自分のお金を預貯金などに預けることは、結果的に、自分でお金の使い道をコントロールしていることにならないというわけで、自主的にどんなところにお金を回すべきか、30の方法を提案するという本です。
読んだ後、とてもさわやかな気分になれました。
お金の使い方は、結局、投資に直結する問題です。投資家の観点からも、ぜひ、こういう意識を持ちたいものだと思いました。
もっとも、本書のすべてに賛成できるものでもありません。
p.8 からは、私たちが郵便局で貯金すると、その貯金が国債購入に回り、政府は国債を売って得た資金で米国債を買っており、アメリカは米国債を売ることで得た資金をイラクやアフガニスタンでの戦争に使っているという説明がなされます。つまり、私たちが貯金すると、そのお金が回り回って戦争に使われるというわけです。これは正しいでしょうが、実際上、その仕組みに反対することはきわめてむずかしいと思います。さらに、貯金しないことにした場合、貯金に代わりうる選択肢があるかという問題があります。個人が自分の力で調べられるでしょうか。本書には、そのような代替選択肢も書かれていますが、本当に大丈夫なのか、不安があります。
というわけで、望ましいお金のあり方を考える上では有益な本ですが、これがすべてではないように思いました。
p.35 市民風車ファンドが出てきます。乙も、一部の資金をこれに充てています
2007.6.23 http://otsu.seesaa.net/article/45659163.html
2006.5.3 http://otsu.seesaa.net/article/17324264.html
ので、共感を持って読みました。
しかし、もちろん、市民風車ファンドが投資先として優れているというわけではありません。乙は、少しは、そういう方面に自分の金を使いたいと思っただけです。
p.36 「深刻化する途上国の債務」というコラムがあります。途上国の債務は外貨で返済しなければならないことが原因で、途上国側の返済が困難になっているということです。しかし、債権者側の論理で考えるならば、これはしかたがないように思います。日本(政府)が途上国に資金を融資するとき、第1歩としては日本円しかないわけで、日本円を貸す以上は日本円で返済してほしいということになります。日本(政府)は、世界各国の現地通貨をそもそも持っていないだろうと思います。だから現地通貨で資金を貸し出すことはできないのです。日本が現地通貨建てで融資する場合は、その前に、日本のものを現地で販売して、現地通貨を入手しなければなりません。途上国では、ここがまず非常に困難です。
途上国に資金を融資するのでなく、補助金としてプレゼントしてしまうという考え方もありますが、それでは、資金総額が少なくならざるを得ません。
これは解決が難しい問題のように思いました。
p.46 エコ貯金プロジェクトが発足し、キャンペーンで3億円を集めたということです。もっとも、これは実際に資金を3億円集めたわけではなく、「エコ貯金します」という宣言を3億円分集めたということですから、勘違いしてはいけません。3億円というと、かなりの額に見えますが、日本の個人資産総額 1500 兆円から考えれば、ごくごくわずかな金額でしかありません。大勢はまったく動いていません。3億円は第一歩として意味があるのでしょうか。
p.80 から、週2日働けば十分だという議論が展開されます。我々は働き過ぎだというわけです。著者の主張もわからないではありませんが、実際は、一人あたりの労働時間が少なくなると、多数の人手が必要になり、その結果、お互いの連絡(情報の共有)が必要になり、結果的に生産性を下げてしまいます。情報が個人に集中するから、結果的に生産性が上がっている面もあるように思いました。
なお、p.80 の本文4行目と6行目で「週8時間労働」が2回出てきますが、これは「一日8時間労働」の間違いです。同じ間違いが2回あると、単なるミスプリではなく、著者の考え違いということになるように思います。要注意です。
p.110 から、「グッズ減税・バッズ課税」という考え方が紹介されます。税金のかけ方を変えることで、いいものを普及させ、悪いものを順次締め出そうという考え方で、これはなかなかおもしろいと思いました。まあ、日本の政治家を見ていると、とてもこんなことが議論できそうに思えないところが残念です。
本書は、
http://fund.jugem.jp/?eid=530
でも紹介されています。
お金の使い方を考える上で、とても有意義な本でした。
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