日本の発行した国債が多すぎて、もう返せないところまできたということで、国家破産を宣言してしまうほうがいいという内容の本です。各種の数字が挙げられていて、それはそれで納得する面もあります。
しかし、著者の考え方で、何ヵ所か、どうにもついて行けないところがあります。
p.14 印相学が登場します。こんなのを(関係者には失礼な言い方ですが)信じていると表明することで、本の(さらには著者の)信頼性を損ねていると思います。
p.14 「私は「高橋亀吉3原則」を貫いてきた」としています。その3原則というのは以下の通りです。
第1原則「虚像と実像を数字で峻別せよ」
第2原則「ショックとクライシスはまったく違う」
第3原則「アダム・スミスには教科書がなかった」
このうち、第1原則は命令形ですから、ものごとを考えるための「原則」と言えるように思いますが、第2原則と第3原則は平叙文であり、単なる命題文ですから、ものごとを考える「原則」ではないように思います。
p.233 ニュートンが 1700 年代初頭に 2060 年に世界の終末がくると予想したとか。著者がこれを信じているとは書いてありませんが、そういう話を書くことで、間接的に信じているように読めます。
乙は、これらの説明は削除しておいたほうがいいと思います。
さて、本書は5章から構成されています。
第1章は「アダム・スミスに予言されていた日本国の破産」です。本書の中心部分です。お急ぎの方はこの章だけ読めばいいとも言えます。
日本の総債務残高が大きく伸びていて、危機的状況だとしています。
p.24 「国債の買入消却」のことを「国債の紙屑化」と呼んでいます。乙は意味がよく理解できませんでした。「国債の買入消却」は、後ほど、p.60 で再度登場しますが、「国債の発行者である国が、償還期限が到来する前に国債を買い入れ、これを消却することで債務を消滅させること」をいうのだそうです。だとしたら、これは正当な行為であって、「紙屑化」ではないと思います。紙屑化といえば、通常考えられるのは、償還期限が来た国債に対して、その券面の金額を今後一切支払わないと宣言する(したがって国債が紙屑になる)ことではないでしょうか。
p.44 では、2011 年問題を指摘します。日本の国家予算のプライマリーバランスの赤字解消が絶望的になっていることを指すのだそうです。そして、p.46 からは 2018 年がデッド・エンドの年だとしています。p.48 では、2015 年にデフォルトになると予測しています。日本の国家債務がどんどん大きくなっているのはその通りですが、それについて、2015 年にデフォルトが起こる、あるいは 2018 年にデッド・エンドになると予測できるのでしょうか。なぜその年なのか、乙には理解できませんでした。
第2章は「破産を覆い隠す政府」ということで、政府のやり方の問題点を述べています。第3章は「「財政の恐怖指数」が跳ね上がっている」ということで、森木氏の考案による指数を紹介し、この観点からも破産は避けられないとしています。二つの章は、第1章の延長上にある内容です。
第4章は「国を滅ぼす特別会計の「闇」」です。一般会計だけを見ていても何もわからず、特別会計こそが問題だと説きます。乙は、この議論に納得しました。
第5章は「すでに死んでいる年金制度」です。ここでの年金問題も納得できる内容です。
第6章は「日本を滅ぼす間違いだらけの税制議論」です。ここの記述もおもしろいです。
第7章は「「破産宣言」をすれば、日本は甦る」です。第1章から第3章で展開された議論をさらに進めています。
p.212 では、日本の改造のために「廃県置州」をしようという話になります。しかし、ここでいわれている「州」がどんなものなのか、説明が不足しているので、理解が困難です。通常の理解では、「州」というのは、徴税権などを持つ強力な存在なのでしょうが、本書中には記述がまったくありませんでした。
ところで、乙がわからないことが一つありました。日本政府には「破産」というものがないわけですから、「破産宣言」は出しようがないと思います。国債の償還期限が来たときに「金がないから返せない」とは言えません。それを言ったら、国債の購入者に対して政府が約束してきたことを破ることになるわけです。だから、政府は何としてもお金を工面するでしょう。どうすれば、ない袖が振れるのか、乙にはわかりません。そのときの政府が手段を考えればいいはずです。金がないなら、海外から(国債で)借りるか、日本人から(国債で)借りる(つまり未来の日本人から借りる)かしかありません。誰も貸してくれないならば、政府の権限で税金を多く取り立てるのでしょう。国債の償還予定額は明らかなのですから、国会での予算審議の際に次年度の国債償還費用を計上します。つまり、政府の独自の判断で突然「破産」などを宣言することはありえず、国会の事前の了承(ひいては日本国民の了承)が必要です。国会だって「破産」と宣言することはありえません(だってそういう法律がないのですから)。となると、やっぱり「破産宣言」は出せないのではないでしょうか。
終章は「国家破産のシナリオ」です。日本が破産宣言をするのはどんな状況かが描かれます。ひとことでいえば、金利が上昇し、債券価格が暴落し、したがって国債の売りが大量に出て、政府としてそれに応えられないので破産だということです。だから、そうならないように、政府は一生懸命金利が上がらないように努力しているわけです。ただし、そういう努力をしても、国債の発行残高はどんどんふくれあがりますから、たとえ低金利であっても、国債に対して償還金が払えなくなる事態がやってくると思われます。そのときが「破産」なのでしょう。
なお、乙には p.230 の図もよく理解できませんでした。
国家破綻本は、たいてい出版後数年先の破綻を予言していますが、今までその種の予言は当たりませんでした。これからも同様でしょう。10年程度で国家破産がやってくるとも思えません。しかし、その可能性が全くないかと考えてみると、ゼロではないということになります。
問題は破綻の起こる確率です。ゼロではないにしても、乙の感覚ではきわめて低いように思います。
というわけで、本書の内容は、あまり信じなくてもいいでしょう。こういう考え方もあるということを頭の隅に置いておけば十分だろうと思います。
なお、以前の森木氏の著書については、以下で述べたことがあります。
森木亮(2006.2)『日本国破産への最終警告』PHP研究所
2008.1.25 http://otsu.seesaa.net/article/80486553.html
森木亮(2007.3)『2011年 金利敗戦』光文社
2007.6.5 http://otsu.seesaa.net/article/43904848.html
森木亮(2007.2)『ある財政史家の告白「日本は破産する」』ビジネス社
2007.2.27 http://otsu.seesaa.net/article/34777467.html
森木亮(2005.2)『2008年 IMF 占領』光文社
2006.4.16 http://otsu.seesaa.net/article/16624855.html
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- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
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