本書の目次を示しましょう。
序章 二十一世紀の新しい世界戦争が始まった
第一章 世界は変わる
第一部 温暖化で北極圏の石油争奪戦が始まった
第二部 核兵器のない新しい抑止戦略が出現した
第三部 三十億人の一大経済圏が世界を変えた
第四部 アメリカでは十年後に新聞がなくなる
第五部 アメリカと北朝鮮が国交を樹立する
第二章 日本は「世界の大国」になる
第一部 日本は世界の一流国になった
第二部 ロボットが日本経済をさらに強くする
第三部 日本の軍事力は世界一流になった
第四部 大国日本には影の部分がある
第五部 日本の指導者が中国を恐れている
第三章 米中の兵器なき斗いが始まる
第一部 アメリカは中国を抱き込む
第二部 中国とは軍事衝突したくない
第三部 中国の分裂を恐れている
第四部 中国にアジアを独占させない
第五部 いつまでだまし合いがつづくか
第四章 ロシアの石油戦略が日本を襲う
第一部 プーチンは石油を政治的に使う
第二部 プーチンはアメリカを憎んでいる
第三部 プーチン大統領とは何者なのか
第四部 プーチンのロシアは混乱する
第五部 日本とロシアは対立する
第五章 石油高がドル体制を終焉させる
第一部 石油の高値がドルを直撃する
第二部 サウジアラビアがドル本位制をやめる
第三部 ドル体制は追いつめられている
第四部 アメリカはなぜ嫌われるのか
第五部 ブッシュのあとドルはどうなる
第六章 「永田町」の時代は終わる
第一部 日米軍事同盟は幻想だった
第二部 日米関係はなぜ疎遠になったのか
第三部 自民党は三つの党に分裂している
第四部 民主党はなぜだめなのか
第五部 永田町の時代は終わった
最終章 日本には三つの選択がある
こうして目次を眺めると、各章・各部のタイトルが文の形になっているため、内容が推測できます。そして、実際その通りです。
日本がこれからどう進むべきかを考えた本です。投資の本というよりは、むしろ国際政治の本ですが、投資の戦略を考える上でも、おもしろい本だと思いました。
乙が特におもしろく思ったのは、第一章第一部の北極海の資源を巡る話、それに第四章のロシアの石油戦略の話、第六章第一部の日米軍事同盟の話でした。読み物としてとらえると、「ほ〜っ」という感じです。
日高氏は、NHKに長く勤め、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長などを歴任し、アメリカにずっと住んできた人です。なるほど、本書を読むと「ジャーナリストだなあ」という感じになります。ジャーナリストは、たくさんの情報を得て、それらを総合することに長けています。しかし、それぞれの情報の集め方が問題です。基本的に「取材」です。いろいろな人にインタビューしているのです。
本書中に出てくる名前を見ると、アメリカの要人たちが並んでいます。アメリカ以外の国の人の名前も出て来ます。日高氏は得意の英語を活かして多くの人から話を聞いたのでしょう。もちろん、こういう取材を行うにあたって「NHK」の名前は威力を発揮したことでしょう。
しかし、それが日高氏の限界でもあります。それらの話の基になった数字(データ)が出てきません。245ページの本の中に、表もグラフも1枚も出てきません。つまり、すべては「お話」なのです。「お話」とは解釈です。Aさんのこれこれの話とBさんのこれこれの話をつなぎ合わせると、こんなことが考えられるというわけです。それはそうかもしれませんし、それはそれでおもしろい話が組み立てられます。しかし、インタビューでは、インタビュイーは自分の都合の悪いことはしゃべらないだろうし、インタビュアーに対してむしろ何らかの意図を持って特定の発言をすることも十分にあり得ることです。政府高官の話一つにしても、その裏付けとなるデータを集め、確認するとなるとかなりの手間がかかります。研究者ならば、そういうところをきちんと確認するだろうと思いますが、日高氏はここをスキップしています。したがって、話はおもしろいけれども、それがどこまで信頼に足るのかというと、乙はよくわかりません。
参考文献も1冊もあげられていません。これも、本書の性質を物語っています。
日高氏が研究者でなくジャーナリストだというのは、こんなところによく現れていると思います。
なお、本書の記述で一つだけ引っかかったところがありました。p.210 2〜3行目です。「アメリカは朝鮮半島や台湾海峡で軍事行動を起こさなくてはならなくなった場合、在日米軍はもとよりアメリカ軍もまた当然のことに、日本の基地を利用する。」とあります。この書き方では、在日米軍とアメリカ軍を別物としてとらえていますが、それは実態とは違うのではないでしょうか。実際は、アメリカ軍という一つの軍隊しか存在しておらず、その中でたまたま日本に駐留する一部の部隊を在日米軍と(日本が日本語で)呼んでいるだけの話だと思います。
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