2008年05月20日

渡辺信一(2008.1)『個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「ファイナンス理論が証明する投資の真実」という副題が付いています。
 題名に引かれて読むことにしました。
 目次は以下のようになっています。p.233 にあった出典とともに示します。出典がないのは今回の書き下ろしです。

 序章
 第1部 株式リターンと資本コストの真実
  第1章 株式市場の真実(東京国際大学公開講座)
  第2章 PERを見直す(熊本学園大学公開講座)
  第3章 ROEを上げるだけでは、企業価値は変わらない
 第2部 デリバティブと個人投資家の真実
  第4章 証券投資は儲かるのか(熊本学園大学公開講座)
  第5章 デリバティブの真実
  第6章 天候デリバティブの真実(『先物・オプションレポート』)
  第7章 コーポレート・ガバナンスの真実
 第3部 外国為替とヘッジ・ファンドの真実
  第8章 為替レートの真実(財務省レポート?)
  第9章 ヘッジ・ファンドの真実(『先物・オプションレポート』)
  第10章 投資戦略――それならどうすればいいのか――
 おわりに

 本書は、著者が公開講座でしゃべった内容や既発表の論文にいくつかの章を付け加えたものです。ということは、ある種の論文集のようなものであり、各章の関係は緊密ではないことになります。(実際に読んでみても、内容が相互にやや離れている感じを受けました。)『個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由』という題名は、(「売らんかな」主義で?)編集者が付けたのでしょうか。少なくとも、本書全体をまとめるような題名ではありません。本書の内容は、むしろ副題のほうが正確に表しています。
 「個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由」は、序章と第1章を読めば十分わかります。結論はインデックス投資を行うということで、個人投資家はそれ以外のことを行うからマーケットに勝てないのだということになります。
 具体的な投資方針は第10章で述べられます。
 第2章から第9章までは、それぞれの投資がどんなものであるのかを数式を使ったりして説明しています。それはそれで正しいでしょう。著者の渡辺氏は、保険会社・外資系証券会社・銀行を経て大学教授になった経歴の持ち主です。学生などに教えるには、こういう教え方(ものの見方を教える)もいいと思います。しかし、個人投資家は学生ではありません。投資を実践する人間です。そういう立場からすると、本書の内容にはやや不満を覚えます。
 たとえば、天候デリバティブがどんなものか、第6章で描かれます。では、個人投資家が天候デリバティブに投資するときはどうしたらいいのでしょうか。そういう具体的なことはまったく書かれていません。著者によれば、個人投資家が天候デリバティブにのめり込んでも勝てるわけはないから、そもそもそんなことはしない方がよいということになるのでしょう。だったら、230ページもかけてこういう内容の本を出版する必要はないとも言えるのではないでしょうか。
 ヘッジファンドに関する記述も物足りないように思いました。第9章はたった18ページしかありません。これで多様なヘッジファンドの「真実」が記述できるとは思えません。
 このことに象徴されるように、本書は、書いてある内容に問題があるわけではないのだけれど、全体に中途半端な印象を受けました。
 勉強のためには、良書かもしれませんが、実践の立場からはそうともいえないように思いました。


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posted by 乙 at 05:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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