中身の大部分は、二人の対談で構成されています。その点では読みやすいといえますが、乙の好みでいうと、こういう対談は好きではありません。どうしても冗長になってしまうのです。実際に対談をした場合でも、その後にそれを整理して原稿化して、もう少し詰めてまとめればもっとわかりやすいのではないかと思いました。
まあ、株の入門書の前に読むべき本という位置づけのようですから、今のスタイルでもいいのかもしれませんが。
第1章は「失礼ながら、その投資本では儲かりません!」という題で、多くの投資本を切り捨てています。
第2章は「日本のマスコミは「株」がお嫌い?」ということで、マスコミ(の記者)にちゃんと株を勉強するように言っています。マスコミの偏向した姿勢が一般の人々に株に対して悪いイメージを植え付けているということです。
第3章は「株式投資の前に知っておきたいこと」で、監査法人や経営者などの意味を考えています。乙は p.112 からの監査の問題がおもしろかったと思いました。一度、監査法人が企業の不正を(なあなあで)見逃してしまうと、あとは一蓮托生で、次回に企業側から不正を持ちかけられても断れなくなってしまい、その企業と一緒に深みにはまってしまうということです。また、p.126 には「要するに、民間銀行がだらしないから、郵貯が肥大化したんだし、官業が民業を圧迫したなんて議論が幅をきかすんですよ。」などとあります。日本の銀行の問題点をズバリ指摘していると思います。
第4章は「日本経済はこう変わっていく」ということで、今後の予測を述べています。乙はこういうところはあまり好きではありません。どうせ、将来予測なんていいかげんなものなんですから。
第5章は「株式投資の王道はこれだ!」という題で、株式投資のしかたの原則を述べています。妥当な議論です。
なお、巻末にはいくつか「特集」がありますが、乙は、その3番目「是川銀蔵は儲かったのか?」が大変おもしろく思いました。是川銀蔵(略称:是銀)は最後の相場師と呼ばれ、株の取引で成功し、長者番付一位になった人ですが、死亡時には24億円の負債を抱えていたということです。個人の一生を通して、大儲けとは何かを考えさせてくれます。普通には大儲けはできないものだと思います。
また、「おわりに」の pp.286-288 ですが、日米の市場の違いについて触れ、日本は市場に対する認識がなく、政治家やマスコミがいかにひどい言い方をしているかを説いています。納得できます。
この本は、全体として日本の株式市場の悪い点がいろいろ書いてあると思います。その中で株式投資をやっていくことは大変なわけです。乙としての結論は、「だったら日本で投資せず、アメリカで投資すればいい」ということです。アメリカはアメリカなりの問題点を抱えていますが、日本よりはマシなように思います。
一番最後のページ(p.294)に、三原氏はこう書いています。「本書では筆者自身の過去の長い証券生活を通して感じたことを正直に述べてある。若いときに市場を正しく認識していれば、もっと違った人生だったのにという悔いも正直に白状している。」すばらしいことばです。乙も、今の投資に関する知識を若いうちに持っていたら、やっぱり違った人生を送っただろうなと思いました。
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