タイトル通り、いろいろな投資信託の性質について、具体例をあげながら解説する本です。
はしがきを読むと、p.8 に著者の菊池氏が持っている投信が七つであることが示されます。その一つにグローバル・ソブリン・オープン(略称:グロソブ)があげられています。毎月分配型で、乙も、以前は持っていたのですが、解約してしまいました。
2006.8.17 http://otsu.seesaa.net/article/22441509.html
それを保有していると明言されていることにちょっと驚きましたが、秘密は p.32 に書かれていました。菊池氏は60歳を過ぎているのですね。だから、毎月の年金代わりのグロソブに意味があるのでしょう。
第1章は「様変わりになった投資信託」で、株式投信が急拡大していることから説きはじめます。ただし、実際は債券に投資しているのに「株式投信」に分類されるものがある(グロソブはその一つ)ことから、厳密にいえば株式投信が急拡大しているのではないことがわかります。実は、株式投信は伸び悩んでいるわけです。
第2章は「投資信託のプラス、マイナス」で、投資信託入門といった内容です。
第3章は「「グロソブ」と「海外債券型投信」の将来」で、グロソブおよび海外債券型投信の現状を分析しています。ここは、菊池氏のオリジナルな議論が展開されます。乙にとっては、本書の中で一番おもしろかったところです。
p.101 では、グロソブは債券の配当等の収益で儲けているのではなく、実は有価証券の売買で儲けているのだとうことが示されます。乙は、グロソブを保有していたころ、運用報告書を読んでいたのですが、この仕組みには気が付いていませんでした。
p.104 では、グロソブが大きな欠損金を抱えていることが示されます。これについても、詳しい説明があり、なぜこれでいいのかが納得できます。乙は、こんなことにも気が付いていなかったのです。
本来は、第3章の記述くらいを理解してからグロソブを買うべきなのでしょうが、たぶん、グロソブを買っている人でそこまで理解している人はごく少ないのではないかと思います。
第4章は、「「株式ファンド」の将来を考える」という章です。第1節は、「国内株の「株式ファンド」復活はあるのか」です。国内株の株式ファンドを見ると、どれも寿命が短く、平凡な成績しか上げておらず、あまりパッとしません。ファンドを買うならインデックス・ファンドがいいという話になります。第2節は「「好配当株投信」が抱える矛盾と限界」です。好配当株に投資する投信は、それ自体矛盾しているということを丁寧に説明しています。第3節は「ETF は本当に「有利な商品」なのか」です。菊池氏は ETF を勧めています。p.177 では、ETF が台頭する一方、インデックス・ファンドは停滞気味だということになります。現在、資金がシフトしているのですね。
第5章は「「リート(不動産投資信託)」の魅力と限界」です。第1節でリートがどんなものかを説明し、第2節で海外リート投信の高利回りの秘密を明らかにし、かつ将来に対する不安を説明します。第3節は「J−リート投信」の存在意義を問います。J−リートが簡単に買えるときに、J−リート投信を買う意味はないということで、こんな商品があること自体、日本の投資家や金融機関がおかしいのだとしています。p.221 では、J−リート投信は1万円ちょっとの小口でも買えることがメリットだとしていますが、一方、そういう投信を買うなら、J−リートの市場指標に連動するインデックス・ファンドを買う方がよいとしています。
第6章は「投資信託でポートフォリオを作る」ということで、個人投資家が資産運用の全体を考える際のポイントを解説しています。本書の結論のような章です。
全体として、まじめに書かれた投資信託の本です。入門書のレベルではなく、実際に投資信託を購入し、ある程度仕組みを理解している人に向いています。
菊池氏は、元日経新聞の記者で、現在は流通科学大学の教授だそうです。なるほど、きちんとした分析で、わかりやすく書いています。この本は多くの人に勧めることができる本だと思います。
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