中身は二つの部分からなり、前半が狭い意味の「私の財産告白」で、後半が「私の体験社会学」というものです。両者は、かなり密接な関連があるので、1冊になっていてよかったと思います。
本書は、本多氏が自分の生き方・考え方を語ったものです。その一部として、(特に前半部で)自分の金儲けについて率直に書いています。
本多氏は相当な大金持ちだったようで、p.58- には「最も難しい財産の処分法」というものまであります。お金の場合は、あまりに持ちすぎると、こういうところも苦労するんですね。少なくとも、本多氏は子孫に残すという考え方はしなかったようで、大部分を匿名で寄付してしまったということですから、すごい話です。
一番驚く話は四分の一天引き貯金法でしょう。多くの家族を抱えて大変なときに、貧しいときこそこういう貯金法でタネを作るという話なのです。ある意味で誰でも知っていることですが、それを愚直に実行したことはすばらしいことです。
それにしても、お金がないときはごま塩だけでご飯を食べていたというような話を聞くと、本多氏の(実はその奥さんや家族の)苦労と努力は並大抵のことではないと思われました。
本多氏は、東京帝国大学農学部の教授だった人で、370冊もの著書を書いたとのことです。
乙が聞いた話では(どこかの著書に書いてあったのですが、出典を忘れてしまいました)、戦前の大学教授は、けっこうな高給取りだったとのことです。
http://homepage3.nifty.com/bunmao/LINK21.HTM
にも似たような話が書いてあります。戦前は、身分意識が強く残っていたこともあるのでしょう。現代の大学教授とは比べものにならないとのことです。
それに、戦前は原稿料が高かったという話も聞きます。今は、雑誌の原稿料も相対的に安くなり(給料の賃上げは続いたのに、原稿料単価はあまり上がらないということです)、書いても小遣い程度にしかならないわけです。戦前の、しかも帝大教授が書いたものなら、今とは比べものにならないレベルの原稿料が出たものと思います。
というわけで、本多氏の話はちょっとだけ割り引いて聞く必要があります。
本多氏が専門とする森林学と関連するのでしょうが、山林投資で儲けた話は、当時の経済状況などもうかがわせてくれます。今では、まずありえない話です。
株式投資についても、当時と今とで状況は大きく変わっているように思います。株式の本質は同じでも、投資家として考えた場合、同じ態度でのぞんでいいのでしょうか。
いろいろおもしろい話を含みつつも、この本はやはり60年近くも前に書かれた(当時本多氏は85歳)本なんだと意識してしまいました。
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鉄道への投資は、いまでいうネット産業みたいなものだったのかもしれませんね。