―国有企業の改革と所有形態の多様化
 第5章 農村はいかに変化したか?―農村と郷鎮企業
 第6章 失業率は本当に低いのか?―人口変動と労働市場の形成
 第7章 金融は中国経済のアキレス腱か?―金融・資本市場の形成
 第8章 輸出は成長のエンジンか?―国際貿易の要因と意義
 第9章 外資は何をもたらしたか?―外資導入の役割
 第10章 中国は国際社会にとって脅威か?―中華経済圏の形成と米中経済摩擦
 第11章 日中関係はいかにあるべきか?―日中関係の過去と将来
 第12章 持続的成長は可能か?―エネルギー・環境・食糧の制約
 第13章 成長の果実は誰の手に?―改革開放の光と影
 各章ともタイトルに「?」が付いており、こういう問題意識で当該の章を書いたということがわかる構成になっています。
 ただし、乙が読んだ限りでは、全体にあまりおもしろく思いませんでした。中国経済学の教科書だということですが、こういう本で学ぶ学生は大変でしょう。13章が13人の著者によって書かれているため、相互の記述があまり関連していない点が一番の問題点でしょう。もちろん、関連する事項は、お互いの間の参照(クロスリファレンス)が取れていますが、そこまでであり、記述内容はややずれたままです。また、13人の執筆によるため、一面では各章の間で記述が重複している部分も見受けられます。編者の苦心がうかがわれます。
 本書で一番わかりにくい点は、巻末の用語解説です。いくつかの章で共通に出てくる専門用語を巻末でまとめて解説しようという意図はわかりますが、成功していないと思います。たとえば、p.5 「結局それらは使い物にならず、中国版傾斜生産方式*の後には荒廃した国土が残っただけだった。」とあります。「*」が巻末に用語解説ありというマークなのですが、巻末は50音順に用語が並んでいます。では、一体、何を引くべきでしょうか。乙は、「中国版傾斜生産方式」を引きました。ありませんでした。実は、「傾斜生産方式」が見出しになっていました。
 同様の問題をいくつか上げておきましょう。「→」の左側が本文、右側が用語解説の見出しです。
 p.8 「バローの経済成長率の収束仮説*」→「経済成長率の収束仮説」
 p.11 「気功集団法輪功*」→「法輪功」
 p.59 「ソフトな予算制約*」→「ソフトな予算制約」
 というわけで、何が1見出しになっているのか(どこに解説があるのか)、専門家でない人にはわかりにくいです。「教科書」なんですから、何も知らない人でも読めるようになっていなければなりません。一つの手は、本文に出てくるところで、「中国版「傾斜生産方式」*の後には〜」のように、当該見出しを「」でくくることです。こういう配慮がないために、巻末の用語解説をあちこち引く羽目になってしまいました。
 乙が読んでおもしろかったところは、投資関連の話題ですが、二つです。
 第1に、p.66 国有企業の経営がいかにむずかしいかということです。金もないし、所有権はあいまいだし、企業内に共産党組織があるしということで、経営者は大変苦労している(その割りに報酬が低い)ということです。
 第2に、第7章で、中国の銀行が抱える問題点がわかったことです。不良債権がとんでもなく多いんですね。これはこれで大変です。
 本書は図表が多く、一通り読めば中国経済の現状をある程度把握できます。その意味で有意義な本ですが、投資家の興味と関心からはややずれているので、一般論としては、あまり読む必要は高くないと思います。


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posted by 乙 at 00:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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