中身は非常に濃いです。理論面もしっかりしているし、どういうふうに考え、何を買えばいいかについても実践的に書いてあります。A4判で130ページほどですが、図も充実していてわかりやすいし、文章もしっかりしています。投資信託について、現状で知りたいことがほぼ網羅されていると思います。読みごたえがありました。お勧めできる1冊というべきでしょう。
いくつか、気になったところだけを書いておきましょう。
(1)p.30 4段目
投資対象資産間の価格の動きに関する相関係数の説明ですが、次のように書いてあります。
たとえばAという資産がプラスの方向に1動いたときに、Bという資産が動く方向と程度を簡単な数字で示すのです。Aが1に対して、Bの相関係数が 0.5 であれば、AとBの動きは同じですが、Aの上昇度に対しBの上昇度は半分になっているということです。
この説明は間違いです。「Aが1に対して、Bの相関係数が 0.5 であれば、」という言い方がそもそもおかしいのです。正しくは「AとBの関連性を見る上で、」と始まらなければなりません。
0.5 という相関係数は、(ごくおおざっぱに説明すれば)Aが上昇するときに、Bも上昇する場合が多く、(ただし上昇の幅はまちまちで)たまにBが下落することもある程度ということです。BがAの半分上昇するのではありません。そもそも、Aの上昇分に対してBがいつも半分だけ上昇するならば、AとBの相関係数は1になってしまいます。
ここの部分では、記者さんの理解が不十分であることを露呈してしまいました。
(2)p.31 イボットソン社による資産クラスの相関係数が一覧されています。
こういうデータを引用するときは、何年分のデータによるのかを明記しなければなりません。相関係数表の下の方には国内リートが含まれているので、意外と短期のデータかもしれないと思いました。
また、たぶん年次データでしょうが、その場合、どこかに「年次データ」であることを書いておくほうがいいでしょう。
ところで、計測期間については、実は p.33 一番上の表で出てきます。だったら、この計測期間は p.31 の注として書いておくべきです。あるいは、p.33 の表を先に示して、それから p.31 の表を示すのでもいいです。
なお、ここから先は、乙としても自信がないのですが、p.33 のように資産クラスによって計測期間が異なる場合(国内株式は 1952年1月から、国内リートは2001年10月から、など)、複数の資産を組み合わせて、たとえば p.29 のように示していいのかどうかという問題があります。
たとえば、相関係数行列を利用して、因子分析の計算を行う場合、全部のデータが揃っていて「欠損値」がないことが前提になります。欠損値があるときに、そこだけを除外して相関係数行列を計算すると、その全体を見て次のステップの計算をしようとすると不都合が生じます。資産クラスによって計測期間が異なる場合は、(最長計測期間を基準に考えれば)欠損値が多数ある場合と同じことになりますので、全体をカバーするような「理論」を考える上でマイナスはないのでしょうか。
p.29 は、2資産の組み合わせを考えており、それぞれで期間を変えていますので、計算上は問題ありません。しかし、これを多数の資産の組み合わせに拡張するときに問題が起こりそうです。こういう考え方で、p.31 の相関係数を利用して、「何かの計算」をしていいいのかという問題です。(これは本書の責任ではありません。)
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2008/01/2008_79ec.html
では、そういう計算を勧めていますが、大丈夫でしょうか。
(3)ミスプリは、2つ気が付きました。
[1] p.26 4段目 最後から6行目 25%→20%
[2] p.78 表 赤字で表されている ETF の信託報酬と購入手数料が逆になっています。3箇所ともそうなっています。ただし、この表を参照している本文は正しくなっています。
乙が読んで一番おもしろかったのは、p.128(本書の最終ページ)の服部哲也氏の1ページの記事でした。新しい投資信託なんて必要ない、「商品開発部なんかいらない」ということです。
この話に関連しますが、投資信託(およびその業界)の抱える問題点(特に今までの経緯など)を指摘するような記事もあった方がよかったかもしれません。実践的には不要ですが、投資信託の現状を理解するためには知っておいて損はないように思います。まあ、本書で紹介されている「投資力アップに役立つ本」を読めばいいのですけれど。
なお、乙のブログが本書の p.121「インデックス・ETF 投資家必見! 人気ブログ」に紹介されており、そのため、東洋経済新報社から本書を1冊いただきました。ありがたい話でした。
乙のブログが他の人にそんなに役立つとは思えないのですが、「個々のエントリも質・量ともに高水準を維持している希有なブログです。」というのは、ほめすぎです。くすぐったく感じました。
なお、いくつかのブログで、本書が取り上げられています。
http://haisyatosyosyanogame.10.dtiblog.com/blog-entry-525.html
http://renny.jugem.jp/?eid=484
http://kaeru.orio.jp/blog/2008/01/book_8.html
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-652.html
東洋経済新報社へのリンクを貼っておきます。こちらから本書が購入できます。
水瀬ケンイチさんのコメントにより、アマゾンにもリンクを貼っておきます。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..
トラックバックありがとうございました。
相関係数の期間がバラバラな点については、厳密に言えばダメなんでしょうけど、どんどん新しいアセットクラスが出てくるこのご時世ですから、現実的にはそんなもんだと思いますよ(^^ゞ
あと、アマゾンのリンクが分からないのは、おそらく、ブログタイトルにある「投資信託ベストガイド」で探しているからだと思います。
「ベスト投資信託ガイド」で見てみてください。出てくると思いますよ。
コメント、ありがとうございました。
相関係数の問題については、「現実的には」かまわないと思っています。どうせ投資行動として考えれば、不安定なものに任せるわけですから、相関係数も「単なる目安」くらいに思っています。
「ベスト投資信託ガイド」には気が付きませんでした。臨時増刊の背文字を見ても、こうは読めませんよね? 東洋経済新報社のサイトでも「投資信託ベストガイド」になっていますし。
ともあれ、水瀬さんのコメントにしたがって、本文を直しておきました。
特に多いのが次のような誤解です。
誤解:相関係数が負だと、片方の資産価格が上がるときに、もう一方は下がる傾向になる。
したがって相関係数が負の二つの資産に分散投資すると、リスクは減るが、リターンは互いに打ち消しあって減ってしまう。
相関係数は実際のリターンが期待値からどのようにずれる傾向があるかを表わしています。
正解:相関係数が負だと、片方のリターンが期待値より上になるとき、もう片方のリターンは期待値より下になる傾向になる。
相関係数がどうであっても、分散投資における期待リターンは分散投資先資産の期待リターンの荷重平均になる。
相関係数が負であることが原因で期待リターンが下がることはない。