というわけで、外国人投資家について書いてある本ということで、楽しみに読んでみました。
目次は以下の通りです。これで、書かれている内容がどんなものか、想像できると思います。
第1章 そもそも外国人投資家とは誰なのか
第2章 日本市場において外国人投資家の存在感はなぜ高まっているのか
第3章 外国人投資家が買わないと上がらない日本株の仕組み
第4章 外国人投資家に買われる株・売られる株
第5章 外国人投資家は日本の政治・経済をいかに読み解いているか
第6章 外国人投資家は日本企業に何を要求するのか
付章 大手外国人投資家の紹介
さて、p.66 ですが、外国人投資家は数年単位のトレンドがあるという話で、p.67 にグラフが表示されています。この話は本当でしょうか。示されるグラフは1年単位で書かれています。だとすると、1年以下の「トレンド」はまったく見えないわけで、そもそもこういうグラフを見れば、数年単位のトレンドが見えてくるものです。1ヵ月ごとのグラフを示して、1年未満のトレンドがないことを示す必要があるのではないでしょうか。
ちなみに、乙は、1年未満の短いトレンドもあるし、数年単位のトレンドもあると思っています。
p.70 東証1部の投資主体別の売買シェアのグラフを見ると、半分が外国人であることが示されており、びっくりします。よく考えてみれば、日本人の投資家(株主)は、ずっと保有している例が多いでしょうから、売買だけを見てみれば外国人が多く見えるのでしょうね。
p.71 では、外国人投資家の日本株保有比率を示しています。約1/4です。これで安心しました。
p.97 図3−3では、メリルリンチ・ファンドマネージャー調査の結果を引用し、米国、日本、ユーロ圏、新興市場の四つの株について、「割高−割安」を求め、米国が割高であると見られること、ユーロ圏が割安であること、新興市場と日本はほぼゼロ付近で、割高でも割安でもないことを示しています。一方、p.96 では、こう書いてあります。「世界の投資家に各株式市場の割高感を尋ねたメリルリンチのファンドマネージャー調査によると、日本の PER が国際水準から大きく乖離すると、割高と考える外国人投資家が増えて、外国人投資家が日本株を売る傾向があります。(図3−3)」
図3−3を見ても、日本は決して割高ではないし、p.94 の予想 PER の国際比較のグラフを見ても、特に日本が欧米やアジアからかけ離れているわけではないことがわかります。(2000 年以前には日本がかけ離れて高かったときがありましたが、図3−3では、2001 年以降の傾向を見ていますから、あてはまりません。)また、p.87 の外国人投資家の日本株買い越し額のグラフを見ると、2001 年以降はほぼ買越額がプラスになっており、日本株が売られる傾向は見てとれません。これらを総合的に見ると、p.96 の記述は変ではないでしょうか。
p.101 には、日本株に関連して「オイルマネーは欧米の主要機関投資家に比べると影響力はあまり大きくない」と書いてあります。乙には意外でした。以下、東証の地域別投資家分類の数字を示して、欧米が日本株を大きく買い越しているのに、「その他地域」の投資家の日本株買越額は、そんなに大きくないとしています。しかし、中東のオイルマネーの資金が、直接日本に向かっているというよりも、欧米の銀行や資産運用会社などを経由して日本に向かっていると考えたほうがいいのではないでしょうか。その金額がどれくらいあるのか、乙は知りませんが、東証の数字を表面的にとらえるべきではないと思います。
というようなわけで、いくつか気になった部分はありましたが、全体として外国人投資家の裏側を探るという本書のねらいは果たされたと思います。著者の菊地正俊氏は、メリルリンチ日本証券の株式ストラテジストだそうですから、こういう本を書くには適任だったのでしょう。
乙の視野が広がりました。
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