題名に引かれて読むことにしました。
目次は以下のようになっています。p.233 にあった出典とともに示します。出典がないのは今回の書き下ろしです。
序章
第1部 株式リターンと資本コストの真実
第1章 株式市場の真実(東京国際大学公開講座)
第2章 PERを見直す(熊本学園大学公開講座)
第3章 ROEを上げるだけでは、企業価値は変わらない
第2部 デリバティブと個人投資家の真実
第4章 証券投資は儲かるのか(熊本学園大学公開講座)
第5章 デリバティブの真実
第6章 天候デリバティブの真実(『先物・オプションレポート』)
第7章 コーポレート・ガバナンスの真実
第3部 外国為替とヘッジ・ファンドの真実
第8章 為替レートの真実(財務省レポート?)
第9章 ヘッジ・ファンドの真実(『先物・オプションレポート』)
第10章 投資戦略――それならどうすればいいのか――
おわりに
本書は、著者が公開講座でしゃべった内容や既発表の論文にいくつかの章を付け加えたものです。ということは、ある種の論文集のようなものであり、各章の関係は緊密ではないことになります。(実際に読んでみても、内容が相互にやや離れている感じを受けました。)『個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由』という題名は、(「売らんかな」主義で?)編集者が付けたのでしょうか。少なくとも、本書全体をまとめるような題名ではありません。本書の内容は、むしろ副題のほうが正確に表しています。
「個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由」は、序章と第1章を読めば十分わかります。結論はインデックス投資を行うということで、個人投資家はそれ以外のことを行うからマーケットに勝てないのだということになります。
具体的な投資方針は第10章で述べられます。
第2章から第9章までは、それぞれの投資がどんなものであるのかを数式を使ったりして説明しています。それはそれで正しいでしょう。著者の渡辺氏は、保険会社・外資系証券会社・銀行を経て大学教授になった経歴の持ち主です。学生などに教えるには、こういう教え方(ものの見方を教える)もいいと思います。しかし、個人投資家は学生ではありません。投資を実践する人間です。そういう立場からすると、本書の内容にはやや不満を覚えます。
たとえば、天候デリバティブがどんなものか、第6章で描かれます。では、個人投資家が天候デリバティブに投資するときはどうしたらいいのでしょうか。そういう具体的なことはまったく書かれていません。著者によれば、個人投資家が天候デリバティブにのめり込んでも勝てるわけはないから、そもそもそんなことはしない方がよいということになるのでしょう。だったら、230ページもかけてこういう内容の本を出版する必要はないとも言えるのではないでしょうか。
ヘッジファンドに関する記述も物足りないように思いました。第9章はたった18ページしかありません。これで多様なヘッジファンドの「真実」が記述できるとは思えません。
このことに象徴されるように、本書は、書いてある内容に問題があるわけではないのだけれど、全体に中途半端な印象を受けました。
勉強のためには、良書かもしれませんが、実践の立場からはそうともいえないように思いました。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..