題名通りの内容で、痛快です。
第1章は「神話の国の神話の崩壊――新しい神話づくりのために」というものです。
p.22 には「土地が輸入できる時代に変わった」とあります。中国を例に挙げて、こんな近いところに広大な土地と低賃金の労働力があるから、それを利用することは、すなわち土地を輸入していることになるという話です。だから地価が上がり続けるという土地神話が崩壊したということになります。日本が変わってしまったことを端的に示す例でしょう。
p.44 では、これからの日本について、金融・投資・ブランド・知財立国を目指すとしています。これが本書を貫く主張です。
第2章は「ノー天気ニッポン――考えることを止めてしまった日本人」です。
p.54 からニート・フリーター論が語られます。フリーターやニートの存在は、親や兄弟が本人を支えているからこそ可能であり、その意味では日本は豊かなのだと主張しています。そうかもしれません。しかし、実際にニートやフリーターを抱えている人たちは必ずしも豊かとばかりは言えないと思います。餓死することはないとしても、人間として幸せに暮らしていくためにはそれだけでは不十分で、やはり結婚・育児・親の介護などができなければならないでしょう。いつまでも周りに頼って生きていくのでは、その人の人生は非常に限られたものでしかありません。それは本人のためにはなりません。(そして、社会のためにもなりません。)ここに見られるのは著者の「強者の論理」です。
第3章は「格差社会の落とし穴――金持ち優遇は悪いのか」です。この章では、著者の怪気炎が挙がります。本書中で一番にいいたかったことが第3章でしょう。
p.94 世界の金持ちに日本で住んでもらおうという話から始まります。消費も活性化するし、人口減少にも歯止めがかかるとのことです。非常にユニークな発想です。もちろん、実現可能性はきわめて低いと思われます。外国人が、日本語を中心に社会が成り立っている日本に住んで、果たして幸せにやっていけるでしょうか。乙は大いに疑問に思いますが、ともあれ、そういう発想にはおどろかされました。
p.99 政治も行政も市場の本質を理解していないと糾弾しています。だから投資家がなかなか育たないし、すぐに「金持ち優遇はけしからん」的になってしまうというわけです。
日本の現状がこの通りだとすると、「貯蓄から投資へ」などというスローガンは、日本のあり方を変えてしまうことを意味します。本当に大丈夫なんでしょうか。
p.120 では、財政破綻した夕張市を救うために、夕張市に一定期間以上住んだ人の相続税をゼロにするというのはどうかという、これまた斬新な発想が書いてあります。まあ政府がそんなことを認めるはずがありませんが、発想としてはおもしろいです。
第4章は「フラット化・マネー化する世界経済――発想の転換でチャンスをつかめ」です。
p.142 では「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざの発想が必要だ(もっともだ)とし、「遅くとも猫が減り始めた段階で「これは桶屋が儲かるのではないか」ぐらいのスピード感は持ってほしい」と言っています。乙は、ここにかなり違和感を感じました。「風が吹けば……」の言い方は、現代では、論理がつながらないトンデモ理論の例として考えられているのではないでしょうか。つまりありえない話ということです。
第5章は「再び光り輝く日本のために――豊かさを生かす方法とは何か」です。結論の章といっていいでしょう。
p.186 からあとがきです。そこに日本のシンボルとして JAL を取り上げ、JAL が昔は独占企業として日本の花形産業として優秀な若者を集めたのに、自己保身的な組織になり、改革がむずかしくなり、士気が下がっていったとしています。そして、JAL が日本の将来に重なって見えるというのです。乙はおもしろい見方だと思いました。このまま日本が潰れていってしまうのでしょうか。
全体にこの本には「強者の論理」があふれています。著者の三原氏は、きっと金持ちで強い人なんでしょう。しかし、世の中は強者だけで成り立っているわけではありません。もう少し、「寛容の心」を持って物事を見てほしかったと思います。
この本は、全体として主張を裏付けるデータに乏しいようです。話はおもしろいのですが、その裏付けがありません。著者は、研究者でなく、いかにも評論家だなあと感じさせます。
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