第1部「資産運用の本質」では、資産運用で何とか儲けようとしていろいろがんばっていくと、そのこと自体が「敗者のゲーム」になってしまい、結局はインデックス投資に負けてしまうということを論じています。資産運用は「勝者を目指すゲーム」ではなく、「敗者にならないゲーム」だとしています。敗者にならないゲームとは、資産運用においてはインデックス投資ということです。
p.19 資産運用は、最近数十年で「勝者のゲーム」から「敗者のゲーム」に変わってしまったと説きます。なぜならば、機関投資家が市場の90%を占めるからというわけです。なるほど。時代が変わったのですね。
pp.25-39 アクティブな運用においては、次の四つのやりかたがあるとしています。
(1) 市場タイミングの選択
(2) 個別銘柄または特定グループの選択
(3) ポートフォリオの構成ないし戦略の変更
(4) 洞察力に富んだ長期的な投資コンセプトもしくは投資哲学
これらはいずれも「他人の失敗の上に成り立つ」ものなので、長期的に継続することは無理だし、そういうのをねらっていくことはまずいということです。まさに、インデックス投資の本質を述べています。
pp.48-54 有名投資家を多数抱えた投資の「ドリーム・チーム」がいたら、そこに資産運用を任せるべきだということになります。それは、つまりインデックス投資ということです。乙にはこんな考え方も新鮮でした。
第2部は「運用理論の基礎」ということですが、ここも有益なことがたくさん書いてあります。
pp.68-74 は時間について書かれています。長期投資ということです。長期ということでは5年や15年などの単位で考えることが多いが、個人投資家の場合でも、これでは短すぎてダメだということです。30年から50年以上を考えるべきだとしています。(乙は、そんなに生きていられません。)
このことからうかがえるように、この第2部の記述は、個人投資家というよりも、機関投資家のことを念頭に置いて書かれているようです。そんなわけで、個人投資家にはやや不要な感じのする記述があります。しかし、投資について勉強するためには、こういう全体に対する目配りが必要でしょう。
第3部「個人投資家への助言」は、まさに文字通り、個人投資家に読んでもらいたいところです。
市場予測は難しいということ、インフレが最大の敵であるということなど、大事なことがいろいろ出てきます。pp.181-185 の個人投資家への十戒などもとても有益でしょう。
pp.186-206 は「生涯を通じた投資プランを立てよう」ということで、50年以上の投資について書かれています。乙は、本書中でここが一番おもしろかったところです。
個人は、80年かそこらで死んでしまいますが、家族や子孫のことを考えると、自分の人生だけが投資期間ではないということになります。したがって、年齢を重ねるにつれて株の比率を下げるというような操作は不要であるという結論になります。世代ごとの運用などはないのです。p.205 によれば、10年以上運用する資産はすべて株式に投資するのが正しいということです。
乙は、15年ほどの投資を考えていましたが、著者の壮大なスケールには驚かされました。自分はどうしたらいいのか、再考させられました。(まだ結論は出せませんが。)
pp.207-216 では、寄付や社会貢献などについて書かれています。子孫に莫大な資産を残す必要はないので、むしろこちらを考えるべきだということになります。それはそうですが、一方では、乙は15年後になってもそんなに莫大な資産を形成するわけではないので、こんなことまではとても考える必要はないとも思いました。予定では(計算上は)、乙の資産はそのころ数億円程度になるはずですが、そんな額ではここに述べられているようなことは無縁でしょう。数百億円以上の資産を持つ場合に考えるべきことかと思います。
この本は、単なるインデックス投資の本というよりは、投資ということについて根本から考えさせる本ということになります。「すぐに役立つ投資の本」ではないけれど、ぜひ一度は読んでおきたい本と言えるでしょう。
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