投資信託全面否定論を述べています。
ただし、ではどう投資するかについては、須田氏は個別の株や債券を買うようにというだけで、具体的な手順を述べているわけではありません。
乙が問題だと思ったところをいくつか述べます。
(1)ETF 否定論
ETF は投資信託の一種ですが、これを「マシ」(p.172)な金融商品と称しています。ということは、須田氏は ETF もすすめないというように読めます。
この点、乙は疑問に思いました。
須田氏は分散投資をどう考えているのか、はっきりしませんが、一応、pp.188-189 では、次のように述べています。「何も高いコストを払ってまで、投信の手を借りることはない。自ら外国株や債券を買って、国際分散投資をやればいいだけの話である。」このような言い方から、投資先を国際的に分散することが大事なことだと考えているようです。だとしたら、海外の株について、日本人が気楽に直接買える状況にないことをどう考えているのでしょうか。
須田氏は、自ら米国株、中国株、インド株、ベトナム株(p.188)などを購入しているのでしょうか。ヨーロッパ株はどうしているのでしょうか。
乙は、海外の株による運用では、投信(ETF)によるほうが(個別株よりも)望ましいと考えています。
(2)グロソブに関して勘違いをしている
pp.135-136 には、次のようにあります。「実は分配をすると、そのつど、投信の価格である基準価額が下がる傾向が見てとれる。ところが、資金が次々と新規流入することで資産増加に伴って基準価額が再び上がるために、そのような事態は見過ごされてきた側面がある。」
同じく、p.137 に、次のようにあります。「基準価額のチャートでも明らかなように、分配金を出し続けているが故に、パフォーマンスが上がらない状況に変わりはない。いわば自転車操業的≠ノ新規流入資金を当て込んで、半ば強引に分配金を出しているのではないか、という疑念すら生じてくる。」
2箇所に同じ趣旨の記述があるので、これはミスプリではありません。須田氏は、資金が新規に投資信託に流入すると基準価額が上がると勘違いしています。これは明らかな間違いです。資金が流入しようが、流出しようが、そのこと自体は基準価額の変化には結びつきません。資金が流入するときは、そのときの基準価額で割り算されて、各投資家が何口購入したということになるだけです。
こういう明らかな間違いをそのままにしているような本は、信用できません。
(3)参考文献が挙がっていない
ところどころ山崎元氏の言葉などを引用しながら書いている部分もありますが、出典は一切示されません。
これは問題ではないでしょうか。引用するときは出典を書くのが常識です。
巻末に参考文献一覧を掲げることによって、著者がどういう本を読んできたかがわかります。乙は、ぜひそうするべきだったと思います。
(4)多様な投資信託の全体を見ていない
グロソブ批判が50ページほど書いてあります。全200ページの本ですから1/4を占めます。
グロソブの話だけなら「投信バブル」と言ってはいけないでしょう。投信にもさまざまなものがあります。それら全体を含めて論じるべきです。そのような態度が本書には見られません。
たとえば、直販型(独立系)の投信などは、須田氏の批判には当てはまらないように思います。
(5)「バブル」の意味がよくわからない
タイトルにも使われている「バブル」ですが、何を(どんなことを)指すのでしょうか。現在が「投信バブル」なんでしょうか。
須田氏の現状把握がそもそもずれていませんか。
というようなわけで、この本は、どこかで読んだような話が多く、あまりおもしろくありません。
帯には「「投資信託」は絶対買うな!」とでかでかと書いてあります。
しかし、その結論に至るまでの論証は十分なものではないように感じます。
乙は、テレビレポーターがあちこち取材して手軽に「一丁あがり」にしたような読後感を持ちました。
乙は、ちょっと本屋さんに立ち寄ったときに、タイトルが目を引いたので、思わず買ってしまったのですが、740 円の価値はないように思います。
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流れ込んだ資金が債券市場へ投資
されれば、債券価格は上昇、あるい
は下げ止まりし、結果として基準価額
は上昇もしくは下値抵抗力を持つの
ではないでしょうか。
とくにグロソブは5兆円まで資金が
流れ込んでいます。5兆円で債券を
買いまくっていれば、その分は確実に
債券価格にはプラス、ひいては
基準価額にもプラスでしょう。
もっとも、みんなが逃げ出せば、
今度はマイナスの圧力が加わります。
アクティブのエマージング株式ファ
ンドでも、資金流入があれば、
インデックスを上回る力になります。
流入資金でせまい市場の特定銘柄を
買い上げ捲るわけです。これは上昇
相場では大きなプラスですが、
下落相場で積み上げた分だけマイナス
の圧力になります。
貴重なご意見をありがとうございます。
なるほど、この解釈でいけますかね。
グロソブは、いろいろな通貨の各国の債券に分散しているわけですが、それと絡めて考えた場合に、5兆円がどれくらいの大きさなのかという問題ですね。
乙は、そんなに(債券価格を上昇させるほどの)インパクトはないのではないかと思っているので、本文のような言い方になったのですが、もしかすると、言い過ぎだったかもしれません。
菊地正俊(2007.1)『外国人投資家』(洋泉社新書)洋泉社 の p.230 によると、International Financial Services の出典を示して、世界の資産運用会社の運用資産が 2005 年段階で 55 兆ドル(約 6300 兆円)になったと述べています。
この規模を考えると、5兆円なんて、どうってことのない金額のように思えます。