全体は 439ページ+付録16ページで、比較的長いです。次のように区分されています。
オープニング pp.14-55
第1部 これができなければ投資家失格―準備編 pp.57-173
第2部 財産形成のために知っておきたい投資理論―理論編 pp.175-271
第3部 絶対に負けない投資戦略―戦略編 pp.273-373
第4部 最小限の手間でできる財産防衛術―戦術編 pp.375-432
クロージング pp.433-439
オープニングでは、p.33 で「将来の危機管理が大事だ」という意見がおもしろかったです。これから何があるかわからないということですね。そのようなときにどう対処するかということです。少なくとも、そういう意識を持っていることが重要でしょう。
第1部では、家計のバランスシートを作ろう、財産形成のベースを作ろう(2年分の生活防衛資金=現金を作ろう)、資産運用は副業だからメインの仕事をがんばろう、マイホームは買わず、住宅ローンは借りないようにしようといった話が続きます。乙にはかなり意外でした。投資の本だと思ったら、人生の心がけを述べるような内容だったからです。これが「準備」なんですね。
p.87 では、節約は確実な運用手法だと説かれます。確かに、節約できないようでは投資がうまく行くはずがありません。p.116 仕事が一番大事だというのもその通りです。しかし、このあたりは、こんなにページ数を使って説くべきところでしょうか。著者の価値観の表れですが、このあたりの記述をもう少し短くしてもよかったのではないかと思います。p.131 では、株式投資本やマネー雑誌を時間のムダだと切り捨てています。それはそうかもしれませんが、そのような域に達するまでは、誰でもそういうものを読んで試行錯誤するのではないでしょうか。みんながこの本を最初に読むとは限りません。いろいろな情報があふれる中から、自分のやり方を見つけるしかないと思います。
第2部では、経済学や投資理論、行動心理学などを説きます。乙としては、p.260 あたりのさまざまな行動心理学の研究結果が示されているところがおもしろかったと思います。
第3部では、いよいよ著者の投資戦略が開陳されます。著者の書き方に反しますが、この部だけを読んでもいいかもしれません。乙もこの部を一番おもしろく読みました。
p.276 三分割ポートフォリオが説明されます。国内株式、国債、外貨預金(もしくは外貨 MMF)です。従来のさまざまな分割法を知った上でこの三分割ポートフォリオを提案しているわけです。ただし、乙は、今の低金利では国債の魅力はほとんどないと思っていますので、著者の木村氏に全面的に賛成しているわけではありません。
pp.284-301 では、株式の投資信託を否定しています。投信の手数料をかけてプロのファンド・マネージャーを雇うよりは、20銘柄程度の個別株を買うことを勧めるという立場です。これはこれで一つの立場ですが、20銘柄をうまく選ぶことができるでしょうか。乙は自信がありません。それよりはインデックス・ファンドや ETF のほうがいいように思います。
p.318 個人が機関投資家よりも優れている点として、長期的志向が保てる点をあげ、たとえ株で大損していても、喜んで塩漬けにしておけばいいといいます。一生持ち続けるのが大事だというわけです。そして、太字で「つねに長期のスタンスで投資し、マーケットが最悪のときにもできる限り最大限投資する」という姿勢を述べています。20銘柄をこうして運用するんですね。簡単なようでなかなかできないでしょう。悪いニュースが出て株価が下がり始めたら、あわてて売ってしまいたいのが投資家の心理というものです。もっと下がることが明らかなときに(ホントは明らかとはいえないので)、それをじっと保持せよというわけです。心理的に抵抗があります。一度売って、下がったところで買い戻せばいいのではないかと単純に思います。実際は、思ったほど下がらないこともあるし、底でその株が買えるほど市場は甘くはないわけですが。
pp.321 からデイトレは手数料がかかる分必ず損をするから、デイトレをするなと断じています。乙はデイトレをしない主義なので、納得しながら読みました。
p.323 では、マーケットのタイミングを計って投資することをばかげていると否定しています。
p.330 株は結婚と同じで、買ったらずっと一生保持せよと説きます。例えがおもしろかったです。
第4部は、うまい話に惑わされないようにということで、あまり大した内容ではありません。
全体として、とても真面目で良心的な本です。タイトル通りの内容で、この本を読んでおいて損はないと思います。おすすめできます。
この本1冊を読むと、投資とは何か、実感できると思います。また、雑誌や本で、読んでもしかたがないものとはどういうものか、納得できるでしょう。乙は、この本を読む前に「オール投資」などという雑誌を買っていましたが、その問題点なども具体的に指摘されています。
ただ、ちょっと冗長に思える部分もあったので、できたら 300 ページくらいにしてくれるとよかったと思いました。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..