2007年01月15日

横田濱夫(2004.4)『ゆとり老後のためのお金の教室』双葉社

 乙が読んだ本です。「老後資金の運用で迷う63の疑問」という副題が付いています。
 この本は、いろいろな金融商品を取り上げて「どっちが得か」というスタンスで解説しています。1冊読めば、一通りの知識が身に付くでしょう。まあ資産運用の入門書といったところでしょうか。
 全体にうなずける記述が多く、入門書としてはいいのではないでしょうか。
 いくつか、疑問に思ったことがあったので、そこを中心に書きます。
 p.016 はクイズで始まります。「こんな2つの投資話があったとしましょう。どちらも投資期間は3ヶ月。一方は、値上がり益30%を狙えるものの、同時に値下がりのリスクも10%あります。もう一方は、利回りは1%と低いけれど、利回りは確実で、さらに元本も保証されています。そのときあなたは、たまたまマンション購入の契約をしていました。購入代金の支払いは、ちょうど3ヶ月後に迫っていて、ギリギリどちらへの投資も可能です。さてあなたは、どちらの投資話を選ぶでしょうか。」
 このクイズでは、一番大事な条件「マンション購入代金の他に資金があるのかないのか」が書いてありません。たぶん、「余裕資金はない」ことを前提にしているのでしょうが、それは明記するべきでしょう。でも、実際上、そんな前提はおかしいのです。3000万円のマンションを買おうという人が3000万円ちょうどしか持っていないということは考えられないわけで、若干は余裕資金があるものです。余裕資金がどれくらいあるかで、投資の判断は変わってきます。このクイズでは、マンション購入代金、余裕資金、それにこの投資話の金額、が書いてありません。
 こういう条件で「迷わず後者を選ぶべきです」といわれても、それは違うのではないかと思いました。
 ところで、このクイズの「値上がり益30%を狙える」ということと「値下がりのリスクも10%あります。」ということは対にして示していいのでしょうか。前者は資金が 1.3 倍になるという意味でしょうが、すると、後者は 0.9 倍になるという意味ととらえられます。その場合、「リスク」はどういう意味でしょうか。
 普通は、「リスク」というと危険性を表すのではないでしょうか。(ばらつき=ボラティリティ=標準偏差という意味もありますが。)だとすると、「値下がりのリスクが10%ある」というと、10%の確率で値下がりがありうるという意味になるのではないでしょうか。もしも、こう考えると、二つを並べても意味が通じません。
 p.017 では、この問題をこう言い換えています。「期待値上がり率が30%に対し、値下がり率の可能性は10%でした。」ここでは、10%が可能性(=確率)だといっていますが、10%の確率で値下がりが起こるとしたら、そのとき、何%の値下がりがあるのでしょうか。
 そもそも、はじめのクイズの「値上がり益30%を狙えるものの、同時に値下がりのリスクも10%あります。」といういい方は、それぞれの起こる確率が半々だということを暗黙のうちに仮定しているようですが、それでいいのでしょうか。
 乙は、このクイズ(およびその解答)がわかりませんでした。
 p.079 「リスク集中」と「リスク分散」ということばが出てきます。ここでは「リスク」は「危険性」という意味で使われています。さて、この「リスク」は、pp.016-017 の「リスク」と同じ意味でしょうか、違う意味でしょうか。
 p.061 老後に日本国内で暮らす場合、基本は為替リスクのない円で運用するべきだと書いてあります。それも一つの意見ですが、乙は別の意見を持っています。「円」がこれからも今までと同じような立場にあるとは限りません。日本で激しいインフレが起こったり、極端な円安になったりすれば、やはり資産は外貨で持っていたほうがいいのです。老後は、外貨を順次円に両替しながら使うことになります。つまり「日本で生活するから円が基本だ」という考えは必ずしも成り立たないのではないかと思います。
 pp.216-217 クレジットカードを捨てて現金払いに徹することを主張しています。しかし、本当にそれでいいでしょうか。日本はこれからますますネット社会になっていくと思われます。その場合、ネットでの買物は現金よりもクレジットカードのほうがはるかに便利です。ここの言説はちょっといただけないなあと思いました。

 横田氏のホームページがあります。よろしければどうぞ。
 http://www.y-hamao.com/


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posted by 乙 at 06:16| Comment(1) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
横田濱夫さんからコメントをいただきました。ご本人の了解をいただきましたので、ここに転載いたします。

>ご指摘の件は、ごもっともですが、
>いかんせん、本というのは字数、ページの制限がありまして、
>版元としては「とにかく広く多くを網羅したい」
>著者としては「おいおい、このページ数で、そりゃ無理だよ」
>という、
>両者の狭間で、ようやくギリギリの線で日の目を見ます。
>
>だいたい、すべての説明をしようと思ったら、
>50冊くらい書かなければしきれないわけであって、
>無責任なようですが、
>一冊の企画のうち(それも出版社の絶対的な発言力がある)の中で、
>あれもこれもは、無理です。

 乙は、こういう事情を何も勘案せず、いいたいことを書いてしまいました。
Posted by at 2007年01月28日 22:16
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