http://otsu.seesaa.net/article/30847771.html
を読んだとき、勝率 80% 以上という文言に感心してしまいました。
pp.33-34 に具体的に書いてあります。2002年11月から2003年10月までの推奨銘柄の年間勝率は 83% です。
これを聞くと、出島氏の推奨銘柄のうち 83%が上がって、17% だけが下がったように聞こえますが、そうではありません。出島氏の勝率の定義は、推奨日から3ヶ月以内に株価が推奨日の終値より10%以上上昇したものを勝ちとするというものです。
さて、出島氏の推奨の目利きはどれくらい優れているのでしょうか。株価がランダムに(乱数に従って)上下するものと考え、そのときの勝率を計算してみましょう。こういう計算は、望ましい結果を得るために、たくさんの回数のシミュレーションが必要になります。そこで、人手で計算することはせずに、プログラムを作って計算する必要があります。
まず、1銘柄の株価の変動をシミュレーションします。ある日の基準値として、株価10000円と考えます。これが初期値です。次に、正規分布する乱数(正規乱数)を発生させ、3ヶ月ですから66回足していくことにしました。(証券取引所のオープンしている日ということで、1ヶ月は22日と考えます。)66回目の値を3ヶ月後の株価とみなします。この場合、出てきた乱数を適当な倍率 p で大きくしてやると、3ヶ月後の株価の変動も大きくなります。これが1銘柄の計算です。
次に、株式銘柄数を10000にして計算することにしました。つまり、上述の1銘柄の計算を1万回行いました。これは、1万種類の推奨銘柄があった場合に該当します。3ヶ月後の株価は、10000円を中心に上下にばらつきます。そこで、3ヶ月後の結果1万個の株価の平均値と標準偏差を求めます。平均値は、ほぼ 10000 になるはずです。標準偏差はどれくらいが妥当か、むずかしいところですが、まあ 10% かなということで、10000 個の(3ヶ月後の)株価の標準偏差を計算して、初期値 10000 ですから、標準偏差の値が 1000 になるように、前述の p の値を決めてやります。標準偏差 20% で計算する場合は、p を2倍にしてやります。
さらに、3ヶ月間に平均株価が上昇する場合を考えます。たとえば、3ヶ月で平均株価が 1.2 倍になることはあり得る話です。日経平均株価は、2002年10月31日の終値が8640円、2004年1月30日(2003年10月の推奨株が3ヶ月経った場合)の終値が10783円で、2143円の上昇ですから、2143/8640=24.8%の上昇になります。15ヶ月間で約25%の上昇ですから、3ヶ月だと 5% くらい(1.05倍)と考えるべきでしょうが、ま、これはいろいろ考えてみましょう。騰落率を設定する場合は、3ヶ月の上昇分の 1/66 ずつを毎日の株価に足していくことにします。
「勝ち」は、66回の計算の途中で、株価が1回でも11000以上になった場合とします。ただし、上の計算では、いわば毎日の「終値」を順次計算するようになっていますが、1日の最高値は、終値よりも高いのが普通です。そこで、最高値で勝ちの数を数えることにしましょう。最高値は、もう1回正規乱数を求め、その絶対値を p 倍して、終値に加算したものとします。これで、3ヶ月間の最高値が初期値の1.1倍を越えた場合を「勝ち」とカウントすることができます。
さて、これで準備ができました。さっそく計算してみましょう。
騰落率= 0.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=3526 勝率=35.3%
最小値=5571 最大値=14205 平均= 9991 標準偏差=1003.1
騰落率= 0.0% 標準偏差=20% 勝ちの数=6812 勝率=68.1%
最小値=2791 最大値=17951 平均=10048 標準偏差=1982.6
騰落率= 5.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=5291 勝率=52.9%
最小値=6310 最大値=14676 平均=10500 標準偏差= 998.8
騰落率= 5.0% 標準偏差=20% 勝ちの数=7332 勝率=73.3%
最小値=3934 最大値=17869 平均=10515 標準偏差=1970.5
騰落率=10.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=6969 勝率=69.7%
最小値=7209 最大値=14894 平均=10996 標準偏差=1004.8
騰落率=10.0% 標準偏差=20% 勝ちの数=8047 勝率=80.5%
最小値=2707 最大値=18845 平均=11010 標準偏差=2009.3
騰落率=15.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=8452 勝率=84.5%
最小値=7847 最大値=15521 平均=11504 標準偏差=1008.4
騰落率=15.0% 標準偏差=20% 勝ちの数=8508 勝率=85.1%
最小値=4269 最大値=18572 平均=11468 標準偏差=1988.8
騰落率=20.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=9305 勝率=93.1%
最小値=8011 最大値=15926 平均=12005 標準偏差=1006.7
騰落率=20.0% 標準偏差=20% 勝ちの数=8957 勝率=89.6%
最小値=4560 最大値=19161 平均=12009 標準偏差=1973.6
この計算は、乱数を使っていますから、再度実行すると上と同じ結果にはなりませんが、毎回、ほぼ似たような結果になります。1万種類の株価を見ていることに該当するので、大数の法則が働き、ほぼ同じ結果になるのです。
これらの結果から、次のようなことが言えます。
(1)騰落率によって勝率が大きく変わります。出島氏がしつこいくらいに「上昇トレンドのときに株を買え」といっていることの意味がわかります。
(2)騰落率が低いときは、標準偏差によって勝率がかなり変わりますが、騰落率が高いときは、標準偏差の影響は小さくなっています。
(3)出島氏の 80% 以上の勝率は、何ら驚くべきものではありません。上の結果は乱数で計算したものですから、個々の株価は上がるか下がるかまったくわかりません。乱数で上下しているわけです。しかし、騰落率がある程度あれば、80% くらいの勝率は普通に(つまり一切の「分析」なしにランダムに買ったとしても)出せます。
言い換えるとこういうことです。出島氏の推奨銘柄と同じようなことをランダムにやったとします。くじ引きで推奨銘柄を選んで、それを投資家に知らせるのです。それでも、勝率 80% はむずかしくありません。株価が 15% 以上の上昇トレンドにあれば、簡単に達成できます。
(4)もしも(3)が妥当であれば、それはつまり、柴田罫線に基づくテクニカル分析は無効である(乱数で判断したのと同じ程度の効果しかない)ことを意味しています。
(5)騰落率 5%(出島氏の本に出てくる期間の現実の騰落率)のときの乱数による結果では、勝率が 80% に達しませんが、標準偏差 20% とすれば、勝率 74% であり、ちょっとした差に過ぎません。ですから、これを根拠に出島氏に株を選ぶ能力があると考えるのは間違いだろうと思います。
出島氏は毎週2銘柄を推奨するということですが、それでは、銘柄数が少なすぎて、はっきりしたことは言えません。つまり、勝率をきちんと算出するには、件数をもっと多くしなければダメだということです。少ない件数の場合、たまたま出島氏の勝率が高いこともあるでしょう。1万銘柄を推薦するには、100年かかりますので、検証はできませんが、……。
乙は、この結果に自分なりに納得できました。株式評論家や投資顧問業者の言っていることは、ランダムに銘柄を推奨していることとほぼ同じことだと考えていいでしょう。ただし、もちろん、ランダムな銘柄推奨よりも少しだけ優れているという可能性もあります。どちらを信じるかは投資家次第です。乙はランダム仮説を信じます。
なお、乙が作成したプログラム(乙の考え方)が本当に正しいかという問題もありますが、まあ、これは正しいものと考えましょう。乙が自分で納得するためにプログラムを作ったのですから、計算ミスがあっても、それは自分の責任というだけのことです。
2007.1.8 追記
この話の続きを
http://otsu.seesaa.net/article/31036696.html
に書きました。
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この定義を裏返せば、「推奨日から3ヶ月以内に株価が推奨日の終値より10%以上下落したものは負けとする」べきです。
正規分布の場合、左右対称なので、騰落率= 0.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=3526 勝率=35.3%ということは、上記定義を使用すれば、負ける確率も35%になるはず。
勝ち負けの数を足して100%にならないということは定義そのものが誤っているということです。
百歩譲ってこの定義を使用するとしても、ランダムに選択した銘柄を比較対照として統計的に有意な結果が得られていなければ、勝率云々という結論は出せません。
コメント、ありがとうございます。
<「推奨日から3ヶ月以内に株価が推奨日の終値より10%以上上昇したものを勝ちとする」という定義そのものがおかしいです。
はい、乙もおかしいと思いますが、出島氏がそのように定義しているので、乙が直しようもありません。
<この定義を裏返せば、「推奨日から3ヶ月以内に株価が推奨日の終値より10%以上下落したものは負けとする」べきです。
はい、同感です。
<正規分布の場合、左右対称なので、騰落率= 0.0% 標準偏差=10% 勝ちの数=3526 勝率=35.3%ということは、上記定義を使用すれば、負ける確率も35%になるはず。
はい、その通りです。
<勝ち負けの数を足して100%にならないということは定義そのものが誤っているということです。
実際、株価はいろいろと上下していますから、何を勝ちとするか判断するのはむずかしいものがあります。
出島氏は、それを「えいやっ」と定義したようです。
<百歩譲ってこの定義を使用するとしても、ランダムに選択した銘柄を比較対照として統計的に有意な結果が得られていなければ、勝率云々という結論は出せません。
出島氏は、こういう議論はしない主義のようです。乙が取り上げた本の記述でも、そのような記述は一切ありませんでした。
つまり、(乙の推測では)出島氏としては「私の予測はこのように8割も当たるのだ」といいたいのだと思います。
乙がいいたいのは、出島氏の予測はランダムな予測とあまり変わらないのだということであり、乙の立場と出島氏の立場は矛盾していると思います。
「乙がいいたいのは、出島氏の予測はランダムな予測とあまり変わらない」
おっしゃるとおり、本来、ランダムに選んだ銘柄と比較しなければ、結論が出せないはずです。
<3ヶ月以内に5%以上(=年率20%以上)増加することを勝ちと定義すると勝率はどうなるのでしょうか?
ちょっとプログラムを書き換えて、実行する必要があります。
長くなるので、近日中にブログに書きます。
お待ちください。