「外貨投資」といえば、つまりは外国に投資することであり、乙は、自分が外貨投資をしていることもあって、大変興味を持って購入しました。
第1章は「外貨投資の基本戦略」です。
p.24 では、標準的なアセットアロケーションを示します。日本株式については「日本で生活していく場合、外国株式よりも日本株式に、資産がより連動した動きになったほうが良い」と考え、日本株式30%、外国株式20% という目安を示しています。
乙は、内藤氏のようには考えません。「日本で生活していく」ことと「日本株式を保有する」ことは別のものだと考えます。基本的には、世界中のどこに住んでいても、同じようなアセットアロケーションをしてかまわないと思います。
ま、アセットアロケーションには正解がありませんから、これはどうでもいい議論ですが。
p.35 では、先進国の株式市場ではインデックス運用を中心に、発展途上国ではアクティブ運用を活用するのがよいとしています。この話は p.75 でも再度論じられます。これは大変おもしろい考え方でした。発展途上国ではアクティブ運用が向いているのかどうかは、さらにデータで検証してみなければなりませんが、一つの考え方として理解できます。
第2章は「外国株式投資」です。一通りのことが全部書いてあるという感じを受けます。
第3章は「外国債券投資」です。
p.120 には、ゼロクーポン債を途中で売却するのは、売却できる価格がいくらになるかわからないので、売却価格によっては税金上のメリットが相殺されてしまうとのことです。それはそうかもしれません。しかし、乙は、償還日が近づけば、ゼロクーポン債の価格はほぼ額面価格に近づくはずなので、そんなに心配はいらないのではないかと思います。(しばらくして、乙の持っているゼロクーポン債がそうなったときに、実際、わかります。乙は、償還日の数ヶ月前に売却するつもりでいます。)
第4章は「外国為替保証金取引」です。いわゆるFXです。
乙は、FXを本格的にやっていませんので、今回初めて知ることがいろいろありました。
p.162では、「例えば1ドル=120円で10万円の保証金を使い1万ドルの買いポジションを作った場合、使っている円貨額は10万円ですが、取っている外貨のリスクは120万円になります。」と書いてあります。乙は、リスクが○○円になるという言い方に引っかかりました。続けて、「為替レートが1ドル=125円になったら、持っている外貨のリスクは120万円から125万円に増えることになります。」と述べられます。もしかして、ここでいう「リスク」は普通の意味(価格の変動、標準偏差、ボラティリティ)とは別の意味なのでしょうか。
p.165 も同様です。ここでは、外貨預金をせずに、為替保証金で外貨預金の代替運用をしようという趣旨のことを書いています。書いてあることは理解できるのですが、乙はそれを「リスク」と呼ぶことがわかりませんでした。
第5章は「その他の外貨建て商品」ということで、ヘッジファンドや外国の REIT などが出てきます。日本では、あまりいい商品がないようなので、内藤氏のような書き方にならざるを得ないことは理解できるのですが、海外に直接投資すれば、もう少し違った見方ができそうに思います。(これは本書の対象外だとは思いますが。)
第6章は「外貨商品活用のポイント・為替の世界を知る」ということで、内藤氏のディーラーとしての経験に基づき、為替の取引の実態などをかなり具体的に述べています。おもしろい章です。
本所の各所に、CASE STUDY《私の方法》というコラムがあり、内藤氏が実際投資している具体的な金融商品名とその割合が示されます。内藤氏の実例ですから、大いに参考になります。
残念ながら、本書ではあちこちミスプリが目に付きました。最初のほうだけ挙げます。
p.25 図1-2 日本株式 20%→30%
p.32 表1-3 6.4%→64%
p.34 表1-4 相関計数→相関係数
p.40 真ん中あたり「。。」→「。」
内容の記述がしっかりしているだけに、ミスプリの多さが気になります。
本書は、全体として、外貨投資に関する一通りの知識が詰まっており、有意義な入門書であるといえましょう。図表がたくさんあって、わかりやすく書かれています。本書は、これから外貨投資をはじめようとする人にとっては、いい教科書になるものと思います。
しかし、乙にとっては「すでに知っていることを丁寧に説明された」感覚が強く、物足りなさを感じたのも事実です。
乙が外貨投資を始める前に本書と出会っていたら、きっと高い評価をしたことでしょう。しかし、外貨投資を始めて、自分でいろいろ経験した後では、そんなでもないということになります。
本との出会いのタイミングはむずかしいものです。本の評価には評価者の個性や読んだ時点での考え方が出てしまうのだということに気づきました。
この本がいい本なのに高く評価できないというのは、そのような乙の現状を前提とした評価だということです。
2008.6.8 追記
しん様のコメントにより、本文の記述を一部削除しました。
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なるほど、おっしゃるとおりです。
乙の読み間違いです。
本文の記述を訂正しておきます。