内容は、まさに題名の通りで、本書は、各種金融商品の広告の例を挙げて、それらがいかにひどいものか、丁寧に解説しています。吉本佳生(2005.5)『金融広告を読め──どれが当たりで、どれがハズレか』光文社
2006.2.8 http://otsu.seesaa.net/article/12973780.html
の続編といった感じの内容です。
金融商品の広告の例は、架空の例だということになっていますが、実際は、実例を用いているようで、その中の金融機関名などを架空のものに付け替えたのでしょう。
吉本氏の議論は、全般に納得できるものに思えます。
本書を一読して、よくまあこんなに金融商品の広告の実例を集めたなあという感想を抱きました。まずは、そのような多種多様な広告を収集し、類似する広告をまとめて分類整理し、それらの問題点を考察するというような作業を経て、本書が成立したのでしょう。吉本氏の努力に頭が下がります。普通に生活しているだけでは、とてもこんなにたくさんの広告にお目にかかることはないでしょう。
本書は、第1章で全体の内容のエッセンスを述べています。忙しい人は、第1章だけ読んで、残りの章を読むべきかどうかを判断すればいいようになっています。ありがたい構成です。
乙が一番おもしろく思ったところは、p.74 です。太字でこう書いてあります。「インフレの不安を煽(あお)って外貨運用を勧めるやり方は、限りなく詐欺に近い悪徳商法だと考えられます。」つまり、吉本氏は外貨運用を否定するわけですが、乙は、吉本氏が外国株をどう考えているのか、もう少し説明が必要ではないかと思いました。外国債券は、広い意味で外貨預金に似た面がありますので、吉本氏の議論によれば否定されてしまいそうに思います。しかし、外国株はどうなんでしょうか。外国株は、基本的にそれぞれの国の通貨で買うしかないようになっています。したがって、円を外貨に換え、外貨で購入することになります。日本国内で円建ての外国株の投資信託を買う場合でも、外国株に投資する以上、運用会社が外貨に両替して外貨で株を買っているはずで、円建てというのは、単に投資家に対して円というものさしで説明・計算しているというだけです。吉本氏は外国株による運用を否定しているのでしょうか。(この点は、本書には明確に書かれていません。)
なぜ、吉本氏は外貨運用を否定的に見ているのでしょうか。それは p.170 以降の「円相場の性質」に書かれています。「短期では金利、長期では物価が円相場を左右する」という見方が解説されます。そして、超長期では円高になるという見通しが述べられます。この議論は一般に正しいと思います。ただ、乙は、この問題は程度問題であって、円高になるにしても、外国株に投資することは、円高を乗り越えて資産を増やす面があるのではないかと考えています。吉本氏の考え方を知りたいものです。
pp.176-190 で、パワー・リバース・デュアル・カレンシー債の話が出てきます。乙も、一時、こんな運用手段があるんだと知り、調べてみましたが、問題商品だなあと感じていました。
2007.12.17 http://otsu.seesaa.net/article/73067545.html
吉本氏は、その問題点を明確に述べています。乙は非常に興味を持って読みました。
本書は、一般にお薦めできる良書だと思います。
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外債なら為替完全ヘッジすると日本国債と金利変わらなくなることから期待リターンは実は日本国債と変わらず。
外国株式についても、よく米国株式が右肩上がりといわれますが、金利上昇分を考慮するとさほどでもないと考えるのでしょう(いつか円高になって円建てではたいした上昇ではなくなる)。
とはいえ、日本企業と政府の体たらくをみると、日本国内に集中するよりも全世界に分散した方がリスクは減ると私は思いますが、それにしても為替リスクって割りにあわないなとは思います。
吉本氏はたしか、”金融工学の悪魔”で、
日本株式と不動産の相関係数を考慮し、
自分がいつか持ち家を欲しいということのヘッジで大半を日本株式で保有してらしたと思います。