第1章「日本の財政問題が解決不可能である理由」では、日本の莫大な借金は解決不可能な段階まで進んでしまったという現状認識が語られます。社会保障費が増大する一方で、少子高齢化が進み、もうどうしようもない段階になったというわけです。乙も基本的に同じ認識を持っています。納得しながら読み進めました。
第2章「財政破綻の想定シナリオ」では、国債が売られたりして金利が上昇することから財政破綻が始まります。そして、ハイパーインフレが発生するというシナリオが描かれます。乙もこのシナリオと同様のことを考えていました。
第3章「日本の財政破綻に備え、どう対策したらいいか」では、さまざまな金融商品を一通り並べ、それが財政破綻時にどんな影響を受けるかを論じています。結論として、外貨預金、金(ゴールド)、FX、ビットコインの四つを推奨しています。まあそうかもしれないけれど、一方では財政破綻がいつ起こるかわからないわけです。そんな場合に、あるとき、それーっとばかりにこの四つに資金を移動するなどということができるのでしょうか。しかも、FXはレバレッジが効いています。財政破綻だからといって資金をFXに移動するようなことをすると、思ったように円安が進まず、ちょっとした何かで一時的な円高になったりしたときに、失敗してしまう可能性もあります。というわけで、乙は、著者の香川氏の意見を参考にしつつ、各自の保有資産をながめて、それぞれで対策を講じるべきだろうと思います。ここは投資リテラシーが求められるところであり、それはそう簡単な話ではありません。
第4章「いざというときに機動的に動けるよう、今やっておくべきこと」では3章の対策の準備段階を解説します。外貨預金のためにアメリカの銀行の口座を開設しておくというようなことです。具体的に説明しているので、この方面の知識がない人には有用だろうと思います。乙は、この部分は各自が努力して、それぞれの保有資産に応じて、機動的に動けるようにしておくべきだと思います。したがって、あまり有用な記述だとも思えませんでした。
何はともあれ、これから財政破綻が現実的になります。あと数年かもしれないし、20年かもしれません。もっと先かもしれません。しかし、確実にやってくると思われます。
本書は、そういう問題を身近に考え、対策を実行するのに便利な内容を含んでいると思われます。
2箇所、小さな問題点を書いておきます。いずれも p.28 です。
(1)10行目
「医療だったら、本来かかる金額の7割以上は政府が補助しています。」
こういう書き方をすると、自分で払う3割(以下)以外は政府が払っているように読めてしまいます。正しくは、p.42 にあるように、健康保険が払っているわけです。まあ健康保険が年金特別会計の中にあって、全体として政府が管理しているし、7割の部分について政府が関与している(そしてその一部を補助している)といえば関与している(補助している)のですが、7割を政府が払っているわけではないので、誤解を招く言い方だと思います。
(2)終わりから3行目
政府が年金や医療介護などのお金を税金や保険料、国債発行で集めていると述べた後のところです。
「これらをおもに払っているのは、働き盛りの人や子育て世代などの現役世代や、まだ生まれていない人たちなどです。」
まだ生まれていない人たちは、まだ払っていません。生まれた後に約20年以上経って、働くようになってから、払うことになる予定なのであって、現在は払っていません。勢いで書いたミスかもしれません。
乙は、本書をいろいろな人におすすめしたいと思います。しかし、最初にこれ1冊を読んで、問題を理解し、対策を実行できるような人はいるでしょうか。たいていの人は戸惑いながら大波に呑まれてしまうことになるでしょう。
本書のタイトルは変です。編集者が付けたのでしょうが、「10万円からできる」は、本来のあり方ではありません。本書中に書かれているように、10万円でもFXを使って財政破綻対策は可能だという意味では間違っていないのですが、貯金が10万円しかない人は、対策をしてもしなくても、大した違いはありません。本当に対策が必要な人は、数百万円ないし数千万円以上の資産を持っている人ということになるでしょう。もしも、日本の銀行の預金口座に全額を蓄えている(それしかしていない)人がいたら、そういう人こそ本書を読んで準備を進めるべきです。