概略的には、中国経済が大きくなって、日本を追い越し、日本経済が中国経済に飲み込まれるだろうという話を描きます。著者の視野が実に広いことに驚きます。さまざまな話題が登場します。しかし、著者は研究者ではないため、巻末に挙げられている参考文献は4点しかありません。もっともっといろいろな文献から多量の情報を吸収していると思われますが、それは明記されていません。この点はちょっと残念です。
第1章は「上海が東京を追い抜く日」です。中国の政治体制の特殊性と上海の株式市場が高騰していることを述べます。
第2章は「中国の台頭を加速させるグローバリゼーション」で、グローバリゼーションは中国にとっては追い風だが、日本はそれを向かい風にしてしまったといいます。
p.67 では、上海総合指数と新日鐵や任天堂の株価に関して、「約89%と約98%の相関性で連動している」と述べています。相関係数であれば、-1.0 から +1.0 までの数値を取るはずで、パーセントではありません。パーセントというのは 100 を基準とした数値で表す表し方ですが、このときの 100 は何でしょうか。乙は理解できませんでした。
本書は基本的にデスマス体で書かれていますが、p.71 4行目だけ「巻き返した。」とダ体が出てきます。校正ミスでしょうか。
p.78 からは日本がものづくりの呪いにかけられているといいます。製造業中心の日本ということでは将来の展望は開けないということです。
p.81 中国が「世界の工場」で、日本が「世界の ATM」だという見方が出てきます。おもしろいたとえです。
p.86 では、アメリカが「世界の投資銀行」だという見方が追加されます。こういう簡単な比喩で世界の動きを表現してしまいました。とても興味深い話です。
p.95 からは、さらにオフショアが「世界の地下銀行」だとたとえられます。確かにそうだと思います。
というわけで、第2章は、世界経済を見渡すときの一つの視点を提供してくれたと思います。
第3章は「「世界の工場」から「チャイナ・マネー」へ」です。中国が変わりつつあることを第2章の記述をもとに描いていきます。
p.127 の4行目「人口の急速な高齢化だけでなく、急速かつ環境破壊が巨大な規模で進行しています。」とあります。意味不明な文です。
p.147 中国が2007年に創設した政府系投資ファンドが、ファンドマネジャーを世界に広く募集したそうですが、その際に年間 30% 以上のリターンを狙うことを条件に掲げたそうです。乙は「30%」という目標が信じられませんでした。この話は p.151 にも再度出てきますので、間違いではありません。大量の資金を有する政府系ファンドで 30% ものリターンが達成できるはずはないと思います。この話は乙には理解できませんでした。
第4章は「東京が東アジアの金融センターになるために」です。特に p.195 からの「東京マーケットのラストチャンス」という節がおもしろかったです。著者は、今の東京を「世界最大のローカル金融市場だ」としています。これではいけない、もっと東京を国際金融センターにしなければならないというわけですが、そこで日本政府の都市再生本部が提言しているのは、日本の(金融などの)制度をどうするかではなく、都市インフラを整備していくという箱物行政的発想にすぎません。それではダメだということで、著者の舌鋒はいよいよ鋭くなります。
p.221 最後から4行目に「デビッドカード」という表記が現れます。浅川氏の『グローバル化時代の資産運用』
2008.4.23 http://otsu.seesaa.net/article/94387357.html
でも、この表記が現れましたから、著者の信念かもしれません。(ただし、p.211 2行目には「デビットカード」という正しい表記が現れます。)
全体におもしろい本でした。中国を中心にして、世界経済の動きをまとめて述べたといった本でしょう。
まさに著者の識見が現れるところであり、幅広く海外投資を実践している著者ならではの1冊だといっていいのではないでしょうか。
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