2007年06月12日

武田邦彦(2007.5)『国債は買ってはいけない!』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 国債の本かと思って買ったら、実は日本の金融の現状を描いている本でした。しかし、内容がおもしろいので、一気に通読してしまいました。
 第1章(pp.12-60)は「お金を吸い取る三つの仕組み」です。三つの仕組みとは、日本の国債を買うこと、アメリカの国債を買うこと、そして証券会社の勧める株を買うことの三つです。
 日本の国債については、pp.30-32 で買うと損をすることを丁寧に説いています。まあ、こんなに考えなくても、国債については、もう返す(償還する)ことは不可能だから個人は買わないというのは簡単に理解できます。しかし、銀行や郵便局に預けたって、結局、銀行や郵便局が国債を大量に買っているわけですから、間接的に国債を買っていることになるわけで、これもダメです。
 アメリカの国債を買うなという考え方はおもしろかったです。p.37 から説明されています。日本人がテレビをアメリカに売ると、アメリカ人は代金をドルで払います。ドルは日本では使えないので、アメリカ国債を買います。日本人の手元にはアメリカ国債証書が残り、ドルはアメリカ人に渡り、それをアメリカ人が使うというわけです。日本人がただ働きをして、アメリカ人が遊んでいるという構図です。p.45 では、それを称して、日本人はアメリカ人の奴隷だとしています。
 pp.56-60 あたりで、証券会社が個人投資家の金をかすめ取ってしまったことが説明されます。これを読むと、日本の証券会社のひどさにあきれてしまいます。
 第2章(pp.62-104)は「お金の原理原則」です。その最初に「血が通った物価」という話が出てきます。庶民の立場から物価上昇をとらえると、同じものを2時点で比較する物価指数だけではダメで、社会が豊かになっていくことについていくことと個人が年を取るにつれてそれなりの生活ができるようにすることを考慮して、1年で10%だという計算をしています。乙は、大変おもしろく思いました。今までの単純な「物価スライド」では考え方が不十分だというのがよくわかります。
 p.98 あたりでは、企業などでまともな利益は年3%くらいであり、それを超える利回り(たとえば 14%)を示すようなファンドは、他人が受け取るべきものをかすめ取っており、まともな利益ではないという考え方が書いてあります。しかし、一方では、p.98 に、配当3%の他にその会社の価値の上昇分(儲けをため込んだ分)7%があるので、年10%くらいは受け取れるチャンスがあると書いています。ですから、3%を基準とせず、10% を基準として考えてもいいのではないでしょうか。だとすると、14% というのは、そういうこともあるかなというレベルになるように思うのですが、どうでしょう。
 第3章(pp.106-140)は「お金の誤解」です。p.121 では「お金を貯める」というのは錯覚で、本当は「他人が使う」ことだとしています。正論なんですが、乙はこういう感覚を持っていなかったので、新鮮に響きました。
 第4章(pp.142-194)は「お金の現状」です。日本人がお金の使い方を知らずに、節約して、貯金して、余らせていることを描いています。
 p.148 には、こうあります。「かく言う筆者も一介の大学教授として給料をもらうが、(中略)私は今の仕事に満足している。お金があっても地下鉄で良い。ましてお抱えの運転手などを雇ったら面倒なだけで絶対にイヤである。質素でノンビリ、大学生協の昼食は450円で十分おいしい。」何だか身につまされます。乙は、クルマで通勤していますし、お昼は「大学生協」がなくて、さすがに450円では済まないので、もう少し高いものを食べていますが、基本的には、似たような感覚です。
 p.159 からはなぜお金が余るかを説明しています。個人は年金が不安だ、銀行は事業を見る目がなく土地を担保にしなければ企業にお金を貸さない、優良企業ほど慎ましい行動をするというようなことです。これでは、将来的にお金が余り続けるのは当然でしょう。
 そういうことが継続していくと、p.180 にあるように「借り手のない金融市場」が登場し、金融市場が崩壊し、お金は突如として腐ってなくなってしまうというわけです。乙は、どうも、この道が必然であるような気がしてきました。お金がなくなるとはどういうことでしょうか。乙は極端な円安とインフレというふうに解釈したいと思います。
 第5章(pp.196-236)は「誰でも儲かるお金の話」です。お金をふやすために、教育に投資せよ、(特に、子孫に投資せよ)と説かれます。説得力があります。次に、永久システムとして「株」に投資せよということになります。会社は、個人と違って年を取りにくく、たえず人の入れ替わりがあるから、一番いいシステムだということで株式投資をすすめます。
 その他にもいろいろな提案がありますが、それは本書を読むときの楽しみとしておきましょう。
 全体として、とてもわかりやすいと思いました。このように日本の現状を把握したとして、では、個人はどのように対処したらいいのかということを考えると、何ともやりきれない感じになります。逃げ道はなさそうです。世界がそうなっているのですから。
 マクロにものを見るために、おすすめできる本だと思います。


ラベル:武田邦彦 国債
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posted by 乙 at 04:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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