全体は30章からなり、確率論や企業の成長など、投資に関連するような話題がいろいろ書いてあります。
……というようなことでこの記事を書こうと思ったのですが、残念ながら、そういう面は少なく、実に多様な方面の科学全般の話が語られます。アリや野球やカジノの話など、すべて一貫したとらえ方がなされており、おもしろいと言えばおもしろいし、身近な話題を扱っていると言えばその通りなのですが、乙はやや不満を感じました。全体で 240 ページほどの本ですから、各章8ページということになります。それぞれの話題がやや突っ込み不足の感は否めません。実のところ、乙は読み通すことができず、途中から飛ばし飛ばし読むことにしました。したがって、今回の記事は、必ずしも正鵠を射るものではありません。(そんなことを言ったら、今までに乙が書いた「投資関連本」のカテゴリーの記事全部が正鵠を射ていないと言われそうですが……。)
乙が、投資に関連しておもしろいと思ったところもいくつかあります。
第16章は、「成長のS字カーブ」です。
p.134 企業の成長はS字カーブでモデル化することができるという話です。そして、人々は、しばしば企業の成長がどの段階であるかをきちんと見分けられず、間違った認識のもとに投資を行ってしまうとしています。なるほど、投資家の陥りやすい失敗例を描いているように思います。
pp.135-136 新しい会社は、投資家にしばしば高いトータルリターンをもたらしますが、それは新規参入から5年程度の話であり、その後はだんだん平均並みになるということです。シーゲルの「成長の罠」
2008.4.7 http://otsu.seesaa.net/article/92505039.html
がこうして形成されるのだなあと思いました。
p.137 S字カーブが頂点を迎えると、その先にはしばしば失速点が位置するとのことです。企業の成長をうまく模式化しています。
第20章は「予測は不運の始まり」という題ですが、副題の「株価収益率を使用することの愚かさ」のほうがインパクトがあるでしょう。株価収益率とは、PER のことですが、それを単純に信じて投資してはいけないことが示されます。PER が「役に立たない」と断言されているだけで「おもしろい!」と思う人もいるでしょう。
第26章は「異常値を利用する」で、株価は正規分布を示すわけではなく、しばしばフラクタルでモデル化されるとのことです。これまたおもしろい話でした。
というわけで、投資に直接関連する話もあることはあるのです。その意味では読んで損はないでしょう。しかし、そういうことは、実は、本書末尾の pp.268-271 の「監訳者あとがき」の4ページ分を読めば、見事に要約されています。最初に気が付けば、ここだけ読んで終わりにしても良かったと悔やまれました。
著者の博識ぶりは、それはそれは見事なものです。各章ごとに大量の参考文献がリストアップされていて、いかにも研究者が書いた本だと思わせます。内容も、間違ってことを言っているとは思いません。しかし、「投資」という面から見ると、今ひとつ、間接的な話が多く、あまり心に響きませんでした。
ラベル:マイケル・J・モーブッシン 投資の科学
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