2006年12月13日

田中勝博(2004.12)『2005年 マネー大予測』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 乙はこの本のタイトルを見て、びっくりしました。田中勝博氏といえば、田中勝博(2004.11)『田中式機械的トレードで株長者になる!』東洋経済新報社
http://otsu.seesaa.net/article/29385272.html
で「予想をしてはいけない!」と繰り返し力説していた人ではありませんか。その人が、こんなタイトルの本を出しているのです。2冊の本の刊行年月日が1ヶ月差といえば、ほぼ両方を併行して校正などを行っていたはずで、その際、誰の目にも明らかなこんな矛盾をそのままにしているわけです。乙は絶句しました。
 本書の内容は、予測のオンパレードです。特に第2章「2005年 株式相場はこう動く」は予測そのものです。それ以外にも2005年にどうなるかをいろいろな側面について述べています。
 今は2006年ですから、田中氏の主張があたったかどうか、事後的に検証することができます。(乙は、こういう作業が大好きです。)
 田中氏の2005年に関する予測を概観するには p.99 が便利です。田中氏は次のように述べています。
@株価は、上昇する。
A債券は、金利が上がるので下落する。
B不動産は、条件のよいものは上がり、そうでないものは下がるという、二極分化がさらに進んでいく。
C【中略】高騰してきた原油価格が2005年は下落していく。穀物は、天候不順や異常気象の影響で上がっていく。
D為替は、円高ドル安に進んでいく。

 これらを順次見てみましょう。本書が執筆されたであろう2004年10月ころを基準に考えてみます。
@株価の上昇については、p.87 で、18000円も視野に入るとしています。2004.10 には、日経平均は 11000 円くらいでした。2005.12 では、16000 円になっています。田中氏の予想は、まあ、あたったといえます。
A債券の価格と金利は表裏一体のものですから、金利の予測を考えればいいことになります。日銀のゼロ金利解除は 2006.7.14 でした。2001年以来ゼロ金利がずっと続いてきたわけですが、この状態では、もうこれ以上金利が下がることはないので、金利上昇は誰でも容易に予測できます。問題はその時期です。田中氏は 2005 年中に金利が上がると予測しましたが、これははずれました。
B不動産価格の変化は追跡がむずかしいです。ここでは公示地価を見ることにしましょう。
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20060324/20060324b.html
を見ると、2005年は住宅地も商業地もすべての都道府県でマイナスでした。2006年から大都市圏で地価の上昇が見られます。
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20060324/20060324c.html
で東京の中を見ると、区部で地価の上昇が見られます。
 田中氏の予測はあたりでした。
C原油価格は
http://www.kakimi.co.jp/4kaku/4genyu.htm
によると、2004.10 で1バレル40ドル前後だったものが、2005.12 では55ドルまで上がりました。田中氏は、pp.50-54 で、1バレル35ドルまで暴落すると予想しています。予想は完全にはずれました。商品取引の穀物の価格は、乙の力ではよくわかりませんでした。商品先物などで個別の穀物についてはある程度わかるのですが、数年前の情報を集めるのが予想外にめんどうです。
D為替に関しては、田中氏は、p.138 で、これから円高に進み、2005年は100円の前半台を予想し、100円を割っても不思議はないとしています。100-105円くらいを予想しているようです。
 実際はどうだったかというと、
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=USDJPY=X&d=c&k=c3&a=v&p=m130,m260,s&t=5y&l=off&z=l&q=l
によれば、2004.10 で1ドル107円くらいでしたが、2005年はずっと円安が続き、2005.12 では 118 円までいきました。田中氏の予想ははずれました。
 本書には、この5点以外にも予想が書いてあります。たとえば、p.131 では、中国株が過熱気味であるとし、短期的には下落基調にあるので、2005年は買わずに待ったほうがいいと書いてあります。
 実際はどうだったでしょうか。
http://stock.searchina.ne.jp/data/chart.cgi?span=90&asi=2&code=HSCE&market=HSCE
によれば、2005年は中国株が継続的に上昇していた時期でした。田中氏ははずしてしまいました。

 そろそろ結論を述べましょう。田中氏の予測能力は平凡なものでした。地価の変動はゆっくりしたもので、二極分化は前年度にすでに見られている傾向ですから、それを延長して述べただけです。
 ホントの意味で予測があたったのは、株価だけでした。それにしても、中国株の予想ははずれているのですから、日本株の予想が当たったからといって、株のプロだと見ることはできません。
 まあ、こんなものでしょう。
 他の人の「予測」も事後的に検証してみなければ、田中氏の予測能力が他の人に比べて優れているかどうかは何ともいえませんが、今までに調べてみたところでは、予測能力は平凡といえるでしょう。少なくとも、田中氏の予測を信じて投資しても儲からないということは言えます。
 やはり、「予想をしてはいけない!」のではありませんか、田中さん。
 本書の帯(普通は出版社がつけるものです)では、田中氏のことを「カリスマ投資コンサルタント」と呼んでいます。乙は、「カリスマ」の意味が違うのではないかと思います。
 もしかすると、田中氏の主張を反対に受けとめれば、あたることが多いということなのでしょうか。


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posted by 乙 at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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