2007年07月30日

門倉貴史(2006.11)『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る』(宝島社新書)宝島社

 乙が読んだ本です。
 ワーキングプアというのは、働く貧困層ということで、年収200万円未満の人のことをいうのだそうです。現在の日本では、ワーキングプアが約550万人いるということです。本書は、その実態を描いたものです。
 第1章「日本の労働者の4人に1人は生活保護水準で暮らしている」では、ワーキングプアが増えている現状を描きます。実に多いんですね。
 第2章「働き盛りの中年家庭を襲う「ワーキングプア」の恐怖」では、会社のリストラなどによって中高年層がワーキングプアになる場合を述べます。この層は一番大変な生活をしているともいえます。
 p.72 には子供は金がかかるという話が出てきます。中高年サラリーマンの話であり、身につまされます。日本の教育費はホントに高いです。乙は二人の子供を大学にやりましたが、実際、かかった教育費は(塾も含めて)かなりなものでした。
 第3章「崩壊する日本型雇用システム」では、終身雇用制度や年功序列制度の崩壊の過程とその理由を述べています。正社員も「心のワーキングプア」になっている例が多いとのことです。
 第4章「非正社員で働く若者たち」では、フリーターやニートも含め、若い人が就職のスタート段階から非正社員になる傾向があることを述べています。
 第5章「「構造改革」による自由主義経済と民営化の果てに」では、ワーキングプアの問題解決のための政策をいくつか提言しています。しかし、いずれも実現がむずかしそうなものに思えます。
 p.188 では、支出税というアイディアが出てきます。収入から貯蓄を引き算し、それが支出ということで、それにもとづいて税金を算出し、個人が納税するというアイディアです。おもしろそうな考え方ですが、投資などの資産の購入は貯蓄に含まれるということになると、投資と消費の違いがややこしくなりそうです。投資用不動産の購入などでは、一応投資ですが、自分が住むことになれば消費です。このように、消費と投資の境界領域のものがたくさんあり、混乱しそうです。
 p.190 では、最低賃金の額を上げることが提言されています。しかし、これとても、ホントにそうなったら、企業が外国(労働者の賃金が安い国々)に出て行く、いわゆる空洞化の可能性が高まります。さまざまなものがグローバルに動く世の中ですから、日本人だけよければよいという考えでは通用しません。
 各章の末尾にはワーキングプアにインタビューした記録が2件ずつあり、全部で10件分が記述してあります。これは、各個人のたどってきた道を具体的に述べたものであり、強烈な印象を与えます。もしかすると、本文よりもこちらのほうがおもしろいかもしれません。
 日本は変わりつつあります。ワーキングプアの問題は、起こるべくして起こったものです。各企業とも人件費削減に真剣に取り組まざるを得ない現状があり、かつ、いざとなれば諸外国(特に新興国)の安い労働力を使うことも視野に入ってくるとすれば、ワーキングプアの解決は非常に困難でしょう。これからの日本はますます格差が大きくなっていくように思えます。しかし、それは社会の不安定化を招きます。みんなが幸せな社会はどのようにして築けるのでしょうか。そんなことを考えさせる1冊でした。
 乙は、若干の資金を投資に振り向けていますが、このこと自体、とても幸せなことであり、ありがたいことのように思えてきました。一方では、乙の子供たちがワーキングプアになりそうで、心配にもなりました。
 なお、門倉氏の個人サイトは http://www004.upp.so-net.ne.jp/kadokura/ です。興味のある人はアクセスしてみるのもいいでしょう。


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posted by 乙 at 05:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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