藤巻流の資産運用術が書いてあります。長期固定でお金を借りて日本の不動産を買う、日本株とアメリカ株、それに外貨建て商品を買う、日本の国債を売るという戦略です。
この本は、なぜこのような運用方針をとるのか、現在の日本(および世界)の経済情勢をどう見ているのかをやさしく語ったものです。インデックス投資のような話とは真っ向から対立します。当たれば、運用益はすごいものがあるでしょう。当たるかどうか、どう考えるか、藤巻氏を信用するかというのが問題です。
第1章「マネーはもうジャブジャブだ」では、日本銀行が紙幣を増やしたことを解説しています。
第2章「マネーはどこに消えたのか?」では、ベースマネー、マネーサプライ、インフレなどについて藤巻氏の見解を述べます。
第3章「経済政策には何があるか?」では、金融政策、財政政策、為替政策について述べます。
第4章「日本の財政はいかに悪いか」は、文字通りの章です。
p.92 では「財政赤字問題というのは5年後、10年後の日本を考えたときの最大の問題」と述べています。乙も同感です。そして、政府が取り得るのは政策ミックスだということで、消費税上げと年金制度の変更、それに穏やかな資産インフレを組み合わせて実施するというアイディアです。なかなか現実的です。
第5章「長期金利は今後上がるか下がるか?」では、藤巻氏の見通しは、長期金利が急に上がることもあるだろうということで、これが固定金利で借金しようという主張につながってきます。
p.129 では、債券先物を売るとか、金利スワップで固定金利の支払いなどという手段が示されます。個人としては、なかなかこういうことはできないでしょうが、藤巻氏にはこのあたりの解説を書いてもらえたらおもしろそうです。
第6章「為替はどうなるか?」もおもしろかったところです。
pp.147-148 では、円キャリートレードが行われているという話をウソだと断定しています。銀行は元本保証のお金を預かっているから、リスクの高いヘッジファンドにお金を貸すはずがないというのです。貸すなら相当の高金利になるはずだというわけです。むしろ、ドルの先物買いをするのだそうです。
藤巻氏のいう円キャリートレードは狭い意味であり、新聞などでいう円キャリートレードは広い意味なのかもしれません。
p.154 では、これからの日本の経常収支の赤字にともない、円安、長期金利高を予想しています。
p.155 では、期末要因のウソについて述べています。期末になったからといって、ヘッジファンドがお金を送金するためにドルを売ったとか、日本の株を売ったとかいううわさが流れることがありますが、そんなことはないというのです。なぜならば、すべて時価会計をしているからです。
これらの話は(これらだけではないですが)いずれも「なるほど」という感想です。乙は、普通の新聞記事や書籍には見られない鋭い視点だと思いました。
第7章「不動産マーケット」と第8章「株のマーケット」もわかりやすい解説です。
第9章「いま世界経済はどうなっているのか?」では、30年ぶりの好景気であり、BRICs 諸国が躍進しており、アメリカ経済も順調だとしています。だからアメリカ株を買えという話になるのですね。
p.195 と p.210 では、サブプライムローン問題について、何ら問題はないという見通しを述べています。「そんなにアメリカ経済に悲観的ならアメリカ株を売って見ろよ」というのは、すごい主張です。昨今の世界同時株安を考えると、まさに、「売っておけばよかった」といえるように思いますが、どうなんでしょう。
第10章「今後の日本はどうなるか?」は、マクロな見方が述べてあって、ここもおもしろかったです。少子化やグローバル化によって、終身雇用制(年功序列)が崩壊しますが、それは、必ずしも悪くないという考え方です。能力のある人にとっては、活躍の場所が与えられてハッピーなんでしょう。
通読してみて、藤巻流の話がとてもおもしろかったです。もちろん、一個人の見解であり、これが正しいなんていえません。マーケットは、しばしば「行きすぎ」の傾向を示します。しかし、こういうのが経済学だとしたら、相当におもしろいと思います。
ずいぶん先の話ですが、乙が退職したら、老後の楽しみで経済学でも学んでみましょうか。どこかこういうことにふさわしい大学はないものでしょうかね。
2008.8.29 追記
この話に関連する内容を
http://otsu.seesaa.net/article/105661673.html
に書きました。よろしければご参照ください。
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偶然、初めて訪問しました。
なかなか良くまとまった良いブログですね。
藤巻氏の主張は、結構、世の中のコンセンサスとは異なっていて、私もすべて肯定できないですが、自分の運用は「殆ど彼のすすめ通り」と結果的になっています。
時々、遊びに来させてもらいますので、よろしくお願いします。