週刊ダイヤモンド 2006.12.2 特集:「投信」の罠
2006.11.29 http://otsu.seesaa.net/article/28499518.html
に次ぐ、大変に力のこもった特集です。
単行本でいえば、鈴木雅光(2003.1)『買ってはいけない「金融商品」のからくり』主婦の友社
2006.2.25 http://otsu.seesaa.net/article/13741873.html
のようなものといえるでしょう。
特集自体は、pp.34-69 と pp.122-155 の 70 ページほどに渡ります。週刊ダイヤモンドはA4判の大きさですから、普通の本(A5判)に換算すると 140 ページ(+α)にもなります。なかなか読み応えがあります。これで 670 円というのはおトクでしょう。是非単行本化してほしいものです。これを執筆した記者さん(たち)は、とてもよく勉強しています。金融機関で経験したさまざまな対応については、たぶん、記者さんの直接の経験ではなく、いろいろな人の取材に基づくものでしょうが、各種金融商品の批判の部分は、記者さんが直接執筆したものであるだけに、勉強しなければ、こうは書けません。きっと裏方のブレーンをつとめた専門家がいたのでしょう。
p.40 の「長期投資はリスクを縮小する」に対する批判はわかりにくいものでした。運用期間別収益率のブレのグラフが掲載され、運用期間が長期になるほどブレが小さくなっているようすが示されます。だから、長期投資はリスクを縮小するわけですが、一方、批判点は「運用額そのもののブレは運用期間が長くなればなるほど大きくなる」という点です。こちらもグラフを1枚示せば良かったのに、それがないため、何をいいたいのか、すぐには飲み込めませんでした。
10年で平均収益率が 20.2%〜-7.5% であるということは、もともと 100 あった資金が10年で 629.6 から 45.9 になるということであり、20年で平均収益率が 16.3%〜0.7% であるということは、もともと 100 あった資金が20年で 2049.2 から 115.0 になるということです。前者は、ブレの幅が 629.6-45.9=583.7 であるのに対して、後者は、2049.2-115.0=1934.2 になり、後者のほうが前者よりも大きくなります。平均で見る場合と、全期間を通した結果で見る場合では、違ってくるということです。
それに、p.40 の図の下にある注ですが、「計算期間1995年12月〜2005年12月、東証株価指数(TOPIX)に基づき算出。」とありますが、その次の文章と照らし合わせると、ここは「計算期間1965年12月〜2005年12月、東証株価指数(TOPIX)に基づき算出。」ではないでしょうか。
乙がおもしろく思ったものは、p.123 で、期間延長特約付き預金の項で、銀行の粗利益を求めるところでした。預け入れ直後に解約する場合のその損害金の金額が銀行の粗利益だというわけです。なるほど、納得です。
p.133 で、貯蓄性保険の付加保険料(保険会社の経費)を計算すると、約5%になるという話も大変有益でした。数字で示されると、納得できます。付加保険料というとかっこよく響きますが、投資信託の申込手数料のようなものですから、それが5%もあるということは、かなり高いということになります。
全体として、この特集は個人投資家が是非読むべき文献といえましょう。週刊誌ということで、後日からでは、かなり読みにくい(図書館でないと古いものは保管されていないでしょう)のが問題点であり、その点をカバーするため、(必要なら、2006.12.2 特集:「投信」の罠 と合わせて)単行本化してほしいと思いました。
週刊ダイヤモンドは、金融業界とは特に縁がないので、こういう特集ができるのでしょうね。それにしても、とても充実した特集でした。
なお、この特集の中の一部を執筆なさっている山崎元氏ですが、
http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/ebd27918140889acfcc95beb47714635
で「逃げた(?)投信協会長(週刊ダイヤモンド「金融商品の罠」)」をお書きです。週刊ダイヤモンドの記事の補足説明になっているので、こちらも合わせて読む方がいいと思います。
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