文庫版では上下2冊に分かれていますが、それぞれで内容がかなり違う印象を受けました。
上巻は、人間がリスクをどう発見してきたかといったことですが、確率・統計・数学の歴史のような内容です。1200 年以前、1200-1700 年、1700-1900 年の3部構成です。一部、死亡率の問題や保険との関わりが述べられますが、どちらかというと学問の歴史の記述が中心です。いろいろな人が登場します。著者は相当詳しく調べたようです。
p.16 「はじめに」にあるように、リスク・マネジメントが大事であり、現代の経済社会の基礎になっているというのはその通りでしょう。しかし、だからといって、ここまで書くのは詳しすぎるように感じました。
p.214 では、リスクを損失の可能性と定義した最初の研究は、1711 年のド・モアヴルだとしています。現代に通じる考え方ですが、逆にいうと、このころまで、リスクとは何かが明確ではなかったということなんですね。リスクの研究は意外に短いと思いました。
下巻になると、いきなり投資の話になります。一部 1700-1900 年について述べていますが、1900-1960 年と「未来へ」の2部構成です。乙としては、下巻だけ読めば十分かなと思いました。それだけでも読めるようになっていますし。
p.194 行動ファイナンスの話がおもしろいと思います。行動ファイナンスは、人間をモデルにしており、それまでの人間不在の経済の流れと大きく異なります。行動ファイナンスでは、人間は合理的でないことが示されます。ということは、合理的な人間が集まって、合理的な判断を下すということを前提にした経済のモデルが崩れてしまうということです。
p.199 では、なぜ企業は配当を払うのかという問題を論じています。当たり前だと思っていたことを改めて考えてみると、なかなか難しい問題なんですね。
p.208 では、日本の投資家はアメリカ株式市場のわずか1%強しか保有せず、一方、アメリカの投資家は東京市場の1%未満しか保有していないことを述べ、なぜ国境を越えて投資しないのかを問題にしています。確かにそうで、合理的判断をするならば、お互いの国境を越えた投資がもっと多くなっていいと思います。
pp.280-282 に「訳者あとがき」がありますが、これを読んで、この本の基本的性格が理解できました。本書は単なる「投資の本」を越えています。そういう性格の本なのです。
乙は、投資家がここまで心得ておくべきだろうかという疑問を持ちました。読み終わった感想は「ああ疲れた」です。
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少し古い記事ですが少し気になったので質問させてください。
2007年1月21日のブログなのですが
>E*TRADE では、口座開設後1年以内は口
>座管理料はかからず、その後も、1万ド
>ル以上の口座残高があれば、口座管理料
>はかかりません。
とありますが、E*TRADEで債権を購入するときは口座管理料がかからないように、例えば証券会社に2万$振込み、1万$はそのまま残りの1万$で債権購入という流れなのでしょうか?
ソレでしたら国内の口座管理料のかからない証券会社で2万$分購入したほうが利率は低くても結果的には収益が高い気がしましたが。
もし債券を購入してもその購入した分の債権も残高に入るのであればごめんなさい。
これについては、1月21日の記事なので、そこに乙のコメントを書くことにしました。
あしからずご了承ください。