2017年06月25日

香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房

 乙が読んだ本です。全部で4章構成です。
 第1章「日本の財政問題が解決不可能である理由」では、日本の莫大な借金は解決不可能な段階まで進んでしまったという現状認識が語られます。社会保障費が増大する一方で、少子高齢化が進み、もうどうしようもない段階になったというわけです。乙も基本的に同じ認識を持っています。納得しながら読み進めました。
 第2章「財政破綻の想定シナリオ」では、国債が売られたりして金利が上昇することから財政破綻が始まります。そして、ハイパーインフレが発生するというシナリオが描かれます。乙もこのシナリオと同様のことを考えていました。
 第3章「日本の財政破綻に備え、どう対策したらいいか」では、さまざまな金融商品を一通り並べ、それが財政破綻時にどんな影響を受けるかを論じています。結論として、外貨預金、金(ゴールド)、FX、ビットコインの四つを推奨しています。まあそうかもしれないけれど、一方では財政破綻がいつ起こるかわからないわけです。そんな場合に、あるとき、それーっとばかりにこの四つに資金を移動するなどということができるのでしょうか。しかも、FXはレバレッジが効いています。財政破綻だからといって資金をFXに移動するようなことをすると、思ったように円安が進まず、ちょっとした何かで一時的な円高になったりしたときに、失敗してしまう可能性もあります。というわけで、乙は、著者の香川氏の意見を参考にしつつ、各自の保有資産をながめて、それぞれで対策を講じるべきだろうと思います。ここは投資リテラシーが求められるところであり、それはそう簡単な話ではありません。
 第4章「いざというときに機動的に動けるよう、今やっておくべきこと」では3章の対策の準備段階を解説します。外貨預金のためにアメリカの銀行の口座を開設しておくというようなことです。具体的に説明しているので、この方面の知識がない人には有用だろうと思います。乙は、この部分は各自が努力して、それぞれの保有資産に応じて、機動的に動けるようにしておくべきだと思います。したがって、あまり有用な記述だとも思えませんでした。
 何はともあれ、これから財政破綻が現実的になります。あと数年かもしれないし、20年かもしれません。もっと先かもしれません。しかし、確実にやってくると思われます。
 本書は、そういう問題を身近に考え、対策を実行するのに便利な内容を含んでいると思われます。
 2箇所、小さな問題点を書いておきます。いずれも p.28 です。
(1)10行目
「医療だったら、本来かかる金額の7割以上は政府が補助しています。」
 こういう書き方をすると、自分で払う3割(以下)以外は政府が払っているように読めてしまいます。正しくは、p.42 にあるように、健康保険が払っているわけです。まあ健康保険が年金特別会計の中にあって、全体として政府が管理しているし、7割の部分について政府が関与している(そしてその一部を補助している)といえば関与している(補助している)のですが、7割を政府が払っているわけではないので、誤解を招く言い方だと思います。

(2)終わりから3行目
 政府が年金や医療介護などのお金を税金や保険料、国債発行で集めていると述べた後のところです。
「これらをおもに払っているのは、働き盛りの人や子育て世代などの現役世代や、まだ生まれていない人たちなどです。」
 まだ生まれていない人たちは、まだ払っていません。生まれた後に約20年以上経って、働くようになってから、払うことになる予定なのであって、現在は払っていません。勢いで書いたミスかもしれません。

 乙は、本書をいろいろな人におすすめしたいと思います。しかし、最初にこれ1冊を読んで、問題を理解し、対策を実行できるような人はいるでしょうか。たいていの人は戸惑いながら大波に呑まれてしまうことになるでしょう。
 本書のタイトルは変です。編集者が付けたのでしょうが、「10万円からできる」は、本来のあり方ではありません。本書中に書かれているように、10万円でもFXを使って財政破綻対策は可能だという意味では間違っていないのですが、貯金が10万円しかない人は、対策をしてもしなくても、大した違いはありません。本当に対策が必要な人は、数百万円ないし数千万円以上の資産を持っている人ということになるでしょう。もしも、日本の銀行の預金口座に全額を蓄えている(それしかしていない)人がいたら、そういう人こそ本書を読んで準備を進めるべきです。


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2017年06月16日

大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社

 乙が読んだ本です。「45歳から始める「金持ち老後」入門!」という副題が付いています。
 通読した実感として、副題のほうが本書の内容を的確に表現していると思います。
 本書の内容を単純にいうと、働けるだけ働こうよということで、割と簡単にまとめられるように思います。(ちょっと簡単にまとめすぎで、実際はもっといろいろ書いてあります。)
 図表がたくさん入っていますが、本文と重なる記述を表の形式にしたものも多く、ページ数の割にはさっと読めてしまいます。シンプルな指南書で、さらっと書いてある感じです。二人の著者のトークセッションということで対談の文字化のような部分もあります。
 というわけで、乙としてはすでに知っていることも多く、一読した感想として、得るところはあまり多くないように思いました。
 ただし、45歳くらいの人で、老後や年金などのことを考えたことのない人には意味があるかもしれません。気をつけるべきことは何か、きちんと書いてあるように思います。しかし、そういう中年層は仕事に夢中で、こういう本を読むことなんて考えないのですね。もっと切羽詰まってから読むものでしょう。そのときにはすでに時遅しという場合も多いように感じています。
 乙は、もう少し投資のことが書いてあるのかと思っていましたが、ほぼ何も記述されていません。45歳から投資を始めるとしても15年(以上)あると考えられますので、少しはその方向も意識した方がいいと思いますが、どうなのでしょうか。

参考記事:
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-3175.html


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2016年06月27日

天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「国際金融市場とソブリンリスク」という副題が付いています。
 乙は題名に引かれて読んだのですが、実際の内容は副題のほうがよく示しています。特に第1章から第5章まではまさに「国際金融市場とソブリンリスク」と関連する視点から日本の財政を論述しているといえます。
 もしかすると、本書の題名は編集者がつけたものかもしれません。
 乙は、日本の財政破綻が心配なわけですが、それに関する話は、最後の3章に出てきます。
 第6章「誰が国債を保有しているのか」では、日本の銀行や保険会社、年金、日本銀行が大量に国債を保有していることを述べています。これは、銀行や保険会社の判断でそうなったわけではなく、国際的な規制や日本でいうと金融庁などの規制のためでもあるとのことです。金融機関は、ある一定程度の割合でリスクなし資産を保有していなければならず、そのためにはリスクフリーとみなされる国債が一番都合がいいということです。
 第7章「政府債務残高はなぜ増加したか」も重要な話です。日本の基礎的財政収支の悪化がひどいわけですが、そうなった理由の一つはバブル崩壊後の裁量的な減税政策にあるとのことです。また、社会保障費が増え続けていることも大きな影響を与えています。乙は減税が大きく響いているという意識はなかったので、おもしろく思いました。
 終章「外国投資家に財政赤字の穴埋めを頼るとき、財政破綻が訪れる」では、どのように財政破綻が起こるかを略述しています。政府債務残高が民間の金融資産残高を上回るタイミングは 2025 年ありはそれよりも早い時期だという話で、残された時間は余りありません。
 今の政治家たちの主張を聞いていると、一方では増税をせずに、他方では金を多方面にあれこればらまいているようです。これでは、政府の債務残高が減少するはずがありません。こういう事態に対して、個人ができることはあまりにも少ないように思います。
 乙としては、淡々と投資を続けるだけですが、一方では、不測の事態にも対処できるよう、注意しておきたいと思います。
 本書を通読してみると、なんだか、何となくどこかで読んで知っているようなことが多いような印象を受けました。乙がさまざま読んできた投資関連本のどこにそういうことが書いてあったかを思い出すことは不可能です。しかし、本書を読みながらどうも既読感がぬぐえませんでした。
 本書は国債に関連する基礎的な知識を解説してると位置づければいいのでしょう。


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2016年06月06日

安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 2016』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 旧版、安間伸(2003.5)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編』東洋経済新報社
2006.9.28 http://otsu.seesaa.net/article/24543877.html
の改訂版ということのようです。
 とはいえ、内容はずいぶん違ったものになっています。なぜなら、この間の日本の税制の変化がそれだけ大きかったということなのでしょう。
 一読してみると、2016 年からの税制の変化に対応しています。2015年末までにやっておかなければならないことなども記述されています。ということは、11月に刊行された本書を買い、読み、1ヶ月の間に債券を売却するようなことを行うというわけです。実際上かなりむずかしいことだろうと思います。
 記述はかなりくわしく、読んでいて学べることがたくさんありました。役に立つ本だと思います。しかし、ある意味でかなり短期的な視野で書かれているように思えます。数年後にはこれらの知識が古くなっているかもしれません。そのときはそのときで他の本を読めばいいのでしょうか。
 それよりも、もう少し長い視野で投資を考えるほうがいいのではないでしょうか。
 たとえば、現時点で雑所得と譲渡所得を比べたり、源泉分離課税の損得を考えるよりも、10年先、30年先はどうなっているか、それに対応する話が必要なように思います。もちろん、30年後には日本の税制なりなんなりが変わっているはずですから、それを見通して書くなんてことは不可能です。しかし、考え方は一貫したものがあるはずです。現状はこれこれの方針がよい。しかし、こんなふうに税制が変わるなら、こちらの手段を考えるようにするとよいというような書き方は可能ではないかと思います。こういう書き方はそんなにむずかしいのでしょうか。
 乙は、単行本でありながら、とても短い視野で書かれていることが一番の驚きでした。


ラベル:安間伸 投資 税金
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2016年01月03日

橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎

 乙が読んだ本です。
 「知的人生設計のすすめ」という副題が付いています。本書は、橘玲(2002.12)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』幻冬舎
2006.7.16 http://otsu.seesaa.net/article/20844064.html
を改訂したものです。
 旧版を読んだものからすれば、橘氏の考えが全面的に変わるわけもないですから、改訂版を読まなくてもいいし、まだ読んだことのない人は改訂版を読めばいいということになります。
 乙は旧版を読んでいたので、第0章「「黄金の羽根」ができるまで」がおもしろかったです。なぜ旧版ができた(橘氏が執筆することになった)のか、裏話的に書いています。
 ざっと一通り読みましたが、日本社会のゆがみを徹底的に利用しようとすると、こういう話になるのだなあというあたりが感想です。
 自分の生き方を考えてみるきっかけにはなると思いますが、乙のように普通に働いて給料をもらうサラリーマンでは、橘氏のマネをすることもできず、不自由な身の上を嘆くことしかできないように思います。
 学生時代にこういう本を読んでいたら、その後の人生、働き方が変わったかもしれませんが、今となっては遅すぎます。


ラベル:橘玲
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2015年03月05日

橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋

 乙が読んだ本です。
 乙は、橘玲氏の著書は何冊も読んできましたので、今回も楽しみにしていました。
 しかし、一読した結果、かなり残念に思いました。すでに書かれている内容と重なる部分が多く、新鮮みがないように思ったのです。
 新書ですから、それでいいのかもしれません。特に、若い人などには、こういう薄い本で気軽にさっと読めるものを推薦し、実際に読んでもらうといいでしょう。
 しかし、いろいろな本を読んできた人間にとっては、似たような話のくり返しになるので、あまり読まなくてもいい本ということになります。
 こういう投資本が新書になる時代がやってきたのですね。昔では考えられなかったことです。


ラベル:橘玲
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2014年05月12日

ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できないのか』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「寓話で学ぶ経済の仕組み」という副題が付いています。
 3人が魚を捕って(それをそのまま食べて)暮らしているという設定で物語が始まります。それから、新しい網を作って、たくさんの魚を捕まえて、それを分配したり、「魚紙幣」を作ったりしていきます。現実のアメリカ経済を元にした寓話であることがわかります。
 マンガなども多く、その点では読みやすい本だと思います。
 しかし、このタイトルは何でしょうか。本の内容とかなりずれています。原題は「How an economy grows and why it crashes」です。原題ならばわかりやすいし、書かれている内容を一言で表しているという意味で、とてもいい題目です。なぜこれが「なぜ政府は信頼できないのか」になるのでしょう。副題をメインタイトルにしていたら、少しはマシだったと思います。
 この結果、乙にとっては、期待した内容と違ったことが書かれている本だということになりました。
 題名の翻訳はむずかしいものですが、それにしても、今の題名の翻訳は、読者に悪い先入観を与えてしまうことがある点で、より望ましい題名にしてもらいたかったと思います。
 寓話で経済の仕組みを説明するという試みはうまくいったといえるでしょうか。
 乙の感覚では、「成功した」とはいいにくいように思います。
 たとえば「魚は(時間が経っても)腐らない」ということになっています。金本位制を魚で説明しているのですが、現実の魚は腐らないはずがありません。その点だけでも金本位制を説明するのに不適切なたとえだと思います。
 マンガもあるので、1冊を通読するのはむずかしくありません。すうっと読んでいけます。しかし、どうも頭に残りにくいように思います。
 乙は図書館で借りて読んだのですが、自分で買わなくてよかったと思いました。


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2013年12月16日

小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「日本経済を追い込む国債暴落シナリオ」という副題が付いています。
 題名からして、国債がこれから暴落するという話かと思いましたが、必ずしもそうではありません。今が国債のバブルだ、したがって価格が高すぎる、金利が低すぎるということを述べていますが、それは、必ずしも国債が暴落するというわけではないのです。今のままの状態がずっと続いて、日本経済が安楽死する可能性もあるというわけです。
 乙は、日本の国債には投資していませんが、投資してもしなくても、国債の金利がどういう傾向にあるかは把握しておく必要があると思っています。その意味では、小幡氏の分析は興味深いものでした。
 やはり、国債の金利の動きは、過去20年以上にわたっておかしいとしかいいようがありません。こんなに低金利が長く続いていることは、何とも納得できません。しかし、現実にそうなっているわけで、であれば、現実をどう考えるべきかという問題になります。
 たいていの人は、だからこれから国債が暴落するのだということで不安を募らせて終わりになるでしょう。
 今までずっと国債暴落説が言われ続け、一部のヘッジファンドがそれに賭けて資金を投入し、失敗して撤退したということが続いてきました。国債が暴落することがなかったのです。
 小幡氏の分析は、国債がバブル状態にあるということです。なぜそうなるのかは、本書中で説明されています。日本国内の機関投資家の考え方やその投資行動を丁寧に説明していきます。
 本書を一読すると、日本国債はこのままかなあと思えてきます。
 国債の暴落もあり得るけれど、それ以上に、国債の額が大きすぎて、日本の各種資金が国債に吸い寄せられ、企業活動などに有効に使われることなく、日本経済が安楽死するというのが一番ありそうな未来像でしょう。
 黒田日銀総裁の金融政策は異次元の緩和というものです。本書はその政策が発表され、実行に移された直後に刊行されています。黒田総裁のやり方に大きな疑問を投げかける立場です。さて、これからどうなっていくのでしょうか。
 本書は、今の日本の置かれた状況を、国債を通して眺めるというものです。今の日本という国を理解するために、興味深い1冊でした。


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2013年09月22日

吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社

 乙が読んだ本です。とてもわかりやすい本です。
 日本は賃金デフレの状態にあるから、低所得者層の賃金を上げて、賃金格差を小さくし、これによって景気を回復させようという主張です。
 図表が多用されます。巻末の図表目次によれば68枚あります。データを示して、それに基づいて議論するというのはわかりやすいし、説得力があります。
 日本社会の問題点と景気を回復させようという話がリンクして、全体として首肯できる提言だと思いました。
 日本社会の問題点とは何か。「男・大・正・長」と「女・小・非・短」の間の格差です。前者は、「男性、大企業、正社員、長期就労者つまり中高年層」で、and (論理積)でとらえます。この人は高い給与をもらっています。一方、後者は「女性、小企業、非正規社員、短期就労者つまり若者」で、or (論理和)で考えます。どれかにあてはまると低い給与しかもらえないということです。両者の間の格差が大きいことが問題ということになります。
 乙の感覚では、これをなくせば景気が回復するという主張は正しいと思われますが、しかし、一方では、高い給与をもらっている人たちが収入が多いわけで、そういう人たちがある種のパワーを持っている以上、日本のあり方を変えていくのはきわめて困難だろうと思います。

 著者の吉本氏の主張を手っ取り早く理解するためには、第5章を読めばいいでしょう。
 なお、第6章は、人口を都市部に集めて地価を上昇させ、押しくらまんじゅう政策で日本を暖めるという話になります。これまたおもしろいと思いました。ただし、こちらも、地方が1票の格差ということである種のパワーを持っている以上、なかなか変えられないだろうと思われます。
 本書を一読して、著者はとてもいいことをいっていると思うのですが、「わかっちゃいるけどやめられない」が現状なんですね。
 さて、どうしたらいいのでしょうか。


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2013年08月03日

川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「やがて中国の失速がはじまる」という副題が付いています。
 本書は中国経済をどう見るかを論じたものです。グラフや表がふんだんに使われ、それらに基づいた考察がなされるという論述スタイルで、信頼感があります。
 序章では「奇跡の成長とバブル」ということで、中国の現状を短く表現しています。奇跡の成長を遂げたけれども、今はバブルだというわけです。
 第1章「急速に少子高齢化する中国」では、一人っ子政策による中国の年齢別人口構成を見ていきます。中国は日本の25年遅れの状態だということです。バブルも25年遅れといえるのでしょうか。
 第2章「中国はごく普通の開発途上国」では、投資額が異常に多い中国の変な仕組みを論じます。いずれにせよ中国を「開発途上国」とみれば、不思議ではないのかもしれません。
 第3章「成長から取り残される農民」では、農民の貧しさを描きます。いろいろな統計資料を駆使して、中国政府が公表したくないところまで何とか探ろうとしています。これだけでも、中国がいかにいびつかが納得できます。
 第4章「都市住民は豊かになったのか」では、都市の生活に焦点を当てます。すると、統計資料からでは、クルマを買ったり住宅を買ったりすることは困難のように思えるけれど、現実には売れているわけで、どうも、公の統計資料に現れない裏金(役人の賄賂など)がけっこうな量に達しているようだということになります。
 第5章「中国解剖図」では、なぜ中国が奇跡の成長を遂げられたのか、その裏技を描きます。わかってしまうと、なあんだという感じになりますが、ここで描かれているような汚職が全国的に蔓延しているとしたら、中国人は幸せになれないような気がします。
 第6章「中国共産党と国家」では、具体的な人数の推定を入れながら、共産党がどのように中国の支配者となっているかを描きます。
 第7章「中国の「失われた20年」が始まった」では、無人マンションとかのバブルの影響を描きます。中国は、内需だけでは成長できないのですね。いよいよこれから問題が噴出するようです。
 第8章「日本への影響」では、中国と貿易の比率が高い日本が中国のバブル崩壊によってどんな影響があるかを描きます。

 一読して、中国の全体を把握できたように思います。投資家としては、こういう中国に関わり合いたくない気分にもなりますが、まあ、資金の一部は中国に突っ込んでおいたほうがいいのでしょうね。バブルが崩壊しない可能性もゼロではないわけですから。


ラベル:川島博之 中国
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2013年06月23日

吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社

 乙が読んだ本です。
 今の日本では常識とされていることで、どうにもおかしいことがあるということで、グラフなどを多用して「奇妙な常識」に反論していきます。
 書かれてあることには賛成ですが、どうにも説明が長かったりして、くどさや読みにくさを感じてしまいました。吉本さん、ごめんなさい。
 乙が本書で一番おもしろいと思ったのは、第5章(pp.235-)の復興国債の話です。福島の原発事故に関わる「復興」は、どのようにするべきかをめぐって議論が続き、なかなか復興が進まないわけですが、それをお金の面から促進しようという発想です。普通の10年ものの変動金利の個人向け国債よりも少しだけ高い金利で個人に対して発行する国債です。中途換金時には金融機関に売却できるということにします。
 このアイディアがどういうものであるか、投資家・国・金融機関・被災者にとってどんなメリットがあるのかは本書を読んでいただくとして、こういうアイディアがあるということだけでも、うれしい話でした。
 乙はこのアイディアを本書で読んでびっくりしたわけですが、こういう話は国レベルでは全然検討もされないようです。残念なことです。
 もう一つ、pp.245- ですが、日本が財政破綻したとき、どうするべきかを事前にきちんと検討しておくという話です。とても大事なことです。財政破綻するかもしれないけれど、しないかもしれません。しかし、万が一財政破綻したら、そのときになってからあれこれを短期間に(泥縄式に)決めるのでなく、事前に決めて国民に知らせておくというのは望ましいことだと思います。政治家の数を半分にするとか、公務員の数をここまで削減するとかいうことです。
 今は、財政破綻しないことを前提に、何も決めていないわけですが、それでは、現在大学を出て公務員になる人は、公務員がクビになる可能性なんて考えもしないことになります。しかし、事前にそういうことがあると決めてあれば、その覚悟で就職活動をするでしょう。どんな破綻処理をするのかを各党が提案して、選挙の公約に掲げるなどというのは、興味深い話でした。
 本書の主要な内容でないところでコメントしました。
 重ね重ね、失礼しました。


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2013年05月11日

野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。
 タイトルにひかれて読みました。
 本書は、ダイヤモンド・オンラインの2012年に連載した「経済大転換論」を編集したものです。
 図表をふんだんに掲載し、しっかりした記述になっています。
 著者が言いたいことは3点です。
(1) これまでの金融緩和策は実体経済を活性化できなかった
(2) 日銀引き受けで国債を発行すればインフレになる
(3) 日本経済活性化は構造改革によってしか実現できない
 これらのことを具体的な資料に基づきながら緻密に論証していきます。一読すると、野口流の考え方に染まってしまいそうです。(それでいいと思いますが。)
 では、タイトルとの関連はどうなっているのでしょうか。
 p.239 に結論が書いてあります。日銀の消費者物価上昇率2%の目標は達成できないということです。では、なぜこんな目標を掲げるのか。野口氏によれば、「金融緩和の本当の目的は、物価上昇率を引き上げることでもなく、経済を活性化することでもなく、日銀が国債を購入することなのだ。」というわけです。
 乙は、これを読んで、すとんと腑に落ちました。そうか、こういうことだったのか。
 こうして、日銀が国債を引き受けることでインフレと円安が起こり、資本逃避が起こるということです。
 これが第9章「財政赤字と金融緩和で国家は破綻する」の結論です。
 今のままでいけば、日本はこうなるだろうという予測です。これを変えることができるでしょうか。今の政治家たちを見ていると、到底不可能なように思えます。投資家としては、インフレ・円安・資本逃避に備えるしかないようです。


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2013年04月27日

吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社

 乙が読んだ本です。「金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと」という副題が付いています。
 副題に引かれて、読み始めましたが、中身はマネー入門ということで、まさに「マネー」とは何かを論じています。歴史的な観点も入っており、世界のあちこちの実例を取り上げつつ、多面的にマネーを見ていきます。
 第6章「21世紀の新しいマネー 巨大デリバティブはどこへ向かうのか?」では、デリバティブを「新しいマネー」ととらえている点がおもしろかったです。デリバティブは新しいマネーなんですね。確かに、そういわれればそうも見えます。それを作り出すことができたアメリカは、ある時期だけ見れば、無から有を作り出したことと同じで、金融で大儲けをしたといえそうです。
 第7章「われわれのお金はどこへ、どう流れているか」は、資金循環表などを用いて個々人のマネーが全体としてどんな動きになっているかを述べます。日本の財政破産の問題も扱われますが、たとえば、約30%ご破算になる程度のことであり、若い人にとってはむしろ希望を与えることかもしれないと述べています。マクロに見ればそういうことかもしれません。30%のご破算というと、あまり大きな問題ではないような気がしてきました。だって、株価が下落すれば資産の30%くらいは吹っ飛んでしまうことがあるでしょう。その程度のことで日本が再生するなら、一度財政破産をやってみてもいいかなと思います。
 ともあれ、本書を読んで「マネー」について、改めて考え直すきっかけになった気分です。
 投資家は、どんなことがあろうとも、最善の道を進まなければなりません。本書は、そういうことを考えるための基礎知識が得られるといったところでしょうか。


ラベル:マネー
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2012年09月17日

午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版

 乙が読んだ本です。「この国はあなたの資産を守ってくれない」という副題が付いています。
 タイトルを見たとき、日本を脱出して、海外で生活するための本かと思いました。
 読み終わってみると、まあ、そういう話も出ては来ますが、本書のごく一部でしかありません。p.170 あたりにマレーシアへの脱出が出てくる程度で、あとは、必ずしも海外への脱出の話ではありません。期待して読んだ乙の失敗でした。
 230 ページほどの本ですが、投資の本としても、あまり参考になる話は出てきません。
 目次を見るとわかるように、多種多様なことが述べられていますが、それぞれが1〜2ページで論じられており、これでは、なぜそう考えるのか、根拠を示すところまでは行きません。したがって、全体として著者の主張が書かれていても、それぞれが掘り下げられていないのです。
 何というか、消化不良のような感想を持ちました。


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2012年09月05日

ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫

 乙が読んだ本です。「擁護できないものを擁護する」という副題が付いています。
 文庫本ですが、もともとは『不道徳教育』という題だったとのことです。原書は 1976 年の出版だそうですが、いい本はいつまでもいい本だと思います。
 本書は、橘玲氏の訳で、例などが日本で該当するものに置き換えられており、とても読みやすくなっています。
 基本的にはリバタリアニズムの立場から、一般には「不道徳なもの」(=擁護できないもの)をそんなに悪くないものだとしています。見方の転換があり、とてもおもしろく読めます。
 では、どんなものが擁護できないものでしょうか。
 目次を見れば一目瞭然です。売春婦、ポン引き、女性差別主義者、麻薬密売人、シャブ中、恐喝者、……。
 これらを擁護する議論ですから、一般にはとても受け入れられないと言われるでしょう。でも、本書を一読すると、なんだか擁護してもいいような気分になるので、そこがおもしろいと思えます。たとえば、売春婦の場合だって、客との間で合意して自由意思で契約し、セックスを提供してお金をもらっているわけで、その過程で何も悪いこと(殺人など他人に迷惑をかけること)をしていないということになるわけです。
 なお、p.11 から訳者の橘玲氏の手で「はじめてのリバタリアニズム」という解説があります。本文を読む前に、ピッタリの解説です。その中で、p.39 あたりですが、アフリカの貧困者に食料や衣類を援助することはよくないという議論が出てきます。たとえば、トウモロコシを送っても、それらは旱魃の被災地には届かず、政治家の選挙区や闇市に流れ、さらには、無料の農産物の大量流入で、現地の農業を破壊してしまうというのです。衣類の援助でも、現地の軽工業にダメージを与えているという話で、乙は、こんな見方を知りませんでしたから、かなりショックを受けました。
 小さなミスですが、p.110 には、ある発明によって、労働時間が半分になれば余暇が2倍になると書いてあります。これは間違いです。余暇が労働時間の半分であれば、たとえば、余暇が4時間で労働時間が8時間であれば、労働が半分の4時間になると余暇が8時間になるので、余暇が2倍になりますが、それ以外では違ってしまいます。
 暇つぶしに読んでみてもいいと思います。


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2012年07月29日

内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房

 乙が読んだ本です。表紙には「55 Things You Didn't Know About Money」という英語の題名もついています。「Didn't」や「About」は、一般に大文字で書き始めることはないと思われますが、まあ、そんなことはいいでしょう。
 本書は全体が七つの「Step」に分かれ、それぞれが 7,8,6,5,8,10,5 の項目に分かれています。足し算すると、おや、49 個になります。おっと、コラムが六つありますので、それを足すと 55 個になります。
 本書を読んで、どうだったか。乙はひとことでいうと、不満でした。述べてあることは間違いではありません。しかし、そのようなモットーのようなものを書き連ねても、当たり前であり、おもしろくも何ともありません。
 たとえば、Step 1 の@は「お金をほったらかしにしない」です。当然です。ということは、記述の中にいかに具体例を盛り込み、モットーではなく、例に基づいて話ができるかというあたりが書き方のポイントになりそうですが、そこのところが全般に弱く、読んでいて「なるほど!」と思う部分はあまりありませんでした。説得力という点ではイマイチだったように思います。
 もっともだと思いながら、完全に同意できなかったこととしては p.64- の「有名なお店には行かない――同じときに同じことをするのは損――」というのがありました。ゴールデンウィークに海外旅行に行ったり、お盆になると帰省するというようなことは、お金の面でいえば損なのはわかっています。しかし、やっぱりその時期でないとできないことはあるのです。仕事を持っていれば、好きなときに海外旅行というわけにも行きません。仕事がない時期をねらうと、ゴールデンウィークに海外旅行というのは、しかたがないのです。損なことはわかっていても、そうするしかないという感覚でしょうか。
 乙も、退職したら、平日に海外旅行を楽しみたいと思っていますが、そうなるまでは「わかっていてもやめられない」だろうと思います。
 本書を読むなら、若い人でしょう。あまりお金について考えていない人は、こういう本を読んで考え方のポイントを押さえることも大事だと思います。


ラベル:内藤忍
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2012年06月10日

瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ

 乙が読んだ本です。「熟年日本男性のタイ・カンボジア移住事情」という副題が付いています。
 タイが中心でカンボジアも1割くらい記述されています。
 日本人男子高齢者がタイやカンボジアに移住(ないしロングステイ)していますが、そういう人たちが経験したさまざまなことを描いています。
 著者は映像ジャーナリストということで、多数の日本人にインタビューし、それをまとめて1冊にしています。
 出てくる話は、若い女性との恋愛・結婚、あるいは破局や詐欺が多く、次に、ビジネスをしていく上で騙された話もたくさんあります。
 個々のケースについて具体的に書いてあります。
 しかし、エピソードがあまりに多いので、読み進めるうちに、いくつかの話がこんがらがってしまうような感覚になりました。
 日本で結婚しなかった(できなかった)高齢男性が、タイで若い女性を得て幸せに暮らしている例もあるわけですが、彼女らが巧みに日本語を話すのは、そうすることで彼女らの(さらにはその親や親戚などの)生活が成り立っているからです。つまり、日本人高齢者は、どうみてもネギをしょったカモなのです。「財布がもてている」のが現実なのです。日本では普通の金額にあたるようなものでも、現地では相当な額になるので、それをねらう人々が活躍するわけです。厚生年金をもらっているような人もねらい目です。結婚して、先に男性が死ねば、その後、女性は遺族年金で暮らしていけばいいわけで、一生安泰です。そういう知識は現地の女性たちに行き渡っています。
 結婚・恋愛も、金とつながっています。儲け話に騙されるのも同根の話です。
 そんなわけで、やはり、アジアで暮らしていくのもなかなかむずかしいものだということになります。
 自分はどんな人生を送っていきたいのか、考えさせられる本でした。
 乙は、まだ年金をもらうような歳ではありませんが、本書に出てくる人たちの考え方がわかるような気がします。
 本書は、「定年後は海外でロングステイを」と考えている人には必読書になるでしょう。


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2012年06月09日

増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス

 乙が読んだ本です。
 一口で言うと、世界の経済を概観する本です。
 第1章は「全米市民もようやく目覚めたのか アメリカは財務省。ウォール街複合体に潰される!?」です。アメリカはいよいよ格差が大きくなっており、中間層が没落し、一部の人たちが富を独占し、多くの人たちが貧困にあえいでいる国です。それを具体的に記述します。
 第2章は「アメリカの金権社会は、荒療治でしか直せない」です。金融業界がいかに腐ってしまっているか、綿密に描きます。
 第3章は「悪夢と化したアメリカン・ドリームとこれから隆盛するジャパニーズ・ドリーム」です。平均寿命、エネルギー、ドル安政策、米国債など、マクロな目でアメリカ社会を見ていきます。著者によれば、アメリカは、あちこちに問題点大あり社会ということになります。
 第4章は「ほんとうに危ないのはドイツとイギリス 復活は永遠にありえないユーロ経済の真実」です。この章では、ギリシャ危機をはじめ、スペイン、イタリアの問題を取り上げ、フランス国債の下落の問題も扱います。そして、各国の抱える問題と、それが影響するドイツ・イギリスを取り上げ、ユーロ圏はどこもかしこも危機であり、もうどうしようもないとしています。
 第5章は「明らかに変調する中国 崩壊へのカウントダウンはすでに始まっている!」です。リーマンショック以来、中国経済がおかしくなっているというのです。共産党内部の問題、為替政策、外交や軍事の問題まで幅広く取り上げ、めちゃくちゃぶりを描きます。
 こうして、アメリカも、ヨーロッパも、中国も、問題を抱えて、どうしようもないという現状を述べた後、第5章「なぜかマスメディアは絶対報道しない 日本と金だけが一人勝ちする世界」が続きます。著者は、つまり、これからは日本と金(ゴールド)に投資するのがよいというのです。
 乙は、驚きました。普通に言われていることとまったく違います。
 一つのものの見方として、おもしろいと思いました。
 では、日本と金に投資するか。いや、話はそう簡単ではないと思います。著者の意見は意見として、そうではない見方もあるわけで、社会のありかたがおかしくても、それがそのままで経済的に発展していくことだってあると思います。世界各国でさまざまな問題があることはその通りだけれど、だからといって、そこに投資しないという否定的な態度を取る必要はないと思います。
 本書は、大いに危機を煽っていますが、ある意味ではパニック本的なにおいもしています。世界のこれからを予想することはむずかしいと思います。著者のいうことを信じていくのもいいですが、はずれることとだってあると考えておくのが無難な態度でしょう。


ラベル:増田悦佐
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2012年05月28日

藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「もう代案はありません」という副題が付いています。ちょっと副題の意味がわかりにくいですが、今の資本主義の仕組みが最善であって、これを上回る仕組みは存在しないということです。いろいろ問題はあるものの、それを改善しつつ、何とかやりくりしていくしかないということです。
 内容は、章目次でだいたいわかります。
第1章 マネーは踊り続ける
第2章 小一時間でわかる経済学の基礎知識
第3章 マクロ経済政策はなぜ死んだのか?
第4章 グローバリゼーションで貧乏人は得をする
第5章 もう代案はありません

 一読して、納得する内容でした。図表なども適当に含まれていてわかりやすかったと思います。
 この本が「経済学」の本かどうか、わかりませんが、少なくとも、日本を中心に世界を見る「見方」が述べられており、しかも、その見方は妥当であると思えました。
 日本の現状をどう見るか、あれこれを関連付けてきれいに解釈してくれています。一読して、すっきりした気分になりました。
 日本の閉塞状況を打ち破るためにも、著者の指摘する現状の問題点などを知ることはとてもいいことだと思います。日本の今後を考える必要のある政治家など、本書を読むといいのではないでしょうかね。
 しかし、既得権の圧倒的に強い日本社会を見ていると、現状の問題点を知ったとしても、それを改善することなんてできるんだろうかという気持ちにもなります。
 それはそれでまた別の話なのかもしれませんが……。


ラベル:藤沢数希
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2012年05月26日

きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わってきました。』日本実業出版社

 乙が読んだ本です。長いタイトルですが、タイトルが本書の中身を十分語っています。
 フリーのライター&イラストレーターである著者が税理士に税金について質問をし、税理士が回答する形で書かれています。
 サラリーマンを対象にした節税の話は(需要が多いので)いろいろな本に書かれていますが、フリーランスの人を対象にした本は(サラリーマンよりは圧倒的に需要が少ないので)ほとんどないように思います。
 税金と社会保険の話から始まって、記帳業務の大切さを説きます。さらに、白色申告と青色申告の違いを説明し、青色申告をするように説きます。
 消費税についても書いてあります。1千万円を超える売り上げがあると消費税にも注意しなければなりません。本書では、フリーランスの人に対しては、手間を省いて簡易課税を推薦していますが、たしかにこれで十分なように思います。
 さらに、その後の話として、法人化も視野に入れていますが、このくらいの規模になると、フリーランスで働いているというよりは会社の社長として働いているわけですから、本書とは違った側面の知識が必要になるでしょう。しかし、それならそれでいろいろな本がありますから、そちらで知識を得るほうがいいと思います。
 最後に「税務調査」の話が書いてあります。実調率(実際に調査に入った比率)については、個人の所得税なら1%、法人だと6〜7%という統計が示されます。ずいぶん低いものです。
 岩松正記(2011.2)『個人事業、フリーランス、副業サラリーマンのための「個人か? 会社か?」から申告・節税まで、「ソン・トク」の本音ぶっちゃけます。』ダイヤモンド社
2012.4.21 http://otsu.seesaa.net/article/265912899.html
とは少し値が違いますが、まあ似たようなものです。
 ただし、乙は、所々に入るイラストが不要だと思いました。本文との重なりが気になります。また、話し言葉(対話調)で書いてあるのも、ちょっと冗長な感じで、これなら普通の書き言葉で書いてあるほうが読みやすいのにと思いました。
 とはいえ、税金について知りたい場合、全体としてまあ良書だと思います。


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2012年05月20日

山田順(2011.10)『資産フライト』(文春新書)文藝春秋

 乙が読んだ本です。「「増税日本」から脱出する方法」という副題が付いています。
 第1章は「成田発香港便」で、実際に現金を運んでいる人を取材しています。夫人と二人でバッグに500万円ずつ詰めて運んでいるような人ですから、普通のサラリーマンではありません。普通のサラリーマンなら、年収は数百万円のオーダーでしょうから、1000万円の現金を目にするようなことはなかなかないものです。
 p.28 では、普通のOLが香港の銀行に口座開設する話が出てきます。口座を開設するのは個人の考えですから、他人がどうこういうことは慎むべきですが、「普通のOL」ならば、わざわざ海外に持ち出すほどの現金を持っていることもないのではないかと思います。安易な気持ちで口座を開設しても、有効に活用できるのか、乙は心配になります。
 第2章は「震災大不況」で、3.11 の震災の後外資金融が東京を逃げ出したことを描いています。中でも、p.53 で、菅首相(当時)が浜岡原発の全面停止を要請したことを日本人の多くが評価していることをとりあげ、これに対して外国人投資家、そして日本人投資家も驚いていることが書いてあります。原発を停止して天然ガスを何十億ドルも購入して、電気料金を上げ、税金も上げるというやり方は、どうにもおかしいとしています。こんなことが積み重なって、外国人投資家も、日本人投資家も、日本を見限ってしまうのですね。
 p.56 から、歴史のアナロジーとして18世紀のポルトガルの例を引き、1755年のリスボン大震災で大きな被害が出てしまい、その後、街は復興したものの、産業は戻らなかったことを記述しています。今の日本と実によく似ています。
 第3章「海外投資セミナー」では、日本国内でさまざまな海外投資セミナーが開かれていることを書いています。ここでの「海外投資」は、海外に投資することではなく、(それを含みますが)海外で投資することです。
 第4章「さよならニッポン」では、富裕層が日本を捨て永遠のトラベラーになることを書いています。まあ日本の制度を見ていると、それはそれでしかたがないかもと思います。
 第5章「富裕層の海外生活」では、海外の富裕層を取材して書いていますが、あまりたくさん実例にあたっているわけでもないようで、やや迫力に欠けます。
 第6章「税務当局との攻防」では、武富士裁判や『ハリポタ』翻訳家の申告漏れ事件を取り上げ、オフショアが発展している様を描きます。
 第7章「金融ガラパゴス」では、日本のおかしな制度を指摘しています。
 第8章「愚民化教育」では、日本の教育全般の批判です。英語教育が特にやり玉に挙げられています。
 第9章「愛国心との狭間で」では、日本の税制などの不備を指摘するものです。
 全体として、まあよく書けていると思います。
 しかし、著者がいう「資産フライト」は、富裕層を念頭に置いているようです。一般のサラリーマンにはあてはまらないような話がたくさんあります。ただし、そういう富裕層なら、こんな本を読まなくても、実務的な相談相手がいることでしょう。となると、本書はいったいどんな読者を想定して書かれたのでしょうか。そう考えてみると、著者の立ち位置がだんだんわからなくなってきました。
 巻末の著者紹介を見て、すこしわかるような気がしました。著者は、光文社で雑誌や本の編集を手掛けてきた人です。一応関係者に取材して書いています。しかし、どうにも突っ込みが足りないような印象を受けます。なぜかといえば、著者が自分自身で投資をしていないからでしょう。経済学や金融などの知識もあやしいものです。乙の読後感では、不満が残る内容でした。
 週刊誌を読んでいるようなものだと思えば「不満」はないものと思います。


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2012年04月28日

中町敏矢(2012.1)『あんしん・お気楽! 年金15万円のゴージャス生活』ぱる出版

 乙が読んだ本です。著者自身が月15万円の年金受給者ということです。そして、年金15万円だけでどれくらい生活が楽しめるか、本書中で具体的に書いています。
 乙が特におもしろいと思ったのは、5章「今、知らないと絶対損する「税金と保険」」でした。世帯分離の効果、その具体的な方法など、乙が知らないことがたくさんありました。
 5章の細目次は以下の通りです。
1 税金をタダにする
2 子供の税金を安くする
3 健康保険料をタダにする
4 日本一の名医に診てもらう方法
5 高額療養費制度のうまい使い方
6 医療費・介護費が半減する「世帯分離」とは何?
 知識の有無で損したり得したりというのが日本の現状のようです。
 著者がなぜこのような知識が豊富なのかというと、奥付の著者紹介を読んで納得しました。「1948 年大阪府生まれ。団塊の世代だが、学生運動の経験ナシの高校卒。大阪と京都で小企業を2回転職、経理マンとして定年まで勤め上げる。」なるほどといった感じです。会社でもっぱら経理を担当していたならば、税金や保険に詳しくなることもわかります。
 本書を読んで、老後に海外で生活するよりも、国内で生活したほうがいいかもしれないなどと考えてしまいました。それくらい、日本という国は、老後に豊かな生活ができる国なのです。
 60歳前後の定年を迎える(た)人に読んでもらいたい好著です。


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2012年04月21日

岩松正記(2011.2)『個人事業、フリーランス、副業サラリーマンのための「個人か? 会社か?」から申告・節税まで、「ソン・トク」の本音ぶっちゃけます。』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。極端に長いタイトルで、その中に句読点などの記号がちりばめられています。副題はありません。
 税理士が書いた本ですが、ところどころに「ぶっちゃけ税理士のBCG判定」というコラムが出てきます。こんなことをしていいのかという問題に対して、回答を Black(×)、Clear(◎)、Gray(△)に区分しています。とてもわかりやすい記述です。
 内容は、税金の問題が大半を占めます。
 特に長いのは Part 01 で、「「個人か? 会社か?」会社をつくる「ソン・トク」ぶっちゃけます!」というタイトルがついています。ここは、個人事業主と会社とで課税がどう違うか、その結果税金がどう変わるかを具体的に詳しく記述しています。個人で起業する人などは、ぜひ、こういう知識を持っておくべきです。
 Part 02 の「経費に関する「ソン・トク」ぶっちゃけます!」もおもしろかったです。ホンネがたくさん出てきます。たとえば「個人的に使ったお金はどこまで経費にねじ込めるのか」などということは、回答を知りたいと思う質問の第1位ではないでしょうか。
 乙が気になったところですが、p.241 で「実調率」(じっちょうりつ:税務調査の割合)が書いてあり、2006年度の数値ですが法人 4.9%、個人 0.8% と書いてありました。こんな低いとは知りませんでした。個人では一生税務調査と無縁の人もけっこうたくさんいることでしょう。言うまでもなく、全国民がまじめに所得を申告し、税金を払っていれば、税務調査は無用です。現実はそうでもなさそうですが、……。

 本書は良書です。

ラベル:岩松正記 税金
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2012年03月31日

出井康博(2008.6)『年金夫婦の海外移住』小学館

 乙が読んだ本です。新書サイズで手軽に読めます。
 マレーシア・タイ・フィリピンで増えている「裕福でない日本人老年層」を取材した結果です。こういう国では生活費が安いからということで、あまり多くの預貯金を持たない日本人が退職後に英語も現地語も話せないまま長期滞在している例が多いという話です。
 本書は、海外移住を勧めるスタイルではなく、むしろ、騙されたり詐欺に遭ったりしている日本人高齢層の例がたくさん書かれています。つまり、トラブル集のようなものなのです。現地人にやられる例もあるし、日本人にやられる例もあります。こういう本を読んでいると、ホントに海外移住していいのかというような感覚になってきます。
 まあ、どこに住むのであれ、イヤなことがいろいろあるものでしょう。地球の上では、どこに行っても誰かがいるし、また他人なしでは生きていけないのが人である以上、地上には楽園がないようなものなのです。
 本書のタイトルの「年金夫婦の」は、ちょっと言い過ぎかもしれません。マレーシア編では確かに年金夫婦がでてくるのですが、タイ編では、タイ人妻と暮らす年金受給者(騙されているのかどうなのかよくわかりませんが)がメインですし、フィリピン編でも介護を受ける老人の話題ですから、ちょっと違います。
 いざ、海外で暮らすことを考える際には、本書のようなものも一読しておくとよさそうです。


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2012年03月17日

安達誠司(2012.1)『円高の正体』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。
 第1章「為替とは何か?」は、為替の基本的な考え方の解説です。通り一遍的に感じました。
 第2章「円高・円安とは何か?」も、まあまあ常識的な内容です。
 第3章「「良い円高」論のウソ」は、円高なんていいことはないということで、このあたりからおもしろくなってきます。円安は輸出企業に有利で、円高は輸入企業に有利と考えたくなりますが、そう簡単な話ではなく、輸出企業と輸入企業を併せて日本全体として考えると、円高は良くないことになるという話です。50ページほどの章ですが、図表で具体的な数値を示しながらの記述ですので、説得力があります。
 なお、p.94 から変動相場制の下では通貨の暴落が起こらないということを論じています。この議論もおもしろいものでした。ヘッジファンドが通貨アタックを開始した場合でも、円安になるだけで、景気が回復してしまうとのことです。したがって、日本への通貨アタックはないとしています。
 平常時には、この議論が成り立つと思いますが、しかし、非常時にも同様なのか、乙は自信がありません。非常時というのは、財政破綻・日本国債暴落が起こった場合です。
 第4章「為替レートはどのように動くのか?」もおもしろかったです。p.133 によれば、為替レートは2国における将来の物価についての予想の格差の変動によって動かされているとしています。データで示されているので、説得力があります。「修正ソロスチャート」というのは、初めて見ました。おもしろい話です。
 第5章「為替レートは何が動かすのか?」は第4章の続きのような感じです。
 第6章「円高の正体、そしてデフレの“真の”正体」は、今の日本ではマネタリーベースが不足だとして、日銀があと 28.8 兆円を追加すればいいとしています。こんな簡単な話なのか、こういう結論でいいのか、乙はよくわかりませんでした。納得しがたい面があるということです。こんな簡単な話なら、政府なり日銀なりがちょいと政策を変更すればできてしまう話です。そんな話なのでしょうか。円高にしても、デフレにしても、いろいろなことがからんでいて、簡単に割り切れるものではないように感じているのですが、どうなんでしょうか。
 著者のようにすっきり考えられたらうれしいのですが、……。
 いずれにせよ、円高問題に興味のある人は読んでも損はしないと思います。


ラベル:安達誠司 円高
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2012年03月07日

スティーヴン・D.レヴィット/スティーヴン・J.ダブナー(2010.10)『超ヤバい経済学』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 必ずしも従来は経済学的に考えるとは思われなかったようないろいろな問題について、考えてみたというお話です。しかし、単なるエッセイ集ではなく、巻末に詳しい参考文献があります。本文中のすべての出典がわかるのではないかと思われます。つまり、本書の記述には具体的な裏付けがあるということです。このあたり、意外にしっかりしています。
 扱われる議論の中身はさまざまです。乙は、p.23 からの売春婦の話がおもしろいと思いました。いったいいくらで体を売るのか、その値段を売春婦の側でつり上げたら、客の反応がどう変わるかということが書いてあります。実際に、町で商売をしている売春婦にインタビューをして書いているようです。
 p.176 からは、障害を持つ人を雇うかという問題が出てきます。アメリカでは、障害を持つ人を差別しないように作られた法律があるそうです。しかし、そういう法律があるために、経営者は、障害を持つ人を簡単にクビにできないと考えて、最初から雇用しないようになってしまったというのです。法律は、意図通りには機能しないのですね。
 p.267 からは終章ですが「サルだってひとだもの」がおもしろいと思いました。疑似コインを使うようになったサルの実験です。疑似コインがエサの代わりになり、それをオスがメスにプレゼントすることでサルがセックスをする、つまり、売春が行われるというあたり、実に興味深い記述でした。
 ともあれ、気楽に読めるスタイルで、さまざまな問題を常識とは異なる側面から読み解いてくれます。読んでいて楽しい1冊です。
 ま、しかし、読んだからといって経済学に詳しくなるわけではありませんので、ご注意を。


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2012年02月29日

若林栄四(2011.7)『デフレの終わり』日本実業出版社

 乙が読んだ本です。「2012年に「千載一遇」の買い場がくる」という副題がついています。
 タイトルに引かれて読み始めました。
 読み始めてすぐに、驚きの説明が出てきます。序章ですが、「相場は「黄金分割」で定められている」ということです。で、チャートなどは、水平線に対して36度の角度をもつラインが重要だとのことです。相場が急上昇するときは72度だそうです。(p.21)角度なんて、縦軸/横軸に何をとるか、どれくらいの間隔で目盛りを振るかで変わってくるものです。そんな説明なしで、いきなり36度といわれても、まったく無意味です。
 各種サイクルについても、27(年)とか162(ヵ月)などという数字が重要だとのことです。(p.31)
 なぜこの数字が重要か、なぜこのような数字に従って経済が動くのか、まったく説明ができていません。
 著者は、本気でこんな数字に頼って投資を考えているのでしょうか。
 第1章の50ページほどを読んで、説得力がまったくないことで、乙はこの本を読むことを止めました。
 巻末の著者紹介を見ると、1966 年、京都大学法学部卒業です。金融畑一筋で 1996 年に退職したとのことです。この業界には、こんな人がいるのだと知って、ちょっと恐くなりました。


ラベル:若林栄四
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2012年02月26日

佐々木融(2011.10)『弱い日本の強い円』(日経プレミアシリーズ)日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。
 日本経済はダメダメだといわれているのに、円高です。円高ということは、円が強くなっているということです。なぜ、こんなことになるのでしょうか。これを説明したのがこの本です。
 新書サイズで読みやすく、しかし、中身はしっかりしていて、読んでいて納得感があります。
  第3章 国力が為替相場を決めるわけではない――長期的な為替相場変動の要因――
 ここでは、長期的に購買力平価が成り立っていると説きます。
  第4章 円に買われる理由などいらない――中期的な為替相場変動の要因――
 ここでは、投機筋がどうこうという話ではなく、貿易収支が重要だと説きます。
  第5章 強い雇用統計で売られるドル――短期的な為替相場変動の要因――
 ここでは、円がどうこうという話よりは米ドルが(アメリカが)どうなっているかで相場が決まると説きます。
 これら三つの章で為替の問題がクリアーに説明されます。とても納得できます。
 関連しておもしろかったのが
  第8章 介入で「円安誘導」などできない――介入のメカニズムと効果――
です。日銀が為替相場に介入して、円安にしようとして、円を売ってドルを買っていますが、そんなことにはまったく効果がないと説きます。むしろ、外貨準備として大量のドルを積み上げる結果になっています。その資金は、国債を発行して、いわば借金しているわけです。
 日本は、こうして大量のドルを積み上げて、円高/ドル安で大損をしているわけですから、結果的にアメリカに貢いでいるようなものです。日本はアメリカの植民地か属国なんでしょうか。
 介入しても円安にならないならば、ドルを売って円を買って(円安介入の反対をして=円高介入(?)をして)も効果がないはずで、そんな大量に積み上がったドルはさっさと取り崩すべきだと思いますが、どんなでしょうか。
 本書では、pp.220-221 で、円売り介入は円買い介入より楽であると述べ、数十兆円程度の大量の円買い介入をすると、資金が尽きてくるので、投機的な円売りが始まって円の下落がさらに加速してくると説きます。
 なかなかむずかしいものですね。

 何はともあれ、為替問題を明確に説いている点で、本書は読むに値する本だと思いました。


ラベル:佐々木融 円高
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2012年02月24日

鈴木亘(2010.9)『財政危機と社会保障』(講談社現代新書)講談社

 乙が読んだ本です。
 今の時代にぴったりの本です。
 日本の財政危機と社会保障とが関連する問題であることがよくわかります。
 いくつか、特におもしろかったところを抜き出しておきましょう。
 p.80 では、菅首相のいう「強い社会保障が成長戦略だ」が間違いであることが明確に書かれています。2010年当時、こんなにはっきり間違いを指摘した人がいたでしょうか。いたかもしれませんが、乙は知りませんでしたので、とても興味を持ちました。
 p.141 では、技術的に年金は破綻しないこと、一方、p.145 では、政治的に年金が破綻しうることを述べています。なるほどと思いました。今の政治家たちのアホさ加減を見ていると、これこそが日本の危機であるという思いを強くします。これから日本がどうなるのか、心配が募ります。
 本書は、全体として、日本の財政危機と年金・医療・介護・保育所などの問題をわかりやすく説くものです。一読することで、日本のこれらの問題をどう考えるべきか、正しい視点を得ることができます。

 それにしても、本書は、2010年9月刊行の本なのに、「菅首相」などが出てきて、古さを感じさせます。たった1年半前なのにです。日本では総理大臣がころころ変わっていて、日本という国は、なんて安定感のない国なんだろうと思います。


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2012年02月12日

石角完爾・田代秀敏(2010.12)『日本国債暴落のシナリオ』中経出版

 乙が読んだ本です。
 日本国債がデフォルトすることを予測しています。なぜそうなるかといえば、日本国債を買う人がいなくなるからです。そして、第4章では、国債が暴落することで、日本国民の生活がどうなるかを描いています。円安、インフレになり、政府、企業、金融機関、農業、年金、公的サービスがどうなるか、変化を予想しています。
 記述はおおむね妥当でしょう。
 一番の問題は、このような日本国債の暴落に備えて、では何をすればいいかということです。本書では第5章で若干の記述がありますが、大したことは書いてありません。基本的には、それを受け止めるしかないというスタンスです。
 投資の観点からは、分散投資をすすめています。まあ当たり前でしょう。しかし、p.203 では「損切りのルールを守る」などということが出てきて、「あれ?」と思ってしまいます。
 それにしても、国債が暴落するとは、一体、いつごろの話なのでしょうか。もしも、今のままの日本のあり方が継続するとして、数年先でしょうか。10年先でしょうか。あるいはまた20年ほど先なのでしょうか。それによって影響が全然異なります。しかし、本書にはそういう時期の話は一切出てきません。なぜなのでしょうか。
 p.18 では、他の記事の引用で「今から50年以内に……」というようなことがちらっと書いてあるのですが、50年後ならば、乙は当然死んでいますから、どうでもいい話です。少なくとも心配するような話ではありません。
 本書を読んで、わかったような気になる一方で、どうにもわからなくなりました。


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2012年01月28日

向谷匡史(2007.11)『人はカネで9割動く』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「成功者だけが知っている「生き金」のつかい方」という副題がついています。
 どんなふうにカネを使ったらいいか、たくさんのアイディアが出てきます。読んでいると、それなりにおもしろいと感じます。
 しかし、読み終わって考えてみると、それらのアイディアの多くは、ホストやホステスなど水商売の人間や、ヤクザ系の反社会的勢力の人間から見聞したものが大半です。
 ビジネスマンが自分のビジネスに応用して成果があるものなのか、乙はイマイチわかりませんでした。
 話としてはおもしろいけれど、一般化は危険なように思います。
 投資と関連するかと考えると、あまり関係ない気がしてきました。なぜこんな本を読む気になったのだろうと思いました。


ラベル:向谷匡史
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2011年12月17日

野口悠紀雄(2011.5)『大震災後の日本経済』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「100年に1度のターニングポイント」という副題がついています。
 野口氏の議論は、いつもおもしろいと感じていますので、この本も読む前から楽しみでした。
 一番おもしろかったのは第2章「電力消費抑制に価格メカニズムの活用を」でした。震災後の電力不足を乗り切るためには、計画停電よりも、電気料金を上げるほうがいいという議論です。本書では、どれくらい上げるかを具体的に明記しています。工場などで使う電力の場合、超過電力に対して、1.5 倍にするということです。まあ、そんなものかもしれません。
 一方、家庭の電気料金では、40A 以上の基本料金を5倍程度に値上げするということです。30A までは今まで通りということで、基本料金は 819 円ですが、60A だと、今の 1638 円が 8190 円になるという話です。これは大きな違いです。乙の自宅では、10kVA の契約ですので、今の基本料金 2,730 円が 13,650 円になるということです。どうでしょうか。契約アンペアを減らすでしょうか。少しは減らすかもしれません。このあたり、具体的な値上げ幅が書かれていないと、机上の空論になってしまいますが、金額がわかれば、自分の家ではどうするか、考えることができます。
 その他にも、興味深い議論がたくさんありました。
 p.131 では、復興財源を得るために、法人税を上げるのはよくないとしています。日本の企業は7割以上が赤字ですから、法人税(率)を上げても、まったく税収は増えないというわけです。むしろ、各種の租税特別措置をなくすことが重要だと説きます。目からウロコでした。
 p.133 では、法人税はコストでないと説きます。乙は法人税は企業にとってはコストだと思っていたので、これまた目からウロコでした。法人税は利益にかかるものなので、コストではないわけです。
 p.224 では、新興国は販売先ではなく、投資先ととらえるべきだとしています。つまり、国内の製造業などは海外移転するべきで、それがすなわち「投資」ということになります。言い替えれば、国内は空洞化でよいというわけです。
 ところで、本書中で乙がよくわからなかったところもあります。pp.29-30 ですが、大震災からの復興のために復興国債を発行する場合、負担を将来に先送りできないのだそうです。国債を発行するとき、その時点でお金を集める形になるので、その時点の人々が負担していることになり、償還時は、国債を保有している人が償還金を受け取る、つまり、納税者から国債保有者に所得が移転するだけで、国全体としては使える資源が減少するわけではないということです。
 復興国債も、普通の国債も、特に違いはないわけですから、日本の膨大な国債も、今の人が負担していることになり、将来の人が負担するわけではないということになりそうです。乙は、何となく、子供や赤ちゃんやこれから生まれてくる人々が膨大な借金を返す形になるように思っていました。
 国債が、(未来の人からの借金ではなく)今の人からの借金だと考えれば、今の日本が持っているお金の全体以上に国債を発行することはできないことになります。でも、実際は、国債の発行はできてしまいそうに思えます。インフレで国債の価値が低くなるので、ある程度以上の国債の発行は無意味ということになるのでしょうか。
 国債を買った人は、その時点で自分の金を国家に提供したことになります。それはわかります。しかし、国債の買い手は、その国債を償還までずっと保有し続けます。そして、国債の償還時に現金を入手することになります。国債の買い手が国債をずっと保有するということは、つまりは負担(国の借金)を将来に引きずっているのではないでしょうか。
 このあたり、どうにも理解できませんでした。


ラベル:野口悠紀雄
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2011年12月08日

松田千恵子(2011.9)『国債・非常事態宣言』(朝日新書)朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。「「3年以内の暴落」へのカウントダウン」という副題がついています。
 日本国債が危ないのかどうかは議論が分かれるところです。
 著者は、ムーディーズジャパン格付けアナリストという経歴を持っています。そのためもあるのでしょうが、さまざまな角度から日本国債が危ないかどうかを考えていくとともに、最終的には、今の格付け会社が日本国債に比較的高い格付けを与えていることを反映して、日本国債は当面大丈夫と見ているようです。
 しかし、第2章「国債暴落のシナリオ」を見ると、やっぱり危ないという気がしますし、第3章「国債暴落後の日本経済」を読むと、どうなるかはほぼわかっているといえそうです。こんなことまで考えていて、かつ、今は大丈夫といわれても、一般人としてやはり心配になってしまいます。
 格付けなども、下げるときには下げるでしょうから、「今」は大丈夫だとしても、いつ危なくなるのか、わかりません。
 本書中の具体的な議論や、国債のあり方などをめぐる考察などは、妥当なもので、危機感を煽ろうとする「扇動本」とは一線を画しているといえそうです。
 副題は、はやり、編集者が付けたもので、著者の真意とは少し違うようです。
 それにしても、国債の信任が崩れるとすれば、一気にそうなるでしょうから、日本に生きる人間としては、いつでも注意しつつ事態を見守るしかないかもしれません。
 乙は、格付け会社の分析がそんなにも正しい(妥当だ)とは思いません。今の政治家たちの議論を聞いていると、こんな人たちに政府の運営(つまりは日本国の経営)を任せておいて大丈夫だろうかと大いに不安になってきます。

ラベル:松田千恵子 国債
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2011年11月21日

藤巻健史(2011.6)『マネー避難』幻冬舎

 乙が読んだ本です。「危険な銀行預金から徹底せよ!」という副題がついています。
 今までにも藤巻氏の本はおもしろく読んできました。このブログを検索すると、以下のような本を読んでいます。

2010.11.8 藤巻健史(2010.8)『日本破綻』朝日新聞出版
http://otsu.seesaa.net/article/168656410.html
2010.6.22 藤巻健史(2010.3)『日本破綻』講談社
http://otsu.seesaa.net/article/154037696.html
2009.6.20 藤巻健史(2009.5)『100年に1度のチャンスを掴め!』(PHPビジネス新書)PHP研究所
http://otsu.seesaa.net/article/121785435.html
2007.8.24 藤巻健史(2007.7)『マネーはこう動く――知識ゼロでわかる実践・経済学』光文社
http://otsu.seesaa.net/article/52516511.html
2006.6.18 藤巻健史(2003.10)『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義』(光文社新書)光文社
http://otsu.seesaa.net/article/19423811.html
2006.6.13 藤巻健史(2003.11)『タイヤキのしっぽはマーケットにくれてやる!』日経ビジネス人文庫
http://otsu.seesaa.net/article/19199262.html
2006.6.10 藤巻健史(2004.7)『藤巻健史の「個人資産倍増」法』講談社+α文庫
http://otsu.seesaa.net/article/19069474.html
2006.4.24 藤巻健史(2006.3)『藤巻健史の5年後にお金持ちになる「資産運用」入門』光文社
http://otsu.seesaa.net/article/16965888.html
2006.4.21 藤巻健史(2005.11)『直伝 藤巻流「私の個人資産」運用法』講談社
http://otsu.seesaa.net/article/16834359.html

 今回の本も、今までと同様の主張が書かれています。
 目次は以下の通りです。
Part 1 日本の財政はここまで悪化している!
Part 2 分不相応に贅沢だったこれまでの生活
Part 3 震災後、日本経済はどう動いたか
Part 4 電力不足は経済にどう影響するか
Part 5 財政破綻に拍車をかける大震災
Part 6 国債・円・株の暴落は避けられない
Part 7 日本経済はこれからどうなるか
Part 8 豊かでなくとも、豊かに生きる
Part 9 危険な銀行預金から撤退せよ!
Part 10 日本経済復活に向けて何をするべきか
Part 11 日本経済復興へのシナリオ
Part 12 円が暴落した後、日本は復活する
 何だか、目次を見ていると、本の内容が大体推測できるように思います。そして、その通りです。
 結論からいえば、藤巻氏は外貨への分散投資を説いています。そして、日本は円安になると予想しています。確かに、円安になれば、日本経済はうまく回りそうに思います。
 意図的に円安にしなくても、日本の財政破綻という形で、結果的にそのようなことになるのかと思います。しかも、その場合は、暴力的なほどに急激な円安が起きます。藤巻氏の意見もそれに近いのでしょう。それに備えて、今から外貨建ての資産を増やしておくべきだという話であれば、確かにもっともなことです。
 円を銀行預金に預けておくだけでは危ないというのはその通りです。しかし、すでに外貨建ての資産のほうが円建て資産よりも多くなっている乙のような人間には、本書が説くことはある意味で当たり前すぎるようにも思います。
 本書は、海外分散投資などに目を向けてこなかった人向けに書かれたものなのでしょう。

 問題は、日本の財政破綻がいつ起きるのかです。乙の勝手な予想では、今のままでは、数年から10年程度で起こりそうな気がしています。そういう事件が起こらずに、円高がずっと継続していく可能性もありますが、それが何十年も続くことはないと思われます。あくまで乙の勝手な予想ですが……。


ラベル:藤巻健史
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2011年11月12日

笹子善充(2010.11)『はじめての海外ファンド投資マニュアル』実業之日本社

 乙が読んだ本です。
 タイトルに「はじめての〜」とあるので、海外投資の入門書かと思って読んでみました。しかし、どうもそうではなさそうです。
 目次は以下の通りです。
  CHAPTER 1 あなたはそれでも日本で資産を運用しますか
  CHAPTER 2 日本に一番近い国際金融センター 香港
  CHAPTER 3 海外に銀行口座を開設しよう
  CHAPTER 4 これだけは知っておきたい! 海外ファンド活用マニュアル
  CHAPTER 5 投資の現場最前線 突撃! 海外投資体験談
  CHAPTER 6 究極のキャピタルフライト 香港移住のススメ
 著者は香港在住で、各種投資コンサルタントであり、自らも投資を実践している人だそうです。
 読んだ後で、この本は、どんな人が読者対象として想定されているのか、わからなくなってしまいました。
 たとえば、p.186 以降には、香港と日本の税金の比較が載っています。所得税は日本が最大40%に対して、香港は15%。住民税は日本が10%に対して、香港はゼロ。相続税は日本で最高50%、香港はゼロ。贈与税も同じ。というわけで、日本を脱出する人が後を絶たないということです。
 それはそうですが、しかし、所得税が40%の人というのは、課税標準額が1800万円以上の人で、はっきりいえば富裕層、つまり金持ちです。相続税が50%というのも、課税標準(基礎控除後の金額)が3億円を越える人で、これまた金持ちです。金持ちは、カネを生み出す仕組みを持っています。単なる会社勤めのサラリーマンでは、なかなか金持ちにはなれません。もしも、会社の経営者だとすると、そのような所得を生み出す源泉が日本にあることになり、香港に移住することはそのような源泉から離れることになり、簡単にできることではありません。
 本書は、そのような(日本の税金が高いと思うような)金持ちを読者対象にしているようですが、そういう人は、すでに投資などをはじめているでしょうから、本書に出てくる解説が必要なのかどうなのか、大いに疑問に思います。
 本書中の記述で気になった点をいくつか書いておきます。
 p.002 香港の銀行で日本円を米ドルに両替すれば手数料が安いとのことです。日本の銀行に比べれば、確かに香港の銀行の方が安いのですが、それでも、両替手数料は「安い」といえるレベルではありません。こんなことで円安をねらおうなどと思っても、ダメです。銀行に裸にされてしまいます。もっと安く両替できるようでなければいけません。
 p.054 タックスヘイブンについて、直訳すると「税金天国」だとしています。著者は heaven(天国)と haven(避難所、避難地)を誤解しているようです。こういうミスをしている人がタックスヘイブンの利用を勧めていても、それは信じられないというレベルです。
 p.088 海外の銀行に最初に口座を開設する際には、現金を100万円ほど口座に入金しておくといいとあります。ここから海外ファンドなどを買うためです。しかし、このようにすると、実際に海外ファンドを買う際に、外貨に両替しなければなりません。金額にもよりますが、100万円程度(あるいはそれ以上)の資金では、両替手数料が海外送金手数料よりも高くなります。つまり、送金手数料を節約するために、こういうやり方をしても、トータルではあまり節約になっていないということです。
 p.090 海外送金について、日本の通常の銀行からの送金では1回につき最低1万円近くかかるとしています。著者は、香港在住ということで、日本の銀行からの海外送金の経験があまりないか、ずっと以前の経験しかないのではないかと思います。実際上、手数料 5000 円程度で送金できます。
 p.160 金(gold)投資を行う場合は、(日本で行う)円建ての取引よりも(海外で行う)米ドル建ての方が効率がよいとしています。昨今は、円高が進んでいるため、国内金価格はあまり上昇していないという話です。これは著者のまったくの勘違いでしょう。円で投資しても、米ドルで投資しても、金は金です。米ドル建てで一見金の上昇率が高いように見えても、円高で円建て価格が上昇していないように見えても、両者は同じことです。
 p.168 「人民元ETFで大きなリターンを狙え」ということで、p.169 では人民元の米ドルに対するレートの上昇のカーブがグラフで示されています。米ドル建てで人民元ETFを購入すると、大きなリターンが期待できるとしています。しかし、グラフをよく見ると、2005 年から 2010 年までで 25% ほどの上昇にすぎません。この期間の円高は、1ドル 120 円が1ドル 80 円くらいになっており、3割以上の上昇になっています。米ドル建てで大きなリターンがあるように見えても、円建てではさほどでもないということになります。いろいろな通貨で投資することを基準に考えると、人民元に投資したからといってリターンが大きいとはいえません。
 p.191 BVI(ブリティッシュ・バージン諸島)にペーパーカンパニーを設立する話が出てきます。確かにペーパーカンパニーは簡単に作れるでしょう。しかし、実際には、ペーパーカンパニーを作ったして、その後が問題です。そのペーパーカンパニーをどう活用するといいのでしょうか。単に法人税が安いというだけで、具体策は何も書いてありません。各自で考えよということでしょうか。何かの事業をする場合は、そういう会社があるといいのはわかりますが、普通のサラリーマンだったら、活用法はあまりなさそうです。いや、乙が知らないだけかもしれませんが。

 本書は、全体として、あまりおすすめではありません。海外ファンドに投資すること自体の問題もありますし、本書ですすめる具体的投資先は、イマイチのように思います。そして、上記のように、著者の考え違いがあちこちに散見され、この人にコンサルタントを依頼していいのだろうかと疑問に思えます。


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2011年10月15日

マネー・ヘッタ・チャン(2011.4)『マッチポンプ売りの少女』あさ出版

 乙が読んだ本です。「童話が教える本当に怖いお金のこと」という副題が付いています。
 同じ著者の『ヘッテルとフエーテル』
2010.4.19 http://otsu.seesaa.net/article/146977431.html
を読んだことがあったので、ちょっと気になって読んでみました。
 童話仕立てで10個の話が出てきます。

 その1 検索エンジンの表示が社会に大きな影響を与えている話
 その2 文芸賞がどのように選ばれ、運用されているかという話
 その3 流行は、誰かが意識的に作っている場合があるという話
 その4 世界の貧困層への寄付の一部が別の用途に使われている話
 その5 マンションを買って損をする話
 その6 不動産の談合の話
 その7 保険(会社)の話
 その8 天下りの話
 その9 試験でゼーリシになった人がいじめられる話
 番外  国家破産の話

 童話仕立てとはいえ、子供が読んでも理解できないでしょう。いろいろな企業や政治家の名前が、正式なものでなくかなり形を変えて登場します。それが何を指しているかがわからないと、おもしろくも何ともありません。それがわかるということは、日本社会に関するある程度の知識がある人ということになります。
 それぞれの話は、業界の裏話的要素があり、おもしろく読めます。しかし、フィクションになっているので、迫力はありません。著者のせっかくの知識が活かされていないように思います。
 内容は、もっともだと思うところが多かったのですが、乙が、ちょっと違う考え方をしているのはその4の寄付の話です。
 某寄付集め団体の例が出てきますが、183.5 億円を集め、157 億円が海外にある本部に送金され、26.6 億円が活動費になっているということです。著者は、この活動費でりっぱなビルなどを持っていることを書いていますが、集めた資金の 15% ほどの経費率と考えれば、そんなものではないでしょうか。乙は、寄付をした全額が寄付先に行くとは考えていません。経費率が 50% くらいのこともあるのではないかと思っています。
 経費率を下げることは重要です。しかし、普通の個人が年収の1%程度を寄付するとして、経費をかけずにどこかに寄付をするというのはなかなかむずかしいことです。1億円を寄付する場合は、手段もあるでしょうが、1万円では、実質的に寄付集め団体を経由するしか手段はないのではないでしょうか。そこで一部を抜かれてもしかたがないと思います。
 もう一つ、番外編(special volume)も、「おや?」と思ったところです。預金封鎖と新円切替が起こるという話です。実際に 1946 年に日本であった話ですが、今後、こんなことが日本で起こるのでしょうか。政府が何をするのかはすべて国会で決められるようになっています。国会の議決なしに政府が個人のお金を巻き上げるようなことができるのでしょうか。国会で議論したら、議論の中身が公開されますから、預金封鎖も新円切替も意味をなさなくなります。まさか、1日で提案から可決まで行って、即日実施などということになるのでしょうか。そんなことをしたら、今まで政府が国民に説明してきたことは何だったのかということになります。こんな案に賛成した国会議員は次の選挙で全員が確実に落選します。そんな危険をおかして、国会議員がこんな決定をするものでしょうか。乙はありえないように思うのですが、……。


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2011年10月13日

橘玲(2011.7)『大震災の後で人生について語るということ』講談社

 乙が読んだ本です。
 タイトルは、ちょっと中身を代表していないような感じです。本書の内容の一部の小見出しを本のタイトルにしたようなものです。
 本書に書いてあることは、日本の社会をどう見るかということです。多くの人によってずっと信じられてきた四つの「神話」を述べます。
・不動産神話 持ち家は賃貸より得だ
・会社神話 大きな会社に就職して定年まで勤める
・円神話 日本人なら円資産を保有するのが安心だ
・国家神話 定年後は年金で暮らせばいい
 その上で、そのような神話にしばられず、社会を眺め渡すと、違ったものが見えてくるわけです。その結果、本書はある意味での人生指南書の様相を呈しています。
 おもしろいといえばおもしろいと思います。神話は神話ですから、信じられているだけで、「正しい」ものではありません。この四つの神話が崩れると、多くの日本人はどうしたらいいか、わからなくなりそうです。
 しかし、橘氏の過去の著書を読んできた人間には、あまり新鮮味がなかったかもしれません。著者がそう簡単に主張を変えるはずもなく、どんどん著書を出していけば、いつかは似たような著書が複数存在することになるでしょう。しかし、重要なことは何回も聞くことが望ましいことです。過去の著書と同じような記述があったからとして、「だから悪い」とはなりません。新しい著書には新しい読者がつくこともあると思います。


ラベル:橘玲
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2011年09月19日

安田修(2011.8)『日本を脱出する本』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「短期の海外移住から永住まで」という副題がついています。
 海外移住に関する総合的入門書といえるでしょう。海外移住といっても、さまざまなタイプがあるわけで、特に、若い人で海外で働くことを念頭においている場合と、年配でリタイアしてから海外で暮らそうとしている場合では、相当に違ったものになります。
 本書は、そのようなさまざまな目的に使えるように、網羅的な記述をしています。この記述ができたというだけでも、著者の博識(あるいは情報収集能力)はすごいものだと思います。
 乙の場合は、第5章「リタイアメント」が一番おもしろかったのですが、いろいろな国にリタイアメント制度があり、年金がもらえれば、それぞれの国で十分暮らしていけそうです。海外旅行の延長上に、こんな暮らしもおもしろいと思いました。どこかの国に決めたら、そこの言葉を覚えるようにするといいと思います。1年や2年はあっという間に経ってしまいますし、それでも言葉を覚えるという意味ではまだ初心者でしょう。やることがあるというのは何よりもうれしい話です。
 もしかすると、乙の場合は、投資永住権を取得する手(第4章)もあるかもしれません。しかし、今の仕事で定年を迎えるまでは、ずっとこのまま継続したいと考えていますし、その後も、投資はするとしても、ある1ヵ国(の会社や不動産)に集中投資するのは危険なように思います。ということは、投資永住権とは無縁なものになるというわけです。
 この本でいろいろな国を比較してみると、やっぱりアジアが親近感が持てそうな気がします。
 もしも、さらに具体的に知りたいということになれば、関連の本を読んだり、ウェブで調べたりできるわけです。まずは、何か最初の1冊となれば、本書は大変有意義でしょう。とりあえず必要なことが何でも書いてあるというスタイルです。
 定年を迎えるころになって、海外移住を具体的に考えるようになったら、また本書を紐解きたいものです。
 とはいえ、そのころにはさらにいい本が刊行されている可能性が高いと思いますが。
 著者の安田氏は「海外移住情報」
http://www.interq.or.jp/tokyo/ystation
というサイトも運営しています。こちらは、本書よりもさらに詳しくて、しかも無料で読めます。


ラベル:安田修 海外移住
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2011年09月15日

堀井憲一郎(2006.4)『若者殺しの時代』(講談社現代新書)講談社

 乙が読んだ本です。あまり投資とは関係しません。
 目次は以下の通りです。
  第1章 1989年の一杯のかけそば
  第2章 1983年のクリスマス
  第3章 1987年のディズニーランド
  第4章 1989年のサブカルチャー
  第5章 1991年のラブストーリー
  第6章 1999年のノストラダムス
  終章 2010年の大いなる黄昏 あるいは2015年の倭国の大乱
 第1章以外は、年代順に記述されています。こうして、それぞれの年に何があったかを年代ごとに思い起こして書いていくスタイルです。著者の堀井氏は1958年生まれ、こうして若者として自らが経験してきたことを、多くの人(その多数は、早稲田大学の落語研究会の異なる世代のメンバー)の証言と付き合わせつつ、現代史を書きつづっていきます。
 乙は、本書を読みながら、奇妙な感覚を覚えました。いやにリアルなのです。実際、ディズニーリゾートのアトラクションの数の変遷とか、データはありますが、必ずしもすべてがデータに基づいて議論しているわけではありません。しかし、そこに展開される論説は、当時を生き抜いてきた人間の生の証言であり、何か、世の中を裏側から見ているようなシニカルな感覚にあふれています。
 このような記述から、本書では、若者が無理にいろいろなものを消費させられてきた存在なのだとしています。そのような各種流行(何が流行だったかは上の目次をご覧ください)は、大人たちが若者たちからカネを巻き上げるためのものだったのです。若者は、そのようなことを知らずに、世の中の流行に遅れまいと従っただけですが、結果的にその上の世代の人に貢いでしまった形になっています。
 こういう視点は、今まで乙が明確に意識してこなかったものなので、本書を読みながら、現代史を改めて実感するようなことになりました。
 描かれているのは、たった30年前のことですし、乙はその時代を生きてきたわけなのですが、改めて、これこれこういう時代だったと言われて、納得してしまったようなしだいです。


ラベル:堀井憲一郎
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2011年09月04日

小屋洋一(2011.7)『35歳貯金ゼロなら、親のスネをかじりなさい!』すばる舎リンケージ

 乙が読んだ本です。「一生お金に困らない2世代マネープランニング」という副題が付いています。
 実は、乙は著者からこの本を寄贈していただきました。(だからといって、単純に本書を持ち上げる話を書くつもりはありませんが。)
 基本は、「2世代マネープランニング」にあります。単純にいうと、30代の人に対して、親のマネープランニングと自分のそれと、両方を考えるようにしようということです。
 p.33 には「2世代マネープランニングとは、あなたにできる最高の親孝行なのです!」とありますから、著者が信念を持って、こう主張していることがわかります。
 乙は、2世代マネープランニングという考え方自体はよいものと思いました。しかし、親世代がきちんと考えていれば、それで大丈夫なはずです。むしろ、30代の子供世代は、働くことに忙しく、マネープランなどは考えている時間的余裕がないかもしれません。乙の場合も、30代の息子がいますが、もしも、息子から2世代マネープランニングが提案されたら、「そんなの必要ない!」というでしょう。自分なりにもう考えているからです。いや、2世代分を考えているわけではないけれど、自分たちの老後までを考えてプランしておけば、それで十分で、息子世代は息子世代で自分で考えればいいと思います。遺産が入った時点で考えてもいいでしょう。それまでに、さまざまな形で乙が息子たちに対する「投資教育」をしなければなりませんが、それは日常的な会話の中でも十分可能だと思います。
 乙のような、親の立場の人間からすると、本書に書かれていることはわかりきったことで、内容的に不満が残ります。30代の人で、かつ、親が投資などに無関心な人には有用な面もあるかもしれません。
 p.38 では、将来の(定年までの)給料の予測が出てきますが、こんなことわかるものでしょうか。
 乙は、若いころは公務員だったので、俸給表に従って給料をもらっていたはずで、したがって調べれば将来の給料がわかったはずですが、一度も調べもしませんでした。庶務課の給与担当者が計算を間違えなければ(そして、計算はコンピュータ化されているので、ほとんどそういうことはあり得ませんが)、しかるべき給料をしかるべくもらうだけでした。
 しかし、現在の民間の企業の給料は、なかなか将来予測が難しいと思います。雇用や給料のあり方が、単なる終身雇用・年功序列ではなくなりつつあります。
 しかるべき年齢になって、後から若いころの給料を振り替えれば、そうだったと(なつかしく)思いますが、若いころ(30代)に、40歳で○○万、50歳で○○万くらい給料がもらえるだろうなどとは予測できないのではないでしょうか。
 もしも、そういう予測ができたとしても、給料が増えると同時に教育費や住居費などがかかるようになってくるわけで、そんなのを踏まえてマネープランを作っても、実際とはかなり違ったものになるのではないかと思います。
 本書を読んで、一番違和感があったのはタイトルです。子世代が親世代のスネをかじる話はほとんど出てきません。あくまで2世代マネープランニングが話の中心です。この点で、タイトルはミスリーディングです。まあ、2世代マネープランニングをすれば、結果的に子世代が親世代のスネをかじることになっているのかもしれませんが、……。
 本書は、全体に着実平易な記述がされています。しかし、どこまで有効か、若干疑問に思う面もありました。6章の相続の話などはわかりやすく、現実的でした。しかし、5章の投資の話はやや不満でした。7つの金融商品を使い分ける主義のようですが、7分散でいいのでしょうか。国内と海外の株式と債券は標準的ですが、それに加えて、国内 REIT と海外 REIT とコモディティを加えています。このあたりは、正解がないし、考え方によっていろいろ変わってくるものなので、単純に7分散を説いているところには疑問を感じました。
 本書は全体にわたって、1段落が1〜2行で構成されています。ちょっと段落が短く、乙は読みにくい印象を持ちました。今の若い人は、こういう改行が多い文章を好むのでしょうが、……。



参考記事:
http://kaeru.orio.jp/blog/2011/08/book_34.html
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2011年09月02日

若林亜紀(2009.6)『国破れて霞が関あり』文芸春秋

 乙が読んだ本です。「ニッポン崩壊・悪夢のシナリオ」という副題が付いています。
 第2章から第7章までは、国土交通省、環境省、農林水産省、文部科学省、防衛省、厚生労働省のそれぞれの問題点を具体的に記述しています。官僚がいかに無駄遣いをしているか、それを赤裸々に描き出した本です。ただし、防衛省については、体験入隊の話が中心になっており、記述のトーンが異なります。
 大変おもしろくて乙は一気に読んでしまいました。
 こんなふうに各省に無駄遣いがはびこっているのでは、財政再建なんて夢のまた夢です。天下りの弊害もひどいものです。
 「役人=官僚」のあり方を通して、日本のあり方を考えることができます。
 この問題の解決はむずかしいものがあります。数十年も積み重ねられてきた「実績」ですから、それを破壊するには相当のエネルギーが必要です。今の民主党政権を見ていると、とてもではないけれど、改革なんてできるはずもありません。
 いっそのこと、国債の未達とか、赤字国債の発行が国会で拒否されるとか、とんでもない事件が起こった方が、旧来の悪習を打ち破るいい機会になるのではないでしょうか。



 余計な話ですが、若林亜紀氏の本は、以前に『公務員の異常な世界』を読んだことがあります。
 ブログを検索すると、何と、このブログで2回取り上げて書いています。2回目に書いたとき、1回目があることはまったく意識していませんでした。
 何ということでしょう。
2010.7.8 http://otsu.seesaa.net/article/155697493.html
2008.10.21 http://otsu.seesaa.net/article/108385508.html
ラベル:若林亜紀
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2011年08月12日

スティーブ金山(2011.2)『HSBC香港資産運用術』アールズ出版

 乙が読んだ本です。「資産を安定的に殖やしたい人のための」という副題が付いています。
 本書には、HSBC 香港の使い方が書かれています。しかし、こういう本を読んで大いにもうけようと考えたりすると、痛い目に合いそうです。
 乙が読んで気になったところをいくつかメモしておきます。
 pp.36-37 「年利 15% の定期預金?」というところがあります。「?」が付いているので、その分だけ良心的でしょう。これはデポジットプラスというもので、実態はデュアルカレンシー・デポジットという仕組み債の一種です。単純に年利 15% がつくものではありません。普通の投資家は、こんなものに投資してはいけません。とんでもなくハイリスクです。これを勧めるかのように書いている時点で、本書には疑いを持ってしまいます。
 p.44 l.-2 投資ファンドについて説明しているところで「HSBC のグローバル投資の専門家たちによって、世界中の有名なファンドハウスの中から厳選した質の高いファンドをリストアップされています。」とあります。「を」は「が」のミスですが、それはさておき、「質の高いファンド」とは何でしょうか。そんなものがあるでしょうか。HSBC を使わずに、日本から投資できないのでしょうか。疑問が膨らみました。
 p.47 では「頻繁に組み換えを行う人に便利な FundMax(ファンドマックス)」の説明があります。あれこれファンドを乗り換える人向けのサービスで、ファンドを乗り換えても購入時の手数料がかからないというものです。一見よさそうにも思いますが、問題は FundMax の手数料です。投資金額にもよりますが、年利 1.00-1.75% がかかります。この手数料が「高い!」と思います。こんな手数料を払わず、購入したファンドを乗り換えずにずっと保有しているほうがよっぽど安上がりです。
 pp.58-62 ETF・インデックス投資が説明されます。香港の ETF の紹介記事のようになっています。最後の p.62 では、「個々の ETF の内容を詳しく知るためには、楽天証券のサイトが便利です。」ということで、楽天証券の URL が書いてあります。だったら、楽天証券で ETF 投資をすればいいのではないでしょうか。HSBC 香港のサイトを使わないということは、その分、HSBC 香港のサイトが不便だと言っていることになります。HSBC 香港と楽天証券を(手数料も含めて)あれこれ比べてあればより有意義になったのに、……と思いました。
 pp.101-104 では、HSBC 香港の口座への送金方法について説明しています。日本の銀行からの海外送金(手数料 6000 円程度)、Go Lloyds を利用した海外送金(手数料 2000 円+送金額の 0.1%(最低 1500 円))が説明されていますが、いずれも手数料がかなり高いと思います。p.103 からほんの数行で FX-CFD 口座やアフィリエイトサイトからの HSBC 香港の口座への出金について書いていますが、手数料についてまったく触れられておらず、どのサイトで何をすればいいのかもまったくわかりません。
 というわけで、HSBC 香港への送金については、ほとんど何も説明していないに等しいと思います。著者本人がどのくらい経験があるのか、疑問に思いました。
 p.136 から Deposit Plus の説明がありますが、Deposit Plus が何であるのか、一切説明がありません。pp.36-37 に簡単な説明があるのですが、だったら、p.136 に「p.36 を見よ」と書いておくべきです。今の記述では、何が何だかわかりません。
 本書を読んで、乙が知らなかったことが一つだけありました。p.129 ですが、乙は、送金限度額を変更設定するとき、ネット上のフォームをプリントしてサインして郵便で送っていました。実はメールに添付して送るのでいいのだそうです。サインが必要ですから、たぶん、サインしたものをスキャナで取り込んで送るのでしょうが、このやり方は知りませんでした。

 本書は、HSBC 香港の使い方マニュアルのような内容でした。まあそういうねらいの本があってもいいでしょう。しかし、乙は大いに不満を感じました。
 第1に、HSBC 香港の提供する個々の金融商品の説明はあるけれども、日本の証券会社や銀行で提供されるものと比べてどっちがどれくらい有利なのか、何も書かれていないということです。たとえば、投資ファンドです。HSBC 香港で購入すると、初期手数料として、5.00-5.25% がかかります。(本書では、p.49 の中国株ファンドのところに記載があります。)乙の感覚では、数年前はそんなものかと思っていましたが、現在は、とんでもなく高いと感じるようになりました。日本だったら、ノーロードとか、せいぜい 3% くらいではないでしょうか。日本ではどうなのかも書かないと、HSBC 香港が有利かどうか、わからないのではないかと思います。
 第2に、HSBC 香港のデメリットについてまったく書かれていないことです。本書自体が HSBC 香港を使うことをすすめるスタイルで書かれているわけですから、デメリットについては書かないことにしたのかもしれませんが、しかし、それでは客観的な記述になりません。一例だけ挙げると、HSBC 香港の口座で中国株に投資している場合、配当金が出て、自分の口座に振り込まれると 30HKD が入金手数料としてかかります。大した金額ではないという見方もあるかもしれませんが、けっこうな負担です。たとえば、分散投資を心がけて、いろいろなジャンルの中国株20〜30種類くらいに資金を分散させて投資することは一つの投資法だと思いますが、個々の銘柄で配当金が出た場合、それぞれから 30HKD が引かれるので、少額の投資では割に合いません。こんな説明は本書中のどこにも出てきません。pp.38-43 で中国株投資を勧めるならば、まずこの情報を明示するべきだと思います。
 というようなことで、著者の金山氏が自分自身で HSBC 香港を利用して投資しているのかどうか、あやしいものだと感じました。本書の記述は HSBC 香港のサイト内を(英語で)ネットサーフィンすればわかるようなことばかりです。読む価値はあまりないものと判断します。
 HSBC 香港を使うメリットは何かということは重要ですが、第1章「なぜ、HSBC 香港なのか」(特に pp.22-29「海外に口座を開設するメリット」)に書かれていることを読んでも納得できませんでした。
 乙は、HSBC 香港に口座を開設していますが、では、この口座を畳んで撤退するか。いいえ、そうはしません。ということは、本書に書かれていないメリットがある(と考えている)からなのですが、本書の読者が知りたいのは、まさにそういうことなのでしょう。しかし、それは本に書けないということでしょう。(乙のブログでも書けません。)となると、こういう本を読んでもあまり意味はないことになります。
 大まかにいえば、HSBC 香港のサイトで、英語でわかるようなことを、日本語に直したくらいのことでしょうか。


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2011年07月31日

星野泰平(2010.12)『半値になっても儲かる「つみたて投資」』講談社+α新書

 乙が読んだ本です。
 毎月定額の積立投資を勧める本です。簡単にいえばドルコスト平均法です。
 ドルコスト平均法は、理論的には得でも損でもない方法ですが、著者によると、これが一番いいとのことです。
 定期的な収入のあるサラリーマンには、現実的には、積立投資がベストでしょうが、理論的に優れているわけではありません。
 その意味では、少しだけミスリーディングかもしれません。読者は、あたかも、どんな場合でも積立投資がベストであるかのように誤解しがちだということです。
 タイトルの「半値になっても儲かる」はインパクトがあります。実際にはどういうことかというと、10,000 円の基準価額でスタートし、7年後に 2,000 円まで下がり、10 年後に 5,000 円に回復した場合を考えています。
 グラフを参照してください。
tumitate.jpg
この場合、10年間の積立総額の 120 万円が 1,392,397 円になったということで、16% 増えたというわけです。
 このシミュレーションは正しいです。乙も検算して確認しました。
 こういうシミュレーションを見ると、なるほど、積立投資は有利だと思えますが、ポイントは、投資のはじめのころは投資金額が小さいので、基準価額が下落しても最終的な投資成績には大きな影響はないのに対して、投資の終わりのころは投資金額が大きくなっているので、基準価額の上下を大きく反映するということです。
 投資は、10年で終わりではありません。仮に、あと1年長くして、11年としましょう。10年目で 5,000 円まで回復したものが、11年目で 4,300 円まで下がったとします。こんな話は本書には出てきませんが、シミュレーションを1年間延長するだけで計算できます。
 7年間で8割減という「実績」のあるファンドならば、1年で 14% 減などというのはよくある話でしょう。
tumitat2.JPG
 計算してみると、132 万円の積立額に対して、11年目の現在価値は 1,307,942 円ということで、成績は -1% ということになります。
 つまり、だんだん投資金額が大きくなってくると、少しの基準価額の増減で現在価値は大きな影響を受けるわけです。
 だからといって、積立投資がダメだと主張するものではありません。積立投資でいいと思います。しかし、本書は、各種シミュレーションのうち、比較的うまくいく場合の例を多数示すようにしていて、p.52 のように、損をするパターンもありますが、全体としては少な目です。その意味で、ミスリーディングかもしれないということです。
 なお、p.202 には「全世界で【中略】60億人で「つみたて投資」をしたら、素敵だと思いませんか?」とあり、失礼ながら、乙は思わず笑ってしまいました。著者は全世界の人口を基準にして考えているようですが、投資ができるほどに余裕があり、積立投資ができるように定期的な収入があるのは、先進国に住む一部の人間に限られていると思います。

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2011年06月10日

荒川雄一(2011.3)『海外分散投資入門』パンローリング社

 乙が読んだ本です。「日本が財政破たんしても生き抜くためのノウハウ」という副題が付いています。
 「はじめに」に「本書は、2008年11月に発行された『着実に年10%儲ける「海外分散投資入門」』(実業之日本社)の改訂版です。」とあります。
 前著については、乙はすでに読んでいました。
2009.1.12 http://otsu.seesaa.net/article/112487936.html
 タイトルが変わっていたので、新著だと思って図書館から借りて読んでしまいました。
 前著について述べた問題点は繰り返さないことにしましょう。
 p.156 オフショア地域では、投資家も運用の途中で税金を源泉徴収されないと述べた上で、「一方、日本国内で設立したファンドの場合、毎年決算を行い、利益が出れば税金を支払わなければなりません。」と書いています。しかし、これは間違いです。利益が出た上で、それを投資家に分配すれば、その時点で税金がかかりますが、分配しなければ税金はかかりません。まあ国税庁の指導で日本のファンドは分配を強制されている(?)ようですが、それはまた別の問題です。
 というわけで、オフショア地域のほうが途中で課税されないから有利ということにはなりません。
 p.179 でファンド選びのポイントを述べていますが、次のような記述があります。
 「第4のポイントは、いうまでもなくファンドの過去のパフォーマンスです。設定当初の1〜2年だけ良くて、その後、急激に悪くなるようなファンドもありますので、注意が必要です。」
 この第1文と第2文は矛盾しているように思います。第1文では過去のパフォーマンスを見よと言っているのに対し、第2文では、その後急激に悪くなることがあると言っています。第2文が妥当ならば、第1文の主張とは違って、過去のパフォーマンスを見てもしかたがないということになります。
 p.191 海外分散投資のステップ1として「通貨分散」がうたわれています。これが間違いであることは前の記事
2009.1.12 http://otsu.seesaa.net/article/112487936.html
2007.2.23 http://otsu.seesaa.net/article/34452967.html
で書きましたので省略します。
 こういうことをいまだに書いているという点で、乙は荒川氏の論述を全面的に受け入れられないと考えます。
 p.217 アドバイザーに対する報酬について書いてあります。荒川氏は、日本の金融商品について、運用結果の如何に関わらず、固定的な手数料を取っていることを述べ、それよりも PMS(ポートフォリオマネジメントシステム)のやり方は 1.0% プラス成功報酬だから、資産残高が増えないとアドバイザーの手数料も増えないので、アドバイザーは顧客の資産を増やすことに真剣に取り組むとしています。これを「Win-Win の関係」と呼んでいます。
 しかし、これは違います。成功報酬(普通は上昇分の2割ですが)は、Win-Win の関係とは限りません。こういうアドバイザーが一番儲けるやり方は、運用方針を思いっきりハイリスクにすることです。万が一大きく儲かれば、その2割ががっぽり手に入ります。万が一大きく損をすれば、投資家がかぶります。顧客の資金をいろいろなハイリスクのファンドに振り分けるようにしておけば、顧客が損をしても、アドバイザーが儲けることが可能です。
 なお、1% プラス成功報酬というのも(昔はそんなものかと思っていましたが)今は高いと思います。

 こういう本を読むと、海外ファンドに手を出したくなりますが、そんなにうまくいくものではありません。本の記述の中にどういうウソが含まれているかを見抜くことはむずかしいことです。かなり知識が身に付いてからでないと、ウソは見抜けないと思います。
 本書のように、正しいこともいろいろ述べているけれども、一部に間違った記述があるというのは本当に困りものです。こういう本を信じて海外ファンドに飛び込む人が出ることになります。


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2011年04月26日

大前研一(2011.1)『お金の流れが変わった!』PHP新書

 乙が読んだ本です。「新興国が動かす世界経済の新ルール」という副題が付いています。
 タイトルを見ると、本書の内容がほぼ推測できます。こういうタイトルの付け方が好きです。タイトルは1冊の内容の要約になっていなければなりません。
 第1章は「超大国「G2」の黄昏」で、アメリカがうまく立ち回って世界中から資金を集め繁栄してきたものの、今や崩壊しつつあるという認識を示します。中国も、そのうちバブルが崩壊するだろうとしています。
 第2章は「お金の流れが変わった!」で本書の中心部分ということです。
 p.54 では、ホームレス・マネー 4,000 兆円が世界を翻弄していると説きます。これがどこに向かうかで、その向かった先の国が大きな影響を受けます。
 pp.105-106 シンガポールは、資金も人材も世界中から取り入れているのに対して、日本は両方とも拒否しています。日本にはホームレス・マネーがほとんど来ていないため、国民から税金で巻き上げるか、国債発行で将来から借金するしかなくなっていると述べ、国家をどう経営するかという点で、日本の特異性を指摘しています。
 第3章は「21世紀の新パラダイムと日本」です。
 p.118 から、財政出動によって実体経済に影響を与えようとするケインズ政策などのマクロ政策では経済がどうにもならなくなったと説きます。新鮮な見方でした。
 pp.124-127 では、経済がサイバー化し、ジャスト・イン・タイム方式が普通になり、経営のしかたが変わってしまったと述べます。サイバー経済では無料が基本ということも見逃せないでしょう。
 p.139 では、日本にホームレス・マネーが来ないことの契機がブルドック・ソース事件だったとしています。これによって世界のマネーがぱったり日本に入ってこなくなったというわけです。
 p.162 では、大前氏のアイディアで日本航空をJR東日本に買ってもらったらどうかという大胆な提言をしています。陸と空の機能的融合でおもしろいことができるとしています。(民主党はそういう発想がないからダメだという文脈ではありますが。)
 この第3章は、いろいろなアイディアにあふれていて、一番おもしろい章のように思いました。
 第4章は「新興国市場とホームレス・マネー活用戦略」です。
 日本と外国のあり方の違いの典型的な例として、p.227 では、日本の首長は永田町に陳情に行くのに、中国の各市長は自分の市を世界に売りこもうとし、日本に来るときも市の会社の社長を数百人単位で連れてくると述べます。何という発想の違いでしょう。お金の集め方、使い方の根本的違いを感じてしまいます。

 本書は、全体として、これからの日本のあり方を述べています。こういうことが実現すれば、明るい未来がありそうで、日本も元気になるのですが、今の政治の状況を見ていると、とてもそんなことは望めそうにありません。
 本としておもしろいし、ためになると思いますが、それを鏡にして日本の政治の現状を見ると、いよいよがっかりせざるを得ません。


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2011年04月15日

竹中平蔵・池田信夫・鈴木亘・土居丈朗(2010.11)『日本経済「余命3年」』PHP研究所

 乙が読んだ本です。刺激的なタイトルに引かれて読む気になりました。「「徹底討論」財政危機をどう乗り越えるか」という副題が付いています。
 全体は5章構成で、目次は以下の通りです。
第1章 「国家破綻」に至るシナリオ
第2章 税と世代間の負担をどうするか
第3章 社会保障をどうするべきか
第4章 経済成長の鍵となる考え方
第5章 真の「政治主導」の実現を
 乙が一番関心があったのは第1章でした。
 p.28 では、政府の債務をどう考えるべきかについて、土居氏が述べています。グロスの政府債務(総債務)や政府保有の金融資産分を相殺消去したネットの政府債務(純債務)などで見ることが普通ですが、OECD の統計では将来の年金給付債務が含まれていない一方で、政府保有の金融資産に年金積立金が入っていることなど、いろいろな事情があります。そのため、国民が将来税金で負担する政府債務の総額として「グロスの債務」プラス「年金給付債務と覚しきもの」マイナス「外国債」マイナス「金融資産」という計算をしています。
 こんなことでも、論者によって違う基準で話をしたりするわけですから、まずは、このあたりで合意ができないとどうしようもありません。土居氏のこういう基準は、本書を読む限りもっともだと思えます。
 p.38 では、鈴木氏が年金・医療・介護の債務超過について述べています。厚生年金と国民年金で、現在支払を約束している年金受給総額だけで800兆円の債務超過だというわけです。すごい数字です。さらに、医療で380兆円、介護で230兆円で、三者を合計すると1410兆円という、いよいよどうしようもない数字が出てきます。実際には、さらに、共済年金の債務の問題(200兆円?)があるし、年金の計算で厚労省が将来の利子率を 4.1% という高い利率で計算している(実際はこれより低くなることはほぼ間違いない)という問題まであります。どう考えても、日本の財政は破綻しているとしかいいようがありません。
 第3章では社会保障を取り上げていますが、p.98 で、社会保障費と社会保障関係費について鈴木氏が説明しています。社会保障とは社会保険(年金、医療保険、介護保険、雇用保険など)であり、それとは別に社会保障関係費という支出があり、これには生活保護の他に、根拠不明の支出(医療保険で国が4割ほど負担する分とか、後期高齢者医療制度や国民健康保険で国が半分くらい負担している分など)がものすごく多くなっています。このあたり、国のあり方を考えると、今の制度でいいか、大いに疑問が残ります。
 第5章では、政治や官僚の問題が扱われます。p.201 の竹中氏のことばが印象的です。「いまの制度でいちばん困るのは、能力のある人があとから入ることができないことです。キャリア制度の下だと、そこに能力のある人が40歳で入ってきて、5年間、不良債権処理をやろうと思っても、自分より能力の低い人に使われることになってしまう。それがわかっているから、能力のある人はあえてそんなバカバカしい仕事をしようとしない。」何ということでしょう。この一言で官僚制度の問題をするどく突いてしまいました。もっとも、だからといって、この制度がそう簡単に「改革」できるとも思えませんが。

 本書は、全体として、今の日本の政治と経済の問題をズバリ指摘している内容になっています。
 4人の話し合いのスタイルで書かれていますので、(たぶん、実際にそういう話し合いがあり、それを文字化して、お互いに手を入れたのでしょう)読みやすいと思いました。しかし、きちんと図表なども入れて、しっかりした作りになっています。
 今の日本の政治と経済を考える人におすすめの内容です。



参考記事:
 http://koutou-yumin.seesaa.net/article/192317020.html
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2011年04月06日

辛坊正記・辛坊治郎(2011.1)『日本経済の不都合な真実』幻冬舎

 乙が読んだ本です。「生き残り7つの提言」という副題がついています。
 前著『日本経済の真実』
2010.8.1 http://otsu.seesaa.net/article/158083591.html
の続編です。
 第1章 日本国債はなぜ暴落しないのか
 第2章 君には破綻の足音が聞こえないか
 第3章 20世紀の二大経済学者に学ぶ不況の原因と対策
 第4章 日本を強くする7つの提言
という4章で構成されています。
 第1章では、政府紙幣を発行することについて、暴論だとしています。乙は、発行してもいいと考えていますので、
2009.2.11 http://otsu.seesaa.net/article/114032329.html
ここは著者たちと意見が異なりました。乙は、政府紙幣を限定的に発行するなら、副作用は小さいと思いますが、著者たちは政府や政治家を信じていないようです。
 全体に、あまり意外な話もなく、妥当な考え方が述べられているように思いました。7つの提言というのも、よくいわれていることです。
 1 供給サイドを強くせよ
 2 法人税を抜本的に引き下げよ
 3 日本的雇用慣行を根本から変えよ
 4 内需重視! の掛け声に騙されるな
 5 FTA を推進せよ
 6 規制緩和を強力に進めよ
 7 不透明な日本流規制をやめさせよ
それぞれの具体的な内容を知りたい方は本書を一読するといいでしょう。
 これらの提言はもっともなのですが、それが実行できるかといえば、まず無理です。日本のあり方を根本から変えなければならず、社会がきしみます。誰もそのようなリスクを取りたがらないのです。総理大臣が旗を振って、みんながついていくようなことにでもならない限り、そういう変革は無理というものです。今の政治家では特にそう思います。
 どうしたらいいか、よくわかりません。
 まずは、選挙区の定数を是正して一人一票を実現し、今の政治家の基盤をくずすところあたりから始めないとダメでしょうか。いや、これまた難問なのですが、……。


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2011年03月22日

アーニー・J・ゼリンスキー(2003.9)『働かないって、ワクワクしない?』ヴォイス

 乙が読んだ本です。
 文字通り、働かないことで自由時間を確保し、豊かな生活を楽しもうという本です。
 「自由な時間」を多く持っている人こそが、ほんとうの「豊かな人」だという考え方が述べられています。
 しかし、乙は一読して失望しました。
 「働かない」理念は興味深いものがあります。しかし、では、具体的にどのような生活をするのか、収入はどうするのか、その具体策がまったく書いてありませんでした。
 著者はどうしているのでしょうか。巻末にこう明記してあります。「アーニーは一日4,5時間、週4日働き、英語で“r”がつかない月、つまり5月、6月、7月、8月には仕事をしないことにしている。」
 これでわかります。つまり、まったく働かないのではなくて、少なく働いて自由時間をたくさん確保しているのです。それならそうと、この暮らし方を早めに提示するべきでしょう。
 普通に誤解するのは、「働かないこと」がすばらしいなら、「全然働かないこと」がベストということになるということです。しかし、その場合、収入の道がないわけで、日々の生活はどうするのかという問題が起こります。
 収入については、いろいろな考え方がありますが、ある程度の財産があれば、あとはまったく働かない(つまりは早期リタイヤ)という選択肢もあります。日本円で考えれば、たとえば5億円あれば、毎年1%で運用したとしても、500 万円の収入があることになりますから、それで財産を減らすことなくずっと暮らしていけます。また、2億円あれば、まったく運用しなくても、毎年 500 万円ずつ取り崩して40年暮らしていけます。
 もっとも、そういうお金を得るためにがむしゃらに働くことは著者の主張に反することになります。したがって、これが達成できる人は、親からそういう財産を相続した人くらいかもしれません。
 そうでなければ、少しは働いて、収入を得る必要があります。著者のスタンスがわからなかったので、本書を読みながら不満が募りました。第11章「優雅な生活に大金はいらない」にしても、具体的なお金の話はまったく出てきません。
 ところで、短時間だけ働くというスタイルですが、著者が住むカナダではこういう働き方ができそうに思います。しかし、日本ではどうでしょうか。短時間の仕事では十分な収入が得られるようにはなっていない(そういう仕事はない)のが現実ではないでしょうか。一日5時間週4日働くというのは、週20時間ということです。そういう仕事といえば、まずアルバイト程度しかないのではありませんか。とすると、時給 1000 円の世界です。週2万円、月8万円、1年に8ヵ月働いて64万円の収入です。これでは豊かに生活するにはとても足りません。逆に、時給 4000 円の仕事をするならば、年収 256 万円となり、まあ何とか暮らしていけそうです。しかし、時給 4000 円の仕事といえば、それなりの専門職ということになり、そういう人が毎年4ヵ月の休暇を取るというスタイルを貫けるでしょうか。乙は大いに疑問に思います。
 この本は、著者の考え方を書いた本であり、具体的な生活の話はまったく出てきませんので、こんなことで 300 ページもかける必要はないと思います。100 ページ、あるいは 10 ページに圧縮して書いても趣旨が伝わります。
 もっとも、定年退職した後の生活のことを考えるためには、こういう本も適している面があります。


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2011年03月15日

駒崎弘樹(2010.12)『「社会を変える」お金の使い方』英治出版

 乙が読んだ本です。「投票としての寄付 投資としての寄付」という副題が付いています。
 社会を変えるために寄付をしようという呼びかけの本です。著者の駒崎氏は NPO 法人のフローレンス(病児保育を行います)の代表理事ということで、自ら NPO 法人としていろいろな企業などに寄付を呼びかけ、それに基づいてフローレンスを運営しているという話です。
 p.4 には、こう書いてあります。「寄付は、投資家が株や投資信託に投資するのと同じようなものなのです。」副題に書かれていることにもつながる考え方です。しかし、乙は、寄付と投資は別物のように感じています。自分のお金を投じるという点においては共通性があるものの、両者は異なる点もあります。寄付は、自分の願い(こうありたい、こうしたい)を直接表現するものですが、投資は、第1義的には資金を増やすことを目指すものです。そして、がんばってほしい企業の株を買うというような考え方の投資もある一方、どの企業に投資したらいいかわからない人のための投資法もあるわけです。前者は、寄付と通じる部分がありますが、後者はずいぶんと離れているように思います。インデックス投資の考え方が後者と重なるとすれば、寄付と投資はかなり違った面を見せることになります。
 寄付は、投資と一線を画すようなものだけれど、こういうことをして、続けていってほしいという願いを実現できる一つの方策として、「寄付」は意義のあるものだと思いました。
 巻末には、「寄付先のご紹介」があります。いろいろな NPO ががんばっているのだなとわかります。
 乙の寄付先は、必ずしも NPO ではないようで、一つも含まれていませんでした。しかし、自分なりに意義があることに自分のお金を使おうという意味では、今までのやり方でいいと思っています。

 インデックス投資になぞらえれば、インデックス寄付ということがあってもいいと思います。これらすべての NPO 法人に(均等に?)配分するようなしくみを作ったらいいのにと思いました。150 ほどのリストですから、1口 1,500 円として、何口でもよしとすると、毎月定期寄付などということができます。投資信託を買うのと同じやり方で寄付することができます。毎月一人分として、たとえば 10 円だけ一つの NPO 法人に流れます。たくさんの人が賛同してこれが増えてくると、バカにならない金額が動くようなことにもなるのではないでしょうか。
 乙は 1,000 円からの投信積立には否定的ですが、
2009.10.7 http://otsu.seesaa.net/article/129680323.html
1,500 円からの定期寄付は賛成です。これで1年に 18,000 円の寄付になります。収入の1%を寄付にあてると考えれば、ちょうどよさそうな金額です。普通のサラリーマンなら、2口か3口くらいでちょうどいいのではないでしょうか。
 もっとも、あまり安易にインデックス寄付を導入すると、インデックス投資と同じく、モラル・ハザードを引き起こす可能性もあるあたりがマイナスかもしれません。

参考記事:
 http://happy2020.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-0a99.html


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2011年03月02日

山森亮(2009.2)『ベーシック・インカム入門』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。「無条件給付の基本所得を考える」という副題がついています。
 ベーシック・インカムとは、誰にでも一定額の所得を与えようという話です。どういう理念なのか、そういうことが可能なのか、それを知りたくて読んでみました。
 一読して、乙はかなり不満を感じました。
 本書中には、歴史的にどういう運動があり、どのようにベーシック・インカムという考え方ができあがってきたかが記述されています。しかし、本当に知りたいのは、日本なら日本に適用したときにどういう制度になるのかということです。たとえばもらうお金にしても、毎月3万円か、10万円か、はたまた30万円かによって姿は全然違って見えると思います。そういう具体論は一切出てきません。ただし、仮にということで、p.10 では、大人一人1ヵ月10万円、子供は7万円という数字が出てきますので、たぶん、このくらいのことを想定しているものと思われます。
 ベーシック・インカムに関して、乙が疑問に思った点はいくつかあります。
 第1に、子供の分は誰に支払うべきかということです。たとえば、18歳で区切って、それ未満は子供扱いし、それを越えたら大人扱いする(本人に支払う)のでもいいと思いますが、その子供の分は親に払うということでいいのでしょうか。両親が離婚したケース、家庭崩壊したケース、両親ともに死んでしまったケース、施設に入っている子供のケース、などなど考えてみると、「親に払う」ということでもけっこう手間がかかりそうです。現在の「子ども手当」の場合と同じ問題が起こります。
 第2に、外国人をどうするかという問題です。もちろん、外国人もベーシック・インカムの対象です。日本に住んで(働いて)いれば、日本に税金を払っているわけで、国籍で差別することがあってはなりません。しかし、入国してきた人に毎月10万円をプレゼントするということが世界中に知れ渡ると(そしてそうなることは明らかですが)、さまざまな理由で日本への入国者が激増しそうです。留学生・就学生はもちろんですが、理由は何でもいいので、日本の医療を受けたいとか、日本人との(偽装)結婚とか、蛇遣いのプロ(エンターテイナー)とか、何でもありになるかもしれません。日本人がそういう不法入国を手伝う(そして荒稼ぎする)例が激増するでしょう。密入国者の場合だって、それを理由にベーシック・インカムを支払わないというのは本来の趣旨に反します。「日本に1年以上住んでいる人」などと条件を付けることは、ベーシック・インカムの理念(何も条件を付けずにばらまくのがよい)に反することです。日本に入国した人は、働く必要はありません。働かなくても食っていけるだけの金額を渡すことがベーシック・インカムでしょう。「黄金の国、ジパングに行こう。覚える言葉はたった一つ。ベーシック・インカム、プリーズ。」こういう外国人が激増してもベーシック・インカムという制度が耐えられるのでしょうか。
 第3に、第2の点の裏返しですが、日本人(日本国の居住者)は、海外に出かけていく(留学でも就職でも起業でも国際結婚でも何でも)ことが少なくなりそうです。日本にいれば毎月10万円もらえるけれど、海外に行ったらそれがもらえないのでは、わざわざ海外に出かけようとする人は少なくなるでしょう。日本人はいよいよ内向き思考になりそうです。これがいいか悪いかは議論の余地がありますが、日本国の(さらには全世界の)発展のためにはよくない面が多そうです。
 第4に、ベーシック・インカム制度のもとでは働かない人が増えそうです。本書の pp.146-147 では、ベーシック・インカムへの批判として、働かない人に甘く、働く人に厳しい制度だといわれることがあると述べ、それに対する反論が書いてありますが、乙は、反論になっていないと思います。たとえば、大学を卒業するころ、ベーシック・インカム制度があったとして、乙は就職の道を選んだでしょうか。働かなくても一定の収入があり、自分の時間をすべて好きなことに割けるなら、そちらを選んだ(つまり就職しない)可能性があります。これは社会の理念の問題というよりは個人の生き方の問題です。たくさんの人の判断の集合として働かない人が多くなれば、いわば日本全体が「引きこもり」状態になるわけで、社会は崩壊します。
 第5に、ベーシック・インカムは豊かな社会の発想であり、そうでない社会には受け入れられないということです。ベーシック・インカム構想の歴史を述べた p.150 以降でもそれははっきりしています。豊かな社会が実現し、福祉国家が実現してきたからこそこういう考え方が登場してきたのであって、人類の大部分の歴史にはこういう考え方はありえなかったということです。ベーシック・インカムには 200 年の歴史があるといいますが、たった 200 年です。人類の大部分の歴史は、どうやって食って(生きて、子供を育てて)いくかということであったろうと想像します。近年、豊かな社会になり、ようやく弱者も生存の権利があると考えられるようになってきた(他人に助けられれば弱者も生きていけるし、助ける側も自分のことだけに精一杯ではなく、他人を助ける余裕ができてきた)わけです。ベーシック・インカムは、そういう豊かな社会を前提にして成り立つ制度です。日本は「豊かな社会」でしょうか。これからもずっとそうであり続けるでしょうか。
 第6に、不正受給や支払ミスの防止の問題です。ベーシック・インカムは、誰にでも支給するから審査などの手間が不要でその分のコストがかからないという議論がありますが、実際はそんなでもないと思います。少なくとも、年金と同じく、その人が生きてそこで生活していることの確認は必要ですし、二重支払などにならないための制度が必要です。それはけっこうコストがかかる話でしょう。

 なお、本書中の記述で乙がおやと思った点についてもメモしておきます。
 第2章「家事労働に賃金を!」で、家事労働に従事する女性たちに賃金を払うべきだという考え方が紹介されます。これもベーシック・インカムにつながっていく考え方です。しかし、こういうときの家事労働は、それによってメリットを受ける側(夫、あるいはその家族)が賃金を払うべきであり、社会が払えばいいということにはなりません。
 p.275 では、「働かざる者、食うべからず」という言い方に触れ、もしも本気でそう思うなら相続税 100% にするべきだという議論が書いてあります。これは変です。そんなことをしたら、裕福な人はどんどん外国(相続税のない国)に逃げていくだけです。武富士の創業者の息子が香港に住んでいたような話です。
 本書で、乙も賛成するところがありました。p.267 から、ベーシック・インカムを導入することと似た結果になるということで、生活保護や児童扶養手当を利用しやすくすること、年金を税方式にすること、児童手当の所得制限を撤廃すること、所得税の計算で所得控除になっているところを給付型税額控除にすることなどを挙げています。そうするべきかどうかは議論の余地がありますが、このような施策はベーシック・インカムへの道として考えてもいいと思いました。

 ベーシック・インカムに関しては、以下のようなブログ記事も参考になるかと思います。
http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/df9729ff82024e97dd3447d08d9c5f27
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50907051.html


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2011年02月22日

橘玲(2010.9)『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』幻冬舎

 乙が読んだ本です。
 橘玲氏の本は、今までにも何冊か読みました。
2010.1.24 橘玲(2009.6)『貧乏はお金持ち』講談社
http://otsu.seesaa.net/article/139190837.html
2008.8.11 橘玲, 海外投資を楽しむ会(2008.7)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編』ダイヤモンド社
http://otsu.seesaa.net/article/104547631.html
2008.8.8 橘玲, 海外投資を楽しむ会(2008.7)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』ダイヤモンド社
http://otsu.seesaa.net/article/104383634.html
2008.5.29 橘玲(2008.3)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』ダイヤモンド社
http://otsu.seesaa.net/article/98372824.html
2008.3.29 橘玲(2007.11)『亜玖夢博士の経済入門』文藝春秋
http://otsu.seesaa.net/article/91427357.html
2006.12.15 橘玲(2006.11)『マネーロンダリング入門』(幻冬舎新書)幻冬舎
http://otsu.seesaa.net/article/29655402.html
2006.10.8 橘玲(2005.7)『永遠の旅行者(上・下)』幻冬舎
http://otsu.seesaa.net/article/25061050.html
2006.10.6 橘玲(2003.4)『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)幻冬舎
http://otsu.seesaa.net/article/24967688.html
2006.7.19 橘玲(2004.9)『雨の降る日曜は幸福について考えよう』幻冬舎
http://otsu.seesaa.net/article/21013037.html
2006.7.16 橘玲(2002.12)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』幻冬舎
http://otsu.seesaa.net/article/20844064.html
2006.7.14 橘玲+海外投資を楽しむ会(2003.11)『世界に一つしかない「黄金の人生設計」』(講談社+α文庫)講談社
http://otsu.seesaa.net/article/20748838.html
2006.7.12 橘玲+海外投資を楽しむ会(2004.8)『「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計』(講談社+α文庫)講談社
http://otsu.seesaa.net/article/20655082.html
2006.6.16 橘玲(2006.4)『臆病者のための株入門』(文春新書)文藝春秋
http://otsu.seesaa.net/article/19337369.html
これらはすべておもしろかったので、この本も楽しみにしていました。
 しかし、内容は、「投資」というよりも、人生の生き方のような感じになっていて、ちょっと期待と違っていました。目次は以下の通りです。
 序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学
 第1章 能力は向上するか?
 第2章 自分は変えられるか?
 第3章 他人を支配できるか?
 第4章 幸福になれるか?
 終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!
 これを見ても、内容が今ひとつ推測しにくいものです。さまざまな話が出てきますが、はじめに、自己啓発本の批判から始まり、なかなか自分を変えられないことを前提に、それでも幸せに生きていくための方策を述べます。「はじめに」には、次のようにあります。「残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、次のたった二文に要約できる。 伽藍を捨ててバザールに向かえ。恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。」これだけ読んでも意味がわかりませんが、伽藍が会社などを指し、バザールがグローバル市場を指すということがわかれば、うすうす主張が見えてきます。恐竜の尻尾というのはロングテールのことで、あまり売れない商品が膨大に(種類が多く)存在することを指しています。
 やっぱりわかりませんね。
 この本を読んでみましょう。


ラベル:橘玲
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2011年02月03日

高野秀行(2000.9)『極楽タイ暮らし』(ワニ文庫)KKベストセラーズ

 乙が読んだ本です。「「微笑みの国」のとんでもないヒミツ」という副題が付いています。
 乙は、老後、タイに住んでもいいかなと思っているので
2011.1.19 http://otsu.seesaa.net/article/181405201.html
タイトルに引かれて読んでしまいました。
 おもしろい本でした。
 ただし、読んでみると、あまりお金の話は出てきませんでした。本書の内容は、日本人から見たタイ人を描いており、いわば日タイ比較文化論といった色彩の本でした。
 乙は、電車の中でこの本を読んでいたら、おかしくて笑い出しそうになり、そんなはしたないことをするのもためらわれ、必死に笑いをこらえていたこともあります。
 著者の高野氏は、チェンマイ大学日本語科の講師をしていたということで、タイの学生などを通して、タイの人々の考え方をよく把握していると思いました。
 こういう本を読むと、ますますタイでのロングステイを経験してみたいと思いました。そのまま永住という可能性もあるような気がしています。


ラベル:高野秀行 タイ
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2011年01月23日

小黒一正(2010.8)『2020年、日本が破綻する日』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「危機脱却の再生プラン」という副題がついています。
 インパクトのあるタイトルだったので、読む気になりました。
 第1章「財政破綻はいつ起こるのか?」では、日本の借金大国のありさまを描きます。2020 年ころには政府が国内から借金できなくなるということで、外債を発行することになると予想しています。単なる破綻本と違い、客観的な記述がされているように思いました。まあ、財政破綻があるかどうかはよくわからないわけですが……。なお、消費税を増税するときは、段階的に増税するよりも一気にあげる方がいいということは初めて知りました。もっとも、そんなことは政治的に非常に困難でしょうが。
 第2章「債務超過の日本財政」も第1章の続きで、日本のバランスシートを考えると相当にひどいということになります。債務超過は 280 兆円と聞くと、一体どうすればいいのだと思います。さらに大きな問題は、社会保障(年金・医療・介護)が抱える「暗黙の債務」がかなり大きく、実は 1430 兆円あるのだということです。
 第1章と第2章の二つの章は、日本の現状を描き出すものです。
 第3章「「埋蔵金」で問題は解決しない」では、「埋蔵金」を活用することは国債を発行することと同等であり、問題は解決されないとしています。
 第4章「縮む日本経済、進む世代間格差」では、財政が抱える本当の問題は世代間格差であると説きます。
 第3章と第4章の二つの章は、誤解されやすい認識を正そうとしているかのようです。
 第5章「「崩壊する社会保障」の再生プラン」では、日本の現状を改善するにはどうしたらいいかということで、「事前積立」などのいろいろな方策を提案しています。
 第6章「いまこそ世代間の公平を実現せよ」では、「世代間公平委員会」を作り、「世代会計」を予算編成に活用し、世代間の公平を実現することを提案しています。
 第5章と第6章の二つの章は、問題を解決するための著者からの提案です。
 こうしてみてくると、タイトルは本書の内容からかなり外れています。まあ、編集者が付けたものだと思いますが、タイトルに誘われて読む気になったのはやや的外れでした。特に「2020年」と明記してあると、あと10年もないのかということで、日本の財政を憂える人は本書を手にとることが多いのではないでしょうか。
 それはともかく、財政破綻の問題は、年金をはじめとする多くの問題とリンクしていることがわかります。それだけに、日本を根本的に改造するような大手術をせずに、今のままズルズルと運営していくと、天地がひっくり返るような事態になりかねません。
 でも、今の民主党政権を見ていると、とてもこんなことはできないと思えます。それが一番悩ましいところです。

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2010年12月27日

大前研一(2010.7)『民の見えざる手』小学館

 乙が読んだ本です。「デフレ不況時代の新・国富論」という副題が付いています。
 本書は「週刊ポスト」での連載の「ビジネス新大陸の歩き方」などを編集したものです。例によって大前氏の歯切れのよい口調が楽しめます。日本の何が問題なのか、ズバリ指摘しています。
 本書の主張は p.27 l.-1 から p.28 に出てきます。
最も有効な経済対策とは、金利でもマネーサプライでもなく、世の中にあまたあるお金が日本国内で活躍するような政策であり、そうした巨大マネーを日本に引き込むための「無から有を生む」仕掛けである。

 これをどうやって実現するのかは、あとの方に出てきます。
 実に夢のある話です。こういうことで1冊の本ができあがっているのですから、おもしろいはずです。
 pp.64-67 で、日本の標準家庭は「単身世帯」であるとし、だから p.68 でいうように、総合スーパー(4人家族くらいをイメージしたパッケージで売っている)が不振なのだとしています。この見方で、最近の小売りの傾向をずばり表現してしまいました。なるほど、こういう把握の仕方で世間を見る目が変わってきます。
 p.76 ブランド品は安売りをしたらおしまいだということで、安売りをしないブランド品の例が挙がっています。そう、最近の小売業は、ブランド品とそうでないものの区別ができていないかのようです。
 pp.125-130 では、ロシア・ビジネスの重要性が語られます。北方領土の問題などは、適当に済ませて、むしろビジネスの展開を図るべきだということです。特に、核弾頭の再利用でエネルギー 100 年分とか、核燃料再処理工場をシベリアに設置など、ユニークなアイディアが満載です。
 p.159 あたりでは、国民のグッドライフを実現するためには、都市の住民を対象にした各種政策を実施するべきだとしています。今や、都市の住民の方が多数派なのですから、非都市よりも都市のほうを向いた政策が必要なのです。ただし、大前氏は、このとき、増税も、税金財源も、外国頼みも全部ダメだといいます。それでは、都市の再生はできないというわけです。ではどうするか。pp.163-169 に雄大な構想が書いてありますので、ぜひご覧ください。市街化調整区域、湾岸再開発、容積率緩和ですが、ここでは詳細を省略します。乙はとてもおもしろいと思いました。
 こういうビジョンのある人が総理大臣になってくれれば、日本も少しは変わるのでしょうが、国会議員が首相を選ぶ(そして国民が国会議員を選ぶ)以上、そんなことにはならないでしょう。民主主義社会では、衆愚政治になりやすいといわれますが、今の日本などは、まさにその典型のようです。
 pp.186-187 では、文科省による大卒者の「就職支援」をこき下ろしています。p.193 によれば、アメリカの大学のビジネススクールでは、就職内定率や就職率を気にしないそうです。大企業に就職しないからです。大半は自分で起業するか、おもしろそうなベンチャー企業に行くとのことです。日本との大きな違いに驚きます。
 しかし、そうはいいつつ、p.197 では、韓国の就職のむずかしさを述べ、安定した生活が保障される就職先(政府、サムスン、現代、LG、ボスコなど)と他の会社に就職した場合で、生涯収入が月とスッポンほど違うと述べています。韓国の学生にも起業を勧めるわけではないのですね。ここは主張が一貫していないように思いました。日本だって、大企業に行けばかなりの確率で一生涯安定した生活ができそうです。だからみんな大企業に行こうとしているのではないでしょうか。
 ともあれ、1冊読むのが楽しくてしかたがない感じでした。ま、このような話は実現しないのが現実なんですけれど、……。


ラベル:大前研一
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2010年12月18日

原田泰(2009.9)『日本はなぜ貧しい人が多いのか』(新潮選書)新潮社

 乙が読んだ本です。「「意外な事実」の経済学」という副題が付いています。
 NIKKEI NET BIZ+PLUS「経済学で考える」の連載を中心に、一部「エコノミスト」の記事なども入れてまとめた本です。元の記事は2004年から2008年くらいのものが多いようです。その意味で、内容がやや古い印象があります。
 本書は、全6章に区分されていますが、さらに62節に細分されています。それぞれの節のタイトルが「〜か」という問いかけになっており、内容をよく表しています。その問いかけに答えているのがその節の記述だということです。
 乙がおもしろいと思ったことをいくつか取り出しておきましょう。
 pp.81-83 くらいの記述ですが、夫の所得が高いほど妻の有職率は低い(ダグラス・有沢の法則)という傾向が、30歳未満では逆になることから、長期的には夫の所得が高くても妻の有業率は低下しない(あるは上がる)と予想しています。そのことから、高所得カップルの子供を(保育園という形で)税金で面倒を見ることが疑問だとし、所得の高い家計からは実際にかかるコストを保育料として徴収し、その資金で保育所を増設すべきだと主張しています。実際の保育料がいくらになるかで話は変わってきますが、実際にかかるコストの8割が税金だということは、単純にいえば保育料が5倍になるということです。今は、保育料が5万円くらいでしょうか。とすると、原田説では保育料が25万円になります。1年間で300万円です。高所得カップルは払えるでしょうが、若い人で高所得というケースは少ないでしょうから、あまり現実的な案ではないかもしれません。
 なお、p.83 で保育料は所得を得るための必要経費として所得から控除することを提案しています。アメリカではそうなっているそうなので、日本でも同様にしてもらいたいものです。
 pp.118-120 で、子育ての機会費用が高いことを述べています。p.120 の図3は、
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/166428656.html
にも引用されています。働く女性が仕事を辞めて、出産・育児のあとにパートタイマーになるとすると、2億3719万円もの所得が失われるというわけです。こんなにも子育てコストが高いのでは、児童手当(現在は子ども手当ですが)などをもらってもまったく割に合わないということになります。
 なお、このような機会費用を考慮すると、保育園の保育料が1ヵ月25万円になっても安いものだという議論が成り立ちます。(現状と大きく異なるので、心理的には受け入れにくいと思いますが。)
 著者は、さらに、日本的雇用システムが崩れつつあることから、年齢による賃金カーブがフラットになっていくので、子供のコストが低下していくと述べています。そして、日本の女性は、子育て後でも、パートタイマーよりもずっと高い賃金カーブの仕事を見出すことができると予測しています。ここのところは、乙には違和感がありました。これからの日本は賃金カーブがフラットになるだけでなく、賃金レベルが下がっていく(つまり、全員がパートタイマーのようになる)のではないかと思います。今の若者の就職難や、非正規雇用の増加は、こんな日本の将来を暗示させます。とすると、子育ての機会費用が低下するのはその通りですが、所得全体として減少傾向になるのではないでしょうか。つまり、少子化は簡単には解決しないことになります。
 p.184 では、次のようにあります。
 日本で生産性を高めるという議論をするとき、既存の産業の生産性をいかに高めるかという議論になることが多い。しかし、アメリカの生産性の高さは、生産性の低い産業を輸入に置き換えることによってもたらされている面が大きい。

 この話は目からウロコでした。この考え方をすると、日本のあり方は大きく姿を変えることになりそうです。

 他にもおもしろいところが何ヵ所もあります。本書は、事実を重視して、図表を多用し、そこから話を進めていくスタイルなので、わかりやすいと思いました。
 あえて欠点らしきものをいうと、あちこちのグラフが Excel で書かれているようで、モノクロでは線の区別がむずかしいということがあります。もう少し、相互に区別しやすい線などを使うとか、別の工夫をすればよかったと思いました。

関連記事:
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/166397774.html


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2010年11月29日

高橋洋一(2010.8)『日本経済のウソ』(ちくま新書)筑摩書房

 乙が読んだ本です。
 全体が3章構成になっています。第1章「日本はなぜ不況なのか?――デフレ不況の経済学」、第2章「危機はいかに克服されるか?――危機克服の経済学」、第3章「これからの日本経済はどうなるか?――国家再建の経済学」といった内容です。
 三つの章のうち、第1章と第2章は、新書とはいえ、かなり内容が高度で、読みにくく、正直言って乙はお手上げでした。専門用語がバンバン出てくる感じです。
 2点だけ、コメントしておきます。
 p.082 には図が1枚入っています。図11です。これが本文で参照されていません。そして、図の中に「Nagaku niopebu」と書いてあるのですが、この意味がわかりません。
 BIS について、p.127 で説明されています。しかし、p.121 ですでに「BIS」という言葉を使っています。初出のところで説明するのが当然でしょう。
 他にも問題はあると思いますが、こういう書き方が本書を読みにくくさせていると思います。
 それらに比べて、第3章は内容がわかりやすく、おもしろいものでした。第1章・第2章とずいぶん違う感じです。もしかしてどこかの講演をもとにして書き改めたのかもしれません。それぞれで聴衆のレベルが大きく異なっていたかのようです。
 第3章は、大きく三つの部分からなります。
 第1に、「日本経済はどうなっていくか?」ですが、民主党の新成長戦略や日銀の現在の政策では、日本経済がうまく回っていかないことを数字をあげて説明しています。経済財政諮問会議の廃止などは非常に乱暴なやり方だったことがわかります。
 p.144 では、「国の政策では、極論すればJALが倒産したなどの「滑った転んだ話」よりも、マクロ経済政策のほうが遙かに重要です。」と述べています。でも、現実の政治家はマクロ経済政策についてはわからないから、「滑った転んだ話」に傾いてしまいます。まさに日本の政治の問題点の一つです。ちゃんと経済学的知識を持っている人が舵取りをしないと、日本はどこに向かってしまうか、心配になります。
 第2に、「日本はなぜ正しい金融政策を行えないのか?」です。ほぼ日銀批判になっています。具体的に、誰のどういう発言が問題なのか、それはなぜかを指摘していて、おもしろいと思いました。著者は日銀が量的緩和で資金を供給すればデフレから脱却できると主張しています。
 第3に、「日本の未来はどうなるか?」ということで、日本経済(日本国)は破綻しないということと、亀井氏が強引に進めている郵政再国有化がいかに間違っているかを論じています。前者については、日本の債務残高は大きいけれども、保有している資産もまた大きいので、差し引きを(ネットで)計算すれば、債務残高はGDPに対する比率で見て大したことないということです。乙は、こういう見方も可能だとは思いますが、毎年のように政府が赤字予算を組んで、しかも支出先に変なところ(失礼!)が多いのでは、いつかは日本国としておかしくなりそうに思います。それに国の資産が本当にそれだけの価値があるのか、ちゃんと調べてみると、実は帳簿ほどには資産でなくなっているのではないか(帳簿の金額ほどの価値がなくなっているのではないか)という疑いもあります。乙は、高橋氏のように楽観的ではいられません。
 ともあれ、第3章だけでも読む価値はありそうに思います。高橋氏はあちこちを切りまくって、歯切れのいい話を展開していますですから、読んでいておもしろいのです。


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2010年11月22日

堀江貴文(2010.6)『拝金』徳間書店

 乙が読んだ本です。小説でありフィクションです。
 とはいえ、自伝的小説なので、ノンフィクション的な味つけが効いていて、とてもおもしろいと思いました。しかし、あくまで全体が「小説」であり「フィクション」ですから、何がフィクションで何がノンフィクションかわかりません。乙はこの点がかなり不満でした。男にも女にもクラスがあるなどという話は、ヒルズ族だった著者ならではの書きぶりだと思いますが、でも、それが本当なのかどうか、わかりません。全体がフィクションであれば、その中にノンフィクション的な部分を含ませても、それもまたフィクションなのです。
 乙は普段ほとんど「小説」を読みませんが、それは、こういうところが嫌いなのだということがよくわかりました。
 今は、小説中のネクサスドアはライブドアのことだ、ヤマトテレビはフジテレビのことだとわかりますが、20年も経ったらそんなことは忘れ去られてしまうのでしょうね。その段階で、この小説がおもしろいと感じられるかどうか。それがこの小説の価値を決めるように思います。
 内容的には、一人の貧しい若者が大きなビジネスを起こしていくといったもので、よく書けていると思います。


ラベル:堀江貴文 拝金
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2010年11月12日

カン・チュンド(2010.10)『ETF投資入門』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。先日、カンさんとお会いしたときこの本をいただきました。感謝しております。
 カンさんのブログ
http://tohshi.blog61.fc2.com/
もそうですが、とてもわかりやすく書かれています。本書は 168 ページほどの新書ですから、読み切るのにも時間がかかりません。それでいて ETF については必要なことがほぼ全部書かれているということで、入門書としてきわめて有意義なものといえます。
 読んでいておもしろかった点ですが、pp.60-61 で、国内 ETF が低調なのは機関投資家が利用しないからだとしています。そうなのですよね。いくら個人投資家が ETF がいいからといって買ったとしても、たかがしれています。機関投資家が利用するようにならないと売買に厚みが出てきません。そして、機関投資家ならば、理論価格と市場取引価格のずれ(乖離)を利用した裁定取引などもできるでしょうから、ぜひ ETF に参加してもらいたいと思います。それでこそ、個人投資家が安心して ETF を買えるようになるはずです。
 p.132 では、安全資産を保有する場合、銀行預金よりも債券に投資する非上場投資信託にするべきだとしています。乙は、銀行預金と債券とを(固定金利ということで)一緒に考えていますが、本書ではそうではないとのことです。
 その理由は、
@銀行の倒産リスクを隔離できる
A銀行の預金より若干高いリターンが期待できる
Bポートフォリオのバランス調整がしやすい
という3点です。以下、これに関する乙の意見を書いておきます。
 @ですが、預金保険でカバーされる範囲(1,000 万円まで)の預金ならば、銀行が倒産しても、あまり問題ではないように思います。一つの銀行で 1,000 万円ですから、複数の銀行を利用すれば「銀行数×1,000 万円」の預金ができます。普通の人には十分な範囲だと思います。
 Aは、一般的にはそう言えますが、定期預金の利率は、ボーナス時期などではかなり高くなることがあり、
2009.12.8 http://otsu.seesaa.net/article/135002513.html
債券を上回ることさえあります。うまく探して、時期が合えば、定期預金の方がいいということもありそうです。
 Bはカンさんのおっしゃるとおりで、銀行の定期預金は、預入のときに決めた期間、おろせないし、おろすと利息がきわめて低くなります。したがって、定期預金ではリバランスなどはほぼ無理です。債券のファンドならば可能です。
 とはいえ、リバランスがどれくらい必要かということですが、乙は、実際上あまり必要ではないのではないかと感じています。これについては、先日も述べました
2010.11.6 http://otsu.seesaa.net/article/168435589.html
が、もしも株式が大幅に上がってしまったら、固定金利の定期預金を増やせばいいので、事実上リバランスできます。株式が大幅に下がった場合が問題で、定期預金を一部解約するのは非現実的です。ただし、リバランスは、あまり頻繁に行うものではないというのがモーニングスターの主張ですが、だとすると、そのうちには定期預金が満期を迎えるのではないでしょうか。それを継続しなければ、定期預金をやめることに該当し、つまりはリバランスしていることになります。定期預金は3年くらいが普通の最長期ですが、だとすると、平均1年半で満期が来ます。定期預金は1口にまとめておく必要はないので、適宜預け入れると、いわば口数を分散していることと同じことになり、実際上リバランスできてしまうように思います。
 というようなことを考えると、Bもあまり大きな差ではない(銀行預金だって負けていない)という見方ができそうに思います。
 ともあれ、個人投資家にとってとても役立つ本です。広くおすすめします。


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2010年11月08日

藤巻健史(2010.8)『日本破綻』朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。「「その日」に備える資産防衛術」という副題が付いています。
 藤巻健史(2010.3)『日本破綻』講談社
2010.6.22 http://otsu.seesaa.net/article/154037696.html
の続編という位置づけです。
 第1章「欧州の財政危機を読む」ではギリシャ危機を取り上げて論じます。
 乙がおもしろく思ったのは、p.14 に出てくる話です。日本国債はその95%を日本国民が持っているわけです。すると、日本国債がデフォルトしても他国では直接的な被害を受けません。したがって、日本国債のデフォルトについては他国は騒がないという論理です。なるほどと思いました。
 p.20 では、ギリシャ危機の本質について、固定相場制の問題だと喝破しています。以前だと、ヨーロッパ各国が独自の通貨を持っていたので、それぞれの国の間で為替相場が変動し、さまざまな偏りを自動的に修正するようなことが可能だったのに対し、今はユーロという単一通貨を使用していますから、そういうことができません。これが固定相場制と同じ問題なのだというわけです。まさに、この見方でギリシャ危機が理解できます。
 第2章「日本の財政危機を直視する」では、日本の財政危機が、もうどうしようもない状態になっているということを説明します。
 第3章「楽観論に対する反論」では、国の借金が増えてもまだ大丈夫だという議論に反論しています。
 第4章「なぜこのような状況に陥ってしまったのか?」はたった5ページですが、結論としては、日本が計画経済国家で市場原理が働いていなかったからだとしています。
 第5章「解決方法はあるか」では、とてもありえない話からあり得る話まで、さまざまな「解決方法」が述べられます。藤巻氏はハイパーインフレがもっとも可能性が高い解決方法だとしています。乙も、ハイパーインフレ説を考えています。
2009.5.3 http://otsu.seesaa.net/article/118371423.html
 第6章「「市場の反乱」のシナリオ」では、どんなふうに国債の暴落が始まるかをいくつかのシナリオで解説します。それぞれ可能性があるように思います。
 第7章「「その日」は国債未達に始まる」では、具体的に、国債の暴落が始まる最初の事件として「国債未達」(発行する国債の一部が売れ残ること)を取り上げています。乙がおもしろいと思ったのは、p.110 です。国債の入札の時の応札倍率が1倍未満になれば、もちろん危ないわけですが、3倍程度あったとしても安心していてはいけないという話です。ここは藤巻氏のトレーダーとしての経験が活きています。応札する側が、高めの入札価格で多めに入札しているという話です。乙はこんなことがあるなんて知りませんでした。
 一番の問題は「その日」がいつかということですが、これは誰にもわかりません。
 第8章「「その日」に備える資産運用の原則」では、保険のつもりで、国に頼らず、リスクを認識し、長期を見据えましょうと説いています。
 第9章は「これで完璧! 預金封鎖対策」ということです。「預金封鎖」は憲法違反なので起こらないだろうという話ですが、もしも、それに対して対策を立てるとすると、コストが高くなるということです。
 p.125 から、海外の銀行・証券会社での口座開設について述べられますが、コストが高いということでよくないとされています。ある意味ではそうかもしれません。藤巻氏が指摘するのは、税金の問題で、日本国内なら20%の源泉分離で済むのに対して、海外だと総合課税になるから、所得の高い人だと50%が税金として取られてしまうとしています。それはそうなのですが、乙は、サラリーマンなので、定年があります。その後は年金生活になります。そのときに運用していた資産を取り崩すつもりです。そうなると、収入はかなり少なくなるので、税金もそんなにかからないのではないかと思います。
 第10章「ハイパーインフレに備える――基礎・中級編」第11章「どの国、通貨、金融商品に投資するか」第12章「ハイパーインフレに備える――上級編」などは、具体的な投資話ですので、ぜひ本書をお読みください。
 p.162 では、米国株のありかについて説明しています。米国株を買うと、その株券が日本に送られてくるのでなく、ニューヨークにあるカストディアン口座(信託口座)に日本の仲介証券会社名で登録されるとのことです。
 乙がよくわからなかった点
2010.10.26 http://otsu.seesaa.net/article/167198285.html
でしたが、一応、わかってきました。
 なお、p.181 から出てくる「キャップ」については、乙は今まで知りませんでした。これから少しは勉強してみてもいいのかもしれません。
 第13章「未来は暗いわけではない」は最後の結論部分です。株・債券・円のトリプル安が日本を襲うことになっても、それは「不幸中の幸い」だとしています。韓国のような前例があるからです。
 一時的に日本経済は極端なダメージを受けるでしょう。しかし、その後は経済が大復活するだろうというわけです。

 全体として、「日本破綻」ですから、他の多くの破綻本と同じようなものと見られるかもしれませんが、乙はかなりの信頼性を感じました。おもしろい本でした。
 日本は、ハイパーインフレになるかもしれないけれど、ならないかもしれないわけで、どちらでも大丈夫なように資産運用を考える必要がありそうです。ということは、結局、海外分散投資しかないように思います。


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2010年10月18日

若田部昌澄(2010.7)『「日銀デフレ」大不況』講談社

 乙が読んだ本です。「失格エリートたちが支配する日本の悲劇」という副題がついています。
 本書の基本的な主張は、現在の大不況は日銀が引き起こしたものだということです。言い替えれば、日銀の考え方・行動のしかたは間違っていると批判しています。
 どんなところかというと、ひたすらインフレを避けようとし、デフレでいい(デフレにも「良いデフレ」がある)とするところです。
 本書を読むと、まあそうかもしれないと感じるのですが、それにしても、すべての責任を日銀に押しつけて、それで終わりというわけにもいかないでしょう。日本国を運営しているのは日本政府です。その代表が総理大臣です。だとすれば、政府や総理の考え方・行動のしかたも大事なのではないでしょうか。
 日銀は、「政府からの独立性」を根拠にして、政府の干渉を受けないようにして、自らの政策を貫徹しようとしているという著者の見立てはいいのですが、一方では、もう少し大局から見れば、やはり、政府の責任というのも無視できない部分があるはずで、本書ではそちらはあまり描かれていません。
 あえて、政治を切り離して、日銀に焦点を当てることで、今の日本の状況を違った観点から見ようとしたのかもしれませんが、そちらも含めて眺めた方が良かったのではないでしょうか。
 本書は、最後に「第5章 日本は必ず復活する」があるのが救いです。もっとも、ここに書かれている内容は、すでに誰かがどこかで述べているようなことで、あまり新鮮味はありませんが。
 日本の現状を憂える人は本書を読んでおいて損はなさそうです。


ラベル:若田部昌澄 日銀
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2010年10月12日

坂田純一, 杉田宗久, 矢内一好(2009.4)『Q&A 国際相続の税務』税務研究会出版局

 乙が読んだ本です。
 構成はシンプルで、全体が3章に分かれています。
第1章 米国と台湾の遺産税
第2章 韓国の相続税
第3章 日本の相続税
 第1章の記述の中心は米国で、65ページもあるのに対し、台湾は14ページしかありません。
 それぞれの国(地域)の相続に関わる税について、Q&A 形式でまとめた形になっています。
 第3章は、一般的な知識のように思いました。類書も多いです。
 本書の特色は、三つの国と地域の相続税について、くわしくまとめて記述したところにあります。
 三宅茂久(2008.6)『Q&A海外移住タックスガイド』財経詳報社
2010.9.26 http://otsu.seesaa.net/article/163771032.html
で取り上げていた地域とは重ならないようになっているので、両者を併せて読むといいと思います。
 乙の場合、Interactive Brokers を通じて、アメリカに資産の一部をおいている形になるので、もしも乙が死ねば国際相続の問題が発生します。本書を読んで、そういうことに備える必要があると思いました。いや、実は、海外での投資を始める前にこういう本を読んでおくべきでした。実際は、1年半前に出版されたものですので、乙の海外投資の開始には間に合わなかったのですが。
 以下、主として米国に関する記述で重要なことをピックアップしてみましょう。
 p.24 では、米国に joint tenancy(合有制)があることを述べています。これについては、p.65 でも述べられます。「共有」とはずいぶん違います。合有するということは、自分が死んだらもう一人に権利を無償で移転するという契約なのです。
 もちろん、合有によって、相続税(遺産税)を免れることはできません。しかし、合有制があるおかげで、遺産に関して裁判所が検認するまで何もできないというような不便さはなくなります。このあたりは p.70 に記載があります。
 乙がアメリカにある財産を子供との合有にすると、その財産の取得費用を乙が全部出したことは明らかですから、この財産全部が課税対象になるわけです。ま、これはしかたがありません。
 p.27 では、親が財産を海外に移し、子供を海外に居住させて日本に住所がないようにした場合でも、子供が日本国籍を持っているならば、日本で課税されるとのことです。平成15年からこういう変更がなされたという話です。もっとも、子供が日本に帰らない状態でどうやって子供に課税するのか、よくわかりませんが、……。
 p.37 では、米国の遺産税について、米国に住んでいない外国人の場合は、生涯控除額が6万ドルとのことです。つまり、米国に6万ドルを超える財産を持っていると、死んだ時に遺産税が取られます。乙もすでに引っかかる状態です。米国の遺産額の税額は、日本の相続税なみかと思いますが、日本での二重課税を避けることを考えると、けっこう手続きがめんどうなように思います。
 p.53 非居住外国人の遺産税の計算例が示されています。非居住外国人は、全世界の総遺産額を算出する必要があります。なぜなら、どの国にいくらの遺産があるかによって、葬儀費用・管理費用を按分して控除するためですが、これまたけっこうめんどうな処理です。子供にやってもらえるでしょうか。

 本書の記述はくわしく、かつ具体的です。有用な本だと思います。海外投資を始める前に、こんな知識を持っていればよかったと思いました。


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2010年09月26日

三宅茂久(2008.6)『Q&A海外移住タックスガイド』財経詳報社

 乙が読んだ本です。
 海外移住に必要な税金関係の知識をまとめて解説した本です。
 非常に興味深く読みました。
 各国の税制は大きく異なっています。それを知らずに移住先を決めるのは無謀です。特に、高額資産を保有している人はこの点をシビアに考える必要があります。
 第1章「日本の国際所得税」では、日本人が海外移住した後、日本でかかってくる所得税をどのように処理するかを解説しています。日本の資産を全部売り払って海外に移住したとしても、なお、日本で所得がある場合もあります。たとえば、年金です。したがって、たぶん、税金の面では、一生、日本からは離れられないと思います。
 海外移住した場合でも、日本に不動産を持ち、賃貸に出していたり、株を持っていたり、預金があって利息を受け取ったりする人も多いでしょう。それらはすべて税金がかかってきます。ぜひ、これらの知識を身につけておく必要があります。
 第2章「日本の国際相続税」も興味深いものです。海外移住しても、移住先での交通事故などで突然死亡することがあります。そのとき、相続が発生しますが、相続人が外国に住んでいる例もあるし、財産がいろいろな国にあるとなると、それらをどう扱ったらいいか、問題が生じます。日本の居住者の定義などから始まって、全体にくわしい記述がなされています。
 乙は知らなかったのですが、たとえば、p.77 ではこんな話があります。日本人甲が10年前からA国に移住していて、その配偶者もA国に10年在住しているとします。その場合に、甲が配偶者に日本の有価証券を贈与すると、それは日本の贈与税の対象になるとのことです。受贈者が日本に住んでいる場合、勤務でB国に在住4年の場合、それにもちろんこの配偶者のようにA国に住んでいる場合を分けて、甲の贈与財産をA国の不動産、A国の有価証券、B国の預金、B国の不動産などに分けて、それぞれが日本の贈与税の対象になるか否かを述べています。いやはや、むずかしいものです。
 第3章「米国」第4章「カナダ」第5章「オーストラリア」第6章「ニュージーランド」第7章「スイス(チューリッヒ州)」第8章「ドバイ」第9章「シンガポール」第10章「マレーシア」第11章「タイ」第12章「ベトナム」第13章「香港」は、それぞれの国ごとの税制を記述しています。居住者・非居住者の定義から始まって、日本の各種収入、当該国での各種収入をどう扱うべきか、贈与税や相続税がどうなっているか、二重課税の調整法など、興味深い内容です。各章がほぼ同じ構成で書かれているので、移住先を比較検討する際にも便利です。
 乙は、アメリカでの相続について考えたことがありましたが、
2010.8.31 http://otsu.seesaa.net/article/161081438.html
本書で、かなり詳しく知ることができました。
 たとえば、p.111 では、遺産税について、遺産が100万ドルまでは統一税額控除でほぼ無税にできるようです。これはアメリカに住んでいる人の場合で、アメリカに居住していない人の場合は異なります。けっこうな額です。まあ、アメリカにはあまり移住したいと思わないのですが、こんな知識を知っているのと知らないのでは大違いです。
 なお、乙が上記のブログ記事で問題にしたのは、日本にいながらアメリカの株を買ったりするとアメリカに財産がある形になるということで、ここでの問題とは別です。
 国ごとに税制には大きな違いがあるものです。本書でそれを一覧表のように知ることができた点に意味がありました。
 国ごとのページ数が大きく異なります。
 米国 39p. カナダ 19p. オーストラリア 15p. ニュージーランド 25p. スイス 19p. ドバイ 11p. シンガポール 25p. マレーシア 17p. タイ 19p. ベトナム 31p. 香港 8p. です。米国とベトナムがページ数が比較的大きく、香港は薄くなっています。これは、各国の税制の複雑さを表しています。米国は税制が複雑です。香港は、贈与税・相続税がないので、両方合わせて1行しか記述がありません。香港では銀行の利子も非課税です。記述は簡単でも十分ということになるわけです。
 というわけで、海外移住を考える上では、本書は大変有効な指南書になるでしょう。
 乙は、本書を図書館で借りて読んだのですが、自分で買って読んでもいいと思いました。もっとも、今買っても、移住を実現するまでは15年くらいかかりますから、読んだ知識が陳腐化しそうです。具体的に移住を考える段になってから、改めて買うのがよさそうだと思いました。もしかして、そのころには改訂版が出ているかもしれませんし……。


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2010年09月20日

鈴木亘(2010.7)『年金は本当にもらえるのか?』(ちくま新書) 筑摩書房

 乙が読んだ本です。
 とてもわかりやすい年金の本です。
 「はじめに」がおもしろいです。なぜ年金の本はむずかしいかという疑問から入ります。それは、厚生労働省のお役人が、自分たちへの批判を避けながら、国民を情報操作するために書いているからだと喝破しています。
 本書は、そうではありません。鈴木氏が日本の年金の全体像をわかりやすく(お役人とは別の目で)説明しようとしているからです。
 まさに新書にピッタリの内容でした。
 本書は、18の質問に答える形で書かれており、著者の鈴木氏が真正面からそれぞれの問いに答えようとしているため、わかりやすくなっているのだと思います。
 p.64 では、年金の国庫負担分について「社員旅行の積立金」のようなものと説明しています。幹事が「社員旅行に来ないと積み立てた旅費を返さないよ。来ないと損だよ」と言ったら、普通の人なら怒り出す、社員旅行に来ない人には積立金を返還するのがスジだと書いてあります。
 しかし、乙はそうは思いません。旅行に行かない人には積立金を返還する必要はなく、その分は、旅行に行った人が、自分の積み立てた分よりも少しだけ豪華な旅行にして楽しんでかまわないのではないでしょうか。そういう積立金を個々に返還していたら、社員旅行に行かない人がさらに増えて、仕組みそのものが崩れると思います。
 p.118 では、基礎年金を税方式にするべきだという話の続きで、なぜ年金を税にしないのかを説明しています。ひとことで言えば、年金特別会計をにぎっている厚生労働省のお役人たちが、天下りなどの自分たちの権益を手放そうとしないためだとしています。この考え方が本当かどうか、わかりませんが、そう考えると、さまざまな年金問題にからむゴタゴタがすっきり見えるようになることは事実です。乙はこの説明に納得しました。
 p.140 では、基礎年金の25年ルール(年金保険料を25年間払い続けないと受給資格がない)を10年とかに短縮することに意味があるかを論じています。実は意味がないということです。乙は、25年は長すぎると思っていたので、短縮案に賛成だったのですが、ここの説明を読んで、そう簡単な話ではないと気づきました。単純に言えば、短縮案は低年金の人を増やすだけだということです。意外な結論でした。
 p.79, p.150, p.226 には、それまでに論じてきたことを1ページにまとめたところがあります。頭の中を再整理するのに便利なように思いました。一気に読む場合は問題ないのですが、少しずつ読み進める場合は、こういうのがあるとありがたいです。
 そして、巻末には、もらえる予定の年金額を記載した表が付いています。生まれ年だけでなく、共働きか専業主婦か、月収はいくらか、など条件を変えて複数の表になっていますので、多くの人が自分の年金を概算することができると思います。これは便利です。
 乙は、自分の年金の予想額を知って、意外と多いことに驚きました。たいていの人は、こんなことも知らずに生活しているものでしょう。
 もっとも、いざ、年金をもらうころになったら、制度の「改正」があって、実質的には受取額が減ってしまうものと覚悟しています。「100年安心プラン」なんてウソで、たぶん10年も安心できないものと思っています。
 しかし、仮に年金が2割減となっても、日常の生活には困らない程度になりそうです。
 老後の生活を考える上でも有益な本でした。


ラベル:鈴木亘 年金
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2010年09月18日

週刊ダイヤモンド 2010.9.18 特集「壊れる大学」

 乙が読んだ雑誌です。今回の特集は、大学です。
 pp.36-88 まで、50ページの特集です。(広告が入るので、正味はもっと少ないですが。)
 大学問題は、投資と直接関連するわけではありませんが、これからの日本の方向性を考える上で、ちょっと目を通しておこうと思って、駅で見かけたときに買いました。
 Part 1 では、「瀬戸際に追い込まれた大学」ということで、「危ない大学」の名前が具体的に挙げられています。実のところ、日本には乙が聞いたこともないような大学がいろいろあるものだと思いました。最近開学したような大学も多いようです。ここで名前を挙げられた大学は、これからいよいよ倒産(大学閉鎖)するのではないかと思いました。今の日本には大学が多すぎるように思います。
 Part 2 は「大学ルポ・生き残り大作戦」で、それぞれの大学の学生集めに関する各種作戦が書かれていました。乙が経験した数十年前の大学とはまるで違ってしまっています。大学はこんなことでいいのでしょうか。いやまあ、倒産するよりは、何としても生き残った方が(大学関係者には)いいのでしょうね。
 Part 3 は「驚愕の学歴ロンダリング」です。これは、神前悠太他(2008.12)『学歴ロンダリング』光文社 の一部を抜き出したような内容で、もとになった本を読む方がはるかにマシです。大したことない大学に入った場合でも、東大の大学院に入り、「東大大学院修了」という学歴を身につけることを「学歴ロンダリング」と呼ぶわけです。
 もっとも、乙は、学歴ロンダリングが本当に有効なのか、よくわかりません。
 某企業の担当者から聞いた話では、すでに学歴ロンダリングということが知られているので、採用人事では、応募者が学部レベルでどの大学に入ったかを見るもので、大学院レベルは重要視しないなどということでした。この本(およびこの雑誌記事)がいうように、今でも学歴ロンダリングが有効な会社もあるのだろうと思いますが、そればかりではないと思います。
 まあ、それはともかく、各大学の大学院も壊れつつあるようです。
 Part 4 は「「財務状況」ワーストランキング」です。全国537私大のランキングです。壮観です。ワースト10あたりは早々と退場を迫られるのではないかと思われます。

 それにしても、日本はずいぶん大学が多いと思います。18歳人口の半分が大学に進学する時代になりましたが、そんなにたくさんの人が大学に行って、いったいどうするのでしょうか。人口の半分が進学する時代では、大学レベルの教育は本当にその質を保てるのでしょうか。絶対に無理です。今の学生たちの親の世代がお金に余裕があるのでこんなことになっているのではないかと感じています。
 どう考えても、閉学すべき大学がたくさんあるように思います。(関係者の方々には厳しく響くと思いますが、……。)
http://dw.diamond.ne.jp/?banner_id=t1dia017

diamond-hyousi
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2010年09月16日

内藤忍、小松原宰明(2010.6)『投資信託は運用会社で選べ!』ユナイテッド・ブックス(阪急コミュニケーションズ)

 乙が読んだ本です。「主要運用会社31社の実績と評価2010年度版」という副題が付いています。
 この副題によれば、近いうちにデータを改めた○○年度版が出るようです。期待しています。
 本書は、今までにない投資信託の本です。タイトルが強烈な個性を物語っています。各社にアンケート調査をおこない、その他の資料とつきあわせて、それぞれの運用会社を評価しています。評価基準については、第3章でくわしく検討しており、納得できます。第4章では1社ずつ評価しており、ここが本書の中心です。
 いわれてみればなるほどと思いますが、なぜ類書がなかったのでしょうか。このあたり、各運用会社の情報のディスクロージングが不十分だったということを物語っていそうです。
 乙は、最近、投資信託をあまり活用していませんが(ETF が中心です)、さわかみファンドにはそれなりの金額を入れており、関心を持っています。それに、今は保有していなくても、過去に保有していた投資信託も多いので、他人事とは思えませんでした。購入したころ、こういう本を読んでいたら、判断も相当に違ったものになったことでしょう。
 ともあれ、投資信託の世界に新風を吹き込んだ企画に拍手したい気分です。
 あ、そうそう、18ページからの「個人投資家が犯す7つの間違い」も必見です。以前の乙のことが書いてあるような気がして、思わずにんまりしてしまいました。


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2010年09月10日

高橋洋一(2010.5)『日本の大問題が面白いほど解ける本』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。「シンプル・ロジカルに考える」という副題が付いています。
 本書のタイトルが中身を表しています。
 いろいろな問題について、高橋氏が「解答」を示すというスタイルで書かれています。
 各章のタイトルとページ数を示すと、以下のようになります。
 第1章「民主党の政策の大問題」120ページ
 第2章「社会保障制度の大問題」24ページ
 第3章「税の大問題」18ページ
 第4章「地方分権の大問題」10ページ
 全体は4章構成ですが、第1章がかなりを占めることがわかります。第2章以下も、今の民主党政権の考え方の問題点を示し、代案を提示するというスタイルで書かれています。つまり、民主党の政策の問題点を指摘することが記述の中心というわけです。
 もっとも、この記述のしかたが成功しているといえるのかどうかはわかりません。p.40 では「民主党には成長戦略がないけど大丈夫?」という問いがあるのですが、産業政策は一度も効いたためしがないということを2ページほど述べ、ほぼこれで終わっているようなものです。その後、ハローワークを国でやる必要はないという話になります。そして、自分自身で経験したハローワークの対応の問題点が4ページほど続くのですが、これは、この部分の問いに対する解答になっていません。自分のグチを語っているようなものです。
 乙がちょっと意外に思ったのは、為替について述べたところで、p.67 にはこうあります。
 多くの人にとってあまり関心が強くない中長期の為替の動きについては、かなりの程度説明することができます。長期の動きについては「購買力平価」という物価の面から、中期については「金利差」の面からこれを行うことができるのです。

 はっきり断定的に書いてあったことに驚きました。
 もっとも、中期と長期の違いといってもどのあたりでそれを区分していいるのか、両者の接続部分でどのようにすりあわせが行われるのか、よくわかりませんでした。
 いろいろな問題にズバリ解答が書かれていて、わかりやすかったと思います。

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2010年09月08日

田原総一朗、猪瀬直樹、財部誠一、花岡信昭(2010.6)『壊れゆく国』日経BP社

 乙が読んだ本です。「なぜ日本は三流国に堕ちたのか」という副題が付いています。
 本書は、nikkei BPnet の「時評コラム」に掲載された記事をもとに構成したものです。
 乙は田原氏のコラムは以前から定期的に読んでいました。あとの3人のは読んでいませんでした。
 本書を読んで驚いたことといえば、6月28日刊行のもので、2009 年の政権交代以降の話しか書いていないのに、9月段階でもう古くなっていると感じたことです。この1年の政治・経済の変化の大きさを感じさせます。
 にもかかわらず、本書で提言されていることは、今でも有効であるということです。民主党政権になってからほとんど何もやられてこなかったことがわかります。
 各章ごとのページ数を示すと、次のようになります。
 第1章「日本経済の国際的地位と課題」田原総一朗 8ページ
 第2章 対談「田原VS猪瀬」日本はどうしたら再生できるか 31ページ
 第3章「「政治とカネ」「普天間問題」に本音で切り込む」田原総一朗 56ページ
 第4章「黙ってはいられない、「高速道路問題」「地方分権」」猪瀬直樹 59ページ
 第5章「国際戦略につまずく日本企業を叱咤する」財部誠一 22ページ
 第6章「保守派が喝破する民主党政権の危うさ」花岡信昭 35ページ
 というわけで、かなりの部分は田原・猪瀬両氏の手によるものです。そういえば、表紙の著者名をよく見ると、4人が併記されながらも、田原・猪瀬両氏がやや大きな活字で印字されています。
 乙が一読した感じでも、田原・猪瀬両氏のところがおもしろく感じました。
 本書の内容は、上記の目次を見るとだいたいわかると思います。今問題になっている政治・経済のメインテーマに関して4人がそれぞれの立場で意見を述べているというものです。
 どの章も具体的に書かれていて、読みごたえがあります。とはいえ、田原総一朗氏のコラムは
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20080923/100463/
にありますし、猪瀬直樹氏のコラムは
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20080923/100453/
にありますから、それらを直接読めば無料で済んでしまうので、それでもいいのではないでしょうか。
 本書を読んでから、乙は猪瀬氏のコラムも定期的にチェックするようにしました。


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2010年09月01日

鈴木亘(2010.7)『社会保障の「不都合な真実」』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「子育て・医療・年金を経済学で考える」という副題が付いています。
 鈴木亘氏といえば、「保育園問題をミネラルウォータにたとえると」
2010.8.28 http://otsu.seesaa.net/article/160795171.html
と同じ筆者です。期待できます。
 本書は、一読して、大変おもしろく思いました。
 1章のタイトルは、本のタイトルと同じです。本のタイトルをここから取ったということでしょう。
 日本の人口減少・少子高齢化という現状では、今まで通用していたビジネスモデルが通用しないわけですが、日本は、それまでの成功体験の故に、ビジネスモデルを変えることはきわめてむずかしいとしています。納得しながら読み進めることができました。
 2章「子ども手当は子どものためか」では、子ども手当の問題点を論じています。また、保育園の待機児問題を取り上げ(ミネラルウォータにはたとえていませんが)、両者を一括して解決する方策として、「子ども手当のバウチャー化」を提案しています。
 乙は、個人的には、p.54 以降で論じられる「病児・病後児保育は保険制度で」という提案が大変おもしろかったです。この問題は、保育園を利用しつつ働いている人にとっては実に大きな問題です。乙の場合も、子どもが小さかったころは、妻と仕事の調整をしながら、どちらかが休んだりして、がんばってきました。休みの日であるにもかかわらず、どうしても仕事の一部をしなければならなかったときは、子どもを勤務先に連れて行ったこともありました。短時間で済む仕事だったので、周りに甘えたかっこうです。そのような経験を通して、子どもを保育園に入れたとしても、子どもが病気をすると、とたんに大変になる現実を実体験として知りました。
 鈴木氏によれば、それが保険でカバーできるというのです。病気をしなくても、保険料を払い続けなければなりませんが、いざというときのことを考えれば、実際そういう保険があったら、保険料がかなり高くても、加入する人は多いでしょう。
 3章「社会保障は貧困を減らせるか」では、貧困対策と貧困ビジネスの問題を論じています。無料低額宿泊所に対しても、民主党のいうように直接規制では問題は解決せず、(むしろ問題を悪化させ)貧困者をさらにまどわせることになるとのことです。
 4章「年金は本当に大丈夫なのか」は、乙にとっても関心が高い年金の問題を扱っています。旧自公政権の「百年安心」年金は、全然安心できないこと、国民はその実態を理解していないことを解説しています。そして積立方式を提案しています。
 5章「介護難民はなくせるか」では、無届施設に押し寄せる「介護難民」の問題を論じています。介護労働力不足が一番の問題だと思いますが、低賃金労働では、改善はむずかしいでしょう。鈴木氏は、サービス価格の自由化と「混合介護」の導入を説いています。経済学から考えると、なるほどと思わせます。
 6章「医療を誰が支えるか」では、医師不足問題と後期高齢者医療制度の問題を取り上げています。ここでも積立方式が提案されています。
 7章「財政破綻は避けられるか」では、日本の社会保障費の膨張の問題を取り上げます。このままでいくと 2010 年代には財政危機となると予測しています。どうにも大変なことになりそうです。
 それぞれの章は違った話題を取り上げていますが、著者の鈴木氏は豊富なデータを基に、きちんとした一貫性を持って各問題を扱っています。読んでいて実に気持ちがよかったです。こういう人が政府の中心部に入り、首相に各種提言をするようなことにでもなれば、日本は大きく変われるのになあと思いました。
 現実の政治は、いろいろなドロドロがあるのでしょうが、それにしてもわかりにくいものになっています。政権交代して1年経ちましたが、日本の政治は変わっていないと思います。民主党政権になれば、政治がもっとドラスティックに変わるのかと思っていましたが、全然そんなことはありません。
 こういう本を読んで、溜飲を下げる思いです。
 日本の現状を憂える人に、日本に未来を考える人におすすめの1冊です。

参考記事:http://agora-web.jp/archives/1053712.html


ラベル:鈴木亘 社会保障
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2010年08月22日

浅川芳裕(2010.2)『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)講談社

 乙が読んだ本です。「大嘘だらけの食料自給率」という副題が付いています。
 一読して、驚きました。大変おもしろい本です。日本の農業のこれからを真剣に考えた書です。データも豊富で、グラフや数表などがちりばめられ、それに基づいた議論が展開されます。
 全体の主張は、「日本の農業は弱体化しているわけではない。」ということです。あたかも日本の農業は先行き真っ暗であるかのような見方が支配的ですが、これは農水省の見せかけ作戦にすぎないというわけです。
 第1章「農業大国日本の真実」は、タイトルに一番近いところです。食料自給率などという、日本以外では使われてもいない指標で日本の農業が不十分なままだと見せかける日本の政策を批判しています。
 まったく同感です。食料自給率なんて無意味です。そんなことをいうなら、食料以上にエネルギー自給率をどうするのか、考えておいたほうがいいです。石油なんて、日本の首根っこが完全に押さえられているわけですから、こういうところをそのままにしておいて、食料自給率だけをどうこうするという考え方自体がおかしいものです。
 乙は、むしろ、世界中のあらゆるところから食料を輸入するようにすることが、食糧難に関する一番の安全策であるように考えます。(イギリスがそのような考え方に立脚しているとのことです。)
 第2章「国民を不幸にする自給率向上政策」は、第1章の継続で、自給率を上げようとすること自体を批判しています。これまた説得力がある章です。乙が一番おもしろく思ったのは、p.66 で、自給率が低い小麦や大豆を作ることに対して「転作奨励金」が出るわけですが、これがかえって小麦の生産にマイナスになっているというのです。農家としては、小麦や大豆を作るだけで補助金の形で収入になるため、品質の向上には取り組まないというわけです。したがって、国産の小麦は品質が悪く、外国産のほうがはるかによいということになります。7兆円の転作奨励金によって、経営努力を放棄した農家を作り出し、品質のよくない在庫の山を築いただけだということになります。転作奨励金という補助金が農業をダメにしている一例です。
 第3章「すべては農水省の利益のために」では、農水省をめぐる闇の一部を赤裸々に描いています。役人の天下り先としてのおかしな団体も登場します。そんなところがボロ儲けをしているわけです。その分、消費者は高いものを買っていて、余計な金を負担しているわけです。第1章から第2章で述べてきた日本の負の側面の主人公がこうして暴かれます。
 第4章「こんなに強い日本農業」では、日本の農業が生産性を向上させてがんばっている姿が描かれます。
 第5章「こうすればもっと強くなる日本農業」では、農業の改善のために、具体的な政策が提言されます。これまたおもしろい発想です。
 第6章「本当の食料安全保障とは何か」では、日本の政治的な問題も含めて、浅川氏の考える食料安全保障の姿が描かれます。
 第6章まで読み進めてくると、著者の浅川氏が農業を中心としつつも広い視野を有していることがわかります。その視野を基準に第1章以下を書いてこられたわけです。具体論から始まって、だんだんズームアウトして世の中の農業関連を広く見渡していくという書き方は大いに成功していると思います。
 多くの方におすすめしたい良書だと思います。


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2010年08月12日

菅下清廣(2009.11)『世界のマネーは東へ動き出した!』フォレスト出版

 乙が読んだ本です。「国際金融のトップしか知らない! 2010-11年の世界経済シナリオ」という副題がついています。
 副題につられて読むことにしたのですが、一読した結果、この本は他の人におすすめできないと思いました。国際金融のトップたちがこの本に書いてあるようなことを考えているとは、とうてい思えません。
 あえていえば、過去数年間で乙が読んだ本の中でも最悪の部類に入るかもしれません。(失礼な言い方で恐縮です。)これは著者が悪いのではなく、こういう著者に話を持っていった(あるいは著者から持ち込まれた企画をきちんと評価することができなかった)出版社(の編集部)の問題でしょう。
 まずは全体に関わる問題点について述べましょう。
 第1に、参考文献が一つもあげられておらず、図表が1枚もありません。それどころか、西暦の暦年表示や日経平均株価、GDP 以外には、まったく数字が出てきません。著者が何に基づいて話を進めているのか、ぜんぜんわかりません。本書中にはさまざまな「予測」が出てきますが、それらは「勝手なたわごと」にすぎません。「勝手なたわごと」でないということを主張するためには、なぜそのようなことがいえるのか、その「根拠」が必要です。乙は、一般にそういうものが図表で示されることを好みますが、別にそれにこだわるつもりもありません。しかし、本書中の記述では、「何かに基づいて議論をすすめる」という態度がまったく見られません。著者紹介によれば、著者は立命館大学経済学部卒業とのことですが、乙は、まるで著者は卒業論文を書いたことがないかのように思えました。
 第2に、用語に関する著者の勘違いが目に付きます。一義的には著者の責任ですが、編集者がきちんと原稿を読んでいないという点で、編集者(および出版社)の責任も大きいと思います。
 たとえば、「大鑑巨砲主義」(正しくは「大艦巨砲主義」)があります。p.27, p.28, p.32, p.42, p.156 に現れます。5ヶ所に現れるということは、ミスプリではなく、本人の間違った思いこみです。
 さらには「マニュフェスト」(正しくは「マニフェスト」イタリア語 manifesto)があります。p.159 および p.168 に使われます。p.168 では、節の題名に使われ、したがって、目次にも現れています。
 ミスプリも当然あります。p.83 では、「1ドル50円〜60年を目指すようなドル安」がゴチックで現れます。こんなところのミスプリは目立ちます。
 さて、以下では、個々の問題点について述べましょう。
 p.2 の「まえがき」では、「本書では、【中略】「独自の人脈」「独自の情報網」「独自の分析」を活かした2010年から2011年にかけての経済シナリオを紹介していきます。単なる予測ではなく、「独自の人脈」「独自の情報網」「独自の分析」から得た確度の高いシナリオになります。」とあります。2回も同じ語句が繰り返され、そこがゴチックになって強調されています。
 「独自の人脈」はどういうものなのでしょうか。もしも、本当に著者独自の人脈があるなら、その当該人物の交際範囲はきわめて狭いものになるでしょう。さもないと「独自」の人脈ではなくなってしまいます。端的に言えば、当該人物は著者だけに接するような人です。でも、他の人といっさい接触しないような「重要人物」がいるでしょうか。そんな人が本当に「重要人物」でしょうか。
 逆に、さまざまな人と接する人がいれば、著者のいう「独自の人脈」ではなくなってしまいます。
 以上のことにより、「独自の人脈」ということ自体、矛盾を内包しているといえます。
 「独自の情報網」も「独自の人脈」と同じように矛盾する概念です。
 「独自の分析」はありえます。しかし本書中には「分析」といえるようなものは何一つ書かれていません。データが何もない場合に、何をどう分析できるのでしょうか。
 ところで、なぜ著者は本を書くことになるのでしょうか。「本当に確度が高い予測」ができる場合は、こんな本を書くのではなく、その予測を活かした大儲けをねらうべきで、その手段は、証券会社や投資銀行を渡り歩いた著者ならば熟知しているでしょう。そういうことをせずに、こんな本を書いているのはきわめて不合理です。
 p.4 では、こんな話が出てきます。2010年の初頭に言及して「もしかすると年初に大雪が降るかもしれません。逆に異常に暖かいお正月を迎えるかもしれません。年頭の天候異変は“大きな変化”の前ぶれになるというのが歴史の法則です。」ここでいう「大きな変化」は、政治的な、あるいは経済的な変化のことです。著者がまじめにこれを信じているならば、もうこの先を読む必要がないレベルの発言です。信じていないならば、こんな不用意なことを著書中に(たとえ「まえがき」であっても)書くべきではありません。
 pp.55-56 では、3年くらいを周期にして相場のサイクルがあるとし、以下のように述べます。「警戒ポイントのひとつめは、2010年の夏から秋にかけての時期です。【中略】2つめは、2011年の春です。【中略】私は、その時期に「2番底」がやってくる公算はきわめて高いと見ています。」第2章のタイトルは「2番底は必ず来る!」ですが、その根拠は相場のサイクルだけのようです。
 p.94 では算命学
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%97%E5%91%BD%E5%AD%A6
が出てきます。p.105, p.106, p.117, p.151 にも出てきますので、著者は本当に信じているようです。こういう本は珍しいものです。
 p.120 では、2010年にアジアG5、G7 のような動きが起こってくると予想しています。
 p.141 では、「民主党政権に対する国民の支持率は、向こう4年間、相当に高い状態がつづくのではないか」としています。本書が書かれたのは2009年の9月頃でしょうが、そのころの雰囲気ではさもありなんでしょうね。しかし、民主党政権支持率のその後の急激な変化は著者の予想を大きく超えるものでした。
 p.141 では、著者のいう楽観シナリオと悲観シナリオを比べて「私は、おそらく楽観シナリオに近い方向に進む、と予測しているのです。」と書いています。楽観シナリオでは、p.137 にあるように「2020年までに在日米軍が撤退する」のだそうです。乙は、これはないと予想します。
 p.168 以降では、鳩山首相の「2020年までにCO2を25%削減」という宣言を高く評価し、日本が大きく変わるだろうと述べています。乙は、それはないだろうと予想します。そもそもCO2削減案の世界的合意が無理である上に、もしも合意ができたとしても、日本の 25% 削減も非常に困難で、排出権取引という形で日本は外国に金を配るだけになるだろうと予想します。
 他にもいろいろとメモを取ったのですが、長くなるので、このあたりでやめておきます。ここまでに示した部分だけでも本書の内容が類推できるのではないでしょうか。
 この本を読んで、自分の時間を損したとは思いません。
 反面教師も存在意義はあるものです。
 本書のどこが問題かを考えることは、自分の考え方を形作っていく上で意義のあるものと思います。
 本書は 2009年11月の刊行ですが、2010年夏の時点で、もう賞味期限が切れてしまいました。もともとその程度の本でしかなかったということです。


ラベル:菅下清廣
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2010年08月01日

辛坊正記・辛坊治郎(2010.4)『日本経済の真実』幻冬舎

 乙が読んだ本です。「ある日、この国は破産します」という副題がついています。
 乙がおもしろいと思ったところがいくつかあります。
 まず、pp.145-146 です。日本の国債がどうなっているかを友達に金を貸した場合で説明しています。
 友達があなたから100万円借金をしていて、あなたに90万円くれたとします。友達が再度100万円借りるとすると、あなたは手元の10万円と友達からもらった90万円で100万円を貸すことができます。
 これを繰り返すことで、たとえば、190万円のお金があれば、1000万円を貸し付けることができるというわけです。これが日本の国債だというわけです。ここからの結論は、p.146 に書いてあります。「見かけ上の国民の貯蓄額と、国の借金の残高だけから単純に破綻の時期は推定できない」ということです。乙は、なるほどと思いました。どんどん国債を発行せよ(そうしても日本は破綻しない)という主張がありますが、乙はそれは間違っていると思います。なぜ間違っていると思うかをきちんと説明することはむずかしいのですが、ここでの比喩でなかりわかるような気がしました。
 本書は、第5章「日本を滅ぼす5つの「悪の呪文」」が一番おもしろいと思いました。こんなことを言っているとダメだという例です。

・経済の豊かさより心の豊かさが大切
 ブータン流ではダメだと喝破しています。
・大企業優遇はやめろ!
 大企業こそ優遇せよと主張しています。
・金持ち優遇は不公正だ!
 子ども手当の所得制限などはおかしな話だと切って捨てています。
・外資に日本が乗っ取られる
 外資が日本に投資してくれるのだから、ありがたい話だと説きます。
・金をばらまけば、景気がよくなる
 新しいサービスや産業を産み出していかなければならないとしています。

 これらの5つの呪文はいろいろなところで聞こえてくる言説です。そうではないのだときちんと述べているところはわかりやすく、すっきりした気分になれます。
 おまけに、「おわりに」の中ですが、p.214 で、経営は前例、他社、当局を見ていれば簡単にできるとしています。単純ですが、日本的経営の本質をついているように思いました。今後はそんな簡単な話ではなさそうですが、今まではそんなことも多かったように思います。
 すっきりした気分になれる本です。


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2010年07月23日

海老原嗣生(2009.5)『雇用の常識「本当に見えるウソ」』プレジデント社

 乙が読んだ本です。
 タイトルが内容を物語っています。
 今の日本の雇用情勢に関して、さまざまなウソがはびこっているということで、データで反論しています。
 たとえば、終身雇用は崩壊したといわれていますが、そんなことはなく、崩壊していないということです。
 転職が一般化したともいわれていますが、ちっとも一般化していないとのことです。
 派遣社員の増加は正社員のリプレイスが主因ではないとか、正社員は減っていないとか、けっこう目からウロコの主張が並びます。しかも、データで裏付けられていますから、一般に流布している俗説の方が間違いであると思われます。
 p.119 では、正社員が非正規社員になったわけではなく、かつて零細商工の従業員だった人が非正規なったと書いてあります。単なる統計を見るのでなく、その裏側を解明していると思います。
 p.167 では、日本の雇用に関して、正社員のクビを切れないから、クビを切らなくて済むしくみを作ったとあり、現在のしくみをひとことでまとめています。これは、はたと膝を打つ感覚でした。
 また、p.196 では、為替レートと関連付けて日本の人件費を論じていますが、まさに為替レートの大きな変動が日本のあり方を変えたのだということがわかります。日本はいまさら円安の世界には戻れないでしょう。だとすれば、今後どうするべきかも自ずと方向性がはっきりしてくると思われます。

 本書は、全体としておもしろい本だと思いますが、本書中の決定的な間違いが気になりました。
 第1は、p.125 の図表12−1で「各国の失業率推移」を示していますが、縦軸が%で示されているのですが、軒並み数十%になっています。ここは軸の目盛りが違っています。
 第2に、p.137 ですが、「調査労働者(年)」という欄があります。数値は、6桁くらいのものがずらりと並んでいます。「年」が単位であるはずがありません。また、勤続年数(年)のところも、2桁から4桁くらいの数値が並んでいます。こちらも「年」が単位であるはずがありません。

 データに基づいて論じていく本であるだけに、図表の間違いは致命的です。
 とはいえ、全体の主張は納得できるように思います。テレビやマスコミに登場するお手軽コメンテーターは、海老原氏の態度を見習うべきでしょう。


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2010年07月12日

竹中平蔵(2009.11)『「改革」はどこへ行った?』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「民主党政権にチャンスはあるか」という副題がついています。
 一読して、竹中流の考え方に染まるような心地よさを感じました。日本が直面するさまざまな経済上の問題について明確に論じます。単なる評論家とは違った、かつて政権中枢にいた人のことばだけに、具体性があると思いました。
 第1章「逆戻りした日本――小泉語の日本経済――」では、今の日本経済について、ひとことでいえば「改革を止めたからダメになった」という見方を展開しています。乙は、かなり納得しながら読みました。
 第2章「ずさんな政策論議――「100年に一度」という言い訳――」では、今、あちこちから聞こえてくる政策論議を切り捨てます。「植物学者が優れた庭師になれる保証はない」ということで、政策を担当する人と、評論家を峻別しています。
 p.89 では、「政策論に関しては民間には知恵がほとんどありません。」と述べています。乙としては、これはちょっといただけなかったですねえ。竹中氏のおごりではないでしょうか。竹中氏が大臣や参議院議員として政治に関わるようになる前は「民間人」だったのではないでしょうか。そのころの竹中氏には知恵がなかったのでしょうか。
 第3章「誰が日本の前進を止めたのか」が(乙としては)一番おもしろいところでした。日本のさまざまな「抵抗勢力」について述べています。
 p.110 では、官僚が経済財政諮問会議を利用して主導権を取ろうとしていることを批判しています。役人の書いたペーパーが経済財政諮問会議に出てくるようになってくると、そこに総理大臣がいることで、いわば総理大臣も認めたということになってしまうと述べています。なるほど、官僚の狡猾なやり方がわかる書き方です。
 p.138 からは、「増殖するワイドショー・ポリティクス」という題で、竹中氏はテレビのワイドショーなどを批判しています。野球の評論家は元プロ野球選手であり、そのようなプロだからこそ語れることがあるのに、政策の評論をしている人はみんなアマチュアであり、議論のレベルが低いとしています。確かにそうかもしれません。しかし、乙はちょっと違う感想を持ちました。今の政治のしくみを考えれば、国民が選挙で議員を選ぶようになっており、いわば一番アマチュアらしい人が一番強い実権を握っているともいえるわけです。つまり、プロはプロとして存在理由はあるけれども、そういうプロを選ぶのがアマである以上、アマにわかりやすい話をしなければならないと思うのです。「プロでなければわからない」ということをいっていると、正しい民主主義は根付かないでしょう。手間がかかっても、国民に懇切丁寧に説明し、納得してもらえるようにしなければなりません。これを省くと、「俺についてこい」的な、言い換えると独裁的な政治家が登場するでしょう。乙は、こちらのほうがきらいです。手間がかかっても、みんなで議論していきたいと思います。
 第4章「それでも日本経済は強くできる――再生への四つの提言――」では、実際には五つの提案をしています。法人税減税、ハブ空港・オープンスカイ、東京大学民営化、農地法の改正、インフレ目標の導入です。だいぶ意外な気がします。論拠など詳しくは本書を読んでいただきたいと思います。本書を読むともっともな話に聞こえますが、後から考えてみると、この五つというのは、ずいぶん独創的な話のように思えてきました。日本経済を強くするために、この5点が挙げられるのですからねえ。
 とにかく、行うべきことがたくさんあるというのはその通りです。
 第5章「民主党政権にチャンスはあるか」は、今回の参議院選挙の結果からもうかがえるでしょう。
 全体としておもしろく読めました。


ラベル:竹中平蔵 改革
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2010年07月08日

若林亜紀(2008.3)『公務員の異常な世界』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「給料・手当・官舎・休暇」という副題が付いています。
 本書の内容をひとことでいえば、「公務員はこんなに優遇されている」ということを縷々述べたものです。
 著者自身の経験と、いろいろな新聞記事などから事実を集めていますので、書いてある内容はウソではないのでしょう。しかし、ここに書かれていることがどのくらい多いのか、それはわかりません。事件性のあるものを取り上げて面白おかしく書いているように思います。
 乙も、ずっと公務員(国家公務員→地方公務員)だったので、自分の周辺を見渡して感じましたが、確かに、一部に暇な人がいる(いた)のは事実です。しかし、多くの人はまじめに勤務しており、ごく一部の人を取り上げてルポ風に描いても、それでは全体を見たことにはならないと思います。
 そんなに公務員が楽で給料をたくさんもらうならば、学生の新卒者などでもっともっと公務員人気が上がりそうなものです。現実はさほどでもなく、適当なところで折り合っています。ということは、本書では触れていない「公務員のマイナス面」もあるのではないでしょうか。
 たとえば、公務員宿舎ですが、本書中(p.122 以降)では便利なところに格安家賃で住めると書いてあります。しかし、乙自身の経験(ずいぶん前ですが)では、結婚後、公務員住宅に申し込もうとしても、遠くて狭くて不便なものしかなかったと記憶しています。乙のいたセクションは、手持ちの公務員宿舎があまりなかったのかもしれませんが。
 というわけで、例外的なものだけを書いても説得力はないと思います。全体的なところ、平均的なところを書かなければなりません。しかし、それでは、記述内容が平凡になり、おもしろい本は書けないでしょう。そう、公務員の実態は「平凡」なのです。大多数はそれに収まっているように思います。
 本書は、例外的なできごとをもっともらしく書いているだけのように思えました。

 著者の若林亜紀氏は1965年生まれということですから、本書刊行時で43歳です。この年齢では、社会的な経験もいろいろお持ちでしょうから、本書のようなものを書く場合、「では、今後どうしたらいいのか、どうすればそれが可能になるのか」を書いてほしかったと思います。たとえば、年度末を目指して予算を使い切る話は公務員の場合は広く行われていますが、もしも、これをなくそうとする場合、どうしたらいいでしょうか。現状では、一つのセクション(サイズは何でもいいですが)だけが「予算を余らせる」ことはできないと思われます。そんなことをしたら、他のセクションから「あそこは予算を余らせた、つまり、当初予算が多すぎたのだ。だから次年度から予算を減らすべきだ」という声が上がるでしょう。どうしたらこういう声が上がらずに、公平に予算を使っていくことができるかが問題です。「翌年度繰越」も、同様の意味でむずかしいものだと思います。
 「予算を使い残したら、翌年度給与アップ」などという奥の手も、よく考えてみると、うまく運営していけるのか、大いに疑問です。これらはあくまで一例ですが、若林氏なら、この問題にどういう回答を出すのでしょうか。
 本書には、こういう視点が欠けており、乙としてはかなり不満に感じました。
 乙が気になった記述に、次のようなものがあります。p.213 です。
 厚生労働省の調査によれば、05年、メンタルヘルス上の理由で休業した労働者がいる企業は、3.3パーセントにすぎませんでした。ただし、従業員100人以上の企業では16パーセント、500人以上で66パーセント、1000人以上では82パーセントと、大企業ほど率が高くなっています。大企業ほどストレスが溜まるというより、大企業ほど制度が整って交代要員もあり、休業しやすいのだと思われます。

 若林氏は、何の疑いもなく上のように述べています。しかし、従業員数が多くなれば、その中にメンタルヘルス上の問題点のある従業員がいる確率は高くなるに決まっています。
 たとえば、従業員100人の企業の16%が休業者ありだとしましょうか。すると、従業員500人の企業では、従業員100人の企業が5倍集まったものと同じことになりますから、休業者がいる確率は 1-0.84**5=0.582 となります。約58%になるわけです。従業員1000人の企業では、同様の計算をすると、1-0.84**10=0.825 で、約82%です。厚生労働省の調査は従業員数を適宜区分して調査していますから、そんなに簡単な話ではありませんが、少なくとも、一定の比率で休業者がいるならば、大企業ほど「休業者が一人でもいる確率」は高くなるものです。
 こんな簡単な計算をせずに(誤解して)記述しているようでは、本書全体が信頼性を失うように感じられます。


ラベル:若林亜紀 公務員
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2010年07月05日

九鬼太郎(2009.8)『“超”格差社会・韓国』(扶桑社新書)扶桑社

 乙が読んだ本です。「あの国で今、何が起きているのか」という副題がついています。
 韓国の現状を描きます。著者の九鬼氏は韓国在住の日本人起業家だそうで、韓国語に堪能だということですから、韓国の現状を余すところなく記述できるのでしょう。
 第1章「迷走する教育熱と受験戦争」では、韓国の過熱した受験戦争を描きます。高校の卒業生の84%が大学に進学するというのですから、すごいものです。そして、親を巻き込んで大変な戦争が起こっています。塾に通うために、有名塾の近隣のマンションを買って引っ越す(そして受験が終われば売って引っ越す)などと聞くと、「何もそこまでしなくても....」と思ってしまいます。子供たちの塾も、日本では考えられないくらいの長時間教育をしていて、これでは韓国の子供たちがかわいそうに思えます。まあ長時間だから深夜に子供たちが町を歩くことになり、だから塾の近くにマンションを買う必要がある訳なのですが。
 海外留学も、大学からというわけではありません。小学校からの留学も普通のことだとのことです。
 一方で、大学では休学者が続出しているとのことですし、大学の新卒者の正規雇用者が2割しかいないという就職難です。韓国はどちらを向いて走っていくのでしょうか。
 第2章は「壮絶な企業サバイバル」で、韓国企業の特徴を描いています。一言でいうと、オーナーがきわめて強いということです。どんどん従業員をクビにします。鶴の一声で会社を動かします。スピード経営といえばかっこいいですが、そういうワンマンは、反面で失敗のリスクを抱えているともいえます。非正規職者の比率が日本の2倍もあるとのことです。こういうことで会社の経営はうまく行くものなのでしょうか。長期的に見て、どうなんでしょうか。日本も今後はこういう方向に向かうのでしょうか。
 第3章は「ネット先進国の光と陰」です。日本よりも広まっている韓国のネット事情ですが、一方では、ネットで広まったデマで女優が自殺したり、ネット発信のデモや不買運動が起こると聞くと、何か、良識に欠けるように思えてなりません。韓国人は熱しやすくさめやすいのでしょうか。
 第4章は「人口構成急変の歪み」です。日本以上の少子高齢化が進行中です。農村でもさまざまな問題がありますが、国際結婚が半分もあると聞くと、大量人身売買のように思えてきます。韓国のあり方に韓国人自身がNOといっているように思えます。
 第5章は「分裂する韓国社会」です。韓国の中の対立を描きます。特に問題になるのが地域対立です。全羅道と慶尚道の対立などは特に根深いものがありそうです。このようなことでは、国としての統一性にも疑問が出てくるでしょう。
 本書は、このような五つの観点から韓国の現状を描き出します。
 韓国は、サムスンなど、すばらしい勢いで成長している企業があるわけですが、その内実を知ってみると、いろいろな問題を抱えていることがわかってきます。投資先の国としてみた場合、必ずしも全面的に明るいわけではないようです。
 本書は、韓国人もあまり語りたがらないようなところを描いており、韓国に関わる人にはおすすめの本です。
参考記事:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1706

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2010年06月27日

水木楊(2004.1)『人生後半戦のポートフォリオ』(文春新書)文藝春秋

 乙が読んだ本です。「「時間貧乏」からの脱出」という副題が付いています。
 大変変わった本でした。時間をお金に換算したり、お金を時間に換算したりして、時間とお金をトータルに考えようという趣旨の本です。
 特に、自分時間(自分の判断で自由に使える時間)を中心に記述します。自分時間が多い人は、幸せな人なのかもしれません。
 表題に「人生後半戦」が出てきます。若い人ではなく、中高年が読者対象というわけです。今まで、会社にしばられてきた人、自分の時間がなくて困っている人には大いに有益なサジェスチョンが得られるでしょう。
 自分はどんな人生を歩んでいくのか。どういう人生が実際望ましいのか。そんなことを考えさせる本でした。
 pp.143-144 では、著者の新聞記者時代のことを振り返って、40代半ば以降の「迷い」について書かれています。いっそのこと、これを「まえがき」に持って行くと、本書のねらいがずばり読者に伝わるように思いました。
 p.150 では、西所沢の 3,500 万円のマンションの話が出てきます。このレベルのマンションを賃貸で借りると、家賃は月10万だそうです。こんなのは比べるまでもなく、賃貸の方がお得に決まっています。10万の家賃では、年間120万円です。単純な利回りを計算すると 3.4% にあたります。この程度では利回りとして低いと感じます。家賃が安いか、買う場合のマンション価格が高いか、どちらかです。本書の中心的な流れとは別ですが、乙はこの部分にかなり引っかかりを感じました。

参考:
http://norafp.seesaa.net/article/151715826.html


ラベル:水木楊
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2010年06月23日

国際通貨研究所・竹中正治編(2009.9)『これから10年 外国為替はこう動く』PHP研究所

 乙が読んだ本です。
 タイトルを見て、最初は為替の高低を予測する本かなと思いました。あまり期待しないで読み始めたのですが、内容はまじめなものでした。
 以下の6章構成です。

第1章 外為相場の長期法則が予想していた円高への揺れ戻し
第2章 「米ドルが凋落する」というのは本当か?
第3章 ユーロはドルに代わる基軸通貨に台頭するのか?
第4章 高金利通貨相場は回復するか?
第5章 中国の台頭と人民元の将来
第6章 オイルマネーは「ドル離れ」をおこすのか?

 その中で、読むべきは、第1章と第4章でしょう。
 要するに、高金利通貨は長期的に下落するので、それに投資したからといって儲かるわけではない(外国通貨安=円高になる)という話です。豊富なデータを示しながら、丁寧に説明されます。納得できます。この点が第1章と第4章で詳述されるので、本書をざっと読むにはここだけ読めばいいということになります。
 もっとも、為替レートの行き過ぎはよくある話なので、うまくがんばれば、それを利用して大儲けも可能かもしれません。しかし、普通の個人投資家では、それは無理というものです。FXで儲ける人がいるのも事実ですが、損失を出す人もきっと多いことでしょう。乙もその一人でした。
 第2章、第3章、第5章は個別の通貨に関する話です。それぞれ興味深いですが、あまり新鮮味はありません。手堅い記述といったところでしょうか。

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2010年06月22日

藤巻健史(2010.3)『日本破綻』講談社

 乙が読んだ本です。「「株・債券・円」のトリプル安が襲う」という副題が付いています。
 メインタイトルとサブタイトルだけを見ると、日本破綻警告論を開陳する本のようで、伝説のトレーダー藤巻健史氏も、とうとうこういう本を書くようになったかなどと思ってしまいました。
 しかし、読んでみると、内容は全然違っていました。これからの日本経済のあり方を論じる書であり、安易な破綻本とはまるで違っています。最後に、日本破綻を避けるための提言まで書いてあり、乙は納得しながら読み進めることができました。
 1章は「「計画経済国家・日本」の終焉」というもので、ここが本書の中心です。
 今後、バブル崩壊を上回る「市場の反乱」が起こり、トリプル安が起こるだろうと予測しています。
 p.67 では、国債の金利が上昇すると金融機関は長期国債を売るという話です。一見すると、反対ではないか(これから金利が上昇するのだから、国債を買った方が儲かる)と思えるのですが、そうではなくて、金利上昇時に固定金利型の資産をたくさん保有していてはいけない(大きな損失をこうむる可能性が高い)ということで売りに回るのだそうです。この結果、国債が売られ、安くなり、つまりは国債の金利がさらに上がることになります。こうして金利の急な上昇(国債の大暴落)が起こることになるわけです。
 p.72 では、日本国債は外国人が売りに回るという話です。日本の国債は外国人の保有の割合が低いから外国人の売りは心配無用という人がいますが、それは間違いだというわけです。なぜならば、今は各種デリバティブが発達しており、現物なんて持っていなくても「売り」は十分可能だからです。ヘッジファンドなどは、日本の国債を虎視眈々とねらっているというわけです。
 pp.74-75 では、日本の国債の格付けが下がると、国債が売られるという話が出てきます。今は、世界中に債券のインデックス投資をしている機関投資家(年金基金など)があります。これらは、インデックス投資ですから、多く発行している国の債券を多く保有するように運用しています。しかし、ここで日本国債の格付けが下がると、世界の年金基金が今までのように買ってくるとは限らない、むしろ売りに回るのではないかというわけです。確かに、そういうシナリオも考えられます。
 というわけで、1章を読むと、日本が財政危機の瀬戸際に立たされていることがわかります。
 2章「グローバル化と、低迷する日本」は日本経済の低迷ぶりをグローバル化の遅れで解釈しています。もっともな議論です。
 3章「拡大なくして何の分配ありや?」では、平等に貧しい国でいいのかと疑問を投げかけ、経済成長を主張しています。郵政民営化見直し問題やJAL問題も、そのような観点から論じられています。
 4章「拡大のための「円安政策」」は、文字通り、日本は円安方向に誘導するべきだという話です。具体的にどうすればいいかまで書いてあり、まったく同感です。
 5章「拡大のための「長期戦略」」は、日本のあり方を論じる章です。資本主義の本質が語られます。
 6章「市場主義の徹底」は5章の延長で、日本をよくするための処方箋を詳しく語ります。
 p.214 では、サブプライムローン問題について、証券化商品の価格が高く評価されてしまったことが原因であるとしています。こういう見方は新鮮でした。

 本書は、大変おもしろい本であり、おすすめできます。日本の将来を憂えるかたは目を通しておくといいと思います。

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2010年06月14日

内藤忍(2009.11)『60歳までに1億円つくる術』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。
 今まで内藤氏の本は何冊か読んでみましたが、
2009.2.23 内藤忍(2008.6)『【新版】内藤忍の資産設計塾』自由国民社
http://otsu.seesaa.net/article/114669428.html
2007.8.2 内藤忍(2007.6)『内藤忍の資産設計塾 外貨投資編』自由国民社
http://otsu.seesaa.net/article/50008345.html
2006.9.22 内藤忍(2006.7)『内藤忍の人生を豊かにするお金のルール』アスペクト
http://otsu.seesaa.net/article/24191596.html
2006.4.19 内藤忍(2005.1)『内藤忍の資産設計塾』自由国民社
http://otsu.seesaa.net/article/16754281.html
いつも勉強になったので、今回も期待して読みました。
 しかし、今回は、残念ながら、期待に添うものではありませんでした。
 お金を増やす原則として、収入を増やす、支出を減らす、お金を増やす(投資する)の三つの側面から論じていきます。とはいえ、それぞれの議論は、どこかで読んだこと、聞いたことの繰り返しのように感じました。
 新書だからしかたがないのかもしれませんが、記述が通り一遍のように感じたということです。
 この手の本を読んだことのない人にはおもしろく思えるところもあるのでしょうが、他の本をいろいろ読んできた人間には物足りなく感じます。間違いは書いていないのですが、新しさに欠けるといえばいいでしょうか。

 巻末に、60歳までに1億円を貯めるシミュレーションが書いてあり、現在何歳で、資産がいくらある状態で、今後の利回りを何%と考えるかで、毎月の積立額が明示してあります。確かに、これによれば、60歳で1億円が貯まるということは言えます。しかし、こんなことでいいのでしょうか。
 たとえば、30歳で金融資産100万円の人の場合、1%の利回りで運用すると考えると、毎月積立額は24万円だそうです。そりゃ計算上はそうなるでしょう。しかし、そんな……(絶句)。毎月24万円が積み立てられるような人なら、30歳で金融資産100万円なんてことはないでしょう。毎月の積立額を基準にしたら、たった4ヵ月分で96万円で、四捨五入すれば100万円です。何だか、ずいぶんと非現実的な話のように思えてきました。


ラベル:内藤忍
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2010年06月07日

高橋洋一、竹内薫(2009.12)『鳩山由紀夫の政治を科学する』インフォレスト

 乙が読んだ本です。「帰ってきたバカヤロー経済学」という副題が付いています。
 高橋氏が先生役で、竹内氏が生徒役で、話が進んでいきます。全体にとてもわかりやすい本です。
 ただし、タイトルに「科学する」とうたっているのは誇大広告で、どちらかというと、高橋氏が自分の見方・考え方を開陳する面が強く出ています。
 鳩山内閣の考え方を見事に描いています。基本的に、いくつかの原則でもって全部の政策が読み解けると主張しています。中にはやや強引と感じるところもありますが、そういう解釈でものを見ていくと民主党のやり方がきれいに見えてくるという点は否めません。
 p.73 擁護する省庁は、財務省と経産省だけだといいます。一方、叩く省庁は、国交省、農水省、厚労省、文科省とのことです。単純なようですが、けっこうこんな見方で民主党の行動が説明できてしまうあたりはおもしろいと思いました。
 p.91 では、子ども手当についての解釈です。一部引用します。
 教育関係の補助金が文科省にそのまま入っちゃうと天下り団体に使われちゃうし、族議員も喜んじゃう。だから、直接、家庭に振り込んじゃえ、と。そうすれば天下り団体にも使われないし、文科省の力も弱くなるでしょ。文科省と対立している日教組にしてみれば、これは願ったり叶ったりだよね。

 というわけで、複雑な議論の末に誕生した子ども手当ですが、民主党の支持母体の日教組を持ち上げ、文科省を叩くためだという解釈で、それなりに納得できてしまうあたりが驚きです。いや、実際のところ、こういう解釈でいいかどうか、乙はよくわかりません。しかし、国会などで行われる外向けの議論だけを聞いていても、今ひとつ、子ども手当の性格があいまいだし、何か、奥歯に物がはさまっているような感じでしたが、こういうふうにものの見方を示されると、不思議とモヤモヤが晴れる気分です。
 p.119 のムダの定義なども、あっと驚くような切り口でした。自民党支持者のトクになるような政策は「ムダ」だということです。
 ともあれ、本書は、正しいかどうかはさておき、スパッとした切り口を楽しむ本だと思います。
 鳩山さんが総理大臣を辞任してしまって、もうこの本の賞味期限が来てしまったようです。もっと長く読まれるはずだったのに、こうなるとは、……。

 なお、本文のところどころにコラムが出てくるのですが、これは成功しているとは思えません。本書の記述の流れ、つまりは読者の頭の中にできあがる流れがそこで断ち切られてしまいます。


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2010年05月23日

大前研一(2009.11)『衝撃!EUパワー』朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。「世界最大「超国家」の誕生」という副題が付いています。
 半年前の本ですが、ギリシャの危機のことがまったく触れられていないので、果たして、今の世界に当てはまるのか、問題を感じました。
 これは、いうまでもなく、著者の大前氏の問題ではなく、ギリシャの経済状況の隠蔽工作が問題なのですが、とはいえ、本書の読後感として、後味の悪さを感じてしまいました。
 大前氏は、ヨーロッパが EU として一体化することで、巨大な「国家」が成立することになるのだとしています。そして、それがどんなことに影響を与えるのか、さまざまな面を取り上げて順次述べていきます。世界情勢に明るい大前氏ならではの記述で、全体としてはおもしろいと思いました。
 本書中の指摘で乙がおもしろいと思ったことをいくつか書いておきましょう。
 p.32 あたりでは、小国を EU に加盟させるメリットについて述べています。もちろん、加盟する側は、補助金がもらえて、ユーロが使えて、大国の後ろ盾があるのと同じことですから、メリットがあるのは当然です。むしろ、すでに加盟している大国(ドイツやフランス)にもメリットがあるという指摘がおもしろい点です。経済発展途上の国々を EU に加盟させることで、EU 企業は中国と同程度のコストでヨーロッパ内で工業生産できるということです。さすがに、外交関連は、したたかにいろいろと考えてあるものですね。確かに既存の EU 諸国にとってメリットがなければ、申請があっても新しく加盟を認める必要はないわけですから、当然といえば当然の論理です。
 p.58 あたりでは、EU に加盟することがコソボを初めとする各種紛争解決の切り札になると述べています。こういう斬新な発想がおもしろいところです。すごいメリットがあるものですね。
 p.98 では、ユーロとドルが合体する(ユーロがドルを飲み込む)話を書いています。こうなると、他の通貨は決済には不要となりそうだとのことです。それはそうでしょう。しかし、こういう世界の巨大通貨が誕生するかどうかは不透明です。
 p.230 あたりでは、ロシアの天然ガスと石油を EU 諸国が輸入している話が出てきます。EU は、サウジアラビアではなくて、むしろロシアに依存していたのですね。気がつきませんでした。

 さて、ギリシャの経済危機の話です。これはユーロという通貨に対しても大きな影響を与えました。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3468
のようにユーロは前提が崩れたとする意見もあるくらいです。
 では、この問題に対して、大前氏は今どう考えているのでしょうか。
http://www.ohmae.ac.jp/ex/kabu/magmail/index146.html
では、ギリシャ危機はEU全体の危機になったとしています。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100517/226255/
では、ギリシャの財政破綻の原因が前政権のバラマキ政策にあったとして、むしろ日本が危ないとしています。
 こういう言説を読むと、大前氏は現在の EU に対して、必ずしも明るい未来を考えているわけではないようです。
 本書を読んでいると、「EU はすごいなあ」的な感想を持つのですが、それがたった半年で大きく変わってしまいました。「EU はこれからどうなるのか、心配だ」という、いわば正反対の見方です。
 EU の持つさまざまな利点が、ギリシャの経済危機というたった一つの事件ですべてひっくり返ってしまうのでしょうか。
 乙は、本を書くことのむずかしさを感じてしまいました。


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2010年05月16日

城繁幸(2010.1)『7割は課長にさえなれません』(PHP新書)PHP研究所

 乙が読んだ本です。副題として「終身雇用の幻想」が付いています。
 架空の町の一企業に勤めるさまざまな人の考え方を通して、今の日本の「普通の人」が持っている雇用関係の感覚を例示しています。
 著者のいうとおり、終身雇用は限界であろうと思います。しかし、ではどうするかというと、そこがなかなかの難問です。本書のエピローグなどで、雇用問題を解決した明るい日本が登場しますが、本当にそんなふうに解決できるのでしょうか。乙は、むしろ、問題解決ができないままに日本には暗い将来がやってくるように思えます。それくらいに人間は保守的であり、自分の周り(環境)を変えたくないと思うものだということです。
 本書の主張は明解だし、書いてあることも身につまされるような話で、大変わかりやすいと思います。
 でも、最後のほうの解決策を読むと、「こんなふうに問題が解決できるなら、苦労はいらないよなあ」と思ってしまいます。それくらい、雇用問題の解決はむずかしいということです。
 何といっても、特権階級はそのような特権を手放したくないと思うものです。自らがそれを捨て去るなんてありえません。ということで、乙は、日本の将来は今と何も変わらない(したがって暗い)と予想するわけです。
 言い換えると、そのまま次第に没落していく日本といったところでしょうか。
 多くの人が「それではいけない」と思うようになって、はじめて、次の時代を切り開く(場合によっては「革命」などの手段を用いる)ことが可能になると思います。日本がそこまで踏み切れるかどうか。さて、本当にどうなんでしょうかね。
 本書は、雇用問題を中心に、日本の将来を考える本です。新書なので気軽に読めます。


ラベル:城繁幸 終身雇用
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2010年05月14日

松谷明彦(2004.5)『「人口減少経済」の新しい公式』日本経済新聞社

 乙が読んだ本です。「「縮む世界」の発想とシステム」という副題がついています。
 タイトルとサブタイトルで本書の中身が想像できます。そして、その通りです。著者の松谷氏は大学教授(ただしその前は大蔵官僚)というだけあって、各種データに基づいて議論を展開していきますので、説得力があります。
 日本の少子高齢化は、すでに多くの人が知っていることだと思います。それが、今後の日本のあり方にどのような影響を与えるか、我々はどうするべきかを説いた本です。なお、著者は「少子化」ということばを使わないようにしています。
 乙が読んで興味深く思ったところを中心に、内容の一部をかいつまんで紹介しましょう。
 p.21 では、外国人労働者を活用することは、後世代に負担を移転することであり、人口減少問題に対する解決策にならないことが説かれます。もちろん、今から出生率を上げて、子供をたくさん作ったとしても(そのように誘導すること自体が困難ですが)、かえって、非生産人口を増やすだけで、そういう子供たちが生産年齢に達して働き出すまでに二十数年かかるので、今さら日本経済の縮小を押しとどめることはできません。
 というわけで、日本人はそのような「人口減少経済」を受け入れるしかなく、自ら考え方を変え、生活のしかたを変えていかなければなりません。企業も目指すべき方向を変える必要があります。「売り上げを伸ばす」が目標ではなくなるのです。
 p.12 日本は人口の「谷」(産児制限によって人口が少なくなったこと)が高度成長をもたらしたと説明します。ところが、今後は人口の「谷」が経済成長率を押し下げるというのです。こんな簡単な原理で日本経済が動いていたとは驚きです。経済は人口で決まる部分が大きいのですね。
 p.104 で、人口減少高齢化の影響を強く受けるのは、大都市圏だという話です。これまた興味深いものでした。つい、今までの延長で、地方から若い人が都会に出て行く傾向だけを考えてしまいがちですが、年齢別人口構成を考えると、そうではないのですね。
 p.173 豊かな社会をどう作るのかを論じているところですが、賃金が低く長時間働くのが日本だということで、これを改善し、人々が自由に時間を使えるようにすることで、豊かな社会を目指すべきだとしています。これからは、金よりも時間という考え方です。
 p.190 では、終身雇用制がなくなれば、「働かない自由」が得られ、それが新しい生き方を産み出すとしています。そうかもしれません。

 本書は、なかなかおもしろい本です。未来の日本を考える上で示唆的な記述がいろいろあります。日本は「人口減少」が避けられません。そういう社会の変化を見極めながら、各個人がどういう方向に努力していけばいいかを考えるきっかけになりそうです。

 乙は単行本を読みましたが、今は文庫本が出ているとのことです。

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2010年04月28日

河村たかし(2008.9)『この国は議員にいくら使うのか』(角川SSC新書)角川書店

 乙が読んだ本です。「高給優遇、特権多数にして「非常勤」の不思議」という副題が付いています。
 メインタイトルとサブタイトルを読むだけで、本書の中身が推測できます。そして、その通りです。
 国会議員も、地方議員も、いやはやけっこうもらえるものですね。
 乙も政治家になろうかな。いや、選挙に出馬しても、得られる票数は自分と家族だけの数票でしょうから、単なる泡沫候補で終わってしまいそうです。
 ま、それはともかく、本書は、そのような議員特権について赤裸々に記述しています。
 なぜそうなってしまったのかというと、河村説では、官僚たちが自分の給料を上げるために、まずは議員の給料を上げたということだそうです。なるほど、納得できます。
 議会のことを決めるのも議員ですから、給料や諸手当に関していえば自分たちのお手盛りになっているので、議員の報酬を下げるなんてことはなかなかできそうにありません。
 しかし、そこのところは日本の今後を決める上で決定的に重要です。
 まずは、議員数半減、給料半減で、経費を 1/4 にしましょう。日本の赤字財政(国も地方も)に対する貢献になります。そのような痛みを自ら実感した上で、公務員の人件費の削減(民主党のいうように2割でもいいですよ)にも踏み切るべきでしょう。先にこんなことをした上で日本国民に負担(増税のことです)をお願いするのがスジというものです。
 本書中に出てくる矢祭町の実例も興味深いものでした。固定的な給料ではなく、議会に出席したときに手当を払うだけだというのです。骨のある政策を実際に導入している地方自治体があるというのはすばらしいことです。
 次に名古屋市のような大都市で同様のことが実現したら、全国に対するインパクトは大変なものがあります。皆さん「横並び」がお好きなようですからね。
 本書を読んだ後には爽快感が残ります。
 河村たかし、ガンバレ!

参考記事:
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100328
http://d.hatena.ne.jp/victoria007/20100407/1270657114
http://d.hatena.ne.jp/victoria007/20100216/1266333291
http://d.hatena.ne.jp/aoki0104/20090513/1242161192


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2010年04月22日

遠藤誉(2010.2)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書)筑摩書房

 乙が読んだ本です。
 日経ビジネスオンライン連載の「中国“A女”の悲劇」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080212/147023/
をベースに大幅に加筆したものです。
 連載も非常に興味深く読みましたが、こうしてまとまってみると、今の中国(人)の考え方が手に取るようにわかります。
 全5章構成ですが、やはり第3章「結婚できない「デキル女」たち」が読み物として一番おもしろいと思います。
 さらに、続く第4章「銭に向かって進んだ結果の就職難」も読みごたえがあります。2009年だけで200万人の大卒生が未就労と聞くと、中国はどうなってしまうのだろうかと思います。本書でその答えが描かれます。農村からの出稼ぎ者に向けた求人に大学生が殺到したり、むしろ村に行こうということで、村官の募集に大学生が長蛇の列を作ったり、兵隊になるものまで出ているのです。本書は、そういう中国の現状を余すところなく描いています。
 中国の中の不平等や格差はすごいものですし、一人っ子政策によって少子高齢化が進む現状も従来とは違った考え方が必要になるでしょう。これから中国がどういう方向を目指して変わっていくか、それを知るには、本書は貴重な1冊といえるでしょう。
 もう中国は共産主義の国とは呼べないようです。共産党は、従来のような農民や工員たちを代表するものでもありません。中国は、資本主義を導入したことによって、越えられない一線を越えてしまったような感覚です。
 ということは、別の面から見ると、中国に投資してもいいということになります。政治体制は若干世界標準から離れていますが、経済的には、もう世界の一員になってしまったのでしょう。

 なお、p.209 の表4に間違いがあります。以下のように示されています。

地区  一家庭当たりの平均年収
──────────────────
東部 1万2130.54 元(約 18万2000円)
中部   6124.11 元(約 9200円)
西部   5972.60 元(約 9000円)
城鎮 1万1550.27 元(約 17万3300円)
農村   5284.67 元(約 7900円)
総体   8282.57 元(約 12万4200円)

 たぶん、中部・西部・農村の円換算が間違っているのだろうと思います。10倍しなければなりません。
 また、p.209 の本文ですが、「ここで注目すべきは、内陸では上位 20% の家庭と下位 20% の家庭の年収の比率が約 17:1 であるということだ。もし年収 100 万円の家庭が上位 20% を占めているとすると、底辺にいる 20% の家庭の年収は 17 万円であることになる。」とあります。ここは計算間違いをしているとしか思えません。もし年収 100 万円の家庭が上位 20% を占めているとすると、底辺にいる 20% の家庭の年収は 17:1 ですから、5.88 万円であることになると思われます。

 とはいえ、現代中国を知るために、本書はおすすめです。

ラベル:遠藤誉 中国
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2010年04月19日

マネー・ヘッタ・チャン(2009.11)『ヘッテルとフエーテル』経済界

 乙が読んだ本です。「本当に残酷なマネー版グリム童話」という副題が付いています。
 八つのお話が並んでいます。それぞれは、お金にからむ話で、まあマネーに関するべからず集のような内容です。それぞれのお話の最後に「グリーム婆さんのよくわかる解説」というのが数ページ付いていて、それが一種の教訓集のような感じで書いてあります。
 乙は、一読して、内容が薄いと感じました。この内容を語るのに150ページの本にする必要はないと信じます。
 手軽に読める本ですが、この本を読んで理解することができるのは、いろいろな経験をしてきた大人たちであって、子供向けの本ではありません。さまざまな固有名詞が、それとなくわかる別の語に置き換えられています。こんなのを理解する(そして当該事物を思い出してにんまりする)ことができるのは、相当な大人でしかありえません。
 ということで、この本は、一体想定読者をどのあたりにおいているのか、だんだんわからなくなってきました。大人に対していろいろと有意義なことを述べるなら、こんな童話スタイルを取る必要はなく、もっと端的にズバリ書けば済んでしまいそうです。
 乙の感覚では、本書の試みは失敗していると思います。

 ふと気が付くと、高等遊民さんが本書のことに言及していました。
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/144813566.html
乙も同様のことを感じていました。

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2010年04月16日

大前研一(2008.11)『ロシア・ショック』講談社

 乙が読んだ本です。
 大前研一氏の本だということで読んでみました。
 内容は、ロシアがどういう国か、その現状を解説するもので、あまり投資に関連するところは多くなかったように思いました。
 p.64 ロシアの特徴の一つとして極めて高い教育水準があるとしています。乙はこういう見方をしていませんでしたので、ここでの議論は興味深く読みました。ロシアは BRICs の他の国と違った面があるということです。
 p.100 では、ロシア人は無条件に日本が好きだという話が出てきます。これも意外でした。日ロ関係を考える上では、これは考慮に値する事実だと思いました。
 p.132 では、ロシア進出の心得の一つとして「腐敗は生活の一部。うまく対処する術を身につけよ」と説きます。この部分は大前氏のオリジナルな主張ではなく、別の人の引用なのですが、さもありなんと思いました。ロシアは官僚制度が近代化しておらず、給料が安いということで、汚職や賄賂を前提にシステムが成り立っているとのことです。
 これについては、ある程度乙も知っていましたが
2007.4.2 http://otsu.seesaa.net/article/37514559.html
こういうことで対ロシア投資が恐いといっていてはいけないようです。
 p.176 では、ロシアの最近の指導者を取り上げて、政治家としてどうなのかを論評しています。現代ロシア史とでもいうべきところであり、一つの見方として興味深いものがありました。
 p.224 からは「終章◆日ロ関係の未来図」が始まります。ここが一番投資に関連しているところでした。
 まず、長谷川毅氏の『暗闇』(中央公論新社)を取り上げ、北方4島がソ連に占拠された経緯について、戦後、アメリカがソ連に譲ったからだということが書かれています。乙は、こんな話はまったく知らなかったので、驚きました。それはともかく、大前氏はそういうことから日本が北方領土にこだわることはよくないとしています。そして、極東、シベリアを観光地として開発するべきで、そこに日本が投資すれば非常にメリット(日本にとって、かつロシアにとって)が大きいとしています。
 そんな簡単に「観光地」ができるのか、わかりませんが、大前氏の壮大なビジョンの一端をかいま見せてくれました。
 全体として、ロシアを広く眺め渡してその現状を記述しており、現代ロシア入門といった感じの本でした。

 なお、p.230 あたり、何回も「カムチャッカ」という表記が出てきます。また、本書中に何回も「ウォッカ」という表記もあります。しかし、正しくは、「カムチャツカ」および「ウォツカ」です。俗語としては「カムチャッカ」と「ウォッカ」もありますが、本で表記するなら正しい表記にするべきでしょう。ちょっと品位が落ちます。

ラベル:大前研一 ロシア
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2010年04月08日

大宮知信(2009.9)『お父さん! これが定年後の落とし穴』講談社

 乙が読んだ本です。目次は以下の通りです。
第1章 再雇用・転職・独立、どれを選んでもイバラの道
第2章 なけなしの老後資金が水の泡に
第3章 夢の海外移住の現実
第4章 田舎暮らしのスローライフは意外に疲れる
第5章 退屈地獄を乗り切る趣味探し
第6章 定年夫は邪魔な存在か
第7章 脱会社人間! 悔いなき人生を
 こうやって目次を見ると、本書で何が論じられているか、ほぼ明らかになってしまいます。どの章も、苦労する人たちの例が満載で、なかなか思うような「定年後」はないことがわかります。
 221ページの本ですから、これらのさまざまなトラブルに対する対処法まではとても書けません。それはわかるのですが、読んだ後、どうにもいらだち感がありました。もちろん、トラブルはごめんですが、ではどうしたらいいのかということが本書ではあまり書いてないのです。著者に言わせれば、そういうトラブルは千差万別なので、本に書けるようなシロモノではないということなんでしょう。
 この中で乙が直接関心があるのは、第2章の投資関連と、第3章の海外移住でした。
 第2章は、いろいろな落とし穴の紹介にとどまっており、どうしたらそういう落とし穴に入り込まない投資行動が可能になるかがほとんど書かれていません。「投資しない」という態度もあるでしょうが、お金に働いてもらうためには、ちゃんとした投資をしたいものです。しかし、そういう向きの人にはあまり役に立ちません。
 第3章は、失敗例を数多く載せていますが、ここも、うまく海外移住生活を続けるにはどうしたらいいかがほとんど書かれていません。まあ、失敗例から学べることもあるとは思うのですが、いかんせん30ページ程度の記述ではちょっと触れた程度で終わってしまいます。
 第1章は、乙の場合、関係なさそうです。ある程度の歳まで仕事が続けられそうですし、その後はもう働く予定はありません。
 第4章は、乙の場合、田舎の出身で、田舎の人間関係をわずらわしく思っていますので、自分で田舎暮らしをしようとは思っていません。
 第5章は趣味の話ですが、乙は乙なりの趣味(自分でそう思っているもの)があるので、まあ定年後の人生も楽しめるものと考えています。
 第6章は、家庭の中の話ですが、乙の場合、夫婦仲はいいし(乙がそう思っているだけで、妻は必ずしも同じ考えではないかもしれませんが)、結婚以来ずっと共働きでしたから、乙が息子たちの食事当番をしたり保育園の送り迎えをしたりして、それなりに家事をしてきました。その意味では、濡れ落ち葉的存在になることはないと思っています。
 というわけで、通読してみると、タイトルほどにはインパクトのある内容とは思えませんでした。
 著者はノンフィクションライターだそうですが、もう少し専門的に詳しい知識を得てから本をまとめるほうがいいのではないかと思いました。今は、いかにもライターが各種情報を集め、急ごしらえで書いた本という印象です。

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2010年03月31日

岩瀬大輔(2009.10)『生命保険のカラクリ』(文春新書)文藝春秋(3)

 乙が読んだ本です。
 内容面についてはまったく触れないうちに、2回のブログ記事を書いてしまいました。
2010.3.29 http://otsu.seesaa.net/article/144960639.html
2010.3.30 http://otsu.seesaa.net/article/144961187.html
 今日は、内容面について書いておきます。
 本書は、生命保険がどういうものか、きわめて明解に書いています。生命保険の入門書のようなものです。
 生命保険に入る前に、こういう本を1冊読んでおきたいものです。(まあ、読んだ後で生命保険に入ろうと思うかどうか考えると、かなり否定的に思えるでしょうが。)
 著者はライフネット生命を立ち上げた人ですから、生命保険の表も裏もわかって本書を書いています。
 今までの通常の生命保険がどんな状態で売られてきたか、手に取るようにわかります。図表も十分ついており、わかりやすいないようです。
 常識を持って判断すれば、生命保険を勧めるおばちゃんのいうことを聞かずに、ネットでライフネット生命の保険に入るのが正解でしょうね。
 とはいえ、本書は決してライフネット生命の宣伝本ではありません。大変有意義な1冊です。
 p.41 には、図3として、定期死亡保険のコスト構造が示されます。大手生命保険では、契約者が払った保険料の半分以上がコストとして消えてしまうのを知ると、保険に入る気がなくなるでしょう。重要な図です。
 p.62 では、生命保険の不払い問題を取り上げていますが、次のように書いています。
 一連の不払い問題が起きた理由は、表面的には支払管理態勢が不十分だったことにある。しかし、より本質的には「販売至上主義」と、生保のカルチャーとしての「顧客軽視」があったと考える。
 すなわち、誰も理解できないような複雑な商品を、50%という異常な離職率にある営業職員に厳しいノルマを課して押し込ませていたことから、契約内容をよく理解しないまま入っている顧客がたくさんいることに、本来的な問題があるのである。

 まさに、そのものズバリです。言い換えれば、保険業界の体質的問題ということです。こういうことを知ってから保険に入ることが望ましいでしょう。
 p.71 には、表5として、大手生保の主力商品の例が出てきます。きわめて複雑で、いろいろなものがセットされていて、一体、何にいくらかかっているのか、さっぱりわかりません。今は、生保各社がこのようなパッケージで販売する方向に動いているとのことで、契約者も十分理解していないでしょう。もしかすると、生保のおばちゃんも理解できていないのかもしれません。日本の生命保険の現状がこの1枚の表から見えてきます。
 p.97 では、保険商品では「セール」や「割引」が法律によって禁止されているという話が出てきます。乙は知りませんでした。
 ということで、本書の結論の一つは、p.141 に出てきますが、「契約者が取るべき自衛策」として「単品主義」をすすめるとのことです。乙は納得しました。
 他にもいろいろありますが、本書はまさに良書です。
 保険に入ろうと考えている人に、契約前にぜひ読んでほしいと思いました。

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2010年03月30日

岩瀬大輔(2009.10)『生命保険のカラクリ』(文春新書)文藝春秋(2)

 昨日の記事
2010.3.29 http://otsu.seesaa.net/article/144960639.html
の続きです。今回は、PDF ファイルの読み方について考えます。
 ダウンロードした PDF ファイルは、どう読むのでしょうか。
 パソコンの画面に表示させながら読むのでしょうか。そういう人もいるでしょう。しかし、235 ページもの内容をパソコン画面で読むのはしんどいとは思いませんか。
 乙は、こういうものを読むのは、電車の中やトイレの中が多いので、パソコン画面で読む気が起きません。
 というわけで、プリンタで全部プリントして読むことにしました。A4の紙1枚に4ページ印刷するようにしました。片面印刷でしたので、約60枚、6ミリほどの厚さになりました。これくらいならば、ふだん読んでいる程度のものですので、特に問題はありません。コストは計算しませんでしたが、紙代とトナー代で 100 円くらいでしょうかね。
 しかし、実際読んでみた感想では、いくつか問題点があり、あまりよくなかったように思いました。
 第1に、印字がぼやけるところがあったことです。これは PDF ファイルの特性だと思いますが、鮮明に印刷できません。少しだけぼけます。これが場合によっては読みにくいと感じさせました。本そのもののほうが読みやすいです。乙は目も弱り気味なので、特にそう感じたのかもしれません。
 第2に、ページめくりが大変でした。1枚に4ページ印刷したものをダブルクリップで留めて読んだのですが、次の紙に移動するとき、ページめくりがめんどうでした。普段A4の書類を読んでいるときはあまり感じないのですが、4ページ分が収まっていると、めんどうに感じます。縦書きが影響しているのかもしれません。途中で読みかけにするとき、しおりを挟むわけにいかないのも不便でした。4ページのどこまで読んだか、わからなくなりがちなので、線を引いておくほうがよかったです。(自由に書き込みができる点はメリットです。)
 第3に、ページレイアウトと図表の関係で、不都合がありました。
 1枚に4ページプリントすると、右上に 157 ページ、左上に 158 ページ、右下に 159 ページ、左下に 160 ページが配置されます。ところが、本書の場合、表Hが 158 ページと 159 ページにまたがって書かれているのです。新書で読んでいる場合は、これがちょうど見開きになって、読みやすいのですが、PDF ファイルを4ページずつプリントすると、1枚の表が離ればなれになって、読みにくくなります。
 pp.172-173 は、別の紙になってしまいますが、ここにも図7という1枚のグラフがあります。
 p.218 には「左頁の図を見てみよう」などという言い方が出てきますが、実際は、その図は右下に表示されます。
 このあたりは、レイアウトを1ページ分ずらせれば何の問題もなかったように思います。今後、類似の企画がある場合は配慮してもらいたいところです。

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2010年03月29日

岩瀬大輔(2009.10)『生命保険のカラクリ』(文春新書)文藝春秋(1)

 最近、大きな注目を浴びた本です。
 なぜならば、全文が PDF ファイルで無料で公開されたからです。
http://totodaisuke.asablo.jp/blog/2010/02/27/4910657
 4月15日までですので、読みたい方はお早めに PDF ファイルをダウンロードしておくといいでしょう。
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784166607235
 乙も、さっそくダウンロードして読んでみました。
 まずは、このような無料戦略について思ったことを書いておきます。内容面については、あとで書きます。
 岩瀬氏は、上記の記事の中で「このように、大手出版社が、書籍を丸ごと一冊無料でダウンロードできるようにしたのは、おそらく国内で初めてのことだと思われる。文芸春秋社の英断には、大いに感謝したい。」とお書きです。
 確かに、乙も、新書が1冊まるまるダウンロードできるというのは初めての経験でした。
 この戦略は、「壮大な実験」でもあります。こういうことをして、出版社は儲かるかというのが一番興味があるところでしょう。
 ついでにいうと、著者は、儲からなくていいと思います。こういうことで名前が知られ、ライフネット生命が知られ、そちらの営業成績が伸びれば、著者としてはまったく問題がないわけですから、無料でいいのです。
 しかし、出版社は別です。こういうことが普通に行われて多くの本が無料になってしまって、それでも儲かるのでしょうか。
 乙は、出版社も儲かると思います。だからこそ、文藝春秋は冷静な判断で PDF ファイルの公開を決めたのです。
 最大のポイントは、期間限定であることです。しかも、新書本が出てから数ヶ月経ってからの公開でした。
 新書は(いや書籍全体がそうですが)出版直後は売れますが、その後、だんだん売れなくなっていきます。
 ということは、この本は 2009 年 10 月に出版され、適当な部数が売れ、出版社としてはもう「元を取った」状態のはずです。無料化してもしなくても、もう儲けたあとなのです。だから、ここで無料化戦略をとったとしても、出版社としては何の懐も傷まないのです。
 さらに、この無料化戦略によって、その期間で(さらにはその後も)大きな話題になることがあります。現実にそうなっています。内容的にも興味深いものをたくさん含んでいます。たくさんの人がこの本を読むと、話題は一層広がり、クチコミの力で広がりを見せます。どこまでいくかはわかりませんが、ベストセラーはそうやって作られるものです。すると、無料期間を過ぎたあとで、「自分も読みたい」という人が多数現れます。そのときには、新書を買うしかありません。(古本屋で安く買うかもしれませんが。)それは、文藝春秋としてもありがたい話です。
 もう一つ、副産物として、この本に対して興味を示す人たちの性別と年齢がわかります。ダウンロードサイトでは、性別と年齢を入れることになっています。こんなところでウソをついてもほとんど意味はありませんから、たいていの人は正直に性別と年齢を入れるでしょう。こうして、出版社は本の読者の性別と年齢という、ふだんならば手にできないデータを入手することができます。これは、今後の販売戦略を考える上で役立ちます。

 ということで、どんな本でも無料化していいというものでもありませんが、内容がおもしろく、多くの人が読みそうなものをあえて無料化する戦略は「あり」だと思います。

 この方法の成否は数ヶ月後ないし1〜2年後くらいにはっきりするだろうと思います。
 もし成功したら(文藝春秋が大きく儲かるようなことがあったら)、出版界に激震が走ることは間違いなしですね。

参考記事:
http://renny.jugem.jp/?eid=1382
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/280
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/288
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100225/213027/
http://www.j-cast.com/mono/2010/02/28061120.html
http://diamond.jp/series/yamazaki/10120/


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2010年03月28日

菅原琢(2009.12)『世論の曲解』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。「なぜ自民党は大敗したのか」という副題が付いています。
 タイトルから判断して、2009 年夏の衆議院選挙のことを書いているのだと即断してしまったのですが、実は、それだけではなくて、2005 年の郵政解散総選挙のあたりからの数年間の政界の動きを扱っています。
 菅原氏がいいたいことは、タイトルによく現れています。
 我々は、世論を正しく把握することがむずかしく、結果的に、一部批評家などが勘違い発言をしているということです。
 本書には、各種統計調査の例が豊富に出てきますし、それぞれの数字の読み方なども丁寧に解説されますので、とても説得力があります。
 巻末には、それぞれのデータの出典が書いてあり、自分の説の裏付けが明記してあります。こういう態度は好感が持てます。
 新書ということになっていますが、中身は濃いです。論述が詳しいのに加えて、図表もしっかり入っています。それぞれを吟味しながら読むと、かなり時間がかかります。結果的に政治学の一部がわかるような気がします。
 それにしても、世論は移ろいやすいものですね。
 今後も選挙のたびにさまざまな誤解・曲解が生まれ、メディアに登場してくるでしょう。そういうものを見極める目を養うことが重要なように思いました。
 本書を読むことで、過去の流れを整理してとらえることができるようになりました。

 それにしても、自民党が大敗して民主党政権が成立したわけですが、その後の経緯を見ると、民主党も信頼できないことが明らかになったように思います。日本はこれからどういう方向を目指せばいいのでしょうか。

ラベル:菅原琢 自民党
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2010年03月26日

岸博幸(2010.1)『ネット帝国主義と日本の敗北』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「搾取されるカネと文化」という副題が付いています。
 ネットには四つのレイヤー構造があると説きます。
 コンテンツ/アプリケーション、プラットフォーム、インフラ、端末です。検索エンジンなどがプラットフォームです。NTT や CATV がインフラです。そして、ネットの現状を見ると、プラットフォームが一人勝ちしていて、コンテンツ産業が疲弊しているということです。その例として、岸氏は新聞と音楽を取り上げます。ネットで何でも無料で手に入るかのような風潮がありますが、それはコンテンツ産業からプラットフォームに資金が移動しているだけで、いわばプラットフォームがコンテンツ産業を搾取していることに相当するとしています。
 一番儲かっているプラットフォームに関連する企業はすべてアメリカにあることから、アメリカが世界を牛耳っているととらえることができます。言い換えれば、日本は敗北しているわけです。
 実におもしろい見方です。
 もちろん、「ではどうしたらいいか」が必要なわけですが、それは第5章「日本は大丈夫か」で述べられます。プラットフォームと端末が融合する動きがあり、そこからプラットフォームを巡る競争の激化があるとしています。そして、そのような変化を踏まえてジャーナリズムと文化をどう守るかを議論し、最後に日本はどうするべきかを述べます。
 岸氏の主張は明解ですが、乙は、新聞も音楽も、そう簡単に復興するとは思えません。
 一度、ネットがある世界に入り込んでしまうと、そこには非常に広大な「フリーの世界」が広がっています。もうそれにどっぷり浸かっている人がたくさんいます。そうなれば、今までの世界をそのまま維持することは不可能です。
 新聞社は、世界各国で減っていかざるを得ません。何社かがつぶれるのは当然です。そうやってつぶれることで、生き残った新聞社に需要が集中し、何とかその新聞社が生き延びるのではないでしょうか。新聞社が全部なくなるとは考えにくいですが、今の日本のように、全国的な規模の新聞社が数社あるというのは多すぎるでしょうね。
 テレビが登場することでラジオの性格が変わって別のメディアとして生き延びたように、ネットでニュースが見られるようになっても、紙の新聞が必要とされる面があると思います。乙の勝手な予想では、紙の新聞は20年くらいは命を保つと思います。
 乙は、音楽文化についてはまったくわかりません。ネットからダウンロードして聞くなんてことをしたことがないのです。自分が保有する CD を繰り返し聞いているだけです。
 本書は、クリス・アンダーソン(2009.11)『フリー』
2010.2.6 http://otsu.seesaa.net/article/140363533.html
と合わせて読むといいと思いました。

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2010年03月20日

岡本吏郎(2009.11)『サラリーマンのためのお金サバイバル術』(朝日新書)朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。「家・車・保険、「人並み」な買い物が破滅を招く」という副題がついています。
 第3章で投資の話も出てきますが、むしろ、著者の言いたいことは生活全体の見直しです。サラリーマンが日常生活で直面するさまざまなお金の問題をどう考えるかを述べています。その意味では、副題がこの本の内容をよく表しているように思います。
 全体にとてもよく書けています。新書版のコンパクトさの中に、エッセンスがぎゅっと詰め込まれている感じです。必要なところには必要なグラフや表がきちんと示され、わかりやすくなっています。
 乙が興味を持ったのは、第3章の投資の話です。
 p.152 では、日本の過去50年分の株式リスク・プレミアム推計値のグラフが出てきます。それによると、1955 年ころにはリスクプレミアムが 25% もあったのですね。いい時代でした。最近は1桁になっていますから、あまり儲からなくなっているといえます。
 p.153 では、日本の過去50年の株式市場指数の標準偏差のグラフが出てきます。リスクは50年で減っていないことがわかります。いずれも山口勝業氏の著書からの引用ですが、乙はこういう事実を知らなかったので、とても印象的でした。
 p.189 では、年金積立金管理運用独立行政法人の『平成19年度 業務概況書』からの引用で、期待収益率・リスク・相関係数の表が出ています。
 ただし、今はネットで 2009.7.1 に公開された『平成20年度 業務概況書』が見られます。
http://www.gpif.go.jp/kanri/pdf/kanri03_h20_p04.pdf
その65ページにも同じ表が出ています。
種類
期待収益率リスク
国内債券
3.0%
5.42%
国内株式
4.8%
22.27%
外国債券
3.5%
14.05%
外国株式
5.0%
20.45%
短期資産
2.0%
3.63%

 乙はちょっと意外な感じがしました。
 以前読んだ田村正之(2009.2)『世界金融危機でわかった! しぶとい分散投資術』
2009.6.8 http://otsu.seesaa.net/article/121053721.html
では、同じ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がまとめた2007年まで35年間の実績の数字に基づいた表があり、そこでの期待リターンは
日本株式=7%、日本債券=2%、外国株式=8%、外国債券=3%
となっていたからです。
 株式の期待収益率がずいぶん違っています。なぜこんなに違うのでしょうか。違っていていいのでしょうか。
 著者は、サラリーマンはインデックス投資と言い切っています。しかし、一方ではアクティブファンドの存在とその意義にも配慮された記述がなされています。
 全体にバランス感覚がとてもいいと思いました。お薦めできる本だと思います。

ラベル:岡本吏郎
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2010年03月17日

池田信夫(2009.10)『希望を捨てる勇気』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「停滞と成長の経済学」という副題が付いています。
 池田氏のブログ
http://ikedanobuo.livedoor.biz/
にも書かれているように、経済学の立場から日本社会を見るという点で、池田信夫氏の主張ははっきりしています。
 本書を読みながら、ブログの記述との重なりを感じてしまいました。まあ著者が同一であればそんなものでしょう。
 ブログとは無関係に、本書を単独で読んだ場合、合理的な考え方が随所に見られ、日本が抱えている問題がすっきりと理解できるのではないでしょうか。
 以下、乙がおもしろいと思ったところをいくつか取り出しつつコメントしたいと思います。
 pp.16-18 ちょっと前に問題になった派遣切りは、司法からの要請だとしています。これだけ聞くと「えっ?」と感じるかもしれません。しかし、今のように正社員が保護されている(これも司法の判断)ということの裏返しで、社員のクビを切るときは非正規社員から切るのが当然ということになります。そのものズバリで書いてあると、かえって気持ちよく感じます。
 p.67 日本で、雇用調整を行うメカニズムが、解雇(50年代)、配置転換(60年代)、出向(70年代)、非正社員(90年代)と変化してきたと述べています。なるほど、乙のようにある程度の歳になってきた人間から見ると「昔はそうだったよなあ」と感じます。それが明示されています。
 p.182 トヨタはなぜ危機なのかを示しています。日本を象徴する「すり合わせ」で成立したのが自動車産業なのですが、今直面している事態は、自動車の価格が大幅に下がっていることであり、どちらかというと高級車を指向しているトヨタでは、新興国市場を開拓できないということだと説きます。
 p.191 昨年秋に「事業仕分け」で話題になったスーパーコンピュータについて、戦艦大和と同じく大艦巨砲主義で、時代遅れであり、スパコンの名を借りた公共事業だとしています。
 p.197 政策立案を官僚が独占し、御用学者がその下請けをやっているようでは、日本の政治はいつまでも進歩しないとしています。世界市場で相手にされない日本の各業界を見ていると、まさに的を射た発言です。
 ほんのいくつかの例を示しましたが、本書で述べていることは、これらにとどまりません。もののあり方を考え、日本のこれからを構想するときに、本書の記述は貴重な視点を提供してくれると思います。
 池田氏のような人が政治家になったらどうなのでしょうか。その明解な主張も、回りの魑魅魍魎に絡め取られてしまうのでしょうか。
 本書のタイトル「希望を捨てる勇気」は、ちょっとミスリーディングです。「今持っている希望を、勇気を持って捨てなければならない」というように読めます。内容を正確に反映するタイトルにするなら、むしろ、副題をそのまま使うほうがいいように思いました。

ラベル:池田信夫
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2010年03月15日

竹中平蔵(2009.11)『政権交代バブル』(Voice select) PHP 研究所

 乙が読んだ本です。「重税国家への道」という副題が付いています。
 鳩山政権および民主党に、「こうしてもらいたい」あるいは「こうしてはいけない」などと率直に提言する本です。
 乙は、一読して、そのわかりやすさに驚きました。1冊まるまるわかりやすいのです。書いてある内容も十分説得的でした。
 逆にいうと、それだけ鳩山民主党の政策が危なっかしくてもどかしく感じるということです。
 ごく一部だけ引用しておきましょう。p.119 です。
 「社会保障にお金を使えば経済は成長する」というのは間違いです。長期的に経済を成長させるためには、「資本」か「労働」か「技術」のいずれかのインプットが増えなければならない。お歳暮やお中元を贈り合っているだけでは全体のパイが広がらず、日本経済も成長しません。社会政策もこれと同じことなのです。

 実に明解です。そして、こういうことで鳩山民主党の政策のいくつか(子供手当、高校の授業料実質無償化……)を否定しています。
 本書を読むことで、これからの日本が目指すべき道がはっきりとわかるように思います。
 2005 年の日本株の株価上昇は驚きのニュースでしたが、それは、そのような政策をとったことの必然的結果だったのですね。乙はそんなことはまったく意識していませんでした。


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2010年02月27日

森功(2009.5)『血税空港』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「本日も遠く高く不便な空の便」という副題がついています。
 本書を一読すると、日本の航空行政がいかにゆがんでいるか、手に取るようにわかります。
 静岡空港の開港延期問題、成田空港の問題、羽田の国際化の問題、日本全国で100近くにもなる空港の数の問題、関西の3空港の問題、空港整備特別会計の問題、韓国・中国・シンガポールなどの空港との国際競争の問題、オープン・スカイの問題など、あらゆる面に関して一通りの知識が得られます。
 これからの日本の発展のためにも、空港は必要だと思いますが、現状を見ると、とんでもない事態になっています。そして、政府(国土交通省)には、このような現状をどうするかというビジョンもないのです。
 空港だけが日本の問題ではありませんが、今の日本の諸問題の象徴のようにも思われます。
 これだけねじれてしまった空港問題ですから、簡単に解きほぐすことはできないかもしれませんが、まずは、本書などで空港問題の概観をつかむことが第1歩でしょう。次に、国土交通省あたりが中心となって(ま、民主党でもいいですが)長期的な航空行政のビジョンを固めるべきです。その上で、日本の空港はどうあるべきか、航空会社はどうあるべきかを考えないといけません。
 空港には多額の税金がつぎ込まれているわけですから、空港問題を考えることは税金を考えることでもあり、日本をどうするべきかという問題ともつながってきます。
 本書は、日本航空の破綻の前に出版されていますので、その点はちょっと記述が古いのですが、本書で指摘されている諸問題が解決しているわけでもありませんので、今でも読む価値があると思います。
 乙が一番おもしろく思ったのは、p.242 からのエピローグで、現在のジェット機はエンジン技術の改良で静かになり、YS-11 以下の騒音しかないという話です。これだけで、騒音問題を考慮して海上に作られた関西空港の意味が減少してしまいます。(同じ理由で伊丹が継続的に使われ、関西空港が赤字になったりするわけですが。)
 こういう世の中の変化を受けとめ、きちんと対応していくとなると、確かにむずかしい問題なのでしょうね。

ラベル:森功 空港
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2010年02月06日

クリス・アンダーソン(2009.11)『フリー』日本放送出版協会

 乙が読んだ本です。「〈無料〉からお金を生みだす新戦略」という副題が付いています。350 ページほどの分量で、かなり分厚い本です。
 本書では、無料で提供するということがどういうことなのか、古今東西のたくさんの例を挙げながら考察していきます。もちろん、中心はGoogle を初めとするネット社会でのさまざまな無料戦略です。
 無料とはいえ、その周辺には有料領域が広がっています。理由もなしに〈無料〉であるはずがありません。そのあたりの具体例を出しながら、なぜ無料にしているのか、なぜ無料にできるのかを述べます。
 現代は、〈無料〉が幅広く普及しつつある時代といえそうです。この結果、新しいさまざまなビジネスモデルが登場していて、古いモデルの産業を衰退させているともいえます。我々は、そのような大きな流れの中にいることを自覚しなければなりません。
 それにしても、消費者側は〈無料〉ですばらしいとだけ受けとめていればいいのですが、供給者側は大変です。〈無料〉にし、それを維持するためのコストをどうまかなうかという難問を解決しなければなりません。今までと同様の考え方ではダメです。発想の転換が求められます。とはいえ、そこは人間が判断するものですから、従前の判断の延長で考えてしまいがちです。
 新聞や雑誌、本を無料で提供するべきか、有料のままにしておくべきか、立場によっても意見は異なるでしょうが、無料にする場合、その業界人はどうやって食べていくのでしょうか。食べていけないとなれば、その業界は衰退してしまいます。結果的に消費者側は供給がないということでダメージを受けます。
 本書を一読して、これからの世界のあり方を考えていくことの必要性を感じました。
 なお、本筋とはあまり関係ありませんが、p.92 に「時間とお金の方程式」というところがあります。子どものときは、お金よりも時間を多く持っていて、だから手間がかかっても無料のものを使うのが合理的ですが、年を取って時間とお金の関係が逆になると、お金を使って時間を節約するようになるというのです。乙は、この部分に強い共感を感じました。

参考記事:
http://renny.jugem.jp/?eid=1336
http://diamond.jp/series/brandnew/10250/

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2010年01月29日

副島隆彦(2009.10)『ドル亡き後の世界』祥伝社

 乙が読んだ本です。
 p.3 のまえがきを読み始めると、衝撃的な内容の一部がわかります。「今年(2009年)中は、もうたいしたことは起きない。ただ株がズルズルと下がり、為替でドル安になってゆく。“ドル安”はもう決まりなのだ。【中略】1ドルは60円を目指して落ちてゆく。次の株式と為替と債券(国債)の暴落が起きるのは来年(2010年)3月だろう。」
 いやはや、こんな明確な予想は、なかなかしにくいものですが、副島氏は断言しています。
 p.4 では、こんなふうに書いています。「私がこれまで他の本で書いてきたとおり、アメリカのオバマ政権は長くは保(も)たないだろう。金融危機の責任を取らされて、バラク・オバマは任期半ばで辞任してゆく。次の大統領はヒラリー・クリントンが取って代わる。2010 年末にはアメリカは恐慌に突入する。」
 これまた明解な予測です。そして、その予測の精度について、同じく p.4 でこう書いています。「私はこれまで直球で自分の予測(予言)を書いて勝負してきた。私はこれまでのところ自分の予測(予言)を外していない。このことを私の本の読者は知ってくれている。予測を大きく外した金融・経済評論家は、客(読者たち)からの信用と評判を落として退場してゆくのである。もうあと何人も残っていない。私はこの本でも直球で勝負する。」
 すばらしい話です。自信満々です。
 しかし、副島氏が本当に精度よく予測できるならば、こんな本を書いているヒマはありません。ぜひ、その予測を活かして一財産を築いてほしいものです。確実な予測は預言者に膨大な富をもたらします。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー Part2」(1989)のビフ・タネンの話を思い出させます。
 本書は、さまざまな予測にあふれています。
 p.49 では、日経平均について、2010 年後半に「大暴落が起きて、5,000 円近辺まで下がるだろう。瞬間的には 4,500 円という最安値をつけるだろう。」と予測しています。その根拠は p.50 に書かれています。
 さあ、大儲けしてください。株を信用取引で思いっきり売ってください。あるいは、ワラント債で日経平均を売ってもいいでしょう。副島氏が株価の暴落で儲ける方法を知らないはずはありません。こんな本を書いているヒマがあったら、ぜひ全力投球で大儲けするべきです。つぎ込む資金にもよりますが、この本の印税の百倍から千倍くらいの儲けが出るのではないでしょうか。
 第2章は「1ドル=10円の時代」というタイトルです。為替レートについては、p.62 で、2012 年に米国債がドン底になり、そのときの為替レートを予想しているわけです。さあ、今度はFXの出番です。FXはレバレッジを効かせた売買が可能です。なるべく高いレバレッジで、ドル売り・円買いに乗り出すべきです。
 副島氏がすでにそのような行動をしているのかどうか、本書中には記載がありませんが、予測を本に書くよりは自分で資金を投入して勝負するべきです。これは「投機」そのものです。それをせずに、本を書いているとしたら、印税収入(および著書執筆で得られるさまざまなメリット)のほうが、各種の投機的売買で得られる利益よりも大きいと断言しているようなものです。

 p.158 では、アメリカのデノミネーションについてこう書いています。
 アメリカがこのあと10年で、最低で 2000 兆円、最高で 4000 兆円を処理するためには、1ドル=10円にすると、ちょうど理屈が合うのである。1ドル=100円を、10分の1にする。すなわちデノミネーションを行う。そうすると魔法の手品にかかって、対外債務(外国からの借金)の分は実質で10分の1に削減されるのだ。アメリカは、対外債務が総額で 4000 兆円ぐらいあるだろうから、その返済の負担が、1ドル=10円になると10分の1で済む。すなわち 4000 兆円が 400 兆円の債務返済で済むのである。

 デノミネーションは、単なる通貨の名称の変更にすぎませんから、借金を実質的に10分の1にすることはできません。そんなふうに1国の判断で借金が値切れるならば、国際取引は成り立たなくなります。
 また、もしもアメリカにそんなことができるなら、日本も同じことをすればいいし、それよりも、日本が 100 分の1のデノミをすればアメリカの体外債務をもっと大きくすることが可能になります。いうまでもなく、そんなことはありえません。
 デノミをすれば、表面上、借金を10分の1にすることはできますが、税金などの収入も10分の1になり、借金を返す負担はデノミの前後で何も変わりません。
 副島氏はここのところ、何か勘違いをしているようです。

 他のことは取り上げませんが、乙は、この本はあまりおすすめではないように感じました。

続きを読む
ラベル:副島隆彦 ドル
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2010年01月24日

橘玲(2009.6)『貧乏はお金持ち』講談社

 乙が読んだ本です。「「雇われない生き方」で格差社会を逆転する」という副題がついています。
 本書は、全体として、マイクロ法人(ひとりが社長であり、同時に従業員であるような組織)を勧めるという内容です。1章と2章がマイクロ法人を活用しようという趣旨です。3章では会計の問題を扱います。4章では税金の問題を、5章ではファイナンスの問題を扱います。以前の橘氏の著作と重なるところもあります。
 普通のサラリーマンがマイクロ法人を作るかという問題では、まず、会社側の考え方が重要でしょう。会社の中に普通に雇用される人とマイクロ法人に所属し、業務委託で働いている人がいて、会社がうまくやっていけるのでしょうか。将来、幹部社員にしたいと思っているような人にマイクロ法人を認めてしまっていいものかどうか、微妙な問題もありそうです。
 実際、マイクロ法人を作るかどうかとは別に、もしも作ったとしたらということを考える上では、大いに参考になる1冊ということになるでしょう。
 そういえば、ずっと前に、乙は妻に会社を作ることを勧めて、「1円で起業する方法」とか何とかいう本をプレゼントしたのですが、無視されてしまいました。実際、妻は会社内で個人会社みたいな仕事をしていたのにです。それくらい、妻は会社べったりだったということです。
 本書には、いろいろとおもしろい記述がありました。
 p.49 あたりで、日本の雇用制度を映画館にたとえている点は秀逸です。すでに映画館に入ってしまった人たちは、そこ出たくないし、入りたい人は列をなして待っているというわけです。これに関して、単純な解決策はありません。
 p.60 あたりでは、アメリカでも 1950-1960 年ころに会社主義(組織人)の考え方があり、今の日本と似たような状況にあったとしています。その後、フリーエージェント化してきたというわけです。したがって、p.66 で述べるように、日本もフリーエージェント化するべきだ(そうなるだろう)ということになります。
 p.88 では、ネットカフェ社長という考え方が語られ、たいへん興味深く思いました。「個人」としては、ネットカフェ難民はそこを抜け出ることがむずかしいのですが、起業してしまえば、「個人」よりもずっと立派に見えるという話です。
 p.99 アメリカのフリーエージェントがマイクロ法人を設立する一番の理由は、個人事業主だと無限責任を負う必要があるが、法人だと有限責任で済むからだとしています。新しい見方でした。
 p.290 では、新銀行東京が行った無担保無保証の融資がなぜ不良債権化したかを述べています。融資先を紹介する信用金庫などにしてみれば、信用保証協会の保証が受けられるような優良企業は、自分の優良顧客だから、新銀行東京に紹介するはずはありません。中小企業にしても、非常に低コストで資金調達ができるようになっているというわけで、新銀行東京が顧客として考えていたミドルリスクの資金がほしい中小企業などはそもそも存在しないということです。明解な説明で乙は素直に納得しました。
 日本の仕組みを考える上で、とても興味深い本だと思います。


参考記事:
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/132907762.html
ラベル:橘玲
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2010年01月19日

田村秀男(2009.6)『世界はいつまでドルを支え続けるか』(扶桑社新書)扶桑社

 乙が読んだ本です。「金融危機と国際通貨戦争の行方」という副題がついています。
 巻末に、次のような注記があります。「本書は、SANKEI EXPRESS に2008年4月から2009年4月まで掲載された連載、「国際政治経済学入門」を加筆・修正、再構成したものです。」
 本書の第1部から第4部までは、ほぼ執筆順に収録されています。ここがあまりおもしろく感じられませんでした。いくつかの記述のダブりがあったりします。
 この種の連載は、執筆内容とそのときのできごととの同時性が重要ですが、まとまった本として読むときは、全体として著者が何がいいたいかを理解したいものです。その点で、乙は、やや記述が散漫になっているように感じました。
 書かれている内容も、(たった1年くらいのことなのに)ずいぶん古く感じられます。「麻生総理」が出てくると、今や「そういえば前は自民党政権だったなあ」という感じです。
 さて、タイトルにあるように、世界は基軸通貨としてのドルを支えているわけですが、いつまで支え続けるのでしょうか。本書を読んでも回答は書かれていません。アメリカを中心に、中国やヨーロッパ(それに日本)がどんな態度で為替政策に臨んでいるかが記述されていますが、現状記述的な面が強いようで、著者がどう見ているのか、よくわかりませんでした。
 今、日本がドル建て米国債を大量に保有しているので、もしもドルが暴落する事態になると日本は大損害をこうむることになります。(中国も同じです。)だから日本はドルを支えなければならないわけです。
 しかし、それに対して、p.109 あたりと p.143 あたりで円建て米国債を発行するアイディアが書いてあります。いわゆるサムライ債です。こうすれば、為替リスクはアメリカが負う形になるので、日本にとっては安心して国債が購入できるというわけです。米国債ということで、日本の国債の金利よりは少しは色が付けられる(金利が高くなる)でしょうから、日本円の投資先として考えると、個人投資家としても、有望な金融商品になりそうです。
 アメリカのサムライ債はおもしろいアイディアですが、日本の対米追従外交を見ていると、こんなことは(アメリカにノーといわれて)実現しそうにないように思います。

ラベル:田村秀男 ドル
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2010年01月04日

禹晰熏・朴権一(2009.1)『韓国ワーキングプア 88万ウォン世代』明石書店

 乙が読んだ本です。「絶望の時代に向けた希望の経済学」という副題がついています。320ページほどの、ぎっしりと活字が詰まった本です。
 著者の名前がちょっと読みにくいですが、「う・そっくん」と「ぱく・くぉにる」と読みます。
 「88万ウォン世代」というのは、著者たちの命名によります。月収が88万ウォンの若者層ということです。88万ウォンは、この世代の平均月収だとのことです。88万ウォンがどれくらいかというと、今、1円が 12.85 ウォンですから、日本円で換算すれば、68,500 円ほどになります。これでは生活は大変きびしいものになるでしょう。
 乙は、韓国のワーキングプアの実態を描いた本かと思って手に取ったのですが、中身はまるで違っていました。韓国の20代の若者が世代的に搾取されている(誰から? 中高年世代からです)という話です。個々人の具体的な生活を描くというのではなく、韓国の20代の全体が置かれている厳しい状況を記述します。あたかも韓国の20代の全員がワーキングプアであるようにも読めます。もちろん、中にはリッチマンもいますので、全員に当てはまるわけではないのですが、リッチマンは20代の中の2%程度だと聞くと、残りの98%の人々にそのまま当てはまる話だということになります。
 この問題の解決は簡単ではありません。韓国の社会全体がその方向に動いているわけですから、今の10代が20代になる10年後にも同様に(あるいはさらに深刻に)ワーキングプアが大量に存在していることになります。
 このような若者の大変さを象徴しているのが、出生率といってもいいでしょう。韓国の少子化は日本以上に深刻ですが、これは、20代がいかに貧しいかを物語っています。ひとりでも生きていくのがやっとのときに、結婚して子供をもうけるなんて不可能に近いわけです。
 韓国はなぜこうなってしまうのか。
 詳しくは本書を読むしかありませんが、普通にアルバイトするとき、韓国では時間給で 300 円程度だという話です。日本では 700-800 円くらいにはなりますから、日本のワーキングプアのほうがはるかにマシです。
 p.220 あたりから、韓国の教育問題に触れていますが、まるで学校が子供たちを人質にとっているようだとしています。非常に強圧的な学校のあり方が描かれます。
 p.238 あたりでは、韓国の中小企業が崩壊してしまったことを述べています。この結果、多くの人々は買い物をスーパーでするようになり、ちょっとした商売である自営業(個人商店)が全滅状態になってしまい、結果的に人々の働き口がなくなってしまっているというわけです。スーパーの店員は、もちろん、時給で働く形であり、大した給料にはなりません。
 この問題の解決はきわめてむずかしく、本書を読了して、乙は暗澹たる気分になりました。
 そして、日本のことを考えると、韓国社会のこうした変化が、実は日本の将来を暗示しているように思われてなりません。今の日本は、就職氷河期などといわれていますが、この傾向は、もしかしたら今後10年も20年も続くかもしれません。若い人の中で非正規社員の占める割合がますます高まるかもしれません。大学を出ても、まともな就職の道はなく、フリーターになるしかないかもしれません。本書で描く韓国の姿はまさにこういった状態なのです。
 日本の場合も、解決策はそう簡単に見つかるものではありません。
 若者の奮起が必要なのですが、選挙にも行かないような若者層を見ていると、
2009.12.23 http://otsu.seesaa.net/article/136084374.html
解決ははるかに遠いように思えてきます。


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2009年12月19日

週刊ダイヤモンド 2009.12.19 特集「負けない海外投資全指南」

 乙が読んだ雑誌です。「「本当に買っていいETF・投信」完全分析」という副題がついています。
 特集自体は、pp.34-83 ということで、50ページもあります。かなり大部な感じです。
 Part1では、「「世界経済の成長」を買う!」と題して、世界の各国が10年後にどうなっているかを予測しています。
 興味深いのは、p.41 の表です。2020年の各国の株価予測が載っています。これがどうやって計算されたかというと、「注」に書いてありますが、「各国の代表的指数の08年12月1日から09年12月4日までの平均値を算出。門倉氏の予測に基づいてIMFの09年の名目GDPの予測値を1とした場合の、それぞれ15年、20年の名目GDPの水準の倍率を平均値に掛けたもの」となっています。つまり、各国の株価は各国のGDPの成長率に単純に比例するという考え方が基礎になっています。この考え方は、まさにジェレミー・シーゲル氏のいう「成長の罠」そのものであり、シーゲル氏によれば、まったく当てはまらない(むしろ逆の傾向がある)ということになっています。
 乙は、「成長の罠」が当てはまるか当てはまらないか、疑問だと考えていますが、当面、成長率の高い国に投資しても儲かるわけではないと考えています。
2009.12.7 http://otsu.seesaa.net/article/134909389.html
2009.12.5 http://otsu.seesaa.net/article/134738480.html
2009.12.3 http://otsu.seesaa.net/article/134565332.html
2009.12.2 http://otsu.seesaa.net/article/134477485.html
2009.11.30 http://otsu.seesaa.net/article/134292992.html
2009.11.29 http://otsu.seesaa.net/article/134198101.html
2009.11.26 http://otsu.seesaa.net/article/133921112.html
つまり、乙は p.41 の表は、間違いであると考えています。
 Part2は「低コストと分散で負けない!」というものです。
 pp.47-49 の「コストの重みを知る」はとりわけ重要な記事でした。ファンドの信託報酬はまだまだ下げられるという話です。業界の事情の裏側まで書いてあり、個人投資家はぜひこういったところも知っておくべきことでしょう。
 それをデータで検証するかのような p.50 のコラムがあります。中国株、新興国株、インド株のグラフを出して、低コストのETFと高コストの投信の運用成績を比べたグラフです。記事の主張はわかりますが、乙の感覚では、これらのグラフは失敗していると思います。なぜならば、グラフにした期間が3年程度しかないからです。低コストのETFと高コストの投信と言ったって、そのコストの差は1年で1%程度しかありません。新興国株のところは、最低と最高で2%近くの違いがありますが、これは例外です。1年で1%ですから、3年経ってもたかだか3%しか違わないのです。ある日を基準にして100として、それから3年経った場合でも、数本の折れ線のグラフは3程度しか違わないのです。一方で指数の上下のブレはきわめて大きく、中国株などは100から出発して、340を越えるときもあれば、60を下回るときもあるといった調子で、そんなグラフで3程度の違いは見えなくなってしまいます。いや、グラフで確かに違いが見えると主張する人もいるかもしれません。それは、たまたまグラフがそうなったのであって、本来は違うのです。
 つまり、p.50 のようなグラフを書く場合、3年程度では意味がないのです。10年もすれば、1%のコスト差でも結果に大きく響いてきて、10%以上の差がつきますから、100を基準にすれば10程度の差ということで、グラフではっきり違いが確認できるでしょう。しかし、そんなに長期の運用をしているETFなり投信なりがそうそうあるわけではありません。ですから、グラフ化して、目で確認するというのでは不十分であり、むしろ誤解を与えるものなのです。頭でよく考えなければなりません。そうすれば、ちゃんと結論が出ます。
 記事の意気込みは買いますが、空振りしています。
 Part3は「何を買えばいい? 全ガイド」ということで、ETF や投信の一覧が掲載されています。これはなかなかの力作です。こういうのを見ながら相互に比較して、必要なものを買うことができます。
 Part4は「「買い時」はいつ? 大予測」ということで、相場観を掲載しています。週刊誌としては、こういう記事にしておかないと、雑誌自体の売り上げが伸びないのでしょうが、ムダな記事です。実際、記事を見れば、「識者」の相場観が大きくずれていることが見てとれます。仮に一致する場合だって、それが正しい(本当にそうなる)とは限りません。いや、むしろ当たらないのが当たり前と見るべきです。こういう記事を掲載するあたりは、特集の企画者は本当の意味で投資の本質をわかっているわけではないことを示しています。

 なお、乙は、今回の記事で「書いてなかったこと」も気になりました。それは、国内で行う投資だけでなく、海外の証券会社や銀行を通じて行う海外投資のことです。50ページの中で書くことは無理かもしれません。でも、それで「全指南」とは羊頭狗肉的だなあと感じてしまいました。国内の証券会社や銀行の高コスト体質にも切り込んでほしかったです。
 この雑誌の特集に関しては、あちこちの投資ブログで話題になっています。
http://blog.livedoor.jp/tsurao/archives/1251751.html
http://fund.jugem.jp/?eid=1244
http://www.lay-up.net/archives/blog-entry-733-0912142250.html
http://renny.jugem.jp/?eid=1284
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-1259.html
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2009/12/1219-f6f8.html
皆さん、高い評価が多いのですが、乙は、そんなに諸手をあげて賛同する気にはなれませんでした。

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2009年12月16日

高橋洋一(2009.9)『恐慌は日本の大チャンス』講談社

 乙が読んだ本です。「官僚が隠す75兆円を国民の手に」という副題がついています。
 タイトルにある75兆円はどこに隠されているのでしょうか。25兆円は政府紙幣で、25兆円は金融緩和で、そして残りの25兆円は埋蔵金で調達しようというのが本書の基本的アイディアです。
 本書を読んでいくと、日本の政治(家)の問題点などが浮かび上がってきます。著者は、元内閣参事官というだけあって、そのあたりの記述はきちんとしています。
 序章「埋蔵金を埋め戻す官僚」では官僚たちがどんなことを考えているのかを描いています。自分たちの天下り、そのための基金の設立などが話題になります。p.43 では、電波オークションが提案されています。テレビ放送が地デジになるということは、実は、そのためにあいた帯域を売ることができるのですね。1兆円から数兆円になるという話で、それを特定のテレビ局に無料で免許を与えて使わせるのは大変な補助金を与えているようなものだと説きます。
 第1章では「史上最大の恐慌の足音」ということで、今の日本の現状を述べます。
 第2章「政府紙幣は麻薬なのか」が政府紙幣論の根幹です。なかなかおもしろい話で、乙も政府紙幣には賛成なので、興味深く読みました。p.105 では、1枚だけの政府紙幣を発行し、それを日銀に引き取らせるなどというアイディアも出てきます。驚きました。そんな手もあったんですね。
 第3章は「世界大恐慌の教訓」で、戦前のことを回顧して述べています。
 第4章「インフレ目標政策という世界標準」では、今の経済状況の中で財政や金融をどう考えるべきかを述べます。
 p.180 では、日本の1990年代の経済政策を間違いの例としています。「景気対策に財政政策が効いたのは、為替が固定相場制だった頃までで、変動相場制の下では、ほんの少ししか効かないというのが、当時から既に世界の常識だった。」とあります。日本は公共事業などの財政出動に頼っていたので、赤字国債の発行は行ったものの景気浮揚はできなかったとしています。それはそうかもしれません。しかし、このような世界の常識が日本の政治家に受け入れられなかったのはなぜなんでしょうか。高橋氏は、事前に、身を持って、政治家に説明するべきだったように思います。(もしかしたら、したのかもしれませんが。)
 この章は、インフレ目標論について述べるのですが、p.192 から、インフレ反対論への反論が書いてあります。いろいろなタイプの反論に逐次答えていく形になっています。ここはおもしろかったです。乙も、経済はややインフレにしておくのが望ましいと思っていますので、ここの議論を興味深く拝読しました。
 第5章「構造改革の真実」では、今までの政治の流れをきれいに説明したものになっています。
 pp.231-233 で、安倍政権下で、事務次官会議を経ないで政府答弁を閣議にかけるという大改革をやった話が語られます。乙はまったく意識していませんでしたが、すごい事件があったのですね。マスコミではまったく報道されませんでした。このあたり、日本のマスコミが病んでいます。
 p.241 では、旧厚生省と旧労働省とのセクショナリズムが描かれます。5兆円のぶんどり合戦というわけで、凄まじい話です。乙は労働保険特別会計に5兆円もの埋蔵金があるとは知りませんでした。こういう話を聞くと、事業仕分けなどという1兆円にも届かないパフォーマンスをしていること自体、ずれているとしか思えません。
 第6章は「強国として甦る千歳一遇の好機」です。日本をこんなふうにしたいという見取り図です。こういうのを読むと、なるほどと思ってしまいますが、もしも本当に実現するとなると、今の諸制度と比べてどちらがいいか、よくわかりません。
 本書は、日本経済を捉え直すという点で、興味深い1冊といえるように思います。

ラベル:高橋洋一
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2009年12月14日

増田茂行(2008.11)『100円ショップの会計学』祥伝社

 乙が読んだ本です。「決算書で読む「儲け」のからくり」という副題がついています。
 キャンドゥと九九プラスの財務諸表を題材に、どんな考え方で儲けを出しているのかを解説した本です。
 これから自分のお店を出そうと考えているような人を読者として想定しているようで、自分で帳簿を付けるようなことも解説してあります。
 100円ショップでは、こんなものまで100円で買えるんだと驚くようなことがしばしばありますが、一方では、最近は200円や300円のものを売っていたりします。なぜそのようなことになるか、平易に述べてあって、納得できます。同じ店内に儲かる商品とあまり儲からない商品があるという話などは、おもしろい話でした。お店の側ではわかっていてやっていることなんですね。
 立ち食いそばやバイキングレストランなどを会計学の視点から眺めて、どう儲けているかを説明しているあたりもわかりやすい実例でした。
 しかし、全体として、常識的な見方から大きく変わるものでもなく、まあこうだろうなと感じていることをしっかりと具体的に指摘してくれたような記述です。

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2009年11月22日

浅川夏樹(2009.8)『ETF』パンローリング

 乙が読んだ本です。「世界を舞台にした金融商品」という副題が付いています。
 本書をひとことでいえば、ETF の総合解説書です。今まで、こんな詳しい解説書は見たことがありません。
 ただし、日本で購入できないものも多数含まれているので、海外で口座を開き、そこで購入するしかないような場合も多いと思います。本書中には、そのような海外口座の開設法も説明されています。
 こういう多彩な投資手段がある世界(日本の国外)を見ると、日本国内で限られた投資手段しか提供されない現状が実に嘆かわしく感じられてしまいます。
 p.60 からは景気循環型ということで、セクターローテーションを取り入れている ETF の紹介があります。乙はこんなアクティブ・ファンドみたいな ETF があるとは知りませんでした。
 他にも、ファンド・オブ・ファンズ型の ETF やら、CDS に連動する ETF やら、VIX に連動する ETF まで解説されています。
 今後もさまざまなタイプの ETF が登場してくると考えられます。純粋にインデックス投資を行う場合には、現状でも十分かもしれませんが、少しは投資を楽しみたい人にはこういう選択肢も考えておいていいのではないでしょうか。
 世界に対する目を開かせてくれる1冊だと思います。
 もっとも、本書で紹介されている ETF を実際に買うかどうかは別問題で、悩ましい問題であることは事実ですが。
 自分自身で投資を実践してきた人らしく、具体的な記述にあふれる本です。その辺の投資本とは一線を画します。

ラベル:浅川夏樹 ETF
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2009年11月18日

水野和夫(2007.3)『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。
 本文は 300 ページほどですが、その後ろに巻末の注記が 62 ページも付いています。参考文献も 11 ページにおよび、本格的研究書になっています。
 ただし、実のところ、読みにくかったです。注が巻末にあり、しかもかなりの数の注が付いているということで、注まできちんと読もうとすると、本文の流れが断ち切られるし、しかも注の位置を探すのも大変になります。
 本書でおもしろいのは、きわめて長期の視点で経済を見渡しているところです。ざっと 500 年を見据えて議論していきます。こんな超長期のデータはどれくらいきちんと揃っているのか、疑問に思う面もないわけではないのですが、一応、著者の姿勢は一貫しており、乙はかなり信頼できると見ました。
 p.72 では、アジアの近代化を「収斂仮説」で説明しています。簡単にいえば、生活水準の低い国は豊かな国よりも平均して早く成長し、最終的には先進国の生活水準の7割から9割に収斂していくとのことです。過去 500 年の歴史で当てはまってきた考え方だというわけです。1600 年当時の先進国イタリア・スペインに対して、貧しい国・アメリカやオーストラリアがそうなっていきました。他にもたくさんの例が挙がっています。歴史は繰り返すといいますが、乙は、こんな長期的視点は持っていなかったので、驚きました。
 p.113 では、グローバル経済圏企業(IT企業、鉄鋼、輸送用機器)とドメスティック経済圏企業(情報通信と電力以外の非製造業)にわけ、前者が一人あたり GDP できわめて大きく(つまり生産性が高く)、後者はそうでないことを示します。今の日本でドメスティック経済圏企業(中小企業のかなりがこれに該当しそうです)が成長せず、各種の問題の原因になっていると指摘します。この二つを区分する見方も新鮮でした。現代日本の状況をわかりやすく説明してくれます。読んでいて腑に落ちます。
 p.182 では、インターネットの登場によって、それまでの国境線で区切られた「土地」という富の源泉を変えてしまったとしています。したがって、現在の成長物語は、pp.185-6 で述べられるように、小さな政府によってのみ達成可能になっているとしています。ここの記述も現代日本を考える上で重要な見方です。
 pp.194-5 で述べられる3回の歴史的断絶(1回目は紀元前 8000 年の新石器革命、2回目は16世紀の大不況を中心とする(ヨーロッパの)経済変動、そして3回目が現在のIT革命)の話もおもしろかったです。今が3回目なのかどうかは、もっと時間が経ってから検証するべきでしょうが、そういう見方があるということ自体が興味深いのでした。
 p.264 では、日本の就学援助率(生活保護を受ける家庭並みで、修学旅行費や給食費などが支給されるのが就学援助)を見ると、全国平均よりも高い地域として東京と大阪があるそうです。地方では職がないため、就職の機会が多い都会に若い人が集まり、最初は家賃の安い地区に住むことになります。東京のある区では就学援助率が 43.1% になるとのことで、驚きます。この区は足立区でしょう。
http://www002.upp.so-net.ne.jp/kyoiku-gifu/gakushukai-siryo9.pdf
このように、日本社会の中で二極化が起こりつつあるということです。
 いくつか、乙がおもしろいと思ったところを抜き出しましたが、まだ他にもあります。本書は図表をかなりたくさん使い、数値などの裏付けを持って語っていきます。その意味で、信頼性がある本です。今の日本をどう眺めたらいいかを考える上での好材料であるともいえるでしょう。
 直接投資に関わることではありませんが、視野を広げる意味では読んでも損はないように感じました。

ラベル:水野和夫
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2009年11月15日

岡本和久(2007.6)『100歳までの長期投資』日本経済新聞社出版局

 乙が読んだ本です。「コア・サテライト戦略のすすめ」という副題が付いています。
 内容は、スタンダードな投資入門書といったところでしょうか。
 対象読者は団塊の世代です。p.80 では、団塊世代用の本だと明記されています。60歳前後の人にお薦めの本です。たとえば、本書中に登場する架空の投資家はちょうど60歳。退職金を得て、6150 万円を運用しようとしています。大変身近な例であり、退職者としてはちょうどピッタリの例なのではないでしょうか。
 p.13 では、人生を30歳と60歳で区切って3段階に分けて考えるとよいとしています。学校を卒業するのは20代前半としても、就職した後は、まずは仕事を覚える時期があり、30歳くらいで一人前になるという考え方です。妥当な考え方です。そして、60歳は退職時で、これは当然でしょう。60歳を過ぎた時期がサード・エイジというわけです。これを 100 歳まで生きると仮定して人生を設計するのがよいというわけです。
 p.68 には、資産クラスごとのリターンとリスクが書かれています。
資産クラスリターンリスク
国内債券
2.50
5.00
国内株式
7.50
21.00
海外債券
3.50
12.50
海外株式
7.50
19.50

 データの出所は企業年金連合会のホームページで、1970 年以降のデータに基づいた円建てによる計算結果だそうです。
 以前だったら、「ふうん」という感じで、こういうデータを見ても当たり前のように感じて、通り過ぎていたでしょう。
 しかし、今は、この数値が違って見えます。
 海外債券が 3.5%、海外株式が 7.5% と国内並み(あるいはそれ以上)の成績を残していますが、これが円建てによる計算ということに注目するべきです。
 ドル/円の為替レートを考えると、1970年ころは、1ドルが 360 円でした。2007年ころは1ドルが 120 円でした。37年間で3倍の円高になったわけで、年率に換算すると、ざっと 3% 程度の円高です。つまり、現地通貨建てだと債券が 6.6% (1.035×1.03×100-100)のリターン、株式が 10.7% のリターンということになります。
 もちろん、米ドルだけが通貨ではなく、他の通貨と円の為替レートも考慮するべきですが、世界の経済のかなりの部分をアメリカが占めていることを考えれば、ドルだけを考えても、まあまあの線になるでしょう。
 つまり、円建てで見ると、海外の債券も株式も、国内のものと同様に見えるのですが、海外の視点で見ると、実はかなり高いリターンがあったのです。円高でそれが相殺されて見えているのです。
 海外から日本株を見ても同様で、単純な株価の上昇に加えて、円高もありましたから、日本株に投資しておくことで大きなプラスになったものと思われます。(実際、1970 年ころに外資が自由に日本株の売買ができたのかどうか知りません。たぶん規制があってできなかったのではないかと思います。)
 p.183-184 では、人気のある投信を買うのはまずいということが述べられています。乙は、以前、人気のあるものを買ったりしたのですが、それではダメだというのは自分の経験で痛感しました。本を読んで失敗を避けるのもいいでしょう。失敗を経験して痛みとともに学ぶのもいいでしょう。自分の失敗がないと、こういう本を読んでもなかなか納得できないのではないかと思います。
 巻末には索引が付いています。しかし、参考文献は挙がっていません。ちょっとだけちぐはぐな感じがしました。
 投資の入門書としては良書だと思います。乙は団塊の世代ではないのですが、割と近い年齢なので、本書は親しみを持って読むことができました。

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2009年11月04日

山崎元(2009.5)『資産運用実践講座T 投資理論と運用計画編』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 お金の運用に関する「中級」のテキストブックだとのふれこみです。
 まえがきにあるように、本書は、もともとフィナンシャルプランナー向けの解説だったものに手を加えて1冊にしたものだとのことです。それはわかるのですが、一読して、前半の第1章から第4章までがどちらかというと投資の考え方を述べたもので、FP向けの内容に感じました。一方、後半の第5章から第7章は投資家向けの内容のように感じました。個人投資家としては後半だけ読んでもいいのではないかと思いました。(それでは、著者の意図が伝わりませんが。)
 後半に書かれた内容は、山崎氏の以前の著述と重複するもので、やや新鮮味に欠けますが、しかし、変わらぬ真理はその通りにしか書けないので、これでいいのではないかと思います。個人投資家として心得ておくべきことはこれで尽くされているようにも思います。(乙は、以前、山崎氏とやや違う考え方を持っていたのですが、最近は、山崎氏の主張を正しいと考えるようになりました。)
 本書で乙がおもしろかった点を一つあげておきます。p.12 ですが、「年金生活者の資産運用方針」を述べたところです。110 歳まで生きることを仮定して、今の資産を取り崩しつつ 110 歳まで継続的に生活していく(70歳なら40年間で取り崩す)ように計算して、その金額を取り崩すという考え方です。毎年1回資産総額をもとに、取り崩し額を計算し直しながら生活していくというものでした。具体的な考え方を示されて、乙は「そうだ」と思いました。
 読んだ後、「本書の内容は確かに中級だ」と思いました。しかし、こういう本を読む人はどんな人だろうと思いました。具体的なイメージがわきませんでした。個人投資家で本書が役立つ人がいるのでしょうか。
 やや歯ごたえのある内容でした。

 なお、本書 p.132 の注1)では、「運用期間とリスクに関する数学的な議論は専門書(例えば『金融工学』野口悠紀雄・藤井眞理子著、ダイヤモンド社、pp.127-129)などを参照してください。」とありますが、そこを参照すると、ランダム・ウォークの極限としてのブラウン運動を定式化しているだけで、運用期間とリスクに関する議論ではないように思います。山崎氏の勘違いなのか、乙の読み取りが不十分なのか、わかりませんが。

ラベル:山崎元
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2009年11月02日

門倉貴史+賃金クライシス取材班(2008.6)『貧困大国ニッポン』(宝島社新書)宝島社

 乙が読んだ本です。「2割の日本人が年収200万円以下」という副題が付いています。
 たくさんのワーキングプアに取材して、その生き様の具体例をちりばめた本です。大変きびしい生活が赤裸々に描かれます。中でも、pp.70-90 あたりでは、貧しさの故に売春するしかない(地方の)女性が登場します。いやもうどうしようもない感じです。また、男性の例では、pp.127-150 で闇職系若者を取材していますが、犯罪に手を染めるとなると、一線を越えたことになります。今の日本で、売春や犯罪と結びつくほどに、貧困が蔓延しているということです。貧しさ故にこんな人たちがいるのだと知るには、こういうルポ風の本が適していると思います。投稿する証言は全部匿名ですが、きちんと取材した結果だろうと思われます。
 本書では、最低賃金を引き上げることでこうしたワーキングプア問題を解決しようという提案をしていますが、話はそう簡単ではなさそうです。働き方を含め、日本社会のさまざまな事情が絡み合っており、それに対する簡単な解決策はないだろうと思います。
 多数のワーキングプアがいる日本の現状も問題ですが、日本社会の将来を考えると、さらに暗澹たる気持ちにさせられます。
 乙は、どうしたらいいか、まったく見当も付きません。マクロな日本社会の問題もさることながら、ミクロなワーキングプア個人のケースでも悩みは深いものがあります。
 乙の回りにも、働いていない若い人がいたりするのですが、そういう人をどうしたらいいか(どう働きかけをしたらいいか)、考えてもよくわかりません。困ったことだと腕組みするだけで、時間がどんどん流れ、そういう人たちが社会から取り残されていきます。10年、20年と経つと、みんなそれだけ年を取りますから、今のままでは成り立たないのですが、さりとて、展望はまったくありません。

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2009年10月31日

大前研一(2009.6)『最強国家ニッポンの設計図』小学館

 乙が読んだ本です。
 タイトル通りの本で、日本をどうするといいのか、明解に語っています。
 こういうのを1冊読むと元気になります。
 第1章「「年金と税金」で国民の「安心と意欲」を作り出せ」では、年金と税金をどうするべきかを論じています。
 p.31 から、高齢者に年金を辞退させる案が書いてあります。「えっ」と驚く新発想です。辞退してくれる人には所得税を安くしたり相続税をゼロにするという考え方です。こうすると、確かに、資産家などは年金を辞退するかもしれません。しかし、辞退する人は、辞退することで結局トクをすると考える人たちですから、国家レベルで見ると、年金か税金かのどちらかが安くなって、結局、国としては実入りが少なくなるように思うのですが、それでいいのでしょうか。
 p.34 では、年金を3割カットという案が出てきます。あるいは毎年5%減です。これまた思い切った提案です。今のように高齢者が若年層よりも多く、かつ選挙のときの投票率が高齢者のほうが若年者よりも高い場合は、こういう提案が通ることはなさそうです。しかし、データを示して、これが筋道だと説く大前氏の議論には説得力があります。
 p.68 からは「50兆円国家ファンド」を創設し、日本人すべてが「10%利回り」を手にする社会を実現せよと説きます。確かに、そうできれば言うことなしですが、「10%」の利回りは不可能だと思います。大前氏は、外国での大規模・長期投資や株式、不動産、デリバティブなどで運用すれば可能だと考えているようですが、乙はそうは思いません。それらの期待リターンは10%まで行かないはずです。p.72 では、実際10%が実現できた例を挙げていますが、それらは全部ドル建てであり、円建てならば、この間の円高傾向を考慮すると、プラスになっているかどうかさえあやしいものです。国家間で金利差がある場合、長期的には高金利国の通貨は下落し、低金利国の通貨は上昇するので、ドル・円の金利差が数%ある状態が今後も長く続くならば(今まで長く続いてきたのですから、そう考えるほうがいいと思いますが)、それだけで10%の利回りは不可能ということになります。
 第2章「経済を復興し、産業を興せ」もおもしろい話がたくさん出てきます。
 p.106 から、食糧安保の話が出ます。基本は「真の食料安保は「世界に打って出る農業」で実現せよ」ということで、日本人が、その知識と技術を持って外国で穀物などを生産し、それを日本に輸入するというアイディアです。第4次農業基盤整備事業費として、1993-2006年に41兆円も使ったとのことですが、それで農業がどうなったか、さっぱりわからないと述べています。だったら、そのカネを使って、世界中の農地と穀物メジャーを買うほうがいいというわけです。4大穀物メジャーを全部買っても 8.8 兆円程度だろうと推計しています。乙も、日本国内の農業を見ていると産業として成り立っていないと思うので、大前提案には同感しました。
 なお、最近、日経ビジネスONLINEで連載の始まった「漂流するコメ立国」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091013/206964/
も、関連して興味深いと思います。
 第4章「憲法改正と道州制で「新しい国家のかたち」を作れ」では、道州制のあり方や国会のあり方など、根本的な改革案を示していますが、その中に、p.214 で、重要案件については国民投票で決めるとしています。これはうまくいかないのではないでしょうか。技術的には、国民投票は可能ですが、今の国民の関心と知識のレベルでは、国民投票はとんでもない結果になりそうです。いくつかの国民投票では矛盾した選択がなされるでしょう。たとえば、増税には反対、各種財政支出には賛成、国債の追加発行には反対というような結果になりそうです。そんなことで国家が運営できるとも思いません。
 本書では、いくつか問題に思うところもありますが、こういう大きなビジョンを全体として示されると、なるほどなあと思える面があります。まあそう簡単に実現できるとも思えませんが。
 こういうビジョンが示せる人が政治家(国のリーダー)になるべきでしょうね。とはいえ、日本の選挙の実態を考えると、こういう人はなかなか当選できないでしょうが。
 それこそが日本が衰退していく道なのですが、誰も気がついていません。

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2009年10月23日

竹田和平・澤上篤人(2009.3)『投資の極意は「感謝のこころ」』PHPパブリッシング

 乙が読んだ本です。
 投資家として有名な竹田和平氏とさわかみファンドの創立者の澤上篤人氏の共著ということで、期待して読みました。
 結果としては、おすすめできない本だと思います。
 2回の対談(それに+αとしての付録)を本にまとめたものなのですが、対談は、考え方などを述べあうにはいいものの、そのような考え方の裏にある具体的なデータなどを示すことはむずかしく、実際、本書中にもそういう話はほとんど出てきません。そのため、すらすらと読むことはできますが、それだけで、いくつかのエピソードが記憶に残る程度です。
 投資に関する本ではなく、読む必要はないものと思われます。
 乙がおもしろいと思ったのは、p.28 から p.30 の澤上氏の発言で、農地解放で「家」が破壊されたマイナス面を指摘しているところでした。戦後の農地解放を「おかしい」としています。以前の地主と小作人の社会でも、地主は小作人のことを考えていたし、持ちつ持たれつで田舎が成り立っていたとしています。それを農地解放で破壊し、小作人が農地のオーナーになり、突然、自分で農業経営をするようにいわれたわけで、これはうまくいかないというわけです。多くの人は自立して農業をやっていく勉強も準備も十分にできておらず、結局役所の規制や保護が行われ、農家がダメになったという見方です。
 今でも、日本の農業は問題視されていますが、その発端は農地解放にあったようです。

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2009年09月27日

冨山和彦・松本大(2008.12)『この国を作り変えよう』講談社

 乙が読んだ本です。「日本を再生させる10の提言」という副題がついています。
 著者二人がそれぞれの章を書き、最後にそれらをまとめて10の提言とするというスタイルで書かれています。
 提言の中のいくつかについて、乙の意見を述べます。

2 世代別選挙制度の実現
 基本的認識として、今の中高年世代が若者世代(さらには今後生まれてくる人たち)からカネを奪っているという立場に立っています。そのような現状を変えていくために、20代から60代まで年齢で選挙区を変えて各世代の議員定数を人口比とするというアイディアです。
 本書には書かれていませんが、当然、20代選挙区に立候補できるのは20代の人なのでしょうね。
 70代の人はどうするのでしょうか。80代の人は? 90代の人は? 「何歳から上」はひとまとめというわけにはいかないと思います。(衆議院の?)全体の議員定数を人口の年齢構成比で案分して、選挙区定員が1以上になるならば、当然、その世代の選挙区がもうけられてしかるべきです。それを無視する案はまずいと思います。
 年齢別に考え方が違うし、将来への展望なども異なるので、世代別選挙区をという趣旨は理解できるのですが、だったら、国内で人々の間の大きな差を生むもう一つの要因=性別についても考慮するべきでしょう。男性と女性では興味や関心も異なるので、選挙区も男女を分けることにしたいと思います。
 とすると、20代男性選挙区、20代女性選挙区、……ということになりますが、これはこれでいいのかもしれません。結果的に議員の約半数が女性になり、先進国としては政治への女性の進出度が極端に低い現状をあっという間に解消できます。
 今の地域別代表の仕組みを根本的に変えるやり方なので、各種抵抗も大きいと思いますが、地域別選挙区の1票の重みの不平等を考えると、いっそのこと、世代別選挙区にしてしまうというアイディアもおもしろいと思います。実現すれば日本の社会が大きく変わるでしょう。

10 戸籍制度の全廃と婚外子の権利制限撤廃
 抜本的な少子化対策として戸籍制度を全廃するという案ですが、乙は賛成できません。婚外子の権利制限撤廃の方は納得できます。
 具体的な議論は、p.104 から書かれていますが、戸籍を撤廃する理由が不明確です。なぜ戸籍を撤廃すると少子化対策になるのでしょうか。戸籍制度に問題があるから少子化だという議論は説得的ではありません。
 戸籍制度がなくなると、マイナス面がたくさん出てきます。まず、親子関係が記録されませんから、遺産相続問題が真っ先に問題になるでしょう。また、夫婦関係も記録されませんから、結婚・離婚制度も意味がなくなります。となると、夫婦間で扶養の義務もなくなり、夫婦のうちの収入の少ない側(ほとんどは妻側)が多大な不利益を被ることになるかもしれません。これらに関連して、訴訟が頻発して裁判制度が機能麻痺になる可能性もあるでしょう。次に、諸外国との関係において、パスポート(外国に対する当該人が日本人であることの証明書)の発給の問題が生じます。戸籍がないと、「日本人であることの証明」がしにくくなりますから、パスポートの交付の手間が増えると思います。それ以外にも、破産の処理、犯罪の記録、住民基本台帳との関係など、各方面での混乱は膨大なものになり得ます。戸籍制度が日本社会を安全な(不安のない)社会にしている面は非常に大きいと思います。
 戸籍がないことのマイナスを考えると、戸籍をなくすというのは、乙には暴論のように思われます。

 本書の提言はおもしろいと思うようなものもあるのですが、ちょっとした思いつきのようなものも含まれ、10個の提言がバラバラな提言にとどまり、全体として日本をどの方向にリードしていこうとするのか、理解できない部分もあります。
 こんなことをマニフェストに書く政党があったら、きっと全議員が落選するだろうと思います。

ラベル:冨山和彦 松本大
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2009年09月23日

森木亮(2009.2)『日米同時破産』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「中国覇権による恐ろしい時代がやってくる」という副題が付いています。
 タイトルからして強烈です。これからの世界の大混乱を予測する本です。
 p.188 では、世界が恐慌に突入する時期として平成22年(2010 年)と予測しています。そして、今、世界で行われている金(ゴールド)投資もそれを見越した動きだとしています。
 世界恐慌は来年です。あと数ヶ月で世界が恐慌になるでしょうか。乙にはとてもそんなふうに見えません。
 p.192 では、2010 年までには、二度目の金融危機がアメリカを襲うことは確実だと述べます。その発端は、クレジットカードの焦げ付きだそうです。
 そうなるかもしれません。ならないかもしれません。
 もしもそうなって、アメリカ株が暴落したら、……。乙はこのときぞとばかりアメリカ株を買うでしょう。
 p.211 では、2009 年に為替が1ドル=70円台に突入することを予測しています。円高の傾向はあるかもしれませんが、70円台までの円高はどんなものでしょうか。
 そうなるかもしれません。ならないかもしれません。
 もしもそうなって、ドル安・円高になったら、……。乙はこのときぞとばかりドルを買うでしょう。
 こういう暗い世界を予測していますので、森木氏によれば、p.238 にあるように「個人投資家は現金を持て」という結論になります。株価の暴落を予測する以上は、当然の結論です。問題は、このような大暴落があるかということです。本書を読んでも、乙は、恐慌になるという予測を信じることはできませんでした。
 p.253 のあとがきによれば、森木氏は国家破産予測を25年続けてきたと述べています。主張が一貫していてぶれないのはすばらしい話ですが、森木氏の主張に反して、過去25年、日本は破産していないという事実もまた重いものです。
 こういう考え方もあるというくらいに受けとめておけばいいのではないかと思います。
 乙は、森木氏の本をいろいろ読んできました。

2008.8.3 森木亮(2008.4)『日本国増税倒産』光文社
  http://otsu.seesaa.net/article/104024879.html
2008.2.21 森木亮(2007.12)『日本はすでに死んでいる』ダイヤモンド社
  http://otsu.seesaa.net/article/85113371.html
2008.1.25 森木亮(2006.2)『日本国破産への最終警告』PHP研究所
  http://otsu.seesaa.net/article/80486553.html
2007.6.5 森木亮(2007.3)『2011年 金利敗戦』光文社
  http://otsu.seesaa.net/article/43904848.html
2007.2.27 森木亮(2007.2)『ある財政史家の告白「日本は破産する」』ビジネス社
  http://otsu.seesaa.net/article/34777467.html
2006.4.16 森木亮(2005.2)『2008年 IMF 占領』光文社
  http://otsu.seesaa.net/article/16624855.html

 それぞれの記事を合わせて読むと、森木氏の著書に対する乙の考え方がわかるような気がします。(もっとも、乙自身、過去に読んだ本の内容など、覚えていない部分もたくさんあるのですが。)


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2009年09月16日

山岡道男・淺野忠克(2008.10)『アメリカの高校生が読んでいる資産運用の教科書』アスペクト

 乙が読んだ本です。
 「アメリカの高校生が読んでいる」ということから、どのようなことが書かれているのか、興味を持ちました。
 結果的には、乙にとって読む必要はほとんどありませんでした。内容がやさしすぎたのです。
 目次は以下の通りです。
第1章 「お金を稼ぐ」かしこい方法 収入の巻
第2章 「お金を貯める」かしこい方法 資産運用の巻
第3章 「お金を借りる」かしこい方法 ローン&クレジットの巻
第4章 「お金を増やす」かしこい方法 投資の巻
第5章 「お金を守る」かしこい方法 リスクマネジメントの巻
 個人の立場から、それぞれ正しい考え方が書いてありますが、どうも全体に突っ込み不足な感じでした。まあ高校生むけの本をいい大人が読むことの違和感なのかもしれません。
 おもしろかったのは、p.130 からのライフプランのところです。「日本のほとんどの一般家庭は、計算上では、少なくとも2回は破産の危機に見舞われる時期があります。その2回とは、住宅購入と子どもの教育費です。」と書いてあります。そういえば、確かに、乙の経験でもこの2回は大変な時期でした。
 乙が知らなかった話としては、p.147 にアメリカの個人の信用の4ランクが出てきます。上から順に、プライム、ニアプライム、ノンプライム、サブプライムです。サブプライムの定義は「クレジット情報に問題がある。また、職業が安定せず、賃貸住宅に住み、住所を転々とする。」です。サブプライム・ローンというのは、ずいぶんと信用度の低い人に金を貸す仕組みだったことがよくわかります。
 本書中には、一つ誤記がありました。p.193 ですが、グロソブのことを「グローバル・ソブリン・ファンド」と書いています。ただし、p.196 では「グローバル・ソブリンオープン」と書いていますので、著者が間違って覚えているわけではなさそうです。(「グローバル・ソブリン・オープン」が完全な表記ですが。)
 日本の高校生でも、本書程度の常識は身につけてもらいたいものだと思いました。早めに知っておいて悪い話ではありません。若者の中でクレジットカードの使い方を間違えたりする(リボ払いなどという高金利を平気で払う判断をする)人が多いことを見ていると、高校生くらいから金融の仕組みの一部を知っていれば、大人になってからも間違った判断をすることが減るだろうと思いました。
 もっとも、学校のカリキュラムの一部に組み込まれていないと、高校生はこういう知識を身につけないでしょうし、カリキュラム編成の変更はそれはそれはむずかしいでしょうが。

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2009年09月14日

永野良佑(2007.10)『ダマされないための投資家術』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「儲ける投資家はまっとうな金融商品を買っている」という副題が付いています。
 内容は、タイトル通りの本で、読んで損はないものと思います。
 第1章が株、第2章が投資信託、第3章がデリバティブ、第4章が保険、第5章が債券、第6章が外貨建て商品、第7章が不動産、第8章が預金というわけで、一通りの金融商品を取り上げています。
 一読すると、吉本佳生(2007.11)『金融商品にだまされるな!』ダイヤモンド社
2008.4.28 http://otsu.seesaa.net/article/94842594.html
に近い印象を持ちました。
 乙が興味深く思ったのは、p.186「個人向け外債はどう作られるか」です。結論は、個人向け外債は買わないということです。個人向け外債がこんな形で作られていることを知ると、なるほど、投資するべきものではないと思います。
 乙はちょっとだけ個人向け外債を買っているのですが、今は反省しています。
2009.4.11 http://otsu.seesaa.net/article/117253628.html
 もう一つ、こちらは気になったことですが、p.163 で外国為替レートの決まり方を説明しているところで、ゴチックでこう書いてあります。「総合的には、実質金利の高い国の通貨は高くなりやすいと言えます。」
 一方、p.165 の図では吹き出しふうの結論のところで「金利の高い通貨に対しては、円高になりやすい」と書いています。円高とは、現地通貨安のことですから、言い換えれば「金利の高い通貨は安くなりやすい」ということで、p.163 の記述と矛盾しています。たった3ページのところで矛盾があるというのはいかがなものでしょうか。
 ちなみに、乙は、この問題に対して、p.165 の記述が正しいと考えています。つまり、p.163 の記述は間違いなのですが、短期的には p.163 が成り立つかもしれません。p.165 は長期的に成り立つと思います。
 本書は、金融商品に関する真っ当な考え方が述べてあり、全体としては良書だと思います。


ラベル:永野良佑
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2009年09月06日

小宮一慶(2008.8)『お金を知る技術 殖やす技術』(朝日新書)朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。「「貯蓄から投資」にだまされるな」という副題が付いています。
 小宮氏は経営コンサルタントであり、明治大学大学院会計専門職研究科特任教授ということですから、専門家です。そういう人の書いた本ということで、どんな内容だろうと思って読んでみました。
 p.42 リバランスを定期的に行ってはダメで、むしろ、景気の転換点で行うべきだとしています。p.204 でも、1年ごとの定期リバランスを否定しており、小宮氏の持論なのでしょう。
 乙は、「景気の転換点で」というのがむずかしいように思いました。まずは、転換点をちゃんと知ることができるかという問題があります。次に、株価は景気の動向を半年くらい先取りするといわれており、景気の転換点では遅いのではないかという問題です。投資に時間が充分割けない人(現役のサラリーマン)にとっては、こういう作業はかなりむずかしいので、妥協して年1回のリバランスなどが推奨されるのではないでしょうか。
 p.64 アメリカはごく一部の金持ちが株をたくさん持っているという話です。むしろ、日本人のほうが(そんなに金持ちでなくても株を買っているという意味で)株が好きなのだそうです。グラフトン通りさんのブログ
http://fortheopensociety.blog17.fc2.com/blog-entry-161.html
でもこの議論が出てきます。これは驚きでした。本書で一番おもしろい点かもしれません。
 p.196 では、アクティブファンドは株価の上昇時にベンチマーク(平均株価)に勝つことがあるけれども、株価の下落時に負けることが多いと述べています。その理由として、p.197 では、ファンドのトレーダーは短期で評価されるから、株価が行き過ぎてしまうためだとしています。
 そうかもしれません。
 しかし、そんなふうに考えなくても、説明はできそうです。
 アクティブファンドは、株価の上下が激しくない株(電力株とか?)を対象としないと仮定します。株価が上がらないのではおもしろくないからです。すると、それ以外の株を買うことになり、結果的にβ値(平均株価との連動性)は 1.0 より大きくなります。つまり、平均株価の値動きよりも大きな変動を示すことになります。これでいいと考えられるのは、株価が長期的には上昇すると考えられるからです。つまり、投資信託が勝ったり負けたりしていても、長期的に勝つとすれば、β値を 1.0 以上にする戦略をしていれば、最終的には儲けになります。
 p.201 で、投資信託の選び方として、過去からの運用成績がよいものを選ぶべきだとしています。乙は、以前はこう考えていましたので、気持ちがよくわかりますが、今は、こういう考え方をしていません。過去の運用成績は、今後を保証するものではなく(まさに目論見書に書いてあるとおりです)、むしろ、値上がりを享受してきたからこそ、今後は運用成績が悪化するという考え方だって充分成り立つと思います。
 p.229 エピローグでは「「低金利」が日本をダメにする」ということで、利上げをするように説いています。低金利を止めることでいろいろなメリットがあるのはその通りですが、一方デメリットもあります。中でも一番の問題は、国債の償却をどうするかという日本の財政赤字の問題です。
http://www.kh-web.org/fin/
によれば、日本全体の債務残高は 1090 兆円を超えています。
 金利が上昇すれば、1% でも 10 兆円の利払いが必要になります。今すぐに必要になるわけではないけれども、次第にそうなります。今の日本の税収は 40-50 兆円くらいですから、10 兆円も利払いに消えてしまえば、予算編成が大変なことになります。
 この点は本書に書かれていませんが、書かなくていいものでしょうか。
 本書は、預貯金や投資について、ざっと知るには手頃な1冊です。しかし、内容的には、初心者向けではありません。現実に投資しているような人が読むといいでしょう。

ラベル:小宮一慶
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2009年08月22日

山田昌弘(2009.6)『ワーキングプア時代』文藝春秋

 乙が読んだ本です。「底抜けセーフティーネットを再構築せよ」という副題が付いています。
 ワーキングプアのさまざまな実態と、そのような日本社会における社会保障のあり方を提案する本です。
 いろいろ興味深いワーキングプアの例が挙がっていました。
 2章では、年金パラサイト・シングル(壮年・親同居未婚者)という例が紹介されています。年金をもらっている親(当然高齢です)と同居して生活を養ってもらっている独身者のことです。高齢の親が子どもの社会保障をしているわけです。こんな人が現実にいるんだと思うと、不思議な感じがしました。こういう人は、もちろん、親が死んだときが人生の危機です。
 3章では高学歴ワーキングプアが描かれます。乙の回りにもこういう人たちがいるので、生々しく受けとめました。その具体例は、次のようなものです。スクール・カウンセラー、オーバードクター、獣医師、歯科医師、ピアノ教師……。獣医師や歯科医師がワーキングプアだというのははじめて知りました。
 4章は、年金保険料を払う専業主婦の話です。サラリーマンの妻は、年金保険料を払わなくていいと思っていたのですが、夫が非正規雇用者の場合は、そもそも厚生年金に加入できないので、妻は国民年金に加入しなければならないということです。収入が少ない人が年金保険料を払わなければならない(一方、高収入の正社員の妻は払わなくていい)などというあたり、明らかに変です。
 5章では、遺族年金を利用して一生楽に暮らす方法が書いてあります。女性の場合、30歳を過ぎて結婚相手が見つからない場合は、60歳以上の不健康な高齢男性と結婚して扶養家族になるといいという話です。どうせ男性が先に死にますが、男性が年金を受給していれば、妻は自動的に遺族年金の受給者になり、死ぬまで年金をもらい続けることになります。遊んで暮らせます。これはすごい話です。実際、発展途上国の外国人女性が20歳以上も年上の男性と結婚して3児をもうけ、その後10年くらいして男性が死亡したため、その女性に毎年300万円が支給されているというのです。女性は出身国に子どもと帰ったのですが、当該国の平均年収の10倍の年金を日本から送金してもらうという生活をしているとのことです。
 乙は、妻と仲良く暮らしていますが、もしも妻が先立ったら、30歳過ぎの女性にねらいを定め「自分が死んだ後も、一生あなたのめんどうを見る」と約束して結婚相手を探してみましょうか。
 とにかく、今の日本の社会保障制度はおかしくなっています。それは、サラリーマンと専業主婦という標準家庭モデルと自営業の夫婦というモデルに当てはまらない人が多くなったからなのです。
 では、これからそのような多様化した日本をどうしたらいいでしょうか。
 著者の結論は、ミニマム・インカム(資力調査なしの現金給付システム)の導入です。その例として、「ベイシック・インカム」や「負の所得税」が考えられます。また、年金マイレージ制も提案されています。
 著者の構想が本当に実現するかといわれると、自信がありませんが、日本の現状のおかしいところをきちんと指摘し、それを解決するためには、これしかないということを知った上で、当面の年金制度や失業保険、介護保険などの問題を見ていく必要があるでしょう。
 大変おもしろい本でした。

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2009年08月21日

アレクサンドラ・ハーニー(2008.12)『中国貧困絶望工場』日経BP社

 乙が読んだ本です。「「世界の工場」のカラクリ」という副題が付いています。
 日本語のタイトルは、ちと大げさです。英語の原題「The China Price」のほうが内容にピッタリです。
 参考文献も含めて 450 ページほどの分量で、だいぶ長いです。読み切るのに一苦労します。
 中国の工場では、なぜ安く品物が作れるのかを解明した本です。つまりは、低賃金で長時間働く労働者を使っているということです。
 p.64 では、ウォルマートの工場監査の話が出てきます。ウォルマートは、自社が購入する物品がきちんと管理された工場で、ちゃんと賃金の支払いを受け、残業などのない労働者によって生産されたものであることを要求しています。そのため、「工場監査」があるのです。労働者の勤務時間など徹底した監査があります。賃金はもちろん最低賃金以上でなければなりません。
 しかし、ここで語られるのは、工場監査で見せる工場と、見せることのない第2工場の存在です。もちろん、後者のほうが生産量が多いわけです。中国ならではのだましあいが展開されているわけです。第2工場の勤務のあり方は、それはひどいものです。
 p.77 では、ウォルマートの監査対策としてどんなことをやっているかが語られます。タイムカードの偽造や賃金台帳の捏造など、考えられることが全部行われているのです。
 p.292 からは、ウォルマートの監査のしかたが説明されます。なかなかきびしいものです。しかし、これをかいくぐる工場が後を絶たないというのも実態の一側面なのです。
 p.307 では、監査で評価されるのは偽造技術だということが書いてあります。せっかくの厳しい監査も偽造によってまったく無意味になっています。
 p.315 にあるように、結局、監査もワイロで決まってしまうとのことです。役人も、工場主も、労働者も、みんなが満足しているのに、ウォルマートは一体何をやっているのかといった論調です。
 なぜ、こんな工場がたくさんあるのか。その原因は、いろいろなものが複合しているのは明らかです。中でも、p.340 にあるように、「投資家の責任」も大きいとのことです。また、p.344 では、安いものを求める消費者(つまり世界中の人々)も問題だとしています。
 本書を読んで、中国の工場のひどさにあきれてしまいました。今、労働者も目覚めつつあり、今後は勤務条件などの向上が見込まれるとのことですが、中国は、本当にそういう状態になれるのでしょうか。
 こういう本を読むと、中国投資に及び腰になってしまいます。
 とはいえ、エマージング諸国に投資するインデックスファンドを持っていれば、当然、しかるべき比率で中国にも投資していることでしょう。まあ、投資家としては、中国を無視することはできないと思っています。でも、そういう小さい気持ちが集まって、「資本」として中国に流れ込むと、こういう社会問題を引き起こしてしまうわけで、何ともいえない気持ちになります。
 膨大な参考文献が挙がっており、著者の徹底ぶりがわかりますが、できたら、もう少し記述を少なくしてくれたほうが読みやすくなったように思います。


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2009年08月13日

田中淳(2008.12)『中国ニセモノ社会事情』(講談社プラスアルファ新書)講談社

 乙が読んだ本です。「「ひ弱な途上国」の仮面を剥ぐ」という副題が付いています。
 中国ではいかにニセモノが横行しているかを丹念に追いかけた本です。絵画の贋作をはじめ、秋葉原流のメイド喫茶、即席ラブホテル、レンタル恋人、人口処女膜、大学入試のニセ成績など、驚きの連続です。
 中でも乙が一番驚いたのは、pp.141-142 に出てくる「レンタル悪女」です。離婚を幇助するというのですからすさまじいものです。もちろん違法行為です。レンタル悪女の多くは探偵会社に雇われた美人学生で、クライアントの多くは社長夫人です。こうして、レンタル悪女がターゲットの男を誘惑し、これで男が引っかかれば、高額の離婚慰謝料をもらって離婚することができるという話です。
 まさに中国には何でもあるという感じです。
 こういういろいろなことがビジネスになっているところがすごいです。中国人のたくましさを物語っています。しかし、多くの違法行為(あるいは違法すれすれの行為)が行われているわけで、中国はどうなってしまうのだろうと心配になります。こういう国に投資していていいのでしょうか。
 まあ、投資は、それなりのリターンがあれば、行ってもいいものでしょうが、こういう汚い側面を見せられると、投資意欲が減退します。


ラベル:田中淳
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2009年08月01日

川崎昌平(2008.6)『若者はなぜ正社員になれないのか』(ちくま新書)筑摩書房

 乙が読んだ本です。
 乙は、タイトルに引かれて読んでみたのですが、「若者は〜」ではなく「私は〜」という内容でした。つまり、本書はひとりの就職活動記です。自分で経験したことを書いているという意味でドキュメンタリーです。
 さて、著者は26歳。大学院修士課程を出てから2年間、無職でした。こういう人が就職できるでしょうか。最後まで読むと、結局就職には失敗したようです。そこまでの顛末を語った本というわけです。
 p.43 あたりでは、とにかくいろいろな会社に応募しても、片っ端から落ちるという経験を書いています。p.147 からはハローワークにいって職探しをしています。普通の求人とは違うということが書かれています。
 しかし、最終的には就職できなかったのです。
 なぜか。
 乙には本質的な理由はわかりませんが、現実はこんなものかもしれません。
 26歳ともなると、いわゆる新卒ではないし、かといって就職していたわけではないから何らかの技術を持っているわけでもないということです。毎年のように新しい人たちが大学を卒業して就職していきます。そのような大きな流れの中で26歳の無職青年を雇おうとする会社がどれくらいあるでしょうか。もちろん、何かの「売り」がある場合は別です。しかし、著者にはそういうものがなさそうです。
 面接のようすなど、かなり具体的に書かれている部分もありますが、そういうのを読んでみると、ちょっとこの人は雇いにくいなと感じてしまいました。
 乙は、勤務先でたまに人事に携わることもありますが、そういうわずかな経験から見ても、この人は積極的に雇いたくなる面が少ないように思えます。
 p.63 には、年齢階級別フリーター数の推移(総務省統計局による)が書いてありますが、200万人もいるとのことです。15-34歳の統計ですから、1歳あたり10万人です。日本の人口統計
http://ja.wikipedia.org/wiki/日本の人口統計
を見ると、1歳あたり 150 万人くらいいますから、10万人はその7%にあたります。学校で30人のクラスがあれば2人です。30人のうちで、就職しようと思ってもできない人がいるかと思いをめぐらすと、2人くらいはいそうに思います。10万人という数字は、妥当な数字かもしれません。
 個人的な顛末記ですから、あまり読む価値はないように思います。
 前著『ネットカフェ難民』
2009.7.29 http://otsu.seesaa.net/article/124492008.html
を読んだ編集者が持ちかけた安易な企画という感じがしました。

ラベル:川崎昌平 就職
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2009年07月29日

川崎昌平(2007.9)『ネットカフェ難民』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「ドキュメント「最底辺生活」」という副題がついています。
 ネットカフェ難民がどんな生活を送っているのか、ネットカフェ難民自身が書いた本ということになります。いろいろと興味深い「生活の知恵」が出てくるので、これからネットカフェ難民になろうとする人には必読書でしょう。初めからそう思う人はいないと思いますが、結果的にネットカフェ難民にならなければならない人はいそうです。
 p.38 では新聞紙の使い方が開陳されます。応用の広さに驚きます。
 p.59 では、ネットカフェでの寝方(寝るときの姿勢)が論じられます。ここにもいろいろな工夫があります。
 p.88 では、シャワーの使い方です。びっくりするような使い方も書いてあります。
 p.144 では、オナニーの話まで赤裸々に描かれます。
 p.158 は、洗濯のしかたです。コインランドリーを使うよりも、シャワーを浴びる際に一緒に洗濯してしまうというようなやり方が説明されます。
 たしかに「ドキュメント」かもしれません。まあ、ネットカフェ難民はこんな生活をしているのでしょう。
 こういう生活でも充分成り立ちます。自分(若い男性?)がひとりで生きていくには充分かもしれません。
 しかし、多数の人は、そういう生活をしていません。自分ひとりで食べていくなら、ちょっとアルバイトすれば生きていけるのは事実です。しかし、結婚しようとか、さらに子供をもうけようとすると、自分ひとりが生きていくのとは違った費用がかかるものです。子育てには住宅が必要です。お金は、自分自身で食べていくためではなく、妻や子どもを食べさせるために、さらには、子どもに教育を受けさせるためにこそ必要になってきます。つまり、ネットカフェ難民では、子どもがもうけられないのです。
 著者の川崎氏は、ネットカフェ難民の実態を描いていますが、乙には、自分の能力(妻や子どもまでを養っていけるだけの力)があるのに、それを発揮せずに、何となく非生産的で怠惰なライフパターンを選んでいるだけのように見えます。本書中に書いてあることが事実ならば、「もう少し他にやるべきことがあるだろうに」と思います。
 最近は、こういう生活を選ぶ若者が増えているようで(自分から主体的に選んでいるのか、他人から強制されるのか、知りませんが)、こんなことでは、日本全体がどうなっていくのか、将来が本当に心配になってしまいます。

ラベル:川崎昌平
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2009年07月17日

鳥居祐一(2007.5)『MILLIONAIRE BIBLE お金持ちにはなぜ、お金が集まるのか』青春出版社

 乙が読んだ本です。
 pp.30-38 で鳥居氏が経験したお金持ちのなり方が書いてあります。おもしろい話です。鳥居氏はこれをそのまま信じているようです。自分の経験したものだから絶対だというわけでしょう。
 しかし、それは一個人の経験でしかありません。みんなが同じようにやったら、同じように金持ちになれるかというと、それは違うと思います。なぜ鳥居氏が成功したのかはわかりませんが、この本に書いてあることに加えて、「何か」があったのだろうと思います。それは自分自身では気がつかないものだろう(したがって本に書けるものではない)と思います。
 乙が読んだ本の中で、何冊か、お金持ちに関する本がありました。それらは大量のインタビューなどに基づいて書かれています。そのようにしてお金持ちを客観的に見ようとしています。鳥居氏は、そのような見方とは対極に位置します。
 本書での記述の中心は、金儲けの話ではなく、お金の使い方です。
 第2章では、「見えるモノ」ばかりにお金を使ってはダメで、「見えない価値」にお金をかけることが重要だと説きます。そして、自分を成長させるための「投資」として、3点をあげています。
(1)人と会うことに投資する
(2)学ぶことに投資する
(3)健康に投資する
 記述はいずれも具体的でおもしろいものでした。(1)では、各種セミナーへの参加のしかたが参考になります。講師の人への近づき方といったものです。(2)では本や映画、セミナーにお金をかけることを述べています。そして(3)では体形の維持や「歯」に投資することを述べています。新鮮な観点でした。
 第3章では「空間」や「時間」にお金を惜しまないことを述べています。ビジネスクラス、グリーン車、一流ホテルのラウンジ、高級レストランなどを使うことの意味が明解に書いてあります。乙はこういう視点を持っていなかったので、新鮮な感覚で読むことができました。
 本書の後半は記述がやや抽象的で、ややつまらない感じがします。ビジネスの話は、一般論として述べようとすると抽象論になってしまいます。具体的に書くとおもしろいのですが、やはりいろいろ差し障りがあるのでしょう。
 しかし、第3章までの記述だけで充分本書を読む価値があると思います。

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2009年07月15日

山本昇(2008.11)『ニッポン式ビジネスを変える グローバル仕事術』明治書院

 乙が読んだ本です。
 著者の山本氏は、長年イギリスを中心に働いてきた人で、世界を飛び回ってきたとのことです。本書は、グローバル企業での働き方・ものの考え方が日本式のやり方と大きく違うということを述べた本です。ユニークな本だと思います。
 著者の意図はわかるのですが、一読した感想では、著者の試みは失敗していると思います。
 この本に出てくる話は、みんな抽象的なのです。第6章「国際ビジネスの舞台裏」は具体的な名前や事件が出てきますので、なるほどと思いながら読み進めることができますが、(とはいえ、p.219 の注にあるように、「本章の社名やサービスの名称および数値は、架空のものである。」とのことです)それ以外は、具体性がなく、著者のいいたいことはわかるのですが、記述に迫力がありません。
 まあ、具体的に書くとあちこちに差し障りがあることは理解できるのですが、そこが著者の腕の見せ所ではないでしょうか。架空の名前で書くとか、ちょっと別の分野の話に仕立て上げるとか、さまざまな方法があると思います。そこからさまざまな経験を読み解くのが読者であるべきです。今は、著者がこれこれこういう違いがあると述べているわけですが、そのような抽象的なお話だけでは、単なる異文化論程度にすぎないのです。せっかくの著者の経験が活かされているとはいえません。
 グローバル企業では個人の間でも契約の概念が浸透しているそうですが、そういう契約の中に、著者が企業内で勤務している間に知った事実について退社後は一切口外できないというような条項が入っているのでしょうかね。
 でも、そこをうまくかいくぐって、著者の直接経験を活かした話を書かないと、おもしろくありません。
 p.196 では、奥さんの山本麻子さんの本を紹介しつつ、イギリスやアメリカのビジネス・エリートたちは、幼いときから英語の勉強には大変な力を入れており、イギリスやアメリカでは英語ができる子が「頭が良い」とされることが書かれています。意外な一面でした。ここは日本の国語教育(という名の文学もどき教育?)を批判しているようにも受け取れます。

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2009年07月12日

野口悠紀雄・藤井眞理子(2000.6)『金融工学』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「ポートフォリオ選択と派生資産の経済分析」という副題がついています。
 本書は、二つの部分に分かれています。第1部が「ポートフォリオ選択理論」で、どんなポートフォリオにするといいかというようなことを扱います。第2部が「派生資産の価格理論」で、オプションの価格をどのようにして決めるかというようなことを扱います。
 乙は、「金融工学」とは何か、よく知らなかったので、勉強してみようというつもりで読みました。
 しかし、本書を一読して、やっぱり金融工学はわからないと感じました。
 本書中に出てくる話は、それなりに理解できるつもりです。問題は、その上で、金融工学とは何か、なぜ本書で解説されるよう内容が「金融工学」と呼ばれるのかがわからないというところです。
 むしろ、「はじめに」の中にその回答が書いてありました。p.vi ですが、金融工学とは「経済・社会的問題に取り組むための技術」とのことです。「技術」を「工学的アプローチ」に言い換えてもいいと思います。
 つまり、理論を追求するよりも、理論を現実の経済・社会にあてはめて、いくつかの問題を解明しようとしたととらえるといいでしょう。したがって、本書の各章が扱うような問題を扱うのが「金融工学」なのだと考えればいいように思います。
 というわけで、本書は全体として「現代ファイナンス経済学の解説書」(「はじめに」の1行目)ととらえるほうがいいように思います。数式が出てきて、ちょっとむずかしい感じのところもありますが、何がいいたいのか、ざっととらえるような読み方をすれば、そんなにむずかしくはないように思います。各章の最後に「まとめ」があって、頭の中が整理されるようになっています。

 参考までに、乙が今までに読んできた「金融工学」を標題に含む本を挙げておきます。
吉本佳生(2000.4)『金融工学 マネーゲームの魔術』(講談社+α新書)講談社
 2007.12.31 http://otsu.seesaa.net/article/75410576.html
吉本佳生(1999.9)『金融工学の悪魔』日本評論社
 2007.12.22 http://otsu.seesaa.net/article/74013494.html
真壁昭夫(2005.4)『はじめての金融工学』(講談社現代新書)講談社
 2007.12.3 http://otsu.seesaa.net/article/70624375.html
野口悠紀雄(2000.9)『金融工学、こんなに面白い』(文春新書)文藝春秋社
 2007.11.27 http://otsu.seesaa.net/article/69519485.html

これらの本を読んで、金融工学について知りたいと思い、1年半ほど前に買ったのですが、少しずつ読み進めたところ、特におもしろいところもないように感じました。(読むのにあまりに長時間かかったので、読み終わるころには初めのほうの内容を忘れていました。)
 「おもしろいところがない」などというと、著者に失礼な気がします。
 しかし、この場はブログであって、書いているものも書評ではありませんから、客観的な目を持たずに、主観的にとらえて感想を述べてもいいだろうと思います。

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2009年06月23日

大村大次郎(2009.3)『脱税のススメ-改訂版-』彩図社

 乙が読んだ本です。著者の大村氏は元国税調査官とのことですから、「脱税をススメル」はずがありません。書名は皮肉でつけられているのです。
 どんな脱税があるのか、事細かに網羅的に書いてある本です。しかし、すべて摘発されたものが基になっています。まだ摘発されていない脱税もあるのでしょうが、これだけさまざまな例が挙がっていると、だいたい手口は網羅されているように思えてきます。
 個人投資家としては、p.152- の「個人向けの脱税方法」が一番おもしろいと思います。相続税、贈与税、源泉徴収税、などなど、身近な話題について触れられています。
 また、p.162 から『無税入門』
2008.5.3 http://otsu.seesaa.net/article/95470875.html
の話が取り上げられているのも興味深かったです。なかなか個人では実現しにくいスキームであることが述べられ、さらに、たとえ37年間無税だったとしても、税務署がそれを認めたということではなく、たまたま税務署が摘発しなかっただけかもしれないとしています。
 税金をめぐる国税庁などの考え方を知る上では意味のある1冊といえるでしょう。
 それにしても、こんなタイトルをつけるのはいかがなものでしょうか。乙のように、勘違いして読み始める人がたくさんいそうです。まあ、それが出版社のねらいなのでしょうが、……。
 参考記事:
http://fund.jugem.jp/?eid=999

ラベル:大村大次郎 脱税
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2009年06月21日

前田和彦(2009.2)『日経平均3000円でも資産が守れる方法』フォレスト出版

 乙が読んだ本です。
 タイトルに引かれて読んでみる気になりました。
 日経平均が 3,000 円になるというと、大事件のような気がしますが、では、具体的にどんな方法で資産が守れるのでほうか。
 本書の結論からいうと、子どもへの教育投資を重視しているようです。それに加えて、p.194 で外貨 MMF をあげています。また、p.195 では、マンの ADPを、p.196 では金(ゴールド)への投資を説いています。前田氏はこういうものを組み合わせることで「日経平均 3,000 円」を乗り越えようとしています。
 しかし、前田氏は p.68 で円高になること(1ドル=50円)も予想しているので、もしもそうならば、外貨 MMF にしておいても資産が目減りするだけではないでしょうか。
 p.127 以降では、デノミの説明が出てきます。円が暴落して、1ドルが1万円になるような場合、1ドル=1新円にすることを書いています。すると「1億円の価値は実は1万分の1に減ってしまうのです。」というのですが、デノミは単なる通貨の呼称の変更にすぎませんから、1億円の価値が(いや、いくらであっても)1万分の1になると同時に、我々の(国家も同じですが)収入も支出も1万分の1になりますから、元々の1億円の価値が変わるわけではありません。国債の価値がほぼゼロになる話も出てきますが、これはデノミとは別の話で、デノミをしたから国債の価値がなくなるわけではありません。
 p.136 では、日本の少子高齢化を解決するためには移民の増加しかないとしています。安易な低賃金労働者を導入するのでなく、日本語ができるとか、日本国債を1億円以上買ってくれる人とか、条件をいろいろ付ければいいというわけです。そうかもしれません。しかし、そういう一部富裕層が日本に移住してくるでしょうか。相続税を初めとする税金が高く、物価も高く、投資機会があまりない(今後の日本経済の先行きに安心できる人は少ないでしょう)日本にどういう魅力があるのか、乙にはわかりません。
 p.140 から大量失業時代に突入する日本を描いています。企業も個人も日本脱出なのだそうです。そうかもしれません。しかし、その先には滅び行く「日本」があるだけです。海外に脱出した日本人たちは、根無し草的になってしまうだけのような気もします。日本語が通じることが日本の最大の魅力であり、母語として日本語を身につけた人にとっては日本が一番安心できる場所であると思います。やはり、日本を脱出できるのは、富裕層だけになりそうです。
 p.181 では、金本位制に戻るという大胆な予想が書いてあります。これは大問題で、金本位制から抜け出してしまったら、もう元に戻れないように思いますが、どうなのでしょうか。
 一読して、前田氏のお話はおもしろいところがあるものの、それを裏付けるデータや資料が不足しており、説得力がなく、自分勝手な主張の域を出ないように思いました。
 乙は今までも前田氏の本を何冊か読んできました。

2007.8.15 前田和彦(2007.8)『5年後にお金持ちになる海外投資』フォレスト出版
http://otsu.seesaa.net/article/51438133.html
2006.9.20 前田和彦(2006.8)『5年後にお金持ちになる資産運用』フォレスト出版
http://otsu.seesaa.net/article/24035583.html
2006.6.6 前田和彦(2004.8)『借金国家から資産を守る方法』フォレスト出版
http://otsu.seesaa.net/article/18894635.html

 本書も類似した本のように思います。世界経済の危機を煽って、プライベート・バンク(あるいは前田氏個人)に目を向けさせようとしているだけかもしれません。
 普通の人が資産運用する場合は、この本に頼ることは危ないように思いました。

ラベル:前田和彦
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2009年06月20日

藤巻健史(2009.5)『100年に1度のチャンスを掴め!』(PHPビジネス新書)PHP研究所

 乙が読んだ本です。「サブプライム・ローン問題後のマーケットはこう動く」という副題が付いています。
 読み始めてすぐの p.16 で、藤巻氏が 2008.10.6 の段階で、持っていた日本株全部と米国株の半分を売却したということが書かれています。そして、p.18 では、10月下旬に日米株を買い戻したとのことです。
 日経平均の10月6日の終値は 10,473 円でした。10月31日の終値では 8,577 円でした。その後の経緯を見ても、藤巻氏の判断はなかなか優れていたと思います。
 こんなふうに、藤巻氏は積極的に経済の動きを読み、それに対応した戦略で臨んでいます。
 現在の状況をどう把握するべきか。そういう見方を知るために、本書はおもしろいと思います。
 ところで、こういう本を読んだ人は、藤巻氏と同様の行動をするべきか。乙は、とてもではないけれど、真似できないと思いました。
 まずは、日米を中心とした経済の動向を正確に把握することがむずかしいと思います。そのためにはかなりの時間もかかるでしょう。個人投資家がそういう情報収集をおこなうことは、不可能ではないけれど、かなり大変なことです。
 そして、さらに重要なのは、判断したら即実行することです。乙は、最近、仕事が忙しくて、投資に割く時間がなくなってきました。持っている株を全部売却するなんて、けっこうな時間がかかり、不可能に近いとさえ思います。
 というわけで、藤巻氏はエライと思いますが、多くの投資家は真似できないだろうと思います。乙自身もそうでした。
 あとからこういう本を読んで「なるほどなあ」と思うくらいが関の山です。

 p.149 あたりでは、今後の日本には資産インフレがやってくると予想しています。乙も同じように考えていますので、このあたりは共感を持ちながら読みました。

 本書は、新書サイズで 200 ページほどですから、あまり長くはありません。しかし、12章構成で、各章が見開き左側から始まるようになっていて、章のタイトルだけで1ページとるようになっています。前の章が左側のページで終わると、章のタイトルの右側のページも空白になります。ということで、約 20 ページ分の空白があるようなものです。何か、かなりもったいないような気がしました。

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2009年06月16日

城繁幸(2009.3)『たった1%の賃下げが99%を幸せにする』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「雇用再生へのシナリオ」という副題が付いています。
 題名の意味がわかりにくいですが、中高年層は人口が多く、給料が高いので、給料の1%を下げるだけで、多数の若者を雇ったりして、大部分の人が結果的に幸せになるという趣旨です。単純にいえば、賃下げが幸せをもたらすのです。このように、本書は日本の雇用問題を論じたものです。
 p.67 では、自分の給料を下げてまでも、職を求めようとすると、労働組合が横並び至上主義なので、そういうことを認めないとしています。つまり、ディスカウントはできず、結果的にある程度の年齢以上では転職ができないということになります。今の日本の年功序列主義の問題点を指摘しています。
 p.80 から、21世紀型エリートが描かれます。ビジョンを持っている人ということです。
 p.84 では、今の会社の正社員採用方針を述べています。幹部候補たりえる人材だけだということで、あとはアウトソーシングや非正規雇用で代替するわけです。まさに日本の現状がこうなっています。
 第3章「年功序列は日本社会も蝕む」では、年功序列の問題点をこれでもかという感じで記述しています。そして、年功序列を打破する方向へ舵を切るべきだとしています。
 第4章「雇用再生へのシナリオ」で、将来の日本のあり方を論じます。
 おわりに p.197 では、日本型雇用はあと5年で完全に崩壊すると予想しています。この点に関しては、まさかたった5年で日本に大変化が起こるとは思えません。乙は、日本人がぬるま湯に浸りながら、国としてだんだん衰えていくのではないかと予想します。
 まあ予想はともかく、読んでいて痛快な感じのする本でした。提言も興味深いものがあります。ただし、それが実現するかと考えれば、乙としては否定的に思うということです。根拠は、あまりありませんが、社会の変化はそんなに急激には起こらない(保守的な傾向が継続する)だろうということです。

参考記事:
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51509393.html

ラベル:城繁幸 年功序列
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2009年06月14日

北村慶(2009.3)『ETFとは何か』(PHPビジネス新書)PHP研究所

 乙が読んだ本です。「個人マネーをひきつける新商品のすべて」という副題が付いています。
 新書版ですが、ETF に関する一通りの知識が詰まっています。
 第1章「世界中の投資家が注目する「ETF」の魅力」は、入門の入門編です。どのように ETF が優れているかを述べています。
 第2章「「ETF」はなぜ超低コストなのか?――「ETF」の仕組み」は ETF の仕組みを述べ、第1章の解説をさらに詳しくしたような感じです。p.83 では、インデックスに追随する手法について解説していますが、コストを抑えながらインデックスに追随する技術がいろいろ開発されていることに驚きました。投資家の立場からは、具体的な手法まで知る必要はないとも言えますが、しかし、そこまで知って ETF が理解できるものになるようにも思います。
 p.90 には、さらりと ETF 投資のコツが書いてあります。「人気のある ETF を選ぶ」ということです。
 第3章「初めての株式投資に最適な「ETF」投資」では、各種の ETF を紹介しています。ここまでが入門編です。
 第4章“アクティブ投資家”のための「ETF」活用法」では、通常の ETF と性格の違うアクティブ型の ETF などを紹介するとともに、一歩進んだ ETF の使い方を述べています。応用編とでも考えればいいでしょう。
 p.139 では、アクティブ型の ETF の具体例を出していますが、ずいぶんと頻繁な売買をするものです。ファンドの規模が小さいうちは、こういう運用もありかもしれませんが、規模が大きくなると、株価を左右するほどの力を持つことになるかもしれません。そういう場合、ファンドの銘柄入れ替え情報が事前にわかってしまうことから、それをカモにしようとする作戦が有効になってきます。こんなことまで考えてアクティブ型にしているのでしょうか。ちょっと考えさせられました。乙は、アクティブ型の ETF は邪道のようにしか思えませんでした。
 第5章「“相場下落時に利益が上がる ETF”などユニークな ETF たち」では、さらにさまざまな ETF を紹介しています。こんなのもあるということを知っておくと、何かの際に役立つかもしれません。
 第6章「日本市場に求められること」では、日本が ETF の後進国であることを論じ、今後の望ましい方向性について述べています。具体的に日本に上場するべき ETF を指名して書いていることには納得しますが、果たして、日本の ETF がその方向に変化していくのでしょうか。乙は、かなり懐疑的になっています。
2009.3.16 http://otsu.seesaa.net/article/115718784.html
2009.3.15 http://otsu.seesaa.net/article/115670077.html
日本はずっと遅れたままになってしまうのではないでしょうか。

参考記事:
http://fund.jugem.jp/?eid=1048

ラベル:北村慶 ETF
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2009年06月12日

鈴木亘(2009.1)『だまされないための年金・医療・介護入門』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「社会保障改革の正しい見方・考え方」という副題が付いています。
 一読して、年金・医療・介護の諸問題がすっきりと頭に入ったような気がしました。
 「だまされないための」という題名は刺激的です。だまされないのは「読者」ということですが、では、誰がだますのでしょうか。「はじめに」に出てきます。政府、政治家、厚生労働省、社会保険庁などです。つまり、本書は、今普通に考えられている社会保障制度を批判し、基本に立ち戻ってどうあるべきかを論じたものなのです。
 本書中で一番おもしろいのは第3章「年金改革の現状と問題点」でしょう。現状をどうとらえるのでしょうか。答えは p.145 に書いてあります。「現在の高齢者への既得権保護・利益供与」、「先送り主義」、「情報操作」、「本質的でない論点へのすり替え」だと喝破しています。いかにも鋭い指摘です。
 第4章「医療保険・介護保険改革の現状と論点」も興味深い記述がたくさんあります。
 p.205 あたりでは、医師不足対策は診療報酬の決め方で解決できるといった、「経済」的な観点で割り切った議論が展開されます。痛快です。「経済」という観点から快刀乱麻を断っています。
 第5章「最初で最後の社会保障抜本改革」もすばらしいところです。年金を、賦課方式から積立方式にするというものです。世代間の不公平をなくすには、これしかないということです。乙はこの議論を大変おもしろいと思いました。一見すると不可能なように思えますが、本書を読むと、積立方式が実現可能なように思えてきます。
 p.252 で、相続資産からの負担徴収もあり得るという指摘にも感心しました。
 本書の描く「改革」こそが真の意味の改革であり、これが実現するような政治が行われるようでないと日本の未来は危ういように思いました。
 巻末には参考文献もあげてあって、著者の勉強ぶりが見てとれます。
 本書を一読して、年金・医療・介護について考えておくことは、老後の生活を準備する上で必須のことだろうと思いました。
 p.154 l.10 で、福利(正しくは「複利」)の間違いがあったのは残念でした。

 他の人の記事も参考になると思います。
http://angel.ap.teacup.com/newsadakoblog/1240.html
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/44ee1862b7436fea185cbf4f85428c27


ラベル:鈴木亘 年金
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2009年06月10日

大前研一(2009.1)『「知の衰退」からいかに脱出するか?』光文社

 乙が読んだ本です。「そうだ! 僕はユニークな生き方をしよう!!」という副題が付いています。
 本書は、現代日本を「知の衰退」つまりものを考えなくなった社会ととらえ、きちんと考えれば、こんなのが日本のあり方になるというようなことを述べたものです。さまざまな提言を含み、おもしろく読みました。
 第2章で官製不況の根が「知の衰退」だと説いています。第4章では政局も「知の衰退」でとらえることができるとしてます。第5章はネット社会をどう見るかを論じています。第6章は無欲な若者と学力低下の問題を扱います。第7章は教育改革です。第8章は「低IQ社会」で得をしている人として、政治家、役人、などをあげています。第9章は勝ち組の話、第10章は教養論です。
 実に幅広く何でも論じてしまうあたり、大前氏らしい語り口です。p.74 では、自身の講演料が5万ドルであることを明示しています。けっこうな額です。大前氏は世界をあちこち飛び回っているとのことですから、1年間に 60 回講演すると想定すると、それだけでざっと3億円の収入があるわけです。大前氏の場合、講演だけでなく、本の印税や大学教員としての給与所得、会社経営者としての収入もあるようですから、支払っている所得税もさぞや多いことでしょう。(それにしては高額納税者ランキングなどでは大前氏の名前などは聞いた記憶がありませんが、……。)
 それはともかく、こんな中で、一番興味深いのは、第3章「1億総「経済音痴」」でしょう。ゼロ金利でも銀行に預け続ける国民を批判し、海外の高金利を紹介し、高金利の国に資金をシフトして、積極的に投資するべきだと説きます。
 p.127 では、日本国債をもっともリスキーな金融商品として、そんなものを買う人間が経済音痴なのだとしています。
 高金利の国に投資すればもうかるかという問題については、
2009.4.11 http://otsu.seesaa.net/article/117253628.html
2008.5.23 http://otsu.seesaa.net/article/97628420.html
で乙の考え方を示しましたが、高金利でももうからないと思います。
 以前の乙は大前氏と同じように考えており、したがって、海外投資を積極的に考えていたのですが、最近はそうでもないと考えるようになりました。
 乙は、日本国債についても、
2008.5.23 http://otsu.seesaa.net/article/97628420.html
で、投資を考えてもいいのではないかとしています。
 というわけで、大前氏の話を全部信じているわけではありませんし、第3章は特に問題があると思うのですが、それはともかく、読み物としてはおもしろいと思います。
 読後感としては、大前氏は強い人だということです。とてもマネはできません。



ラベル:大前研一
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2009年06月08日

田村正之(2009.2)『世界金融危機でわかった! しぶとい分散投資術』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。
 とてもおもしろい本でした。
 インデックス投資をどう行うか、その具体論を書いたものです。考え方から具体的な手順まで、細かく書いてあり、大いに参考になりました。
 p.88 には、日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がまとめた2007年まで35年間の実績の数字に基づいた表が出てきます。
期待リターンリスク
相関係数
日本株式日本債券外国株式外国債券
日本株式
7.00%
22.15%
1.000
-
-
-
日本債券
2.00%
5.40%
0.160
1.000
-
-
外国株式
8.00%
19.59%
0.270
-0.050
1.000
-
外国債券
3.00%
13.25%
-0.250
-0.060
0.560
1.000

 この表で、外国株式は MSCI コクサイですが、外国株式それ自体が分散投資になっているので、日本株式よりもリスクが小さくなっているところがおもしろいところです。これはプロの常識だそうですが、乙は知りませんでした。いわれてみればなるほどといったところです。
 この表では、外国株式と外国債券の相関係数が 0.560 とかなり高いことが気になりました。もともとの指数は、円建てで計算しているわけではなく、それぞれの国の通貨別に計算してそれを合成しているはずですから、(円との)為替レートの動きを反映しているわけではないと思います。相関がある程度高いと予想される日本株式と外国株式でさえ 0.270 なのですから、ここだけいやに相関係数が大きいということになります。
 p.18 にあるように、株式と債券は異なる値動きをします。日本株式と日本債券の相関係数は 0.160 とかなり低いわけです。だったら、外国株式と外国債券の相関係数も、0.560 というよりは、もっとずっと低くなってほしいところです。
 なぜ、こういう結果になるのか、乙にはわかりません。
 p.128 では、ETF がインデックス投信に負けることがあると述べています。ETF は、1日の間でも値動きがあるから、変に高値で買って安値で売るようなことをすれば、インデックス投信に負けてしまうということです。ETF 投資で注意するべき点でしょう。
 p.133 では、米国上場の ETF の理論価格を調べる方法が示されます。
http://finance.yahoo.com/
にアクセスして、GET QUOTES のところに、ETF のコード番号+「.iv」(たとえば「tok.iv」)を指定するだけです。これまた乙は知りませんでした。米国は進んでいますね。投資家はこれで計算して、理論価格をもとに売買をするとのことです。証券取引所はこういうところまできちんとやらないといけません。東証の ETF は、それに比べたら、はるかに劣ります。
 pp.135-136 では、新興国株式に投資するためには、バンガード・エマージング・マーケット ETF を勧めています。それはそれでわかるのですが、細かいことですが「VWO」というコード番号を入れておくほうがいいのではないかと思いました。乙もこれを購入していますが、
2007.4.25 http://otsu.seesaa.net/article/39977369.html
確かに、新興国投資ではこれを使うのがよさそうです。
 pp.184-185 では、購買力平価を基に、ドルとユーロの為替レートが円高か円安かを見る方法が示されます。
http://www.iima.or.jp/research_gaibu.html
を見ればいいのですね。こんなことも乙は知りませんでした。外貨投資を考える際には大変参考になります。
 もっとも、円安だから外貨投資を控えようなどと判断するのもむずかしそうです。為替レートの上下は誰にも予測できないし、インデックス投資の考え方からすれば、為替レートが高かろうが安かろうが、余裕資金ができたらしかるべき比率で投資するのがよさそうで、円安だから日本株に投資する(円高だから外国株に投資する)というのは変な考え方のように思います。まあ、投資先を考える上で少し参考にする程度がいいのかもしれません。
 ともあれ、1冊読んで、乙は大いに満足しました。良書です。
 モンチさんもオススメの本です。
http://m0nch1.blog.shinobi.jp/Entry/598/



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2009年05月23日

廣宮孝信(2009.2)『国債を刷れ!』彩図社

 乙が読んだ本です。「「国の借金は税金で返せ」のウソ 」という副題が付いています。
 簡単にいえば、もっと国債を発行して、その金で日本経済を進展させようという主張です。
 本書中にはさまざまな図表が豊富に収録され、著者の主張を客観化しようとしているようすがわかります。好感が持てます。
 第1章は「「国が借金で大変」の大ウソ」です。60ページほどですが、ここが本書の中心です。
 第2章「国の借金をゼロにする秘策」もそれに次ぐ内容で、たいへん興味深いです。
 第3章「日本の GDP が伸びない本当の理由」は政府が支出を増やさないためで、だから国債を発行して政府支出を増やそうという主張です。第1章〜第2章を踏まえた提言の章です。
 ポイントは、pp.177-179 で、日本政府がジンバブエのようにハイパーインフレに持っていって国の借金をチャラにしようとするかということを論じています。結論として、日本はデフレだから、通貨を過剰に発行してもインフレにはならないとしています。
 第4章「財政政策が国の命運を分ける」では、政府や日銀の考え方を、世界の各国と比べつつ、その妥当性について論じています。
 第5章「日本の目指すべき道」は結論のような内容で、将来展望・提言を述べています。
 一読して、かなり説得力のある本だと思いました。
 乙は、政府発行紙幣について、賛成だと述べたことがあります。
2009.2.11 http://otsu.seesaa.net/article/114032329.html
国債の発行は、政府が使えるお金を用意する点で、政府発行紙幣と似た側面を持ちます。政府発行紙幣を永遠に流通させるのでなく、ある期間だけにとどめようとすれば、国債の発行とさらに似てきます。国債は利子を払うけれど、政府発行紙幣は利子を払わないというくらいの違いしかありません。
 しかし、本書の中で、一番問題なのは、もっと国債を発行せよと主張している割には、その総額についてまったく論じていない点にあります。
 日本の最近の税収と国債の発行高はどれくらいなんでしょうか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090523-00000007-mai-bus_all
によれば、2008 年度の場合、税収が 44 兆円程度、2009 年度の新規国債発行額は 44.1 兆円だそうで、今や国債の発行額が税収を上回る事態になっているわけです。
 ここで、国債を 50 兆円追加発行せよというなら、そんなに発行して大丈夫かと心配になります。いえいえ、著者によれば問題ないはずです。しかし、200 兆円ではどうでしょうか。大丈夫だというなら、1000 兆円はどうでしょうか。単年度で 1000 兆円も発行する事態になったら、国債の発行総額は 1.5 京円を越えているはずで、利率が 1.5% としても、国債の償還に1年あたり 200 兆円も必要になります。そんな税収はありませんから、国債の償還のための国債の発行ということになります。つまり、自力で償還できないということで、永遠に返せない借金となります。こんな事態になれば国債に信任がなくなります。国債の利率が上昇し、いよいよ首が回らなくなり、最後は「国債が償還できない」となります。これが財政破綻です。
 本書では、いくらまでなら発行して大丈夫かという問題を避けています。しかし、これが実は一番の問題なのではないでしょうか。もちろん、はっきりとしたところは誰にもわからないでしょう。でも、50 兆円と 1000 兆円では、話がまったく変わってきます。それがだいたいいくらくらいなのか、±2倍程度の誤差(「200 兆円」という場合は「100 兆円〜400 兆円」という意味)があってもいいので、ひとこと述べてほしかったと思います。
 まさか、国債を無限に刷っても大丈夫という主張なのでしょうか。
 もしも、金額で示すのが不適当だというなら、GDP の何倍程度というのでもいいです。
 ちなみに、乙が政府発行紙幣のことを考えていたときは、総額はせいぜい50兆円程度かなと思っていました。


ラベル:廣宮孝信 国債
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2009年05月20日

細野真宏(2009.2)『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』(扶桑社新書)扶桑社

 乙が読んだ本です。「世界一わかりやすい経済の本」という副題が付いています。
 読んだ後で、少し後悔した本です。
 本1冊が年金未納問題を扱っているわけではありません。それは第4章であり、全 206 ページ中の 73 ページほどです。最近流行の、一部の章の題名をそのまま書名にする手法です。
 第1章「学力や思考力は日常の会話方法で飛躍的にアップする!」、第2章「なぜ人は「宝くじの行列」に並んでしまうのか」の二つは、数学ないし確率論の世界を描きます。本の主題とはあまり関係しないように感じました。
 第3章は「なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか」で、今回の経済危機の話をわかりやすく述べています。しかし、ここもあまり新鮮味がないように思いました。
 第4章は書名と同じです。いうまでもなく、ここが記述の中心です。
 p.138 では「国民年金に加入すると損するって本当?」とあります。そして、現在20歳になる人でも、今年生まれた赤ちゃんの場合でも、実際に国に払う「保険料」よりも平均的に将来もらえる「年金」が 1.7 倍になるということを示し、だから損することはないと主張しています。しかし、乙は、これは比較の対象がずれているように思いました。たとえば、長期金利が 1.5% あるとすると、72の法則で、72/1.5=48 年で2倍になってしまう計算です。20歳の人が65歳で年金をもらうまでには45年の長期運用が可能ですから、比べるものはきちんとさせておかなければなりません。1.7 倍に増えたとしても、まあそんなものなのかもしれません。
 pp.153-155 で、国民年金の未納者が増えても減っても、給付される金額にはほとんど差がないというデータが示されます。しかし、なぜ、こういう計算になるのか、ここを読んだだけではよくわかりません。
 この種明かしは p.159 でなされます。国民年金は、第1号加入者だけでなく、第2号加入者(会社員や公務員など)、第3号加入者(第2号の配偶者)が大量にいるから、第1号保険者の未納率が増減しても、国民年金にはほとんど影響がないというわけです。
 p.172 では、したがって、未納者が増えると、年金が破綻するから困るのではなく、未納者は無年金者なので、そういう人が増えると社会的な問題が起こって困ることがあるということです。
 国民年金は、そもそも給付の比率が低く、未納率があがっても破綻はないということですね。
 書かれている内容は正しいと思いますが、これをいうのに新書1冊はスペースのとりすぎのように思いました。もっと薄くてもよかったでしょう。もっとも、それでは新書として成立しないでしょうが。
 というわけで、乙の感想としては、内容があまりないものを読んでしまったということです。
 なお、本書はイラストが多用されていますが、乙は、これは必ずしも成功していないように思いました。イラストで描かれた内容は本文でもそのまま書かれていることの繰り返しが多いからです。これまた、内容を水増ししているにすぎません。


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2009年05月18日

山崎元(2008.12)『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。
 とてもおもしろい本でした。この本を読むと、99%のマネー運用本が無効になってしまうというのですが、確かにそうかもしれません。
 山崎流の投資術が書いてあります。しかも、結論から書いてあって、引き込まれます。
 結論は三つです。ここに書いてしまっても、この本の売り上げが落ちることはなさそうですから、書きましょう。
 @当座の生活に必要なお金を銀行の普通預金に置く。
 A残ったお金は、全額 ETF に、国内株4割、外国株6割の比率で投資する。
 B大きな支出の必要が生じたらAを躊躇なく部分解約してこれに充てる。
 これで全部です。簡単です。しかも、この本によれば、Aの ETF は、国内株が 1306、外国株が TOK と銘柄まで書いてあります。
 本書では、この基本型に加えて発展形としてリスク調整型というのも出てきますが、基本型をもう少し複雑にしたものにすぎません。
 第1章は約40ページですが、この投資法をきちんと述べます。
 第2章は50ページほどをかけて、なぜこの投資法でいいのか、その根拠を解説します。
 ここまでが本書のメインです。
 確かに、これから投資を始めようとする人にとっては、このやり方でいいと思います。p.210 のあとがきでは「他の入門書がいらなくなるような、お金の運用の本を作りたい」というねらいを語っていますが、このねらいは成功していると思いました。もっとも、一番の問題は、投資を始めようとする人が本書を最初に手に取るかどうかということと、もしも手に取ったとして、山崎氏の主張に納得するかどうかということにあります。書店にはさまざまな本があふれているわけですし、それが間違っているということは、初心者にとって、なかなかわからないわけですから。
 第3章は「お金のあれこれ簡単レクチャー」と称して、10個のレッスンを述べています。
 その中では、レッスン9「パニック論をどう考えるか(たとえば財政破綻)」がおもしろかったです。山崎氏は、政府全体の資産が大きくて、純債務で考えれば大した赤字ではないということと、国内で国債が消化されているから問題にはならないということから、パニック論を排しています。
 しかし、一方では、p.196 に書いているように「日本政府の債務の最適残高はどれくらいか」という問いに誰も満足できる答えを持ち合わせていないという現状があるわけで、気が付いたら国家破綻になっていたという可能性も捨てきれません。しかし、山崎流投資術では、外国株に6割を投資していますから、国家破綻があっても大丈夫だといえるように思います。
 何はともあれ、最近読んだ本の中では一番おすすめできる本だと思いました。乙も最初にこの本に出会っていれば投資のしかたが相当に変わっていたことでしょう。

 本書を一読して、乙は自分の投資戦略を根本から改めるほうがよさそうに思えてきました。
 これから投資を始める人にとっては、本書の説く方法でいいと思います。すでに投資をしている場合も、順次、この方向に舵を切ればいいということです。しかし、それにはかなりの手間がかかります。そうでなくとも忙しい生活を送っている状態で、そんな「調整」を行うのは大変な気がします。しかし、やらなければなりません。
 今年は、乙にとって大変動がありそうに思います。


ラベル:山崎元
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2009年05月12日

池尾和人・池田信夫(2009.2)『なぜ世界は不況に陥ったのか』日経BP社

 乙が読んだ本です。「集中講義・金融危機と経済学」という副題が付いています。
 一読した結果からいうと、乙にはむずかしすぎて手に負えませんでした。
 むずかしい用語は太字で表され、巻末に用語解説があります。それでだいぶわかるのですが、解説がいらない程度の用語でも、乙は必ずしもよくわかっているわけではないようなものがポンポン出てきます。
 ちなみに、エイヤッと開いた p.149 で、乙がよくわからなかった用語(特に説明されているわけではないもの)をあげてみると、次のようなものです:オリジネーター、劣後部分、オフバランス化、自己資本比率規制、資産規模圧縮。これはエイヤッの一ページを取り上げたのですが、どこのページでもこんな調子で、これらをすでに知っている(説明なしで十分わかる)ような読者が読むべき本だということになります。
 「集中講義」と銘打っていますが、学生などに向けた集中講義ではなさそうです。プロローグによれば、二人が互いに教え合うような形で集中講義を行ったようで、ある種の対談集のような感じにできあがっています。しかし、その話される内容は、二人とも経済学の専門家ですから、相当に高度なものになります。
 統計や図表類を示して現状を解説するというよりは、経済学の考え方を語るといった感じで、抽象的な議論が多いように思いました。世界標準の経済学を語るという趣旨はいいのですが、それを理解するのが大変です。
 p.49 では、次のような発言があります。「池尾:金融危機への政治的対応というのは、民主主義的な体制とは矛盾しかねないような難しさがあります。例えば、公的資金の投入を国民に認めてもらうためには、いかに金融危機が深刻な状態にあるかを説明しなければなりませんが、公的資金の投入を含む危機解決の準備が整っていない段階で、一国の政治的責任者が、金融危機が深刻であると明言してしまうと、それこそパニックの引き金を引くことになりかねません。
 責任ある政治家が金融は危機的状態にあると言ってよいのは、それに対処する万全の準備が整った後でしかない。逆にいうと、そうした対処の準備を金融が危機的状況にあると言い切ることなく進めなければならない。これは、ジレンマにほかなりません。」
 なるほど、だから政府関係者などは大々的に発表したりしないのでしょう。今回の金融危機が突然起こったかのように見えるのはこういうことだったのですね。乙は、もっと先にしかるべき人から「警告」が発されてもよかったはずなのになどと考えていましたが、それは間違っていたということです。
 p.283 (エピローグ)で、19ヵ国のデータで、起業活動従事者のシェアと実質GDP成長率の相関関係を示すグラフが出てきます。日本は左下の隅にあります。つまり、日本は起業活動従事者が少なく、実質GDP成長率が低いというわけです。日本の特徴をよく示しています。相関関係は因果関係ではありませんが、通常の解釈では、前者が原因で後者が結果でしょう。
 こんなことで、乙が部分的に理解でき、またおもしろいと思う部分もあったのですが、全体は難解な本だったという感想です。自分のレベルの低さ(「お前はまだ勉強が足りないよ」)を指摘されたような感じでした。
 もっと経済学を勉強してからこの本を読めばよかったのでしょう。
 こんなことしか書けずに、まことにスミマセン。



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2009年05月07日

上杉隆(2009.1)『宰相不在』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「崩壊する政治とメディアを読み解く」という副題が付いています。
 最初に断り書きがあり、「本書は「ダイヤモンド・オンライン」の連載「週刊・上杉隆」の記事に加筆修正を施して編集したものです。」と書いてあります。
 この連載は
http://diamond.jp/series/uesugi/
に載っています。
 連載のバックナンバー
http://diamond.jp/series/uesugi/bn.html
を見ると、なるほど、本書の元になった記事が残っています。
 では、ネットで読めばいいか。まあ、それも一つの考え方ですが、書籍の形にしておくのも意味があります。パソコン環境がないところでも読めるからです。実際、乙も、ちょっとした小旅行に本書を持参して、移動時間などのときに読んでいました。
 本書は、2007.10.17 から 2008.12.25 までの連載をまとめたものです。この間の政治の動きをリアルタイムで描いています。上杉氏の見方はなかなかおもしろいものです。
 上杉氏はフリーのジャーナリストですから、巻末に参考文献が載っているわけではありません。しかし、その「目」には、なかなか鋭いものを感じます。こうやってさまざまな政治上の諸問題をスッパリ切り分けて見せられると、「なるほどなあ」と思う部分がたくさんあります。ホントかどうかはわかりませんが、そういわれれば納得するという感じです。
 乙が一番おもしろいと思ったのは、p.97 からの新銀行東京の問題点を語っているところです。
 ダイヤモンド・オンラインでは、
http://diamond.jp/series/uesugi/10022/
で読めます。
 新銀行東京については、乙も一度口座開設を検討したことがあり、それからというものは、この銀行にいろいろと興味を持ってきました。詳細は、以前のブログ記事
2008.10.29 http://otsu.seesaa.net/article/108757638.html
から古いものをたどってみてください。
 上杉氏によれば、新銀行東京の旧経営陣とともに、東京都議会は「共犯者」だということです。そういう視点でこの間の経緯を見てみると、腑に落ちることがたくさんあります。


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2009年04月27日

門倉貴史(2009.1)『貧困ビジネス』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。
 あまり「投資」とは関係ないような本です。
 今や、貧困層をターゲットにしたビジネスがあるというわけで、著者はいろいろなビジネスを紹介しています。日本が中心ですが、外国の例もあります。臓器売買や子供の手足を切断して物乞いをさせる話を聞くと、本当にぞっとします。それ以外にも、乙が知らなかったようなビジネスもいろいろ含まれ、たいへん興味深く読みました。
 p.16 では、貧困ビジネスの方が富裕層をターゲットにするビジネスよりもマーケットが大きいという話が出てきます。驚きです。だから貧困ビジネスが成り立つわけです。
 p.188 では、クレジットカードの規制で韓国は景気が急速に悪化したという話があり、政府の判断のちょっとしたことが経済に大きな影響を与えるものの例として、おもしろかったです。
 その他もろもろのビジネスが紹介され、ふだん見ることのない別世界をかいま見るような気分になれました。

 なお、同じ著者の書いた関連本として、以下のようなものがあります。
『「夜のオンナ」はいくら稼ぐか?』
2008.9.26 http://otsu.seesaa.net/article/107150566.html
『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る』
2007.7.30 http://otsu.seesaa.net/article/49698493.html
 門倉氏は、この方面でずいぶんいろいろな取材をしているようです。

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2009年04月24日

石渡嶺司・大沢仁(2008.11)『就活のバカヤロー』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。
 就活(=就職活動)について、学生、大学、企業、インターンシップ、就職情報会社の五つの観点から総合的に眺めたものです。
 乙は、就活とはあまり縁がなく、自分の活動はずっとずっと昔のことでしたし、息子たちの就活も終わってしまったし、ということですが、最近は、学生たちが就活に一生懸命なのを見聞きするので、気になって読んでみました。
 一読して、日本の就活はゆがんでいるなあという感想を持ちました。まさに題名通りに「就活のバカヤロー」といいたくなる気分です。「はじめに」に出てくる「焼肉の生焼け理論」は、「その通り!」という感じです。焼肉は、十分焼いた方がおいしいのはわかっているけれど、さっさと食べないと他の人に食べられてしまう、したがって、みんなが急いで生焼けの焼き肉を食べるようになるという理論です。就活もまったく同じです。乙の就職活動は、卒業の半年前になってから始めたくらいですから、今とはまったく違っていました。(まあ、当時でも遅い方だったですけれど。)今や、3年生の夏休みのインターンシップ(その申込は5月〜6月)あたりから実質的に就活が始まるようですから、学生生活の半分は就活に取られてしまうようになっています。
 第1章「就活生はイタすぎる」では、就活をする学生の実態を描いています。変な学生もいるのですね。でも、就活する学生はみんな初体験なのですから、どう対処したらいいのか、わからないのが当然なのです。
 第2章「大学にとって「就活はいい迷惑」」では、大学側を記述します。就活で授業が妨害されると叫ぶ教授。しかし、一方では、入学者向けパンフレットなどで優れた就職実績を誇る矛盾。いやはや、こちらも大変な実態があります。
 第3章「企業の「彩活」真相はこうだ」では、企業側から見ます。乙は、企業の中の人事部などの考え方をまったく知らなかったので、ここが一番興味深かったです。
 第4章「インターンなんてやりたくない」では、インターンシップが、本来の就業体験というあり方からそれて就活の一部になり、しかも、それへの参加は就活の成果にはまったく結びつかないという変な実態を描きます。
 第5章「マッチポンプで儲ける就職情報会社」では、リクナビやマイナビなどのナビサイトの裏側を描いています。これまた、乙が知らないことがたくさん書いてありました。

 本書は、「取材」を通して得られたことをまとめて書いています。そういう書き方だからかもしれませんが、これからどうするのかというような視点はほとんどありません。現状の記述が大部分です。取材元の人は、すでに知っていたわけですから、つまりは、すでに知られていることをまとめ直した本ということになります。

 それにしても、こんな就活をやっている日本という国は、いったいどうしたんでしょう。「バカヤロー」と叫んでも何も解決しません。
 乙は、こういう「茶番」を演じている日本企業の、また日本そのものの将来に不安を覚えました。


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2009年04月22日

竹中正治(2008.12)『今こそ知りたい資産運用のセオリー』光文社

 乙が読んだ本です。「まず「投資の魔物」を退治しよう」という副題がついています。
 著者は、(財)国際通貨研究所 経済調査部長というエコノミストです。
 出版の時期が時期だけに、資産運用を独自の観点から語っています。全体におもしろく読めました。
 第2章「「投資のプロ」には任せるな」で、インデックス投資をすすめています。pp.46-49 で、相場の予想がなぜ当たらないかを説明しています。その中で、ある人の(「ある手法の」でも同じですが)予想が当たるとすれば、市場参加者はその人の予想に従って売買をするので、結果的に予想が外れるという例を示しています。わかりやすい説明です。
 p.68 では、アクティブ投信は、投資のプロがプロどうしの狭義の市場では持続的に勝ち越すことができないので、個人投資家層を相手に、手数料を頂戴するという形で「継続的に出し抜く」仕組みであると述べています。なるほど、投信の手数料が高いのは、こういう理由だったんですね。
 第3章は「ギャンブルの誘惑とリスク・リターン」です。p.98 と p.99 に興味深いグラフが掲載されています。日本の TOPIX と米国の S&P500 の60年以上の値動きを示したものですが、単純に金額で表示すると、最近の株価が大きく変動するようすが見てとれます。しかし、それを対数で表示すると、あら不思議。わずかに上下しつつも、大まかには安定して上昇しているではありませんか。どちらが大事かと言えば、やはり対数でしょう。我々の見方は、つい単純な「価格」で見てしまいますが、それではまずいことがわかります。
 第4章は「高金利外貨投資の罠を見破る」です。p.131 では、高金利通貨の金利差は長期的には為替の下落で相殺されると述べています。この点については、乙も最近そのような趣旨のブログ記事を書いたので、
2009.4.11 http://otsu.seesaa.net/article/117253628.html
納得しながら読みました。
 また、p.137 では1996年から2006年までの主要国の米国との経済成長率格差と対ドル為替相場の変化を示しています。そして、結論として、「低成長だから為替安」とはいえないと述べています。日本経済の今後が、少子高齢化で長期にわたって低成長が続くとしても、それがすなわち円安になるということではないのです。つまり、それを理由にした外貨投資はアヤシイということになります。これまたおもしろい指摘でした。
 p.144 では、「1980 年以降、ドル円相場は年率平均3%で下落してきた。」とあります。これについても、乙は関連する記事を書きましたので、
2009.4.16 http://otsu.seesaa.net/article/117541364.html
話が意を得たりと思いました。つまり、1980 年以降の10年ものの米国債の利回りの平均が 7.5% だったとしても、3% くらいは為替でマイナスになるので、4.5% 程度の利回りになるということで、同時期の10年ものの日本国債の利回りの平均 4.2% とあまり変わらないということです。
 pp.153-155 の米国凋落論議の落とし穴というコラムもおもしろかったです。米国はダメになるという話は過去に何回もあったけれど、それで投資しなかったならば、投資機会を逃がしてしまっていたことになるというわけです。乙の感覚では、今後数十年くらいは米国の凋落はないものと思います。根拠のない単なる予想で、外れるかもしれませんが。
 第5章はFXの話、第6章は不動産投資の話で、具体的ではありましたが、乙はあまり興味がないので、いい加減に読んでしまいました。
 第7章「「新金融仕組み商品」に手を出してはいけない」は、当然のことですが、タイトルだけを読んで意味がわかってしまいそうです。
 通読してみて、興味深い本だと思いました。初心者向きではないような気もしますが、インデックス投資の本などを読んだ後くらいに読むといいのではないでしょうか。

参考記事:
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20081226/181418/


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2009年04月08日

水島宏明(2007.12)『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』日本テレビ放送網

 乙が読んだ本です。「ワーキングプア」とも重なってくるテーマです。
 著者の水島氏は日本テレビのチーフディレクターとしてドキュメンタリーなどを製作してきた人です。そういう人が「ネットカフェ難民」を取材してできあがったのが本書です。
 ちなみに「ネットカフェ難民」は水島氏の造語だそうです。
 本書では、取材に応じた人の話が詳しく語られます。その実態を知ると、何ともいたたまれないような気分になります。現実に悲惨な人がいるわけです。全体を読み終えて、暗い気分になってきました。
 しかし、だからといって、乙が個人として何かできることがあるかと考えれば、なかなか簡単にできることはないわけで、まじめに働いて税金を払うことで、間接的にそういう人の手助けをしているに過ぎません。
 乙が本書中の記述で驚いたこともいくつかありました。
 まずは、p.114 で、日雇い派遣に従事する人に対して、会社側はかなり細かい風貌チェックを行っているということです。「容姿優、容姿老、不潔感、言葉遣い、ヒゲ、茶髪、長髪、太め、虚弱体質、メガネ、40歳超」などを見ると、さもありなんとも思えますが、ここまで細かく記録するものかという気もしました。人材を派遣する会社としては、派遣社員がどんな人かを知らずに派遣するわけにはいかないでしょうから、こういうデータをインプットしておいて、応募してきた人の中から、派遣先に合いそうな人を選んで派遣するのは当然のように思います。それにしても、徹底して個人情報を集めているのですね。
 本書中では、こういう分類を廃止するよう要求したとありますが、会社側は応じるものでしょうか。こういう情報をためておいて、募集条件にピッタリの人を探して派遣することで会社としての存在価値が出てくるわけで、誰でもどこでも派遣するのでは、会社の意味は少なくなります。
 pp.118-119 では、あるテレビ局が、ネットカフェ難民で日雇い派遣をしている人を取材として撮影しようとしたところ、会社が驚いて、その人をクビにしてしまったという話です。こんなことで職を失うことになったその取材対象者が気の毒ですし、テレビ局の暴力性さえ感じられます。
 本書は、ネットカフェ難民をあるがままにとらえることに成功していると思いますが、次のステップとして「ではどうしたらいいか」までは述べられていません。ジャーナリズムの限界のようなものを感じました。まあ、誰が考えても易しい解決策などはあるわけないと思うのですが……。



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2009年04月06日

城繁幸(2008.3)『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』(ちくま新書)筑摩書房

 乙が読んだ本です。「アウトサイダーの時代」という副題がついています。
 本書は、城繁幸(2006.9)『若者はなぜ3年で辞めるのか?』
2006.10.14 http://otsu.seesaa.net/article/25446099.html
に続く本です。
 内容は、大きく3章に分かれていますが、細かくは22の節(と三つのコラム)に分かれています。
 それぞれの節は、たとえば、昭和的価値観1「若者は、ただ上に従うこと」のように、昭和的価値観を表す言い方が題名としてつけられています。そして、書かれた内容は、いろいろな人にインタビューした結果です。昭和的価値観に反発する若者を描いています。
 確かに、3年で会社を辞めた若者がその後どうなったかを描くには、これで十分なのかもしれません。しかし、不十分なのかもしれません。インタビューができる人というのは、一般に自分をさらけだしてもいいと考える人で、それは、成功者の場合にはそういう人の比率が高いでしょうが、成功者でなかった場合は、なかなかインタビューに応じようとしない人もいるでしょう。
 そのようなバイアス(偏り)を考慮すると、若者のうち、比較的うまく転職した人(転職して給料が下がっても、それでいいと考え、別の面で満足感を持っている人)を描き出しているのではないでしょうか。
 乙としては、統計資料などを駆使して、もう少し全体を概観するような量的側面も描けていたらよかったのにという印象を持ちました。
 これは乙が疑り深い性格を持っているためかもしれませんので、そのような偏りを考慮して、受け止めてください。
 本書は全体として、平成的価値観とも言うべき「多様性」を前面に出し、昭和的価値観で若者を縛り付けてもダメなんだというメッセージを強く打ち出しています。
 乙は、中高年者に属しますから、描かれている若者たちを見ていると、かなりたるんだように見えるという面もあります。一方で、こういう若者が増えているのは事実ですから、それに対応した見方をしなければならなくなったんだという、ある種感慨深いものもありました。
 乙がおもしろいと思ったのは、p.170- のコラム「21世紀の大学システム」です。社会の多様化にともない、大学もまた多様化しなければならないというわけで、今後の大学教育を考える上で参考になります。自分は大学を卒業してしまったという場合でも、子供が、孫が、さらにその先の子々孫々が大学に進学することを考えれば、誰でも無関心ではいられないはずです。
 pp.178-179 では、就職しようとする若者から日本企業が見捨てられており、外資系企業が注目の的になっているというのです。いやはや、変わろうとしない日本企業を見捨てようという発想はすばらしいです。ぜひそういう心意気で、若者には自分なりの人生を歩んでいってほしいと思いました。みんなが自分の立ち位置で努力することで、結果的にお互いがお互いにいい影響を与え、社会全体としてプラスになっていくはずですから。(単純な楽観論に過ぎませんが。)



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2009年03月29日

水野和夫(2008.12)『金融大崩壊』(生活人新書)日本放送出版協会

 乙が読んだ本です。「「アメリカ金融帝国」の終焉」という副題がついています。
 今の金融危機の時代を考える上で有用な本かと思って読んでみました。
 「アメリカ金融帝国」がなぜ生まれたかという問題はおもしろいと思いました。p.86 によれば、「強いドルが国益だ」というルービン財務長官の主張が基本となったようです。強いドルでどんどん輸入をしようということです。こうして、p.89 で述べるように、グローバル化で貯蓄が国内になくても他国の貯蓄を使えばいいという考え方が出てきます。日本は貯蓄率が高いわけですが、そうやって貯め込んだお金をアメリカが使ったということになります。
 このあたりはおもしろかったのですが、2点ほど間違いがあり、乙はこの段階で興ざめしてしまいました。

(1) ドルコスト平均法の間違い
 p.174 では、ドル・コスト平均法の説明が出てきます。しかし、それが間違っています。「ある投資家が1年間、毎日、ある会社に投資し、継続して1株ずつ購入している」ことだというのです。違います。「1株ずつ」ではなく「一定の金額ずつ」です。購入できる株数は、株価の上下によって変わってきますが、そこがドル・コスト平均法のいいところなのです。
 こうやって株を買うと、1年経てば購入価格は1年移動平均線と一致するというわけです。それはそうですが、ドル・コスト平均法ならば、(全体で買った株式数ないし資金量が同じであれば)1年移動平均よりもコストが低くなったと考えられます。

(2) 日経平均を買い続けた場合の損失の計算
 pp.175-176 では、88年以降、毎月、日経平均を一定単位で購入することにした仮想投資家を考えています。そして、20年に渡って買い進めたとして、08年11月に株をすべて売ると、49% も損失が出るというのです。
 これまた間違いです。配当が計算に入っていません。配当は、株価を基準に考えると、たいてい 1% とか、2% とか、一見大した金額ではないけれど、20年も経つとかなりのものになります。それを考えれば、20年投資を続けた仮想投資家が単純に 49% の損失になったとはいえません。
 こういう計算をするときの配当の大きさについては
http://blog.livedoor.jp/tsurao/archives/1045153.html
が参考になります。


 奥付によると、著者の水野和夫氏は三菱UFJ証券参与・チーフエコノミストで、早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了とのこと。ちゃんとした知識を学んだ専門家のはずですが、こんな間違いをしていていいのでしょうか。乙はかなり気になりました。
 というわけで、いいところもある本なのですが、乙は読み進める気力をなくしました。



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2009年03月24日

高橋洋一(2008.12)『この金融政策が日本経済を救う』(光文書新書)光文社

 乙が読んだ本です。
 タイトルに引かれて読む気になりました。今の不況をどうするべきか、高橋氏の考えを知りたいと思いました。
 プロローグを読み始めてすぐ、p.8 には「日本経済の先行き不安の原因は、サブプライム問題ではありません。」と太字で書いてあります。まさに驚きです。そして、日本の景気低迷の原因は06年から07年にかけての金融引き締めだというのです。確かに、このころ日銀は誘導金利を引き上げました。それにしても、たった 0.5% です。金利というのは、5% くらいあるのが当たり前だと思いますが、それが 0.5% くらいの引き上げで経済にダメージを与えるものでしょうか。乙は疑問に思いました。
 これについては、p.37 あたりで再度取り上げられますし、第5章「金融政策と株価の関係」が詳しく論じているところなので、高橋氏の主張を理解するためには、そちらを読むべきです。
 pp.75-77 で個別物価と一般物価の違いについて説明しています。個別物価は個々の商品などの物価のことで、一般物価はその平均です。そこで、個別物価が上がれば一般物価も上がると思いますが、それがそう簡単な話ではないというのです。2007 年に値上げされた即席麺や食パンは、それぞれの業界が値上げできる環境にあったからメーカーが値上げしたのだとしています。そういわれればそうかもしれませんが、やはり原料が高くなれば値上げするしかない(そうしなければメーカーとしてやっていけない)ように思うのですが、どうなのでしょうか。
 第4章「インフレ目標」では、日銀の金利政策のおかしさを述べています。この章は納得しました。物価上昇率に一定の目標を設けるほうがいいという話も、説得力がありました。
 エピローグの中ですが、p.199 から財政再建について述べています。日本政府の借金 981 兆円は、国民ひとり当たり 800 万円にあたるという説明もよく聞きます。しかし、高橋氏によれば、国の借金を個人や家計にたとえるのはまずく、むしろ、企業にたとえるべきだとのことです。借金をしていても、それが当たり前の状態なのです。そして、借金 981 兆円が世界最大であると同時に、政府が 690 兆円もの資産を持っており、こちらも世界最大であると述べています。というわけで、国債がデフォルトになることは(しばらくは)なさそうです。
 p.204 では、現在の非常時に対する具体的な提案が書いてあります。25兆円の量的緩和と25兆円の政府紙幣発行です。高橋氏が政府発行紙幣の賛成論者であることは以前から知っていましたが
2009.2.11 http://otsu.seesaa.net/article/114032329.html
それにしても、大きな構想です。実現はそう簡単ではないと思いますが、ぜひ、こういう話を政府に考えてもらいたいものだと思いました。
 本書は、新書サイズですから手軽に読めます。今の日本経済を考える上で有意義な本だと思いました。

 余談ですが、p.25 最後の1行に「株式などの債券」という言い方が出てきます。とんでもない間違いですが、著者の単純な勘違いなのでしょうね。



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2009年03月22日

大前研一(2009.1)『マネー力』(PHPビジネス新書)PHP研究所

 乙が読んだ本です。「資産運用力を磨くのはいまがチャンス!」という副題がついています。
 序章「世界は大変だが、日本はチャンス!」では、今の金融危機をどう見るかが述べられています。
 p.24 では、アメリカ経済のエンジンが壊れたとしています。爆弾が三つあるのだそうです。第1がサブプライムローン、第2がCDS、そして第3がクレジットカードそのものということです。乙は、クレジットカードそのものなどと思ってもみなかったので、驚きました。今やアメリカではローンを払えない人が多数いるのですね。
 p.26 では、アメリカの住宅が経済のエンジンになっていたことを説明します。アメリカでは住宅を担保に借金して消費するというわけですね。それが大きく狂ったわけですから、今回の金融危機の根が深いことがわかります。
 p.29 からはユーロの問題点を指摘しています。ユーロは16ヵ国の共同通貨なので、それを支える「国」がないというわけです。ユーロが安い方がいいという国と高い方がいいという国があり、ECB(ヨーロッパ中央銀行)は通貨防衛の力がないとしています。なるほど、こういう側面があるとは意識していませんでした。
 第1章「世界を見て、マネー力を磨け」では、日本の中だけを見るのでなく、世界を見ようと呼びかけています。マネーの動きも、世界を眺めれば理解できるとのことです。話はわかりますが、実際はそういう視野を持つこと自体がむずかしそうです。
 第2章「自分の資産は自分で守れ」では、世界のさまざまな経験を紹介し、世界の通貨を同時に考えることで、資産を守ろうとしています。
 p.87 では、2004 年の新札発行に際して、新札と旧札の交換比を1対1でなく、新札のほうを強くしてしまおうという話が実際にあったようだと述べています。一種の切り上げです。実際には、新円切り換えを秘密裏に行えなかった(情報が漏れてしまった)ので、そのままになっているというわけです。乙は、この話はまったく知りませんでした。
 p.88 では、日本の国債のデフォルトがあるとしています。その可能性はかなり高いのだそうです。乙は、なかなかこうはならないだろうと考えています。
 p.95 では、石油産出国がドルを見限る可能性があり、そうなるとドルが大暴落するとのことです。石油産出国の通貨はドルと連動していますが、そのようなドルペッグ制を維持するかどうか、2007 年末には真剣に検討されていたのだそうです。ドルはこれからその地位を下げることになるのでしょうか。すでに資産の一部をドルの形で持っている身としては、このような議論は注目に値します。
 p.98 では、ドルが基軸通貨から外れ、ユーロにシフトしていくと、ドルがユーロと一体になることも考えられるとしています。そんなことは本当に可能でしょうか。乙にはとても考えられません。
 第3章「資産運用力は世界に学べ」でも、日本の中だけを見ないで世界に目を広げることを説いています。
 p.115 では、「日本の金融機関には期待しない」と明言しています。乙もこの点は賛成です。
 pp.120-123 では、欧米で住宅が資産になっている例を説明します。一方、p.124 では、日本の住宅はまったくそれと違ってしまっており、制度上、ひどい住宅にならざるを得ないとしています。国をどう設計するかという初期アイディアが悪ければ、あとはどうしようもなくなるのですね。
 第4章「マネー脳の鍛え方」では、マネー力の強化にはITと英語が不可欠としています。英語でビジネスができることが必須なのだそうです。しかし、日本の現状はそれとほど遠いし、日本はそういう経験がないのではないでしょうか。
 p.136 では、ニートやフリーターをなくしても経済力は上がらないと述べています。ニートやフリーターに職業訓練をするよりも、世界で通用する人材を育てるべきだとしています。大前氏の意見は理解できるのですが、今の日本ではなかなか受け入れられない考え方でしょう。
 第5章「大前式資産形成術」と第6章「マネーの達人たちに学ぶ」は、大前氏の書き下ろしではないとのことで、実際読んでみるとややつまらないように思いました。
 終章「いよいよ日本の出番」は、これからの日本を展望する章です。
 p.199 では、オバマ大統領の取る景気浮揚策を予想していますが、景気浮揚の方法は基本的に二つしかないそうです。公共投資と戦争です。こういう割り切った話し方は、いかにも大前流の議論です。
 p.204 では、アメリカで相続税が下がっている状況を説明し、2010 年にはゼロにするのだそうです。日本でも、1年か2年だけ相続税をゼロにしてみてはどうかとしています。アイディアはおもしろいですが、「相続」が発生するタイミングで、高額な相続税を取られたり取られなかったりということでは、国民の間に不公平感が生まれてしまうように思います。
 ともあれ、大前流の割り切った考え方を知るには適当な1冊といえるでしょう。



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2009年03月18日

角山智(2009.1)『資産運用の強化書』パンローリング

 乙が読んだ本です。「銘柄選びよりも大切な投資の基本」という副題がついています。
 角山氏といえば、バリュー株の投資家だとばかり思っていました。
 『株価4倍「割安成長株」で儲ける収益バリュー投資術』
2006.8.4 http://otsu.seesaa.net/article/21894584.html
あるいは『超特価バリュー株「福袋銘柄」で儲ける週末投資術』
2006.8.2 http://otsu.seesaa.net/article/21794517.html
といった本を書いている方です。
 本書は、アセット・アロケーションに重点をおいた書き方になっており、以前の本とは立場が大きく異なっています。分散投資が中心です。
 これについて、まえがき中の p.6 で、次のように述べています。「私は、13年間投資を行ってきました。日本新興市場の小型株を好んで売買するという、よくあるタイプの個人投資家です。【中略】2006 年から、以前より興味を持っていたアセット・アロケーション重視の投資に切り替えたのです。債券や REIT を組み入れ、株式については ETF を活用した国際分散投資を行っています。」なるほど、角山氏は宗旨替えをしたのですね。
 本書に書いてある内容はまともなことですが、ある意味で退屈しがちかもしれません。分散投資の本というと、だいたい似たような内容になってしまうものです。
 乙は、第6章の「【株式】エマージング市場」が気になりました。はじめに、BRICs ブームがあったけれど、最近はめちゃくちゃになっていることが述べられています。それから、1990年代の「アジアの4匹の虎」(韓国、台湾、香港、シンガポール)でも同様で、ブームは怖いとしています。p.141 では、メキシコの IPC 指数の推移を載せ、メキシコ通貨危機の傷跡が残っているとしています。また、p.143 では、香港のハンセン指数の推移を載せ、アジア通貨危機のようすがわかるとしています。確かに大幅な下落が見てとれます。しかし、2枚のグラフを見ると、通貨危機があっても、その後は持ち直し、それ以前よりも株価は上昇しているのです。つまり、著者が説くように、「エマージング株式市場は危ない」のではなく、大きな価格変動があることもありますが、結果的には長期間保有を続ければ大きなプラスになったといえるのではないでしょうか。
 p.145 のタイの SET 指数では、大きな落ち込みのあと、株価が回復していませんし、p.147 のベトナム VN 指数でも、大きく落ち込んだままになっていますが、これらも、今後時間が経てば回復するのではないかと思われます。BRICs についても、同様に考えられるのではないかと思います。
 こんなことで、乙は、著者のいうほどエマージング市場が危ないとは思えませんでした。
 第12章「炭坑のカナリア」も気になりました。著者によれば、株価の変調は前もってわかるというのです。注意するべき指標があるというわけです。本書では六つの指標(長短金利差、イールドスプレッド、商品市況、銀行株指数、クレジットスプレッド、恐怖指数)を紹介しています。
 p.262 では、日本株でシミュレーションをしており、逆イールドが生じた場合、翌年は投資を行わないようにすると、何もせずにじっとしているよりは成績が大きく上昇するというわけです。これは本当でしょうか。こんなことで運用成績が上がるならば、プロのファンドマネージャーたちがそういう戦略を採らないのはなぜなんでしょうか。日本株ファンドでありながら、1年間も株をまったく保有せずにキャッシュポジションのままにしておくのは、本来、ありえないことかもしれません。しかし、それが正しい運用ならばそうすべきです。あるいは、一部のヘッジファンドのように空売りも行うような運用方針であれば、ここぞとばかり空売りで勝負するべきです。なぜ、プロがそうしないのでしょうか。乙はここがわからなかったです。
 六つの指数があるといったって、それらが相互に矛盾するとしたときどうしたらいいかという難問もありそうです。
 著者はタイミング投資はありではないかとしていますが、一般の個人投資家にとって、タイミング投資はきわめてむずかしいものと思います。
 本書は、海外分散投資の本ではありますが、全面的に信用していいかと考えてみると、少しだけ疑問を感じました。
 余談ですが、p.205 では、相関係数について「0.1%」と書いてあります。「%」が余分です。単なるミスプリであることを祈っています。



ラベル:角山智
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2009年03月13日

堺屋太一(2008.12)『大激震』実業之日本社

 乙が読んだ本です。
 出版時期から考えて、今回の金融危機に関する本だろうと考えて読んでみることにしました。しかし、もっと壮大なスケールの内容が詰まった本でした。
 第1章「日本の凋落」では、今の日本は通り一遍の改革でなく、明治維新的な大変革をしなければどうしようもないと論じます。p.26 では、日本が規格大量生産を目指したけれど、それは人類文明の方向と違っていて、そのために90年代以降に日本が凋落したのだと説明しています。目が覚める思いがしました。
 では、どんなことがこれから必要になるでしょうか。堺屋氏は、自由貿易協定(FTA)と外国からの移民で開国せよとのことです。そして、公務員制度を改革して天下り全廃、道州制の導入、金融・財政の発想の転換、教育改革(規格大量生産向きの人材育成でなく、独創性と個性のある人間を育成しよう)などが説かれます。もっともな提言のようにも思いますが、こんな大きな改革が実現できるでしょうか。どうやって実現できるでしょうか。今の政治家を見ていると、到底不可能としか思えません。
 第2章「日本とは何か」では、歴史分析から日本のあるべき姿を探ります。ここも雄大な話が展開されます。
 第3章「「団塊の世代」が日本を変える!」では、団塊の世代に期待を表明しています。高齢者をうまく活用しようという趣旨です。これまた、ちぢみ行く日本に対して、興味深い提言でした。なお、p.85 では、合計特殊出生率のグラフが示されますが、3箇所で「%」が付いています。たとえば、2006 年は 1.32% というような具合です。もちろん、単位は「人」ですから「%」を付けてはいけません。堺屋氏の勘違いでしょう。しかし、3箇所もあるとなるとミスプリでは済ませられません。
 第4章「知恵の時代こそ、「個性」が大切」では、アイディアによる地域興しを説いています。p.139 では、そういうアイディアなしでは日本はアジアの田舎になってしまうと警告しています。では、どんな地域興しのアイディアがあるのでしょうか。あくまで一例ですが、p.144 では、原子力発電所の廃熱を利用して、2km の長さのコースを持つプールを作ろうと述べています。あっと驚きますが、実現は可能だし、乙はけっこうおもしろい話ではないかと思いました。
 第5章「大きく人類文明が変わる局面に来た」と第6章「世界を創った男チンギス・ハンに学ぶ」は、全世界の歴史を見ながら、今後の展望をしています。p.225 では、チンギス・ハンの孫のフビライ・ハンは、史上初めて不換紙幣を発行したと述べています。現在の米ドルにも通じる話です。そして、米ドルは80年くらいは保つのではないかとしています。1971年に米ドルがペーパーマネーになったわけですから、2050 年ころまではドルが大丈夫だとしています。そんなものでしょうか。乙はそのころには死んでいると思いますので、まああまり影響は受けないと思いますが、歴史を知ることは未来を考える上でおもしろいと思いました。
 最終章「新代「知価社会」の誕生」では、知価社会こそが世界危機脱出の唯一の方法だと説きます。大きな文明の流れが変わったのだから、それに適した方向に変わらざるを得ないというわけです。上述のように、乙は今の日本では、そういう「変化」はきわめてむずかしいように思います。このまま「凋落」が続いていくのではないでしょうか。
 本書は、スケールの大きさが一番の売りでしょう。ただし、書かれている内容は、著者の以前の本を読んでいる人には繰り返し的な印象を受けるのではないでしょうか。乙は、きちんと堺屋氏の本を読んでいるわけではないですが、いろいろなところで(雑誌記事などで)見かける堺屋氏の主張などと一致していて(それは当然ですが)既読感がありました。まあ、まとめて読んで堺屋ワールドにひたるのも悪くないと思います。



ラベル:堺屋太一
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2009年03月07日

野尻哲史(2008.11)『退職金は何もしないと消えていく』(講談社+α新書)講談社

 乙が読んだ本です。「60歳から「経済的自由」を手にする投資勉強法」という副題が付いています。
 第1章「「団塊の世代」は逃げ切れるか?」では、団塊の世代も「逃げ切れない」ということを述べています。p.31 あたりでは、退職後の経済生活のアンケートに基づき、世代別の態度を次のように規定しています。
・おびえる20代
・運用できない現役
・反省するシニア
 なるほど、ポイントを突いています。それぞれにうまくいかないものなんですね。
 では、実際退職後の生活はどの程度なのでしょうか。年金に加えて、推定退職金と手持ち資産を余命35年で割るという計算をしています。その結果、退職後に使えるお金は、平均で1年間に328万円だそうです。退職前に700万円くらいの収入があったことを基準にすると、なかなか厳しい現実が待っているようです。
 第2章「人生を左右する「五つのリスク」」では、退職後のリスクとして次をあげています。
(1) 思った以上に長生き
(2) 減らない退職後の生活費
(3) 忍び寄るインフレ
(4) 「引き出しすぎ」の恐さ
(5) 偏った資産構成
 かなりのページ数を割いて、それぞれのリスクを説明しています。
 p.66 で「平均寿命を全うできる確率は「50%」ということになります。」と書いていますが、これは厳密には間違いです。平均寿命が「中央値」ならば、正確に50%になりますが、「平均」であれば50%ではなくなります。平均寿命が 79.19 歳であれば、平均よりも若いほうで0歳から79歳まで死ぬ確率があって、一方では、79歳以上で死ぬ確率もありますが、100 歳を越えて生き延びる確率はそんなに大きくなく、だいたい80〜90歳くらいで死ぬとします。平均を計算するとき、若い人が1人死ぬと、(平均の)79歳から大きく外れます(小さな値になります)。一方、79歳以上の人は+10年くらいのところに集中して死にます。つまり、死ぬときの年齢分布は正規分布のような山型分布でなく、若いほうに裾野が伸びた形(そして高齢のほうはストンと切れる形)をしています。ですから、平均寿命よりも年長の人のほうが50%以上になり、年少の人は50%未満になるのです。
 pp.113-115 では、引き出しすぎの恐さを説明していますが、引き出しながら使っていくときは、マイナス運用があると、早く資金が枯渇することがあるとのことです。p.113 の表が印象的です。同じ収益率の表なのですが、21年間にわたって平均収益率 10.4% でシミュレーションしています。そして、21年にわたる収益率を前後を入れ替えて表にしています。すると、最初の3年にマイナスが集中して現れるような不幸な場合、途中で残額ゼロになってしまいます。これはなかなかおもしろい話でした。はじめにマイナスにならないことが重要だというわけです。
 p.124 では、アメリカの年齢別の株式保有率のグラフが出ています。それによると、高齢者でも資産を株式に振り向ける割合が高いことがわかります。70歳くらいからはさすがに株式の比率が下がってきますが、60代まではけっこう高いと思いました。「100-年齢」が株式の比率だなんていえません。興味深いデータでした。もっとも、アメリカは格差社会ですから、株式に投資しているのは金持ちが多いということかもしれません。「普通の人」がどれくらい株式に投資しているかはよくわかりません。
 pp.128-130 では、アンケート調査で1年間で年金以外にどれくらいのお金が必要かと聞いています。平均値は186万円です。また、総額ではいくら必要ですかと聞くと、平均3044万円だったとのことです。割り算してみると、たった 16.4 年分でしかないのです。これでは(退職を60歳とすると)76歳で資産が尽きてしまうのです。多くの人はまじめに退職後のことを計算しているわけではないことがわかってしまいます。
 第3章「経済的自由を掴む資産設計術」では、投資の話です。
 p.147 では、75歳まで運用するという話が出てきます。現役時代は「働きながら運用する時代」、60歳から75歳までは「使いながら運用する時代」、75歳以上は「使う時代」です。乙は、退職までの15年くらいを考えて投資を始めたのですが、もっと先のことを考えておくべきだという意見です。なるほど、その通りですね。
 p.175 あたりでは、国内移住(都市から地方へ)も考えるといいという話で、確かに、そういう面もありそうです。乙は、海外移住を考えたりしましたが、
2008.2.19 http://otsu.seesaa.net/article/84738236.html
2008.2.18 http://otsu.seesaa.net/article/84564177.html
それよりも現実的かもしれません。選択肢の一つとして考えておきたいところです。
 本書は、新書でありながら中身が濃い本です。退職後(老後)の生活のことを考える上で大いに参考になりそうな本です。誰でも経験する「老後」ですが、それがどういうものかは、実際そうなってみないとなかなかわからないものです。



ラベル:野尻哲史 退職金
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2009年03月05日

野口悠紀雄(2008.12)『世界経済危機 日本の罪と罰』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。野口氏の「現在」をどう見るかが書かれていて、大変おもしろい本でした。
 5ページほどの「まえがき」を読むだけで、1冊読んでみようという気にさせます。
 「日本の罪と罰」というタイトルも意味深長です。まえがきにありますが、今回の金融危機は、主犯がアメリカであることは事実ですが、実は、日本(それと中国と産油国)が共犯者であり、大量の資金をアメリカに提供したという「罪」があると論じます。日本は低金利政策を取り、為替介入を行って円安に誘導したので、円キャリー取引が行われ、低コストの資金を全世界(特にアメリカ)にばらまいたという「罪」です。そして「罰」ですが、対外資産の巨額の為替差損がそれに相当します。また、これから日本を未曾有の大不況が襲いますが、これも「罰」ということになります。
 第1章は「崩壊した日本の輸出立国モデル」というものです。ただし、この章は若干読みにくいと思います。文章の途中で、3章や4章で論じることを先取りしつつ、図表などを参照させている点です。たぶん、他の章を書いたあとで第1章を書いたのではないかと推測しますが、本は、そこまで読んできたことを前提にしつつ話を展開するようにするべきで、読んでいく途中で後ろから出てくることを参照するのは読みにくくなります。ただし、このような態度は第1章だけですので、本書全体としては読みにくいわけではありません。(まあ、2回読めば、何の問題にもならないわけですが。)
 p.107 では、アメリカの住宅価格とトヨタの車の売れ行きの関連を論じていて、まさにその通りだと思いました。アメリカでは住宅を担保に自動車ローンを組む人が多いわけです。したがって、「日本の自動車産業は、円安に乗ってアメリカでの自動車販売を増加させ、そこで得たドルをアメリカに投資し、(結果的には)住宅ローンを支援し、住宅価格バブルの増殖に手を貸したことになった。」ということになります。住宅価格が下落すれば、信用収縮がおき、クルマが売れなくなるのは当然です。今がまさにその状態だというわけです。
 p.133 では、2001 年に導入された量的緩和政策について、表向きは「デフレに対処するため」とされたが、真の目的は「為替介入による貨幣供給量の増加を放置すること」だったとしています。これまた鋭い見方でした。
 p.169 あたりで、食糧自給率の問題を論じていますが、野口氏は一貫して食糧自給率を上げる必要はないという立場を取っており、本書でも持論が展開されています。乙も、こんなふうに考えているので、興味深く読みました。

 本書は、各節末に内容の要約が書いてあり、大変読みやすくなっています。短時間で読みたい人は、その要約だけを拾い読みすればいいでしょう。(やっぱり本文を読みたくなるでしょうが。)
 本書は、今の経済の動きを解釈して見せており、なるほどなあと思わせるところが多くありました。本当は、こういう経済危機が起こる前に読みたかったのですが、なかなかそういうことはできないのでしょうね。しかし、後講釈でも納得できるところが多々あるという点でおすすめできる良書だと思いました。



ラベル:野口悠紀雄
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2009年02月23日

内藤忍(2008.6)『【新版】内藤忍の資産設計塾』自由国民社

 乙が読んだ本です。「あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」という副題が付いています。
 乙は、すでに旧版を読んでいましたが、
2006.4.19 http://otsu.seesaa.net/article/16754281.html
もう一度読むつもりになりました。
 ちなみに、上記ブログ記事を今読むと、我ながらずいぶん変なことを書いているなあと思います。この3年間で乙の考え方が相当に変わってきたことを感じます。
 なお、乙は内藤氏の著書を他にも読んでいますが、
2007.8.2 内藤忍(2007.6)『内藤忍の資産設計塾 外貨投資編』自由国民社
http://otsu.seesaa.net/article/50008345.html
2006.9.22 内藤忍(2006.7)『内藤忍の人生を豊かにするお金のルール』アスペクト
http://otsu.seesaa.net/article/24191596.html
それぞれにいい本だと思っています。
 本書も、手堅い本で、資産運用の教科書ともいえる良書です。この1冊で資産運用は完全に理解できるように思います。
 p.29 で、老後資金の目標はまず 2000 万円という話が出てきます。意外と少額です。公的年金を考慮すれば、これで十分という話ですが、乙は、この10倍くらい必要ではないかと思っていました。まあ、生活のスタイルにもよりますから、一概に言えませんが。
 p.50 では、内藤式標準的アセットアロケーションが出てきます。p.171 で、なぜそう考えるかも説明されます。日本株式 30%、日本債券 10%、外国株式 20%、外国債券 20%、流動性資産・その他 20% というものです。(これは旧版と変わっていません。)もちろん、アセットアロケーションに正解はありませんが、これはこれで一つの考え方だなあと思いました。
 p.57 では、先進国では市場の効率性が高いのでインデックス運用、新興国では市場の効率性が低いので、アクティブ運用が基本だと説きます。なるほど、もっともです。乙は、特にこういう考え方を持っていたわけではありませんが、言われてみると確かにそうだと感じました。
 本書では、第3章「個人投資家が使える12の金融商品」が一番充実しています。100 ページ近くあります。全体が約 240 ページですから、その中のかなりの割合を占めます。ここを一読すれば、どんな金融商品がどんな特徴を持つのか、全体を概観することができます。
 p.184 から、運用金額に合わせたポートフォリオ例が出てきます。10万円から始まって、50 万円、100 万円、300 万円、1,000 万円の5種類です。10 万円で資産運用を考えるべきかどうか、乙は疑問に思いましたが、まあ、そういう場合も考慮しておくのはいいことかもしれません。誰でも最初は少額からスタートしますから。しかし、1,000 万円までで終わりというのは、ちょっともったいない気がしました。3,000 万円や1億円の場合、内藤氏はどう考えるのでしょうか。1,000 万円をそのまま比例倍していいのでしょうか。たぶんそうでしょうね。でも、もしかすると、ちょっと違う考え方ができるかもしれません。
 なお、資産配分例で、100 万円以下の場合は外国債券として、外貨 MMF を例に挙げていますが、300 万円を越えると、FX(外国為替保証金取引)を使うとしています。これは興味深い考え方でした。

 ともあれ、この1冊を読めば、資産運用に関して標準的なことがわかります。その意味で良書であり、おすすめできます。



ラベル:内藤忍
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2009年02月18日

吉本佳生(2008.11)『クルマは家電量販店で買え!』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「価格と生活の経済学」という副題が付いています。
 とても面白い本で、乙は一気に読んでしまいました。
 本書は、いろいろな商品やサービスの「価格」がどうなっているのかを見ながら、経済学的に考えていこうとするもので、著者の視点の広さが感じられます。
 第1章は「クルマとプリンターとPB商品、価格の決まり方はどうちがうのか?」です。価格の決まり方をめぐって、具体的な題材を取り上げながら論じています。なるほどなあと思わせる記述がたくさん出てきます。
 第2章は「高級レストランの格安ランチが、十分に美味しいのはなぜか?」です。「追加コスト」という考え方できれいに説明しています。p.78 では、店が混むからランチが安くなるという話が出てきて、なるほどと思わせます。
 話には納得できるのですが、一消費者としては、同じものがランチで 1000 円で、ディナーで 3000 円で提供されていたら、それはやっぱりランチで食べる方がいいと思うでしょう。ですから、ランチの方がディナーよりも少しだけ品質を落としている場合が多いと思います。しかし、それでも、ここで述べられている説明は当てはまります。高級レストランの味を楽しむには、ランチが一番いいということですね。
 また、pp.78- では、タクシー料金についても、もっと規制緩和をすることで安くなることがあると論じています。pp.85- では、高速道路料金についても、もっと工夫することができるとしています。いずれも貴重な提言だと思いました。
 第3章は「パチンコや金取引で必ず儲ける方法は、ときに本当に存在する?」です。タイトルに引かれて、手軽に正解を求めようとすると、がっかりすると思います。しかし、さまざまな裁定取引の例が出てきて、この章も興味深いです。
 pp.102-106 では、パチンコ屋が1玉1円と1玉4円の2種類の玉を売る話が出てきます。こういうときに「裁定」が効くんですね。パチンコ屋の話かと思っていると、p.106 から、金と銀の交換レートと同じことだということになり、さらには金とドルの交換(金本位制)の話になります。こういったふうに、身近な話題とマクロな経済学の話を結びつけて説明するあたりは、本書の大きな特徴でしょう。
 p.130 では、中国での偽ブランド販売が銀座を潤しているという話が出てきます。こんなものの見方は乙は全く気がついていなかったので、「へえ!」でした。
 p.140 では、フードマイレージという考え方のおかしなところを指摘しています。何となくもやもやと感じていたものをずばりと指摘されたような気分です。
 第4章は「ライバル企業が、互いに不幸になる競争を止められないのはなぜか?」です。オークションや価格設定での駆け引きを説明しています。この章も面白かったです。p.153 では、セカンドプライスオークションという考え方が説明されますが、これも乙が知らなかったことなので、とても興味を持ちました。最高額で入札した人に、2番目に高額に付けられた値段で売るということです。とてもいい制度だと思いました。
 第5章は「大学の授業料は、これからも上昇を続けるのだろうか?」です。実際、今の大学の授業料(特に私立理系)はずいぶん高いので、ぜひ、安くしてほしいものですが、著者によれば、そういうことも不可能ではなさそうです。それを実現するための具体的な提案も書いてあります。しかし、日本社会では、なかなか受け入れられない考え方でしょう。大学をどうするかは、文科省だけでなく、さまざまな立場の人がそれぞれの立場から発言するので、国民的合意が得られにくいテーマだと思います。
 第6章は「地球温暖化対策に、高すぎる価格がつけられようとしている?」です。排出権取引についての考察です。ここでも、排出権取引に関する著者の具体的な提案が盛り込まれ、なるほどと思いました。
 p.279 からの「おわりに」では、本書で出てきたさまざまな題材が金融と深く関係しているということが書かれています。確かにそうです。
 この本は投資を心がける人が読んでも役に立つものだと思います。おすすめに値する良書だと思います。



ラベル:吉本佳生
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2009年02月06日

森永卓郎(2008.11)『年収防衛』(角川SSC新書)角川書店

 乙が読んだ本です。「大恐慌時代に「自分防衛力」をつける」という副題が付いています。
 第1章「「年収崩壊」から「年収防衛」へ」は、前著『年収崩壊』(2007)から現在までの変化を描いています。p.27 で、新自由主義は英・米・日(小泉政権)だけだとしており、世界的に見て特殊な考え方だとしています。また、p.29 でオランダの社会民主主義の考え方を説明し、好ましいあり方のモデルとしているようです。パートタイマーでもフルタイマーと同じ給与水準だそうです。働く時間が短いので、その分収入は少ないのですが、それだけの違いだというわけです。確かに、こういう働き方も興味深いのですが、みんなが一生懸命に働く日本ではこの種の政策は採りにくいでしょうね。
 第2章「「年収防衛」時代の働き方」は、今の時代に合わせた働き方の提案ですが、あまり新鮮味はありません。正社員の終身雇用が理想だとか、次を決めてから辞表を出すとか、当たり前のことが並んでいるように感じました。今は、そういうことができない人が多いから社会問題になっているというのに、森永氏の書いていることはどこかずれている感じです。
 第3章「モリタク流発想術」では、トピック的にさまざまな話題を取り上げます。昭和の町、高齢者の恋愛、非婚など、現代社会を見る「目」が感じられます。しかし、だからどうせよというのか、趣旨が今ひとつよくわかりません。
 第4章「モリタク流資産運用術」は、一番投資に近いところですが、たった13ページで、あまり突っ込んだ話にはなっていません。もう少しページ数を増やしてもらいたかったところです。
 第5章「モリタク流節約術」では、さまざまな小手先の技術で生活費の節約を説いています。しかし、この多くはすでに知られていることの繰り返しであり、乙はつまらなく感じました。
 第4章と第5章は、個人が行う話で、第3章までの社会を見る目とはかなり異なります。乙はかなり違和感がありました。
 本書の末尾には、本書の内容がいくつかの雑誌の連載から構成されていると書いてありました。それで何となくわかりました。本書は、あまりつながりのない話の寄せ集めになっていたんです。
 読了後、振り返ってみると、第1章が一番おもしろかったと思います。しかし、あとはどうも2番煎じのような気がしました。

 乙が読みたくて買った本ではなく、飛行機に乗るときに、手持ちの読み物を読み終えてしまったので、空港の本屋さんで目に付いたものを購入しただけです。時間つぶしにはなりましたが、さて、こういう本を読む人というのはどんな人なのでしょうか。どうにもイメージがわきにくかったように思います。

参考記事:
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090130/184448


ラベル:森永卓郎
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2009年01月27日

倉都康行(2008.7)『投資銀行バブルの終焉』日経BP社

 乙が読んだ本です。「サブプライム問題のメカニズム」という副題が付いています。
 この本も、本格的な株価の値下がりの前に書かれています(執筆時期は2008年4月とのこと)ので、内容的に古く感じる部分があります。
 奥付のところの著者紹介によると、著者の倉都氏は、東京銀行の香港、ロンドン支店で国際資本市場業務を担当し、チェースマンハッタン銀行のマネージングディレクターなども経験したとのことですから、いわば、投資銀行の業務を自ら経験してきた人ということになります。
 本書は、専門用語が解説なしで使われますから、ある程度金融の知識がある人を対象にして書かれた本ということになります。
 p.32 あたりで、投資銀行と商業銀行がどう違うかを説明しているくだりは参考になりました。同じく「銀行」と名乗っていても、両者はまったく別物です。
 その後、pp.199-200 では、商業銀行は公的資金投入などで再生できるけれども、投資銀行は新しいタイプの資本毀損なので、同じようにできるかどうか、疑問であるとしています。
 この2点は面白かったのですが、その途中の百数十ページの記述は、乙にとってかなり退屈に感じました。
 p.208 では、FRB の対応として、実態的に投資銀行(ベア・スターンズ)を救済対象とした以上、FRB が商業銀行だけでなく投資銀行をも規制対象にすべきだという議論が起きていると書いています。こうなると、投資銀行は投資銀行らしくなくなります。つまり、これが投資銀行の終焉ということです。
 p.211 では、新自由主義の考え方と投資銀行の関連を、サブプライム問題を例にしながら解説しています。なるほどと思いました。

 本書は、アメリカに多くある投資銀行がどんなものかを記述しています。しかし、参考文献が1冊もあげられていません。著者の見方・考え方が書いてありますが、それは著者自らの経験が中心となっているようです。なぜ著者がそのような見方をするようになったか、それを裏付ける「データ」に乏しいと感じました。したがって、著者の見方がどれだけ有効な議論なのか、わからないのです。
 音楽に見立てる章の構成は成功していないように思いました。名は体を表さずといったところでしょう。

 なお、細かいことですが、p.177 で「デジャブ」を「デ・ジャブ」と表記している点が気になりました。何ヵ所もありますので、ミスプリではなく、本人がそう思いこんでいるわけです。これは、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B4
にあるように、「デジャ・ブ」という切り方になります。フランス語の発音では「デジャ・ビュ」のほうが近いでしょうが。


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2009年01月25日

岩田昭男(監修)(2009.1)『本気のクレジットカード選び 最強の2枚はこれだ!』洋泉社MOOK

 乙が読んだムックです。
 乙は、クレジットカードを1枚作ろうと思っているので、
2008.10.12 http://otsu.seesaa.net/article/107953170.html
本屋さんで見かけたクレジットカードの解説書という感じの本書を買いました。
 まずは、監修者の岩田昭男氏が総論的に書いています。
 p.3 上段 カード会社が入会審査時に利用者の年収に応じて支払い可能額を調査することになるのだそうです。そこで「たとえば、年収500万円の人なら、複雑な計算を経て限度額は、年間約100万円になる。」としています。「複雑な計算」のしかたは下段に書いてありますが、500万円の年収から生活維持費300万円を引いて、支払い可能額200万円を算出します。それに「大臣の定める係数」(仮に 0.5)をかけて、限度額100万円となります。この計算のどこがいったい「複雑」なんでしょう。乙は強い違和感を抱きました。
 p.3 上段から下段にかけて(先ほどの引用の続きです。)「100万円というと多いようだが、それは年間の額だから、たとえば、年の初めに100万円で自動車ローンを組んだとすると、その年はもうクレジットカードを使うことができなくなるのだ。」とあります。
 乙は、「年間の額」というのが理解できませんでした。たぶん、以下のようなことだと思います。
 毎月10万円をクレジットカードで一括払いで払っていく人の場合、10ヵ月経つと、100万円に達しますが、すると、11ヶ月目の10万円がカードで支払えなくなる(クレジット利用額の合計額が限度額)ということのようです。
 でも、毎月10万円ずつ口座から引き落とされていけば、クレジット利用残高はいつも10万円を越えることはないわけです。そんなとき、たった10万円の借金ができないなんておかしい話です。
 限度額というのは、総借入額のことではないのでしょうか。だとすると、この場合、10万円の借り入れがあるだけですから、11ヵ月目でも10万円のカード利用ができることになります。
 もっとも、100万円がカード利用残高のことだとすると、「年間限度額」という概念自体が意味がなくなってしまうのですが。(1年間の合計額ということは無関係に、任意の時点で利用残高が計算できるわけです。)
 このあたり、もう少し、丁寧に記述してほしいと思いました。
 p.7 最下段 「3万マイル以降は」→「2万マイル以降は」 こんな大事なところでミスプリがあるとは!
 p.10 ポイント付与率や現金還元率でチェックすると、一番いいカードは「P-ONE カード」だそうです。乙は、こんなカードがあるとは知りませんでした。
 p.21 年会費永年無料というプロパーカード(カード会社が単独で発行するカード)は、セゾンとライフくらいしかないとのこと。意外に少ないのですね。
 pp.40-41 京王パスポートカードは、PASMO にオートチャージするとポイントがたまると書いてあります。しかし、現在は「改悪」されて、ポイントがたまらないようになってしまいました。
 実は、乙は、PASMO を使っているので、京王パスポートカードを持っているのです。年会費 250 円がかかるのですが、PASMO オートチャージでポイントがたまるなら、こういうカードを使っていてもいいなと思ったのでした。その後「改悪」されたので、今は、京王パスポートカードは契約を解除してもいいと思うようになってきました。もっとも、SUICA の自動チャージ機能付きのクレジットカードで年会費無料のものはないようなので(ビュースイカカードも年会費が 500 円かかります)、単純な切り換えはしにくい状況です。p.47 によると、Yahoo! Japan カード Suica を利用すれば、2年目から年会費 525 円がかかるものの、前年1年間のカード利用が10万円以上ならば翌年度の年会費無料とのことなので、これを利用する手があるかもしれません。
 p.57 E-NEXCOpass の紹介が書いてあります。年会費無料(1度でも使えば翌年度も無料)で、ETC カードもついてくるというのです。乙は、ETC カードについても、あるクレジットカード会社と契約して、年会費 500 円を払っていることを思い出しました。こんなムダなことをやめて、E-NEXCOpass に切り換えればいいのですね。(2009.1.29 削除)
 こんなわけで、本書は非常に詳しくクレジットカード(電子マネーも含む)を解説しています。100枚近くのカードを紹介しているという意味でも、クレジットカードのカタログといえるものです。
 乙は、PASMO や ETC についても、クレジットカードを持っていることと同じなので、それらも含めた総合的なカード利用を考えるべきかと思いました。
 そのような「見直し」を考えるきっかけにもなるので、本書は便利なガイドブックということができます。毎年、こんなムックが刊行されているようですね。


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2009年01月23日

森剛志,小林淑恵(2008.8)『日本のお金持ち妻研究』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 乙は、お金持ちに関する本を、何冊か、読みました。
ハーブ・エッカー(2005.10)『ミリオネア・マインド 大金持ちになれる人』
2009.1.14 http://otsu.seesaa.net/article/112582648.html
本田健(2008.4)『普通の人がこうして億万長者になった 』
 2008.12.14 http://otsu.seesaa.net/article/111187925.html
ピーター・W・バーンスタイン,アナリン・スワン(2008.8)『ビリオネア生活白書』
2008.12.6 http://otsu.seesaa.net/article/110767867.html
橘木俊詔,森剛志(2005.3)『日本のお金持ち研究』
 2008.11.24 http://otsu.seesaa.net/article/110062347.html
トマス・J・スタンリー, ウィリアム・D・ダンコ(1997.9)『となりの億万長者』
2008.11.9 http://otsu.seesaa.net/article/109300763.html
しかし、お金持ちの妻に関する本は初めてです。
 序章では「容姿端麗は絶対条件ではない」と題して、玉の輿に乗る結婚はあまりないことを示しています。p.11 あたりでは、「玉の輿仮説」は成り立たず、現代ではキャリアウーマン型の妻が多いということが書いてあります。
 乙も含めて、一般人の多くが知りたいと思うような話題(?)を最初に持ってきて、本書を読ませるようにし向けています。乙もこの手法に引っかかって本書を読む気になってしまいました。
 本書は、お金持ちの妻に対するアンケート調査の結果を中心にまとめています。
 では、どんなアンケートだったか。p.9 に概要が書いてあります。2年にわたって年間納税額 3000 万円以上(年収約1億円以上)の 6000 人と、年間納税額 1000 万円以上(年収は 3000 万円以上)の 1000 人にアンケートを送付したとのことです。で、肝心の回収数ですが、118 通です。うち有効回収数は 108 通だそうです。7000 通も発送して、たった 108 人。1.5% の回収率ということになります。これでは、お金持ち妻の平均的な像は描けないでしょう。ごくわずかの「積極派」(意識的にアンケートに回答するタイプ)を描いているに過ぎません。では、どんな人が積極的だったか。前述のように、キャリアウーマン型の人です。自分の人生に対する明確な意識などなく、のほほんとしていて、気が付いたらお金持ちの妻になっていたような人(失礼な言い方をして恐縮です)は、こういうアンケートには回答しない傾向があるのではないでしょうか。
 乙は、この調査結果にはかなり疑問を抱かざるを得ないと思いました。
 本書は、第2章で「お金持ち妻の就業」、第3章で「お金持ち妻の節税」を述べています。このあたりは、キャリアウーマン型の回答者が多かったためにこのような記述になったと思いますが、お金持ち妻のある側面を描き出しているだけのように思います。
 また、第5章「上流階級と家事使用人の歴史」は、戦前の華族の話ですし、第6章「スーパーキャリアウーマンという生き方」は、今回のアンケート調査の結果ではなく、別の統計資料を使った記述で、アメリカ女性の場合などを論じています。
 p.148 でお金持ち妻のお金の使い方が述べられていますが、「周りの人に合わせて使う」ということで、しかも「周りの人」はあまり裕福でない人が多いので、結果的に、お金持ちでもあまり派手な出費はしないとのことです。ここは、妙に納得しました。
 というわけで、乙は期待を持って読み始めたのですが、本書全体を通読すると、かなり残念な内容になってしまったという印象を受けました。
 まあ、投資ではお金持ちになることはほとんどない(お金持ちが投資をすることは大いにあるわけですが)ので、別世界をちょっとのぞき見たような感じでした。


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2009年01月21日

小幡績(2008.8)『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。
 小幡氏の著書は、以前にも『ネット株の心理学』を読んだことがあります。
2007.2.5 http://otsu.seesaa.net/article/32855771.html
 まえがきでは、お金はなぜ増えるかという問題を論じます。答えは、p.5 にあります。「ねずみ講」です。この回答がおもしろくて、本書を読む気になりました。
 現代は、産業資本が金融資本に変質しているということで、富を生み出す方法が以前とは違っているという認識が示されます。おもしろい議論です。
 第1章「証券化の本質」では、なぜサブプライムローンが証券化されたかが説明されています。とてもわかりやすい説明でした。リスクの性質が変わったのだという説明には納得できます。証券の格付けも単なる数字あわせに過ぎず、きちんとした格付けがなされていなかったことが明らかにされます。
 第2章「リスクテイクバブルとは何か」では、サブプライムローンを提供する会社の儲け方、ローンを借りる側の論理などが説明され、これまたわかりやすい論でした。「リスクテイクバブル」というのは、小幡氏の造語だそうです。
 第3章「リスクテイクバブルのメカニズム」では、文字通り、リスクテイクバブルが起こるプロセスを描きます。必然的に起こったことが納得できます。
 第4章「バブルの実態――上海発世界同時株安」、第5章「バブル崩壊@――サブプライムショック」、第6章「バブル崩壊A――世界同時暴落スパイラル」は、時間を追った記述で、そのときどきに、機関投資家やファンドマネージャーなどが何をどう考え、どう行動したかを解説しています。このあたりの記述は、事後的な説明としては納得できるのですが、そのまっただ中にいるときは、何が何だかわからなかったことでしょう。
 第7章「バブルの本質」と第8章「21世紀型バブル――キャンサーキャピタリズムの発現」では、今の世界に起こっている制度的な問題を論じています。バブルの出現と崩壊は必然的なものだというわけです。
 個人投資家としては、リスクのある金融商品に資金を投ずるわけですから、その先で何が起こっているのかを知っておいたほうがいいように思います。その意味では、本書は、金融関係者の行動が理解できるようになるという点で、かなり興味深いものです。
 個人投資家は、長期にわたって投資を継続しているうちに、必ずバブル(とその崩壊)を経験することになります。それでも動じないためには、バブルのメカニズムについて知っておいたほうがいいということです。
 少々残念だったこととしては、本書が 2008.8 の出版だったということです。その後、世界の株式市場で深刻な大暴落があったわけですから、それを記述しない本書は、今後読み継がれることはなさそうに思います。


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2009年01月18日

清水美和(2008.2)『「中国問題」の内幕』(ちくま新書)筑摩書房

 乙が読んだ本です。
 読み出してすぐのプロローグ(pp.7-11)に、ちょっとありえない(考えられない)ようなトラブルが出てきます。日本人駐在員が中国で巻き込まれたトラブルです。こんな話が続くのか、だったら読んでみようと思って読み始めたのですが、本書は全体にあまりおもしろくありませんでした。
 目次は、以下の通りです。
プロローグ――「不思議の国」と付き合う法
第1章 温家宝首相の来日を追う
第2章 歴史に呪縛された日中関係
第3章 試練に立つ共産党支配
第4章 台頭する共青団の実力
第5章 中国軍の思想と行動
第6章 社会を破壊する格差
第7章 党中央宣伝部とメディアの自由
第8章 未完の「胡錦涛革命」

 この中では、第6章と第7章がおもしろかったように思いました。
 第6章は、中国の中の格差問題を取り上げて解説しています。最近制定された「物権法」も、実は農民などの評判は必ずしも良くないのだそうで、反対声明が出されるなどと聞くと、意外に思いました。p.183 では、物権法が豊かで力のある者の所有権を保護する一方、貧しく力のない者からの「合法的」な収奪をいっそう進行させることがあるとしています。
 第7章は、メディアが自由に何でも書けない現状を解説しています。最近は、以前のような共産党によるガチガチの取り締まり体質と若干違ってきている面もあるようですが、基本的にはメディアの自由がない国です。
 これ以外の章は、乙はあまり興味が持てませんでした。投資と直接関連しないということもあると思いますが、乙の中国に関する知識が不足しているためではないかと思いました。典型的には中国の人名です。国家主席クラスの人は、だいたいどんな人かわかりますが、それ以下の政治局員などに関しては、人名をいわれてもさっぱり実感がわきません。少なくとも顔が浮かんできません。しかし、本書では、そのようなレベルで、誰々がどうこうしたというようなことがたくさん出てきます。こうなると、どうもおもしろく感じないのです。
 それはさておき、中国の現実は、なかなかきびしいもののようです。中国国内にかなりの不満が溜まっているように思えます。それが今後噴き出すのか、あるいはすでに噴き出している(報道されていないだけ)と見るべきか、いつ何が起きるかわからない不安感があります。
 やはり、中国投資は慎重であるべきかもしれません。


ラベル:清水美和 中国
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2009年01月14日

ハーブ・エッカー(2005.10)『ミリオネア・マインド 大金持ちになれる人』三笠書房

 乙が読んだ本です。「お金を引き寄せる「富裕の法則」」という副題が付いています。
 著者は、全米各地で「ミリオネア・マインド集中講座」を開催しているとのことで、そのノウハウがこの本に収められているのかと思って読んでみました。
 結果的には失敗でした。たった1冊で(しかも図書館から無料で借りて)貴重なノウハウを知ることができるというほど甘いものではありませんでした。
 お金持ちになれる人とお金に縁がない人の考え方の違いがいろいろと書かれています。中にはおもしろいものもありますが、どうにも変なものもあり、乙は、全体として、あまり役に立たないと思いました。
 p.33 「一般的に言って、お金の使い方は、片方または両方の親のやり方を組み合わせたスタイルに落ち着く傾向がある。」とあります。なるほど、親の影響があるわけですね。ところが、先を読み進めていくと、p.36 には、「お金の使い方は、一方、または両方の親と同じスタイルになりやすいが、この正反対の場合もあり得る。つまり、親とはまるで反対のお金の使い方をする人もいる。」と書かれています。2箇所でこういうことを述べていては、法則も何もありません。人にはさまざまな考え方があるというだけで、何も語っていることにはなりません。せめて、どちらがどれくらい多いのか、比率を数量的に示してあれば、納得できる面もありますが、この著者はそういうことを自分で調べたわけではありませんから、主張は一般化できません。
 この1例が端的に示すように、著者は、たくさんの人に話をしているといっても、それは自分が主観的にこうだと「わかった」(=思いこんだ)ことを語っているに過ぎません。その証拠は何も挙げられていません。したがって、いわば著者の主張は宗教のようなもので、信じる人もいるし、信じない人もいるということでしょう。また信じて助かった(一財産作った)人もいる一方で、信じて失敗した(財産を失った)人もいるでしょう。後者は決して語られることはなく、闇に消えてしまい、前者(成功者)だけが次のセミナーでの経験談として語られます。こうして、多数のミリオネアに関する知見が集積され(るように見え)ます。しかし、それが本当に通用するかどうか、何も検証されていないのです。
 p.50 「あなたの経済状況を変える唯一の方法は、「お金の設計図」を書き換えることだ。」と述べています。そんな「考え方」を変えるだけで、経済状況が変わるものでしょうか。そんなことで金持ちになれるならば、みんな金持ちになっているのではないでしょうか。「お金の設計図」の話は p.27 に出てきますが、抽象的な話に過ぎません。
 p.124 「金持ちになれる人は「成果」に応じて報酬を受け取る お金に縁がない人は「時間」に応じて報酬を受け取る」というところはわかりやすかったです。例も具体的でした。
 pp.156-157 「お金を分けて使う。そのために、口座や貯金箱などを分ける」という考え方もわかりやすかったです。収入があったら、それを経済的独立用10%、遊び用10%、自己投資10%、必要経費55%、寄付用10% に分けるとのことです。足しても 100% にならない(95%)ことはご愛敬ですが、ともあれ、予算を立てて費消していくという態度は好ましいことですし、その中に、アメリカ人らしい観点が入っている点(自己投資と寄付)はおもしろいです。
 pp.160-162 「「経済的自由」とは“不労所得”が“必要経費”を上回ること」と述べています。別の言い方をすれば、自分が働きたいと思ったとき以外は働かなくていいといいうのが経済的自由です。こういう状態は確かに望ましい状態です。定年後の老後の生活はこうであるべきでしょう。
 というわけで、本書は、いくつかおもしろい記述もあるのですが、全体としては、読む必要のない本だと思います。


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2009年01月12日

荒川雄一(2008.11)『着実に年10%儲ける「海外分散投資入門」』実業之日本社

 乙が読んだ本です。「“ほったらかし運用”でラクラク資産づくり」という副題が付いています。
 タイトルに引かれて読んでみました。
 著者の言う「海外分散投資」は、海外ファンドに投資しようということで、普通にいわれている「分散投資」とは意味がちがうので、要注意です。
 結果的に言うと、本書を読みながら、乙はいろいろと問題点を感じてしまいました。
 p.29 「日本でも10分の1のデノミを実施すれば、財政は楽になるでしょうね。」とあります。デノミは通貨の呼称単位を切り下げるだけで、借金を減らすわけではありません。借金が 1/10 になると考えるならば、収入も 1/10 になるわけで、本質的にはデノミの前後で通貨の価値が変わるわけではなく、財政が楽になることはありません。
 p.38 「重要なことは、この「リスク」を、うまくコントロールできるかどうかなのです。」とあります。しかし、本書では「リスクをコントロールする」とは具体的にどうすることなのか、一切説明がありません。
 この問題は、しばしば投資に関連する本で出てくる問題点です。中原圭介『サブプライム後の新資産運用』
2008.12.16 http://otsu.seesaa.net/article/111299756.html
でも、無定義で使われていました。
 著者にとっては、あまりにも当たり前の言い方なのでしょうが、乙は、今ひとつ、わからないことばです。
 p.59 運用ルールを明確に持つことが大事だと述べた後で「そうしたルールの中で最も大切なのが、ロスカット(損切り)のルールです。」と述べています。一方、山崎元『「投資バカ」につける薬』
2006.8.16 http://otsu.seesaa.net/article/22402936.html
や、バートン・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』
2006.8.6 http://otsu.seesaa.net/article/21985368.html
では、ロスカット=損切りを否定しています。乙は、基本的に、ロスカットは有害だと思っています。
 ところで、本書の p.74 に、損切りルールを持っている人よりも、下落相場でも淡々とドルコスト平均法で投資した人のほうが結果的にうまくいくような話が出てきます。荒川氏は、このことをどう考えているのでしょうか。乙は、本書の記述に問題がある(矛盾している)と思いました。
 p.64 「実際に投資するときに注目するべきなのは、リターンではなく、「リスク」なのです。」ということで、リターンよりもリスクを考えて投資することを強調しています。このことが悪いわけではありませんが、こういう主張をするのだったら、本書のタイトル『着実に年10%儲ける〜』を変えるべきでしょう。『リスクを何%に減らす〜』とするべきではないでしょうか。今のタイトルは、明らかに「リターンが大事だ」と言っています。
 p.67 標準偏差が違う二つのファンドのグラフが出てきます。しかし、曲線がまったく同じ形になっており、横軸の「幅=目盛り」が異なるように書かれています。間違いではありませんが、ミスリーディングです。こういうグラフを書くなら、横軸の幅をそろえて、一方が他方よりもとがった形の曲線になるように書くべきだと思います。
 p.78 「一括投資の場合は、価格のブレが小さな商品のほうが「リスク」を抑えることができます。【中略】それに対して、積立投資の場合は、ある程度の価格のブレがある商品のほうが、大きな利益が得られる可能性があります。」と述べています。純粋に理論的に考えれば、この言い方は間違っていると思います。どちらがどちらでも同じことである(有利不利はない)はずです。しかし、現実的には、ドルコスト平均法がうまく機能することがあることからもわかるように、このような考え方も当てはまるかもしれません。著者は、単純に、理論的な考え方を示さずに、経験に基づいてこの主張をしているところが残念です。
 p.99 1ドル=110 円のときに100万円を運用する話が出てきます。日本円では、金利 0.5% として、5年運用して 102.5 万円になりますが、米ドルでは、金利 4.5% で 9091 ドルを5年運用して 11,329 ドルになるとしています。そこで、15円の円高(1ドル=95円)になっても、円転して 107.6 万円で、7.6% のリターンが得られるとしています。この計算は間違いではありません。しかし、最近の円高は、1ドルが90円くらいです。87円台まで円高が進んだこともありましたっけ。ですから、金利の高い海外の通貨で長期投資を行うことで為替リスクが低減する(p.100)などということはありません。為替リスクは為替リスクとして厳に存在します。
 p.112 ここで通貨分散を説いています。そして「せっかく世界中の様々な金融商品に分散投資を行なったとしても、それがすべて「円建て」で行なわれていては、本来その通貨が持っている金利の高さなどのメリットを享受することができないということになります。」と述べています。乙は、この考え方は間違っていると思います。
 くわしくは、ブログ記事「投資先の分散と通貨の分散」
2007.2.23 http://otsu.seesaa.net/article/34452967.html
で述べたので、そちらを参照してください。結論として、株式投資の場合は円建てで世界の株に分散投資してかまわないのです。
 pp.119-120 では、10万円のバッグをドル建てのクレジットカードで買う話が出てきます。円を米ドルに交換したときのレートが1ドル=100 円で、買い物をする日のレートが1ドル=125 円であれば、実際の出費は 20% も安くなったことになるとしています。このことは正しいのですが、話としては逆のこともあり得ます。円を米ドルに交換したときのレートが1ドル=125 円で、買い物をするときが1ドル=100 円という場合です。このときは損をするのです。そして、損をするか得をするかは、事前には何ともわかりません。得になる例だけ挙げて、こういうメリットがあると述べるのはあまりにも一方的です。
 p.128 では、海外ファンドを勧めています。本書の基本的な主張です。本当に海外ファンドは株よりもいいのでしょうか。いろいろ考えるべきところがあるように思いますが、乙は、著者が言うほど単純な話ではないように思っています。(このあたりは考え方の問題です。)
 p.200 では、30代の人のモデルポートフォリオが書いてあります。これこれのファンド(ヘッジファンドを含む海外ファンド)に何%ずつ投資すると良いというわけです。これで収益率が 18.41%、標準偏差が 5.21% になるとのことです。乙は、なぜ、このポートフォリオが 18.41% ものリターンになるのか、理解できませんでした。それぞれのファンドが高収益を挙げているからだとすれば、それは過去にそうであったというだけで、未来を約束するものではありません。だいたい、18% もの利益率がずっと続くと想定しているほうがおかしいのではないでしょうか。投資は、大まかに言って、数%程度のリターンが普通でしょう。18% も儲けることができるとすれば、それは市場平均を出し抜いているわけで、その分、他の人からリターンを収奪していることになります。そうしてはいけないとまでは言いませんが、自分はいつもそうできるという主張には、それは欲張りすぎではないかと感じてしまいます。
 そんなわけで、本書の内容は期待はずれでした。他の人にも本書をオススメしないことにします。

 ちなみに、荒川氏は『海外ファンドで資産を作ろう!』というメルマガ
http://www.mag2.com/m/0000121186.html
を発行しており、乙も講読していたのですが、講読をやめることにしました。


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2008年12月31日

[投資関連本] 堀口博行(2008.10)『週2日だけ働いて農業で1000万円稼ぐ法』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。
 タイトルに引かれて読んでしまいました。だって、農業などというのは儲からない産業の典型で、後継者難だとか、離農者が続出しているとかいう話をよく聞きますから、タイトルのようなことがあったら、驚きです。
 著者は北海道で会社員をするかたわら、実際に農業を営んでいる人です。作っているのは長ネギとピーマンがメインのようです。
 一読してみると、著者の経験に基づいた農業起業の概説書で、ちょうど「農業入門」のような感じでした。
 とにかく、本書にはさまざまなノウハウが盛り込まれています。トラクターや耕耘機などをいかに安く手に入れるかというようなことも出てきます。ビニールハウスを安く買う方法もあります。アルバイトを効率的に使う方法も出てきます。農地だって、買うよりも借りる方が安いというわけです。
 驚くのは、p.154(どこだったか、他にも記述があります)で、自分で作らない野菜は、スーパーで買おうという話です。乙は、農家は自家消費分として、さまざまな野菜などを少しずつ作っていると思いこんでいました。(たいていの農家はそうしているのではないでしょうか。)しかし、出荷用の作物を大規模生産し、それで儲け、それ以外の野菜などはスーパーで買って食べるというのは、実に合理的な考え方です。
 こんな本は珍しいのではないでしょうか。
 もっとも、本書を読むと、著者は実にマメな方のようですし、そもそもご両親が農業をやっていた(だから土地もすでに持っていた)ということですから、だれでも農業に参入できるというような生やさしいものではありません。会社勤めの人が定年後に新たに農業をやろうというようなことでは、うまくいかないような気がしています。
 望ましくは、数年分の平均的な売り上げ、およびかかった経費(設備投資を含む)、それに保有する農業関連の資産を明記してほしかったです。あまり細かく書くわけにもいかないのかもしれませんが、そのような具体的な記述がないと、本当に1000万円が稼げるのかどうか、わかりません。まさか売り上げが1000万円ではないですよね?
 本書は単なる投資関連本ではありませんでした。
 著者のような人が多数参入するようであれば、日本の農業も捨てたものではないように思えてきます。やはり創意工夫が大事だということです。多くの農業従事者は、こんな本を読んでいるのでしょうか。乙の知っているような農家(乙の親戚にも農家があります)では、あまり本を読んでいないような印象があります。


ラベル:堀口博行 農業
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2008年12月29日

カン・チュンド(2008.8)『日本人が知らなかったETF投資』翔泳社

 乙が読んだ本です。とてもいい本です。オススメです。
 210 ページほどの本ですが、内容がとても良くまとまっています。
 p.iv で、プリウス所有者同士の「集まり」があるという話です。自分と同じ価値観を持つ人同士がどんな人なのか、会って話をしてみたいということです。乙は、この話を読んで、ブログのオフ会の価値はそこにあると思いました。
 p.xi は、まだ本文が始まっていませんが、著者への問い合わせに備えて、連絡先が明示してあります。とても良心的です。著者の意気込みを感じさせます。
 p.82 資産として、金融資産の他に、自分資産と関係資産を挙げています。自分資産は、自分自身が資産であるということで、おもしろい見方です。関係資産は(家族を含む)人脈のことです。なるほど、こういうのも「資産」なのですね。
 p.100 新興国株の割合を先進国株と同じにする話が出てきます。
 この話は、乙のブログに書いたことがある
2007.11.28 http://otsu.seesaa.net/article/69520802.html
のですが、とても興味深い見方です。
 p.113 から、安全資産として円建て MMF を挙げているのもおもしろかったです。普通は個人向け国債などを挙げると思いますが、円建て MMF も似たようなものと思います。
 pp.116-117 で、カンさんの説くような分散投資をしている場合、「今まで、「リスク資産」の損失部分が、年間ベースで 30% を超えたお客様はおられません。」としています。それはそうかもしれませんが、さて、2008 年はどうだったのでしょうか。こんなにもひどい世界同時株安と円高でしたから、リスク資産の損失が 30% で済めばいいほうなのではないかと思うのですが、……。
 ともあれ、ETF 投資に関して、こんなにもわかりやすく書いてある本は見たことがありません。タイトルに偽りなしです。これから投資をはじめる人には、まずこの1冊をオススメしたいと思います。


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2008年12月27日

バートン・ビッグス(2007.1)『ヘッジホッグ』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「アブない金融錬金術師たち」という副題が付いています。420 ページほどのけっこう分厚い本です。
 「ヘッジホッグ」とは、「ヘッジファンド屋」つまり、ヘッジファンドのファンドマネージャーのことです。そういう人たちがどういう日常生活をしているかを描いています。著者自身がファンドマネージャーであり、自分の身の回りに起こったことを描いているということで、ヘッジファンドの実態がわかるかと思って、読んでみました。
 結果的には、あまりおもしろくなかったです。
 特に前半は、ファンドマネージャーのそれこそ日常的なことが書いてありますので、まるで日記かブログか何かを読んでいるようなものでした。
 印象的な話は、第1章 p.10 に出てきます。大手ヘッジファンドの大立役者が、娘に、10歳の誕生日に何がほしいか聞いたところ、娘は「航空会社の飛行機にいっぺんも乗ったことがないので、恥ずかしいから、一度乗ってみたい」というのです。この家族はいつも自家用ジェットで移動しているためだそうです。
 第2章は、ヘッジファンドを立ち上げて損をしてしまったトレーダーの話です。
 第3章から第4章は、著者の空売りの経験を描いています。
 第5章はヘッジファンドの売り込み大会のことを書いています。どうやって金づるを見つけるかということです。
 第6章も金集めの話です。p.104 には、成功したヘッジファンドも長く続かないという話が出てきます。厳しい世界のようです。
 第7章は日記風の記述でした。このあたりまで読んできて、乙はちょっとめげました。これ以上読まないことにしようかなどと思いました。
 p.179 では、イェール大学の話が出ていました。1970 年代でイェール大学寄付基金は購買力が45%下落したと書いてあります。購買力=運用成績とは書いてありませんが、ひどい経験もあったのですね。p.195 には、イェール大学寄付基金が再び登場して、2004.6.30 までの10年間、年率 37.6% を稼いだとのことです。1973 年に運用を開始して以来、イェールのプライベート・エクイティ運用のリターンは驚異の年率 30.6% だったそうですから、まさに驚きです。p.306 には、1978-2003 のプライベート・エクイティ投資のリターンの表が出ています。pp.211-221 でもイェール大学寄付基金の話が出てきます。
 なぜ、乙がこんなにイェール大学にこだわるかといえば、以前イェール大学の運用のすごさを見たからでした。
2008.12.8 http://otsu.seesaa.net/article/110865657.html
 p.182 には「初年度現象」が出てきます。生き残ったヘッジファンドは初年度の成績が一番いいことが非常に多いというのです。興味深い現象です。もっとも、だからといって、新しいヘッジファンドが一番いいというわけではないのは当然です。
 pp.252-253 では、新興国株の投資について述べていますが、中でも、新興市場インデックスファンドを買ってもうまくいかないというのはおもしろかったです。市場に存在するものは、すでに成長した後の企業群だからだというわけです。そうかもしれないし、そうでないかもしれません。
 p.278 ヘッジファンド業界は、スーパースターもクビになる世界です。具体的な話が次々と語られます。p.293 では、2〜3年負けるとクビになると書いてあります。
 p.348 では、「2005年の年央現在、私はアメリカの住宅市場が全国的で全面的なバブルに陥っているとは思っていない。」と断言しています。確かに、バブルだったことははじけた後でわかることなのかもしれません。2008年現在、著者はアメリカの住宅市場をどう見ているのか、知りたいと思いました。
 本書は、後半になると、さまざまなデータ(数値や表など)が出てきて、けっこうおもしろいのですが、素直に読み始めると、前半くらいで挫折してしまうかもしれません。
 また、1冊読んでみても、ヘッジファンドについて理解が深まったとは思えませんでした。


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2008年12月18日

松下文洋(2005.5)『道路の経済学』(講談社現代新書)講談社

 乙が読んだ本です。
 全体におもしろい本でした。
 第1章「なぜ日本の高速道路は有料で世界一高いのか?」で、日本の道路行政の問題点を暴き出します。
 第2章「アクアライン通行料は 800 円でよい」では、今の高い通行料に対して驚きの値下げをしようということです。ここを読むと、単なるホラ話とは思えません。実行可能であり、みんなが幸せになる方法であるように思えてきます。
 第3章「「経済性」をどう評価するか」では、経済効果をきちんと数字化する方法論を述べています。今の日本のお役人と政治家に欠けているのはこういう考え方でしょう。
 第4章「環境への影響をどう評価するか」では、渋滞がもたらす経済損失などを論じます。しかし、環境問題は本書を貫く姿勢とはちと違うかもしれません。
 第5章「持続可能な成長と交通政策の転換」では、日本の都市・交通政策を変えて、総合的に都市交通を分析しようとします。もっともです。しかし、日本の政治・行政のあり方がこれを不可能にしています。
 第6章「本当の民営化とは」では、イギリスの例を示して、あるべき民営化の姿を示します。
 本書を一読して、道路問題は、まさに日本の政治の象徴的問題であると実感しました。日本がこれからの未来に向かって発展していくためには、道路問題を初めとしてさまざまな問題を解決していかなければなりません。しかし、道路問題にしても、最初は根本的な解決を目指していたはずなのに、いつの間にか、道路公団民営化のような変な話になってしまうのです。政治が変わらないと道路行政は変わらないし、ムダな支出が継続すれば日本は沈むだけです。自民党のやり方では、日本はやっていけないと思うのですが、選挙で自民党議員が選ばれ続ける限り、日本としての基本的なしくみを変えることはできません。
 乙は、本書を日本社会に対する警鐘として受け止めました。


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2008年12月16日

中原圭介(2008.7)『サブプライム後の新資産運用』フォレスト出版

 乙が読んだ本です。「10年後に幸せになる新金融リテラシーの実践」という副題が付いています。
 奥付のところの著者プロフィールによれば、中原氏はファイナンシャルプランナー(兼エコノミスト)だそうです。
 乙は半分ほど読みましたが、とても最後まで読む気力が起きませんでした。
 以下、問題点を中心に、乙の感想を書いておきます。
 p.1 「はじめに」の書き出しからびっくりしてしまいました。「私はよく経済学部出身と勘違いされているようで、実は文学部で歴史学を専攻していたとお話しすると驚かれます。しかし、経済予測やその他の分野での予測がよく当たるのは、歴史学的なアプローチから予測を試みているからだと確信しています。」中原氏の議論は間違いです。もし、中原氏が正しいというなら、各証券会社などは歴史学を専攻していた人を大量に採用するでしょう。現実はそうなっていません。こんなことを最初に書くというだけで、本書を読む気はだいぶそがれます。
 p.2 ll.1-2 「世界的に株式市場が下落基調となり、投資資金が商品市場に流れ込み、原油や金は市場最高値を更新して、その勢いはしばらく止まりそうにありません。」原油価格はその後どうなっているでしょうか。
http://www.kakimi.co.jp/4kaku/4genyu.htm
にあるように、2008年7月に最高価格 147 ドル/バレルを記録した後、大幅に下げ、現在は 40 ドル前後です。中原氏の予測は完全に外れています。(本書は 2008.7.26 発行です。)
 p.2 「金融工学は、実践的には役に立たない」という驚きの主張です。こんなことを主張する人はきわめて珍しいでしょう。では、本当に金融工学は役に立たないか。p.126 で、外貨預金と国内株式の組み合わせ比率によって、リスクとリターンがどうなるか(U字形になる)を示した図が出てきます。これはまさに金融工学の成果の一つです。
 p.3 歴史学、哲学、心理学を学べと述べた後、次のように述べます。「これらの3つの学問で身につけた能力が融合したときに、経済・市場の予測はもちろん、私たちを取り巻くありとあらゆる社会的事象を精緻に分析・予測することができるようになる可能性が高まるのです。
 私たちが生きる世界には、確実なことはほとんどなく、どう転ぶか分からないことのほうが多くを占めています。」途中で段落が変わっていますが、中原氏は前半と後半が矛盾していることに気が付いていないようです。後半のように、世の中に確実なことがほとんどないならば、何をどう学ぼうと、それによって各種の予測ができるようにはならないのです。逆に、これら3つの学問を身につけることであらゆる予測の精度が高くなるならば、どう転ぶか分からないことはぐっと減ってくるはずです。
 p.22 「「リスクのコントロール」とは?」という節です。こういう題名が付いている以上は、その節の中に解答があることを期待したいところですが、p.24 まで読んでも、「リスクのコントロール」(あるいは「リスクをコントロールすること」)が具体的にどのようにすることなのか、まったく説明がありません。p.24 には「コントロール」という用語が5回も使われるのです。使う前に、リスクのコントロールとは何か、明示してほしいものです。
 p.37 では、国際分散投資の問題点として、世界同時株安などがここ数年見られるようになったとして、分散投資しても値動きが連動しているからよくないとしています。これは雑な議論です。(数十年以上の?)長期にわたって観察されたデータに基づいて国際分散投資がいわれているわけですから、ここ数年のデータを示して、以前とは違っているという主張は成り立ちません。世界の株価は相互に連動するときもあるし、連動しないときもある。それが相関が低いということの意味です。今の傾向は、たまたま連動しているだけだと考えることもできます。
 p.41「金融商品を8つも持っていると、実質、個人では管理することができなくなると思います。」え? たった8つで管理できなくなるのですか。乙は 100 種類くらいの金融商品を保有していますが、
2007.11.23 http://otsu.seesaa.net/article/68476443.html
特に多いとも思いません。8つくらいで「多い」と聞くと驚いてしまいます。
 p.42 個人投資家は、国際分散投資のために、バランスファンドを買って、そのまま漫然と放置しているケースが多いとしています。そして、投資家はそういう投資信託の価格が大きく値下がりして心配しているというのです。乙は、バランスファンドの放置もいいのではないかと思っています。値下がりしても、心配する必要はありません。「放置」なのですから、心配してもしかたがありません。ずっと放置してきたし、これからも放置しておけばいいのです。それを心配するから投資方針が定まらなくなるのです。中原氏のように、8つの金融商品が多いと考え、p.43 のように3〜4つに絞るというのは、集中投資になっているようなものです。これはリスクが高くなる投資方法です。
 p.44 l.3 中原氏は自分自身を「異端なFP」と呼んでいます。当然でしょう。普通に考える投資の常識とまったく違った考えをお持ちなのですから。
 p.58「このような過去4〜5年間で、「国際分散投資による長期資産運用」が成功することは当たり前のことだったのです。」と書いてありますが、長期投資というのは4〜5年の投資のことではありません。4〜5年の傾向で長期運用を目指しているのではなく、10年から20年、できたら30年でも40年でも時間をかけたいというのが長期投資です。中原氏の視点はかなりずれているようです。
 p.58「世界の株価指数が最も上昇した4〜5年間、すなわち、最も都合の良いデータで検証が行われ、この運用方法は個人投資家の取るべき運用スタンスの基本とされるようになったのです。」ここは中原氏の勉強不足です。国際分散投資による長期資産運用というのは、そんなものではありません。ただし、株価については相当な長期データが残されているので、いいのですが、それ以外の金融商品については、各種データが長期的にきちんと揃っているわけではありません。しかし、4〜5年の傾向というのはあんまりな言い方です。
 p.65 株価の上昇と債券の金利上昇が同時に起こることが多く、また下落するときは両方とも下落すると述べています。しかし、債券の金利の上下が問題ではなく、債券価格が問題なのではないでしょうか。債券は、金利が上昇すると価格が下落し、金利が下降すると価格が上昇します。したがって、株価の上下と債券価格の上下は逆になることが多いといわれています。中原氏の議論は、債券の金利の上下と債券価格の上下を混同しているように読めます。(ここは乙の読み違いかもしれませんが。)

 全 269 ページの本ですが、乙は読み通せませんでした。あまりに多くの問題点があると思ったからです。本書はオススメできません。
 ゆうきさんも本書は「オススメできない」としています。
http://fund.jugem.jp/?eid=888
 中原圭介氏はブログ
http://blog.livedoor.jp/asset_station/
をお持ちです。乙は以前から RSS に登録していたのですが、この際、RSS から削除することにしました。


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2008年12月14日

本田健(2008.4)『普通の人がこうして億万長者になった 』講談社+α文庫

 乙が読んだ本です。「一代で富を築いた人々の人生の知恵」という副題が付いています。
 単行本は、2004.2 に刊行されています。乙は、こちらを読んだわけではありませんが、たぶん内容は同一でしょう。
 この本の存在は
2008.11.9 http://otsu.seesaa.net/article/109300763.html
のコメント欄で OutstandingMan さんから教えていただきました。
 とてもおもしろい本でした。
 本書は、p.8 に明示してあるように、2002 年度に1000万円以上の税金を納めた人たち 12,000 人を対象にしてアンケート調査を行った結果が書いてあります。単年度の税金が基準ですから、土地を売ったような一時的な高所得者も含まれている可能性がありますが、大部分は、継続的な高所得者でしょう。
 回収数は、p.10 にあるように、約1000人ということですから、回収率は 8% にすぎません。この数字は、橘木俊詔,森剛志『日本のお金持ち研究』
2008.11.24 http://otsu.seesaa.net/article/110062347.html
と奇妙に符合しますが、もう少し回収率が高くないと、日本の高所得者を代表する集団にはなりにくいと思われます。(もちろん、データがないよりは、あるほうが望ましいのですが。)
 p.10 には、億万長者と比較するために、一般人に対しても調査しています。これは結果的に大正解で、あちこちの記述で、億万長者と一般人の違いがはっきり出ており、とても興味深いものになっています。
 p.35 では、日本の億万長者には六つのタイプがあるとしています。ビジネスオーナー 27%、専門家 24%、会社役員 24%、相続 18%、不動産 2%、アーティスト、スポーツ選手など 1%、その他 4% です。それぞれで相当に性質が違い、また考え方などが違っています。全体を分析するときは、それらの混合体のような集団になるので、要注意です。
 p.53 から、アンケート調査から見た億万長者の人生の特徴を10個挙げています。そして、それぞれについて1章を割いて記述するというスタイルです。このような書き方は本書を全体としてまとまりのあるものにしており、わかりやすさにつながっていると思います。
 pp.76-77 は、一般人と億万長者でかなり大きな差を見せるところです。「成功するために大切だと思う要素」が違っているのです。乙は非常に興味深く思いました。誠実で健康で、人よりも勤勉に働くというような億万長者の特徴が示されます。
 その他、本書にはおもしろい記述がたくさんあります。p.175 億万長者は子供にはお金を残さず、知恵を残す。p.187 億万長者は長期投資志向である。これらは、乙が感心したことの例です。
 読んでためになる本でした。


ラベル:本田健 億万長者
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2008年12月10日

NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班 (編) (2008.7)『ワーキングプア解決への道』ポプラ社

 乙が読んだ本です。『ワーキングプア―日本を蝕む病』
2008.11.20 http://otsu.seesaa.net/article/109923545.html
の続編です。
 ワーキングプアの実態を知らせるだけでなく、解決への道を模索しようとしています。
 では、その答えは本書にあるか。残念ながら、解決への道が示されているとはいえないと思います。ワーキングプアの出現は、グローバル経済の進展など、世界経済の大きな流れの中で起こってきたものであり、簡単に解決できるようなものではないと思います。世界各国の取り組みなどを見ながら、日本ではどうしたいいのか、考えてみたいものです。
 T「“非正規大国”〜韓国」では、韓国のワーキングプアを描きます。韓国は非正規雇用者が全労働者の半分以上もいるというのです。日本以上にすさまじい実態があります。p.58 では、韓国が日本の未来像だとしています。確かに、今のままでは日本も非正規雇用の大国にならざるを得ないように思います。
 U「“ワーキングプア先進国”〜アメリカ」では、アメリカのワーキングプアを描きます。ここもまたすごいところです。堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』
2008.10.18 http://otsu.seesaa.net/article/108249848.html
を彷彿とさせます。pp.87-88 では、アメリカの最低賃金が州ごとに違っている現状を述べ、「リビングウェイジ運動」ということで、地方自治体関連の仕事については、最低限度の生活ができる賃金を保障しようという運動があることを述べています。簡単にいえば、最低賃金を引き上げようということです。しかし、これでワーキングプア問題が解決できるかといえば、乙は否定的に見ます。最低賃金を高く設定しようとしても、結果的に、発展途上国への仕事の外注化が進むだけではないでしょうか。本当にアメリカの中でしかできない仕事は、外国に持っていけないでしょうが、それでも、外国からの移民があり、彼らが低賃金でも働こうとする限り、低賃金競争はなくならないように思えます。
 V「貧困の連鎖を防げ〜イギリス」では、イギリスのワーキングプア対策が語られます。pp.113-119 あたりでは、若者 420 万人のデータベースを作って、個々人を徹底的にフォローしようとしている話が出てきます。イギリスでは、役所の人間が若者のいるところへ出かけていって(アウトリーチというそうです)、声かけし、各種相談に乗り、めんどうを見ていこうとしています。
 p.120 では、イギリスの「社会的企業」の話があります。社会に役立つ事業をしながら、若者の職業訓練をしているそうで、これまた興味深い例でした。p.124 のように、職業訓練は、日本のように学校で行うのではなく、企業で行い、就職と直結させているとのことです。しかも、p.127 にあるように、職業訓練中にも「賃金」が出るのだそうです。新鮮な見方でした。
 p.130 では、シングルマザー対策として、育児支援と就労支援が行われています。子供たちが無償で保育が受けられるとは驚きです。p.133 では、「チャイルドトラストファンド」の説明があります。生まれたときに、国から6万円ほどが振り込まれた口座がもらえるのだそうです。低所得の家庭に対しては、7歳になるとさらに6万円が増資されるとのことです。そして、このファンドは、子供が18歳になるまで引き出せないというしくみです。そこで、もらった時点では大した金額でなくても、18歳になったころには100万円を越える金額を手にすることができるというわけです。もっとも、年10%の運用ができたとしても、6万円+6万円が原資では、18歳で50万円くらいにしかならないのですが、……。ここは何か勘違いがあるのかもしれません。
 このように、イギリスのやり方は驚きです。ここまで積極的にやるという判断が素晴らしいと思います。日本と比べると雲泥の差であり、参考になるように思いました。
 W以降は日本の話ですが、最初にも書いたように、なかなか解決の道が遠いので、読んでいても暗澹たる気持ちになる面がありました。
 投資の話とはだいぶ違う話ですが、こういうワーキングプアの人たちも、我々の仲間ですから、幸せになってほしいと思います。そのような道が、結局はワーキングプアでない人も幸せにしてくれるのではないでしょうか。
 乙は、ワーキングプア問題をどうしたらいいか、何ともわかりません。投資は生活であり人生であると思っています。その意味で、ワーキングプアにも興味と関心を持ち続けたいと思います。


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2008年12月06日

ピーター・W・バーンスタイン,アナリン・スワン(2008.8)『ビリオネア生活白書』早川書房

 乙が読んだ本です。「超富豪たちはどう稼ぎ、どう使っているのか」という副題がついています。
 とはいうものの、実は初めから半分ほどを読んだだけです。途中で読む気をなくしてしまいました。
 480ページほどの活字がビッシリ詰まった本です。読むだけでも時間がかかります。
 本書では、Forbes 400 を扱います。アメリカの雑誌「フォーブス」が 1982 年以来、資産家トップ 400 人のリストを掲載しているのですが、そのリストに掲載された大富豪が Forbes 400 です。そういう人はどんな人たちなのかを記述しています。
 本書中には、Forbes 400 に基づいた大富豪たちの成功の過程、生活のしかたなどが描かれています。図表もたくさんあって、興味深いものがあります。
 では、乙はなぜこの本をおもしろいと思わなかったのか。
 大富豪たちを概観して、図表に基づいて「これこれの人が多い」というような形で記述してあれば、記述量はずっと少なくて済みますし、わかりやすかったはずです。しかし、そうはなりませんでした。大富豪たちは個性豊かで、さまざまな経歴を持ち、考え方もまちまち、富の源泉も違っています。したがって、安易に一括りにして「大富豪は○○だ」といえないのです。そのために、本書の記述は、固有名詞を挙げながら、この人の場合がどうだったか、どのような人生をたどってきたか、細かい具体的な記述が続きます。そういうスタイルしか取れなかったのでしょうが、そういう記述を延々と読まされると、飽きてきます。
 もちろん、アメリカの本ですから、登場するのはアメリカ人です。乙が名前を聞いたことないような人もたくさんいます。こういう話は、アメリカ人の常識であっても、日本人にはそうではありません。そういう人について延々語られても、どうにも興味がわかなかった(興味が持続できなかった)ということです。
 これだけのことを調べて本書をまとめたということは、著者の大変な努力のたまものだったでしょう。どんな調査を行ったのか、考えてみると、とても自分ではできないように思います。しかし、そのことと、最終的にできあがった本がおもしろいかということは別です。
 p.124 で、ウォルマートが低賃金であること、労働組合がないことなどが語られます。p.126 では、ナイキの奴隷的低賃金が出てきます。経営者として考えると、そんなやり方もあるのかと思いました。そういう個々の記述は興味深いものがあるのですが、全体を概観する視点のようなものは、残念ながらうまく読み取れませんでした。
 乙は、張志雄・高田雄巳『中国株式市場の真実』
2008.5.15 http://otsu.seesaa.net/article/96756811.html
を連想してしまいました。固有名詞がバンバン出てきて、事細かに何が起きたかを語っていく態度は両方に相通じるところがあります。しかし、読み通すのはなかなか困難です。
 張志雄・高田雄巳『中国株式市場の真実』は、自分で買ったので、長期にわたって少しずつ読み進めるようなこともできたのですが、本書は、図書館で借りて読もうとしたので、貸出期限があります。その期限内に読み終えることが苦痛に感じられたということです。
 本を読むのは、楽しいからであって、苦痛を感じながら読み進めるのは邪道だと思います。そんなことを考えて、乙は途中で読むのを放棄しました。というわけで、今回の記事は本書の全体を伝えるものではありませんので、ご注意ください。


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2008年11月29日

山田昌弘・白河桃子(2008.3)『「婚活」時代』(ディスカヴァー携書)ディスカヴァー・トゥエンティワン

 乙が読んだ本です。
 投資に関係するかと言われれば、若干違うような気もします。しかし、投資は人生の生き方であるとすると、結婚活動(婚活)も大事な一歩であると思います。乙は既婚者なので、婚活は不要ですが、身近に未婚者がいたりしますから、こういう本も読んでおいて損はありません。
 本書は2人の共著で、各章ごとに執筆者が変わっていますから、半々の割合で関わっているように見えますが、実は、白河氏の書いている部分のほうがかなり多めになっています。山田氏は学者ですが、白河氏はジャーナリストで、それぞれが書いた部分は、ずいぶんと違った書き方です。(乙は山田氏の書いている部分のほうが好きです。)
 p.18 「就職にしろ結婚にしろ、自由化が起これば思い通りにはならなくなる」とあります。とても不思議な感覚でした。結婚における「自由化」とは、結婚年齢がばらついていることを意味しています。以前は自由ではなかった(それなりの年になったら結婚するものだという社会的圧力があった)というわけです。
 このため、p.19 でいうように「婚活」なしでは結婚できない時代になっているというわけです。このことは、p.193(あとがき)でも触れられます。今はそういう時代なのですね。
 p.27 では、丸の内OLについてですが、「年収2倍の法則」というのがあるそうです。丸の内のOLは、結婚相手に自分の年収の2倍の年収を望んでいるのだそうです。万が一、自分が働けなくなっても、2人が生きていくためには、自分の年収の2倍があればいいというわけです。まあ、それはそうですが、(男性の)実態と比較すれば、けっこうな高望みといえるでしょう。
 p.46 では、1980年代までの職場結婚を描いています。総合職の男性と一般職の女性が出会う場として、企業がセッティングする集団見合いの場のようなものだったとしています。乙は「そうだったのか」という気がしました。自分の回りを見渡すと、確かにそういう人も多かったように思います。当時、企業の人事担当者は、女性を採用するとき、数歳年上の男性社員の妻にふさわしいかどうかで採用の可否を決めていた面があったのですね。
 p.108 では、山田氏の記述で「実は、男性というのは、女性が考えているほど、女性を美人度で選んでいるわけではないのです。」という記述があります。一方、pp.74-75 では、白河氏の記述で、お見合いパーティーでの申込みを見ると、男性は若くてきれいな女性に集中的に申し込んでいるとのことです。著者2人の観察は、かなりずれているようです。あえて意見を統一する必要はありませんが、できたら、このあたりを調整して、適切な記述になっていてほしかったところです。
 p.162 では、男性に「流される勇気」がほしいとあります。女の人が迫ってきたら、そのまま流されてもいいというわけで、まあこれも真実の一端かもしれません。おもしろい考え方でした。
 乙が読んでいて、ちょっと意味がわからなかったのは、p.25 でした。2000年と2005年の国勢調査を比べているところですが、「30代前半だった女性たちは30代後半になっていて、未婚率は 26.6→18.6(%)。7割の人が未婚のまま30代後半へ。」とあります。ここの「7割」という数字は違っているのではないでしょうか。2割が正しいのでしょうか。あるいは、30代前半で未婚だった人(26.6%)の7割が30代後半でも未婚だったと読むべきでしょうか。18.6/26.6=0.699 です。比率と比率を比べて比率で示すというのはわかりにくいと思います。
 新書サイズなので、手軽に読み切れます。今の日本社会の一面が書かれており、大変おもしろく読むことができました。


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2008年11月24日

橘木俊詔,森剛志(2005.3)『日本のお金持ち研究』日本経済新聞社

 乙が読んだ本です。
 『となりの億万長者』
2008.11.9 http://otsu.seesaa.net/article/109300763.html
を読んだとき、これがアメリカの億万長者を対象にした本だったので、日本のお金持ちを対象にした研究はないかと思っていたところ、ブログの読者の人から教えてもらった本です。
 この本は、日本の高額納税者を対象にしてアンケート調査を行った結果を載せています。ここでいう高額納税者とは、p.4 に定義されていますが、国税庁『全国高額納税者名簿』に記載されている年間納税額 3000 万円以上(年収約1億円以上)のうち、2年間にわたって名簿に載った人です。約 6000 人いたそうです。アンケートの回収率は p.5 にあるように、8%(回答者数 465 人)ですから、この種の調査としてはかなり低いほうだと思います。通信調査では、20% くらいの回収率が普通ではないでしょうか。ということは、回答者は、かなり偏っていると思われます。つまり、自分の資産総額をはじめ、ライフスタイルなどを外に知られてもいいと考えた一部の人(積極派とでもいえましょうか)の回答ということになります。
 さて、本書の記述は『となりの億万長者』とはだいぶ違います。たとえば、p.9 では、金持ちとは企業家と医師だとしています。p.20 では、お金持ちの住んでいるところを調べていますが、高級住宅地ということになっています。p.166 では、乗っているクルマについて調査していますが、セルシオやベンツが多いということです。なぜこんなに違うのか、初めは「日米の違いか?」などと思ったのですが、後から考えてみると、対象者がずれていることに気が付きました。本書では、「お金持ち」とは年収1億円が2年にわたって続いている人です。このくらいの収入が継続的にあるならば、資産総額は5億円以上あるのではないでしょうか。『となりの億万長者』では、資産1億円以上の人々を調査しています。つまり、アメリカのほうが「億万長者」と呼ぶ基準がやや低いのです。だから、安い中古車を乗り回し、高級住宅地でないところに住んでいる人が多いという結果になったのではないでしょうか。いわば「プチ金持ち」です。本書では、それよりもずっと高所得の人を調査しているわけで、同じ視線で比較してはいけないと思います。やはり、同じ著者(たち)が国際比較を視野に入れて同じ基準で調査しないと、比べられるようなものはできないということでしょう。
 第1章は医師を、第2章は弁護士を、第3章は経営者を取り上げ、その現状を記述しています。第4章は「日本の上流階級」で、歴史的な経緯なども述べています。乙は、この本がアンケート調査に基づいて書かれた本だと思っていましたので、このあたりの記述には違和感がありました。アンケートの話がほとんど出てこないのです。アンケートの話は、第5章以降の後半にたっぷりと出てきますが、初めはまるでだまされたかのように感じてしまいました。
 乙がおもしろく読んだところとしては、第3章(p.70)で、戦前の経営者像を学歴などと絡めて描いたところです。日本のあり方を形作ってきた人々ですから、ちょうど、日本史の本を読んでいるような気がしました。
 また、後半部は、アンケートの結果に基づいて書かれており、こちらにはいろいろおもしろい記述がありました。
 p.159 では、「長期休暇の活動」を尋ねていますが、若い人は「旅行」、高齢者は「仕事」です。p.162 お金持ちが望む「将来の活動」でも、年齢差が大きく、若い人は「旅行」なのですが、高齢になると「社会活動」を挙げる人が多いというのはおもしろいです。「仕事」といっても、お金持ちの場合は単純な労働ではありませんから、普通の人の考える「仕事」とは内容が違うとは思いますが、興味深い結果です。
 p.178 から、所得税の累進度を高くする(高所得者を高税率にする)と、高所得者の労働供給と貯蓄意欲にマイナスとなるかを議論しています。アメリカの研究では、マイナスとならない(無関係)という話ですが、日本ではデータがないというのです。こんなところに日本の弱点が隠されていたのですね。大事な研究なのに、抜け落ちているわけです。
 小さな欠点ですが、p.209 の表 7-7 のタイトルに「消費税」が入っていないのは問題です。本文を読めば誤読はしないのですが、……。
 第8章「結論」は、内容の要約になっています。時間がない人は、ここだけサッと読んで、おもしろいと思ったところには、くわしい記述にあたってみるという読み方でもいいだろうと思います。
 本書は、お金持ちがどんなことを考えているのかを十分記述しています。乙には縁遠い世界ですが、お金持ちは日本の行く末に有形無形の影響を及ぼしますから、日本の今後を考える上で、一つの視点を提供してくれる本だと思いました。良書です。奥付のところの紹介によれば、著者2人とも研究者ですが、いかにも研究者らしい書き方です。
 乙が読んだのは、図書館で借りたハードカバーでしたが、今は文庫版で出ているとのことなので、手軽に読めそうです。


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2008年11月22日

三橋貴明(2008.5)『本当にヤバイ! 中国経済』彩図社

 乙が読んだ本です。「バブル崩壊の先に潜む双頭の蛇」という副題が付いています。
 前著『本当はヤバイ! 韓国経済』
2008.11.14 http://otsu.seesaa.net/article/109644338.html
に続く第2弾ということで、期待して読みました。しかし、今回は、韓国のときとちがって空回りしている感じがしました。
 著者の三橋氏は、中小企業診断士であり、各種の数表を読み解きながら、企業を診断します。その手法を国に適用したのが前著『本当はヤバイ! 韓国経済』というわけです。
 では、今回、中国について同様の考え方が述べられているでしょうか。否です。第1章「中国の最悪の輸出品」で述べられますが、中国の発表する統計数値はまったく信用できないとのことです。三橋氏は、いろいろな数値が捏造されていると述べています。ということになると、中国の経済がどうなっているか、数字に頼った分析ができなくなるわけで、中国の発表するものが何から何まで信用できないとすると、経済の診断のしようがありません。
 むしろ、中国の状況について、数字を出しながら書けば書くほど、「その数字はどこから得たのか、信頼できるのか」と疑問が膨らんでくることになります。数字を出さないとなると、マクロな記述はどうしてもうまくできません。
 そんなわけで、本書は、中国そのものについて記述している部分ももちろんありますが、題名の割には、アメリカやヨーロッパなどの話がかなりたくさん出てきます。中国の貿易の相手として欧米が重要であることはその通りですが、このような態度では、中国経済の分析として、いかがなものでしょうか。
 中国の統計があてにならないということで、外部の統計から中国の経済を描こうとする趣旨は理解しますが、……。
 結果的に、本書は、前著『本当はヤバイ! 韓国経済』と比べて、迫力不足のように感じました。
 本書のいうように、中国経済が危ないとしたら、どんなところが危ないか。これについては、pp.135-136 の2ページだけを読めば結論がわかります。6点の個条書きでまとめてあります。
 乙は、中国経済がヤバイのではなく、「ヤバイかどうかわからない、世の中の人が思っているよりはヤバイかもしれない」くらいに考えていればいいのではないかと思いました。
 なお、p.112 に出てくる国際収支の6段階という考え方はおもしろかったです。三橋氏のオリジナルではなく、他の人が言っているもののようですが、……。
 第1段階第2段階第3段階第4段階第5段階第6段階

未成熟な
債務国

成熟した
債務国
債務
返済国
未成熟の
債権国
成熟した
債権国
債権取り
崩し国
経常収支
赤字
赤字
黒字
巨額黒字
黒字
赤字
貿易収支
赤字
黒字
巨額黒字
黒字
赤字
赤字
所得収支
赤字
赤字
赤字
黒字
巨額黒字
黒字
資本収支
黒字
黒字
赤字
巨額赤字
赤字
黒字

 このうち、日本は第4段階だそうですが、中国は「どこにも当てはまらない」とのことです。これだけでも「変な国」ということになりそうです。


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2008年11月20日

NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班(編)(2007.6)『ワーキングプア―日本を蝕む病』ポプラ社

 乙が読んだ本です。NHKが放送した二つの番組
2006.7.23「ワーキングプア〜働いても働いても豊かになれない〜」
2006.12.10「ワーキングプアU〜努力すれば抜け出せますか〜」
の内容をまとめて、本の形で読めるようにしたものです。
 ワーキングプアの実例を取り上げ、どんな生活をしているのか、具体的に記述します。テレビ局ですから、「絵」が必要なわけで、「こんなふうに撮影したのだろうな」と思わせるような記述がしばしば見られます。
 本書の結論(そもそもテレビ番組ですから、結論はないのかもしれませんが)は p.9 に書いてあります。
 『ワーキングプア』で取材させていただいた人々から教えられたのは、「仕事」「労働」は人間の尊厳、誇りであり、その「誇り」はきちんと守られなければならない、ということであった。

 本書は、テレビ番組がもとになっていますので、徹底的に「取材」で構成されています。登場人物はすべて「仮名」ですが、その人たちの置かれた状況を余すところなく伝えているといっていいでしょう。
 具体例を見ていくと、一体どうしたらいいのか、誰も答えが出せないような、そんなケースにたくさんぶつかります。もちろん、こんな本1冊でワーキングプアの解決策などが書かれるはずはありません。それにしても、大変な日常生活を送っている人がたくさんいるという現実に、打ちのめされたような気分になります。リアルであるだけにインパクトが大きいといえるでしょう。
 統計資料などを使った本などと比べると、描かれている人たちが現に生きて生活している人であるという、ドキュメンタリー番組特有の臨場感があります。
 乙が一番驚いたのはX「グローバル化の波にさらわれる中小企業」でした。国内の話ですが、中国人の研修生・実習生を安い給料で使って行かざるを得ない中小企業の姿が描かれます。しかし、一方では、そのようにして生産された製品の価格は当然低くなるわけで、他の製造者には、納入価格の下落という形で影響を与えます。こうして、食っていくことがむずかしいワーキングプアが生まれてしまうわけです。岐阜市の具体的な例が生々しく描かれますので、興味のある方は一読することをおすすめします。
 1冊読み終えて、日本の政治がどこかで間違っているように思えてきました。弱者を置いてきぼりにしているのではないでしょうか。本書に出てくる人々は、低収入でありながら、それなりに満足して生きているようです。でも、できたらもう少し給料を上げてやりたいような気になります。さもないと、あまりに生活が大変です。
 企業の経営者の立場からすれば、給料を上げるなんてもってのほか(他社との競争に負けてしまう)ということになるのでしょうけれど、……。


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2008年11月18日

澤上篤人(2008.9)『「運用立国」で日本は大繁栄する』PHPパブリッシング

 乙が読んだ本です。
 内容は、タイトルを読めばわかりそうなものです。日本を「運用立国」にしようということです。
 第1章「欧米式の金融センターは、日本になじまない」では、東京をウィンブルドンにしてはダメだと説きます。日本の金融機関は、間接金融でやってきただけなので、海外の金融機関を誘致するようなことをすれば、日本の金融機関の多数が廃業か下請けになってしまうというわけです。
 第2章「栄光の間接金融、いまや足カセ」では、国内に資本が蓄積したので、間接金融は危険だと説きます。
 第3章「日本には、リスクマネーが存在しない」では、海外のリスクマネーのあり方を述べ、そのようなものが日本にはどこにもないことを述べます。今は、金融マンがリスクを取る番なのに、そうしようとしていないというわけです。
 第4章「運用立国を目指す戦略の皮算用」では、日本が有する膨大な資金を投資に向けようと誘っています。預貯金をやめて運用に向かおうということです。
 p.106 に貯蓄率のグラフが出てきます(最近は貯蓄率が下がっています)が、ここで貯蓄率とは何かが説明されず、p.108 で説明されます。ちょっと「あれっ」です。
 p.135 では、個人マネーが投資に動いていくと、「先行した人々の成功体験が、身近なところで見えるようになってきたら、あっという間に日本中で「やはり長期投資しよう」の雪崩れ現象となるだろう。」としています。ここは乙が違和感を感じたところです。長期投資では、なかなか成功体験を持つことができません。なぜならば「長期」だからです。退職したころになって、やっと成功体験が持てるようになります。だから、身近に成功体験を持つ人がゴロゴロいるようなことにはなりません。さらに、仮に成功しても、本当の金持ちは質素に暮らすだろうと思います。この点については、『となりの億万長者』
2008.11.9 http://otsu.seesaa.net/article/109300763.html
を参照してください。したがって、ますます、成功体験は見えません。
 第5章「東京証券取引所を、世界最大の株式市場に復活させる」では、東証を長期運用の中心に据え、世界中の企業が東証に上場するような方策をとるべきだと説きます。日本の中だけで国際分散投資ができてしまうというわけです。話としてはおもしろいのですが、では、具体的にどうするか、そこがむずかしいのです。答えは第6章です。
 第6章は「個人マネーを長期の株式投資に誘導する起爆剤としては、「国民ファンド」を設定するとおもしろい」です。国民ファンドという大規模なファンドの構想を描きます。国とか、民営化前の郵便局とかの信用力の高いところが設定するものです。ただし、その運用については、自ら運用するのでなく、国内外の投信会社に公募ファンドを日本国内で設定させ、それらに資金を配分し、運用コンペを行いながら、成績のいいところに資金を多く割り当てていくという構想です。運用コンペは日本株の現物買いのみで行うのだそうです。乙は、ここにも違和感を感じました。澤上氏の流儀で、株の運用には自信があるということなんでしょうが、インデックスファンドとアクティブファンドの競争をすれば、平均的にはインデックスファンドが勝つのではないでしょうか。すると、澤上氏の構想は意味を持たなくなってしまいます。運用コンペをするよりは、全額をインデックスファンドに投資するほうがいいということになりそうですから、何も「国民ファンド」などを立ち上げなくても、今でも十分に可能になっています。ただ、個人の資金がそちらに向かわないだけです。
 第7章「世界の長期運用が下手になっている」では、長期投資が下手になったから、ヘッジファンドに逃げたりオフショア市場が発展したりしたのだと説きます。年金運用なども短視野化しているというわけです。しかし、ここがアクティブ運用の出番だとしています。
 第8章「草の根ベースで、運用立国への歩みは着々と進んでいる」で、最近日本で始まった「おらが町投信」を取り上げ、今後の投信のモデルになるとしています。
 本書がさわかみファンドの宣伝になっているわけではない点は評価したいと思います。もっと大きなスタンスで運用を考えていることが伝わってきます。
 しかし、本書は、澤上氏の持論を展開するもので、主張は書いてありますが、それを裏付けるデータが示されるわけではないので、全体に迫力(説得力)がありません。乙は、書いてあることをそのまま鵜呑みにすることはできないように感じました。268 ページもの分量があるのですから、自分の主張の裏付けになるような数字(データ)を出すようにしたほうがいいのではないでしょうか。
 1冊読んだ割には、読んだ実感が伴わない(中身が薄い)ように思いました。こんなことを申し上げては、澤上氏に申し訳ないですかね。


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2008年11月16日

山崎養世(2008.7)『次のグローバル・バブルが始まった!』朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。
 読み始めてすぐの p.2 で2008年は大不況は来ない、それどころか次のバブルが始まると予想しています。「サブプライム問題は世界不況の引き金にはならない」や「ロシアや中東産油国は、高騰する原油価格の恩恵で潤い、ブラジルの株価は、連日のように市場最高値を更新し続けています。」とも述べています。
 この本は、2008年7月の出版ですから、執筆時期はその数ヶ月前でしょう。山崎氏は、事態が自分の予想通りに推移してきたと誇らしげに語っています。
 p.4 では、デカップリング論が語られ、先進国経済が傾いても、新興国経済は好調であるとしています。
 2008 年 11 月現在では、山崎氏はこれらのことをどう思っているのでしょうか。機会があれば、直接お聞きしたいものです。一般的な認識としては、「世界同時大不況」だと思います。
 第1章は「サブプライム危機は終わった!」です。p.21 では、2008 年1月、3月に書いた自分の記事を引用し、株式市場の暴落は終わり、再び上昇するとしています。pp.26-27 では、1929 年の大恐慌に言及して、現状は大恐慌とはほど遠いとしています。
 11月現在の状況は、……多くの人は「100年に一度の危機」と感じているのではないでしょうか。
 第2章は「新しいグローバル・バブルが生まれる」です。新しいグローバル・バブルとは、p.74 によれば、ブラジルやロシアの新興国だというわけです。
 山崎氏は、経済の先行きについて、読み間違いをしていると思います。それだけ、経済予測は難しいのでしょう。7月に書かれた本を11月に読んで、ずいぶんと時代遅れのことを言っているなあと感じます。それくらいに9月から10月にかけての世界の株式市場の変化は大激変だったわけです。
 第2章では、おもしろい記述も出てきます。p.88 では、現実の円キャリー取引のようすが描かれます。乙はまったく知りませんでした。何と、円はどこにも出てこずに、すべてドルで決済してしまうのだそうです。世界中でこんな円キャリー取引が行われているのだそうです。これでは、通貨をコントロールすることなんて不可能です。
 第3章は「経済超大国となった中国が世界経済を一変させた」です。p.118 あたりで、なぜ中国が経済発展したかが語られます。アメリカの企業が中国に進出して各種生産を行いアメリカに輸出するようになっています。すると、実際に利益を得ているのはアメリカ企業ということになり、アメリカ政府や州に税金を払うことで貢献しているわけです。こうして、中国もアメリカもこれでよしと考えることになりました。アメリカにしてみれば、対日赤字と対中赤字はまったく別物ということになります。
 本書は6章までありますが、以下は省略しましょう。
 乙は、本の出版が恐ろしいと思いました。たった数ヶ月の間に経済状況が激変し、本の内容が古くなってしまうことがあるんですね。もしかしたら、著者としては大改訂したいと思うことがあるかもしれません。それでも、本は図書館に残され、執筆され出版された時の状態を未来にまで伝えてしまうのです。
 本書は、11月現在で読むと、違和感が大きい内容でした。


ラベル:山崎養世 バブル
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2008年11月14日

三橋貴明(2007.7)『本当はヤバイ! 韓国経済』彩図社

 乙が読んだ本です。「迫り来る通貨危機再来の恐怖」という副題が付いています。
 著者の三橋氏は中小企業診断士だそうで、財務諸表などから企業の現状を分析し、アドバイスをすることが仕事だそうです。その手法で韓国を見たらどうなるかを述べたのが本書です。
 本書の結論は、タイトルにあるとおり、「韓国経済はヤバイ」ということになります。
 本書を読む前に、韓国のここ10年ほどの為替レートの変動を見てみましょう。
http://www.aceconsulting.co.jp/kawasekinri2.html
経験的に1円が10ウォンくらいが多かったので、だいたい10倍のレートと見ればよかったのですが、9月から10月にかけてウォンが急落しています。10月末の時点では、100KRW が 7.70 円ということで、大きく円高ウォン安になっています。
 「韓国ウォン相場下落の構図」
http://www.jri.co.jp/RIM/2008/11korea.pdf
によれば、対ドルで見ても、ドル高ウォン安であることは明らかです。
 本書が書かれた当時(2007年春ころ?)はウォン高だったわけです。2007年7月(本書の刊行時期)がウォン高のピークで、1ドル=918ウォンでしたが、最近は1ドル=1322 ウォン
http://quote.yahoo.co.jp/m5?a=1&s=USD&t=KRW
ということで、大変なウォン安です。
 p.8 では、「ウォン高→輸出企業不振→経常収支赤字化→国内の資金不足→短期外債急増→資本収支黒字増加→ウォン高」という悪循環が書いてありますが、現在のウォン安状況でこれがどう変わったかも知りたいところです。
 しかし、本書では、ウォンが高いか安いかという問題を越えて、もっと大きな「韓国での変化の傾向」を描いています。その点で、本書の記述の大部分は、ウォン安の現在でも当てはまるように思います。
 さて、本書の内容を見ていきましょう。
 第1章「六つ子の赤字」では、韓国が経常収支赤字、財政赤字、家計の赤字、企業の赤字、中央銀行の赤字に苦しむ姿を描いています。これに資本収支の赤字が加われば(そして実際にそうなりそうですが)「六つ子の赤字」になるということになります。
 第2章「泥沼の国際収支」では、国際収支の数値がひどく、明確に近未来の破綻を示していると説きます。外貨準備高が急増しているのは、外国から短期でカネを借りているからだということになります。国際収支がなぜ赤字かといえば、それは旅行・留学・研修などのサービス収支の赤字が原因です。所得収支の赤字の原因は、上場企業の配当が大きく増加し、カネが外国人投資家に流れているのが原因です。経常移転収支の赤字は、韓国人が海外に送金しているからです。
 第3章「円キャリーの逆襲」では、円キャリー取引で新興国のバブルが起こり、その後、円キャリー取引が日銀の利上げによって終わったことで、新興国から資金が一斉に引き揚げられ、現地通貨安が起こったことを説明します。韓国のウォン安もその一環だというわけです。
 第4章「通貨危機再来の悪夢」では、韓国でも円キャリー取引が行われ、円建ての借金が増えているのだそうです。そして、そのカネが向かった先が不動産投機でした。今、円キャリー取引が終わったので、大量の円を返す必要があり、ウォン安円高が進行するとのことです。本書出版後の傾向を見事に言い当てています。ウォン安が進むと、円での借金を返せなくなり、デフォールトが起こるだろうとのことです。
 第5章「韓国輸出企業の実態」では、輸出企業が国内の価格を高くしてここで儲け、海外では価格を下げて売り上げの数量を確保する戦略をとっていることを述べています。また、韓国の人件費が高く、労働生産性が非常に低いこと、日本から工作機械や高度な部品を輸入していることを述べています。
 第6章「恐るべし全教組と平準化教育」では、韓国の大学教育が費用がかかりすぎること、学生の質が非常に低いこと、その原因は全国教職員労働組合にあるとしています。そのため、親は子供の教育を海外で行おうとして、外国への送金が増えているのだそうです。
 第7章「植民地経済大国」では、アジア通貨危機によって、金融機関と主要企業の資本を外資に握られてしまい、現在は、高配当で資本が海外に出て行ってしまっていることを説明しています。
 第8章「逆単身赴任の悲惨な現実」では、海外に子供と母親を送り出し、父親が韓国内で単身で稼いでいる状況を述べます。
 第9章「深刻な国内空洞化」では、設備投資がまともに行われておらず、産業が空洞化しつつある現状を記述します。
 第10章「KOSPI最高値の疑惑」では、株価が上昇しているように見えても、それは実は自社株買いによるものだとし、韓国人投資家も海外に投資する例が激増していると述べます。
 第11章「崩壊する韓国社会」では、韓国の不動産バブルを描き、家計の赤字(つまり借金)が膨大であることを述べます。韓国の法定利息は年利 66% だそうです。こんなに高いとは、乙は知りませんでした。これで家計が赤字ということは、借金取りに多額の利息を払わなければならないということになります。韓国は格差社会になっており、中流層が激減してしまったとのことです。
 第12章「急増する脱南者」では、人もお金も工場も、韓国を捨てて海外に脱出していると述べています。
 第13章「GDP5.0%成長の謎」は、韓国の経済統計が間違っているという話です。ただし、乙の考えでは、ここは著者の解釈が間違っています。p.226 では、四半期ごとの GDP 成長率をもとに、1年間の成長率を求め、それが年間の統計値と違っている点を述べています。しかし、四半期ごとの結果を四つまとめたのでは、3ヵ月分の統計とその1年後の3ヵ月分の統計を比べていることになり、1年分と1年分を比べる年間成長率と違ってくるのは当然です。
 第14章「報道の信頼」では、日本のメディアの問題(経済リテラシーが低い)を述べています。
 本書は、一貫して、公表されている各種の統計数値を使い、韓国の経済状況をマクロに把握しようとしています。また、韓国の新聞記事を引用しつつ、それがどういう意味を持っているかを読み解いていきます。第13章以外の部分は、乙は納得しながら読み進めました。
 ちょっと読みにくい部分として、これこれのことは後の第○章で述べるとする箇所が多いことがあります。問題ごとに整理して述べれば、こういう書き方は避けられると思うのですが、……。
 それと、数表も本文にそろえて縦組みになっているのは読みにくいと思います。本文が縦組みでも、表だけは横組みにしてほしかったところです。
 結論として、韓国への投資はしない方がいいということになります。
 韓国関連のいくつかの記事
2008.11.13 http://otsu.seesaa.net/article/109598118.html
と同じ結論になりました。


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2008年11月09日

トマス・J・スタンリー, ウィリアム・D・ダンコ(1997.9)『となりの億万長者』早川書房

 乙が読んだ本です。「成功を生む7つの法則」という副題が付いています。
 この本を読もうと思ったのは、中桐啓貴(2008.7)『ほったらかしでも1億円の資産を生む株式・投資信託の始め方』
2008.10.13 http://otsu.seesaa.net/article/107997562.html
を読んだとき、お金持ちは安い中古車に乗り、安いスーツを着ているという話があり、ある人が、その話の出典がこの本だと教えてくれたからでした。
 乙は一読してびっくりしました。著者たちの徹底的な調査・研究の態度に驚いたのです。p.14 には、次のようにあります。「私たちは500人以上の資産家にインタビューし、また 11,000 人以上の資産家や高額所得者にアンケート調査した。」どうですか。この本はこのような膨大な調査・研究に基づいて書かれているのです。これに匹敵するような日本の資産家研究があるのでしょうか。乙は社会学方面にはまったくうといので、わかりませんが、たぶんないのではないでしょうか。この本はすべてアメリカの話ではありますが、億万長者の考え方は世界に通じるものと思います。
 本書のイントロダクションを読み始めて、すぐに驚きのことばに出くわします。本書の最初(p.9 ですが)の出だしの1段落を引用します。
 20年以上前、私たちは、人はどうやって金持ちになるのかを研究しはじめた。最初、私たちは、誰もが考えるように、いわゆる高級住宅地に住む人々を対象に調査を行なった。だが、そのうちどうも奇妙なことに気づいた。豪華な屋敷に住み、高級車に乗っている人たちは、実際にはあまり資産を持っていないのだ。そしてもっと奇妙なことに気づいた。大きな資産を持つ人々は、そもそも高級住宅地に住んでいないのだ。
 こうして本書が始まります。最初の1段落だけでも頭をガーンと殴られた気分です。これだけで「お金持ち」のイメージが変わってしまいます。
 p.26 では、金持ちの多くが1代で財産を築いていることを述べます。相続などではないのです。むしろ、金持ちの2〜3世は、必ずしも金持ちにならないのです。
 p.38 から、本書の最大のテーマが語られます。「倹約」が大事だということです。お金持ちは、収入よりはるかに低い支出で生活するのです。そのようにできる人が結果的に金持ちになるのです。
 p.128 金持ちの多くが株を持っています。しかし、売り買いはほとんどせずに、じっと持っているだけです。これも興味深い結果でした。
 p.181 親が子供に経済的援助を与えれば与えるほど、子供は資産を蓄えなくなるというのです。これもとてもおもしろい研究でした。
 p.292 お金持ちは、子供に会社を継がせず、むしろ専門職にさせようとするのだそうです。医者や弁護士や会計士などだそうです。
 乙は、億万長者ではありませんが、退職後は、それに近い状態になるように思います。そのとき、どのように振る舞うべきか、考えさせられます。自分の子供にどう接するべきかもとても大事な問題です。
 本書を通読してみて、乙の金持ちのイメージはすっかり変わってしまいました。何か、人生について大きな「学び」をした気分です。本書は、323 ページにわたって、比較的小さな活字でびっしり書いてあるのですが、「お金」から見た人生論が描かれています。読んでおいて損はない本です。出版年はやや古いですから、数字などは今のものに置き換えて理解する必要があるでしょうが、原則は変わらないものと思います。
 できれば、誰かが日本の富裕層に関する調査・研究をしてくれれば、それと本書の結果を比べることができるのですが、……。乙が知らないだけで、実は研究が行われているのでしょうか。


ラベル:億万長者 金持ち
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2008年11月03日

北村慶(2008.9)『ほぼ確実に世界の経済成長があなたの財産に変わる最も賢いETF海外投資法』朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。ずいぶん長いタイトルの本です。
 内容は、インデックス投資のすすめであり、ETF を使ってどのように行うかを具体的に説いています。
 まともな本ですが、しかし、目新しさも少ないように感じました。オーソドックスな本となると、どうしてもこんな感じになってしまうのでしょう。
 p.262 からの「おわりに」になって、時価総額に比例するのでないインデックス「ファンダメンタル・インデックス」の紹介があり、この考え方はおもしろいと思いました。今後はこういうインデックスに従う ETF なども登場してくるのでしょうね。
 p.78 から、BRICs 投資に対する北村氏の考え方が書いてあります。証券会社などは、先回りして自己ポジションで株を買っておき、それを投資家に推奨することがあるそうです。これを「フロント・ランニング」というわけですが、BRICs はその例ではないかというのです。そうかもしれません。BRICs の最近の極端な株安を見ていると、さもありなんと思えてきます。
 p.80 には、もしも、本当に数年後に伸びている国がどこか、わかるならば、その人や証券会社にとって最も合理的な行動は、その「秘密」を誰にもいわないことだとあります。そうしておいて、安値でたっぷり仕込んでから、「これからは○○○が儲かる!」といって価格を上昇させるというわけです。ポジション・トークですね。
 こんなことから、今後上昇しそうな国や銘柄などをあてるアプローチは間違っていると主張します。この考え方は納得できます。
 以下、乙が気になったことをいくつか書きます。
 p.20 図表4では、原点と「先進国と日本の間」を通る直線が引かれています。そして、新興国・発展途上国がこれよりもハイリターンであることを示しています。過去5年あるいは過去10年の話です。しかし、この図は妥当なのでしょうか。もちろん、点と点の位置関係は、MSCI 指数などで計算した結果ですから、1点に決まるといえますが、元はといえば、それぞれの指数は、さまざまな国の株価指数を平均して計算しているわけですから、元の各国別の株価指数を基準にすれば「ばらつき」があるはずです。そうすると、こんなに単純に線が引けるということにはなりません。原点を通ると仮定して最小二乗法あたりを用いて計算することになるのでしょうね。複雑になりますが、それが正しいのではないかと思います。図表4は単純化しすぎのように思います。(単純化して示す意味もわかりますが。)
 p.96 プラスからマイナスにいたる散布図が示されますが、軸のマイナス側に「-」が付いていません。まあ、なくてもわかりますけど、数学的な厳密さを欠いています。
 p.205 から、基本のポートフォリオとして3種類が示されます。ポートフォリオについては「唯一絶対の正解はない」と述べています。それは正しいのですが、こんなふうに3種類示されて、あとは皆さんのお好きなようにといわれても、普通の読者ではちょっと判断しようがないのではないでしょうか。どれでもいいということであれば、せっかくインデックス投資を説いてきたのに、最後の最後にどれでもいいとなると、急にインデックス投資の信頼性が下がるような気がします。ここは、もう少し他の書きようがあったかもしれません。
 なお、参考文献が1冊も挙げられていませんが、ぜひ何か入れておいてほしかったように思いました。


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2008年10月23日

副島隆彦(2007.9)『守り抜け個人資産』祥伝社

 乙が読んだ本です。「国の金融管理が強まった」という副題が付いています。
 1年以上前に出た本ですが、帯には「世界は金融恐慌に雪崩れ込む! ドル安と株安、「暴落の時代」にいかに資産を防衛するべきか」などと書いてあり、2008 年現在の世界を言いあてているように感じました。
 目次を以下に示しておきましょう。
1章 恐ろしい金融管理――国の「統制経済」が強まっている
2章 個人資産は「ユーロ」「人民元」「金地金(きんじがね)」に移せ
3章 「景気回復」の大嘘――タンス預金が危ない
4章 資金の一部を国外に避難させよ
5章 「ドルと円の心中」が迫っている
6章 税務署は国民からお金を召し上げればいいと信じ込んでいる
7章 かくて日本のデフレ経済は続く

 というわけで、この目次を見ていると、本書にどんな内容が書かれているか、だいたい推定できます。
 以下では、乙が変だと思ったところを中心にいくつかコメントします。
 p.16 法 law のところに「ラー」とルビを振ってあります。p.17, p.39(2箇所), p.100 など、何ヵ所にも「ラー」という表記が出てきますから、これはミスプリではありません。副島氏は法科大学院のロースクールもラースクールと呼ぶ人なのでしょうか。ちなみに、英語では同じ母音(発音記号ではCが逆さまになった文字プラス長母音)を使っている語ですが、war(戦争)は p.46 で「ウォー」としていますし、pp.4-5 では、money laundering のことを「マネー・ローンダリング」と表記しています。
 p.33 「従来は日本の官僚組織は、4種類の官僚機構によって、「国民コード」(国民背番号)をそれぞれバラバラに管理していた。四つの官僚機構とは、まず@財務省=国税庁=税務署による個人と企業(法人)の「納税者番号制度」(納番)による管理である。」ということで始まります。p.34 ではA住民票コードに言及します。ところが、p.38 に進むと「B番目の力は経済産業省(旧通産省)が持っている、企業活動の全般に対する統制権である。」ということで、国民コードの話かと思っていたら、権力の話になります。同じ p.38 には「C番目は、法務省=裁判所=警察庁が持つ権力である。」となります。Bと同じ書き方です。国民コードの話と思っていると、いつの間にか権力の話にすり替わってしまいます。こういう書き方はわかりにくいと思います。
 p.115 「商業地に比べて減価率の低い住宅地の地価にしても、3分の1になっている。3分の1ということは、この15年の間に値段が 200% の下落をしたということだ。」とあります。3分の1になるときは、67% の下落といいます。簡単な算数です。
 p.191 中国の話ですが「女工さんでも月額で1200元(2万円)から1500元(3万円)ぐらいにまで高騰している。」とあります。為替レートをいくらに設定したのかわかりませんが、1200元と1500元では 25%増ですが、2万円と3万円では 50%増ですから、どうやっても話が合いません。
 これらのことを考慮すると、乙は著者の副島氏のいっていることがにわかには信じがたいように思いました。
 ちなみに、p.149 を見ると、
この本の著者である私の言うこと(書くこと)も簡単には信じてはいけないのかと問われれば、「そのとおりである」と私は答える。どんなに立派そうな素晴らしいことを書く人の考えも、すべて疑ってかからなければならない。

と書いてあります。こういうことを本に書いてはいけません。「著者を信じてはいけない」を素直に信じれば、「著者を信じてはいけない」ということばを信じてはいけなくなるわけで、矛盾しています。これは昔から知られている詭弁です。乙は、このような言葉があろうがなかろうが、間違いが多い本に書いてあることは全面的に信じないことにしています。
 ただし、pp.80-81 で、政府が発表する経済成長率の数字はウソだといっているところは、先日の日経新聞の話
2008.10.20 http://otsu.seesaa.net/article/108335372.html
と符合するので、乙は興味深く読みました。
 また、p.5 に出てくる話ですが、銀行では本人確認書類なしでは10万円以上の振込ができなくても、コンビニならばできるとのことです。このことは乙は気が付きませんでした。
 乙は、この本を他人に勧めようとは思いません。


ラベル:副島隆彦
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2008年10月21日

若林亜紀(2008.3)『公務員の異常な世界』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「給料・手当・官舎・休暇」という副題が付いています。
 公務員は、さまざまに優遇されていて、現代の貴族だと告発している本です。
 著者の若林氏も公務員を経験してきた人ですから、自分の目で直接見てきたその経験を踏まえて、おもしろく描いています。単なる告発本でなく、各種資料にもあたった上で記述していますので、好感が持てます。
 ただし、少しだけ違和感が残ります。
 そんなに公務員がよければ、みんなが公務員になりたがるものではないかと思うのですが、そうはなっていないように思います。採用試験が厳しすぎる(倍率が高すぎる)のでしょうか。そうでもないと思います。
 大学生の就職状況を見ると、公務員を目指す人は、それなりに少数派で、民間企業を目指す人のほうが圧倒的に多いと思いますが、だとすると、公務員=貴族という見方は、一面的すぎるかもしれません。本書で描かれる世界もある一方で、それだけではない面もあると思います。
 また、公務員試験ではコネやワイロで合否が決まる、などという話もあります(最近では大分県教員採用試験がそうでした。本書でも出てきます)が、すべての公務員がそうやって採用されているわけでもなく、むしろ、大部分の公務員は公平な試験を経て選抜されているのではないでしょうか。
 乙が読んでいて疑問に思った点ですが、p.213 にこんな記述があります。
 厚生労働省の調査によれば、05年、メンタルヘルス上の理由で休業した労働者がいる企業は 3.3% にすぎませんでした。ただし、従業員 100 人以上の企業では 16%、500 人以上で 66%、1000 人以上では 82% と、大企業ほど率が高くなっています。大企業ほどストレスが溜まるというより、大企業ほど制度が整って交代要員もあり、休業しやすいのだと思われます。

 これはおかしな記述です。大企業と中小企業で従業員の休職率に差がない場合でも、企業単位に集計すれば、従業員の多い会社ほど休業者がいる比率が高くなるのは当たり前です。
 仮に、休業率が 1% だとしましょう。従業員が 10 人いれば、その会社に一人でも休業者がいる確率は、1-(0.99^10)=9.56% です(ただし「^」はべき乗を表します)。同様に従業員が 100 人いれば、休業者がいる確率は、1-(0.99^100)=63.4%、1000 人では、99.996% になります。
 つまり、「休業した労働者がいる企業」を数えるのではなく、全従業員数を母数とした休業者数の比率で見なければなりません。
 誤字は、p.40 真ん中あたり 証人→承認 に気づきました。
 実は、乙もかつて公務員をしていたのです。若林氏とは職種も勤務先も勤務地も全然違うので、単純な比較はできないと思いますが、若林氏のいうところも一部は理解できます。しかし、大部分の公務員はまじめに働いていたと思います。これこれの異常な人がいる(ことがある)というのは事実ですが、その比率は思っているよりは低いのではないでしょうか。ただ、公務員の数が多いことと、特に地方公務員の実態が多様であることから、変な例を探し出せばそれなりにあるものだと思っています。
 本書は、ひとことでいえば、読んで楽しい本です。でも、これから就職を目指す大学生がこの本を読んで素直に信じてしまっては危険だと思います。


ラベル:若林亜紀 公務員
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2008年10月18日

堤未果(2008.1)『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)岩波新書

 乙が読んだ本です。
 一読して、感じました。アメリカは病んでいます。
 著者の堤氏は、東京生まれだそうですが、学士号と修士号をニューヨークで取得しているとのことですし、アメリカで仕事をしているとのことですから、英語力はネイティブ並みでしょう。アメリカの生活のすみずみまで知っているようです。そういう人が、ワーキングプアのことを書いているのですから、おもしろくないはずがありません。
 乙が初めて知ったようなことがたくさん出てきます。
 本書の記述は、とにかくきちんと数字を出すことにこだわっています。各種統計資料を参照しているのでしょう。たとえば、p.21 には、無料−割引給食プログラムに登録した生徒の数が 2005 年には全米で 3002 万人にのぼると書いてあります。3000 万人とはすごい数です。乙は自分の目を疑いました。しかし、数字で示されると納得せざるを得ません。
 第1章は、「貧困が生み出す肥満国民」ということで、一見「おや?」と思います。貧困児童には肥満が多いというのです。家が貧しいと無料配給切符(フードスタンプ)に頼るようになります。上述の無料−割引給食プログラムも似たような制度です。こうして、貧困層は安くて調理が簡単なジャンクフードやファーストフードを食べるようになり、結果的に肥満になっていくというわけです。第1章は、貧困家庭の生活の現状を描いていますから、本書中で一番ショッキングかもしれません。
 第2章は、「民営化による国内難民と自由化による経済難民」です。災害予防の仕事までもが民営化され、結果的にハリケーン・カトリーナで多数の死者を出すまでにいたったというのです。被害が大きかったニューオーリンズは、再建不能で、むしろ見捨てられているのだそうです。
 第3章は、「一度の病気で貧困層に転落する人々」です。アメリカはとてつもなく医療費が高く、また、保険会社はなるべく医療費を安く抑えようとするため、無保険者が多くなってしまいました。無保険者が 5000 万人と聞くと二の句が継げません。病院までが株式会社になっているのだそうです。アメリカでは病気になったら破産するケースも多いと聞くと、いやはや大変な国だなあと思います。少なくとも、乙は住みたくありません。
 第4章は、「出口をふさがれる若者たち」です。貧困層が経済的に困っていることを利用して、政府はそういう若者を軍隊に入れようとするようです。確かに軍隊は給料が高そうですが、もちろん命の危険性があるわけで、非常に厳しく、また残酷な話だと思いました。
 第5章は、「世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」」です。軍隊に正規に入るのではなくて、民間の会社で、軍事行動を支援したりする会社があるのですね。そういうところに「就職」すると、イラクに送られるということになります。トラックの運転手などがたくさんいるそうです。これは軍隊ではないから、命の保証もなにもありません。現代の「傭兵」がここにいます。
 本書は、そんなわけで、アメリカの知られざる一面を描いたといえます。アメリカは中間層が没落し、大きく儲ける一部階級の人々と、多数のワーキングプアに二極化しているのです。乙のブログで、先日、破綻した金融機関の経営者が多額の報酬を得ていたことを書きましたが
2008.10.10 http://otsu.seesaa.net/article/107860922.html
アメリカは、そういうことが普通にある国だと思います。
 しかし、一方では、多数の貧困層を抱えているというのも事実です。アメリカ政府としても、そういう人たちとの関係において、軍隊や病院のあり方がどうであるべきか考えておく必要があります。もしかすると、WASP は、貧困層を食い物にすればそれでいいと考えているのでしょうか。厳しい国ですが、アメリカならばそう考える人がいても不思議ではありません。
 本書は非常におもしろくて、一気に読んでしまいました。そうして乙が得た結論は「アメリカは病んでいる」ということでした。
 アメリカは、世界を牛耳るすごい超大国であるとともに、貧しい人がたくさんいる国でもあるのです。新鮮な本でした。
 本書を読み終わった後、乙は、アメリカに投資し続けていていいのかどうか、疑問に思えてきました。それくらいインパクトがある本です。新書をはるかに超えた価値があります。
 本書は投資関連ブログでも取り上げられたことがあります。

http://orfeodor.blog118.fc2.com/blog-entry-317.html
http://blog.goo.ne.jp/kitanotakeshi55/e/06cdc99fdcb581fc6eef078501707821


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2008年10月16日

沢井智裕(2008.7)『円・ドル・ユーロで1億円をつくる私の方法』成美堂出版

 乙が読んだ本です。表紙には「現役プライベートバンカーが教えるミックス資産運用」という副題が書いてあります。
 以下に章単位の目次を書いておきましょう。

 序章 投資に対する間違った思い込みを捨てよう
 第1章 投資前におさえておく18のポイント
 第2章 国内で買える海外ファンドでも「国際分散投資」は可能
 第3章 海外でしか買えない優れた「海外ファンド」
 第4章 海外投資で目指そう1億円
 第5章 海外で運用するメリット・デメリット
 第6章 資産家のための銀行「プライベートバンク」とは

 目次を見るだけでも、ある程度内容について見当がつきます。
 第2章は国内で海外ファンドを買う話で、第3〜5章では海外で海外ファンドを買おうという話になります。このあたり、著者のスタンスがはっきりしていないかのような印象を与えます。
 本書を読みながら、乙はいろいろと違和感を感じたところがあります。以下、それを書いておきましょう。
 pp.52-53 「日本の金融機関の弱みA 見劣りする「商品開発力」」という題名が付いています。ここで書かれていることは、日本の投資信託をけなしつつ、海外のヘッジファンドを評価する内容です。そして、投資信託の固定的な手数料収入ではなく、成功報酬制のほうが投資家の側に立っているので望ましいと主張しています。しかし、乙の経験では、成功報酬制はかなり報酬の比率が高く、かつ、固定的な手数料と組み合わされている場合が多いので、両者を合わせれば、結局金融機関側に相当の額を支払ってしまう形になります。
 pp.56-57 個人投資家と「その道のプロ」では、流通する情報が違うので、個人投資家は太刀打ちできない(プロの運用のほうが優れている)ということを主張しています。この話は本当に正しいのでしょうか。だとしたら、平均的にはアクティブ・ファンドがインデックス・ファンドに負けることをどう説明するのでしょうか。ヘッジファンドだって、インデックス・ファンドに勝てるとは限りません。著者はここでデータを示さずに一方的に主張しています。しかし、乙は著者の主張は疑わしいと思いました。
 p.71 投資信託と銀行の預貯金を比較し、銀行は預入金利と貸出金利の間でサヤを抜いて利益を上げているが、どのくらいの利益なのかは預金者にはわからないのに対し、投資信託は手数料を明示しているので、ずっと透明性が高い(したがって公平である)と述べています。しかし、この比較も安易です。投資信託はリスク(価格の変動)が大きいのに、預貯金のリスク(元本が毀損する可能性)はごく小さいわけです。このことに触れずに比較しても意味がありません。預貯金は、銀行側の利益は不明だけれども、預金者に利率を事前に明示しています。投資信託は、利率を明示することはできません。この点からは、預貯金のほうが透明性が高いという議論も可能なのではないでしょうか。
 p.88 海外でファンドを買おうという話です。本文中にいきなり「ICG」というのが出てきて、意味がわからなくなり、面食らいます。奥付を見ると、著者の沢井氏はICGインベストメント(アジア)代表取締役とあります。何と、香港にある自分の会社だったのですね。それは沢井氏にとっては当たり前のことで、説明なしで出してもわかりすぎる話でしょうが、読者はそうではありません。ICGなんて、聞いたことないという人が大半でしょう。そういう人向けの記述としては不備だと思います。
 pp.92-93 では、香港の業者を WWW でチェックする方法を述べています。しかし、それは「ICG」を指定して登録情報を見るだけの話です。WWW でICGの検索方法を述べてもしかたがありません。それではICGの URL を示すこととあまり違いません。読者としては、香港にどういう登録業者がいるのかを知りたいのです。その大部分が調べられるようなやり方を書くべきでした。そうすると、読者は必ずしもICGにアクセスするとは限らなくなります。しかし、本当にICGが仲介業者として優れているならば、あちこちの業者を比較した結果、やっぱりICGが選ばれるでしょう。それが香港流の競争社会の常道というものです。今の書き方では、本書がICGのパンフレットだと言われかねません。
 pp.110-111 では、ポートフォリオ作成例の一つとして「外貨預金」を挙げています。乙は驚きました。pp.112-113 では、外貨預金とゴールドを含むポートフォリオを例示しています。どんなポートフォリオを組んでも、それはお好みでどうぞというわけですが、普通は、外貨預金よりは外貨 MMF のほうを選ぶものでしょう。この点は以前に乙のブログでも書きましたが、
2006.9.21 http://otsu.seesaa.net/article/24103836.html
投資の常識だと思います。沢井氏は、「外貨預金」ということで、海外の銀行に預けることを想定しているのかもしれません。しかし、それでも、国内の銀行の外貨預金よりも有利かというと、そんなでもないように思います。
 p.113 では、米ドル建て定期預金をする際に「為替相場を見ながら1年かけて米ドルに変換」と書いてあります。これはどういう意味なのでしょうか。p.123 では、「為替相場を見通せる人はまずいない」と書いています。乙は、両者は矛盾するように思います。
 本書では、大量の図表が示されます。基本的に見開き2ページを一つの単位にして説明していくというスタイルです。そこで、見開きに図表をあしらって、わかりやすくしたということでしょう。しかし、図表の中に書かれている内容は本文と同じようなことが多く、新しい情報が書かれているケースは少ないと思いました。つまり、本書は図表部分が冗長なのです。必要な図表を示すことはいいことですが、本書では無理矢理図表を増やしたように見えます。
 乙は、海外投資の本として読んだのですが、本書は全体としてバランスが悪いと思います。著者のスタンスがはっきりしないという感覚は、そこから来ているのではないでしょうか。pp.140-141 で投資資金1億円の場合のポートフォリオの例を挙げるなど、意欲的な部分もあるのですが、ポートフォリオは万人に当てはまるわけではなく、あくまで例に過ぎません。大切なのは投資方針であり、自分の投資方針をどう考えるかということです。
 本書は、ICGを通じた海外投資に読者を勧誘しているような感じに読めてしかたがありません。だったら、宣伝パンフレットをきちんと作るほうがいいのではないでしょうか。もっとも、そんなことをすると、香港の業者が日本国内で営業している形になり、金融庁あたりからおとがめがあるのでしょうが。だからといって、本でこんなことを書いていいのでしょうか。
 最後になって気になりましたが、題名が「円・ドル・ユーロで1億円をつくる私の方法」というのもどうでしょうか。「円・ドル・ユーロで1億円をつくった私の方法」のほうがいいのではありませんか。「つくる」というと、これからの話(未来形)で、「つくった」ならば経験談(過去形)になります。「これから作るぞ」という話ならば、誰でもできます。乙だって、そう宣言する気になれば、本が1冊書けます。しかし、それでは意味がありません。「実際作った」という話ならば、耳を傾けてもいいかもしれません。いや、それだって、ある個人の経験した偶然の話(宝くじに当たった話!)かもしれないので、誰にでも当てはまる方法とはいえないはずですが。
 乙は、本書を他人に薦める気にはなりませんでした。



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2008年10月13日

中桐啓貴(2008.7)『ほったらかしでも1億円の資産を生む株式・投資信託の始め方』クロスメディア・パブリッシング

 乙が読んだ本です。
 表紙には、上のほうに副題風に「「貯める」より「増やす」ことが、お金持ち投資戦略」と書いてあり、また、下のほうには「なぜ、財形をやめるとお金持ちになれるのか?」と書いてあります。
 ちなみに、乙が一読した限りでは、「なぜ、財形をやめるとお金持ちになれるのか?」に対する回答は(直接には)書かれていなかったように思いました。
 本の目次は
http://www.gaiainc.jp/kojin/media/books_hotta.html
にあります。
http://www.gaiainc.jp/
は中桐氏のホームページです。
 乙は、中桐氏の著書は今まで2冊読んだことがあります。
 『隠れたお金持ちが、みんなやってる投資の法則』
2008.3.10 http://otsu.seesaa.net/article/88979803.html
 『会社勤めでお金持ちになる人の考え方・投資のやり方』
2007.11.5 http://otsu.seesaa.net/article/64583300.html
の2冊です。
 読後感からいうと、以前の2冊と似た感想を持ちました。長期分散投資や積立投資を説いている点でまともな投資法を解説していると思いますが、しかし、全体に新鮮さがなく(手堅いといえば手堅いわけですが)、どうもどこかで読んだような感じがします。初心者向けの本では、こんなことになるのでしょうか。
 乙が「へえっ」と思ったようなところもあります。
 p.093 では「資産が数億円あるお金持ちの半分以上が300万円以下のクルマに乗り、36%が中古車を買い、4万円のスーツを着ているという事実」が紹介されます。乙は意外でした。この話の出典がわかるとありがたかったです。内容を詳しく知りたいと思いました。
 p.145 には、天引き積み立て投資しか上手くいかない理由が5点書いてあります。

@支出は必ず収入ギリギリまで上がるため(パーキンソンの法則)
A人はマーケットが下がると怖くて買えないため
B毎日の値動きを気にしなくていいため
C投資金額と買値がわからなくなるため
D資本主義下では株価は上下しながらも右肩上がりに上昇するため

 乙はなるほどと思いました。ただし、Cについては、毎月定額を投資すれば、定額×月数で投資金額がわかるわけです(したがって、直接の買値はわからなくても、平均的な買値はわかります)から、ちょっと言い過ぎのように思います。

 さて、本書にはいろいろ問題点があるように思います。以下ではそれを書いておきましょう。
 pp.135-136 投資信託に関して「基本的にはこのノーロード商品がお薦めですが、すべての商品がノーロードになると、販売する側にメリットがなくなるので、それはあり得ません。」と書いてあります。これは間違いです。ノーロードになっても、信託報酬の一部が(運用会社だけでなく)販売会社に入るため、投資信託を販売する側にもメリットがあります。したがって、すべての投資信託がノーロードになることは十分にあり得ます。(現実には、なかなかむずかしいでしょうが。)
 p.180 「がんと分散投資」について論じています。さまざまな食べ物をとることでガンを予防しようということと、さまざまな金融商品に分散投資することをたとえ話で結びつけて解釈しています。しかし、これはいかにも無理です。食べ物は消化されて体内に取り込まれるものであるのに対し、金融商品はそれ自体の価値が上下するものです。したがって、同じく「分散」といっても、基本的に原理も必要性も異なります。分散投資を比喩で説明するのはむずかしいように思います。
 p.026 「投資信託は英語で mutual fund と言いますが、この“mutual”というのは“共通の”という意味です。」とあります。mutual を英和辞典で引くと、確かに「共通の」という訳も付いていますが、mutual fund というときの mutual は「共通の」というよりは「お互いに対する、相互の」といった意味ではないでしょうか。「共同の」という意味もあるかもしれません。「共通の」では何が共通なのか、意味がわからないように思います。
 本書はミスプリが目立ちます。以下は網羅的ではありませんが、指摘しておきます。
 p.079 l.5 どうしょうか→どうでしょうか
 p.097 l.-4 これは最もなことです→これはもっともなことです
 p.187 l.1 仕事は分業・専門家されています→仕事は分業・専門化されています
 p.188 l.5 仕事とてして→仕事として
 p.189 l.4 仕事に対しての投入する→仕事に対して投入する

 ミスプリが多いということは、本書の価値を低めます。著者がきちんと校正していないというわけですから、どこか信頼性がなく、魂がこもっていない感じを与えます。

 p.204 には「厳選! 投資に関するあれこれブログ集」があります。乙がよく知っているブログがリストアップされていて「なるほどなあ」と思いました。そうしたら、なんと乙のブログも入っていました。「プロ級の知識を得たい人はこちらのブログ」のところです。「プロ級」だなんて、乙は、そんなとてもとても……。何だか恥ずかしいようなくすぐったさを感じました。
 ということは、この記事も中桐氏が読んでいらっしゃるということでしょうか。


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2008年10月08日

週刊ダイヤモンド 2008.9.13 特集「給料 全比較」

 乙が読んだ雑誌です。
 1ヵ月も前に出たものです。すでに旧聞に属します。たまたま最近気が付いて読んでみました。
 p.33 には、100職種別の推定年収ランキングが掲載されています。
 推定年収が多いのは、プロ野球選手、Jリーガー、国会議員、競艇選手、都道府県議会議員、プロゴルファーなどですが、これらは、特殊な職業であり、平均年齢も生涯賃金欄も「−」です。平均年齢や生涯賃金を算出しようがない、つまり算出しても無意味だというわけです。短期間しか働けないようだし、変動も大きそうです。これらを省くと、(平均年齢と生涯賃金が記入してあるものに限ると)ランキングは次のようになります。上位7職種を示します。
職種平均年齢(歳)推定年収(万円)生涯賃金(万円)
航空機操縦士
35.7
1,308
47,732
大学教授
56.5
1,122
27,432
勤務医
40.0
1,104
46,595
記者
37.8
895
37,842
大学講師
42.5
767
28,435
電車運転士
39.5
613
24,925
航空機客室乗務員
33.8
602
26,832

 ここまでが年収 600 万円以上ということになります。生涯賃金の記載がないものも含めれば、弁護士、歯科医師、警察官、高等学校教員なども(記者の下ですが)入ってきます。
 パイロットや勤務医は、命を預かる仕事で、まあ高給取りでも当然でしょう。
 大学教授は、一見、高給取りに見えますが、実は違います。生涯賃金がかなり低い点に注意してください。また、平均年齢が高い点にも注意してください。大学では、若いうちは専任講師や准教授になっています。教授になるころには平均年齢が高くなってしまうのです。平均年齢が 56.5 歳ということは、たとえば、47歳から66歳くらいまでと考えられるでしょう。生涯賃金でいうと、大学講師やキャビンアテンダントとあまり変わらないということです。
 こう考えてくると、記者がかなり高給取りに見えてきます。確かに記者には優秀な人が多いように思いますが、ちょっともらいすぎかもしれません。
 上の表には入りませんでしたが、獣医師 563 万円などは、特殊な技能を持っている割には給料が低いといえるでしょう。扱うのが動物の命ですから、人間の命を扱う医者より安いのは当然でしょう。カネの出し手(つまり人間)が、家畜やペットに出せる分しか出さないのですから、給料が安くなる傾向があるのでしょう。
 雑誌に出ていた表全体を見て、乙は、実に微妙だと思いました。うまくできているのです。特殊な技能を持っている人は給料が高く、そうでない人は低いのです。給料は社会の縮図であり、実に見事です。

 個人投資家というのは、資金を投資に回せるだけの生活の余裕があるということですから、けっこう専門的な職業に就いている人が多いのかもしれません。
 p.55 には、給料が高い会社50社の一覧が出ています。テレビ局、総合商社が高いんですね。電通や博報堂といった広告代理店も(テレビ局との関連でしょうか)けっこうもらっているようです。
 p.59 から、1部上場 1701 社の従業員の平均年収ランキングが載っています。業種別です。
 もちろん、雑誌ですから、データだけでなく、給料にまつわる各種の記事も載っています。本号は、日本の現状を「給料」という鏡で映し出しているように思いました。
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2008年10月06日

金子哲雄(2008.2)『おみくじの原価は1円!』(宝島社新書)宝島社

 乙が読んだ本です。「時代を超えて生き残るビジネス」という副題が付いています。
 いろいろなものの原価を論じています。原価が安いもの(さらには無料のもの)が儲かるわけで、その典型がおみくじなので、それをタイトルにした本です。
 さまざまな商品の実例が挙げられます。著者は何でも原価を考える流儀のようです。
 集客商品と収益商品の区別なども説明されます。
 また、各種手数料や代行業などがいかに儲かるかが示されます。
 この本を読むと、世の中のビジネスがいかに不平等かがわかります。

 ビジネスチャンスがどこにあるのかを考える上でおもしろい本ですが、実践はそれなりにむずかしいことでしょう。本書を読むと、何となく儲けのネタを考えて起業してみたくなってしまいます。しかし、普通に考えて儲かりそうなところにはすでに先行例があるわけですから、そのままうまく行くとは限りません。
 新しいビジネスを立ち上げるとなるとやっぱりそれなりに大変です。

 いろいろと考えさせる本です。


ラベル:金子哲雄 原価
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2008年10月01日

竹川美奈子(2008.7)『「しくみ」マネー術』PHPエディターズ・グループ

 乙が読んだ本です。副題として「手間なしでお金が勝手に貯まる」が主題の前に、「口座は【生活・貯蓄・プール・投資】の4つに分けなさい!」が後に、それぞれ付いています。
 このタイトルで、中身がわかってしまいます。つまり、手間をかけないでお金が勝手に貯まるしくみを作ってしまおうということですし、そのためには口座を四つに区分しようということです。
 この本は、投資を始めたこともない若い人(想定読者は20代?)に、投資のしかたをやさしく伝授する本です。
 コアとサテライトをわけ、コア部分では日本株、外国株、外国債券に投資する投資信託を毎月少しずつ買っていこうという内容ですから、書いてあることは正しい(望ましい)と思いますし、この方法でいいのですが、しかし、なぜこの方法でいいかということはあまり説明されていません。となると、初めてこの本を読む人は、本当にこれでいいのだろうかと疑心暗鬼に思うのではないでしょうか。その先は別の本で勉強しなければなりません。
 乙は、ある程度の年齢になってから投資を始めたので、この本に書いてあるようなわけにはいきませんでした。30年前にこの本に出会っていたら、違った経験を積み重ねてきたことでしょう。
 p.52 で、口座を四つに分けようという話が出てきます。考え方は理解できるのですが、乙自身は今までこういう区別をしてきませんでした。かなりいい加減に一つの口座で生活してきました。それが悪かったとは思いません。要は個人の生活態度です。乙は、もともと貧乏人ですから、ぜいたくをしないような考え方をしてきました。お金がかかるような趣味もありませんでした。若いころは投資もしてこなかったわけです。その経験からすると、無理に口座を四つに分ける必要はなく、本書に書いてあることも、考え方として受け止めておく程度でいいように思いました。
 p.94 には、日本株式、外国株式、日本債券、外国債券の4資産の代表的な商品が列挙されていて、「コアに向くかどうか」という観点から○、△、×が付いています。外国株式のところの海外 ETF は△です。日本株式のところの ETF は○です。なぜ両者は違う判定になっているのでしょうか。外国債券のところの海外 ETF も△です。不思議な気がしました。先を読んでいくと、p.119 に、その説明の一部が出てきます。海外 ETF では、最低投資金額が大きいということと、毎月積立に対応していないことです。若い人(収入が多くない人)の場合は、最低投資金額の壁はけっこう高いかもしれません。毎月積立ができないこともその通りで、本書のコンセプトに合わないといえば合いません。乙は、海外 ETF を Interactive Brokers で購入していますが、積立ができない分、手間がかかりますが、自分の金を投資するのですから、それくらいの手間は当然と思っています。また、日本で購入するよりは手数料が安いですから、最低投資金額もそんなに高いとは思いません。個人の置かれた状況によって、適切な金融商品は違ってくるものだと思います。
 本書は、分量的にそんなに長くなく、さらっと読めてしまいます。新書並みと言えばいいでしょうか。
 乙には、記述が簡単すぎて不満が残る内容でしたが、20代の投資初心者にはおすすめできる本かもしれません。


ラベル:竹川美奈子 ETF
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2008年09月28日

武田邦彦(2008.5)『偽善エコロジー』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「「環境生活」が地球を破壊する」という副題が付いています。
 普段我々が行っているエコロジーに配慮した生活の多くが、実はムダで無意味なものだと主張する本です。
 著者の勝手な言い分ではありません。なぜそう考えられるのか、データ(根拠)を示して話を進めていますから、説得力があります。
 20種類くらいの具体的な話が書いてあります。その中のいくつかを書いておきましょう。
・レジ袋を使わない→ただのエゴ
・割り箸を使わずマイ箸を使う→ただのエゴ
・ダイオキシンは有害だ→危なくない
・プラスチックをリサイクル→危ない
・古紙のリサイクル→よくない
・ペットボトルのリサイクル→よくない
・空きビンのリサイクル→よくない
・ゴミの分別→意味なし

 こう並べてみると、我々の常識が次々と覆されます。
 その他にも、「温暖化は防げない」という話があり、乙は興味を持ちました。当然、冷房温度を28℃にしようなどというのは意味がないことになります。
 家電リサイクル法は、こんなにもひどい法律だったのですね。知りませんでした。
 問題は、ではなぜリサイクルが叫ばれるのかという点です。これについては、著者の武田氏は、リサイクルは一部の人の儲けになるからと喝破しています。日本の社会のしくみ(の一部)が化けの皮をはがされたような気分になりました。
 最後のほうに、本当に「環境にいい生活」とは何かが示されますが、そこまでにさんざんリサイクルやエコ生活の無意味さを説いてきた後なので、著者のシンプルな結論に合点がいきました。
 これからの日本のあり方などを考えさせてくれる良書だと思いました。


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2008年09月26日

門倉貴史(2006.7)『「夜のオンナ」はいくら稼ぐか?』角川書店

 乙が読んだ本です。
 実は、電車の中の時間つぶしのために本屋さんで買った本だったのですが、読んでみたらおもしろかったです。乙にとっては、まさに衝撃の書でした。
 本書は、綿密な調査に基づいて書かれています。さまざまなものに関して具体的な金額が出てきますが、それらはちゃんと裏付けがあります。
 乙は、普通のサラリーマンですから、「夜の遊び」とは無縁で生活してきました。ですから、その種の金額などはまったく知らなかったのですが、本書でいろいろと知ることができ、たいへん興味深かったです。
 p.24 では、銀座のホステスの年収が、「ヘルプ」の場合で 720〜1200 万円と書いてあります。売れっ子のホステスだと 3000 万円だそうです。客側にしてみれば、そういう人に人件費を払って遊ぶわけですから、客の支払いも当然多くなることでしょう。普通のサラリーマンには手が出せないと思います。
 p.26 からは「愛人契約」の話も出てきます。毎月のお手当が数十万〜数百万円だそうですから、これまた相当な金額です。愛人がいるという人は、相当にゆとりがなければいけません。
 p.28 では、高級クラブで働くホステスのお金の使い道が出てきます。何と、「投資」だそうです。客との会話の影響だそうですが、さもありなんです。この分野で有名な浅川夏樹氏も、ホステスでありながら投資家ですが、実は、そういう人が多いのですね。
 浅川夏樹(2007.12)『夜の銀座の資本論』
2008.1.7 http://otsu.seesaa.net/article/76917529.html
などと重ね合わせて読むと興味深いことと思います。
 p.40 では、ホストクラブの話が出てきます。利用者の多くは、ホステスと風俗嬢だということですから、これまた驚きでした。p.41 にアンケート調査の結果が書いてありますが、たぶん正しいと思われます。乙の知らないディープな世界が広がっているようです。
 p.53 (pp.58-64) 「昼クラ」にも驚きました。お昼のクラシックコンサートのことですが、今やたくさんの主婦がこういうところにお金を使っているんですね。
 p.119 では、援助交際の相場まで掲載されています。最も高いのは小学生で10万円以上、中学生で5〜10万円、高校生で5〜6万円、人妻で2〜3万円だそうです。よく調べたものです。
 上に例示したものは、ごく一部であって、本書を読んでいくと、この種の話が山ほど出てきます。「夜のオンナ」だけでなく、産業としての性風俗店やラブホテルなどのお金の動きも解説されています。
 社会問題や経済問題、国際問題の面もきちんと書き込んであり、門倉氏の力量は大したものです。
 「夜のオンナ」に詳しくない人も、逆にたくさんの経験がある人も、本書を読めば目からウロコでしょう。お金を通してこの世界を描ききった門倉氏には拍手を送りたいと思います。



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2008年09月23日

滝沢修(2005.12)『セミリタイア成功術』結書房

 乙が読んだ本です。「海外で半分遊んで半分働く豊かな暮らし」という副題が付いています。
 著者の滝沢氏は、カナダに長く(9年ほど)住んでいらっしゃる方です。
 乙は老後に海外での生活を考えているのですが(実現するかどうかわかりませんが)、そのための本としてもおもしろいかと思って読んでみました。
 読んだ後では、乙の期待とちょっと(というかだいぶ)ずれているように思いました。この本は、基本的に海外起業の本なのです。
 ただ、多くの人(や本)と違うのは、がむしゃらに働く本ではなく、働きながらも、ゴルフやスキーを楽しもうとしているところです。セミリタイアというのはそういう生き方のことです。
 著者の滝沢氏は、カナダのワインを日本に輸出することや、自分の住んでいる町に日本人に来てもらおうとすることなど、おもしろい発想で仕事に取り組んでいることもわかります。
 p.2 で書かれているように、滝沢氏は初めからサラリーマンをやる気はなく、「父の事業」を手伝うところからスタートしています。つまり、もともと起業家に向いていた人なのです。ですから、本書に書かれていることをそのまま他の人がやっても、起業に成功するとは限りません。むしろ、著者の真意は、自分はこれこれでうまくやったので、みなさんは(人と同じことをするのではなく)それぞれ別のアイディアで取り組んでもらいたいということでしょう。
 本書中には、乙が違和感を感じる記述もありました。
 pp.10- では、占い師の言葉を信じているという話が出てきます。乙は、占い師はまったく信じていませんので、自分の人生の選択肢に「占い師」は出てきません。単なる「きっかけ」に過ぎないのかもしれませんが、乙だったらこういう本には一切「占い」のことは記述しないでしょう。
 p.120 では、自分のホームページを充実させて、「営業マン」とみなしている話が出てきます。それはいいのですが、「肝心な部分は絶対にホームページに載せません。なぜならば、それを載せてしまえば私が持つ情報に価値がなくなるからです。」としています。企業秘密ということで、こうお書きなのかもしれませんが、乙だったら、こういう考え方はしないと思います。滝沢氏の想定している範囲よりもさらに広い範囲の情報をホームページに載せてしまうでしょう。そうすることによって、さらに優れた情報が集まってくるからです。インターネットのすごいところはそういうところだと思います。何もかもさらけだすことがいいことだとは思いませんが。
 本書には、海外生活を送るにあたって、ためになる助言もいろいろ書いてあります。
 pp.195- では、(カナダでは)不動産投資がいいという話です。そうかもしれません。カナダは、日本と状況が違いますから乙には信じられませんが、カナダ生活が長い滝沢氏は、自分の実感としてそう思っていらっしゃることでしょう。現地で住むことになったら、不動産投資を考えてもいいかもしれません。
 ちなみに、乙は、カナダのランドバンキングに投資しています。
2006.8.7 http://otsu.seesaa.net/article/22025403.html
こんなことも意外といいのかななどと思いました。
 p.244 には、海外生活では、物価安だけを追い求めるなということが書いてあります。p.256 では高級エリアに住むことをすすめています。なぜそうなのかについては、本書をお読みください。こんな話は、さまざまな経験をした人しかいえないことでしょう。
 ともあれ、カナダは、自然に恵まれているだけでなく、税金を初めとする社会の仕組みが好ましい方向にあるように感じます。本書を読んだ後では、乙は、あこがれに似た気持ちを持ちました。カナダでは英語が通じるのもいいですねえ。アジアに住むとかして新しい外国語を覚えるとなると(特に年をとってからは)大変ですからね。
 滝沢氏のホームページは
http://www.ogtcanada.com/
にあります。本書を読んだ後にこちらを見てみるとおもしろいです。


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2008年09月21日

ナシーム・ニコラス・タレブ(2008.2)『まぐれ』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」という副題が付いています。
 この本を読もうと思ったのは、乙のブログ
2008.7.14 http://otsu.seesaa.net/article/102846453.html
のコメント欄で fenk さんからすすめられた(?)からです。
 23ページにわたる参考文献や12ページもの索引まで付いていて、しっかりした本です。分量は、全部で 385 ページもあり、読むのもちょっと大変です。
 著者のタレブ氏は、ヘッジファンドのトレーダーだった人で、今は大学教授という経歴の人です。回りのトレーダーなどをたくさん見てきた経験からこの本を書いたとのことです。この本の副題が内容を要約していると思います。トレーディングの世界では、理由もなく、たまたま(「まぐれ」で)儲かるような話がたくさんあるのですが、それを「自分の解析・分析・見通しが正しかった」と誤解する例が多いとのことです。
 話の趣旨はわかるのですが、乙は、一読した後で、こんなにもページ数を使って議論するべきことか、かなり疑問に思いました。
 参考文献が大量に挙げられており、タレブ氏が大変な読書家であることがうかがえます。また、注も充実しており、26ページにわたります。そして、これこれの問題については、誰それの本を読むようにと書いてあります。このような態度から、この本に出てくるさまざまな話は、単なる「お話」ではなく、根拠を持って語られているのだろうと思います。
 しかし、そのようにきちんとしていることと、本がおもしろいかどうかは別問題です。乙は、注と参考文献に気が付かずに読み始めたのですが、いろいろな物事が(固有名詞を含めて)登場してきて、この本を読むには読み手側に大変な知識が要求されるなあと感じていました。もしかしたら、それらは(アメリカ人の)「常識」なのかもしれませんが、そのような常識を持っている人は少ないのではなかろうかなどと感じながら本を読み進めていました。最後の最後になって、注と参考文献に気が付いたので、この印象は乙の勘違いということがわかりました。それにしても、話題が広範囲に及ぶので、読み進めるのはそれなりに大変だろうと思います。
 乙がちゃんと知らずにいて、この本で学んだこと(つまりはおもしろかったこと)もあります。
 pp.156-160 あたりで、カール・ポパーの科学論が説明されています。乙は、ポパーの名前は以前から知っていましたが、その著作はきちんと読んでいませんでしたので、数ページでそのエッセンスを知ることができ、役立ちました。
 pp.278-279 スキナーのハトの実験が説明されています。ランダムにエサを与えるような装置にハトを入れておくと、えさが出てくるタイミングでたまたまハトが行っていた動作があった場合、ハトがその動作とエサとを結びつけて、その動作を繰り返すというのです。乙はこの実験を知りませんでした。ハトですらそういう行動をするということは、動物の頭の中の基本的なところにそのような認識能力が埋め込まれていることになります。人間でも、「まぐれ」を「まぐれ」と認識することはきわめてむずかしいでしょう。
 乙は、投資と関連する本として読みましたが、本書は、そのような投資本の領域を越えています。誰にでもお勧めできる本ではありませんが、統計学などの知識のある人にはおもしろいと思ってもらえるかもしれません。


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2008年09月19日

高城剛(2008.6)『70円で飛行機に乗る方法』(宝島社新書)宝島社

 乙が読んだ本です。「マイルを使わずとも超格安で旅行はできる」という副題が付いています。
 乙は、もともと、海外の格安航空会社(LCC)に興味がありました。
2008.2.18 http://otsu.seesaa.net/article/84564177.html
本屋さんで見かけて、その話が書いてあると思って、買ってみました。しかし、それは乙の思いこみでした。
 第1章は「いま、空の旅はここまで安くなった!」で 54 ページほどありますが、ここがLCCの話です。p.19 には、シンガポールからプーケット行きが約70円という格安チケットの話が出てきます。この点では、タイトルに偽りなしです。
 第2章は「航空業界が取り組むエコと最先端技術」です。最近の飛行機がどんなものかを述べます。けっこう豪華になっているんですね。
 第3章は「問題だらけ!? 日本の航空事情」です。LCCの話もちょっと出てきますが、主として空港をめぐる日本の政策のおかしさを論じます。
 第4章は「空を知れば世界がもっと近くなる!」で、個人的に「開国」していこうと主張します。ある種の海外旅行のススメのようなものです。
 というようなわけで、全体として航空業界の問題を探るような本でした。
 本文187ページですから、第1章のLCCの話が3割以下しかないわけで、最近流行の「タイトルで人目を引いて買わせよう」という本のように思えます。
 乙の気持ちとしては、タイトルは本1冊の内容の要約であってほしいと思うのですが、このころは(特に新書で)そうでもないタイトルのつけ方が多くなってきたようです。残念な傾向のように思います。
 本というものは、売れてなんぼのものですから、売れるようなタイトルを付ける出版社側の論理はよくわかるのですが。


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2008年09月10日

上条詩郎(2008.6)『投資リッチの告白』光文社

 乙が読んだ本です。
 「投資リッチ」とは、いったいいくらくらいの資産を保有している人のことでしょうか。
 p.26 や p.68 に明記してあります。100億円です。このくらいのお金を投資する場合に、著者の上条氏がどんなことを考えているのかを語った本ということになります。
 p.151 では、デフレ時とインフレ時で投資方針を変えるとしています。しかし、乙は、この方針には若干疑問を感じます。世界中に投資しているとき、インフレやデフレは非常に分かりにくいのです。日本国内だけなら、比較的簡単に(統計資料で)わかります。しかし、著者は基本的に全世界投資を考えています。となると、世界各国の統計資料をどう調べるのか、またそれぞれに応じてどう戦略を立てるのか、けっこうむずかしいと思います。
 p.153 では、資産を「安全、成長、挑戦」に3分類するという話が出てきます。そこでいうところの「安全」は、国内の預貯金と国債だそうです。これは、p.151 で断っているとおり、日本に在住の場合とのことですが、それにしても居住地バイアスではないでしょうか。グローバル経済を中心に考えるならば(そして著者はそう考えているようですが)安全資産として国内の預貯金と国債を考えるのは変です。もっとも、p.180 以降では、アメリカ株の ETF および EAFE を勧めているので、それはそれで納得します。
 p.157 では「数字はウソをつきません!」と書いています。それは正しいのですが、乙が本書の記述を一通り読んだ後の印象では、数字があまり出てきません。表もグラフも、わずかしかないのです。もっと数字で語ってほしかったところです。
 p.164 および pp.196〜で、ベトナム株(さらにはインドシナ半島全般)に投資することを勧めています。今後の成長が期待できるというわけです。乙も、以前はそのような考え方をしていましたが、シーゲルの「成長の罠」
2008.4.7 http://otsu.seesaa.net/article/92505039.html
の考え方を知ってからは、かなり懐疑的になってきました。
 p.173 では、日本の低金利をなげき、海外の銀行に資金を預けるべきだとしています。しかし、これは為替レートを無視した話で、高金利の海外の銀行に預けたからといって資金が増えるとは限りません。
 本書には、参考文献が一つも挙がっていません。いろいろな本に当たって検討した結果を述べているのではなく、著者の主張を書いているのです。このような書き方に意義がないとは思いませんが、乙は、説得力に欠けるように思いました。
 投資にはさまざまな考え方があります。著者は著者なりの考え方があるでしょう。しかし、その考え方が他人にも当てはまるのかといえば、そんなことはありません。「100億円儲けた私の投資手法」の類の本と同じかもしれません。
 乙は、この本を読み終わったあと、他人に勧める気にはなりませんでした。


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2008年09月08日

出井康博(2008.6)『年金夫婦の海外移住』小学館

 乙が読んだ本です。
 老後の生活の1つとして海外移住を考えていますので、そういうことに関する知識を増やそうと思って読んでみました。
 マレーシア、タイ、フィリピンでたくさんの日本人老人の長期滞在者に取材して書かれた本です。いろいろなライフスタイルがあります。現地化して安上がりの生活を楽しむのもいいなあと思いました。日本の生活をそのまま持ち込むのでは、コストもかかり、せっかくの物価が安い海外に住んでもそのメリットは生かせません。
 ところで、一方では、本書中に日本人男性が現地の女性にだまされる話もけっこう書いてあります。乙はむしろそちらの話のほうが面白く感じました。日本人の普通の男性でも、現地の人の収入水準から見るとけっこうなお金持ちに見えるようです。
 p.98 には、次のように書いてあります。「「フランス人と日本人に嫁いだ娘がいて、もう一人も日本人と結ばれるかもしれない。そりゃあ母親は、近所では鼻高々ですよ」タイの庶民にとって先進国の男性との国際結婚は、生活水準を飛躍的に向上させるために、最も現実的かつ手っ取り早い手段である。たとえ娘が選んだ相手が父親のような年齢であっても、家族が得る恩恵を考え、祝福する親は少なくないのだろう。」
 う〜ん、考えてしまいます。むしろ、年取った男性と結婚することで、男性が先に死に、遺産を妻(と子供)が受け取る方が、現地の人にとってありがたいのかもしれません。
 日本人男性とタイ人女性で話があまりできない夫婦のことも描かれています。日本人男性がタイ語ができず、タイ人女性が日本語ができない夫婦なのだそうです。これでは話が通じません。「幸せな」生活なのでしょうか。
 本書は、題名をやや変えた方がいいような気がしました。「年金男性の海外移住」はどうでしょうか。
 この本は
http://fund.jugem.jp/?eid=711
でも取り上げられていました。



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2008年09月06日

安田誠(2008.7)『外こもりのススメ―海外のほほん生活』幻冬舎

 乙が読んだ本です。
 「外こもり」というのは、「目的もなく海外に一都市にこもって、ブラブラしていること(人)」(p.12)だそうです。今や、そういう人がかなりたくさんいるようです。この本は、そういう人々の日常生活を描いた本です。
 本書はタイ・バンコクでの外こもりを中心に記述しています。著者自身もその道10年以上という外こもりです。物価の安い国で、ブラブラするということはどういうことか、要領よくまとめて書いてあります。バンコクで外こもりをするならこの1冊で間に合いそうです。
 乙は、老後に、海外で生活するかもしれないと思っています。その際、仕事をするつもりはないので、どんな生活になるのか、今ひとつピンときません。そこで、その参考になればと思ってこの本を読んでみました。
 しかし、本書はどちらかというと読者として若い人を対象にしている場合が多く、娯楽などの面でもそういう方面の話が中心です。乙とは価値観がだいぶずれているような感じがしました。
 乙は、タイ語を学ぶのもいいかなあなどと思っています。そういえば、ずっと前に(学生時代に)タイ語に関連したものを学んだことがありましたが、今やその内容はすっかり忘れています。老後に新しい外国語を覚えるのは厳しいのでしょうか、それともおもしろいものなのでしょうか。
 ところで、外こもりでは生活費をどう稼ぐかという問題がありますが、それは「海外で稼ぐには」(pp.44-59)に記載されています。投資、アフィリエイト、バイヤー(個人貿易)、軽くアルバイト、日本への出稼ぎ、いっそ現地採用などと、さまざまなケースが書いてあります。残念ながら、どれもあまり儲かるようなものではありません。まあ、稼ぐというよりは、お金を使わないようにして生活するスタイルが外こもりの基本なんでしょうね。
 それらの中でも、「投資」の部分が一番興味深かったのですが、残念ながら、乙の方針とは合いませんでした。本書中のネット証券やFX業者を見ても、全部日本国内の業者名しか書いてありません。p.46 では、「株や為替の取引業者は、日本に居住していない人の取引を認めないことが多いので、投資をする人は、長期に外こもる場合でも、日本に住民票を残した方が良いかもしれません。」と述べています。これでは、長期滞在といっても日本から完全に離れているわけではないということになります。いつかは日本に帰ってくることを前提にしているということですし、海外にいながら、住民票が日本にあるということは、やはり日本に片足を突っ込んでいる状態ということになります。
 乙は、せっかくタイにいるなら、タイで(バーツで)投資するとおもしろいのではないかと思うのですが、どうでしょうか。タイの銀行や証券会社の事情は何も書いてありません。タイの金融機関では不安だという場合は、シンガポールや香港がいいと思いますが、著者は、こういう方面が視野に入っていないようです。まあ、外こもりは資産が少ない人が行うもののようですから、もともと投資の世界とは別なのかもしれません。
 p.46 では、相場で生活していく場合、100万円を元手に月5万円儲けることを目標にすることをすすめています。月 5% の利回りということは、年間利回りは 1.05の12乗ですから、79.6%になります。こんな利回りを継続的に出し続けるのは不可能です。そもそも元手が100万円ということでは、投資はしない方がいいでしょう。
 資金が1000万円あれば、月5万の利益は可能かと思います。その場合の年間利回りは、1.005 の12乗で、6.2% ですから、こんなものでしょう。でも、1000 万円あったら、生活のしかたが「外こもり」とは違ってくるような気がします。
 ちなみに、乙の老後は(海外に行くとしても国内で生活するにしても)少なくとも1億円〜2億円くらいを投資しながら生活したいと思っています。資産がこれくらいあれば、債券を中心に投資しても、年間数百万円くらいの運用益は期待できそうです。こういう生活は「外こもり」とはだいぶ違うように思いました。
 本書は、ちょっと乙の期待とずれてしまいましたが、タイでの生活がどんなものかわかったので、それなりに興味深く読みました。

 ゆうきさんのブログ
http://fund.jugem.jp/?eid=722
でも本書が取り上げられています。
 もっとも、著者が行方不明という話もあり
http://fund.jugem.jp/?eid=778
そこのコメント欄によれば、死亡とか。
 老後の一番の関心事は「治安」かもしれません。


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2008年08月28日

前川貢(2008.5)『いま債券投資が面白い!』近代セールス社

 乙が読んだ本です。「資産運用の世界を変える債券投資のススメ」という副題が付いています。
 債券投資、中でも、外国債券投資を薦める本です。かなり珍しい本のように思います。債券は、預貯金と株式の中間に位置するような商品ですが、金融機関が個人投資家にあまりすすめるようなこともないので、何となく縁遠い存在になってるのではないでしょうか。そこに光を当てた本書は、それだけでも存在価値があるというものです。
 いくつか、気になる記述もありました。
 p.27 「為替の動きは一般的に、一定の範囲内で上下に変動を繰り返すもので、例えば一方的に円安になり続け1ドル=1000円になったり、逆に円高になり続け1ドル=0円になったりしません。」
 言っていることは正しいのですが、「1ドル=0円」は、理論的にありえない話なので、こう述べることは不適当なように思います。為替レートは、二つの通貨の交換の比率なので、どんなに円高になろうと、0.0000001 円のようになったとしても、理論的にゼロになることはないのです。一方、1ドル=1000 円は理論的にあり得る話で、実際はそうなる確率がきわめて低いというだけです。
 pp.28-29 前川氏は、円高になったとして、1ドル80円だろうと述べています。だからそれを前提に外貨投資を考えているというわけです。さて、この1ドル80円をどう考えたらいいでしょうか。乙は、15年後の為替レートとして、1ドルは60円から 240 円程度を考えたらどうかと述べたことがあります。
2006.6.19 http://otsu.seesaa.net/article/19489254.html
つまり、前川氏の言う1ドル80円説は、甘いと思います。まあ、これは個人的な感覚ですから、前川氏が不適当とも思いませんが、今までの為替変動を考えれば、1ドルが80円を超える円高になるのは普通にありうることのように思います。
 pp.143-144 個人が投資できる債券の例が国内と外国とに分けてリストアップされています。2007年12月10日現在と明記されています。たとえば、その最初の日本の国債のところを見ると、償還日 2012.8.17 とあり、残存期間 0.67 年とあります。両者は、ずれているようです。2011.12.31 を基準にしているならば、残存期間は 0.67 年です。2ページにわたる数十個の債券のすべてがずれているので、単なるミスプリではないようです。乙は理解に苦しみました。
 本書の構成は、四つの章と「巻末資料データ」からなりますが、巻末資料データは、80ページほどを占めます。全体が223ページですから、4割にも及ぶ長いものです。しかし、ここの記述は、あまりいただけませんでした。四つの章で述べられていることと重複する内容がけっこうあります。乙の感覚では、ここの記述は必ずしも「資料」ではないと思います。構成を変えて、適宜記述を適当な「章」に移してしまった方がずっとすっきりすると思います。本書を読んでいると、「巻末資料データ」になってしまって、「おや、もう終わりか」と感じますが、実はそこから延々と記述が続くのです。
 一通り読んだ後では、1冊の分量で債券投資だけを扱うのは、ちと企画倒れかなと感じました。詳しく説明されているので、それはそれで一つのあり方ですが、乙の感覚ではかなり冗長なように読めます。
 なお、この本については水瀬ケンイチ氏も取り上げています。
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-798.html


ラベル:前川貢 債券投資
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2008年08月19日

高橋洋一(2008.5)『霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」』(文春新書)文藝春秋

 乙が読んだ本です。
 今や、高橋氏は「霞が関埋蔵金男」と呼ばれているのですね(笑)。
 内容は、文庫編集部(?)のインタビューに応じる形で高橋氏が語ったものを文字化し、手を入れたものになっています。各所に(笑)があり、語り口がそのまま活かされています。
 第1章「「埋蔵金」とは何か」
 第2章「国のお金はどう動くのか――財政編」
 第3章「国のお金はどう動くのか――金融編」
 第4章「公務員制度改革の闘い」
 第5章「国家を信じるな」
という構成になっており、特に第3章が長めです。
 第1章は埋蔵金があちこちにあることを述べています。こういうことがあると、日本政府の財政破綻は(あるとしても)まだまだ先の話ではないかと思えてきます。
 第2章では、ガソリン税や道路特定財源などの話です。ガソリン税はピグー税として、高く設定して、ガソリンをあまり使わないようにする(そして一般財源化する)のが当然という話はわかりやすかったですね。
 p.58 には、「金利が高くなると為替は円高になる」という話が出てきます。乙は、これは話が逆なんじゃないかと思いました。
2008.6.1 http://otsu.seesaa.net/article/98767533.html
 この点については、さらに調べてからブログに書きたいと思います。
 第3章では、日銀総裁人事の問題も絡めて、日銀のあり方を論じています。普段あまり意識していないところですが、乙は日銀の「独立性」の意味も理解しましたし、高橋氏の解説でこの間の人事上のゴタゴタがすっきりとわかりました。
 第4章では、今の日本を「官僚内閣制」と呼び、真の「議院内閣制」にすることを主張しています。それくらいに官僚の力が強いということで、逆にいえば政治家のダメさ加減が描かれます。「国会議員と公務員の接触禁止」なんて、それだけを見ると、何のことか、理解できませんが、高橋氏の説明を聞くとよくわかります。官僚が国会議員に「ご説明」して、政治的決定がなされることがいろいろあるのですね。
 第5章では地方分権を論じています。
 全体として大変わかりやすいと思いました。分厚い経済書もいいですが、こういう新書で手軽に読めて、今の動きの意味が理解できるのはとてもありがたいことのように思いました。
 おすすめできる本です。


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ラベル:高橋洋一 埋蔵金
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2008年08月16日

大前研一(2007.11)『大前流 心理経済学 貯めるな使え!』講談社

 乙が読んだ本です。実におもしろい本です。端的に言って、今の日本がなぜ閉塞状況に陥っているのか、それを解決するにはどうしたらいいかを説いた本です。図表も豊富で、わかりやすく、説得力があります。
 書かれていることが広範囲に及ぶので、ブログで要約することなんてとても無理です。本書自体を読むしかありません。読んだ後は、頭がすっきりします。日本のあり方、政治家が考えていること、官僚が考えていること、などなどがすうっと説明されてしまい、「そうだそうだ」と言っている自分に気が付きます。
 大前氏は実に合理的な考え方をする人なんだと改めて感心します。こんなにも明解に日本が進むべき道を示した本があるでしょうか。(大前氏の過去の著作は同一線上にあるものと思います。)今の政治家たちに本書を読ませてみたいと思います。
 基本は、1500兆円の個人金融資産を投資に回すことだと言います。それだけで日本は大きく変わるのです。
 ただし、乙が疑問に思ったことが一つあります。pp.252- です。「1500兆円の個人資産で世界最強のファンドを作れ」ということで、10兆円単位のシグニチャー・ファンド(運用者の個人名入りのファンド)をたくさん作り、世界で最も優秀なファンドマネージャーを雇い、互いに競わせ、1年間の運用実績を確認して次の1年間のファンドを組み替えるようにすることで、年率 10% 以上の運用利回りが実現できるとしています。
 本当にこれが可能でしょうか。シンガポールで年金資金が 9.9% で運用されているからといって日本でも可能でしょうか。
 乙は二つの点で疑問を感じています。

(1)優秀なファンドマネージャーがいつも好成績を上げるわけではない。
 インデックス投資の考え方からすれば、ファンドマネージャーが好成績を上げたとしても、それは単なる偶然だということになります。
 ウォーレン・バフェットのように、株式投資で継続的に好成績を上げる例があるから、ファンドマネージャーでも優秀な人がいるという話はありますが、乙はそうは思いません。
 10兆円という巨額な資金ともなれば、ちょっとした株を買おうにも、資金が大きすぎて、自分で株価をつり上げかねません。株を売るときには、資金が巨大すぎて、大幅な株価下落を引き起こし、まともに売れなくなるのではないでしょうか。
 つまり、10兆円をうまく運用することは基本的に困難で、かろうじて可能なのはインデックス運用しかないのではないでしょうか。現実には、10兆円ファンドが数十もできるのです。全世界でこれら全部が飲み込めるのでしょうか。
 また、ファンドマネージャーを公募するとなると、変なヤツが紛れ込んできます。これをうまく排除できるでしょうか。
 乙がファンドマネージャーなら、それっとばかりに申し込みます。10兆円ですから、手数料が 0.2% だとしても、1年で200億円です。こんなうまい話はありません。そして、若干の(2倍程度の)レバレッジを効かせた投資をします。オプションを利用すれば可能でしょう。株価が1年間で上がるか下がるかは、わかりませんが、長期的には若干上がる傾向にあるわけですから、1年間でも、下がるよりは上がる方が可能性が少し大きいと思います。うまく行けば、現物主義のインデックスファンドを2倍も上回る好成績を上げることができます。1年うまく行くと、次年度も運用を任されそうで、再度 200 億円+α(前期の上昇分の 0.2%)の収入です。失敗すると、運用資産が大きく目減りします。株価下落時にはインデックスの2倍の損失が出るからです。そのときは、契約の継続はできません。しかし、「運用が下手でした。ごめんなさい」で終わりです。200億円もらえれば、それで十分です。次年度以降、運用を委託されなくてもかまいません。1年だけの運用で、一生暮らしていけるだけの資産を築くことができます。
 こんなことを考える不埒なヤツもいそうですが、それを事前に見破ることができるでしょうか。誰が見破れるのでしょうか。

(2)日本円の低金利下では、高利回りの運用は難しい。
 円をドルに替えて、世界のマーケットで勝負すれば、10% くらいの運用は可能でしょう。しかし、日本が低金利、アメリカが高金利(サブプライムローン問題の影響で現在はさほど高金利でもなくなってしまいましたが)だとすれば、将来的には(理論的には)円高が起こります。そこで、せっかくドルで 10% 稼いだとしても、円換算では、そんなに高利回りにはならなくなります。
 大前氏は、これだけでなく、日本の金利を(5.5% くらいに)引き上げよと主張しているので、その場合は、年 10% の運用も可能なように思います。しかし、今の低金利では 10% の運用利回りはむずかしいのではないかと思います。

 この問題と比べると、小さいのですが、p.341 では「株式・資産形成講座のカリキュラムの一部」が出てきます。この中に「テクニカル分析実践」というのが含まれています。大前氏はテクニカル分析が有用だとお考えのようです。インデックス投資の考え方とは対立する考え方です。


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2008年08月11日

橘玲, 海外投資を楽しむ会(2008.7)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。本書は、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』
2008.8.8 http://otsu.seesaa.net/article/104383634.html
の姉妹編です。海外投資でよく利用される銀行・証券会社に関する情報を効率的に集めたもので、「究極の資産運用編」が金融商品の紹介ですから、この2冊があれば「どこで何を買うか」という二つの側面が満たされるわけです。
 本書の記述は、
Part 1 タックスヘイブンからプライベートバンクまで! 海外投資の基礎知識
Part 2 口座開設から格安海外送金術まで! 海外銀行口座活用マニュアル
Part 3 世界中の市場にアクセスする! 海外証券会社の使い方バイブル
の三つの部分に分かれます。それぞれの先頭にある Q&A が充実していて、ここを読めば必要なことが一通りわかるようになっています。この分量で、こんなにも豊かな記述ができるというのは驚きです。橘氏、および海外投資を楽しむ会のたくさんの蓄積のたまものでしょう。
 それぞれの銀行や証券会社の利用法を説明している部分は、あまりオリジナリティがありません(まあ当然ですが)。しかし、それでいいのではないでしょうか。
 乙は、この中のいくつかを利用していますが、自分の利用している銀行・証券会社の記述を見ると、一通りのことがコンパクトに書かれていて、妥当なように思えます。(WWW の画面を貼り付けて説明している部分はやや冗長のように感じますが。)一方、自分が利用していない銀行・証券会社の記述を見ると、それぞれの特徴が手に取るようにわかり、利用するべきか否かの判断ができるように思います。
 そんなことから、本書は、海外の銀行・証券会社の紹介としては、現在、もっとも優れたもののように思います。
 本書を読んでいて、自分でも知らなかったことがありました。p.112 ですが、HSBC 香港で、送金先を登録しておいた場合、長期間使わないでいると、セキュリティの観点からその設定がリセットされるというのです。登録は、紙に書いて郵送して行ったので、それなりに手間がかかっているのですが、それが消えてしまうとなると、かなり残念です。乙が死んだ後に、家族がこの口座にアクセスして日本宛に送金するようなことを考えていたので、その段階で乙の日本の銀行の口座登録が消えていると、(乙が死んでいるので)書類にサインができず、したがって再度口座登録ができないことになりますので、問題になります。また、中には、口座の指定が難しかった場合もあったりします。何回か試して正しく登録できた場合もあります。銀行のウェブページに送金先の記録があれば、次回の送金にはそれを使うだけでいいと思いこんでいましたから、そういう設定が消えるとなるとこれまた問題です。「長期間」がどれくらいの時間を指すのか、書いてあるとありがたいと思いました。
 また、本書を単純に読んでいると、矛盾するように思えるところもありました。インタラクティブブローカーズに関する記述ですが、p.239 下から2行目には「IB には両替機能はなく、」と書いてあります。一方、p.241 下から4行目では、「(乙注:日本円を)IB 内で米ドルに両替し、【中略】送金することで、格安のドル送金が可能になる。」とあります。実際のところは、FXで両替して、それが出金できるのですから、それは「両替機能がある」と見てもいいのではないでしょうか。
 「究極の資産運用編」では、ミスプリが多かったですが、
2008.8.8 http://otsu.seesaa.net/article/104383634.html
本書は少なかったです。乙が気づいたものは p.120 右上のところの「Rela-tionship」(ハイフンが余分)だけでした。
 本書も、ぜひ手元に置いておきたい良書だと思います。


ラベル:橘玲 海外投資
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2008年08月08日

橘玲, 海外投資を楽しむ会(2008.7)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。表紙には「ETF 1080 本完全ガイドつき!」という副題(?)がおどっています。
 海外投資に関する徹底的な案内書が出たというべきでしょう。海外投資を行っている人、これから行おうという人は、ぜひ1冊を手元に置くべきです。
 前著:橘玲(2008.3)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』ダイヤモンド社
2008.5.29 http://otsu.seesaa.net/article/98372824.html
では、橘玲氏の単独名だったのですが、今回は「海外投資を楽しむ会」も共著者として入っています。乙が想像するに、本書は、橘氏だけによるものではなく、16,000 人もの会員数を誇る「海外投資を楽しむ会」が執筆に携わっているということでしょう。事実、本書に書かれているようなことを一人で調べ上げるというのは大変な苦労だと思います。一方、たくさんの人の協力があれば、一人ひとりの知っている範囲は狭くても全体としては「集合知」の原則が働き、網羅的な記述が可能になります。Wikipedia のような考え方です。
 本書は、金融商品の紹介に重点をおいていて、この1冊があれば、海外投資に必要になるさまざまな商品が一通りわかりますし、どういうものに投資すればいいかもわかるようになっています。
 以下、乙がおもしろく思ったところを中心に、いくつかコメントします。
 p.23 ETF や金融先物を使ったインデックス投資では、日本株の場合、TOPIX よりも日経225のほうがいいと述べています。日経225のほうが取引量が多いためだというわけです。山崎元氏などは、日経225が構成銘柄の入れ替えがあって、指数の連続性に問題があることと、その際に、わずかながら裁定取引があって長期保有している投資家が少しだけ損をすることを述べています。どちらがいいかは悩ましい問題ですが、橘氏のような先物活用派は、日経225ということになるのでしょうか。
 p.80 ブル型ETF とベア型ETF にどんな特徴があるかを説明していますが、これはなかなかおもしろかったです。乙は、それぞれの存在はすでに知っていましたが、自分で売買したことはなく、その特性についても考えていませんでしたので、新鮮な指摘として読みました。
 p.81 人民元 ETF (CYB) があるということを初めて知りました。乙は、人民元投資をどうしたものか、わからないままに過ごしてきました。たとえば、ブログでは
2008.7.19 http://otsu.seesaa.net/article/103164638.html
のような関連記事を書きました。しかし、長年の疑問がこれで氷解しました。今の乙は、投資を控えている時期なのですが、
2008.6.8 http://otsu.seesaa.net/article/99784901.html
今後、機会があれば、この ETF を試してみようと思います。
 p.86 から ETF の一覧が始まります。とにかく「すごい!」のひとことです。こんな資料は見たことがありません。これだけでも、本書の価値があります。
 ただし、本書には残念なこともありました。ミスプリがかなり多いのです。今までの橘氏の著作では、ほとんど感じなかったのですが、どうしたことでしょう。
 ざっと一読したときに気が付いたものを以下に指摘しておきます。これで全部のはずはありませんから、丹念に読めば、この数倍はあるものと推定します。気のせいか、英語関係のミスが多いように思います。
p.39 2行目 Grobal→Global
p.39 7行目 DR→GDR
p.40 D Noth→North
p.108 2行目 Exchanged→Exchange (p.113 下から4行目は正しい)
p.110 下の方 iShares の読み「アイシュアーズ」→「アイシェアーズ」
p.111 4行目 INRG のところ FESE→FTSE
p.111 下から4行目 IPRP のところ FEST→FTSE


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2008年08月04日

木田知廣(2007.11)『これなら買える! 投資信託』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「物語で学ぶ、賢い投信の選び方」という副題が付いています。
 全体として、投資信託の初心者に対する入門書といったところでしょうか。各章が「ストーリー」と「解説」の2本仕立てで書かれていますが、乙の印象では、これは成功していないと思います。ストーリーの部分は、どちらかというと小説仕立てなのですが、冗長だと思います。別の言い方をすると、中身が薄いのです。本当の意味の初心者ならば、こういう話で納得するのかもしれませんので、一概にこの本を否定するものではありませんが、乙は、おもしろくないように読みました。
 p.176 および p.182 に変な円グラフが出てきます。一見して何か間違っている印象です。
 標準的なアセット・アロケーションとして、日本株式 30%、外国株式 20%、日本債券 10%、外国債券 20%、その他 20% を示す円グラフです。しかし、どうも、それぞれの比率(円グラフでいうと面積の比率あるいは外周の長さ)が違うように見えるのです。念のため、円グラフを分度器で測ってみました。(分度器を使うのは何年ぶりでしょう!)
日本株式 30%=120°
外国株式 20%= 60°
日本債券 10%= 30°
外国債券 20%= 90°
その他  20%= 60°
 なるほど、ずれています。同じ 20% のところで 90°のところと 60°のところがあります。正しくは以下の通りです。
日本株式 30%=108°
外国株式 20%= 72°
日本債券 10%= 36°
外国債券 20%= 72°
その他  20%= 72°
 2箇所で同じグラフが出てくるとなると、単なるミスプリとは思えません。著者はこれでいいと判断していることになります。この本の主張の一番大事なところでこういう間違いがあるというのは問題ではないでしょうか。
 p.228 では、エクセルのワークシートが出てきます。「マネー・カレッジ」で提供している資産管理ワークシートなのだそうです。まあ、こういう試みも意味があるとは思いますが、これで十分なのでしょうか。乙は、香港ドル建ての資産があるのですが、香港ドルはどうやって記入するのでしょうか。
 もちろん、エクセルをいじれば、香港ドルを追加することはやさしいのですが、このようなワークシートを使うレベルの人は、香港ドルの欄を増やすだけでも非常に困難だと思います。それが簡単にできるという人は、こんなワークシートを使わずに、自分でこのワークシート並みのものを作るでしょう。つまり、万人にあてはまるようなワークシートを作ることはむずかしいという話です。
 乙は、自分の流儀で資産管理のプログラムを作りましたが、
2007.11.24 http://otsu.seesaa.net/article/68477179.html
設計の基本は、自分の資産管理は、自分の流儀で行うということに尽きます。第三者の用意したものでは、自分には合わないのです。このようなオーダーメイドのやり方のほうが便利だと思います。
 この本は、インデックスファンドに分散投資せよということが中心命題ですから、内容はまともだと思います。そのような真っ当な投資をやさしく説いた本といったところでしょうか。
 この本は、末尾に索引がついていますし、参考文献もついていますから、今後の読書にも役立つでしょう。良心的な作りです。
 ただし、参考文献の並べ方にちょっと問題を感じました。著者の50音順に並べていますが、アメリカ人に関しては、(名字ではなく)名前(First name)の50音順なのです。これは索引では一般的ではありません。たいていは、姓の50音順が多いと思います。これならば、日本人と混ぜても、姓の50音順ということで一貫して並べることができます。
 まあ、姓名ともに覚えているような有名人はいいのですが、「J. C. ボーグル」は、「斎藤」の次、「渋井」の前に並んでいます。う〜ん、これでいいでしょうか。「ジョン」だとすると、「渋井」の次のように思います。「ジェイ」と読むならば、この位置でいいわけです。もしかして、参考文献の表記を「J. C.」などと書かずに、「ジョン, C.」と書くほうがよかったかもしれません。ところで、C. は何の略でしたっけ? 乙が過去に読んだ(日本語訳の)本でも、明記されていませんでしたが……。

ジョン・C・ボーグル(2007.8)『マネーと常識――投資信託で勝ち残る道』日経BP社
2007.9.23 http://otsu.seesaa.net/article/56400186.html
J.C.ボーグル(2000.11)『インデックス・ファンドの時代』東洋経済新報社
2006.12.3 http://otsu.seesaa.net/article/28796648.html

 というわけで、本書は、若干の欠点はあるものの、投資の初心者には勧められる本でしょう。すでに投資している人には、当たり前すぎて、おもしろくも何ともないと思います。


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2008年08月03日

森木亮(2008.4)『日本国増税倒産』光文社

 乙が読んだ本です。「格差是正が招くデッド・エンド」という副題が付いています。
 森木氏の著書は、何冊か読んだことがあります。だいたい論調が似ています。
森木亮(2007.12)『日本はすでに死んでいる』ダイヤモンド社
 2008.2.21 http://otsu.seesaa.net/article/85113371.html
森木亮(2006.2)『日本国破産への最終警告』PHP研究所
 2008.1.25 http://otsu.seesaa.net/article/80486553.html
森木亮(2007.3)『2011年 金利敗戦』光文社
 2007.6.5 http://otsu.seesaa.net/article/43904848.html
森木亮(2007.2)『ある財政史家の告白「日本は破産する」』ビジネス社
 2007.2.27 http://otsu.seesaa.net/article/34777467.html
森木亮(2005.2)『2008年 IMF 占領』光文社
 2006.4.16 http://otsu.seesaa.net/article/16624855.html

 「はじめに」の p.8 には、とても興味深いことが書かれています。今まで消費税を含めた増税論に対して、著者は国家財政の破綻を防ぐという観点からやむをえないと考えてきたのに対し、本書では「消費税の増税をするな」という主張になってしまったことです。
 著者の考え方が変わることはありうることですし、それが悪いわけではありません。しかし、p.8 によると、著者の考え方が変わったのは、光文社編集部と十分な討議をしたためだとのことです。著者は「ペーパーバックス編集部というのは、このように、見識を持って著者と本をつくりあげるという点で、日本で類を見ない編集部である。」と述べていますが、本というのは、もともと著者の考え方が先にあって、編集部はそれをいかにしてうまく引き出すかが仕事なのではないでしょうか。著者の考え方を変えてまで編集部の意見が反映された本を出すのが「見識」でしょうか。乙は、大きな疑問を感じます。
 序章「増税倒産とは」では、本書の内容を手短にまとめたようなものになっています。日本は、現在でもすでに実態は破産しているのだから、一刻も早く「破産宣言」するべきだというわけです。乙も、この議論はわからないではありません。しかし、国家が破産する手続きはどこにも書いてないわけで、法律もありません。国家は破産しないことが前提になっています。とすれば、誰が破産宣言できるでしょうか。福田総理が破産宣言できるでしょうか。できるわけはありません。法律に書いてないことを勝手に行うことなど、誰もできません。今の日本が破産状態だというなら、その原因は何か、今までの政府や官僚は何をやってきたのかという責任問題になります。過去の日本を(そして自民党政権を)否定するようなことができるはずがありません。日本は延命策をとるしかないのです。
 第1章「重税国家ニッポン」では、日本の税制を論じ、日本が世界的に見て重税国であることを述べます。今の日本株の1人負けの真因は税制無策にあったというわけです。グローバル経済を基準に見て、日本の税制がおかしいところを指摘していますが、もっともな議論です。さらに所得税が高くなれば、お金持ちが逃げていく(p.43)と述べていますが、それはそうでしょう。法人税が高いと企業も国を出て行くのが当然です。
 第2章「税と納税意識」では、税金の考え方を説明しています。その上で、森木氏は「小さな政府」を支持しています。論理的必然でしょう。
 第3章「税の品格」では、日本の税制には、歴史的に見ても品格がないことを論じています。
 p.107 には、1950 年からのシャウプ税制について、「理想的な税制」というふれこみで、大蔵省は一芝居打ったのだと述べています。当時は、こういうことでもないと、共産主義革命が起こるかもしれないと考えられたのだそうです。うがった見方かもしれませんが、一方ではこんな見方も確かに成立しそうです。
 その後は、消費税の問題点を述べています。真っ当な議論です。
 第4章「年金もまた税金」では、歴史的な経緯もふまえて、日本の年金の問題点を述べています。ここも納得できる話です。
 第5章「国家財政の病理」では、日本の借金が、もう返せないところまで増大してしまったことを論じています。もう債務超過の連続で、どうしようもない状態だとのことです。特別会計という「裏帳簿」が不健全財政の元凶だとしています。本書の中心をなす記述でしょう。
 第6章「デッド・エンド」で、具体的に起こる破産状態について記述しています。悲惨な話です。
 その中で、p.197 から夕張市の例を引き、住民が夕張市から逃げ出している状況を描いています。そして、p.198 では国家のデッド・エンドについて「だが、自治体破産と違う点が1つだけある。それは、私たちが日本国民である以上、事実上、日本から逃げ出せないことである。」と述べています。しかし、これは、p.43 の記述と矛盾しているように思います。p.43 では、お金持ちが逃げていくと言っています。夕張市の場合でも、お金持ちは(プチ金持ち層も含めて)夕張市から逃げ出したのではないでしょうか。逃げ出せなかったのは、引越費用や、新住所での生活の見込みが立たない非お金持ち層だったのかもしれません。だとすれば、国家レベルでも同じことが起こりえます。海外に移住する手があるのです。ただし、日本で働き、日本に住まざるを得ない非お金持ち層は、その手段はとれません。もっとも、夕張市から逃げ出す費用と日本から逃げ出す費用では後者のほうが圧倒的に大きいことはいうまでもありませんが。
 第7章「増税してはならない!」では、増税しても各種の格差を是正することはできないから、増税は止めようと論じます。そして、中国人の労働改善を働きかけようとしています。破産処理のためには、公務員の首切りと、給料や退職金のカットをするべきだということを主張します。消費税は撤廃し、その代わりに「所得型付加価値税」を導入するようにすすめます。道州制も必要だとのことです。
 これらの主張はわかりますが、国家が破産する(すでにしている)ときに、増税するかどうかなんて、議論してもしかたがないことではないでしょうか。むしろ、破産した後の新しい日本のあり方を考えることが必要でしょう。第7章の議論は、日本が破産しないことを前提にしているようで、何とも違和感があります。
 本書の「格差是正が招くデッド・エンド」という副題の意味は、「格差是正を目的にして増税すると日本がデッド・エンドしますよ」ということだったのです。全体を読んだ後では、この副題も理解できますが、最初に見たときは一体何のことかと思いました。

 さて、こういう国家破綻本を読むと、日本の先行きが暗く思えてきます。では、乙は日本から逃げ出すべきでしょうか。いいえ、そうはしません。国家破綻が絶対ないとは言いきれませんが、ここ数年は大丈夫でしょうし、もしかすると20年くらいはそういうことにならないように思います。確たる根拠はありません。しかし、日本の現在の諸制度を考えると、破産宣言なんてできません。何かおかしいと思いつつも、国債を順次償却していくような道しかとりようがないと思いますが、それでも、日本は破産せずに何とかやって行けそうに思っています。20年くらいして破産するとしても、そのときは乙は退職していますから、日本にこだわる必要もないので、海外に移住することを考えると思います。

 場合にもよりますが、森木氏とはまったく逆の立場の、菊池英博(2005.12)『増税が日本を破壊する----本当は「財政危機ではない」これだけの理由』ダイヤモンド社
2006.4.14 http://otsu.seesaa.net/article/16553677.html
も合わせて読んでおくといいと思います。

 なお、森木氏のこの本は、他の光文社ペーパーバックスと同様に英語混じりの表記がなされています。しかし、これはかえって読みにくいと感じました。英語が邪魔をしています。名詞に英語の説明をつけるくらいならまだわかるのですが、p.114 では「細川内閣は税率7%とする国民福祉税構想を打ち出 make a plan したが、」などと書いてあり、とてもスムーズには読めないと思います。著者が書いた日本語原稿に、後から別の人が英語を付けたような感じです。余計なお世話のように感じました。


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2008年08月01日

太田創(2008.3)『ETF投資入門』日経BP社

 乙が読んだ本です。「上場投信・徹底活用ガイド」という副題が付いています。
 著者の太田創氏は、『7戦7勝 10万円から始める南山式 ETF(上場投信)投資術』
2006.7.23 http://otsu.seesaa.net/article/21235708.html
を書いた南山宏治氏と同一人物です。「南山宏治」のほうがペンネームだそうです。
 同じ分野の中で、同じ人が違う名前で上梓するのは、なるべく避けてもらいたいところです。名前で著者としての人格が同定されますから、違う名前ということは別人格ということになります。
 この本は、ETF に関して幅広く解説する趣旨の本です。
 pp.17-18 で ETF の市場規模について言及されています。あんなにたくさんの ETF が上場されているアメリカでも、実は、ミューチュアル・ファンドに比べれば、ETF は相当にマイナーな存在だという指摘があり、乙は驚きました。アメリカでさえ、4.1% を占めるに過ぎません。逆にいえば、95.9% がミューチュアル・ファンドというわけです。しかし、ETF 投資は確実に増えているわけですから、今後はもう少しメジャーなものになっていくと思われます。
 pp.102-106 では、ETF を使った短期投資が出てきます。数日間で行うスイングトレード、数週間から数ヶ月のポジショントレードが解説されます。確かに、コストが安いことを考えると、こういう手法も考えられないわけではありません。アメリカでも、もしかしたら、こういう投資手法が盛んなのかもしれません。こういう考え方もあるんだなあといったところでしょう。乙はバイ・アンド・ホールドを中心に考えていますが。
 pp.121-124 では、「ETF による国際分散投資ポートフォリオ組成」が説明されています。(1)ハイリスク・ハイリターン・ポートフォリオ、(2)オルタナティブ・ポートフォリオ、(3)分配重視型ポートフォリオの三つです。おや、先進国の ETF を適当な比率で買ってじっと持っておくポートフォリオがまったく説明されていません。pp.80-85 で、先進国の ETF にどんなものがあるかを説明しているから、それで十分だということなんでしょうか。乙はそうではないと思います。ここで先進国型をきちんと説明しておくべきだと思います。
 p.125 からは「ヒラメ戦術+ドルコスト平均法」が語られます。普段からドルコスト平均法で順次 ETF を購入しながら、年数回株価が下がることがあるので、そのときは手元資金を投入して多く買う方針だとのことです。まあ、この意義もわからなくはないのですが、この方針が一番トクかといえば、必ずしもそうではありません。インデックス投資の考え方からすれば、この方法では、投資しないで手元に置いておく現金が必要になり、その分、リターンが低くなってしまうと考えます。もちろん、株価が下がるときといっても、どこまで下がるかは誰もわかりませんから、どのタイミングでどれくらいの資金を投入するといいかはまったくわかりません。つまり、太田氏のやり方は理想かもしれないけれど、実際には実行困難だと思います。
 乙は、1冊読んできて、太田氏の考え方に違和感を感じました。
 本書で解説されている部分も、新しいことはあまりありません。(ETF がマイナーな存在だということは乙にとって新鮮でしたが。)本書は、解説書ですから、広く情報を集めてくればいいのでしょうが、すでに知っていることばかり並べられても、ありがたくはありません。日本で買えない ETF の話もたくさん出てきますが、では、こういうのを一体どうやって買うのでしょうか。もちろん、海外の証券会社に口座を開設すれば買えますが、それはそれで(一部の(多くの?)人には)大変な作業かもしれません。このあたりの記述はまったくありません。
 ミスプリも目に付きます。p.13 下から4行目では「最も」が2回繰り返されていますし、p.28 9行目では「のの」という繰り返しがあります。著者も何回か校正しているはずですし、編集者も(日経BP社の校正担当も)見ているはずですが、その結果として、こんなお粗末なミスが残るというのは仕事が雑だということを物語っています。
 ということで、本書はおすすめしません。こういう考え方もあるのだということを知れば十分でしょう。


ラベル:太田創 ETF
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2008年07月30日

田村正之(2008.5)『月光! マネー学』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「月光投資法」とは月の光のように、「ぎらぎら」せずに、着実に、安全に、心静かに資産を増やす方法だとのことです(p.4)。
 乙は、すでに、VMax さんのブログでこの本の存在を知っていたのですが、
2008.5.26 http://otsu.seesaa.net/article/97982899.html
http://max999.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_4176.html
実際に読んでみることにしました。
 第1章「月光投資法――持っているだけでリターンは年率 6.6%――」では、インデックス投資の基本的な方法を説きます。
 第2章「これが月光進化形――株価や為替変動のクセ、金融税制を押さえよう――」では、さまざまなアノマリーなどを解説しています。株価上昇期にはアクティブファンドの成績がインデックスよりもよくなる話は pp.85-89 に出てきます。なるほどと思いました。
 第3章「トホホな商品にサヨナラを――高手数料のワナに気をつけよう――」では、さまざまな金融商品を取り上げ、買ってはいけないと説きます。この中で、p.150 に、1ドル 360 円のころから銀行の為替手数料が1円だったという話が出てきます。乙は知りませんでした。360 円ならば、往復2円は 2/360=0.55%(正しくは 0.56%)にしかなりませんが、1ドル 100 円時代では 2% にもなります。銀行などがボロ儲けしようとしているありさまはこんなところにも現れています。為替手数料はすぐにでも 25 銭にするべきです。
 第4章「月光家計簿で堅実リターンを――医療、税金、ローン、年金のツボ――」は、医療費や税金がどのように安くなるかなど、生活の知恵のような内容です。

 全体として、「マネー学」というタイトルはその通りだと思いました。投資だけでなく、さまざまな側面に配慮して書かれた本です。ただし、すでに知られている知識を集めたような内容のように思えます。巻末の「謝辞」を読むと、たくさんの人に取材してまとめたようすがわかります。その意味では、あまりオリジナリティのある話ではなく、その限りにおいて、おすすめする本ではありません。
 しかし、日常接するお金関連の話題を幅広くカバーしているという点ではこれ1冊でかなりのことがわかる内容にもなっています。


ラベル:田村正之 月光
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2008年07月25日

副島隆彦(2008.3)『連鎖する大暴落』徳間書店

 乙が読んだ本です。「静かに恐慌化する世界」という副題が付いています。
 内容は過激です。読み始めてすぐの p.13 に本書の要約が出ています。ドル・円相場は、2008年末には100円割れを確定し、2009年は80円代、2010年は60円台になるということです。ニューヨークの株式は、1万ドル台を割って6000ドル台まで落ちていくそうです。一方、金(きん)は、東京市場でいうと、1グラムあたり今の3300円前後が倍の6000円を目指すというわけです。したがって、投資をする立場からいえば、アメリカからは逃げ出すべきで、金にシフトするのが正解だということになります。ついでにいえば、(pp.18-19 参照)日本株もアメリカ株の大暴落にあわせて下落していくとのことです。
 さて、こんな本を読んだ後、副島氏を信じてアメリカから逃げ出すべきでしょうか。
 p.17 では、前著『ドル覇権の崩壊』(2007.8.3 刊行)で、2007.8.17 の大暴落をあてたという自慢話が出てきます。「日本の株価はあまり下げない」と書いた点だけがはずしたというわけです。乙は、こういう話は、あまり信じないほうがいいと思います。本当に副島氏がアメリカ株の下落を予想しているならば、それに対して自己資金を投入すればいいのです。たとえば、
http://www.doblog.com/weblog/myblog/31550/2619819#2619819
にあるように、
Ultra Short Dow 30 (DXD)
Ultra Short S&P 500 (SDS)
Ultra Short QQQ (QID)
あたりを買えばいいのです。
 ドルの価値がなくなること(ドル安)を予想しているときに、ドル建て資産を持つなんてできないというならば、FX(外国為替証拠金取引)を利用して、ドルの売りポジションを取ればいいのです。FXならば、レバレッジを効かせることも簡単ですから、20倍とか(業者によりますが)100倍とかのレバレッジが可能です。
 1500円の本を書いて、1万部売れたとすると、印税は(普通 10% ですから)150万円です。FXで100万円預けて、レバレッジ20倍で1ドル100円でドルを売れば、20万ドル相当になりますから、1ドルが60円になれば、20万ドル分で800万円の儲けが出ます。本を書くよりもはるかに大きな儲けが期待されます。
 予言者は、予言本を書くよりも、自分で実行するべきです。それが予言を金に換える方法です。
 こんな有利な話がころがっているのに、なぜ副島氏はそういう戦略をとらないで、手間暇をかけて本を書いたりするのでしょうか。この点は乙が理解できないことです。
 p.209 では、資金がなくて借金したお金で「売り」をしてはいけないと書かれています。レバレッジを効かせることも「借金」の一種ですから、副島氏はFXはやらないのでしょうかね。それにしてももったいないことです。
 p.38 では、アメリカの株式大暴落について、4月15日、7月15日、10月15日、2009年1月15日と3ヵ月ごとに起こるとしています。これはすばらしい! 1年後に検証してみたいと思います。
 乙は、こういう検証(しかるべき時間が経った後の検証)が大好きです。たとえば、
2006.12.13 http://otsu.seesaa.net/article/29525783.html
などに書きました。
 p.80 では、アメリカの借金について、40兆ドルと断定的に述べています。しかし、その根拠は一切示されません。
 pp.96-97 アメリカの株価は、数年後には3000ドル台まで下がるとしています。p.13 では、アメリカ株の大暴落について、時期が明示されませんでしたが、この記述から、6000ドル台になるのは「数年後」よりも早いということになります。
 pp.210-214 ドルが60円台になり、ニューヨークダウが3000ドル台になる根拠について書かれています。何と「波」だそうです。コンドラチェフの波やクズネッツの波などを挙げています。こういう「波」は、今までの周期が繰り返されるという点で、テクニカル分析と同じことです。信じる・信じないは個人の自由ですが、こういうものを根拠にして、こんなにも断定的にものを言ってしまっていいものでしょうか。

 本書は、全体に、断定的な語り口が気になります。ロックフェラー流の陰謀だという話や、オバマ次期大統領が公共投資に走るということなど、話としてはおもしろいのですが、乙は、そういう話には「根拠」が必要だと思います。スパッと社会を切って見せて、「自分の見方で世の中を見れば、これこの通りなんだ」というのは簡単でしょう。結果的にそれが「あたる」こともあるでしょう。しかし、投資のように将来(かなり遠い未来)にかけるような話のときは、そういう「話」だけではあまりにも不確実です。乙は、多くのインデックス投資本のように、データ(根拠)を示して、こういう投資法が良いと述べてあるものが望ましいと思えます。
 さて、こんな本を読んだ後、副島氏を信じてアメリカから逃げ出すべきでしょうか。乙は逃げ出しません。


ラベル:副島隆彦 大暴落
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2008年07月23日

川口一晃(2008.4)『これでわかった!投資信託』(PHPビジネス新書)PHP研究所

 乙が読んだ本です。「投資のプロが教える、ファンドの常識と賢い運用方法」という副題が付いています。
 投資信託についていろいろ書いてある本かと思ったのですが、それは、第1章「そもそも投資信託とは何か?」と第5章「投資信託の賢い選び方」で尽きています。実際に読んでおもしろいのは、第2章「投資信託の4人の主人公」の p.92 以降で、著者の川口氏がファンドマネージャーとしてどんなふうに行動してきたかを書いている部分と、第3章「ファンドマネージャーの実像」です。つまり、この本はファンドマネージャーを描いた本だと見ればそれなりにおもしろい本だと思います。川口氏はファンドマネージャーとしての経験がある人なのですから、その経験談を書いた部分がおもしろいのは当然でしょう。
 ファンドマネージャーとしては、当然、アクティブファンドを手がけたいということになります。第3章の記述でもそれがうかがわれます。
 一方、第5章では、投資家の年代別に分けた「選ぶべき投資信託」を示していますが、インデックス・ファンドが全部の年代に入っており、投資家からの視点と、ファンドマネージャーからの視点は違うことがよくわかります。
 さて、本書で乙がいちばん驚いたのは、p.18 です。ペンタゴンチャートを用いて株価の騰落を予想しているというのです。これは、まさにテクニカル分析そのものです。ファンドマネージャーがテクニカル分析を行っているのです! これは衝撃の事実でした。著者には、別に『ペンタゴンチャート入門』という著書があるので、詳しくはそちらを読まないとわかりませんが、インデックス・ファンドを勧める立場と、テクニカル分析を行う立場は、相容れないものではないでしょうか。自分の中で矛盾は感じないのでしょうか。
 また、p.51 の株式投信一覧の図にも驚きました。国内株式型は、アクティブ運用型とパッシブ運用型に区分していますが、海外株式型はインデックス連動型とグローバル型と地域型に区分しているのです。「パッシブ運用型」と「インデックス連動型」は同じものではないでしょうか。なぜ違う命名をするのか、わかりませんでした。また、海外株式型の3区分も、よく考えると変で、グローバル型(いろいろな地域の株に投資するタイプ)と地域型(特定の地域の株に投資するタイプ)の区別は理解できますが、インデックス連動型というのは、グローバル型でも地域型でもあるのであって、同様に、アクティブ運用型でも、その中にグローバル型と地域型があるように思います。つまり、海外株式型をこのような3分類すること自体が変だと思います。
 乙がおもしろく思ったことは、第5章の年代別投資方針です。20代〜30代中盤までは、ハイリスク・ハイリターン型で「攻め」の運用を心がけますが、30代中盤〜40代中盤では、ミドルリスク・ミドルリターン型で「効果的な運用」(乙はその中身が理解できませんが)を心がけ、40代中盤〜60代では、ふたたびハイリスク・ハイリターン型で「攻め」の運用を心がけるのだそうです。そんなに変えなくてもよさそうに思いますが、若年層と高年層で同じ考え方を推薦している(ただし、投資するべき比率が両者では違うのですが)ということがおもしろかったです。まあ、その根拠となると、はっきりしませんので、あくまで著者の川口氏の意見というだけのことではあります。
 全体として、あまりおすすめできるものではないと感じました。ファンドマネージャーに絞った内容であれば、もっとずっとおもしろいものになったのに、わかりきったような投資信託の解説を含めたために、かえって性格が中途半端なものになってしまったように思います。
 具体的な指摘は省略しますが、新書の短い体裁でありながら、けっこう誤字があることにも違和感がありました。


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2008年07月21日

高橋洋一(2007.10)『財投改革の経済学』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 前書きによれば、本書は千葉商科大学に提出した博士論文がベースになっているとのことですから、学問的なレベルにある本といえるでしょう。実際、いろいろなことが前提になっており、細かい説明は省略されています。乙のようなシロートが読む本ではないようです。
 乙は第9章だけ読みました。ここが一番関心があったからです。
 p.197 日本政府には負債も多いけれど、実は資産も多いということで、他国とは状況が違うということです。なるほど、乙はこういう視点は持っていませんでした。いたずらに国家財政の危機を煽る人は、この事実をどう考えているのでしょうか。
 p.201 (1) の数式ですが、間違いが二つ含まれています。「B(T)」は「P(T)」にするべきです。また、分母の右端に「)」を追加するべきです。数式は、自分の考えを明確な形で表現する方法ですから、これに間違いがあるということは、致命的なことであると思います。本文中の単なるミスプリとはわけが違います。
 p.215 定額郵貯の正しい見方が示されています。「金融界は、定額郵貯を安全、高利かつ高い流動性を併せ持つ経済非合理的な商品であると批判してきたが、安全とは国債と同程度、高利とは銀行預金金利が低すぎること、高い流動性とは解約オプションという意味で国債とオプションの組合せという経済合理的なハイテク金融商品であったわけだ。」
 いかがですか。この1段落で定額郵貯の仕組みを明確に物語ってしまいました。
 さらに、この段落には注9)がついていて、次のように述べます。「民間金融機関でも、定額郵貯と類似したハイテク預金を開発できたはずだ。しかしながら、定額郵貯を非合理的な商品であると批判してきたことや従来型の預金でも低利な資金調達が可能であったことから、定額郵貯と類似したハイテク預金について、民間金融機関は積極的ではなかったのだろう。」
 さらに、p.217 では、1990年代における郵貯シフト(郵貯に資金が集まったこと)は、銀行が努力しないことが原因だとしています。。
 高橋氏は元財務相のお役人ですから、過去の日本政府の政策を批判することはしづらく、どちらかというと肯定的に見るバイアスがあるとは思いますが、それでも、この言い方は興味深いものがあります。

 他の部分を読まないで、第9章だけ読んでもあまり意味はありません。しかし、今は時間がないので、残りはまたの機会に読むことにしましょう。


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2008年07月14日

高橋洋一(2008.3)『さらば財務省!』講談社

 乙の読んだ本です。「官僚すべてを敵にした男の告白」という副題が付いています。
 ここのところの政治の動きが手に取るようにわかる本で、小泉、安部、福田の各総理がどんなことを考えていたかが赤裸々に描かれます。すべて、1人の財務省官僚の視点から記述しています。本書では、ものごとを客観的に書くというよりも、1人の視点を前面に出していますから、ある程度の自己弁護や自己満足、さらにはいいわけがましさがあったりするかもしれません。読むときはそのあたりを割り引いて読むべきでしょう。
 さて、乙がこの本を読もうと思ったのは、わんだぁさんのブログ
http://wanderer.exblog.jp/7011954/
を見たからです。
 日本は財政危機ではないとのことです。本書では pp.191-194 に出てきます。こんな考え方もあるのかといった軽いショックを受けました。
 浅井隆氏のような日本の財政危機をあおり立てる人の著作を読み、乙は単純にそう信じてしまいましたが、高橋氏の記述を読むと、財政危機ではないとする考え方のほうが正しいと思えるようになりました。
 p.183 では、日本の年金は破綻状態ですが、特別会計の裏にある「埋蔵金」が50兆円あるとのことです。すごい額です。これだけで判断するわけではありませんが、日本は財政危機でも何でもないと思えてきました。財務省のいう財政危機説は単に増税を成し遂げるためだけの詭弁に過ぎません。
 毎年度の予算を議会で審議している以上、乙はそんなに簡単に日本の国家財政が破綻するとも思えなかったのですが、本書でやっと自信がつきました。

 著者の高橋氏は、東大の数学科を出ている秀才とのことですから、確率に関してシロートがあれこれいうのもはばかられますが、ちょっと気になる記述が出てきます。p.261 で年金の間違いの確率を論じているところです。1段落を引用します。
 あらゆる手立てを講じて、確率をゼロまでにしたとしよう。多くの人は確率ゼロだからもう間違いは起こらないと考えるだろうが、確率論の世界では、確率ゼロと、起こらないこととは、イコールではない。確率ゼロとは、ほとんど起こらないという状態でしかない。

 これは、変な記述だと思います。
 あらゆる手段を講じていくと、間違いの確率が(0.01 さらには 0.0000001 などと)小さくなることはあっても、ゼロにはならないと考えるべきではないでしょうか。確率がゼロになれば、間違いは起こらないと解釈するのが正しいと思います。確率論の世界では、確率がゼロと、起こらないこととはイコールだと思います。
 もしかして、0.000000000000000001 のようなものを確率ゼロと表現するのでしょうか。乙は、そんな確率論の本を読んだことがありません。


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2008年07月12日

大村大次郎(2007.10)『なぜあのサラリーマンは税金を払っていないのか』リヨン社

 乙が読んだ本です。「家・クルマ身のまわりの税金を安くする驚きの方法満載!!」という副題が付いています。
 序章「日本は脱税天国だ」では、いろいろな脱税の例が出てきて、そうか、この本は脱税の本なのかと思いました。それはそれでおもしろい話です。
 p.31 には「消費税というものは、人件費が大きな企業ほどたくさん払う仕組みになっている。」という文がいきなり出てきます。文脈なしでは、この文が何をいいたいのか、よくわかりませんでした。実は、第5章まで読み進めると、理解できます。序章は、他の章が書き上がった後に追加して書かれたものなのでしょう。
 第1章「サラリーマンこそ節税するべき」からは、脱税でなく、まじめな節税の話になります。p.44 で、自営業の経費というのは、非常に広範囲に認められていることを述べ、p.45 で、自営業の経費率が平均で 60% 程度だと述べています。乙はこういう事実を知りませんでした。この 60% という値は本書中で何回も繰り返されますから、事実なのでしょう。ということは、給与所得では活用法がありませんが、雑所得の経費をかなり高めにしてもいいということです。乙が過去に聞いた話では、必要経費を 30% くらいにしておけば、税務署が証拠なしで認めるということでした。それ以上は、領収書などをきちんと保存しておかないといけないとのことでした。毎年、領収書を保存・整理していますが、経費率は 60% くらいはいきそうで、年によってはもっと高くなることもあります。このあたり、日常的にもっとがんばる余地がありそうに思えてきました。来年の確定申告から、さらに努力してみましょう。
 第2章「源泉徴収の抜け穴」と第3章「あなたは税金を払いすぎていないか?」、および第4章「家、車、身のまわりの税金を安くする」は、各種の節税の知識ですが、乙にとって目新しいことは何もなく、読んでいながら退屈でした。当たり前のことが並んでいるだけです。
 ただし、p.159 で、定年後は海外に住民票を移すという話がおもしろかったです。住民税は1月1日現在の居住地でかかってきます。定年後1年目は、収入が激減するのに、前年の収入に応じた住民税がかかってくるので、負担感が大きいわけで、だからこそ、定年1年目は海外に住民票を移すといいのだそうです。まあ、定年後に長期海外旅行を考えているような人は、いっそのこと、こんな選択肢を選ぶこともいいかもしれません。
 第5章「会社と協力すれば税金は飛躍的に安くなる」は大変おもしろかったです。会社から給料としてもらって、その中からいろいろ買うことにすると、いわば税金を負担した後のお金で買うことになる、会社に買ってもらって、その分の給料を安くしてもらうと、労働者側は税金分だけ安くなり、会社も、消費税の関係で得をするというのです。このわざは、大企業では無理かもしれませんが、個人企業や家族企業では有力な手段です。会社を作ると得をするというのはこういったことなんでしょうね。乙は、こんな工夫を知りませんでした。
 本がおもしろいかどうかは、その段階での読者の知識によるのだなあと思いました。
 第6章「あなたの知らない税務署の秘密」は、「秘密」というべきことは書いてなく、まあ、当たり前の内容です。
 というわけで、本書全体を評価すれば、そんなに新鮮味があるわけではないし、かなり常識的な話でした。タイトルにある「なぜあのサラリーマンは税金を払っていないのか」は、キャッチーなコピーで、思わず手に取ってしまう人がいるでしょうし、出版社としてもそれをねらっているのでしょうが、実際は「節税術」であって、それを誇張したタイトルになっているだけです。
 裏表紙には著者紹介がありますが、「主に法人税担当調査官として10年間国税庁に勤務する。」とあります。なるほど、元国税庁の人ならば、極端な節税術(さらには脱税術)を書くはずもありません。タイトルに引かれてこの本を選んでしまったのは失敗だったかもしれません。


ラベル:大村大次郎 税金
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2008年07月09日

坂口孝則(2008.1)『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。「「利益」と「仕入れ」の仁義なき経済学」という副題が付いています。
 著者の坂口氏は現役のバイヤーかつ調達業務研究家だそうです。本書は、したがって、仕入れ(バイヤー)の話が語られます。
 本書中のあちこちに出てくる具体的な経験談はおもしろいと思いました。やはり、その業種に長らく身を置いた人ならではの話が聞けるというところが本書の最大の売りでしょう。
 しかし、読後に考えてみると、実際には、そのような体験談は大したことがないのかもしれないと感じるようになりました。つまり、当然のことを述べているだけではないかということです。本書は、全体としてはわかりやすいし、新書としてはそれでいいのかもしれませんが、乙としては、もう一歩踏み込んでほしいなあと思いました。
 第1章は、各商品の原価と利益率の考え方が出ています。企業の決算書などから推定していますので、たぶん、この考え方でいいのだろうと思います。これが本のタイトルにもなっていて、牛丼1杯で9円しか儲からないということです。それ以外に、ブランドバッグ、高級テレビ、コーヒー、自動車などの原価(の推定値)があかされます。
 第2章は、「利益を生む「工夫」と「不正」の微妙な関係」ということで、工夫と不正にまたがる話を扱っています。具体的・現実的な方策も載っていて、たいへん興味深いと思いました。それにしても、もう少し理論的に説明できないものかと感じました。
 第3章は、「値段をめぐる仁義なき戦い」ということで、さまざまな失敗談などが語られます。しかし、あっと驚くような話はあまりありません。
 第4章は、「利益と仕入れの無限の可能性」です。バイヤーの観点からさまざまな提言がありますが、これらも、まあ、常識的な話のように思います。
 巻末には、参考文献が1冊も挙げられていません。実務書だから当然とも言えます。
 全体としては、乙はあまりおもしろく感じられませんでした。タイトルに引かれて読んでしまったに過ぎません。図書館で借りて、自分の懐がいたんだわけではないから、まあいいとしましょうか。いや、やっぱり、自分の時間を使ってしまったという点で、マイナスだったかもしれません。


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2008年07月03日

朝倉智也(2007.12)『投資信託選びでもっと知りたいこと』ランダムハウス講談社

 乙が読んだ本です。
 朝倉氏の前著『投資信託選びでいちばん知りたいこと』
2006.5.7 http://otsu.seesaa.net/article/17479870.html
に深く関連する内容となっています。
 コア投信として、前著で述べたような日本株、外国株、日本債券、外国債券の四つに投資した上に、サポート投信としてさらにいくつかの種類の投信を保有する場合に、どんなことを考えておいたらいいかを述べたものです。
 そこで、本書では第3章「サポート投信はこう選ぶ!」(pp.96-169)が中心的な内容ということになります。はっきりいえば、この74ページ分だけ読めばもう十分です。
 p.101- 国際 REIT 投信の選び方では、低コスト、高リターンということだけでなく、広く分散されていることを基準にしています。
 p.127- コモディティ投信の選び方では、低コスト、高リターンに加えて、参照指数が何であるかを基準にしています。
 p.143- 新興国株式投信の選び方では、分散投資、償還期間、運用・調査体制を基準にしています。ただし、p.158 では、いきなりファンド・オブ・ファンズの話になってしまい、実際のコストはもっとかかるのではないかという疑問がわきました。また、ファンド・オブ・ファンズで、調査体制などが判断できるのかという点が疑問に思いました。
 p.160- では、ヘッジファンドの選び方というのもありますが、ここでは省略します。
 さて、このように、いくつかのサポート投信について、具体的に調べ方の手順なども示しているのですが、良くも悪しくも、モーニングスターのサイトを使うようになっています。朝倉氏がモーニングスター株式会社の代表取締役 COO である以上、それはしかたがないことかと思います。
 しかし、そのために、本書には書かれていない大きな問題があるのです。それが ETF です。乙は、ETF も投資信託の一種であると思いますし、それなりにメリットがあると思いますが、本書では扱われていません。pp.153-154 あたりでは、いくつかの新興国株の投信の比較を行っていますが、ETF(ここではその中の EEM を取り上げるべきでしょうが)も加えて比較すれば ETF のほうが有利という結果になるのではないでしょうか。
 第4章「経済がわかる投資家になる」では、経済の大局がわかる投資家になろうという趣旨で、さまざまな経済ニュースと投資スタンスの関係などを論じているのですが、乙は、この章の趣旨がよく理解できませんでした。
 こうして経済の動きがわかったとして、では具体的にどうしたらいいのでしょうか。
 たとえば、p.174 では、先行きの相場を予想して、保有する投信を頻繁に売買したり、入れ替えたりしてはいけないと説きます。だったら、第4章の記述全体が不要なのではないでしょうか。
 第4章は、全体として、投信の基準価額の上下を他の事象と関連付けて説明しようとしています。だとしたら、p.174 の態度と矛盾するように思えます。
 なお、p.178 では、GDP と株価のグラフを重ね合わせて「同じような動きをする」としていますが、このグラフを見ても、乙は似ているとは思えませんでした。特に、特定の数年間のところに楕円形を書いて「動きが似ている」と書いていますが、そういう態度はよろしくないと思います。もっと長い期間に対して相関係数でも計算しておいたほうが説得力があったでしょう。
 本書は、いきなり読むべき本ではありません。まずは前著を読んで、次に読むべきものです。


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2008年06月26日

西野武彦(2007.12)『貯める、殖やす、守るためのゼロからわかる投資信託』PHP研究所

 乙が読んだ本です。
 投資信託の入門書といった感じです。内容は、まあわかりやすいと思いますが、この本を入門書として他人に勧めようとは思いません。いろいろな問題点があります。

(1)信託報酬の問題
 p.85 「購入した投資信託を保有し続けると、毎年1回は信託報酬という名前の手数料を取られます。」とあります。乙は我が目を疑いました。この記述はミスではありません。p.92 には「信託報酬は毎年1回、基準価額から引き落とされます。」とあるのです。正しくは、信託報酬は毎日少しずつ引き落とされると考えるべきです。こういう誤解をしているということだけで、その人の書いたものは全部がうさんくさく思えてしまいます。

(2)投資のタイミング
 西野氏は、投資のタイミングが大事だといいます。p.22 では、「投資家は景気や株式相場、債券相場、為替相場など全体の流れに注目し、相場が今後どう動くかを予想すればいいだけです。」と述べています。そして、p.23「投資信託ではいつでも自由に売買できる商品が多いため、タイミングの良い売買が可能になります。」といいます。つまり、投資のタイミングがわかるという前提に立っています。タイミングを考えて投資信託を売買するというわけです。
 pp.180-182 でも、タイミングがわかるということが繰り返されていますので、これは西野氏の信念です。
 インデックス投資の考え方からすれば、投資のタイミングは、どんなプロでさえもわからないとされます。乙は、かなりインデックスファンド教の教えを信じていますから、西野氏の主張を疑います。
 ふと気づくと、西野氏は『株の「買い時」「売り時」がわかる本』などという本を書いているんですね。
 西野氏の主張は一貫しているというべきでしょう。

(3)長期投資
 pp.39-40 で、株式投資における長期投資は2〜3年としています。乙は、たった2〜3年が長期だとすることに驚きました。
 pp.183-185 では、株式投資信託を10年、20年も保有し続けることを否定しています。こういう投資は、値上がりがあることもあるが、大暴落にも見舞われ、儲からないし、信託報酬が(1年あたり 1.5% としても)10年で 15% もかかってしまうから、高すぎるというのです。
 このような「長期投資」の考え方は、(2)で述べたタイミングがわかるとする考え方と一致しています。
 つまり、西野氏はアクティブ・ファンドに対する投資をすすめていると解釈できます。
 インデックス投資の考え方からすれば、安い信託報酬の投資信託を10年も20年も保有し続けることがベストだということになります。

(4)騰落の理由
 p.147 では、次のように述べます。「以前に発売された投資信託を購入する場合には、基準価額が値上がりした理由、値下がりした理由をよく調べることも必要です。」基準価額の騰落の理由は、よく調べればわかるのでしょうか。乙は、これはきわめてむずかしいと考えます。もちろん、事後的に、ああだこうだともっともらしく講釈をたれることはできます。しかし、そのようなことを調べて、理由がわかったとしても、今後の投資方針に活かすことはできないのではないでしょうか。

(5)投資先の選択
 p.106 では、外国株に投資するなら、BRICs、特に中国とインドをすすめるとのことです。そしてアメリカ株を否定的に見ています。
 pp.193-194 では、中国株と日本株を有望とし、p.200 では米国株を否定的に見ています。
 主張が一貫しているのはいいのですが、問題は、なぜそのような見方をするのか、その根拠が上げられていないことです。単に、中国(やインド)の高い経済成長が期待されるから、アメリカはバブルだからというだけです。こういう理由だけでは、主張の根拠にはなりません。シーゲルの「成長の罠」
2008.4.7 http://otsu.seesaa.net/article/92505039.html
という考え方(高い成長が期待される国の株式に対する投資が必ずしも好成績になるとは限らない)のほうが、具体的な根拠を示しているという点で、説得力があります。

(6)朝三暮四
 p.133 で、毎月分配型投信を朝三暮四ということわざにぴったりだとしています。このたとえは、乙にはまったく理解できませんでした。
 西野氏は「分配金を先にもらうか、もっと増やして、後でもらうか。」と述べていますので、両者はどちらでも同じことだということで、朝三暮四にあてはまると考えているようですが、分配金を先にもらうほうが不利なことは明らかですから、朝三暮四の例ではありません。
 「学研国語大辞典」の「朝三暮四」の項を見ると、「目の前の差別にばかりこだわって結果が同じになることに気づかないこと。また、ことばたくみに人をだますこと。」とあります。「また、」以降の意味ならば、投信会社が投資家をだましているということで、当てはまるかもしれません。しかし、本文を読む限りでは、こういう考え方は読み取れません。

 ここに挙げたようないくつかの理由から、この本は誤解を招きかねない本だと思います。投資の初心者への入門書とうたっていますが、初心者が読むには適さないと思います。


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2008年06月22日

バートン・マルキール他(2008.3)『中国株投資の王道』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「ウォール街から万里の長城へ」という副題が付いています。
 『ウォール街のランダム・ウォーカー』
2006.8.6 http://otsu.seesaa.net/article/21985368.html
を書いたバートン・マルキールの本だということで、興味を持って読みました。
 しかし、全部をマルキールが書いたわけではなく、著者としてはパトリシア・テイラー、梅建平、楊鋭という3人の名前も挙がっています。実際、このような中国株投資の本を(アメリカ人が)1人で書くのは大変だったことでしょう。こういう本の常道ですが、表紙や背表紙には、有名人の著者の名前を大きく書き、後の3人の名前は小さく書いています。奥付は「B・マルキールほか」という表記です。これでは他の3人がかわいそうです。平等に扱うのが当たり前だと思います。
 第1部は「中国はまだまだ進化する」ということで、経済を中心とした歴史的な流れの概説です。なかなかおもしろく読みました。乙の不勉強のせいで、世界史の時間に勉強して以来、こんなまとまった記述はあまり読んだ記憶がありません。驚異の成長もある一方で、リスクもいろいろあり、それをきちんと記述しています。
 第2部は「中国株に乗らない手はない」ということで、中国株の超楽観論が展開されます。これぞ投資本といったところでしょう。
 p.134 B株は外国人用ですが、もともとは中国本土以外に住む中国人投資家がねらいだったとのことで、これは知りませんでした。
 p.152 中国株A株の非効率性を述べています。統計的検証の結果だそうですが、乙はこの意見に賛成です。
 p.153 中国では上場企業の89%が粉飾決算をしていた(1999年の財務省の調査結果)とのことで、まさに口あんぐりの結果です。これでは、何があっても不思議ではありません。
 pp.161-164 中国A株では、プロのファンドマネージャーは市場平均を一貫して上回るとのことです。非効率な市場ならではの現象でしょう。pp.164-165 のように、H株は効率的だそうですから、乙のようにH株に投資している人間にとってはほっとする結果です。
 pp.171-200 中国株の超楽観論が語られます。こういうのを読んでいると、中国株に投資したくなります。p.172 には、中国の高い経済成長は、必ずしも中国株の高いリターンにはつながらないという話が出てきます。気をつけるべきところです。乙はこの点、以前は誤解していました。
 第3部は「マルキール博士の中国株戦略」で、具体的な投資方法が説明されます。世界分散投資の一部として中国株を組み入れることを説き、時間の分散(ドルコスト平均法)や、年齢などに応じた債券と株の比率なども踏まえ、真っ当な投資とはこういうものかと考えさせられます。
 中でもおもしろいのは、p.250 で中国A株の投資はアクティブ・ファンドでいいと述べているところです。p.259 では、香港ならばインデックス投資もありと述べており、市場の種類(効率性)によって取る戦略が違ってくるとしているところは興味深かったです。
 p.323 では、インデックス ETF として GXC をすすめています。もう一つは EWH です。ほほう、そうですか。まあ、あまり詳しく書くとこの本を読む必要がなくなりますからやめておきましょう。
 ともあれ、本格的な中国株の投資本です。
 乙は、こんなことも知らずに、本屋さんで買ってきた中国株の本を読み、中国株を買い付けたのでした。
2006.4.17 http://otsu.seesaa.net/article/16667817.html
その後、個別銘柄よりも ETF のほうがいいのではないかと考えるようになり、
2006.11.3 http://otsu.seesaa.net/article/26682914.html
2006.11.4 http://otsu.seesaa.net/article/26736371.html
2006.11.5 http://otsu.seesaa.net/article/26796311.html
2006.12.12 http://otsu.seesaa.net/article/29466140.html
保有する中国株をユナイテッドワールド証券から HSBC 香港に移管し、
2007.1.13 http://otsu.seesaa.net/article/31320494.html
2007.1.14 http://otsu.seesaa.net/article/31372057.html
2007.1.20 http://otsu.seesaa.net/article/31735618.html
個別株から ETF に乗り換えました。
2007.10.23 http://otsu.seesaa.net/article/62004596.html
 こんな乙の中国株投資の変遷を考えると、もっと早くこの本に巡りあっていれば、違う考え方になったのにと思いました。しかし、2008年3月刊行では、それ以前に巡りあうことはなかったはずですが。
 ともあれ、投資の基本原則を再認識させてくれ、その中で中国株投資をどうしたらいいかを考えさせてくれる本でした。


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2008年06月14日

山崎養世(2008.3)『道路問題を解く』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「ガソリン税、道路財源、高速道路の答え」という副題が付いています。
 高速道路無料化を説きます。
 しかし、本質は、高速道路にあるのではなく、それを通じて日本の経済のあり方を考え、さらには、政治のあり方を考えるところにあります。
 おもしろくて、乙は一気に読んでしまいました。とにかく、読むと気分が明るくなる本です。
 こんなことが実現できたらいいなあと(単純ですが)思いました。山崎氏は大きなビジョンがあります。こういう人が総理大臣にでもなったら、日本の政治は根本から変わるような気がしますが、まあ、百年河清を待つような話でしょう。
 高速道路無料化は、実際に実現可能な政策だと思いますが、乙がたった一つ心配なのは、かなり通行料が高い現在でも高速道路はしばしば渋滞があるのに、無料化したら、それこそ全線が渋滞だらけにならないのかという点です。用もないのに遠方に行く人はいないはずですが、一方で、高速道路を無料化したら、どう考えても利用者は増えるに決まっています。山崎氏も、使われない高速道路を造ることはムダであり、高速道路はみんなが使うことによって日本全体に大きな効果をもたらすものだとしていますから、利用者増は当然のことです。
 高速道路無料化は、高速道路の一般国道化と同義ですから、そういう制度にしてクルマが集中したら、現在のような渋滞だらけの国道がもう1本増えるだけで、早く走れるという高速道路のメリットが全然なくなってしまいます。つまりは、高速道路が高速道路でなくなってしまうのです。
 乙は、東京在住ですから、他の地域のことは知りませんが、東名・中央・関越などは、現在でも東京近辺ではかなり混雑しています。山崎氏は、首都高速や阪神高速は(混雑を防ぐために)有料のままにしようとしていますが、高速道路が首都高速に接続するあたりでは、無料化によって大量のクルマが押し寄せるように思います。5月の連休のときや、正月休みのときなど、現在でも高速道路にクルマの長い列が続き、テレビなどでも報道されますが、高速道路が無料化されたら、これがいっそうひどくなるでしょう。
 本書中では、この問題に触れていませんが、きちんとしたシミュレーションが必要ではないでしょうか。

 なお、1冊読む時間がない人は、「山崎養世の「東奔西走」」の中の「高速道路は無料にできる」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071009/137073/
を読むと、エッセンスがわかります。こちらなら、たった4ページですから、手軽に(しかも無料で)読めます。

 山崎養世氏について、さらに知りたい人はブログなどへどうぞ。
http://blog.livedoor.jp/zackyamazaki/
http://www.yamazaki-online.jp/index.php
http://business.nikkeibp.co.jp/bns/bnclm.jsp?TOPID=135842


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2008年06月10日

海外投資を楽しむ会(2006.6)『海外投資実践マニュアル3 オフショア』オルタ・インベスト・コム

 乙が読んだ本です。「Internaxx証券/オフショアファンド」という副題が付いています。
 目次は
http://www.tradersshop.com/bin/showprod?c=9784775940112
にあるので、ご参照ください。
 Part1「オフショアの基礎知識」は、簡単なイントロダクションです。
 Part2「Internaxx (インタナクス) 証券」からが本題です。
 Internaxx 証券を利用して世界の株に投資しようということで、口座開設の手順やその後のファンドの売買手順などを詳しく説明しています。本書の価値は、まさにここにあるといえましょう。
 では、Internaxx 証券経由の投資はどういうところに利点があるでしょうか。実はここが一番わからなかったところです。p.20 からこの証券会社のサービス内容を述べています。p.21 には、株式の売買手数料が書いてありますが、5000 ユーロ以下で、手数料 28 ユーロだそうです。約 5000 円です。けっこう高いと思います。かなりの資金を投資する場合は、それなりの意味がありますが、1000 万円程度の資金を運用するのでは、あまりメリットはないように感じました。
 乙がヨーロッパの株を買うとしたら、Interactive Brokers を利用すると思いますが、こちらのほうが手数料が安いです。
 p.37 からは、口座開設時の最初の資金の送金方法が説明されています。不思議な送金方法があったものです。マニュアルがなかったら、けっこうまごつくところでしょう。
 その他、各種取引手順について丁寧で具体的な説明がなされており、まさに「マニュアル」と言っていいでしょう。ここまで丁寧に説明する必要があるのだろうかと思うくらいに徹底しています。
 p.76 では、Man のファンドに投資する代わりに Man 社の株を買う方法が説明されます。乙は、この考え方を橘玲氏の本
2008.5.29 http://otsu.seesaa.net/article/98372824.html
で初めて知りましたが、ここが初出だったんですね。
 Part3 は「Funds-SP.com」(スタンダード&プアーズ)の使い方を説明しています。Part4 は「FT.com 」(フィナンシャル・タイムズ)の使い方を説明しています。いずれも、サイトの説明ですが、実際にアクセスすればわかりそうな内容です。これで約 90 ページを費やしていますが、全体が 233 ページということを考えると、ちょっと(かなり)もったいないように思いました。
 Part5「オフショアファンドの購入方法」もあまりパッとしません。ネット画面を貼り付けて日本語で説明しているといった感じです。香港の銀行あるいは証券会社経由で購入する方法と、直接購入する方法とが説明されますが、さほど目新しい情報はありませんでした。
 Part6「Internaxx 証券 [デリバティブ編]」は、文字通りデリバティブを活用しようとする人のための記述で、乙には絵に描いた餅でした。
 本のサイズがA4と大きいのですが、それは、パソコンの画面(WWW にアクセスした画面)をそのまま多数収録するためだったようです。このサイズは、ちと扱いに困ります。
 大きくて厚みのある本ですが、内容には、かなりがっかりしてしまいました。乙は、あまりまじめに通読する気にもなれませんでした。
 定価は 8400 円です。乙は、図書館で借りましたから無料でしたが、もしも自腹を切って買っていたらさぞや悔しい思いをしたことでしょう。


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2008年06月07日

マイケル・J・モーブッシン(2007.2)『投資の科学』日経BP社

 乙が読んだ本です。「あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い」という副題が付いています。
 全体は30章からなり、確率論や企業の成長など、投資に関連するような話題がいろいろ書いてあります。
 ……というようなことでこの記事を書こうと思ったのですが、残念ながら、そういう面は少なく、実に多様な方面の科学全般の話が語られます。アリや野球やカジノの話など、すべて一貫したとらえ方がなされており、おもしろいと言えばおもしろいし、身近な話題を扱っていると言えばその通りなのですが、乙はやや不満を感じました。全体で 240 ページほどの本ですから、各章8ページということになります。それぞれの話題がやや突っ込み不足の感は否めません。実のところ、乙は読み通すことができず、途中から飛ばし飛ばし読むことにしました。したがって、今回の記事は、必ずしも正鵠を射るものではありません。(そんなことを言ったら、今までに乙が書いた「投資関連本」のカテゴリーの記事全部が正鵠を射ていないと言われそうですが……。)
 乙が、投資に関連しておもしろいと思ったところもいくつかあります。
 第16章は、「成長のS字カーブ」です。
 p.134 企業の成長はS字カーブでモデル化することができるという話です。そして、人々は、しばしば企業の成長がどの段階であるかをきちんと見分けられず、間違った認識のもとに投資を行ってしまうとしています。なるほど、投資家の陥りやすい失敗例を描いているように思います。
 pp.135-136 新しい会社は、投資家にしばしば高いトータルリターンをもたらしますが、それは新規参入から5年程度の話であり、その後はだんだん平均並みになるということです。シーゲルの「成長の罠」
2008.4.7 http://otsu.seesaa.net/article/92505039.html
がこうして形成されるのだなあと思いました。
 p.137 S字カーブが頂点を迎えると、その先にはしばしば失速点が位置するとのことです。企業の成長をうまく模式化しています。
 第20章は「予測は不運の始まり」という題ですが、副題の「株価収益率を使用することの愚かさ」のほうがインパクトがあるでしょう。株価収益率とは、PER のことですが、それを単純に信じて投資してはいけないことが示されます。PER が「役に立たない」と断言されているだけで「おもしろい!」と思う人もいるでしょう。
 第26章は「異常値を利用する」で、株価は正規分布を示すわけではなく、しばしばフラクタルでモデル化されるとのことです。これまたおもしろい話でした。
 というわけで、投資に直接関連する話もあることはあるのです。その意味では読んで損はないでしょう。しかし、そういうことは、実は、本書末尾の pp.268-271 の「監訳者あとがき」の4ページ分を読めば、見事に要約されています。最初に気が付けば、ここだけ読んで終わりにしても良かったと悔やまれました。
 著者の博識ぶりは、それはそれは見事なものです。各章ごとに大量の参考文献がリストアップされていて、いかにも研究者が書いた本だと思わせます。内容も、間違ってことを言っているとは思いません。しかし、「投資」という面から見ると、今ひとつ、間接的な話が多く、あまり心に響きませんでした。


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2008年06月03日

浅川夏樹(2008.2)『円が元に呑み込まれる日』実業之日本社

 乙が読んだ本です。
 概略的には、中国経済が大きくなって、日本を追い越し、日本経済が中国経済に飲み込まれるだろうという話を描きます。著者の視野が実に広いことに驚きます。さまざまな話題が登場します。しかし、著者は研究者ではないため、巻末に挙げられている参考文献は4点しかありません。もっともっといろいろな文献から多量の情報を吸収していると思われますが、それは明記されていません。この点はちょっと残念です。
 第1章は「上海が東京を追い抜く日」です。中国の政治体制の特殊性と上海の株式市場が高騰していることを述べます。
 第2章は「中国の台頭を加速させるグローバリゼーション」で、グローバリゼーションは中国にとっては追い風だが、日本はそれを向かい風にしてしまったといいます。
 p.67 では、上海総合指数と新日鐵や任天堂の株価に関して、「約89%と約98%の相関性で連動している」と述べています。相関係数であれば、-1.0 から +1.0 までの数値を取るはずで、パーセントではありません。パーセントというのは 100 を基準とした数値で表す表し方ですが、このときの 100 は何でしょうか。乙は理解できませんでした。
 本書は基本的にデスマス体で書かれていますが、p.71 4行目だけ「巻き返した。」とダ体が出てきます。校正ミスでしょうか。
 p.78 からは日本がものづくりの呪いにかけられているといいます。製造業中心の日本ということでは将来の展望は開けないということです。
 p.81 中国が「世界の工場」で、日本が「世界の ATM」だという見方が出てきます。おもしろいたとえです。
 p.86 では、アメリカが「世界の投資銀行」だという見方が追加されます。こういう簡単な比喩で世界の動きを表現してしまいました。とても興味深い話です。
 p.95 からは、さらにオフショアが「世界の地下銀行」だとたとえられます。確かにそうだと思います。
 というわけで、第2章は、世界経済を見渡すときの一つの視点を提供してくれたと思います。
 第3章は「「世界の工場」から「チャイナ・マネー」へ」です。中国が変わりつつあることを第2章の記述をもとに描いていきます。
 p.127 の4行目「人口の急速な高齢化だけでなく、急速かつ環境破壊が巨大な規模で進行しています。」とあります。意味不明な文です。
 p.147 中国が2007年に創設した政府系投資ファンドが、ファンドマネジャーを世界に広く募集したそうですが、その際に年間 30% 以上のリターンを狙うことを条件に掲げたそうです。乙は「30%」という目標が信じられませんでした。この話は p.151 にも再度出てきますので、間違いではありません。大量の資金を有する政府系ファンドで 30% ものリターンが達成できるはずはないと思います。この話は乙には理解できませんでした。
 第4章は「東京が東アジアの金融センターになるために」です。特に p.195 からの「東京マーケットのラストチャンス」という節がおもしろかったです。著者は、今の東京を「世界最大のローカル金融市場だ」としています。これではいけない、もっと東京を国際金融センターにしなければならないというわけですが、そこで日本政府の都市再生本部が提言しているのは、日本の(金融などの)制度をどうするかではなく、都市インフラを整備していくという箱物行政的発想にすぎません。それではダメだということで、著者の舌鋒はいよいよ鋭くなります。
 p.221 最後から4行目に「デビッドカード」という表記が現れます。浅川氏の『グローバル化時代の資産運用』
2008.4.23 http://otsu.seesaa.net/article/94387357.html
でも、この表記が現れましたから、著者の信念かもしれません。(ただし、p.211 2行目には「デビットカード」という正しい表記が現れます。)
 全体におもしろい本でした。中国を中心にして、世界経済の動きをまとめて述べたといった本でしょう。
 まさに著者の識見が現れるところであり、幅広く海外投資を実践している著者ならではの1冊だといっていいのではないでしょうか。


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2008年05月29日

橘玲(2008.3)『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。
 全体に、たいへん興味深く読むことができました。
 序章「さよなら、プライベートバンカー」では、現在、個人投資家がプライベートバンクを凌駕するようになったということを述べています。まさに序章であり、これからの各章を読む前に期待が高まります。
 第1章「究極の投資 VS 至高の投資」もおもしろいです。
 p.30「投資の基本法則@ 金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、全資産を株式に投資するべきである。」
 p.31 「投資の基本法則A 金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、投資にはレバレッジをかけるべきである。」
 p.33 「投資の基本法則B 金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、全資産を海外資産で保有すべきである。」
 いかがですか。債券などは吹っ飛ばして、株式投資を、しかもレバレッジをかけて、海外資産で保有という考え方は興味をそそられます。これだけで引き込まれてしまいます。人的資本は1億円に該当するという考え方も示されます。投資の考え方の一端を知ることができます。ある意味ではこれは正しい考え方です。まあ、本当にこうするべきかどうかは意見が分かれるところでしょうが。
 第2章「誰もがジム・ロジャースになれる日」では、エマージング投資が語られます。
 第3章「ミセス・ワタナベの冒険」は、FX(外国為替証拠金取引)の話です。
 第4章「革命としてのヘッジファンド」では、ヘッジファンド否定論が語られます。p.137 では、ヘッジファンドの高パフォーマンスは、生き残ったものだけを平均することでそう見えるだけだとときます。p.141 では、マン社のファンドに投資するよりも、マン社の株を買うべきだという話が書いてあります。これは新鮮な視点でした。p.142 では、ヘッジファンドの秘密主義を批判しています。
 こういう話を知ると、乙のヘッジファンドに対する考え方がぐらついてしまいました。
 この章が本書で一番長い章です。
 第5章「タックスヘイブンの神話と現実」もおもしろかったです。さまざまな事件も描いています。
 第6章「人生設計としての海外投資」は、海外投資全般を考える上で参考になります。p.240 ではフィリピンでの老人ホームが描かれますが、「老後はフィリピンで」というのも大いにありだと思いました。p.244 では、日本は生活費が安いという話が出ていて、「おや?」と思いました。乙は、キャピタルフライトなどで海外に出て行く人・企業・カネが多いのだとばかり思っていましたが、そうではないとのことです。p.245 では、日本の証券会社で外国人が口座を開けない話が出てきます。日本人でも外国に住むことになれば同様の問題が起こるということです。p.248 あたりの記述を読むと、「海外移住もいいなあ」と思えてきます。
 終章「億万長者になるなんて簡単だ」で億万長者がたくさんいる話が出てきます。現代はそういう時代なのかもしれません。
 一読し終わって、また読みたくなりました。海外投資を考える上では大いに参考になる本です。


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ラベル:橘玲 海外投資
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2008年05月22日

村井哲之(2007.4)『コピー用紙の裏は使うな!』(朝日新書)朝日新聞社

 乙が読んだ本です。「コスト削減の真実」という副題が付いています。題名に引かれて、読むことにしました。
 乙は、A4のコピー用紙(実はプリンタ用)で不要になったものは、1/4 にカットしてダブルクリップで綴じてメモ用紙にすることはありますが、そのままの再利用はしません。しかし、妻がプリンタに裏紙を入れているのです。しばしばどちらが表(必要な情報)なのかわからなくなっていて、混乱しています。そこで、妻にこういう本を読ませて、裏紙を使わないようにさせたいと思いました。不純な動機ですね。
 しかし、本書を読み始めると、コピー用紙の裏を使う話は p.48 以降の2ページほどで終わってしまいます。本書全体は、コスト削減の話だったのです。著者の村井氏はコスト削減総合研究所代表取締役社長だそうです。道理でコスト削減の話がメインになっているわけです。
 では、コスト削減という面から見て、この本はおもしろかったでしょうか。乙の感覚では、あまりおもしろくありませんでした。もちろん、それぞれの企業でコスト削減の余地があり、そういうことを意識するべきだという主張は理解できます。問題は、具体的なコスト削減のやり方です。
 村井氏は、コンサルタントとしていろいろな企業でのコスト削減に取り組み、その現実を知っているのでしょう。本当におもしろいのは、そういう具体的な取り組みを(数値を示して)詳細に記述することです。しかし、本書では、そこまで詳しく書いてありません。紙幅の問題でしょうか。あるいは、詳しく書くとその企業が特定されて、問題になるのでしょうか。結果的に、本書は多数の企業に通用する一般原則を並べるスタイルになるのですが、そうやってみると、一般原則はみな当たり前の言いぐさにしか聞こえません。それぞれはもっともだと思いますが、「だからどうなの? その先は?」といった感じです。妙に中途半端な読後感を持ちました。
 ところどころ、具体的な数字が出てくるところもありますが、そのような記述はあまり多くありません。コスト削減といっても、電気代・ガス代・水道代あたりがメインの話です。似たような話が繰り返されるような印象がありました。
 最近は、書籍の内容をまとめるような題名を付けずに、一部の章や節の記述内容をそのまま書名にする命名法が盛んです。目を引いて、注目されやすいのは事実ですが、読んだ後に悪い印象を持つのでは、逆効果ではないかと思います。

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2008年05月20日

渡辺信一(2008.1)『個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「ファイナンス理論が証明する投資の真実」という副題が付いています。
 題名に引かれて読むことにしました。
 目次は以下のようになっています。p.233 にあった出典とともに示します。出典がないのは今回の書き下ろしです。

 序章
 第1部 株式リターンと資本コストの真実
  第1章 株式市場の真実(東京国際大学公開講座)
  第2章 PERを見直す(熊本学園大学公開講座)
  第3章 ROEを上げるだけでは、企業価値は変わらない
 第2部 デリバティブと個人投資家の真実
  第4章 証券投資は儲かるのか(熊本学園大学公開講座)
  第5章 デリバティブの真実
  第6章 天候デリバティブの真実(『先物・オプションレポート』)
  第7章 コーポレート・ガバナンスの真実
 第3部 外国為替とヘッジ・ファンドの真実
  第8章 為替レートの真実(財務省レポート?)
  第9章 ヘッジ・ファンドの真実(『先物・オプションレポート』)
  第10章 投資戦略――それならどうすればいいのか――
 おわりに

 本書は、著者が公開講座でしゃべった内容や既発表の論文にいくつかの章を付け加えたものです。ということは、ある種の論文集のようなものであり、各章の関係は緊密ではないことになります。(実際に読んでみても、内容が相互にやや離れている感じを受けました。)『個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由』という題名は、(「売らんかな」主義で?)編集者が付けたのでしょうか。少なくとも、本書全体をまとめるような題名ではありません。本書の内容は、むしろ副題のほうが正確に表しています。
 「個人投資家がマーケットで勝てない本当の理由」は、序章と第1章を読めば十分わかります。結論はインデックス投資を行うということで、個人投資家はそれ以外のことを行うからマーケットに勝てないのだということになります。
 具体的な投資方針は第10章で述べられます。
 第2章から第9章までは、それぞれの投資がどんなものであるのかを数式を使ったりして説明しています。それはそれで正しいでしょう。著者の渡辺氏は、保険会社・外資系証券会社・銀行を経て大学教授になった経歴の持ち主です。学生などに教えるには、こういう教え方(ものの見方を教える)もいいと思います。しかし、個人投資家は学生ではありません。投資を実践する人間です。そういう立場からすると、本書の内容にはやや不満を覚えます。
 たとえば、天候デリバティブがどんなものか、第6章で描かれます。では、個人投資家が天候デリバティブに投資するときはどうしたらいいのでしょうか。そういう具体的なことはまったく書かれていません。著者によれば、個人投資家が天候デリバティブにのめり込んでも勝てるわけはないから、そもそもそんなことはしない方がよいということになるのでしょう。だったら、230ページもかけてこういう内容の本を出版する必要はないとも言えるのではないでしょうか。
 ヘッジファンドに関する記述も物足りないように思いました。第9章はたった18ページしかありません。これで多様なヘッジファンドの「真実」が記述できるとは思えません。
 このことに象徴されるように、本書は、書いてある内容に問題があるわけではないのだけれど、全体に中途半端な印象を受けました。
 勉強のためには、良書かもしれませんが、実践の立場からはそうともいえないように思いました。


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2008年05月17日

北村豊(2008.3)「北京オリンピック後、中国社会の焦点は何か」中央公論 第123巻第3号

 乙がたまたま読んだ雑誌『中央公論』
http://www.chuko.co.jp/koron/back/200803.html
に掲載されていた10ページほどの記事です。
 張志雄・高田雄巳『中国株式市場の真実』
2008.5.15 http://otsu.seesaa.net/article/96756811.html
を読んでいる途中に見かけた記事だったので、両者の関連が気になりました。
 基本的に、中国の現状を記述しています。朱文娜記者が書いた西豊県共産党委員会書記の張志国の独裁ぶりと、その後に起こったさまざまな関連事件、広西チワン自治区で起きた代理教員の大量解雇事件、福建省泉州市で起きた地方税務局の職員によるホテルでのただ食い事件とその顛末、厦門市で起きたパラキシレン製造プラントの建設計画とそれに対する住民たちの反対運動などを描きます。
 日本を基準にすると、とても信じがたいような事件が次々と起こっています。それが中国なんですね。
 日本も、高度成長時代にはさまざまな(今の目からは信じがたい)事件が起こったことでしょう。それでも、経済成長してきたわけです。当時の日本に投資するべきだったか。純粋に投資の面から見たら、日本への投資は正解だったはずです。しかし、諸外国から見て、日本はどのように映っていたのでしょうか。そんな「変な」国に投資しようという人がたくさんいたのでしょうか。(いや、当時は今と制度が違うから、外国からの投資などということは考えなかったのでしょうかね。)
 中国株に投資することは、基本的に今の中国を「是」とする立場に立つことになりそうです。
 張志雄・高田雄巳『中国株式市場の真実』を読んだときにも感じたことですが、中国株投資には、疑問点を感じます。(とはいえ、乙はまだ中国株に投入している資金がかなり多いのですが。)

 あ、『中央公論』で、この記事に続く、宮家邦彦「「中国株式会社」の研究」もおもしろかったです。日本との対比の観点で中国を「株式会社」として見ています
ラベル:北村豊 中国
posted by 乙 at 04:41| Comment(3) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月15日

張志雄・高田雄巳(2007.6)『中国株式市場の真実』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「政府・金融機関・上場企業による闇の構造」という副題が付いています。
 全体で 508 ページほどあり、かなり長いです。
 正直なところ、乙は、読み終えるまでに「飽きてしまった」感じでした。
 ブログの以前の記事を振り返ると、昨年10月にすでに読み始めていることがわかります。
2007.10.27 http://otsu.seesaa.net/article/62645642.html
 それでいて読み終わったのが今ですから、いかに長かったかということです。
 乙は、本書をトイレに置いておいて、座るたびに読んでいたのですが、この方法はよくなかったです。本書は具体的な人名・企業名・年月日・金額が非常にたくさん出てきます。時間があいてしまうと、それらを覚えていることができず、「あれ、何だっけ」というような感じになってしまいます。ともかく、そのような具体的な記述が延々と続きます。
 プロローグを読み始めるとすぐに(p.ii で)中国の株式市場は公営賭博だということが書いてあり、引き込まれます。
 序章では、p.5「中国の株式市場は、中国の真相を世界に伝える窓である」ということが書いてあります。本書を読んだ後では、なるほどそうだと思います。
 また、p.20 から「株改」の話が出てきます。正式には「上場企業株式権利分離制度改革」というそうです。ともかく、そういうのがあって、2006 年は株価が上がるはずだったというわけです。そして、実際、株価が上がっています。中国では、自由で公平な株式市場があるというよりも、政府が思うがままに操作できる株式市場があるというほうがふさわしいのかもしれません。
 序章に続いて、第1章「中国証券市場の闇の歴史」があります。何でもありの中国株式市場の実態が描かれます。驚きの連続です。ここが本書の中心的記述のように思います。こんな汚い事件が多発する株式市場では、危なくて、投資なんかしていられないという気分になります。
 第2章「誰が株式市場を殺すのか」でも、株式市場の問題点をさまざまな角度からえぐっていきます。
 p.216 では、中国のインデックスファンドはダメだという話が出てきます。指数そのものが未成熟で指標とするに値しないなどと聞くと、どうしようもない感覚になります。
 p.226 では、中国人投資家は意外に少ない(つまり、少数の金持ちによって市場が支配されている)といっています。これも不透明な市場ということにつながる話です。
 第3章「暗躍する上場企業の実態」では、株式市場だけでなく、そもそもそこに上場する企業自体が腐っているような例がたくさんあることを細かく記述していきます。とにかく、そういう状態なので、不良債権が膨大にあるということになりわけです(p.359)。p.363 では、企業の隠れた負担に言及します。国営上場企業が抱える問題です。p.376 あたりでは、上場企業を「私有化」する話が出てきます。
 第4章「すでに起こりつつある未来」も、気持ちが暗くなるような話であふれています。
 本書を一読した後では、中国株投資に嫌気がさしたように感じます。こんな変な市場に自分の金を投げ入れてしまったのかという気分です。逃げ道はありません。とるべき手段は、中国株を売却するしかないように思います。今まで、乙は、中国の成長に期待して、株式投資などを行ってきたのですが、そろそろ切り上げ時を考えようかということになってきました。
 もっとも、H株の場合は、中国国内の株式市場と若干違っていて、世界の投資家が見ている場所ですから、H株に投資しておけば、こんなにひどい企業が上場してくるとは思いませんが、それでも、中国は中国ですから、いつ何時落とし穴にはまってしまうか、わからないように思います。

 ところで、最後まで読み終わって、感じました。本書は、なぜ横書きにしなかったのでしょうか。本文中に数字(金額と年月日)がたくさん出てくるのですが、縦書きでは、それらがとても見にくいのです。2ケタの数字までは左右に並べて表記していますが、それ以上のケタは縦に並べます。ですから、1234.56万元などという場合は、





56


という感じになります。
 横書きならば、もう少しすっきりし、読者も読みやすかったのではないでしょうか。


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2008年05月07日

辛坊治郎(2007.12)『誰も書けなかった年金の真実』幻冬舎

 乙が読んだ本です。「あなたがもらえなくなる日」という副題が付いています。
 著者の辛坊氏は、読売テレビの解説委員だそうで、本書は、年金問題について、専門の立場から解説するというよりも、一般人の目でわかりやすく説明するという感じで書かれています。したがって、参考文献も1冊もあげられておらず、年金問題についてさらに知りたいという人には向いていません。
 しかし、年金がどんなふうになっているのか、それをジャーナリストの目を通して、その全体をわかりやすく提示しています。
 第2章「年金ってなんだ!」では、軍人恩給から始まった年金制度の歴史をたどります。なぜ年金が今のような制度になったのか、いきさつがよくわかります。
 年金の問題をはしかと似ていると説明した pp.89-96 はおもしろかったです。辛坊氏は「悪しき「個人主義」」と呼んでいます。ごく一部の人がはしかの予防接種をしない場合は、「はしかにかかったときは本人の責任だ」で済んでしまうのですが、多くの人が予防接種をしないと、周囲にはしかの免疫を持っている人が少ないために、一度はしかが発生すると爆発的に広がってしまいます。年金も同じで、ごく一部の人が年金の掛金を払わない場合は、その人だけが将来年金をもらえないというだけで、本人の責任ということですが、多くの人が掛金の不払いをすると、年金制度が破綻してしまうというわけです。
 第3章「日本の年金制度、これが問題」では、世代間の不公平を述べ、日本を「外国と戦う前に、老人と戦って滅びる国」としています。それくらい、世代間の不公平は大きな問題です。まあ、最初の制度設計が悪かったのは明らかですけれど。
 第4章「消えた年金騒動」では、2006年から始まった 5000 万件の年金騒動を細かく説明しています。名前すら記載がない記録が 524 万件もあるとなると、とうてい解決は困難です。この問題の原因は何なのかもきちんと示しています。この章を読むと、今回の年金騒動をみんなが納得する形で解決するのはきわめて困難だということがわかります。当初からの制度設計がよくなかったのですね。だいたい、金を受け取っている以上は、受け取った側が領収書を発行するなり、1年に1回でも現状確認のハガキを出すとかが当然のことだと思いますが、そういう当然のことが行われないままに現在まで来てしまったのがそもそもの問題です。
 第5章「どうする? 新年金制度」では、これから考えられている年金制度に関する辛坊氏の意見を知ることができます。しかし、どうやってもうまく行きそうもないような気になります。
 年金は、全体として難しい問題ですが、個人的には、自分の老後を考える際にいくら年金がもらえるのかは重大な関心事です。年金問題にはたえず関心を持っていないといけません。とはいえ、そう考える乙のような人間は中高年層に多く、若年層はほとんどまったく関心を示さないのですね。若年層は、少子化という人口減の影響に加えて、選挙のときの投票率が低いので、政治家が「若い人のため」を考えなくなります。
 本書は、日本の年金について改めて考えさせてくれる良心的な本だと思いました。


ラベル:辛坊治郎 年金
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2008年05月03日

只野範男(2007.10)『「無税」入門』飛鳥新社

 乙が読んだ本です。「私の「無税人生」を完全公開しよう」という副題が付いています。
 115 ページほどの、やや薄い本ですが、タイトルがタイトルだけに、思わず購入してしまいました。
 給与所得者の場合でも、払う税金をゼロにしようという主張です。
 本書の要点は、p.45 に出てきますが、雑所得を事業所得にすることです。p.60 にあるように、個人事業主と個人は税制上別物となります。この違いが「開業届」の有無だけに基づくというのは知りませんでした。
 ともあれ、こうして、事業所得で大きくマイナスになるようにすれば、給与所得と通算することで、所得の全体が小さくなり、したがって無税になるというわけです。なるほど、理屈は通っています。
 只野氏は、年収が 500 万円であれば、事業所得の赤字額が 60 万円程度で無税にできるとのことです。
 さて、では、乙は只野氏のいうような方法で無税になれるでしょうか。考えてみると、ちょっと無理かなと思いました。
 現在、乙の場合、給与所得と雑所得がありますが、雑所得に対しては、すでに必要経費などを算出して毎年確定申告しています。その経験では、雑所得の総額を大きく上回るような「必要経費」を計上することがむずかしいように思えます。
 たとえば、遊びで海外旅行をするにしても、それが原稿執筆のための「取材費」で必要経費だと主張することになるのでしょう。
 このあたりは、個人ごとの事情の違いが大きいでしょう。
 あれこれ計算すると、もしかしたら、乙の場合も、事業所得を大きくマイナスするようなことができるのかもしれませんが、数百万円分の「必要経費」をひねり出すことは、乙には無理のようです。どうがんばったって、日常的にそんなにお金を使っていないのですから、必要経費を膨らませることは「ウソをつく」ことと同じになり、これでは合法的な節税ではなくなります。
 乙の場合、60 万円程度の赤字では、払うべき税金が多少は少なくなるかもしれませんが、あまり変わらないように思います。
 まずは、日常生活を見直して、支出の全体を把握し、何かの「事業」に対する必要経費として見なせるかどうか、徹底的な洗い出しをしなければなりません。その上で、実行可能だ(かつそれが節税につながる)ということを確認するべきです。この作業は、かなりマメな人でないと、やりきれないような気がします。只野氏は、きっとそういう性格の人なのだろうと想像しました。


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2008年04月28日

吉本佳生(2007.11)『金融商品にだまされるな!』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「本当に正しい預金、債券、個人年金の使い方」という副題が付いています。
 内容は、まさに題名の通りで、本書は、各種金融商品の広告の例を挙げて、それらがいかにひどいものか、丁寧に解説しています。吉本佳生(2005.5)『金融広告を読め──どれが当たりで、どれがハズレか』光文社
2006.2.8 http://otsu.seesaa.net/article/12973780.html
の続編といった感じの内容です。
 金融商品の広告の例は、架空の例だということになっていますが、実際は、実例を用いているようで、その中の金融機関名などを架空のものに付け替えたのでしょう。
 吉本氏の議論は、全般に納得できるものに思えます。
 本書を一読して、よくまあこんなに金融商品の広告の実例を集めたなあという感想を抱きました。まずは、そのような多種多様な広告を収集し、類似する広告をまとめて分類整理し、それらの問題点を考察するというような作業を経て、本書が成立したのでしょう。吉本氏の努力に頭が下がります。普通に生活しているだけでは、とてもこんなにたくさんの広告にお目にかかることはないでしょう。
 本書は、第1章で全体の内容のエッセンスを述べています。忙しい人は、第1章だけ読んで、残りの章を読むべきかどうかを判断すればいいようになっています。ありがたい構成です。
 乙が一番おもしろく思ったところは、p.74 です。太字でこう書いてあります。「インフレの不安を煽(あお)って外貨運用を勧めるやり方は、限りなく詐欺に近い悪徳商法だと考えられます。」つまり、吉本氏は外貨運用を否定するわけですが、乙は、吉本氏が外国株をどう考えているのか、もう少し説明が必要ではないかと思いました。外国債券は、広い意味で外貨預金に似た面がありますので、吉本氏の議論によれば否定されてしまいそうに思います。しかし、外国株はどうなんでしょうか。外国株は、基本的にそれぞれの国の通貨で買うしかないようになっています。したがって、円を外貨に換え、外貨で購入することになります。日本国内で円建ての外国株の投資信託を買う場合でも、外国株に投資する以上、運用会社が外貨に両替して外貨で株を買っているはずで、円建てというのは、単に投資家に対して円というものさしで説明・計算しているというだけです。吉本氏は外国株による運用を否定しているのでしょうか。(この点は、本書には明確に書かれていません。)
 なぜ、吉本氏は外貨運用を否定的に見ているのでしょうか。それは p.170 以降の「円相場の性質」に書かれています。「短期では金利、長期では物価が円相場を左右する」という見方が解説されます。そして、超長期では円高になるという見通しが述べられます。この議論は一般に正しいと思います。ただ、乙は、この問題は程度問題であって、円高になるにしても、外国株に投資することは、円高を乗り越えて資産を増やす面があるのではないかと考えています。吉本氏の考え方を知りたいものです。
 pp.176-190 で、パワー・リバース・デュアル・カレンシー債の話が出てきます。乙も、一時、こんな運用手段があるんだと知り、調べてみましたが、問題商品だなあと感じていました。
2007.12.17 http://otsu.seesaa.net/article/73067545.html
吉本氏は、その問題点を明確に述べています。乙は非常に興味を持って読みました。
 本書は、一般にお薦めできる良書だと思います。


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2008年04月23日

浅川夏樹(2008.2)『グローバル化時代の資産運用』パンローリング

 乙が読んだ本です。「ハッピーリタイアメントを目指して」という副題が付いています。
 海外投資に関する非常に詳しい1冊です。ご本人は「銀座ホステス」と名乗っていますが、そこいらのホステスが書ける内容ではありません。たとえば巻末には以下のような記事があります。
付録A ニュースサイト一覧(ヘッジファンド一覧を含む。URL付き)
付録B オフショアファンド会社一覧(URL付き)
付録D 参考文献・投資で読んで役に立った本
 これらを見るだけで、著者の勉強ぶりがうかがえます。すごい人です。
 目次を掲載しておきましょう。

第1章 グローバル化時代の投資思考
第2章 グローバル化時代の投資戦略
第3章 多種多様な海外の金融商品
第4章 グローバル企業への投資
第5章 エマージング諸国への投資
第6章 資源・環境技術への投資
第7章 ヘッジファンドへの投資
第8章 グローバル化時代の資産管理

 第3章ではオフショアファンドや海外 ETF に目を向けます。第8章でもオフショアファンドを扱いますが、それ以外にラップ口座やプライベートバンクにも言及しています。このように、本書は、幅広く海外での投資を見渡したものです。
 p.46 に著者のポートフォリオが載っています。興味深いものがあります。ちょっと債券が少ないように思いますが、それが著者の考え方なのでしょう。本書を通読した後では、一体著者の資産はいくらあるのだろうと思ってしまいました。数億円レベルでしょうか。10億円を越えるのでしょうか。ともあれ、著者のポートフォリオは、それなりの金額を投資している人のものだし、本書の記述内容が、そういう背景で書かれているように思いました。
 pp.47-48 に考えられる資産配分の例が出てきます。ヘッジファンドを一部(15-20%)組み込むのが浅川流です。
 p.49 左側のグラフ、パーセンテージを足しても 100 になりません。ミスです。
 p.83 「マザーファンドとベビーファンドの違い」と題した表を載せていますが、表の本体は「国内ファンドとオフショアファドの違い」を示しています。国内ファンドがベビーファンド、オフショアファンドはマザーファンドということなのでしょうか。ちょっと違うような気もしますが、……。
 p.87 最後の4行の説明がおもしろかったです。「米国は世界のお金を集め、その資金を世界各地に投資する「世界の投資銀行」であり、中国は「世界の工場」であり、次第に「世界のリスク投資家」になりつつあります。日本は低金利の円を世界に貸し出し、微々たる手数料を稼ぐ「世界のATM」です。オフショアは、こうしたグローバルな資金の金庫であり、資本を蓄積する「世界の地下銀行」といえるかもしれません。」
 たったこの4行で、世界の動きをピタリと説明してしまいました。
 p.114 空売り ETF の一覧表が掲載されています。こんなにたくさんあるとは知りませんでした。
 p.189 金 ETF に関する議論ですが、最後の4行が乙には理解できませんでした。「そして、日本の金ETFにはもう一つ問題があります。それは円建てであることです。価格は金現物価格の国際的な指標であるロンドンの現物取引の価格に連動するため、大証の金ETFは国内で円建て金現物に投資するのと同じ効果があると思います。ただし、金の国際取引は基本的にドル建てです。つまり、円建てでは現物価格よりも為替相場の変動に影響を受けやすくなってしまうのです。」金を円建てで購入していることは、ドル建て価格+為替変動で金を持っていることと同じです。だとしたら、円建てで持っていても何も問題はないように思います。海外でドル建てで金を持っていても、(円で考える限りは)為替相場に影響されるわけです。円建てと何も変わらないのではありませんか。
 p.222 a(エイ)→α(アルファ) 2箇所ありますから、ミスプリではなく、著者の勘違いです。
 p.259 デビッドカード→デビットカード 2箇所ありますから、ミスプリではなく、著者の勘違いです。
 ちなみに、
http://www.business-i.jp/news/for-page/asakawa/200804200001o.nwc
の記事にも「デビッドカード」という表記がありますから、浅川氏がこの単語を間違えて記憶していることが確認されます。
 p.287 海外投資の運用アドバイザーは相談料が1時間あたり1万円だと書いてあります。こういうのも貴重な情報でした。この1万円を気楽に出せる人は、やはり資産総額が1億円以上ある人でしょう。資産1千万円の人の場合、1万円は 0.1% にあたりますから、ちょっと気になる金額ですし、それ以下の資産の人は、1万円を払う気がしないでしょう。

 本書は、海外投資をしようという人に対して、一つの立場(浅川氏が実際に経験したこと)からアドバイスする形になっています。著者のさまざまなうんちくが聞けるだけでも有意義だと思いました。
 ただし、本書の記述は資産がかなり(数億円程度?)ある人向けのように受け止めました。そこで、浅川氏自身がそのような資産をお持ちなのだろうと推測したわけです。


ラベル:浅川夏樹
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2008年04月17日

松本弘樹(監修)(2008.2)『海外預金口座&オフショアファンド完全活用ガイド』日本実業出版社

 乙が読んだ本です。海外預金口座を開いてオフショアファンドに投資しようという趣旨の本です。
 目次は以下の通りです。

 Chapter 1 なぜ海外に資産を移すべきなのか
 Chapter 2 オフショアの基礎知識
 Chapter 3 オフショアファンドの買い方
 Chapter 4 オフショアファドの選び方
 Chapter 5 海外預金口座の開き方・活用のしかた

 この種の本としては、スタンダードな内容という感じでしょう。
 乙は、本書を一読して、いくつか変なところが気になってしまいました。
 p.107 ファンド会社への英語による問い合わせメールの例が出てきます。たとえば、
C What are the papers do I have to send?
(送らなければならない書類は何ですか?)
などという例が載っていますが、これは自然な英語でしょうか。do の使い方が変なように思います。
 p.127 「監修者・松本弘樹氏」という例が出てきます。p.164 も同じです。2回あるということは、間違い(ミスプリ)ではないということです。この言い方をする(「氏」を付ける)ということは、本書の著者は別にいるわけで、松本氏は「監修」したに過ぎません。では、真の著者は誰なのでしょうか。本書中にはどこにも出てきません。この点だけで、著者不明の信頼性に欠ける本だと思います。
 pp.166-167 何ヵ所も「債券」のことを「債権」と書いています。何回も出てくるということは、ミスプリとは思えません。この二つの語を取り違えるような著者の書いたものは、信頼に欠けると思います。

 本書は、海外に口座を開き、オフショアファンドに投資しようとする人には有意義な面もあると思います。
 p.102 には、海外に本拠を置き、日本語対応が可能で、オフショアファンドを扱っている業者が四つ出てきます。こういうあたりは、なかなか書かれていないことが多いので、「ふ〜ん」と思いました。ただし、勘ぐれば、本書の隠れた著者がこの4社の関係者ではないかと思われます。
 また、pp.168-172 に松本弘樹の厳選ヘッジファンド20というリストも付いています。これも参考になるかと思います。
 さて、こういう海外ファンドバンザイという趣旨の本では、たいてい、決定的なことが書かれていません。それは為替リスクの問題です。これについては、乙は、森智紀(2007.10)『海外ファンド投資プラン』すばる舎
2008.3.21 http://otsu.seesaa.net/article/90301401.html
の記事でも、述べました。オフショアファンドで、確かに高利回りのファンドがあると思います。しかし、一般に、この種のファンドは外貨建てです。外貨建てであるからこそ高利回りが実現できるというべきかもしれません。単に、表面上の高利回りを見てオフショアファンドを購入すると、痛い目にあうかもしれません。
 もっとも、乙も、資金の一部をこういうファンドに充てていますので、「痛い目」を覚悟しているわけなのですが。


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2008年04月15日

田中優+A SEED JAPANエコ貯金プロジェクト(2007.12)『おカネで世界を変える30の方法』合同出版

 乙が読んだ本です。
 自分のお金を預貯金などに預けることは、結果的に、自分でお金の使い道をコントロールしていることにならないというわけで、自主的にどんなところにお金を回すべきか、30の方法を提案するという本です。
 読んだ後、とてもさわやかな気分になれました。
 お金の使い方は、結局、投資に直結する問題です。投資家の観点からも、ぜひ、こういう意識を持ちたいものだと思いました。
 もっとも、本書のすべてに賛成できるものでもありません。
 p.8 からは、私たちが郵便局で貯金すると、その貯金が国債購入に回り、政府は国債を売って得た資金で米国債を買っており、アメリカは米国債を売ることで得た資金をイラクやアフガニスタンでの戦争に使っているという説明がなされます。つまり、私たちが貯金すると、そのお金が回り回って戦争に使われるというわけです。これは正しいでしょうが、実際上、その仕組みに反対することはきわめてむずかしいと思います。さらに、貯金しないことにした場合、貯金に代わりうる選択肢があるかという問題があります。個人が自分の力で調べられるでしょうか。本書には、そのような代替選択肢も書かれていますが、本当に大丈夫なのか、不安があります。
 というわけで、望ましいお金のあり方を考える上では有益な本ですが、これがすべてではないように思いました。
 p.35 市民風車ファンドが出てきます。乙も、一部の資金をこれに充てています
2007.6.23 http://otsu.seesaa.net/article/45659163.html
2006.5.3 http://otsu.seesaa.net/article/17324264.html
ので、共感を持って読みました。
 しかし、もちろん、市民風車ファンドが投資先として優れているというわけではありません。乙は、少しは、そういう方面に自分の金を使いたいと思っただけです。
 p.36 「深刻化する途上国の債務」というコラムがあります。途上国の債務は外貨で返済しなければならないことが原因で、途上国側の返済が困難になっているということです。しかし、債権者側の論理で考えるならば、これはしかたがないように思います。日本(政府)が途上国に資金を融資するとき、第1歩としては日本円しかないわけで、日本円を貸す以上は日本円で返済してほしいということになります。日本(政府)は、世界各国の現地通貨をそもそも持っていないだろうと思います。だから現地通貨で資金を貸し出すことはできないのです。日本が現地通貨建てで融資する場合は、その前に、日本のものを現地で販売して、現地通貨を入手しなければなりません。途上国では、ここがまず非常に困難です。
 途上国に資金を融資するのでなく、補助金としてプレゼントしてしまうという考え方もありますが、それでは、資金総額が少なくならざるを得ません。
 これは解決が難しい問題のように思いました。
 p.46 エコ貯金プロジェクトが発足し、キャンペーンで3億円を集めたということです。もっとも、これは実際に資金を3億円集めたわけではなく、「エコ貯金します」という宣言を3億円分集めたということですから、勘違いしてはいけません。3億円というと、かなりの額に見えますが、日本の個人資産総額 1500 兆円から考えれば、ごくごくわずかな金額でしかありません。大勢はまったく動いていません。3億円は第一歩として意味があるのでしょうか。
 p.80 から、週2日働けば十分だという議論が展開されます。我々は働き過ぎだというわけです。著者の主張もわからないではありませんが、実際は、一人あたりの労働時間が少なくなると、多数の人手が必要になり、その結果、お互いの連絡(情報の共有)が必要になり、結果的に生産性を下げてしまいます。情報が個人に集中するから、結果的に生産性が上がっている面もあるように思いました。
 なお、p.80 の本文4行目と6行目で「週8時間労働」が2回出てきますが、これは「一日8時間労働」の間違いです。同じ間違いが2回あると、単なるミスプリではなく、著者の考え違いということになるように思います。要注意です。
 p.110 から、「グッズ減税・バッズ課税」という考え方が紹介されます。税金のかけ方を変えることで、いいものを普及させ、悪いものを順次締め出そうという考え方で、これはなかなかおもしろいと思いました。まあ、日本の政治家を見ていると、とてもこんなことが議論できそうに思えないところが残念です。

本書は、
http://fund.jugem.jp/?eid=530
でも紹介されています。
 お金の使い方を考える上で、とても有意義な本でした。


ラベル:エコ貯金 田中優
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2008年04月07日

ジェレミー・シーゲル(2005.11)『株式投資の未来』日経BP社

 乙が読んだ本です。「永続する会社が本当の利益をもたらす」という副題が付いています。
 大部分はアメリカの話ですが、株式投資について、約50年の具体的なデータに基づいて書かれているので、しっかりした本だと思います。
 序文を読んでいるうちに、引き込まれてしまいました。だって、リターンの追跡調査をしていくと、「新興企業、新興業界、新興国にかぎって、リターンが極端に低くなっている。」(p.xv) などと書いてあるのですから。
 第1章「成長の罠」は、まさに序文に書いてある点を徹底的に追及した貴重な研究成果です。p.10 のIBMとスタンダードオイルの比較も印象的ですが、本書の真髄は、S&P500 の全銘柄を約50年にわたって追跡調査したところです。(巻末に付表として全データが載っています。)数値データをきちんと集め、その分析結果に基づいて下された判断ですから、これは正しいと思います。
 乙はショックを受けました。自分のポートフォリオを見ると、新興国株の比率が高く、
2007.10.15 http://otsu.seesaa.net/article/60730510.html
その中でも、BRICs 諸国にやや重点をおいた投資をしてきたのですが、
2008.1.12 http://otsu.seesaa.net/article/77918615.html
そのやり方はダメだといわれてしまいました。う〜ん。データが示されていますから、説得力があります。乙はまさに「成長の罠」にはまっていたのです。そのうち、ポートフォリオの変更が必要なように思います。新興国株の比率を下げるということです。
 p.14 高配当株が投資先としていいそうです。p.31 長期投資では配当が大事だとのことです。これらは、すでに聞いた話でしたが、こうしてデータを示されると説得力があります。
 第6章「新興の中の新興に投資する新規公開株(IPO)」では、何と IPO に投資してもリターンは決して高くならないとのことです。これも興味深い結果でした。
 p.123 設備投資が少ない企業のほうがリターンが高いとのことです。これまた意外でした。
 pp.125-128 インターネットがいろいろな企業にどういう影響を与えたかを論じています。なるほど、こうしてみると、IT バブルは確かにバブルだったのです。ネットの経済に対する影響は大きいけれど、どのように影響するかをきちんと理解しておかないと、勘違いの投資をしてしまいそうです。
 p.144 配当を再投資することが重要だと説きます。納得できます。
 p.160 印象的なグラフが載っています。1929年9月から1954年11月までの S&P 500 のリターンが示されていますが、大恐慌がなかった場合と比較しています。何と、大恐慌がなかったと仮定したときのほうがリターンが低いのです。最初、乙がこのグラフを見たときは、シーゲル氏の間違いではないかと思いました。しかし、これは間違いではありません。大恐慌の株安が起こったときには、配当を株安時に再投資できたからというわけです。これまた意外な指摘でした。
 p.168 ここにもまた印象的なグラフが出てきます。S&P 500 のリターンよりも、S&P 10種、あるいはコア10種のほうがリターンが高いということです。となると、個人の場合も、この戦略をとるべきだということになってきます。実際この戦略に従って株式投資する場合は、株式売買手数料が心配になりますが、十分な資産がある場合は、相対的に手数料は下がるわけですから、有力な手法だと思いました。
 p.201 ここの図も興味深いものです。1900 年から 2003 年で、アメリカ株のリターンは 6.5%、日本株は 4% という結果です。日本は意外なほど低いし、アメリカは(他の15ヵ国と比べると)予想外に高くなっています。このような16ヵ国の株式のリターンを考慮すると、乙が目標とする 7% のリターンというのは、だいぶ期待しすぎの数値のように思えてきました。もう少し低くしないといけないのでしょう。
 第15章「世界的解決 真のニューエコノミー」もまた興味深い章です。今後は、途上国の投資家がアメリカ(の株式)を買うことになるという見通しが書かれています。先進国では、今後は退職者が多くなり、持っている資産を売却して生活することになり、それを買うのが現在の途上国の人々だというわけです。この見通しは当然日本にも当てはまります。これから日本企業も新興国の投資家に買われる時代がやってくるのです。今の日本では、これに対して反発する声が強そうですが、経済的には避けられない運命なのでしょう。
 p.262 1992 年から 2003 年まで、ブラジルと中国のGDP成長率と株式のリターンをグラフ化しています。結論は、GDP成長率が高いからといって株式のリターンが大きいわけではないということです。第1章「成長の罠」を国際比較しているわけです。p.264 には、1987年から2003年までの新興成長国のGDP成長率と株式リターンの関係がグラフとして掲載されています。何と、負の関係が認められるというのです。このことから、成長率の高い国に投資することは、むしろよくないことだとされます。乙は説得されました。
 p.275 アメリカ株に投資するなら VTI がいいということです。とにかく広い銘柄に投資することを勧めます。また、p.274 では、非アメリカ株の投資の場合は EFA や EEM をすすめています。なるほど。大いに参考になります。
 p.291 本書の結論が書かれています。株式投資で推奨されるポートフォリオです。
  インデックスファンド 50%
   (うち、米国株 30%、非米国株 20%)
  リターン補完戦略 50%
   (高配当戦略、グローバル戦略、セクター戦略、バリュー戦略に、各10-15%)
 1冊読み進めてきた後では、この結論が納得できることになります。

 ともあれ、本書は、乙の投資戦略を変更させるだけのインパクトを持った良書です。株式投資がどんなものか、わかったような気がしました。特に、きわめて長期にわたるデータを示しながら論述されますので、非常に説得力があります。株式投資に関して、基本的な知識がわかったように感じました。(実際は、忘れてしまうことも多いでしょうが。)
 こういう本が出版されているアメリカという国がうらやましく思いました。こんなすごい本が出ているとは、さすがにアメリカです。乙は、本書に相当するような株式投資の本(特に日本株を材料にした本)は、見たことがありませんでした。
 原書が出てから短期間のうちに日本語の訳書が刊行されたわけですが、これは日本人に大いに恩恵を与える本であると思います。
 目からウロコが落ちるとは、まさに本書のような本のことをいうのでしょう。本書は、300 ページを越える長さで、読むのに時間がかかりますが、それだけの内容が詰まっています。株式投資をするすべての人におすすめできる本だと思います。


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2008年03月31日

藤村幸義(2008.2)『老いはじめた中国』(アスキー新書)アスキー

 乙が読んだ本です。
 現在の中国の抱えるさまざまな問題点が述べられています。その中でも、第1章「成熟を待たずに老いてゆく超大国」がおもしろかったです。中国は一人っ子政策を採用しているため、今後は日本以上に人口の高齢化が進むというわけです。中国の人口は非常に大きいですから、何億人ものお年寄りを抱えて国家としてやっていけるのかという問題です。現在、農村から都市への労働力の移動がうまくいっていないとのことですし、大学生の就職難も相当にひどいようです。
 第2章は環境破壊の問題です。
 第3章は経済の問題で、高度成長はもう終わりで、経済も曲がり角に来ていると論じます。
 第4章は「行き過ぎた市場経済化への反省」で、現在の中国で起こり始めた新しい傾向をいくつか指摘しています。
 第5章は「台湾・インド・日本との関係」です。
 各章とも、それぞれに中国の問題点を指摘しており、中国政府としても頭の痛い問題がたくさんあるということがわかります。
 こういう本を読むと、中国の今後に関して、だいぶ暗い予想を持たざるを得ません。乙は、中国株に投資していますが、それは10年後くらいを見据えて、まだまだ中国は発展するだろうと考えてのことです。しかし、藤村氏の指摘するような問題を考えると、中国経済はいつ失速するか、心配になります。
 さて、中国株投資は継続するべきでしょうか、そろそろ切り上げるべきでしょうか。悩ましい問題です。


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ラベル:藤村幸義
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2008年03月29日

橘玲(2007.11)『亜玖夢博士の経済入門』文藝春秋

 乙が読んだ本です。「別冊文藝春秋」に連載されたものをまとめたもののようです。
 「経済入門」とうたっていますが、経済小説です。フィクションです。
第一講 行動経済学
第二講 囚人のジレンマ
第三講 ネットワーク経済学
第四講 社会心理学
第五講 ゲーデルの不完全性定理
という五つの部分からなります。それぞれで一つの事件が描かれます。
 最後に、全体に対する総まとめのようなものがありますので、途中で投げ出すのはもったいないでしょう。
 乙は、第一講がおもしろかったですね。サラ金などでどうやってお金をたくさん借りるのか、テクニックがいろいろ書いてあって、「へー」と思うところが多かったです。乙は住宅ローンくらいしか借金の経験がないので、自分の知らない世界については興味深く読みました。
 こういう本で経済学が学べるわけではありませんが、フィクションとして楽しめばいいのではないでしょうか。
 全体に、ストーリーがよく練られており、経済学などを知っている人ならいっそう楽しめそうです。


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2008年03月27日

北村慶(2008.1)『大人の投資入門』PHP研究所

 乙が読んだ本です。「真剣に将来を考える人だけに教える「自力年金運用法」」という副題が付いています。
 本書はインデックス投資を勧めます。
 p.146 で、アセットアロケーションを考える際に、公的年金の存在を前提にして、私的年金の分は、公的年金と合わせてアセットアロケーションを考えるべきだとしています。そして、公的年金は日本の債券で運用する部分が 67% を占めているから、私的年金としては、日本株と外国株だけを考えればよいとしています。これはユニークな考え方でした。インデックス投資関連の本を読んでも、こういう考え方にお目にかかったことはないように思います。ただし、これは、年金が(今から数十年後に)ちゃんともらえるのかどうかという問題とからんできますので、あまり単純に信じ込まないほうがいいように思います。
 年金は年金として、ある考え方に従ってアセットアロケーションを決めているわけで、年金の積立金が増えようと減ろうと、年金が株を組み込んでいても債券を組み込んでいても、加入者に支給するべき年金の額は制度上決まっていますから、何ら変わりません。すると、年金が債券を大量に組み込んでいることを考慮して、その分を私的年金として持たなくていいというのは、必ずしも正しくないように思います。
 自分の資産全体で(年金のことは無視して)最適のアセットアロケーションを考えるほうが、年金がどうなろうとも大丈夫という意味では、望ましいのではないでしょうか。
 p.159 では、すでに自宅を持っている人の場合は不動産投資は不要としています。自宅もポートフォリオの一部だという見方です。これまたおもしろい視点です。あくまで全体的に総合的にとらえようという著者の姿勢には共感します。
 p.175 では、日本株と外国株の投資割合の議論が出て来ますが、株式時価総額を基準にして、日本株15:外国株85 という考え方があることを紹介しつつも、「本書ではわかりやすさと運用の簡易さを重視して」日本株と外国株を半々で持つことを提案しています。しかし、これは説得力がまったくありません。なぜ日本株を重視するか。これについては、p.257 に説明が出てきます。純粋投資理論から言えば、日本株15:外国株85 が適当かもしれないとしつつ、「日本経済の発展を私たち普通の市民の投資で応援したい」ために、50:50 にするというのです。この議論は、やっぱり変です。日本株は 15% でいいのではないでしょうか。
 p.257 では「しかし、自国民が他国と同等にしか評価しない日本経済に未来はあるでしょうか? そんな国に他国の投資家が資金を回してくれるでしょうか?」と述べていますが、乙は、日本も世界の中の一つの国に過ぎないし、日本を重視する必要はまったくない(他国と平等に扱うべきである)と思っていますので、この意味で 50:50 の議論には与しません。他国の投資家が特に日本に資金を回してくれなくてもいいのです。インデックス投資の考え方からすれば、どこの国に住んでいる人でも、15% 程度は日本株を買うべきだということになりますから、それで十分ではないでしょうか。
 p.170 の1行目に、「国内株式と外国株式の相関係数は、0.25% となっています。」とあります。相関係数には「%」は付きません。著者の単純なミスだと思いますが、こういうミスは、著者の数字に対する理解が十分でないかのような印象を与えますので、気をつけなければなりません。
 さて、本書中で、間違いを述べているところがあるので、これは、きちんと指摘しておきたいと思います。「はじめに」に出てくる話です。Aさん、Bさん、Cさんの3種類の株式投資のしかたで、それぞれのリターンがどうなったかを示しています。
 3人とも、2000年1月に投資を開始します。毎月1万円ずつ投資して、2007年10月まで94ヵ月運用するというのです。
 Aさんは、年1回、1年中で最も安いときに12万円で株式を買い、最高値でそれを売却するということを8年間繰り返します。(最高値が先に来る場合は、その時点で空売りすると考えるのでしょうね。)
 Bさんは、2003年3月(それまでの最安値を記録したとき)にそれまで貯めていた全額の39万円を出して、株を買い、2004年4月(その後の最高値を記録したとき)に全額を売却します。あとは鳴かず飛ばずということです。
 Cさんは、こつこつと毎月1万円で株を買い続けます。ドルコスト平均法によるインデックス投資です。
 最終の運用成績を見ると、Aさんの利益 16 万円、Bさんの利益 19万7千円、Cさんの利益 37万円で、Cさんが圧勝します。インデックス投資はこんなにもいいという話です。
 乙は、はじめに読んだときは、なるほど、インデックス投資はすごいものだと思ってしまいました。しかし、Aさん、Bさんのように(あとからチャートを眺めて)最高の成績を想定した場合でも、Cさんに負けるというのはどうも変だと思ってよく考えてみると、北村氏のこの計算は間違っていることに気づきました。
 Aさんは、毎年12万円ずつ投資して8年間運用してますが、これは、Cさんが94万円運用しているのと比べると、たった12万円の運用に過ぎません。12万円の運用で8年間に16万円の利益を出しているというのは、とんでもなく高いパフォーマンスです。
 あるいは、1年目は12万円、2年目は24万円、3年目は36万円というように投資資金を増やしていって計算してもいいでしょう。これならCさんと比べることができます。
 さらにいえば、1年目には12万円が14万円になったとすれば、2年目はそれに12万円を足して26万円を投資したと考えてもいいと思います。複利効果が出ますから、さらにすばらしい成績が上げられるはずです。とにかく、Aさんは、北村氏が想定するよりもずっとずっとすばらしい成績を上げたことになるはずです。
 Bさんはどうでしょうか。Bさんは、最安値と、その後に来る最高値が本能的にわかっていたという前提です。だとしたら、2003年3月に資金全額の39万円を出して株を買い、2004年4月に58万7千円で保有株式を全部売却して、それで終わりというのは変です。2003年4月に1万円、5月にも1万円、……といった調子で、毎月1万円ずつ投資に回せるのですから、お金がある限り追加投資するに決まっています。そして、2004年4月に全額を売却するわけです。
 こうすると、2003年4月の1万円は、2004年4月に 14,662 円になっています。2004年3月までの12ヵ月分の1万円の投資は、乙の簡略な計算では、3万円ほどの利益を生みます。つまり、Bさんの利益は19万7千円ではなく、22万7千円ということになります。
 それでも、Bさんは、3人の中で最低の成績になってしまったのですが、なぜそうなったのでしょうか。Bさんは、2004年4月以降、鳴かず飛ばずの成績だったという話ですが、ここがおかしいのです。TOPIX がその後5割も上昇するときに、鳴かず飛ばずの成績というのは、とんでもなく下手な株式投資をしているということです。
 これらの二つの点を考慮すると、乙は、北村氏の出した例は、インデックス投資が優秀であることを示そうとして失敗してしまった例であると思います。
 多くのブログでこの本に言及しています。
http://fund.jugem.jp/?eid=573
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-654.html
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2008/01/post_6f66.html
http://www.shinoby.net/2008/01/post_752.html
http://bestbook.livedoor.biz/archives/50430376.html
http://renny.jugem.jp/?eid=473
http://blog.livedoor.jp/pikopiko432/archives/50902113.html
http://blog.goo.ne.jp/eliesbook/e/4a5f088c7ed72771ba164cf14331809d
http://atsukix.blog108.fc2.com/blog-entry-22.html
http://keishin20.seesaa.net/article/80333382.html
http://shinkansen-19641001.cocolog-nifty.com/kodama/2008/01/post_4080.html
http://ameblo.jp/nabetti-2000/entry-10068380390.html
http://france.lysithea1.com/000262.html
http://ethiopia.lysithea1.com/000022.html
http://moneytrade.blog34.fc2.com/blog-entry-521.html
http://ameblo.jp/bengoshi-s/entry-10069675615.html
http://koyo8.blog104.fc2.com/blog-entry-53.html
http://blog.livedoor.jp/m_dai23/archives/50449444.html
http://blog.damesara.boo.jp/?eid=467596
http://pension.blog88.fc2.com/blog-entry-58.html
 上で乙が指摘した間違いは誰も指摘していませんから、皆さん、北村氏の話をそのまま読み過ごしてしまったということだろうと思います。
 インデックス投資が優れていることに変わりはありませんが、北村氏のような間違いをすると、やっぱりアクティブ投資のほうがいいのだと考える人が増えそうです。株式の買いと売りの最適なタイミングがわかれば、アクティブ投資がインデックス投資よりも優れているのは当たり前です。
 もっとも、そもそもこの間違いに気が付かない人が大半かもしれないので、本書を読んだ人は、素直にインデックス投資を信じるのでしょうかね。
 北村氏が今後改訂版を出すときには、ぜひ、この点を直してもらいたいものです。

 本書は、若い人向けの本です。若い人は時間がたっぷりあるのですから、本書で説かれるインデックス投資をぜひ実行して下さい。

ラベル:北村慶 投資
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2008年03月25日

木村剛(2007.11)『僕らの年金脱退宣言』ナレッジフォア

 乙が読んだ本です。日本の年金問題の全貌がわかります。
 第1章「社会保険庁はここまで腐っていた」では、社会保険庁のダメさ加減を描きます。
 第2章「「100年大丈夫」な年金の正体」では、年金のしくみ自体が持っている問題点を指摘します。
 第3章「公的年金の破綻はいつか?」では、このままでは破綻は避けられないとしています。2049年だそうです。40年も先のことをいわれても、実感はありません。
 第4章「少子化対策は解決にならない!」では、少子化の進行を描きます。少子化が進めば年金がもたないことは当然です。
 第5章「このままでは年金が空洞化する!」では、雇用も資本も日本を脱出していくという予想を述べています。p.121 から「最後の最後にお国は国民を食い物にする」という節があります。第2次世界大戦のときに実際にあった事例を述べ、裁判所までが不思議な判断をしたことを描いています。こうなると、日本という国が信じられなくなりそうです。
 第6章「年金脱退権を認めよ」が本書のメインです。p.126 では、年金がネズミ講であるとして、もともとうまく運営できるはずがないとしています。その上で、p.135 から、年金脱退権を認めよという主張が書かれています。年金脱退権というのは、すでに払った年金保険料をすべて捨てて、今後年金を受け取らない、年金保険料を払わないということです。ユニークな主張ですが、これが認められることはないでしょう。年金脱退権を認めても、現在年金を受け取っている人、まもなく年金がもらえる人が脱退するはずがありませんし、一方、若い人ほど脱退することが多くなるはずです。とすると、年金制度はすぐにでも破綻してしまいます。つまり、年金脱退権を認めたら、きわめて深刻な少子化が起こることと同じことになります。著者は、税金で年金を払うべきだとしていますから、もしかしたらうまく行くのかもしれませんが、乙はシミュレーションがうまくいっていないように思いました。
 第7章「私的年金の構築方法」では、公的年金として月額7万円を支給するというような制度になった場合に、それを補うための私的年金を作ろうということで、国内株への投資を説きます。
 全体に、年金問題を知るためには好都合な本だと思いましたが、新しい視点は「年金脱退権」くらいしかなく、その意味でやや不満です。参考文献は1冊しかあがっておらず、第6章だけは既発表ですが、本書の大部分は書き下ろしだそうですから、第6章の主張を中心にして、著者のいいたいことをすらすら文字化したと言えるでしょう。それがうまくいったかというと、乙は疑問に思いました。
 乙の感覚では、やはり、数字の裏付けを示しながら、新しい年金制度の設計を具体的に示さないと、説得力がないように思いました。


ラベル:木村剛 年金 脱退
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2008年03月23日

三宅茂久(2004.9)『外貨建て資産投資の所得・相続・贈与税』日本法令

 乙が読んだ本です。
 はしがきを読むと、「運用アドバイザー、ファイナンシャルプランナー、プライベートバンカー、税務専門家は、国際間の税務の取り扱いを踏まえた運用アドバイスが求められています。本書が知識の礎になれば幸いです。」とあり、こういう人むけに書かれた税の専門書ということになります。
 目次を見ると、とても詳しく、どのページに何が書かれているか、一目瞭然です。また、記述も、似たようなことが繰り返し現れます。つまり、本書は、通読する本というよりも、必要になったら、該当しそうなページを目次で調べ、その記述を読めばいいというわけです。
 p.27 には、二重居住者の扱いをめぐって、44ヵ国のすべてのケースがあげられます。本書のあちこちで同じく44ヵ国分の表が出てきます。これは、日本が44ヵ国との間で租税条約をかわしているためです。こんなふうに、本書を読めば、外貨建て資産を投資した場合の税金について、手に取るようにわかるのです。
 投資家として、ここまで知る必要があるのか、やや疑問にも思いますが、税金の問題は、やはり無視して通ることはできないのですから、一読しておくといいと思います。


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2008年03月21日

森智紀(2007.10)『海外ファンド投資プラン』すばる舎

 乙が読んだ本です。「プライベート資産1000万円を4年で倍にする!」という副題が表紙に書かれています。
 海外ファンドを利用して、資産を大きくしようという趣旨の本です。
 では、具体的にどうやってこういう海外ファンドを買うのか。それは、本書の p.70、p.147、末尾(p.191)、奥付に明記されています。グローバルレポート社
http://www.globalreport.co.jp/
へ連絡するようにとのことです。著者の森氏はグローバルレポート社の主幹だそうです。
 これで、本書の性格がわかってしまいました。日本の危機をあおり立て、不安を抱いた人たちを海外ファンドに誘導し、結果的にそれで儲けようというビジネスです。つまり、浅井隆氏のやり方
2006.2.20 http://otsu.seesaa.net/article/13495488.html
と同じです。奥付にある著者紹介を見ても、日本国破産に関するものを何点かお書きのようで、これまた浅井氏と同様です。
 ちなみに、グローバル会員は年会費 42,000 円だそうです。こういうお金を払いたい方はどうぞ。こんなお金を払わなくても、十分海外ファンドは買えます。

 p.102 では、3万米ドルを送金しても、コルレスチャージがかかって、3万ドルピッタリで先方に入金されるとは限らず、したがって海外ファンドが買えないことがあるとしています。したがって、プラス100ドルくらいして送金すればいいとのことです。乙の経験では、そんなことはありません。せっかくの3万ドルの申し込みを、数十ドル不足だからといって断るなんて、ファンド会社としてももったいないではないですか。当然、受け付けてくれます。29,950 ドルから運用を始めるのです。コルレスチャージは海外送金の常識なので、ファンド会社はわかっています。
 ところで、これに関連して p.103 には、「100万ドルくらい多めに振り込む!!」と書いてあります。100 ドルの誤字ですが、大笑いできる誤字でした。
 著者は、本書で元本保護型のファンドをすすめています。6割を国債購入に充て、4割でハイリスクな運用をするというわけですが、この考え方は変です。自分で資金の6割を国債購入に振り向ければ、あとは全部ハイリスク運用でかまわないということになるはずです。購入手数料は、全資金にかかってくるわけですから、国債を買う分の購入手数料は節約したいところです。
 p.93 には、S社のAファンド、Bファンドの話が出てきます。これはスーパーファンド社ですね。何もS社などと名前を隠すことはないように思いますが、……。いずれも、2003 年ころから、あまりパッとしない成績です。
 ところで、では、著者のいうように、海外ファンドは年率 10% で増えていく凄腕ファンドなのでしょうか。
 実は、本書では、いちばん大切な為替の問題にまったく触れていません。米ドル建て、豪ドル建てのファンドは、それぞれの通貨で考えれば、たしかに 10% 程度の運用が可能なのですが、円高になると、とたんに(円で考えた場合に)資産が減ってしまいます。で、今後、円高・円安の方向性はどうなのかという問題が出てきます。今のように、海外が高金利、日本が低金利という状態が長く続けば、(為替レートはそれだけで決まるものではありませんが)理論上は円高になります。つまり、安定して年10%のリターンがあるとばかりは言えないのです。
 まあ、ここを避けているのは、一番難しいところだということもあるのですが、それにしても、安易に海外ファンドに走らない方がいいかもしれません。


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2008年03月19日

野口悠紀雄(2007.6)『資本開国論―新たなグローバル化時代の経済戦略』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。
 とてもおもしろくて、一気に読んでしまいました。野口氏は、本当に頭のいい人だと思わせます。
 野口氏の議論は、日本の経済的・政治的なありかたと今までの変遷を見事なまでに解き明かしています。本書を読むと、実に説得力があるので、野口教の信者になってしまいそうです。こんな人が総理大臣になったら、日本は大いに変わることができそうです。
 「はじめに」が9ページほどありますが、超忙しい人はここだけ読んでもいいかもしれません。ここに本書で述べられていることのエッセンスが圧縮されています。もっとも、これを読むと引き込まれてしまって、本書を1冊全部読むことになってしまいそうですが。
 「はじめに」の p.iv を読むと、「社会主義国の崩壊とIT革命が世界を変えた」ということで、今の世界の変化をマクロに見通しています。ITについては、言及する人が多いでしょうが、社会主義国の崩壊によって市場経済圏が使える労働力が一挙に増加し(約30億人)、これが世界を変えたというのはおもしろい視点です。製造業が中国などに移ったことをひとことで説明してしまいました。
 第1章「企業栄えて家計滅ぶ」では、日本の減少した賃金所得などを論じ、これがグローバリゼーションによって起こったことを論じます。したがって、格差是正策や成長促進策では解決できないというわけです。日本経済を考える上で、このように世界の中で位置づけるという見方は当然なのでしょうが、自分ではなかなかできないことです。
 第2章「世界の大変化に追いつけない日本」では、なぜ日本が世界の中で没落しつつあるのかを説明しています。世界全体で、「脱工業化国」が躍進し、「産業大国」が没落しているわけです。これが21世紀型のグローバリゼーションです。日本は、当然後者です。したがって、没落するしかないというわけです。
 第3章「量の拡大でなく、質の向上を」では、少子化問題や年金問題を取り上げています。p.92 では、少子化でなくなっても(出生児数が今後仮に2倍になったとしても)人口の高齢化はなくならないということが説かれます。乙は、この点、まったく勘違いしていました。また、p.110 では、日米主要企業の価値を比べ、従業員一人あたりの時価総額によって、3グループにしています。その結果、Aグループの優良企業はすべてアメリカの会社で、日本の会社は、優良会社といわれているもの(トヨタ、キヤノン、ソニーなど)でも、Bグループにしか過ぎず、伝統的巨大企業(富士通、日立など)はCグループでしかないことが示されます。日本の電気機器産業は、今や衰退グループなんですね。p.115 では、トヨタもキヤノンも日本の未来は支えきれないとしています。う〜ん、大変な話です。日本の企業は、誰でもできるようなことを安くやってきたわけですから、この方向性では全部ダメに見えてきます。日本は金融業が決定的に遅れてしまっているんですね。
 第4章「難題山積の財政改革」では、財政再建、年金問題、消費税などを見通します。p.150 で示されるように、年金を精算しようにも、現在すでに 800 兆円不足しているとのことで、すでに精算できなくなっているんですね。今後は暗い見通ししか持てません。
 第5章「法人税減税では日本経済は活性化しない」では、日本の法人税は諸外国に比べて決して高くないし、法人税が生産コストを規定しているわけではないと説明されます。この章もおもしろい話でした。
 第6章「資本開国こそが日本を活性化する」では、日本がすでに資産大国になっていることを述べ、それにふさわしいあり方を説明しています。それが「資本開国」であり、外国の資本を日本に積極的に導入するべきだということになります。
 そんなわけで、本書は、日本の現在置かれている状況を的確に把握し、これからどうするべきかを明解に示しています。
 こういうことを考えるのは、本来は政治家の役目なんでしょうが、今の政治家を見ていても、どうしようもないようにしか見えません。本書の最後の2行は意味深長です。「こうした日本の現状を見ると、無力感にとらわれる。この状況がいつかは是正されることを、願ってやまない。」どうですか。野口氏も「無力感」と言っています。このままではいけないということなんですが、日本の変わるべき方向を政治家は示していません。今後、そういう政治家が現れるのでしょうか。乙は、「無力感」よりも「絶望感」を感じます。こんなことを考えると、投資家としても、日本に見切りをつけ、海外に注目する方がいいように思えてきます。
 ともあれ、本書は日本の経済の現状をトータルに説明している良書だと思います。
 最後に付言しますが、p.28 の図 1-4 は p.73 の図 2-2 と同じですし、p.29 の表 1-8 は p.72 の表 2-5 と同じです。画竜点睛を欠くようで、ちょっと残念な点でした。

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2008年03月12日

山本勇作(2007.11)『不動産ファンド当事者の告発 不動産が危ない!』株式会社扶桑社

 乙が読んだ本です。
 タイトル通りの内容です。
 著者の山本氏は不動産業界を知り尽くしている人のようです。現在はハワイ在住だそうですが、もしかして日本国内に在住していると、ちょっとやばいところがあるのでしょうか。(失礼な言い方ですが、これは乙の勝手な推測です。)こういう告発本を書く以上、著者の名前はペンネームなのでしょう。
 p.11「本書に書かれていることは、すべて「不動産ファンド当事者」から提供された極秘情報をもとにしている。」とあります。こういう言い方は、相当に気になります。第1に、情報が「極秘」ならば、そのことは本に書けないものです。書いてしまったら、提供者に迷惑がかかるのは当然でしょう。そもそも提供者が山本氏に語ったところで「極秘」ではなくなっています。第2に、出典不明の情報は、第三者が確認できないから信頼できないものだといえます。公表されていない情報だから、出典はないとすれば、やはり真偽不詳という扱いをされなければなりません。第3に、極秘情報をもとにして、なぜこういう本を書くのか、著者に何のトクがあるのかという問題です。印税がそんなに大きいとは思えません。本を書くよりも、極秘情報を活かす別のやり方があるように思います。乙は、極秘情報の提供者のかなりの部分が山本氏自身ではないかと思います。つまり、自分の経験した話を書いているように読めます。それくらいにリアルです。
 p.108 REIT が私募ファンドの出口になっているという点を指摘しています。p.138- にも同様の記述があります。不動産ファンドで儲けるのは私募型であって、REIT ではないということです。それはそうかもしれません。しかし、REIT には明確な出口戦略がないわけでしょうから、この話は衝撃的です。
 p.137 不動産ファンドの実態は不動産転がしだとしています。本来の家賃収入に基づく運用ではないというのです。これは、投機的な動きであり、こういうビジネスが長期的に安定して行われるとは思えません。
 p.168 マンションなどの建設反対運動を描いていますが、反対運動にはカネだというのは興味深い事実でした。裏の世界の汚いところですね。まあ、結果的にうまく再開発できればいいのでしょうが。

 本書は、不動産ファンドを中心にして、業界の汚いところを詳細にレポートしています。
 こういう本を読むと、J-REIT などに投資する気は起こらなくなります。
 まあ、もともと乙は J-REIT には、否定的でしたが、
2006.3.27 http://otsu.seesaa.net/article/15545891.html
 最近、J-REIT 指数(東証 REIT 指数)を調べてみると、
http://www.ares.or.jp/jreit/k_jreit_001a.html
http://quote.tse.or.jp/tse/quote.cgi?F=histidx/HistIndex&basequote=155&mode=D
いやはやすごいことになっています。一時 2500 ポイントにもなっていたものが、最近は、1400 ポイントを下回るようになっているのですからねえ。
 J-REIT には、いよいよ未来がなくなってきたように感じます。
 でも、もしかしたら、外国の REIT も同様な問題を抱えているのでしょうか。単に日本の投資家まで情報が届いていないということでしょうか。


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2008年03月10日

中桐啓貴(2007.12)『隠れたお金持ちが、みんなやってる投資の法則』クロスメディア・パブリッシング

 乙が読んだ本です。「億万長者になる一番シンプルな方法」という副題が付いています。
 題名に引かれて、期待して読んだのですが、残念ながら乙の好みには合いませんでした。
 投資に関係する10話のショートストーリーを示し、それに付け加えて解説があるというスタイルです。しかし、このショートストーリーが成功したとは思いません。創作ですから、いつのどこの世界の話か定かではなく、なんなる寓話です。しかも、それがありえないような話になっていると、興ざめでしかありません。
 たとえば、第2話ですが、3人の父親と1人の母親から生まれた女の子が、どんな夫(3人)と結婚するかという話です。別の星の話だということになっていますが、こういうことはありえないと思います。3人の父親は、競争状態になり(けんかになり)、1人だけが結婚し、あとの2人はあぶれるのが普通です。地球上の生命はそうできています。その結果、よりよい子孫が残るというわけです。
 この話が、分散投資のすすめと関わってきます。3人の父親の働き方と稼ぎが違うから、どういう状態になってもこの母親は大丈夫で、したがって、娘に3人の違ったタイプの男性と結婚しなさいというアドバイスをするわけです。
 この話を読んで、乙はどうにもしらじらしく思いました。ありえない話よりは、もう少し別のたとえ話にした方がよかったと思います。
 10話ともこんな感じなので、乙としては、こういうショートストーリーの部分を省略してコンパクトにしてくれた方がよかったと思いました。
 203ページの本ですが、全体がこういう調子で書いてあるので、あっと言う間に読み切れます。
 乙がおもしろく思ったのは、p.70 で、アメリカと日本の投信を比較しているところでした。アメリカでは、発売から10年以上経過した長寿投信が運用残高の 65% を占めるのに対し、日本ではたった 5% しかないとのことです。また、運用残高規模で上位15位の投信を見ると、アメリカでは15本すべてが10年以上運用しているのに対し、日本では10年以上の投信がゼロだということです。日本の投信が本来のあり方を逸していて、まるでいびつな形になっていることがわかります。これでは日本の投信に未来はありません。
 続いて p.71 では、さわかみ投信やセゾン投信を取り上げて「成果を出している」と評価していますが、それだけでは日本としてさみしい限りです。
 ともあれ、本書は、「法則」とはいえないような書き方で書いていることで、題名と内容にギャップがあると思いました。
 間違っていることを書いているわけではないので、その点では許せるのですが、もう少し書きようがあるように思いました。著者の意気込みが空回りしているようでした。


ラベル:中桐啓貴
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2008年03月07日

吉本佳生(2007.11)『金融機関のカモにならない! おカネの練習問題50』光文社

 乙が読んだ本です。
 クイズ形式で50問が出されます。なかなかおもしろい本でした。
 p.54 株価の予想を連続して当てる方法が説明されています。しかし、数字がちょっと違います。
 1通目の予想メールを10万人に出したとします。予想があたった人に2通目を出すわけですが、それを4万人としています。3通目は3万人、4通目は1万人、5通目は 6000 人としています。実際、そうなのかもしれませんが、株価の上下は確率 1/2 で当たると考えるほうが理論的に自然です。すると、1通目10万人とすると、2通目5万人、3通目 25,000 人、4通目 12,500 人、5通目 6,250 人となります。吉本氏は当然このことを知っているはずですが、なぜこちらの数字を使わなかったのか、不思議に思いました。あえて理論値を少しずらして書いて現実感を醸し出そうということでしょうか。
 p.56 20年続けて株で勝ち続ける人の確率を計算して、0.01% としています。その途中で「株式投資で失敗が続いた投資家が株式投資をやめる確率」を5%として考慮しています。しかし、この5%は勝ち続ける人の確率を計算するときは、値が何であれ計算には関係ないはずです。なぜここでこれを持ち出してきているのか、乙は理解できませんでした。
 p.87 あやしげな商品先物会社と一流有名金融機関で同じファンドを買う場合、大損の確率が高いのはどちらかというクイズが出ます。乙は、まったくわかりませんでした。「同じ」だと思いました。p.88 の解説では、悪質金融商品の購入を取りやめて返金をしてもらう場合、一流有名金融機関のほうが投資家にとって不利だというのですが、この説明を読んでも、どうにも腑に落ちませんでした。
 p.126 成功報酬制は、無謀な投資につながるとしています。しかし、現実は、そうでもありません。成功報酬制を取るヘッジファンドの多くは、ファンドマネージャーに自己資金を投入させているようです。ですから、ファンドマネージャーが損失を出すと、自己資金が減ってしまうのです。というわけで、成功報酬制だけを取り出して、それが危険だというのは、現状にはあてはまらない面があると思います。
 また、ファンドマネージャーの立場で考えても、「後は野となれ山となれ」的な発想で運用するとは、必ずしも言えません。顧客に損失を与えなければ、さらにその後も運用を継続してくれるでしょうから、未来の報酬が期待できます。損失を与えたら、解約が相次ぎ、結局報酬の総額が減ってしまうことも考えられます。一定期間だけの報酬を基準に考えるのか、先まで基準に考えるのかによって判断は分かれると思います。
 もっとも、だからこそ、任期があれば、その中だけの最適な方略を考え、その先のことは考えないということはいえますが。
 p.155 「運用のリバランスを定期的におこなうべきか」というクイズです。金融機関は「下がったら売る」という運用(いわゆる損切りに当たります)をしているから、リバランスは正しくないということです。これには、大いに疑問を感じました。
 金融機関は、総合的な資産運用を心がけているのではないと思います。プロとしてアクティブ運用をおこなっているのではないでしょうか。一方、リバランスはインデックス運用のときに必要になるテクニックです。だから、金融機関がしていないからといった理由で個人投資家はリバランスが不要というのは、議論としてずれているように思います。

 ともあれ、金融リテラシーを高める上で、本書は有意義だと思います。


ラベル:吉本佳生
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2008年03月05日

日高義樹(2007.12)『資源世界大戦が始まった』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「2015年日本の国家戦略」という副題が付いています。
 本書の目次を示しましょう。

序章 二十一世紀の新しい世界戦争が始まった
第一章 世界は変わる
 第一部 温暖化で北極圏の石油争奪戦が始まった
 第二部 核兵器のない新しい抑止戦略が出現した
 第三部 三十億人の一大経済圏が世界を変えた
 第四部 アメリカでは十年後に新聞がなくなる
 第五部 アメリカと北朝鮮が国交を樹立する
第二章 日本は「世界の大国」になる
 第一部 日本は世界の一流国になった
 第二部 ロボットが日本経済をさらに強くする
 第三部 日本の軍事力は世界一流になった
 第四部 大国日本には影の部分がある
 第五部 日本の指導者が中国を恐れている
第三章 米中の兵器なき斗いが始まる
 第一部 アメリカは中国を抱き込む
 第二部 中国とは軍事衝突したくない
 第三部 中国の分裂を恐れている
 第四部 中国にアジアを独占させない
 第五部 いつまでだまし合いがつづくか
第四章 ロシアの石油戦略が日本を襲う
 第一部 プーチンは石油を政治的に使う
 第二部 プーチンはアメリカを憎んでいる
 第三部 プーチン大統領とは何者なのか
 第四部 プーチンのロシアは混乱する
 第五部 日本とロシアは対立する
第五章 石油高がドル体制を終焉させる
 第一部 石油の高値がドルを直撃する
 第二部 サウジアラビアがドル本位制をやめる
 第三部 ドル体制は追いつめられている
 第四部 アメリカはなぜ嫌われるのか
 第五部 ブッシュのあとドルはどうなる
第六章 「永田町」の時代は終わる
 第一部 日米軍事同盟は幻想だった
 第二部 日米関係はなぜ疎遠になったのか
 第三部 自民党は三つの党に分裂している
 第四部 民主党はなぜだめなのか
 第五部 永田町の時代は終わった
最終章 日本には三つの選択がある

 こうして目次を眺めると、各章・各部のタイトルが文の形になっているため、内容が推測できます。そして、実際その通りです。
 日本がこれからどう進むべきかを考えた本です。投資の本というよりは、むしろ国際政治の本ですが、投資の戦略を考える上でも、おもしろい本だと思いました。
 乙が特におもしろく思ったのは、第一章第一部の北極海の資源を巡る話、それに第四章のロシアの石油戦略の話、第六章第一部の日米軍事同盟の話でした。読み物としてとらえると、「ほ〜っ」という感じです。
 日高氏は、NHKに長く勤め、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長などを歴任し、アメリカにずっと住んできた人です。なるほど、本書を読むと「ジャーナリストだなあ」という感じになります。ジャーナリストは、たくさんの情報を得て、それらを総合することに長けています。しかし、それぞれの情報の集め方が問題です。基本的に「取材」です。いろいろな人にインタビューしているのです。
 本書中に出てくる名前を見ると、アメリカの要人たちが並んでいます。アメリカ以外の国の人の名前も出て来ます。日高氏は得意の英語を活かして多くの人から話を聞いたのでしょう。もちろん、こういう取材を行うにあたって「NHK」の名前は威力を発揮したことでしょう。
 しかし、それが日高氏の限界でもあります。それらの話の基になった数字(データ)が出てきません。245ページの本の中に、表もグラフも1枚も出てきません。つまり、すべては「お話」なのです。「お話」とは解釈です。Aさんのこれこれの話とBさんのこれこれの話をつなぎ合わせると、こんなことが考えられるというわけです。それはそうかもしれませんし、それはそれでおもしろい話が組み立てられます。しかし、インタビューでは、インタビュイーは自分の都合の悪いことはしゃべらないだろうし、インタビュアーに対してむしろ何らかの意図を持って特定の発言をすることも十分にあり得ることです。政府高官の話一つにしても、その裏付けとなるデータを集め、確認するとなるとかなりの手間がかかります。研究者ならば、そういうところをきちんと確認するだろうと思いますが、日高氏はここをスキップしています。したがって、話はおもしろいけれども、それがどこまで信頼に足るのかというと、乙はよくわかりません。
 参考文献も1冊もあげられていません。これも、本書の性質を物語っています。
 日高氏が研究者でなくジャーナリストだというのは、こんなところによく現れていると思います。
 なお、本書の記述で一つだけ引っかかったところがありました。p.210 2〜3行目です。「アメリカは朝鮮半島や台湾海峡で軍事行動を起こさなくてはならなくなった場合、在日米軍はもとよりアメリカ軍もまた当然のことに、日本の基地を利用する。」とあります。この書き方では、在日米軍とアメリカ軍を別物としてとらえていますが、それは実態とは違うのではないでしょうか。実際は、アメリカ軍という一つの軍隊しか存在しておらず、その中でたまたま日本に駐留する一部の部隊を在日米軍と(日本が日本語で)呼んでいるだけの話だと思います。


ラベル:日高義樹 資源
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2008年02月27日

海外投資を楽しむ会(2001.1)『ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門 デリバティブ編』メディアワークス

 乙が読んだ本です。
 ゴミ投資家シリーズでは、この本だけ入手がむずかしく(Amazon でもずっと中古品にバカ高い値段が付いていて)、読んでいませんでしたが、東京都立図書館に所蔵されているものを地元の図書館で借り出して読みました。これなら(時間はかかりますが)無料で読めます。
 内容は、スワップとフューチャー(先物)とオプションの話です。スワップが約20ページ、フューチャーが約80ページ、オプションが約200ページということで、オプションの話が全体の 2/3 を占めています。
 デリバティブの理論から実践までを扱うという意味で、珍しい本だといえましょう。
 説明は、このシリーズの特徴として丁寧で、全体としてわかりやすいと思いました。
 肝心な、ネットによる投資実践編ですが、最後のほうにちょびっと出てくるだけです。その意味では、表題に問題ありとも言えると思います。まあ、この本を読んでいきなり海外口座を開いてインターネット経由で海外市場でオプションの取引をするなどということは考えにくいですから、株式投資経験の豊富な人だけが読むべき本でしょう。
 オプションについては、「人類が発明した最高のゲーム」だとしており、著者のスタンスは、やりたい人がやればいいということで、特に積極的に勧めるでもなく、「やるな」といさめるわけでもありません。
 一読したあとでは、(少なくとも株式投資をする人は)こういう仕組みを知っておくべきだと思いますし、それを勉強するためにも絶好の本だと思います。が、いざ、自分でこういう投資をはじめるかと考えると、やっぱり引いてしまいます。プロならば、こういうのを扱うのは当然でしょうが、普通の個人投資家としては、どうなのでしょうか。
 乙としては、勉強のためにこの本を読んだということです。


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2008年02月23日

田渕直也(2005.4)『図解でわかる ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』日本実業出版社

 乙が読んだ本です。
 著者は資産運用を専門におこなってきた人で、各種デリバティブを利用して商品開発を行ったり、ファンドマネージャーをつとめたりしています。プロ中のプロなんでしょう。投資のプロの考え方を知るにはいいかなと思って読んでみました。
 全体の趣旨は、株価はランダムウォークを行うから、投資家はそれを前提にして市場に臨むべきだということです。また、行動ファイナンスの考え方も説明されています。
 乙がおもしろいと思ったところをいくつか抜き書きしておきましょう。
 p.101 「「理解できるものにしか投資しない」というバフェット理論は多くの投資家に逆効果」ということで、バフェット流の投資は彼にしかできないと喝破しています。確かに、バフェット流投資術は素人投資家が一朝一夕にマネすることができるとは思えません。
 pp.128-131 コンセンサスの誤謬というのがあるそうです。コンセンサスというのは多数派意見のことですが、マーケットのコンセンサスは、多数の支持を得ている意見ですから、もはや相場を動かすエネルギーがないとのことです。また、運用組織内のコンセンサスも、事実上マーケットのコンセンサスと一致することが多く、それに従うと投資判断を間違えることがあるとのことです。
 p.144 テクニカル分析について、「トレンドが反転するときには、そうしたパターンが現れやすい」けれども、「そうしたパターンが現れるとトレンドが反転する」ということではないと述べています。原因と結果を取り違えているという見方はおもしろいと思いました。議論はテクニカル分析に対する批判になっています。
 p.150 投資家は損切りがむずかしいのは情熱的自己正当化があるからだと述べ、日本の銀行が不良債権に苦しんだのも同根だとみています。それくらい、投資家にとって損切りはむずかしいものなのですね。(乙も塩漬け株を持っていますので、実感していますけれど。)
 第5章(pp.158-171)は投資を「巨額損失の押し付け合い」と見るもので、投資で負けが多いのは当然だとみています。自分流の投資を考える上で参考になる考え方です。
 第6章(pp.172-237)は、特に初めのほうが抽象的記述でわかりにくく感じました。マーケットにわずかに存在する期待リターンの源泉を明示するもので、それを扱う投資手法がヘッジファンドに結びついています。
 本書は、投資を考える上では有用な考え方がたくさん出てきますので、読む価値があると思います。ただし、全体として、やや抽象的で読みにくい気がしました。タイトルにある「図解でわかる」ですが、乙の感想としては、あまり説得的な図は多くなかったように感じました。厳密なグラフでなくて、概念図のようなものが多いのですが、必ずしも成功しているとは言えないようです。


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2008年02月21日

森木亮(2007.12)『日本はすでに死んでいる』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「希望社会をもたらす国家破産宣言」という副題が付いています。
 日本の発行した国債が多すぎて、もう返せないところまできたということで、国家破産を宣言してしまうほうがいいという内容の本です。各種の数字が挙げられていて、それはそれで納得する面もあります。
 しかし、著者の考え方で、何ヵ所か、どうにもついて行けないところがあります。
 p.14 印相学が登場します。こんなのを(関係者には失礼な言い方ですが)信じていると表明することで、本の(さらには著者の)信頼性を損ねていると思います。
 p.14 「私は「高橋亀吉3原則」を貫いてきた」としています。その3原則というのは以下の通りです。
 第1原則「虚像と実像を数字で峻別せよ」
 第2原則「ショックとクライシスはまったく違う」
 第3原則「アダム・スミスには教科書がなかった」
 このうち、第1原則は命令形ですから、ものごとを考えるための「原則」と言えるように思いますが、第2原則と第3原則は平叙文であり、単なる命題文ですから、ものごとを考える「原則」ではないように思います。
 p.233 ニュートンが 1700 年代初頭に 2060 年に世界の終末がくると予想したとか。著者がこれを信じているとは書いてありませんが、そういう話を書くことで、間接的に信じているように読めます。
 乙は、これらの説明は削除しておいたほうがいいと思います。
 さて、本書は5章から構成されています。
 第1章は「アダム・スミスに予言されていた日本国の破産」です。本書の中心部分です。お急ぎの方はこの章だけ読めばいいとも言えます。
 日本の総債務残高が大きく伸びていて、危機的状況だとしています。
 p.24 「国債の買入消却」のことを「国債の紙屑化」と呼んでいます。乙は意味がよく理解できませんでした。「国債の買入消却」は、後ほど、p.60 で再度登場しますが、「国債の発行者である国が、償還期限が到来する前に国債を買い入れ、これを消却することで債務を消滅させること」をいうのだそうです。だとしたら、これは正当な行為であって、「紙屑化」ではないと思います。紙屑化といえば、通常考えられるのは、償還期限が来た国債に対して、その券面の金額を今後一切支払わないと宣言する(したがって国債が紙屑になる)ことではないでしょうか。
 p.44 では、2011 年問題を指摘します。日本の国家予算のプライマリーバランスの赤字解消が絶望的になっていることを指すのだそうです。そして、p.46 からは 2018 年がデッド・エンドの年だとしています。p.48 では、2015 年にデフォルトになると予測しています。日本の国家債務がどんどん大きくなっているのはその通りですが、それについて、2015 年にデフォルトが起こる、あるいは 2018 年にデッド・エンドになると予測できるのでしょうか。なぜその年なのか、乙には理解できませんでした。
 第2章は「破産を覆い隠す政府」ということで、政府のやり方の問題点を述べています。第3章は「「財政の恐怖指数」が跳ね上がっている」ということで、森木氏の考案による指数を紹介し、この観点からも破産は避けられないとしています。二つの章は、第1章の延長上にある内容です。
 第4章は「国を滅ぼす特別会計の「闇」」です。一般会計だけを見ていても何もわからず、特別会計こそが問題だと説きます。乙は、この議論に納得しました。
 第5章は「すでに死んでいる年金制度」です。ここでの年金問題も納得できる内容です。
 第6章は「日本を滅ぼす間違いだらけの税制議論」です。ここの記述もおもしろいです。
 第7章は「「破産宣言」をすれば、日本は甦る」です。第1章から第3章で展開された議論をさらに進めています。
 p.212 では、日本の改造のために「廃県置州」をしようという話になります。しかし、ここでいわれている「州」がどんなものなのか、説明が不足しているので、理解が困難です。通常の理解では、「州」というのは、徴税権などを持つ強力な存在なのでしょうが、本書中には記述がまったくありませんでした。
 ところで、乙がわからないことが一つありました。日本政府には「破産」というものがないわけですから、「破産宣言」は出しようがないと思います。国債の償還期限が来たときに「金がないから返せない」とは言えません。それを言ったら、国債の購入者に対して政府が約束してきたことを破ることになるわけです。だから、政府は何としてもお金を工面するでしょう。どうすれば、ない袖が振れるのか、乙にはわかりません。そのときの政府が手段を考えればいいはずです。金がないなら、海外から(国債で)借りるか、日本人から(国債で)借りる(つまり未来の日本人から借りる)かしかありません。誰も貸してくれないならば、政府の権限で税金を多く取り立てるのでしょう。国債の償還予定額は明らかなのですから、国会での予算審議の際に次年度の国債償還費用を計上します。つまり、政府の独自の判断で突然「破産」などを宣言することはありえず、国会の事前の了承(ひいては日本国民の了承)が必要です。国会だって「破産」と宣言することはありえません(だってそういう法律がないのですから)。となると、やっぱり「破産宣言」は出せないのではないでしょうか。
 終章は「国家破産のシナリオ」です。日本が破産宣言をするのはどんな状況かが描かれます。ひとことでいえば、金利が上昇し、債券価格が暴落し、したがって国債の売りが大量に出て、政府としてそれに応えられないので破産だということです。だから、そうならないように、政府は一生懸命金利が上がらないように努力しているわけです。ただし、そういう努力をしても、国債の発行残高はどんどんふくれあがりますから、たとえ低金利であっても、国債に対して償還金が払えなくなる事態がやってくると思われます。そのときが「破産」なのでしょう。
 なお、乙には p.230 の図もよく理解できませんでした。

 国家破綻本は、たいてい出版後数年先の破綻を予言していますが、今までその種の予言は当たりませんでした。これからも同様でしょう。10年程度で国家破産がやってくるとも思えません。しかし、その可能性が全くないかと考えてみると、ゼロではないということになります。
 問題は破綻の起こる確率です。ゼロではないにしても、乙の感覚ではきわめて低いように思います。
 というわけで、本書の内容は、あまり信じなくてもいいでしょう。こういう考え方もあるということを頭の隅に置いておけば十分だろうと思います。

 なお、以前の森木氏の著書については、以下で述べたことがあります。
森木亮(2006.2)『日本国破産への最終警告』PHP研究所
 2008.1.25 http://otsu.seesaa.net/article/80486553.html
森木亮(2007.3)『2011年 金利敗戦』光文社
2007.6.5 http://otsu.seesaa.net/article/43904848.html
森木亮(2007.2)『ある財政史家の告白「日本は破産する」』ビジネス社
2007.2.27 http://otsu.seesaa.net/article/34777467.html
森木亮(2005.2)『2008年 IMF 占領』光文社
 2006.4.16 http://otsu.seesaa.net/article/16624855.html


ラベル:森木亮 国家破産
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2008年02月17日

木村昭二(1999.2)『税金を払わない終身旅行者』総合法令出版

 乙が読んだ本です。「究極の節税法PT」という副題が付いています。
 PTとは、p.24 によれば Permanent Traveler あるいは Perpetual Tourist、Passing Through、Parked Temporarily、Prior Taxpayer などの頭字語だそうです。
 本書は、日本語で紹介された、たぶん最初のPTの本だろうと思います。PTというのは、世界中を旅していて、どこの国の居住者でもなく、したがって、合法的にどこの国にも税金を払わないという人(およびそういう生活のしかた)です。
 PTということばは、他の本にも書いてありました。
2006.10.8 http://otsu.seesaa.net/article/25061050.html
2006.9.20 http://otsu.seesaa.net/article/24035583.html
2006.7.14 http://otsu.seesaa.net/article/20748838.html
2006.3.9 http://otsu.seesaa.net/article/14475013.html
 しかし、PTについてここまで詳しく書かれた本は少ないと思います。各国のビザや、オフショアセンター、オフショアバンク、オフショアファンドの利用法なども解説されています。
 さて、では、いざPTになろうとするとき、いったい資産はどれくらいあればいいのでしょうか。
 p.247 では、年金受給額が年間 300 万円の老夫婦を考えて、金融資産 4000 万円とはじいています。4000 万円を運用しても、年 5% くらいしか収入が得られないでしょうから、200 万円の収入です。税金が収入の2割かかるとして、40万円です。これを節約するために、外国(と日本)を行ったり来たりすることを考えると、あまり現実的ではありません。PT生活には飛行機代もかかるわけですし、それぞれの土地で生活するとなると、ずっとそこで暮らしている人よりは何かと生活費がかかるはずです。これでは生活が破綻しそうです。
 資産3億円ではどうでしょうか。運用収入が 5% として 1500 万円、その税金が2割として 300 万円ですから、これを合法的に節約するというのは結構大きいと思います。3億円あると、相続税も気になってくる金額ですから、その点からもPTはあり得るかもしれません。
 乙の総資産が15年後に3億円になるか。以前の計算
2008.2.14 http://otsu.seesaa.net/article/83933945.html
によると、そこまではならないはずなのですが、将来のことはわからないので、もしかしたら3億円になるかもしれません(笑)。とすると、PTも選択肢の一つとして考えられないわけではありません。
 しかし、乙のケースを考えれば、妻はPT生活に大反対です。日本(の特に東京)に住んで友達と遊んでいたいということです。親戚や息子たちも日本に住んでいます。では、ここで夫婦別居ということになるのでしょうか。いや、家族が日本にいたら、非居住者とみなされないのですから、単なる別居ではダメで、離婚しなければなりません。PTになるために離婚するというのでは本末転倒ですから、やはり夫婦で考え方が一致したらPT生活を考えることになるのでしょう。
 それにしても、300 万円の税金を払って友達と遊んでいたいかと考えると、かなり気になる話ではあります。普段外国に住んでいて、25万円ほどの旅費を使って、毎月1回(数日間の日程で)飛行機に乗って日本にやってきてホテルに泊まり、友達と遊んでまた外国に行く。これでもいいのではないでしょうか。
 実際は、PTとしてあちこち移動しなくても、税金の安い国に住み続ける方が生活が安上がりで便利だと思います。
 これからインターネットがますます普及し、高速化していきますから、外国に住んでいても、メールや電話、さらにはテレビ電話などですぐ連絡がつくとなれば、国内にいるのとあまり変わりません。

 なお、本書の p.42 10行目〜13行目の1段落の意味がよくわかりませんでした。
 「Aさんの場合、「日本の居住者」であり米国の非居住者になりますから、米国では預金利子に対する税金を支払う必要はありません。米国の場合、米国に住んでいない非居住者の利子所得については、原則 30% の源泉徴収がなされますが、非居住者の預金や国債、社債の利子所得については非課税となっているのです。」
 どうも、何かが抜け落ちているようにしか読めません。

 ついでに言えば、本書に関連して、ネット内では以下のような記事も参考になると思います。
http://www.alt-invest.com/roadto/kimura.html
http://www.alt-invest.com/topics/990710_ptforum.html


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2008年02月13日

日経マネー(編)(2007.10)『8841人アンケートでわかった!「勝ち組」投資家の法則』日本経済新聞社

 乙が読んだ本です。
 8841人にアンケートして、その結果を分析することで、どういう人が株式投資で勝つ傾向があるのかを明らかにした本です。ということで、何だかとてもおもしろい本のように響きます。「株式投資で儲ける方法」はいろいろあるけれど、多人数に対する調査であれば、かなり信頼できそうに思えます。そういう期待があったから、乙は 1,050 円を出して買ってみたのです。読後感としては、がっかりする本でした。
 まず、「勝った、負けた」の判定ですが、2006年2月から2007年1月までの運用収益を基準にしています。この1年間でどうであったかということです。乙に言わせれば、これでは短期投資の成功・失敗しかわかりません。この1年では、新興株が下落し、大型株(東証1部)はそうでもなかったと思いますが、そのことがアンケートの結果に大きく響きます。新興株に投資していた人は負け組が多く、大型株に投資していた人は勝ち組が多いとわかったとしても、では、それを一般化して、大型株に投資すれば勝てるのかと考えれば、決してそんなことはありません。そのときのマーケットの動きに左右されるのです。
 というわけで、この本のような考え方を進めていくと、どうしても短期投資になってしまいます。だって、勝ち負けの判定基準がそもそも短期投資志向なんですから。
 内容面でも、「あれれ」と思うところがいろいろあります。
 たとえば、p.54 で、「株式投資をする上で心がけること」として「損切りと利益確定のラインを決めておくこと」と答えた人の比率を示し、ニコニコさん(勝ち組)では 19.6% であったのに対して、トホホさん(負け組)では 21.6% であったということから、損切りと利益確定のラインを決めておく考え方は負け組のほうが多いという結論を出しています。いやはや、こういうことでは困ります。日経マネー編集部は比率の見方がわからないのでしょうか。それぞれの数値をよく見てください。19.6% と 21.6% で、たった 2% の違いしかありません。こんなのは意味があるはずないじゃないですか。
 もう少しきちんと数字を詰めてみましょうか。p.24 によれば、ニコニコ投資家は 484 人、トホホ投資家は 764 人だそうです。ということは、損切り・利益確定ラインを決める人は、勝ち組の場合、484 人中の 95 人、負け組の場合、764 人中の 165 人ということになります。この数字を使って比率の差の検定をしてみると、有意差なしとなります。つまり、この 2% の差は統計的に意味のある差ではないということです。統計的に意味がないだけでなく、(仮に有意差があったとしても)常識で考えたって、20% と 22% のたった 2% の差が意味を持つとは信じがたいでしょう。
 同様に、p.59 でも、証券会社選びで「モバイル機能」を重視している人の比率が、ニコニコさんで 13.2%、トホホさんで 16.1% と、トホホさんのほうが多く、したがって、証券会社選びではモバイル機能を重視しないほうがよいという結論を出しています。しかし、両グループの差は、たった 2.9% しかないのですよ。
 これまた、比率の差を検定してみると、64/484 と 123/764 を比べると有意差なしです。
 この調査は、「日経マネー」という雑誌の編集部が 2007 年の2月に行ったものだそうですが、こんなずさんな結果を堂々と単行本に掲載しているということに対しては、きつく文句を付けておくほうがいいように思います。こういうことでは「日経マネー」は信頼をなくすと思います。
 この本の中で一番おもしろいところは、p.11 にある投資力チェックテストです。18問に答えると、株式投資でどれくらい利益が出せるかがわかる仕組みになっています。
 ちなみに、今は、この本を買わなくても、ネットでできるようになっています。
http://nikkeimoney.jp/topics/071026/check_test.xls
 たぶん、今回のアンケートの結果に基づいて、林知己夫氏の数量化理論第U類か何かを適用して、個々のカテゴリーの点数を求め、その結果を丸めて簡単に計算できるようにしたのでしょう。そのような手続き自体は、悪くありません。(上述のように、あくまで短期投資を基準に考えているのですが。)
 さっそく乙もやってみました。その結果、乙の投資力は 68.5 点と出ました。p.99 によれば、これはランクA(超優秀)なのだそうです。「ふ〜ん」といった感じです。(でも、おもしろかったです。)
 で、乙は本書で自己採点しながら「おや?」と思ったのはQ18でした。「ネット証券選びで重視するポイントに、「外国株(米国、中国、韓国など)」の品ぞろえは外せない。」ということに対して、「そうだ」と答える方が投資力が高いと判定されるのです。乙は「まったくそうは思わない」を選びました。資金の一部を外国株に投資することは望ましいことだと思いますが、それは「ネット証券を選ぶ」ときのポイントとは無関係だと思います。ネット証券とは別の手段で行えばいいのです。ネット証券は安く株の売買ができればそれでいいのではないでしょうか。外国株の売買まで考慮してネット証券を選ぶというのは、乙の感覚では、ずいぶんずれているなあと思いました。いや、つまり、乙の考え方が本書でいうところの勝ち組の考え方と違っているということでしょう。
 ともあれ、変な本を買ってしまったということで後悔しています。
 こういう本は、世の中に害毒を流すだけで、「日経」の名折れだと思います。
 ま、マネー雑誌の(編集部の)レベルを知ることができたという点では意味があるかもしれません。


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2008年02月03日

太田晴雄(2005.3)『金融戒厳令』ビジネス社

 乙が読んだ本です。
 一読しましたが、本書は他人に勧めようとは思えません。はっきりいえばかなりひどい本だと思います。
 何ヵ所か、読んでも意味が通らないところがあります。これらは、第一義的には著者の責任ですが、この本を担当した編集者の責任でもあると思います。編集者がちゃんと読んでいないとしか思えません。

(1)p.96 「日本国債の国際的な評価」と題したところですが、書き出しから5行ほど引用します。原文にはありませんが、各文に[]で番号を付けます。
 [1] 前述したように、日本にも格付け会社はある。[2] R&I(格付け投資情報センター)とJCR(日本格付け研究所)である。[3] この2つの格付け会社は日本の企業だが、両者とも格付けはムーディーズの評価を借りれば、いずれもトリプルAである。[4] 当然といえば当然で、日本の格付け会社が日本の行政当局、特に日本最大の権力を持つ財務省の管轄下にあれば、トリプルAをつけないほうがおかしい。

 これでは、そのまま素直に読んで意味が取れる人などいないでしょう。[1]と[2]は意味がわかりますが、[3] はムーディーズが二つの会社をトリプルAと格付けしているようにしか読めません。太田氏は、実は、二つの会社が日本国債をトリプルAと評価しているといいたいのですが、「日本国債」という大事なキーワードが落ちているのです。「ムーディーズの評価を借りれば」というのは、「ムーディーズ式の評価語で表せば」ということなのです。[4] も「日本国債に」が落ちています。

(2)p.102 段落の初めから数行引用します。原文にはありませんが、各文に[]で番号を付けます。
 [1] 確かにアメリカも国債の依存度は大きいが、日本のように全財政支出の 50% 近くしか税収のない国とは違う。[2] また、日本のようにあらゆる面で税金をかけ、実質税負担は直接税のほかに行政コストがべらぼうに高い。[3] 国民が他の国なら無料のはずの道路、橋梁などの国民負担、あるいは輸出入の行政手続の費用などを見ると不合理だと思われるぐらいのコスト負担を強いられる。

 これまた意味不明です。[1] はアメリカについて論じています。アメリカが主題です。だから、[2] や [3] もアメリカの話かと思って読んでいくと、実は日本の話になっています。こんなねじれた文章を書いてはいけません。悪文の見本です。

(3)p.169 1行目から3行目の引用です。
 団塊世代は通常47年、48年、49年の3年間に長かった戦争が終わり、平和の配当として結婚ブームが起こり、そこで生まれた人たちが770万人を超えた。

 「団塊世代は」はどこに係っていくのでしょう。「通常」はどこに係っていくのでしょう。「47年、48年、49年の3年間に」はどこに係っていくのでしょう。まるで日本語の体を為していません。

(4)p.213 最後の1文字から p.214 の6行目までの引用です。原文にはありませんが、各文に[]で番号を付けます。
 [1] アメリカは人種を問わないと、いくらいっても日本はアメリカと一時は戦争で対決した国でもあり、経済的にも地政学的にも仮想敵国である。[2] 今も経済戦争の末期とはいえ、確実に属国化の方向に進んでいる。[3] 再び経済戦争に敗れ、今まで以上にアメリカの属国化するのか、あるいは成長著しく、しかも軍事的にも技術的な蓄積を行い、また一方で数千年という歴史的な背景も考えると中国は今後日本の前にはだかる壁になるのか、それとも中国の意を受けて一体化していくのか気になる。

 [1] は句読点の位置がおかしく、意味が読み取りにくいです。[2] は、主語などを補うべきです。[3] では、いくつかの内容を一文に詰め込んでいるため、主張がはっきりしません。「成長著しく」は日本のことなのか、中国のことなのか、わかりません。「一体化」は何と何の一体化なのでしょう。日本と中国でしょうか。
 考え方も変です。「仮想敵国」と「属国」は、まるで意味が違い、両立しないと思われます。日本が中国と一体化することと、日本がアメリカの属国化することも両立しません。
 [1] と [2] は、次のように直せば、いくらかは読みやすくなるでしょう。

 アメリカがいくら人種を問わないといっても、日本は、アメリカと一時は戦争で対決した国でもあり、経済的にも地政学的にもアメリカの仮想敵国である。今も経済戦争の末期とはいえ、日本は確実にアメリカの属国化の方向に進んでいる。

 しかし、[3] は直しようがありません。

(5)p.260 最後から2行目から1段落(1文)を引用します。
 海外に出るのをためらう人がいるが、もう資産の運用は海外で、また医療の世界でも、最先端のものは中国、台湾、タイ、などの国々では日本よりも進んでいる分野もたくさんあり、日本では利権構造のなかで許されていない先端医療技術、医薬などでは完全に海外のほうが費用も安く、先端医療が受けられる時代である。

 「もう資産の運用は海外で、」はどこに係っていくのでしょう。「最先端のものは」はどこに係っていくのでしょう。1文中に「医療」と「先端」が各3回現れます。文章の推敲が不十分としか思えません。

 内容面でも、おかしいと思えるところがいろいろあります。ほんのいくつかだけコメントします。

(6)pp.54-56 で通貨分散を説いていますが、次のような言い方をしています。
 これ(乙注:ドルと円の暴落)を回避するには通貨変動のない通貨への移転、通貨変動の少ない国の金融機関に資金移動、あるいは通貨変動要因を組み込み、ヘッジしている本当の意味でのヘッジファンド、貴金属への投資、途上国へのその国建ての通貨で株式投資をする。あるいは金利が高いが将来金利の低下が見込まれるシングルA以上の国の国債を購入するなどがある。

 乙には、このような言い方が気になりました。「通貨変動のない通貨」なんてあるのでしょうか。日本人にとっては「円」しかありえません。「通貨変動の少ない国」はどこでしょうか。そんなのもありません。変動相場制の下では、通貨変動は避けられません。「途上国へのその国建ての通貨での株式投資」などは、一般人がそう簡単にできるはずはありません。途上国といっても、まさか1ヵ国ではないでしょう。仮に数ヵ国としても、それぞれに口座開設し、円から両替し、送金し、株式投資するというのは、けっこうな手間です。特に現地通貨への両替はむずかしいと思います。それぞれの国でことばの壁があります。しかも、途上国の株価はボラティリティが高いのが当たり前です。「将来金利の低下が見込まれる」などといって、(外国の)金利の予想がそんなに簡単にできるものでしょうか。

(7)p.135 金本位制の復活を予想しています。乙は、まったく賛成できません。金本位制は、通貨の裏付けとしてゴールドがあるというだけの話で、実生活にはほとんど意味はありません。現在の世界は、そういう裏付けのない資金の流通によって膨大な信用創造を行って、経済活動が行われているわけです。
 p.136 では、日本が(外国と比べて)ゴールドを持っていないからという理由で、民間のわれわれがゴールドを所有しようと主張していますが、話が飛躍しすぎです。

(8)pp.202-203 太田氏は元本確保型のファンドを勧めています。外貨建てのものです。これまた変だと思います。元本が確保されているといっても、それはあくまでその通貨で考えた場合の話であって、円で考えれば、全然元本は確保されていません。

(9)pp.233-234 では、危険なヘッジファンドを判断する7つのポイントをあげています。もっともな話ですが、ここに書かれているようなチェック(たとえば4.ファンドの発行体が信頼できるものか)が実際にできる人がいるでしょうか。

(10)p.236 で、太田氏は再び元本確保型のヘッジファンドに言及し、それを勧めています。なぜ、こんなに元本確保型にこだわるのか、このページを読むとわかります。「英語力のある人はインターネットで探してもいいし、あるいはフォーテル経済研究会の会員になって、それらの情報を得てもいいだろう。」なるほど、この研究会に誘導することがこの本の目的だったんですね。フォーテル経済研究会というのは太田晴雄氏が主催する組織で、香港で定期的に金融セミナーなどを開催しているようです。
http://www.okane-navi.co.jp/keizai/top.htm

(11)p.251 「モルガンスタンレーが BRICS と名づけた」と書いてあります。正しくはゴールドマン・サックスです。また、普通は BRICs と「s」を小文字で書きます。

 本書は、263ページに及ぶかなり厚い本ですが、表やグラフがほとんど出てきません。参考文献も1冊もあげられていません。著者の意見が書き連ねられていますが、その裏付けとなる数値をもっとはっきり示した方がいいでしょう。現在の書き方では、ほとんど信用されないと思います。
 乙としては、太田氏の書いた本を読む気はなくなりました。以前にも、『預金封鎖』を取り上げたことがあるのですが、……。
2006.7.4 http://otsu.seesaa.net/article/20241104.html
 太田氏は、すでに亡くなったそうです。今後はもう太田氏の新刊書が出ることはないということですね。


ラベル:太田晴雄
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2008年01月30日

週刊東洋経済・臨時増刊(2008.2.6)「投資信託ベストガイド 2008 年版」

 乙が読んだ雑誌です。雑誌とはいえ、臨時増刊ですから、むしろ本に近いといえるでしょう。
 中身は非常に濃いです。理論面もしっかりしているし、どういうふうに考え、何を買えばいいかについても実践的に書いてあります。A4判で130ページほどですが、図も充実していてわかりやすいし、文章もしっかりしています。投資信託について、現状で知りたいことがほぼ網羅されていると思います。読みごたえがありました。お勧めできる1冊というべきでしょう。
 いくつか、気になったところだけを書いておきましょう。

(1)p.30 4段目
 投資対象資産間の価格の動きに関する相関係数の説明ですが、次のように書いてあります。
 たとえばAという資産がプラスの方向に1動いたときに、Bという資産が動く方向と程度を簡単な数字で示すのです。Aが1に対して、Bの相関係数が 0.5 であれば、AとBの動きは同じですが、Aの上昇度に対しBの上昇度は半分になっているということです。

 この説明は間違いです。「Aが1に対して、Bの相関係数が 0.5 であれば、」という言い方がそもそもおかしいのです。正しくは「AとBの関連性を見る上で、」と始まらなければなりません。
 0.5 という相関係数は、(ごくおおざっぱに説明すれば)Aが上昇するときに、Bも上昇する場合が多く、(ただし上昇の幅はまちまちで)たまにBが下落することもある程度ということです。BがAの半分上昇するのではありません。そもそも、Aの上昇分に対してBがいつも半分だけ上昇するならば、AとBの相関係数は1になってしまいます。
 ここの部分では、記者さんの理解が不十分であることを露呈してしまいました。

(2)p.31 イボットソン社による資産クラスの相関係数が一覧されています。
 こういうデータを引用するときは、何年分のデータによるのかを明記しなければなりません。相関係数表の下の方には国内リートが含まれているので、意外と短期のデータかもしれないと思いました。
 また、たぶん年次データでしょうが、その場合、どこかに「年次データ」であることを書いておくほうがいいでしょう。
 ところで、計測期間については、実は p.33 一番上の表で出てきます。だったら、この計測期間は p.31 の注として書いておくべきです。あるいは、p.33 の表を先に示して、それから p.31 の表を示すのでもいいです。
 なお、ここから先は、乙としても自信がないのですが、p.33 のように資産クラスによって計測期間が異なる場合(国内株式は 1952年1月から、国内リートは2001年10月から、など)、複数の資産を組み合わせて、たとえば p.29 のように示していいのかどうかという問題があります。
 たとえば、相関係数行列を利用して、因子分析の計算を行う場合、全部のデータが揃っていて「欠損値」がないことが前提になります。欠損値があるときに、そこだけを除外して相関係数行列を計算すると、その全体を見て次のステップの計算をしようとすると不都合が生じます。資産クラスによって計測期間が異なる場合は、(最長計測期間を基準に考えれば)欠損値が多数ある場合と同じことになりますので、全体をカバーするような「理論」を考える上でマイナスはないのでしょうか。
 p.29 は、2資産の組み合わせを考えており、それぞれで期間を変えていますので、計算上は問題ありません。しかし、これを多数の資産の組み合わせに拡張するときに問題が起こりそうです。こういう考え方で、p.31 の相関係数を利用して、「何かの計算」をしていいいのかという問題です。(これは本書の責任ではありません。)
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2008/01/2008_79ec.html
では、そういう計算を勧めていますが、大丈夫でしょうか。

(3)ミスプリは、2つ気が付きました。
[1] p.26 4段目 最後から6行目 25%→20%
[2] p.78 表 赤字で表されている ETF の信託報酬と購入手数料が逆になっています。3箇所ともそうなっています。ただし、この表を参照している本文は正しくなっています。

 乙が読んで一番おもしろかったのは、p.128(本書の最終ページ)の服部哲也氏の1ページの記事でした。新しい投資信託なんて必要ない、「商品開発部なんかいらない」ということです。
 この話に関連しますが、投資信託(およびその業界)の抱える問題点(特に今までの経緯など)を指摘するような記事もあった方がよかったかもしれません。実践的には不要ですが、投資信託の現状を理解するためには知っておいて損はないように思います。まあ、本書で紹介されている「投資力アップに役立つ本」を読めばいいのですけれど。

 なお、乙のブログが本書の p.121「インデックス・ETF 投資家必見! 人気ブログ」に紹介されており、そのため、東洋経済新報社から本書を1冊いただきました。ありがたい話でした。
 乙のブログが他の人にそんなに役立つとは思えないのですが、「個々のエントリも質・量ともに高水準を維持している希有なブログです。」というのは、ほめすぎです。くすぐったく感じました。
 なお、いくつかのブログで、本書が取り上げられています。
http://haisyatosyosyanogame.10.dtiblog.com/blog-entry-525.html
http://renny.jugem.jp/?eid=484
http://kaeru.orio.jp/blog/2008/01/book_8.html
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-652.html

 東洋経済新報社へのリンクを貼っておきます。こちらから本書が購入できます。


投資信託ベストガイド2008年版


水瀬ケンイチさんのコメントにより、アマゾンにもリンクを貼っておきます。
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2008年01月27日

鈴木雅光(2008.1)『海外投資信託の選び方・買い方』テクスト

 乙が読んだ本です。「アメリカ・中国・インド…… 成長する世界に1万円から投資」という副題が付いています。
 海外に投資する投資信託をどう選び、どう買うかを述べた本です。これから海外に投資しようと考えている人には親切なガイドブックになるように思いました。
 本書の「海外投資信託」は、「海外で」投資するものではなく、「海外に」投資するものを扱っています。
 第1章「投資信託で海外投資をはじめよう!」は序論です。海外投資を勧めます。
 乙が引っかかったところを書いておきましょう。
(1)p.30 最後から3行目
 海外投資信託をどこで買うかという疑問に対して、「お勧めはネット証券会社」としています。その第1の理由として、「自社の商品だけでなく、さまざまな投資信託会社の商品を扱っています。」と述べています。しかし、ここの「自社」はどういう意味でしょうか。ネット証券会社が自分で投資信託を企画し、発売しているでしょうか。全くないとはいいませんが、これは例外であり、ほとんどの投資信託はさまざまな運用会社が売り出したものではないでしょうか。ネット証券会社は、単なる販売会社(仲介業者)に過ぎないことが普通です。
 もしかすると、「自社」→「系列会社」とするべきところかもしれません。
(2)p.31 最後の行からp.32 まで
 投資信託でわからないところを説明してもらうには窓口のある証券会社で質問するのがよく、その説明に納得したら、ネット証券会社で購入するという方法を紹介しています。まあ、家電製品でも、店頭で説明を聞き、購入するときは kakaku.com で最安店を探すことがありますから、一理ある方法です。しかし、鈴木氏がなぜネット証券会社を勧めるかといえば、p.31 にあるように、金融機関の店舗だと営業時間が日中(9:00-17:00)になっていて、会社勤めをしている人間には足を運びにくいということがあるわけです。だとしたら、ここで「窓口で尋ねよう」というのはちょっと矛盾するように感じます。
 窓口で聞くくらいなら、メールで質問するとか、(WWW の問い合わせフォームを使うとか、)電話するとか、いろいろな手段があるものです。まずは、そういう発想をするのが自然なのではないでしょうか。
 そもそも、乙の経験では、投資信託の場合、目論見書などをきちんと読めば、かなり細かい説明が載っているので、ほぼ全容がわかるような気がしますし、それでもわからないようなこと(たとえばこの投資信託は期待リスクが何%か)は、窓口で聞いても答えてもらえないのではないでしょうか。(乙は、窓口でそういう質問をしたことがないので、わかりませんが。)
 第2章「投資信託の仕組みを完全解剖」は、投資信託の仕組みの説明です。大変わかりやすいです。
(3)p.37 最後の3行を引用します。
中長期的に資産形成を行いたい場合、投資信託は個人にとって、とても有効な投資ツールになります。もちろん、そのためには数ある投資信託の中でも、本当の意味で中長期投資に耐えられる1本を見つける必要があります。

 この言い方も引っかかります。実は、p.151 にも、「長期保有できる1本を選ぶ」ということで、同じ言い方が出てきます。鈴木氏の言い方では、投資信託は最適な1本を見つければそれでいい(その1本に集中して投資すればいい)と言っているように響きますが、それはホントでしょうか。複数の投資信託を組み合わせるほうがいい場合も多い(というか、むしろそれが普通の)ように思うのですが。
 第3章「さまざまな海外投資信託の種類」では、投資先の種類に応じて12種類の投資信託を紹介しています。大変わかりやすい解説です。
 第4章「海外投資信託選びはここに注意」では、目論見書や運用報告書をどのように活用するかを述べています。
 第5章「海外ETFにもチャレンジしてみよう!」ということで、最近、日本の証券会社で扱いが増えてきている海外 ETF を取り上げて、解説しています。
 第6章「買ってはいけない「危ない」海外投資信託」では、海外投資信託詐欺に触れています。この章は、乙にとってちょっと違和感がありました。そもそも、こういう詐欺的海外投資信託というのは、証券会社(販売会社)が運用会社(実態があるかどうか知りません)と一体になって営業しているはずです。だから、名前の知られている(ネット)証券会社であれば、そこで扱っている海外投資信託で詐欺的なものはまずないだろうと思います。逆にいえば、マイナーな証券会社の場合は、扱っている投資信託に変なものが混じっている可能性があります。そういう場合は事前によく調べることが大事です。
 全体としてきちんとした本です。1470 円で必要な情報がコンパクトに詰まっている本といえるでしょう。
 しかし、ここまで書くなら、国内投資信託についても触れた方がよかったかもしれません。海外投資信託と国内投資信託で共通しているところもたくさんありますから、本書の記述の中でかなりの部分が国内投資信託にあてはまります。(それでは平凡な投資本になってしまうかもしれませんが。)
 また、乙は「海外で投資する」場合の投資信託についても言及してほしかった(それを期待した)のですが、それはかないませんでした。まあ、そんなことをするのは少数派なんでしょうね。ホントに意味があるかどうかもわかりませんし。


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2008年01月25日

森木亮(2006.2)『日本国破産への最終警告』PHP研究所

 乙が読んだ本です。
 内容は、タイトルが明示しています。2年前の本ですが、その記述は今に通じるように思います。
 日本がまもなく破産するということで、その道筋などを示しています。
 序章「日本国破産の読み方」では、なぜ日本が破産に至るかを書いています。国債60年償還ルールなどを読むと、「その通りだなあ」と思わざるを得ません。
 第1章「国家破産で甦る日本経済」では、日本の現状ではおかしなことがいろいろあるけれども、一度破産してからでないと、日本経済は甦らないと読めます。厳しい現状認識です。
 第2章「いよいよ「2008年」まであと2年」が一番おもしろかったところです。p.90 から、日経新聞が2008年8月8日に郵貯等の不良債権をスクープし、そこからどんな過程で「破産」に至るかが書いてあります。日付は単なる予測に過ぎませんが、しかし、ここに書いてあることは、実際にあり得る話だと思います。
 p.97 から、韓国での破産処理について書いてあります。こちらは最近現実に起きたことですから、迫力があります。現在の韓国では、1割が貧困層だということで、経済運営はなかなか大変なようです。これを踏まえて日本に対する予測を書いているので、それなりにもっともらしく思いました。
 第3章は「国債の魔力と郵政民営化の落とし穴」で、歴史的に見て日本の国債がどんなふうに出現し、どうなったかを述べています。今に至るまでの歴史を知ると、国債地獄はなかなか抜け出せないものだと思います。さらに、消費税の益税の問題やサラリーマンに対する懲罰税制の問題点を指摘し、所得税は、課税最低限を引き下げ、一律 10% の税率にするというような過激な策も提案されます。今の政治家(およびそれを選挙で選んでいる日本の国民)を見れば、こんなことは通らないと思いますが、興味深い話です。
 本書の最後の部分(p.177 以降)は郵政民営化の問題点を述べるところですが、特に p.200 からの「郵政民営化に内包する三つの時限爆弾」がおもしろかったです。いつ爆発するのか、わかりませんが、こういう恐いものを抱え込んでの「民営化」なのですね。郵貯・簡保・郵便のそれぞれが問題を抱えているということが書いてあります。
 この本は、日本の今後を財政の観点で考える上で有意義だと思います。ただし、乙は、森木氏が 2008 年にこだわっていることが引っかかります。いつかは起こるにせよ、「いつ起こるのか」は、結局、誰もわからないのではないでしょうか。もっとも、そんなあいまいなことでは本は売れませんから、「執筆時の3年後」というのが、この手の常套文句です。乙は、個人的には、日本国破産は2008 年よりももう少し先の話のように思います。今が 2008 年だから「今を基準に3年後→もう少し先」といっているわけではありませんが、いざ、書いてみると、そんなふうに響きますね。
 ともあれ、日本の財政の現状をどう見るべきかを考える上で、大いに参考になる本だと思いました。


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2008年01月23日

竹川美奈子(2007.12)『投資信託にだまされるな! Q&A―投信の疑問・解決編』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。
 前著『投資信託にだまされるな!』
2007.11.19 http://otsu.seesaa.net/article/67490010.html
の続編といった感じの本です。
 第1章は「投信の疑問にすべて答えます!」ということで、前著の読者から寄せられたさまざまな質問に竹川氏が答えています。乙は、ここが一番おもしろかったですね。やはり、みんなが疑問に思うところは一緒なんだろうと思います。
 乙が竹川氏の記述(回答)で疑問に思ったのも、ここでした。

(1)p.16 これからどこの国の株を買ったらいいか、事前に予測はできないということを述べ、p.17 に 2002 年から 2006 年までの5年間の13ヵ国(地域)の運用成績を載せ、「毎年順位が入れ替わる中で、上がる国を当て続けるのは困難です。」ということで、世界分散投資を勧めています。
 しかし、p.17 の運用成績を見てみると、BRICs 諸国は、13ヵ国の中で比較的上位に来る例が多く、この4ヵ国に投資しておけばいい結果になったのではないかというようにも見えます。
 4ヵ国の中で、中国は上海と香港を分けて表にしていますので、それを考慮して五つの地域の平均順位を計算してみましょう。(統計学的には、順位尺度のものに対して平均値を求めてはいけないのですが、片目をつぶって計算します。)
 p.17 から計算すると、2002年 6.2 位、2003年 3.8 位、2004 年 7.4 位、2005 年 4.2 位、2006 年 4 位となります。13ヵ国の平均順位は (1+13)÷2=7 ですから、BRICs の五つの地域は、2004 年はほんの少し平均を下回ったものの、あとの4年は平均を上回る成績を上げ続けていることになります。
 竹川さん、あなたの資料(p.17)によれば、BRICs に投資しておけば今まで儲かったし、それを延長して考えれば今後も儲かるのではありませんか。

(2)pp.19-20 では、日本株式、日本債券、外国株式、外国債券の4種類に分散して投資することを勧めています。
 一方、p.23 では、日本株式、外国株式、外国債券、および「3資産の平均」の4種類について 1991 年を 100 として 2005 年までのリターンを示しています。なぜ、この図では日本債券が抜け落ちているのでしょうか。本来は(3資産でなく)4資産の平均のリターンを示すべきなのではないでしょうか。
 ここに、若干のインチキ(失礼!)があります。
 当然のことながら、日本債券を含めたら、(この期間の低金利政策により)4資産の平均のリターンは p.23 に示される3資産の平均のリターンよりも悪くなってしまいます。ですから、読者に対するインパクトに欠けます。しかし、だからといってこういう操作をしていいのでしょうか。
 もしも、4資産でなく、3資産で表示してもいいとしましょう。だとしたら、p.23 で見るように、この期間の日本株式の成績はパッとしませんから、外国株式と外国債券の2資産の合計のグラフを示せば、さらに成績は上がってしまうのです。だから、2資産で表示するほうがもっと好ましいということになります。でも、このような考え方については、竹川氏は p.22 から p.24 にこう書いていて、否定しています。
  「それでは、外国株式や外国債券だけに投資すればよかったと思う方もいるかもしれませんが、それは結果論にすぎません。」
 結果論ということで2資産の平均戦略を否定するなら、3資産の平均で威勢のいいグラフを示すのも結果論であり、それは否定されるべきで、4資産の平均でグラフを示すべきではありませんか。
 乙は、このあたりの竹川氏の記述は首尾一貫しておらず、うさんくさく思えました。
 余談ですが、乙は日本債券に投資していません。それはそれなりの考えがあってのことです。だから、実は竹川氏の記述でいいと思っているのです。しかし、本の記述としては問題があると思います。

(3)p.24 に出てくる「結果論」((2)でも触れたもの)ですが、そもそも乙は「結果論だ」で切り捨ててはいけないと思っています。
 1991 年から 2005 年までを振り返ってみましょう。乙は、このころ資産運用について、あまり考えていませんでしたから、何ともいえませんが、今から考えれば、この頃の日本は、どうにも経済的にうまく行っておらず、「失われた10年(15年)」といわれ続けていました。だから、こういう悪い状態の時、日本株に投資するのはおかしい(成績は上がらないだろう)と考え、日本株に投資しない(投資割合を下げる)考え方もあったように思います。あとからグラフを作成して「結果論」だというだけではなく、そのまっただ中にいても、ある程度は流れが読めたのではないかと思います。
 結果論といえば、p.23 のグラフで外国株式が大きく上昇しているのだって、結果論にすぎません。だから、p.23 のグラフを示すこと自体が(竹川氏によれば)否定されてしまいそうです。
 では、どう考えたらいいのでしょうか。
 乙は、結果論でいいと思っています。ただし、本書の p.23 のように、15年のスパンで考えるのでなく、30年から50年(あるいはさらにもっと長期)のスパンで考えればいいのです。マルキールの『ウォール街のランダム・ウォーカー』
2006.8.6 http://otsu.seesaa.net/article/21985368.html
などでは、超長期のデータに基づいて株価の値動きを考えています。そして、その結果を今後にあてはめているわけです。結果論といえば結果論ですが、それでいいと思います。今までの超長期の傾向を将来に延長して考えるのが基本なのではないでしょうか。そもそも、株式や債券などのアセット・クラスごとの予想リターンや予想リスクは過去の結果からしか計算できません。
 というようなわけで、乙の考えでは、竹川氏の「結果論だ」と切り捨てる記述は、よろしくないように思います。

 第2章は「年齢・金額別の投信活用術」ということで、具体的な資産運用法を説いています。第3章は「投信情報はこう使う!」で、いろいろな情報を調べましょうという内容です。いずれももっともな記述です。
 本書は、インデックス投資を基本にしており、まあまあいい本に入ると思いますが、乙としては、もう少し、突っ込んだ記述を期待したいところでした。

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2008年01月19日

門倉貴史(2007.11)『世界一身近な世界経済入門』(幻冬舎新書)幻冬舎

 乙が読んだ本です。
 第1章「コーヒー党、世界各地で急増中」
 第2章「寿司ブーム、BRICs に上陸」
 第3章「原油高とティッシュペーパー」
 第4章「CO2とオレンジジュース」
 第5章「レアメタルをめぐるお国事情」
 第6章「世界経済を制する新興国市場」
 第7章「成長と環境破壊のジレンマ」
 こんなふうに目次を並べてみると、どんなことが書いてあるのか、推測できます。その通りです。身近なものの値段を通して、世界の経済の動きを解説しています。主として新興国を扱っています。
 門倉氏は、全体にとてもよく調べて書いています。グラフ類も多用され、それが内容のわかりやすさにつながっています。新書でこのような豊富な情報量を持った本があるということで、門倉氏が丁寧な(手抜きをしない)仕事をしたことがうかがえます。
 本書は、「世界一身近な」を標榜するだけあって、ものの価格をメインテーマにして世界経済を見ようとしています。具体的な記述が随所にちりばめられて、参考になります。
 ただし、マクロな数字はあまり出てきませんので、そういう「世界経済」を期待して読むと、「あれ?」と感じるかもしれません。
 投資に最も関連するのは第6章です。忙しい投資家はここだけ読んでもいいでしょう。BRICs と VISTA などに関連する話が出て来ます。
 なお、VISTA は乙のブログ
2007.1.7 http://otsu.seesaa.net/article/30975838.html
で述べましたが、門倉氏の造語です。

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2008年01月17日

山田真哉(2007.4)『食い逃げされてもバイトは雇うな』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。「禁じられた数字〈上〉」という副題が付いています。
 前著『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』
2007.7.8 http://otsu.seesaa.net/article/47069131.html
に引き続いて、山田氏は会計士の観点から企業の決算書などの数字にどう取り組むかを書いています。
 全体は五つの部分に分かれています。
イントロダクション「「Web 2.0」『ゲド戦記』がすごい本当の理由」
第1章「今日は渋谷で6時53分」
第2章「タウリン1000ミリグラムは1グラム」
第3章「食い逃げされてもバイトは雇うな」
第4章「決算書の見方はトランプと同じ」
という章立てです。
 それぞれを読んでみると、まあ当たり前のことが書いてあって、これが会計学の入門書だとは思えないし、このようなことを読んでも、それでお金や数字の知識が増えたとかいうことはないと思います。しかし、新書なので、それでもいいのではないしょうか。
 本の表題は第3章の題名からつけられたわけで、パッと見ておもしろそうだと思ってしまいます。
 しかし、ネタバラシをしてしまうと、バイトを雇うお金の方が食い逃げの損失よりも高いからというだけの話で、当然のことを言っているに過ぎません。乙は、むしろ、食い逃げの話がテレビのバラエティ番組で出てきて、バイトを雇うべきだという意見に誰も反論しなかったという方がおもしろかったです。日本人の(バラエティ番組に出る人の)レベルはそんなものなのでしょう。
 乙は、題名を見て、本書を手に取ってしまいましたが、一読したあとでは、他人にお勧めするまでもないなと感じました。残念でした。今後出る下巻は……たぶん読まないと思います。


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2008年01月13日

野口悠紀雄(2006.8)『日本経済は本当に復活したのか』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「根拠なき楽観論を斬る」という副題が付いています。
 この本は、もともと週刊ダイヤモンド 2005 年4月から2006 年3月までに書いた連載「『超』整理日記」をまとめたものです。
 題名は、あとからつけたものですが、乙の感覚では、本書の内容を表してはいません。もっと広い話題を扱っています。しかし、野口氏は、p.241 で本書の内容はすべて日本経済に関するものだとしています。「経済」の指し示すものが乙と野口氏でずれているのでしょう。
 内容は、目次を見るだけでもわかります。(目次を見るだけで内容がわかるというのはわかりやすさの典型例です。)そして、内容を読むと、さらにわかった気がします。野口氏の議論に納得させられてしまいます。
 第1章「経済の現状を虚心坦懐に見つめよう」では日本経済(ひいては日本株)の悲観論がえがかれます。家計に犠牲を強いて企業が生き返っただけで、日本経済はどうしようもない状態であると述べます。
 第2章「ライブドア事件を考える」は、「企業価値最大」を目指すことはいいのだけれど、ライブドアのやり方ではダメだと論じています。グーグルと比べれば大違いというわけです。
 第3章「株主不在の日本式経営」では、企業が株主軽視を続けているし、株式市場にも問題が多いとしています。
 第4章「企業の社会的責任論を排す」では、企業は従業員の生活保障や寄付などを主目的にしてはダメで、あくまで儲けを出し、それで税金を納めることが最大の社会的責任だと述べます。
 第5章「財界と国策会社」では、旧態依然とした「財界」は死語になってほしいと願っています。
 第6章「インターネットのビジネスモデル」は、グーグルに代表される新しいビジネスモデルを紹介し、ソニーが過去の成功体験を乗り越えられるかを考え、東証のITに対する無理解を嘆きます。
 第7章「何で今ごろ郵政民営化?」では、郵政民営化の問題点を指摘します。
 第8章「人口減少社会で必要なのは何か?」では、人口減少でも、一人あたりの生産性を上げれば豊かな社会が作れるとしています。しかし、今の少子化対策では役立たずで、そもそも政治体制が長期的視野を持てないようになっていることが問題だと述べます。
 第9章「小泉税制改革を総括する」では、「税制改革」が真の意味の税制の改革になっていない点を指摘し、給与所得控除や消費税、相続税、役員報酬などの面から日本のあり方を考えます。
 第10章「国の形を考える」では、年金問題をとりあげ、これを民営化するべきだと主張します。そして小さな国を目指そうといいます。
 第11章「世界は大きく変わっている」は、世界の現状を「小さな国がリードする時代になった」ととらえ、グローバリゼーションのあり方を考えます。
 乙は、本書を一気に読んで、すっきりした気分になりました。野口氏のものの見方は、ずばり的を射ています。大変おもしろかったです。本書で野口流の考え方・哲学を教えてもらったような気がしました。
 乙は、このコラムの最新版を読むために週刊ダイヤモンドを定期的に読んでもいいかなという気分になりました。
 こんな方が、閣僚の中にいたら、日本もおもしろい国になったでしょうに。いや、さすがの野口氏だって、やはり、閣僚になればなったで、自分の主張だけで話は済まないから、内部に埋没してしまうのでしょうかね。
 それにしても、本書の出版後、1年半になりますが、日本の現状を眺めると、どうにもやりきれない気分にならざるを得ません。
 こういう本を読んで、「そうだ、そうだ」という感覚を味わうといいと思います。
 それにしても、野口氏はこういう密度の濃いコラムを週刊誌に毎週連載しているんですね。そして、1年分をまとめて1冊の本にしているわけですが、それが本書で11冊目になっているのです。あきれるくらいにすごい人です。
 野口氏の書いた他の本を読みたくなりました。


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2008年01月07日

浅川夏樹(2007.12)『夜の銀座の資本論』(中公新書ラクレ)中央公論社

 乙が読んだ本です。
 銀座のクラブとホステスについて書かれた本です。もう少し投資の話が出てくるのかと思ったのですが、当初の予想ほどではありませんでした。乙は銀座のクラブに行ったことがなく、ホステスがどういう存在なのか、まったく知りませんので、ホステスについて書かれた部分がおもしろかったです。「売り上げ」と「ヘルプ」の違いも初耳でした。
 本書の全体の調子は「投資の考え方でもってホステスとクラブの仕組みを眺めてみると、こんなふうに描けます」といったところでしょう。
 ホステスはホステスなりに大変なんですね。でも、ホステスは35歳までに普通の人の一生に当たる分を稼ぐと考えれば、たくさん稼いでいても、実態としては、さほど儲かるものでもないといえるのかもしれません。
 投資関連本というよりは、投資の寄り道本というべきでしょうか。


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2008年01月05日

菊池誠一(2007.6)『投資信託を見極める』日経BP社

 乙が読んだ本です。
 タイトル通り、いろいろな投資信託の性質について、具体例をあげながら解説する本です。
 はしがきを読むと、p.8 に著者の菊池氏が持っている投信が七つであることが示されます。その一つにグローバル・ソブリン・オープン(略称:グロソブ)があげられています。毎月分配型で、乙も、以前は持っていたのですが、解約してしまいました。
2006.8.17 http://otsu.seesaa.net/article/22441509.html
それを保有していると明言されていることにちょっと驚きましたが、秘密は p.32 に書かれていました。菊池氏は60歳を過ぎているのですね。だから、毎月の年金代わりのグロソブに意味があるのでしょう。
 第1章は「様変わりになった投資信託」で、株式投信が急拡大していることから説きはじめます。ただし、実際は債券に投資しているのに「株式投信」に分類されるものがある(グロソブはその一つ)ことから、厳密にいえば株式投信が急拡大しているのではないことがわかります。実は、株式投信は伸び悩んでいるわけです。
 第2章は「投資信託のプラス、マイナス」で、投資信託入門といった内容です。
 第3章は「「グロソブ」と「海外債券型投信」の将来」で、グロソブおよび海外債券型投信の現状を分析しています。ここは、菊池氏のオリジナルな議論が展開されます。乙にとっては、本書の中で一番おもしろかったところです。
 p.101 では、グロソブは債券の配当等の収益で儲けているのではなく、実は有価証券の売買で儲けているのだとうことが示されます。乙は、グロソブを保有していたころ、運用報告書を読んでいたのですが、この仕組みには気が付いていませんでした。
 p.104 では、グロソブが大きな欠損金を抱えていることが示されます。これについても、詳しい説明があり、なぜこれでいいのかが納得できます。乙は、こんなことにも気が付いていなかったのです。
 本来は、第3章の記述くらいを理解してからグロソブを買うべきなのでしょうが、たぶん、グロソブを買っている人でそこまで理解している人はごく少ないのではないかと思います。
 第4章は、「「株式ファンド」の将来を考える」という章です。第1節は、「国内株の「株式ファンド」復活はあるのか」です。国内株の株式ファンドを見ると、どれも寿命が短く、平凡な成績しか上げておらず、あまりパッとしません。ファンドを買うならインデックス・ファンドがいいという話になります。第2節は「「好配当株投信」が抱える矛盾と限界」です。好配当株に投資する投信は、それ自体矛盾しているということを丁寧に説明しています。第3節は「ETF は本当に「有利な商品」なのか」です。菊池氏は ETF を勧めています。p.177 では、ETF が台頭する一方、インデックス・ファンドは停滞気味だということになります。現在、資金がシフトしているのですね。
 第5章は「「リート(不動産投資信託)」の魅力と限界」です。第1節でリートがどんなものかを説明し、第2節で海外リート投信の高利回りの秘密を明らかにし、かつ将来に対する不安を説明します。第3節は「J−リート投信」の存在意義を問います。J−リートが簡単に買えるときに、J−リート投信を買う意味はないということで、こんな商品があること自体、日本の投資家や金融機関がおかしいのだとしています。p.221 では、J−リート投信は1万円ちょっとの小口でも買えることがメリットだとしていますが、一方、そういう投信を買うなら、J−リートの市場指標に連動するインデックス・ファンドを買う方がよいとしています。
 第6章は「投資信託でポートフォリオを作る」ということで、個人投資家が資産運用の全体を考える際のポイントを解説しています。本書の結論のような章です。
 全体として、まじめに書かれた投資信託の本です。入門書のレベルではなく、実際に投資信託を購入し、ある程度仕組みを理解している人に向いています。
 菊池氏は、元日経新聞の記者で、現在は流通科学大学の教授だそうです。なるほど、きちんとした分析で、わかりやすく書いています。この本は多くの人に勧めることができる本だと思います。


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2007年12月31日

吉本佳生(2000.4)『金融工学 マネーゲームの魔術』(講談社+α新書)講談社

 乙が読んだ本です。
 第1章は「金融のリスクを考える」で、リスクとはどういうものかを説明しています。
 第2章は「ポートフォリオ理論の本質」で、ポートフォリオという考え方を通じて投資のしかたを伝授しています。p.67 では「株価予想のむずかしさ」を説明していますが、なるほど、この説明を読むと、株価を予想することがなぜむずかしいか、よくわかります。納得できます。
 第3章は「デリバティブとは何か?」ですが、前著・吉本佳生(1999.9)『金融工学の悪魔』日本評論社
2007.12.22 http://otsu.seesaa.net/article/74013494.html
と似た記述がされます。
 第4章は「ブラック=ショールズ式を検証する」で、ここも前著と内容的に重なるところがあります。
 第5章は「金融工学でカネ儲けはできるのか?」で、結論からいえば「できない」ということになります。
 p.216 では、ヘッジファンドのようなものでも、ハイリターンなものはハイリスクであり、ローリスクなものはローリターンであることが示されています。これはおもしろい話でした。
 時期的にも前著と出版が近いためか、内容的に重なるのはしかたがありません。まあ、普通はどちらか1冊を読めば十分でしょう。
 乙の場合は、両方を読んだので、既読感があって、やや残念でした。いい本であることは確かです。


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2007年12月28日

勝間和代(2007.11)『お金は銀行に預けるな』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。「金融リテラシーの基本と実践」という副題が付いています。
 第1章「金融リテラシーの必要性」では、全員が金融リテラシーを持つべきだという主張が展開されます。
 p.22 では、お金を定期預金に預けることは、安全資産を多く持っているということであり、それはつまり運用益が小さいから、労働による収入が必要になり、長時間労働になるとしています。これが少子化にもつながっているということで、日本の現状を批判的に述べています。だから結論は「お金は銀行に預けるな」ということになるわけです。
 乙はこの発想を大変おもしろいと思いました。勝間氏の議論は、広い視野からお金の世界を見ようとしている点に特徴があります。つまり、本書は単なる投資本の域を越えたものになっています。金融リテラシーという見方は、人生をどう生き抜いていくかという大きな問題につながるものだと思います。
 第2章は「金融商品別の視点」ということで、さまざまな金融商品を取り上げてそれをどう見るべきかを述べています。
 p.74 から「株式」の話が出てきます。単純に「プロが得して個人が損する」としています。きちんとしたデータを示して述べているので、これは納得できる議論です。p.77 には、機関投資家と個人投資家の違いを比較した表が出てきますが、こうやってみてみると、やはり、機関投資家が勝つものだということが納得できます。乙は、一部の資金を日本の個別株に投じていますが、全体として、あまりうまくいっていません。こんなものかもしれません。今後は順次、個別株から撤退しようと考えています。
 勝間氏は、投資信託が万人にオススメだとしています。また、コモディティ(商品)を今後の注目商品だと見ています。そうかもしれません。
 第3章は「実践」ということで、段階を踏んで投資について学ぶような形で解説しています。納得できる内容です。
 第4章は「金融を通じた社会責任の遂行」という章で、再度、金融リテラシーという見方を説いています。
 p.209 からは社会責任投資(SRI)について述べており、乙も、こういう態度で投資に臨むのがいいなあなどと思ったのでした。乙が投資している市民風車ファンド
2007.6.23 http://otsu.seesaa.net/article/45659163.html
などは、その一環だろうと思います。まだまだごく一部しか投資していませんので、乙は SRI について語れるほどではありませんが、今後は、こんな考え方もしていきたいと思いました。
 全体として、まじめに書かれた良書です。投資に関わるものとして知っておきたい内容の本です。


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2007年12月26日

春山昇華(2007.11)『サブプライム問題とは何か』(宝島新書)宝島社

 乙が読んだ本です。「アメリカ帝国の終焉」という副題が付いています。
 サブプライム問題について、とても丁寧に説明されている本です。
 第1章「住宅バブルを生んだ社会的な背景、時代的理由」では、アメリカ全体を眺める視点で書かれています。たとえば、p.26 では、アメリカの住宅優遇税制に触れていますが、持ち家推進ということで住宅所有者にはものすごい優遇ぶりで、アメリカにはこんな仕組みがあるなんて、乙は全く知りませんでした。
 第2章「サブプライムが略奪的貸付に変質した理由」では、各種住宅ローン全体を見ながら、サブプライムローンがどのようにその特徴を変えていったのかが説明されます。
 第3章「サブプライム問題の露呈」では、今回の問題の始まりのころを回想しています。大変な事件だったわけですね。
 第4章「サブプライム問題への対策と現実」では、証券化によって住宅バブルが後押しされ、現実にどうなっていったかがリアルに描かれます。p.125 では、住宅ローンの支払いが滞るとすぐ立ち退きになってしまう理由が書いてあり、今回の問題が低所得者に対して厳しい現実を迫るさまがわかります。
 第5章「サブプライム問題の今後」では、金融技術が発達したことで今回の問題が起こったことを述べ、解決はそう簡単ではないことをうかがわせます。
 第6章「終わりのはじまり」では、アメリカ帝国主義が崩壊することも見据えて、世界的な視野から今回の問題を位置づけています。
 本書を一読して、今回の問題の大きさが理解できました。アメリカにたびたび訪問して現状を肌で感じ取っている春山氏ならではの記述だと思いました。お勧めできる本だと思います。
 これに比べると、乙のアメリカ不動産に関する見方・考え方
2006.3.28 http://otsu.seesaa.net/article/15592713.html
は、何と甘いのでしょうか。
 本書を読んだ後では、アメリカ株への投資も、やはりあまり集中しないようにしようかなあなどと思いました。
 著者のブログ「おかねのこねた:春山昇華の賢楽投資生活」(旧名は「おかねのこねた:日中米に、賢く投資しよう!」)
http://www.doblog.com/weblog/myblog/17202/
は、乙も参考にしていますが、更新が非常に多いブログです。


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2007年12月22日

吉本佳生(1999.9)『金融工学の悪魔』日本評論社

 乙が読んだ本です。「騙されないためのデリバティブとポートフォリオの理論・入門」という副題が付いています。
 乙のブログ
2007.11.27 http://otsu.seesaa.net/article/69519485.html
に対する「えんどうやすゆき」さんからのコメントでこの本の存在を知りました。
 全体にとても読みやすい本でした。吉本氏は金融工学のことが完全に理解できているのでしょう。だからこそ、こんなにも読みやすい本が書けるのだと思います。
 第1章「リスクのない資産はない」ということで、リスクの説明です。株価などの予測がなぜできないかを示すものです。「1.株価の予測にコンピュータは役立つか?」というようなタイトルが付いており、興味をそそります。
 第2章「デリバティブは妖怪じゃない」では、オプション取引を中心に説明していきます。
 p.66「日本の企業は通貨オプションを買うことを嫌う」ということで、オプションを買うときにプレミアムを払いますが、わずかながらも必ずプレミアムを払うことが日本企業に嫌われたと述べています。そして、p.69 から、オプションを売るということをベースにした商品が開発され、急拡大していったとしています。なるほど。日本でのオプションにはこんな歴史があったんですね。
 p.70 から、オプション商品の評価が重要だということになります。ただし、p.71 で述べているように、オプションを組み込んだ商品は買わない方がいいとしています。オプション価格の計算がむずかしいので、そういう商品は手数料ぼったくりになる場合が多いということです。
 この話を読んで、乙は、パワーリバースデュアル債
2007.12.17 http://otsu.seesaa.net/article/73067545.html
のことを思い出しました。こちらもオプションを組み込んだ金融商品でした。
 p.73 から、具体的なオプション価格の計算法が出てきます。p.85 には、ブラック=ショールズ・モデルによるオプション価格の計算式も出ています。これは、真壁昭夫(2005.4)『はじめての金融工学』(講談社現代新書)講談社
2007.12.3 http://otsu.seesaa.net/article/70624375.html
の p.178 に出てくるものと同じですが、吉本氏の式の方がわかりやすいように思いました。式中にでてくるSとかXとかが全部説明されているからです。(真壁氏の説明も、全部読めば書いてあるはずですが、長くて、かえってわかりにくいと思います。)
 しかし、本書の特徴は、このようなむずかしい式などを使わずに、簡易計算法を提示していることです。乙にとっては、まさに目からウロコでした。簡易計算法で、オプション価格の計算法を知った上で、ブラック=ショールズ・モデルを見ると、何となく、計算しようとしていることがわかりそうな気がしてきます。
 この第2章の説明はとてもよく書けていると思いました。
 第3章「個人のためのファイナンス講座」では、外貨預金が不利であることや住宅ローンの考え方が出てきて、身近な話題を金融工学の目でどう見るかが説明されます。
 第4章「応用と実践のファイナンス講座」では、ヘッジファンドや通貨オプション、セット商品などを取り上げて特徴などを解説しています。乙は、ヘッジファンドの話がおもしろかったです。いろいろな手法が説明されていますが、ヘッジファンドといっても、特別な運用をしているわけではなく、いくつかの基本的な手法の組み合わせに過ぎないと看破しています。

 やや古い本ですが、とてもいい本だと思いました。


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2007年12月08日

五十嵐敬喜(2007.4)『「素人以上プロ未満」のための経済・金融入門』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。「今がわかるニュースの読み方」という副題が付いています。
 読み始めてすぐに、著者がかなりの金額による為替ディーリングで失敗した話が出てきます。そんなことからもわかるように、具体的な話が多く、読んでいておもしろいと思いました。ただし、この本を読んだからといって投資技術がアップするかというと、そんなことはありません。そういう意味で、「経済ニュース入門」といったところでしょうか。
 p.5 に明確に述べられていますが、「本書の執筆に当たっては、特に参考にした文献はありませんし、誰にも意見やアドバイスは求めませんでした。」とのことです。その態度は、それはそれで意味がありますが、読者のためには、もう少し「次はこの本を」という意味で参考文献の紹介がほしいように感じました。本書では全くのゼロです。
 第1章は「「予想」が左右するのが相場」というものです。為替の話が中心ですが、p.33 で述べるように、人が予想するから為替が動くとのことです。これはおもしろいと思いました。最近流行の行動ファイナンスの考え方などにも通じるものです。
 p.44 では、アメリカへの証券投資の内訳のグラフが出ていますが、アメリカに流入している資金は、大部分が社債・政府機関債・国債などの証券に投資されており、株式への投資はごくわずかなんですね。乙は意外でした。
 第2章は「くすぶり続けるドル暴落の懸念」です。ドルを中心に見た為替の世界を描いています。アメリカの対外赤字についても述べられていますが、ドルの動きがよくわかる記述になっています。
 第3章は「世界を飛び回るマネーの正体は何か」です。カネの動きを見るためには、外貨準備、基軸通貨、貿易不均衡などを総合的に見なければならないわけですが、五十嵐氏はそういう見方を示していると思います。
 第4章は「「失われた10年」から立ち直った日本経済」です。第5章は「デフレ脱却後の日本経済の新たな課題」です。この二つの章で、最近の日本経済の動きの概略を把握することができるように感じました。
 第6章は「異常な経済の異常な金融政策」です。金融の量的緩和政策がいかに変だったかを書いています。
 第7章は「少子高齢化に直面する日本経済」です。これからの日本経済を展望します。pp.215-227 では「財政の破綻は回避できるか」を論じています。結論は「財政は破綻しない」ということになりそうです。p.220 にあるように、国債残高が膨張して歯止めがかからないときに、インフレで解決できるという考え方がありますが、五十嵐氏はこれを否定します。インフレがあっても所得は増えないだろうとのことです。インフレと同時に不況になり、スタグフレーションになると予想しています。したがって、インフレによる解決策は採ってはいけないということになります。
 全体として、わかりやすいと思います。読んでいくうちに頭の中を整理することができるような気になります。
 しかし、一方では、このような主張の根拠がどこにあるのか、はっきりしない面もあり、一人の人の意見を知るという意味でなら読んでもいい本といえるでしょう。
 ちなみに、アマゾンで「五十嵐敬喜」を入れると、たくさんの本がヒットします。憲法や都市法などの本が上がってくるので、たぶん、同姓同名の別人がいるのだろうと思いました。


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2007年12月03日

真壁昭夫(2005.4)『はじめての金融工学』(講談社現代新書)講談社

 乙が読んだ本です。
 第1章は「新しい金融派生商品・新しい考え方」で、p.16 では天候デリバティブ、p.26 ではクレジットデリバティブが取り上げられています。こんな金融商品があるのですね。ただし、乙が不満に思ったのは、それぞれが具体的にどれくらいの利回りになるのか(どれくらいのプレミアムがあるのか)が書いてないことです。それなしでは記述が抽象的なお話にとどまると思います。個人投資家が直接買えない(機関投資家向けの)ものであっても、具体的な例を知りたいと思いました。
 第2章は「金融工学はこう考える」ということで、基礎的なお話です。特に新しいことが書いてあるわけではありません。
 第3章は「わかりやすい統計と確率の話」です。これは常識の範囲で、全部カットしてもよかったのではないでしょうか。乙は途中からここをスキップしつつ読みました。
 第4章は「リスクとリターンの考え方」で、金融工学の考え方の中心部分を記述していきます。わかりやすいと思います。p.128 では、資産を分散させる場合について、対象数が 100 ぐらいまでしかリスク低減効果がないとしています。何百種類にも分散投資してもしかたがないのですね。
 第5章は「オプション価格を求める理論」ということで、現在の金融工学の中心的な話題を取り上げます。一応、わかりやすく書いてあるのですが、p.173 からブラック=ショールズの公式の求め方が出てきます。乙は、これが理解できませんでした。ここは、数学の素養がないと手が付けられないと思います。本文中には読み飛ばしても問題はないと書いてありますが、数学が苦手な人のための解説がほしかったところです。
 第6章は「金融工学の限界とそれに続く理論」ということで、行動ファイナンス理論の考え方と、正規分布を疑う話が書いてありました。乙は後者がおもしろかったです。p.202 で「べき分布」を正規分布の代わりに使おうという話は「ほうっ」と思いました。ただし、べき分布だと標準偏差が無限大になってしまうそうですから、これで納得できるリスク管理ができるのかどうか、よくわかりません。
 本書は、全体として、よく書けており、金融工学とは何か、手っ取り早く知るには適していると思います。たった 215 ページですが、中身はかなり濃いと思います。


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2007年11月27日

野口悠紀雄(2000.9)『金融工学、こんなに面白い』(文春新書)文藝春秋社

 乙が読んだ本です。
 「金融工学」については、まったく知らなかったので、どんなものなのかと思って買いました。
 一読したら、投資に直接関係する注意事項が書いてありました。金融工学については、依然としてよくわかりませんが、個人投資家としては金融工学について知らないでは済まされないと思いました。
 第1章は「金融工学で金持ちになれるか?」です。一番知りたいことがズバリ書かれていました。結論は、「金持ちにはなれない」です。株価はランダムに上下するので、予測できないというのが結論です。
 第2章は「金融工学のテーマは「リスク」」です。リスクをどう扱うかを述べています。「なるほどなあ」という感想です。
 第3章は「分散投資の原理」です。乙はここが一番おもしろく思いました。
 p.71 では、カタストロフ保険の話が出てきます。これは 11% という非常に高い利回りがあるのですが、ハリケーン・シーズンに保険会社の損失がある一定額をこえると元本の償還がなくなるというものです。アメリカにはこんな金融商品があるんですね。興味深いです。
 p.72 では、入試の科目数をとりあげ、科目数が少ないのは集中投資と同じで、ヤマが当たるといいけれど、たまたま不得意分野から出題されると困るとのことです。入試の科目数が多いほうが分散投資と同じで失敗が少ないということです。こんなことで分散投資の考え方を説明するとはたいへんユニークです。
 第4章「「ベータ」投資理論」と第5章「先物取引」もわかりやすい解説です。
 第6章「オプション」は、ちょっとむずかしかったです。
 p.152 保険はオプションだという説明は目からウロコです。
 しかし、ブラック=ショールズの公式は、やはりむずかしいですし、それを初等数学でも同じように適用できるとして解いてみせているのですが、乙は十分理解できませんでした。野口氏が一番にいたかったことが伝わりませんでした。スミマセン。
 第7章は「未来を拓く社会的技術」で、金融工学は一つの社会的技術であるとし、それによって未来が拓けてくると論じています。
 p.202 から、ヨーロッパの大航海時代は民間収益事業だったことで大いに近代化が促進されたと述べています。それに対して、p.206 で中国は官僚国家だったため、民間経済活動が未発達であったので、(明の時代には)世界に遅れてしまったということです。p.207 では、ロシアを取り上げ、社会主義経済が失敗したことを述べています。社会的な技術も、それを活用する仕組みもなく、分権的な意思決定ができないのではどうしようもありません。
 では、これからの日本はどうあるべきなのでしょうか。野口氏はそこまでは踏み込んでいないものの、今後の日本の方向性を考える上で、大きなヒントがあるように思いました。

 今となってはちょっと古い本ですが、一読の価値はあると思います。ただし、新書版サイズにさまざまなものを取り込んでいるので、やや説明が簡略に過ぎる部分が感じられました。


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2007年11月21日

三原淳雄(2007.8)『金持ちいじめは国を滅ぼす』(講談社+α文庫)講談社

 乙が読んだ本です。
 題名通りの内容で、痛快です。
 第1章は「神話の国の神話の崩壊――新しい神話づくりのために」というものです。
 p.22 には「土地が輸入できる時代に変わった」とあります。中国を例に挙げて、こんな近いところに広大な土地と低賃金の労働力があるから、それを利用することは、すなわち土地を輸入していることになるという話です。だから地価が上がり続けるという土地神話が崩壊したということになります。日本が変わってしまったことを端的に示す例でしょう。
 p.44 では、これからの日本について、金融・投資・ブランド・知財立国を目指すとしています。これが本書を貫く主張です。
 第2章は「ノー天気ニッポン――考えることを止めてしまった日本人」です。
 p.54 からニート・フリーター論が語られます。フリーターやニートの存在は、親や兄弟が本人を支えているからこそ可能であり、その意味では日本は豊かなのだと主張しています。そうかもしれません。しかし、実際にニートやフリーターを抱えている人たちは必ずしも豊かとばかりは言えないと思います。餓死することはないとしても、人間として幸せに暮らしていくためにはそれだけでは不十分で、やはり結婚・育児・親の介護などができなければならないでしょう。いつまでも周りに頼って生きていくのでは、その人の人生は非常に限られたものでしかありません。それは本人のためにはなりません。(そして、社会のためにもなりません。)ここに見られるのは著者の「強者の論理」です。
 第3章は「格差社会の落とし穴――金持ち優遇は悪いのか」です。この章では、著者の怪気炎が挙がります。本書中で一番にいいたかったことが第3章でしょう。
 p.94 世界の金持ちに日本で住んでもらおうという話から始まります。消費も活性化するし、人口減少にも歯止めがかかるとのことです。非常にユニークな発想です。もちろん、実現可能性はきわめて低いと思われます。外国人が、日本語を中心に社会が成り立っている日本に住んで、果たして幸せにやっていけるでしょうか。乙は大いに疑問に思いますが、ともあれ、そういう発想にはおどろかされました。
 p.99 政治も行政も市場の本質を理解していないと糾弾しています。だから投資家がなかなか育たないし、すぐに「金持ち優遇はけしからん」的になってしまうというわけです。
 日本の現状がこの通りだとすると、「貯蓄から投資へ」などというスローガンは、日本のあり方を変えてしまうことを意味します。本当に大丈夫なんでしょうか。
 p.120 では、財政破綻した夕張市を救うために、夕張市に一定期間以上住んだ人の相続税をゼロにするというのはどうかという、これまた斬新な発想が書いてあります。まあ政府がそんなことを認めるはずがありませんが、発想としてはおもしろいです。
 第4章は「フラット化・マネー化する世界経済――発想の転換でチャンスをつかめ」です。
 p.142 では「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざの発想が必要だ(もっともだ)とし、「遅くとも猫が減り始めた段階で「これは桶屋が儲かるのではないか」ぐらいのスピード感は持ってほしい」と言っています。乙は、ここにかなり違和感を感じました。「風が吹けば……」の言い方は、現代では、論理がつながらないトンデモ理論の例として考えられているのではないでしょうか。つまりありえない話ということです。
 第5章は「再び光り輝く日本のために――豊かさを生かす方法とは何か」です。結論の章といっていいでしょう。
 p.186 からあとがきです。そこに日本のシンボルとして JAL を取り上げ、JAL が昔は独占企業として日本の花形産業として優秀な若者を集めたのに、自己保身的な組織になり、改革がむずかしくなり、士気が下がっていったとしています。そして、JAL が日本の将来に重なって見えるというのです。乙はおもしろい見方だと思いました。このまま日本が潰れていってしまうのでしょうか。

 全体にこの本には「強者の論理」があふれています。著者の三原氏は、きっと金持ちで強い人なんでしょう。しかし、世の中は強者だけで成り立っているわけではありません。もう少し、「寛容の心」を持って物事を見てほしかったと思います。
 この本は、全体として主張を裏付けるデータに乏しいようです。話はおもしろいのですが、その裏付けがありません。著者は、研究者でなく、いかにも評論家だなあと感じさせます。


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2007年11月19日

竹川美奈子(2007.4)『投資信託にだまされるな!』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「本当に正しい投信の使い方」という副題が付いています。
 古本屋に並んでいたので、思わず買ってしまいました。
 中身は、インデックス投資のすすめです。日本債券はさておき、日本株、外国株、外国債券のそれぞれインデックスファンドに分散投資することを勧めています。文字通り、「本当に正しい」やり方だと思います。
 ただ、この種の本を何冊か読んだ後で本書を読むと、あまり新しいことは書かれていないと感じます。まあ、それはそうでしょう。日本ではあまりに変な投資信託が蔓延しているわけですから、そういう社会に対しては、本書のような「正しい」投資のあり方を訴えていかなければなりません。
 p.56 では、中国株やインド株の投信はかなり危険なギャンブルだということで、これを資産運用の核にしてはいけないと述べ、投資するとしても資産の 10% 以下にするべきだとしています。これは正しい考え方です。しかし、乙の過去の経験からすると、新興国株は大きく値上がりしており、さらに今後も高成長が期待できますから、実際上、10% よりももう少し多くてもいいのではないかと感じています。p.57 では、1ヵ月で 30% も下落したインド株投信の例がグラフで示されていますが、しかし、そのグラフをよく見ると、大幅下落の前後をある期間保持していれば、大幅下落を乗り越えて、全体としてはかなりのプラスになっています。これがインド株の魅力です。というわけで、インド株投資を少な目にするのは「正しい」考え方なのですが、そうでない考え方も十分魅力的に思っています。まあ乙はギャンブル好きということになるのでしょうね。
 第5章では、「世代別に見る、投資信託の活用法」が述べられています。60代以上では、リスクを小さくして、債券を多めにし、20〜40代の若い人の場合は株を中心にして積極的にリスクをとることをすすめるわけです。各世代に対するおすすめの資産運用プランが具体的に書いてあります。わかりやすくて大変いいと思います。ただし、言うまでもないことですが、このようなプランは多数の人に当てはまるような、ある意味で「平均的な」プランであり、わかっている人の場合は、必ずしもこれに即していなくてもいいように思います。まずは本書で基本を学び、各自が自分の考え方で自分の人生設計に合わせて変更して使うのがいいでしょう。変更する前に基本を知る必要があり、それが第5章の記述だと思えばいいわけです。


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2007年11月16日

山崎元(2007.10)『新しい株式投資論』(PHP新書)PHP研究所

 乙が読んだ本です。「「合理的へそ曲がり」のすすめ」という副題が付いています。
 大変おもしろい本です。読みおえて、久しぶりに爽快な気分になりました。
 山崎流の株式投資の考え方がわかりやすく書かれています。新書ということもあって、むずかしい話は出てきません。誰でも読めるし、理解できると思えます。
 最近のファイナンス理論に関する山崎氏の勉強ぶりはさすがです。こういう人の本ですから、基本的に信用できそうに思います。
 p.64 「「悪しき結果主義」を卒業しよう」ということです。「悪しき結果主義」は「何が正しいかは、実際に運用してみたパフォーマンスで決めよう」という考え方です。
 これについては、乙がブログで述べたことがありますが、ヘッジファンドについて、実際に運用してみて、結果を見ようとしています。
2007.5.7 http://otsu.seesaa.net/article/41009406.html
2006.8.16 http://otsu.seesaa.net/article/22402936.html
山崎氏はこれを否定しています。仮にそういう運用がうまくいっても、「幸運な誤差」だというわけです。山崎氏は p.67 で「少なくとも、知的には、「悪しき結果主義」を卒業した話ができる人とでなければ、運用の話をしても不毛だ。」と述べています。ですから、乙は山崎氏と話ができる資格がありませんが、ヘッジファンドについては、「悪しき結果主義」でいいように思います。数年間運用してみて、パフォーマンスが悪ければ「自分が間違っていた」ということで解約すればいいですし、パフォーマンスがよければ、その線をさらに延長して投資してみてもいいのではないかと思います。(延長しなくてもいいですが。)ヘッジファンドがインデックスを上回る可能性が、主観的には 40% くらいありそうに思います。逆にいえば、下回る可能性が 60% くらいでしょう。合理的な判断としては、ヘッジファンドに投資しないほうがいいのかもしれません。しかし、資金の一部でそういうものに投資してみるのも(ギャンブルと同じで)おもしろいと思います。
 p.73 「目標株価の設定は必要ない」というところです。乙は、この議論に納得しました。しかし、以前、乙が株を買ったときには、見事に目標株価などを決めていました。今では、当時は株のことを知らなかったのだなあと思っています。
 p.159 「投資信託などのファンドマネージャーが市場平均よりも稼いでくれるという実績がないのに、顧客がファンドマネージャーにお金を預けるのは、「自分がやっても同じくらい儲からないなら、失敗した時に他人を責めることができる方が気楽だ」という心理が働いているからだろう、という研究もある。」この言い方は、投資信託を買う人の心理を鋭く指摘しています。山崎氏のオリジナルな研究ではないところが残念ですが、まあ、「終わりよければすべてよし」です。山崎氏は投資信託の意味の一つを指摘してしまいました。
 p.179 「(5) 直近を含む過去の一定期間に成功している方法は、必ずしもそれ故に有望とは言えない(場合によっては、むしろ警戒すべきだ)。」p.180 では、過去の運用がよかったファンド(特にヘッジファンド)について、「うまい運用だから今後も有望だ」と考えるよりも「畑が荒れたから今後はむずかしい」と考えるべきだとしています。この考え方は乙と正反対です。一般の人でも、過去の成績がよかったファンドに投資する傾向が強いように思います。やっぱり結果を見て、ファンドマネージャーの腕を推測するような考え方をしているのでしょうね。


ラベル:山崎元 株式投資
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2007年11月05日

中桐啓貴(2007.5)『会社勤めでお金持ちになる人の考え方・投資のやり方』明日香出版社

 乙が読んだ本です。
 第1章は「会社勤めでもできる7つの投資」ということで、株式、債券、不動産、投資信託(ファンド)、外国為替取引(FX)、ギャンブル、自己投資を紹介しています。ギャンブルや自己投資を入れているところはおもしろいです。もちろん、ギャンブルをしてはいけないのですが。
 第2章は「「株式会社」のしくみがわかれば、株は怖くない」ということで、やさしい株式会社入門といったところでしょうか。とてもわかりやすい説明です。
 第3章は「あたりまえだけどなかなかできない株式投資のルール」ということで、株式投資の考え方を説いています。真っ当な投資法なのですが、こういうのは、説明としてはわかるのですが、具体的な会社を考え始めると、とたんにむずかしくなります。もう少し、具体例を出してもらいたいところです。もっとも、そうなると、現実の泥沼が待っていますから、きれいにわかりやすく説明することはできなくなるでしょうが。
 第4章は「投資をする前に知るべき法則」ということで、投資の考え方をやさしく解説しています。
 第5章は「グローバル世渡り上手のススメ」ということで、海外投資の考え方の基礎を示しています。
 第6章は「なぜ、「毎月」の「5万」で「億万長者」になれるのか?」ということで、積立投資を説いています。収入の1割を投資に回すなど、アドバイスも適確です。
 第7章は「なぜ、積立投資でしか資産を増やせないのか?」で、積立投資のよさを再度説きます。
 第8章は「ひと財産を築く投資信託の選び方」で投資信託による投資法を解説します。納得できます。
 巻末付録には「厳選! ハイブリッド社員のブログ集」があり、ブログのリンク集が掲載されています。乙が知らないブログもいくつかありました。

 全体として手堅い印象です。真っ当な本です。ただし、乙は他の本を読んでからこの本に巡りあったので、残念ながら、あまり新鮮な気持ちにはなれませんでした。
 しかし、初心者のための入門書と考えれば、わかりやすいですし、間違ったことが書いてあるわけでもなく、よく書けていると思います。


ラベル:中桐啓貴 投資
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2007年11月03日

角田康夫(編)(2005.6)『アクティブ運用の復権』金融財政事情研究会

 乙が読んだ本です。
 著者は、「UFJ信託銀行資産運用研究会」ということで、実際には編者を含め5人で書いたものです。
 実のところ、今まで乙が読んだ投資関連本の中で一番むずかしかったように思います。正直にいうと、中身がよく理解できませんでした。専門的な論文のような本です。これを読み解くには、それなりの知識を持っていることが求められます。各種の専門用語が特に説明なしに使われています。読者がそういう用語を知っていることが前提だということです。
 もともと、アクティブ運用の本だということで、乙は「個人でもできる資産運用術」のようなことを期待して購入したのですが、失敗でした。
 立ち読みしてから購入するようにしていれば、こんなむずかしい本は買わなかっただろうと思います。ネットでタイトルだけ見て買ってしまったのが失敗の原因でした。
 本書は、年金の運用などを念頭に置いて書かれたようです。アクティブ運用といっても、そういう世界での話です。本書は、個人投資家とは無縁であり、投資家は読まなくていいと思います。
 それにしても、重要なテーマだと思うので、もう少しわかりやすく書いてもらいたかったように思いました。普通は、本の場合、編集者が最初の読者として読むので、内容がむずかしい場合は、そう指摘してやさしく書き直してもらうものですが、この本は、たぶんそんなことをせずに、著者たちの興味のある話を直接書いてしまったのでしょう。
 p.13 では、Bernstein の論文を紹介しつつ、インデックス投資の問題点を指摘しています。以下の3点です。
@回転率の上昇:S&P 500 のようなインデックスでは入替えが頻繁なのでコストがかかる。そして入替え時のフロントランニングによるコストの上昇
A分散が不十分:時価総額上位銘柄への集中が激しい
Bリスク・プレミアムの低下予想のもとでは、魅力がない

 というわけでインデックス運用は困難だとしています。
 しかし、一方では、「スキルのある運用者を見分けられない顧客は、インデックスで運用するのが無難であろう」とも述べています。
 このような立場から本書が書かれたとすれば、ぜひ、内容を理解したいと思います。
 しかし、先にも述べたように、乙が理解できたのは第1章の中の p.20 くらいまでの「年金運用が抱える問題点」というイントロダクションの部分だけで、恥ずかしながら、残りの部分はほとんどちんぷんかんぷんでした。
 気になって amazon のカスタマレビューを見たら、まだ誰も書いていません。まあ一般受けするような本ではないでしょうが、それにしてもレビューがゼロというのは気になります。
 やっぱりむずかしい本なのでしょうね。


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2007年10月22日

週刊ダイヤモンド 2007.10.20 特集「金融商品 全損得」

 乙が読んだ雑誌です。
 週刊ダイヤモンドは、ときおり投資関連の特集をすることがあります。

週刊ダイヤモンド 2007.9.29 特集「ファンド恐慌」
2007.9.30 http://otsu.seesaa.net/article/57977096.html
週刊ダイヤモンド 2007.6.16 特集「金融商品の罠」
2007.6.17 http://otsu.seesaa.net/article/45088112.html
週刊ダイヤモンド 2007.3.17 特集「チャンスとリスクを総点検! 新興国投資」
2007.3.15 http://otsu.seesaa.net/article/35968707.html
週刊ダイヤモンド 2006.12.2 特集:「投信」の罠
2006.11.29 http://otsu.seesaa.net/article/28499518.html

というわけで、目が離せない雑誌の一つです。
 今回の特集も、pp.32-65, pp.94-115 で、全56ページということになりますが、誌面がA4の大きさですから、A5の単行本に換算すると、130 ページくらいに相当するのではないでしょうか。
 内容は、けっこう読みがいがあります。
 このまま投資入門書として見てもいいのではないでしょうか。始めと終わりに要旨がまとめてあり、全体が大変読みやすくなっています。
 pp.36-37 で、始まってすぐに「金融商品○×徹底評価! 全23商品分類を13の軸で採点」という一覧表があります。国内株式もの、海外株式もの、国内債券・預金もの、海外債券・預金もの、それに REIT と変額個人年金保険が一覧されており、便利です。ある意味で、今回の特集の結論ともいえるところです。
 乙が不満に思ったのは、この一覧表の海外債券・預金もののなかに ETF の記載がなかったことです。今はまだマイナーかもしれませんが、乙は有力視しています。(近日中に、これについては改めてこのブログで書く予定です。)
 編集部がこれを知らなかったわけではありません。pp.57 には海外の ETF を列挙した上で「そのほかには債券指数に連動するもの【中略】もあり、」と述べていますし、p.58 には「米国債券」のジャンルの ETF がリストアップされています。(ただし、海外株式を説明するページなのですが。)というわけで、メジャーな投資法ではないからなのか、ETF 経由の債券投資が無視された形になっています。
 p.38 の最下段は、誤解を招きそうな言い方になっています。ちょっと引用しましょう。
 この期待リターンとリスクとの関係をマッピングした左ページの図を見ていただきたい。相対的に高い資産分類は、順に株式、不動産、債券、預金となる。
 それぞれの資産分類のなかでアクティブ投信の評価が低いのは、個人投資家にとっての期待リターンはコストを差し引いて考えなければならないからだ。

 二つの段落を引用しました。第2段落の「それぞれの資産分類」は、当然、第1段落の「株式、不動産、債券、預金」のことを指すと読めるでしょ? それが違うのです。なぜならば「左ページの図」にはアクティブ投信がどこにも現れないからです。第2段落は、pp.36-37 の表のことを指しているのです。乙はここを読んだとき、「?」でした。
 もう一つ、「?」と思ったところを示しましょう。p.54 の終わりの部分です。
 インデックス投信では飽き足らない場合であっても、一般にはアクティブ投信のほうが無難だろう。

 最初乙が読んだとき、意味が分かりませんでした。何だかインデックス投信よりもアクティブ投信をすすめているように聞こえます。
 たぶん、「一般には」のあとに「個別株投資より」を補って読むべきなのでしょう。
 乙がおもしろいと思ったのは p.55 の新興国株投資の記事です。新興国では乱高下がある(リスクが高い)こと、10年経っても低迷が続くような場合があることを、実例を示して説明しています。確かにそうなのですが、だからこそ(リスクが高いからこそ)リターンが大きいともいえるのではないでしょうか。あまりこれを強調しすぎるとギャンブルになってしまうのですが。
 この雑誌、ちょっとした問題はあるものの、全体として真面目で正確な書き方であり、好感が持てます。こういうのを読んでから投資の世界に足を踏み入れるといいでしょうね。
 あちこちのブログでも、この雑誌が取り上げられています。
http://ameblo.jp/happy-retire/entry-10051347593.html
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2007/10/20071020_fd5f.html
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2007/10/post_28a1.html
http://shinkansen-19641001.cocolog-nifty.com/kodama/2007/10/20071020_a5ef.html
http://blog.livedoor.jp/akipop/archives/51128659.html
http://fund.jugem.jp/?eid=472
http://haisyatosyosyanogame.10.dtiblog.com/blog-entry-410.html
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2007年10月16日

宝島社(2007.10)『だまされない! 投資信託の選び方』(別冊宝島1477)宝島社

 乙が遅ればせながら読んだ本です。本というよりはムックというべきでしょうか。
 副題として「賢者の資産運用術「インデックス投資」案内」が付いています。内容は副題の通りです。インデックス投資を実践している人間が読んでも、あまり新しいことは書いてないように思えます。その意味で、スタンダードな入門書といってもいいでしょう。
 宝島社の編集部(員)が自分で調べたわけでもなく、すでに書かれている本の著者を「取材」して、適当にまとめたような感じです。その意味ではあまり感心しません。しかし、この種のものを読むのがはじめての人にとっては、一通りの知識が得られ、好都合です。内容面では、全体にきちんとしています。インデックスファンドや ETF などの具体的な商品名もリストアップされています。各種データも示され、インデックス投資の有利さを述べています。
 この本は、日本でインデックス投資を実践するための手引き書というような感じでしょう。ETF のカタログも載っています。普通の人にとっては、これ1冊で十分です。1260 円は安いと思います。
 ただし、乙の素直な感想ですが、1冊丸ごと、どこかで読んだような文章だなあと感じました。インデックス投資の本は、1冊目は大変おもしろく読めるのですが、2冊目からはあまりおもしろく感じなくなります。そういうものだと思います。


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2007年10月08日

鈴木ゆり子(2007.8)『専業主婦が年収1億のカリスマ大家さんに変わる方法』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。副題は「20棟200戸で平均利回り20%超が、なぜ可能か?」というものです。
 読後感はさわやかです。
 副題の疑問に対する答えを書いてしまいましょう。この大家さんがマメだからです。
 鈴木氏(本の表紙の写真がいかにもオバチャン風なので、この言い方には違和感があります)は、実際のところ、非常にマメなのです。アパート経営に関することは何でも自分でやる主義のようです。
 p.49 では、アパートの掃除を自分でやることが述べられています。掃除のやり方は「クリーニングスタッフ募集」に応募して学んだというのですから、タダで学べたわけですね。
 p.65 では、リフォームも自分でやると書いてあります。自分でやると安いというのは当然です。だって、自分の使った時間を換算した人件費を考慮していないからです。
 p.91 の記述によれば、現在は自分で不動産業を営んでいるというわけです。
 p.107 では、鈴木氏が浄化槽管理士の資格を取ったことが書いてあります。こんなものまで自分でやるとは徹底しています。
 p.126 の記述によると、スズヨシという会社の社長のようです。単なるオバチャンの域を脱していますね。
 p.135 で、自分の趣味が不動産屋めぐりだと述べています。不動産めぐりではありません。このあたりがすごいところです。
 本書の随所に苦労話が書いてあって、笑いながら勉強できる仕組みですが、それにしても、鈴木流アパート経営哲学はすごいものです。
 鈴木氏の自宅(埼玉県羽生市在住)は質素だという話ですが、さもありなんと思えます。
 本書に書かれていることは、誰でもできる話ではなくて、鈴木氏が独自の観点から自力で切り開いてきたものです。こういうバイタリティはどこから出てくるのでしょうかね。
 鈴木氏のサイトをのぞいてみてもおもしろいかもしれません。
http://ooyajyuku.net/
 また、鈴木氏のブログもあって、
http://suzuyosi.org/yuriko/
書かれていることを読むと、鈴木氏の人柄がにじみ出ています。


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2007年09月30日

週刊ダイヤモンド 2007.9.29 特集「ファンド恐慌」

 乙は久しぶりに週刊誌を読みました。
 「「金融商品取引法」施行の衝撃」という副題が付いています。特集は pp.32-45 ですが、なかなか読みごたえがありました。
 単純にいえば、今まで投資ファンドは法令の空白の部分に入っていて、特に規制がなかったのですが、金融商品取引法の施行によって、各種の金融商品がすべて規制されるようになるということです。
 これだけ聞くと、いい話のように思いますが、話には両面があります。ちょっと裏側をのぞいてみましょう。
 不動産業界は、金融庁の行政処分におびえているのだそうです。すでに、不動産ファンドの主要4社の株は規制強化を嫌気して大暴落しているということです。
 p.41 では、「これは金融取引“禁止”法だ」ということばまで飛び出しています。規制内容が細かく、商品パンフレットのリスク説明文はフォント級数まで決まりがあるため、営業員がパンフレットの縮小コピーを配ったら、それだけで法令違反になるというのです。こうなると、コスト増が避けられません。
 同じく p.41 には、ラブホファンドも危機だと書いてあります。今までは匿名組合として運営されてきたのですが、今後は自社で販売できなくなるとのことです。自社販売をするためには第二種金融商品取引業者としての登録が必要になるわけですが、これには大変コストと時間がかかるわけです。その結果、利回りが低下してしまうとのことです。
 乙は、レジャーホテルファンドを解約したのですが、
2007.6.26 http://otsu.seesaa.net/article/45923010.html
もう以前のような 8.4%-12% の利回りは実現できないのでしょうね。
 ところで、金融庁がこんな規制をすることで、投資家が保護されるのでしょうか。日本は役所の規制が多く、したがってファンド運用にはコストがかかるのではないかと思います。p.35 では、ファンドを優遇するシンガポールの例を出していますが、日本で規制強化することでファンド類は海外に逃げ出す可能性があります。投資家も、海外投資を心がけるかもしれません。結果的に、日本は置いてきぼりを食らわされるわけです。
 p.42 にはシンガポールに移転した投資ファンドの話が出てきます。日本のルールはどうにも変なようです。
 こんなことを考えると、規制強化は、単純に投資家保護のためとは言い切れないように思います。まあ規制も程度問題ということでしょう。
 p.43 では、割安になった J-REIT の銘柄が書いてありますが、特集全体の流れを読むと、投資する気にはなれません。
 この話題に関連して乙が書いた記事としては
2007.6.27 http://otsu.seesaa.net/article/46002779.html
があります。
 また、ゆうきさんが「ラブホテル・ファンドの危機」という記事をお書きです。
http://fund.jugem.jp/?eid=455
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2007年09月25日

横田濱夫(2007.5)『はみ出し銀行マンの投資戦略――初めて明かすオレ流資産運用術』カンゼン

 乙が読んだ本です。
 本書全体を通して、インデックス投資などとは正反対の「オレ流」の考え方を述べています。乙は、これが正しい方法だとは思いませんが、しかし、こういう考え方に同調する気持ちもわかります。横田氏に言わせれば、(pp.191-196 にありますが)こんなあいまいな態度がよくないのであって、自分流のスタイルを確立し、それを継続しなければならないということです。
 pp.8-9 では、「はじめに 今年はベンツ5台分の利益をあげるぞ!」ということで、今年の目標を書いています。ただし、こんなことを書くよりも、ひとこと、資産の総額を書いておいてほしかったです。そのほうが本書をよく理解できると思います。
 第1章は「オレの戦績とポートフォリオ」です。
 p.32 には、横田氏のバランスを欠いた(現在の)ポートフォリオが出てきます。日本株 42%、Jリート 27%、海外リート 9%、アメリカ株 7%、ヨーロッパ株 6%、海外債券 3%、アジア&新興国株 2%、その他 4% ということです。普通に考えれば、日本株とJリートが大きすぎるわけですが、横田氏は、わかっていてやっています。こういう考え方もあるのではないかと思います。
 たとえば、p.33 には、日本の国債を買わないという主張が出てきます。長期金利が低すぎるからだという単純な理由です。乙も同じ考え方をしています。正統派インデックス投資の考え方からすれば、なにがしかの資金を日本国債にも向けるべきだということになりますし、そういう考え方を述べた本もあるわけですが、初めから微々たる金利しか付かないような運用をしてそれでいいという考え方には違和感があります。今後国債の金利が上がってきたら購入すればいいという話です。となると、自分で各種金融商品の値上がり・値下がりを予想して、ポートフォリオをダイナミックに変えていくという考え方も一理あるということになります。
 第2章は「なぜ日本株に強気なのか?」です。日本株に集中投資する理由が書いてあります。
 p.50 には、日本では株も不動産も値上がりしており、すでにインフレが始まっているという現状認識が書かれています。デフレから脱していないという(一般の?)見方を否定します。すると、金利が上がってきます。そこで、株と不動産に投資するべきだということになります。
 p.66 あたりで、日本株を買う場合、インデックス・ファンドか ETF がよいということが書いてあります。
 p.73 には、日本株の売り方(売るタイミング)まで書いてあります。インデックス投資の考え方では、株はずっと保有したままなのですが、横田氏は、ダイナミックにポートフォリオを変えていく考え方ですから、どう売るかも考えておかなければなりません。
 第3章は「Jリートは本当にバブルか?」です。p.90 では、金利が上がってくればJリートの価格は下落するから、このタイミングを読んで(利益を確定して)売るということです。当然の考え方です。横田氏の場合、すでにたっぷり仕込んであるわけですから、今は売るタイミングを見計らう時期なのです。
 第4章は「海外投資の予定」ということですが、実は、今は円安なので、海外投資には向かないという見方が述べられます。そろそろ米国債を買ってもいいかという時期のようです。p.97 では、もう少し待って、金利高・円高のタイミングでヨーロッパ債券に投資するという考え方が示されます。
 第5章は「3×3の資産クラスでいく」ということで、投資全般の考え方が述べられます。これは、日本、アメリカ、ヨーロッパという3地域と、株式、債券、不動産という3種類の投資先を組み合わせて、9つの資産で考えようということです。エマージング諸国は無視するのですね。これも一つの考え方です。
 p.112 に述べられるように、この9つの資産のうち、安いものから順次買っていくとのことです。広い意味でのバリュー投資の考え方です。
 また、p.123 に述べられるように、グローバル株式のインデックス・ファンドをベースにして、それに加えて9つの資産で少し比重を変えて投資するようなこともいい方法でしょう。
 p.124 では、中国株、インド株、ベトナム株など、少しは持っていても、基本的には興味がないとのことです。p.125 では、マイナーな通貨の債券も興味なしとしています。
 第6章は「オレの理想的投資バランス」です。p.130 値上がりしたものから売っていく、p.132 値下がりしたものから買っていく、というやり方を説いています。個別株式にはナンピン買いといわれる方法がありますが、横田氏はこれに否定的です。一方、インデックスで買い下がる分には結構うまく行くとのことです。そんなものかもしれません。
 p.150 から、最終目標の比率を載せています。でも、これってちょっと変です。経済状況に応じて、ダイナミックにポートフォリオを変えていくやり方をするなら、「最終目標」は存在し得ないはずです。それとも、最終目標を設定しつつ、実際はそれとは違った比率で投資するのでしょうか。いずれにせよ、ここの記述は違和感があります。
 第7章は「初級・中級者への親切アドバイス」です。この章は、横田氏の豊富な経験に基づいて書かれていて、おもしろいと思いました。
 p.162 で、どんな金融商品も買ってみなければわからないということが出てきます。乙もまったく同感です。変な商品でも、それが変だとわかるのは、買ってみてからではないでしょうか。頭のいい人は買う前に気が付くのでしょうが、一般には、買ってから、運用状況を見ていて、どうもこれは変だと気が付くものだろうと思います。そのようなことのすべてが勉強ですから、少しくらい損失を出しても、その後の大きな損失を避ける知恵が付いたと考えて、いいのではないでしょうか。最終的にこうするという結論に達しても、その話を伝え聞いた人は、きちんと理解できないと思います。やはり試行錯誤しつつ経験を積み重ね、きちんと自分のものにする必要があるのではないでしょうか。
 p.167-172 (日本の)小型株はきらいだという話です。なるほどなあと思いました。乙も、若干の小型株を持っていますが、ここのところの値下がりで、どうしようもなくなっています。なぜ小型株がおかしくなるのか、この部分の記述でわかるような気がしました。
 p.185 から、インチキ野郎として、マネー雑誌、新聞、アナリスト、ファンド・マネージャー、ファイナンシャル・プランナー(本書では「ん」が「そ」で印刷されていてぎょっとします)、テレビ、などを滅多切りにします。最後に「本」が出てくるのも笑えます。この本も「本」なのですから。

 というわけで、ある見通しを持った投資のやり方を教わった気がしました。乙は、まだまだ初心者であり、ここまでの経済観は持っていませんが、将来的には、こんなやり方をしてみたいものだと思いました。


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2007年09月23日

ジョン・C・ボーグル(2007.8)『マネーと常識――投資信託で勝ち残る道』日経BP社

 乙が読んだ本です。
 内容をひとことでいえば、投資信託で勝ち残る道はインデックス・ファンドだということです。
 本書の全体が「インデックス・ファンド万歳」という調子で書かれています。ボーグル氏といえば、バンガードの創設者であり、インデックス・ファンドをアメリカに広めた人ですから、そういう書き方になるのは当然でしょう。ボーグル氏の『インデックス・ファンドの時代』
2006.12.3 http://otsu.seesaa.net/article/28796648.html
と同様の主張ですが、こちらのほうが薄くて読みやすかったです。
 内容は、もちろん、説得力があり、インデックス・ファンドがいいという主張は妥当だと思います。
 p.62 図表4.1 は数値が間違っています。本文は正しいので、気が付きますが、それにしても、グラフが間違っているのは問題です。
 長い投資期間を考えると、コストの影響が大きく、「リターンに関しては、時間はあなたの味方である。しかし、コストに関しては、時間はあなたの敵である。」というのは、その通りです。しかし、乙の場合は15年程度の投資期間を考えています。すると、コストの多少はそんなに決定的な「差」とも思えません。若い人で投資期間が何十年もあるような人の場合、このグラフが当てはまりますから、コストの安いインデックス・ファンドを買って、そのまま保持し続けるということがベストですが、それより短い人の場合でも、同じ考え方が当てはまるでしょうか。ボーグル氏はそうだというでしょう。しかし、乙は必ずしもそうではないかもしれないと思います。
 p.116 3年間継続して好成績を上げたファンドでも、その後3年間でひどい成績になる場合があることを示し、だからインデックス・ファンドがいいと結論づけています。そうかもしれません。しかし、アクティブ・ファンドであっても、成績が下がる前にうまく逃げられれば、いい結果が残せるはずです。インデックス投資の考え方では、投資のタイミングを見極めることはできないから、いい時期にアクティブ・ファンドから逃げることはできないと考えます。本当にそうでしょうか。乙は、このあたりがわかりません。昨今のサブプライムローンの問題にしても、問題がささやかれ始めてから株価が実際下落したわけで、こんなふうに「株がこれから下落するだろう」というくらいは(数ヶ月単位の誤差があるとしても)わかるような気がします。その時点でファンドを解約すればいいわけです。ファンドを基準価格のピークで解約するようなことは不可能ですが、これから大まかには下がるだろうと思えるところで解約するのは、そんなにむずかしいことではないように思います。
 p.196 図表15.1 では、市場全体に投資する ETF を長期保有するならば、インデックス・ファンドと同様に全部○になり、つまり、インデックス・ファンドと同様の成果が得られると読めます。しかし、p.199 で述べられるように、アメリカでは ETF が長期投資向けではないようです。p.200 では、短期指向マネーが ETF を購入するために、売買回転率が高くなり、したがって運用成績が悪くなると述べています。そういう面もあるかもしれません。しかし、ETF 自体は、インデックス・ファンドと同様の仕組みであり、インデックス・ファンドだって、大量の資金が流入・流出すれば ETF と同様になるのではないでしょうか。ボーグル氏の記述は、インデックス・ファンドに肩入れしすぎのようです。
 p.233 からの第18章は「いま何をすべきか」と題された章で、投資戦略について具体的に述べています。個人投資家には大いに参考になるように思います。
 p.237 では、ヘッジファンドに NO といっています。コストが高すぎるということです。乙も、そうかもしれないなあと思いつつ、資金の一部でヘッジファンドを購入しています。やはり、投資してみた上で、運用報告書などを読んでみて、いいものかどうかを自分の目で確認してみたいと思います。数年程度の経験を重ねることで、ある程度ファンドに対する目も養われるのではないでしょうか。乙は、現段階では、ヘッジファンドに NO というつもりはありません。「わからない」というところです。数年くらい運用してみて、やっぱりダメだとわかったら、その時点で方針を変更してもいいのではないでしょうか。残りの時間を有効に使えば、全体として大きなマイナスになることはないように思います。
 この本は、個人投資家にとって必読の書です。まずは、インデックス・ファンドについて十分知った上で、各種投資の考え方を学んでいくのがいいと思います。


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2007年09月12日

菊地正俊(2007.1)『外国人投資家』(洋泉社新書)洋泉社

 乙が読んだ本です。日本市場で、外国人投資家が株を買うか買わないか(売るか)でもって株価が上下しますから、外国人投資家は相当に大きな影響力を持っています。
 というわけで、外国人投資家について書いてある本ということで、楽しみに読んでみました。
 目次は以下の通りです。これで、書かれている内容がどんなものか、想像できると思います。

第1章 そもそも外国人投資家とは誰なのか
第2章 日本市場において外国人投資家の存在感はなぜ高まっているのか
第3章 外国人投資家が買わないと上がらない日本株の仕組み
第4章 外国人投資家に買われる株・売られる株
第5章 外国人投資家は日本の政治・経済をいかに読み解いているか
第6章 外国人投資家は日本企業に何を要求するのか
付章 大手外国人投資家の紹介

 さて、p.66 ですが、外国人投資家は数年単位のトレンドがあるという話で、p.67 にグラフが表示されています。この話は本当でしょうか。示されるグラフは1年単位で書かれています。だとすると、1年以下の「トレンド」はまったく見えないわけで、そもそもこういうグラフを見れば、数年単位のトレンドが見えてくるものです。1ヵ月ごとのグラフを示して、1年未満のトレンドがないことを示す必要があるのではないでしょうか。
 ちなみに、乙は、1年未満の短いトレンドもあるし、数年単位のトレンドもあると思っています。
 p.70 東証1部の投資主体別の売買シェアのグラフを見ると、半分が外国人であることが示されており、びっくりします。よく考えてみれば、日本人の投資家(株主)は、ずっと保有している例が多いでしょうから、売買だけを見てみれば外国人が多く見えるのでしょうね。
 p.71 では、外国人投資家の日本株保有比率を示しています。約1/4です。これで安心しました。
 p.97 図3−3では、メリルリンチ・ファンドマネージャー調査の結果を引用し、米国、日本、ユーロ圏、新興市場の四つの株について、「割高−割安」を求め、米国が割高であると見られること、ユーロ圏が割安であること、新興市場と日本はほぼゼロ付近で、割高でも割安でもないことを示しています。一方、p.96 では、こう書いてあります。「世界の投資家に各株式市場の割高感を尋ねたメリルリンチのファンドマネージャー調査によると、日本の PER が国際水準から大きく乖離すると、割高と考える外国人投資家が増えて、外国人投資家が日本株を売る傾向があります。(図3−3)」
 図3−3を見ても、日本は決して割高ではないし、p.94 の予想 PER の国際比較のグラフを見ても、特に日本が欧米やアジアからかけ離れているわけではないことがわかります。(2000 年以前には日本がかけ離れて高かったときがありましたが、図3−3では、2001 年以降の傾向を見ていますから、あてはまりません。)また、p.87 の外国人投資家の日本株買い越し額のグラフを見ると、2001 年以降はほぼ買越額がプラスになっており、日本株が売られる傾向は見てとれません。これらを総合的に見ると、p.96 の記述は変ではないでしょうか。
 p.101 には、日本株に関連して「オイルマネーは欧米の主要機関投資家に比べると影響力はあまり大きくない」と書いてあります。乙には意外でした。以下、東証の地域別投資家分類の数字を示して、欧米が日本株を大きく買い越しているのに、「その他地域」の投資家の日本株買越額は、そんなに大きくないとしています。しかし、中東のオイルマネーの資金が、直接日本に向かっているというよりも、欧米の銀行や資産運用会社などを経由して日本に向かっていると考えたほうがいいのではないでしょうか。その金額がどれくらいあるのか、乙は知りませんが、東証の数字を表面的にとらえるべきではないと思います。
 というようなわけで、いくつか気になった部分はありましたが、全体として外国人投資家の裏側を探るという本書のねらいは果たされたと思います。著者の菊地正俊氏は、メリルリンチ日本証券の株式ストラテジストだそうですから、こういう本を書くには適任だったのでしょう。
 乙の視野が広がりました。


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2007年08月28日

須田慎一郎(2007.7)『投信バブルは崩壊する!』(ベスト新書)KKベストセラーズ

 乙が読んだ本です。
 投資信託全面否定論を述べています。
 ただし、ではどう投資するかについては、須田氏は個別の株や債券を買うようにというだけで、具体的な手順を述べているわけではありません。
 乙が問題だと思ったところをいくつか述べます。

(1)ETF 否定論
 ETF は投資信託の一種ですが、これを「マシ」(p.172)な金融商品と称しています。ということは、須田氏は ETF もすすめないというように読めます。
 この点、乙は疑問に思いました。
 須田氏は分散投資をどう考えているのか、はっきりしませんが、一応、pp.188-189 では、次のように述べています。「何も高いコストを払ってまで、投信の手を借りることはない。自ら外国株や債券を買って、国際分散投資をやればいいだけの話である。」このような言い方から、投資先を国際的に分散することが大事なことだと考えているようです。だとしたら、海外の株について、日本人が気楽に直接買える状況にないことをどう考えているのでしょうか。
 須田氏は、自ら米国株、中国株、インド株、ベトナム株(p.188)などを購入しているのでしょうか。ヨーロッパ株はどうしているのでしょうか。
 乙は、海外の株による運用では、投信(ETF)によるほうが(個別株よりも)望ましいと考えています。

(2)グロソブに関して勘違いをしている
 pp.135-136 には、次のようにあります。「実は分配をすると、そのつど、投信の価格である基準価額が下がる傾向が見てとれる。ところが、資金が次々と新規流入することで資産増加に伴って基準価額が再び上がるために、そのような事態は見過ごされてきた側面がある。」
 同じく、p.137 に、次のようにあります。「基準価額のチャートでも明らかなように、分配金を出し続けているが故に、パフォーマンスが上がらない状況に変わりはない。いわば自転車操業的≠ノ新規流入資金を当て込んで、半ば強引に分配金を出しているのではないか、という疑念すら生じてくる。」
 2箇所に同じ趣旨の記述があるので、これはミスプリではありません。須田氏は、資金が新規に投資信託に流入すると基準価額が上がると勘違いしています。これは明らかな間違いです。資金が流入しようが、流出しようが、そのこと自体は基準価額の変化には結びつきません。資金が流入するときは、そのときの基準価額で割り算されて、各投資家が何口購入したということになるだけです。
 こういう明らかな間違いをそのままにしているような本は、信用できません。

(3)参考文献が挙がっていない
 ところどころ山崎元氏の言葉などを引用しながら書いている部分もありますが、出典は一切示されません。
 これは問題ではないでしょうか。引用するときは出典を書くのが常識です。
 巻末に参考文献一覧を掲げることによって、著者がどういう本を読んできたかがわかります。乙は、ぜひそうするべきだったと思います。

(4)多様な投資信託の全体を見ていない
 グロソブ批判が50ページほど書いてあります。全200ページの本ですから1/4を占めます。
 グロソブの話だけなら「投信バブル」と言ってはいけないでしょう。投信にもさまざまなものがあります。それら全体を含めて論じるべきです。そのような態度が本書には見られません。
 たとえば、直販型(独立系)の投信などは、須田氏の批判には当てはまらないように思います。

(5)「バブル」の意味がよくわからない
 タイトルにも使われている「バブル」ですが、何を(どんなことを)指すのでしょうか。現在が「投信バブル」なんでしょうか。
 須田氏の現状把握がそもそもずれていませんか。

 というようなわけで、この本は、どこかで読んだような話が多く、あまりおもしろくありません。
 帯には「「投資信託」は絶対買うな!」とでかでかと書いてあります。
 しかし、その結論に至るまでの論証は十分なものではないように感じます。
 乙は、テレビレポーターがあちこち取材して手軽に「一丁あがり」にしたような読後感を持ちました。
 乙は、ちょっと本屋さんに立ち寄ったときに、タイトルが目を引いたので、思わず買ってしまったのですが、740 円の価値はないように思います。


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2007年08月26日

ファンド研究会(編)(2007.6)『今日から始める!個人向けヘッジファンド入門』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「下げ相場でもリターンが狙える話題の金融商品」という副題が付いています。
 乙は、たまたま Amazon で見かけて、タイトルだけ見て注文してしまったのですが、買って失敗でした。
 第1に、マンガ(イラスト)が付いていて、それだけ内容が「薄い」のです。
 いかにも初心者向きに見せようということでこの本をこんな体裁にしたのでしょうが、それはヘッジファンドに本当に投資しようという人には無意味なことだし、こういう入門書を読むような人はヘッジファンドに投資すること自体が間違っているように思います。
 第2に、ヘッジファンド以外の記述部分が長すぎることです。
 PROLOGUE「貯めてるだけで大丈夫!?」とPART1「お金を増やすためのベーシック知識」はヘッジファンドの話ではありません。いわば投資入門です。ここまでで 58 ページかけています。PART2 からがヘッジファンドの話ですが、巻末の用語集をのぞいて、全115ページの本なのですから、はじめの半分は不要と言っていいものです。
 ちなみに、前半部分の記述内容は、乙がすでに知っていることばかりで、ほとんど何も新鮮味を覚えませんでした。
 第3に、ヘッジファンドの実例が1例しか出てきません。
 この本全体を通じて、掲載されているヘッジファンドはスーパーファンドだけ、販売会社はキャピタル・パートナーズ証券だけなのです。目論見書の読み方なども、スーパーファンドの例を挙げるだけです。つまり、この本は、スーパーファンドに投資させようという宣伝本に過ぎないのです。
 第4に、著者がはっきりしないことです。
 「ファンド研究会」は、表紙に名前があるものの、奥付には「企画編集」として登場します。実体はほとんどないものではないかと想像します。イラストや取材・執筆協力のところに個人名が挙がっているところを見ると、むしろそちらが実際の書き手ではないかと思われます。
 検索エンジンで「ファンド研究会」を検索しても、本書の編者として名前が出てくるだけで、それ以外は見つかりません。
 乙は、架空の団体をでっち上げることをすべて否定するものではありませんが、(いろいろな事情でそうせざるを得ないこともあるでしょう)著者は印税収入を得るとともに、内容に責任を持つわけであって、その著者がはっきりしないということは、内容に責任を持つ人がいないということにつながるように思いました。
 第5に、参考文献がわずかしか挙げられていないことです。
 奥付のページの右下に、小さな文字で、5点が書いてあります。木村剛「投資戦略の発想法」、藤沢久美「投資信託情報の選び方・使い方」、内藤忍「内藤忍の資産設計塾」、山崎元「お金をふやす本当の常識」、竹川美奈子「投資信託にだまされるな」です。こういうのを挙げることで、著者たちはヘッジファンドに関してほとんど何も勉強していないことがわかります。これらはヘッジファンドに関する本ではありません。ヘッジファンドに関する本はいろいろ出ているのですから、少しはそういうのを読むべきです。さらには、実際のヘッジファンドに自分の資金を投資してみるべきでしょう。その上で書くようでなければ、真実の姿は見えてきません。この本は、宣伝パンフレット並みのレベルの本でしかないというのは、こういうところに現れます。
 全体として、本書は安易な投資本というべきでしょう。1575 円の価値はないと思います。
 こういう本を出版するダイヤモンド社は、あまりにも見識がなさ過ぎます。


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2007年08月24日

藤巻健史(2007.7)『マネーはこう動く――知識ゼロでわかる実践・経済学』光文社

 乙が読んだ本です。
 藤巻流の資産運用術が書いてあります。長期固定でお金を借りて日本の不動産を買う、日本株とアメリカ株、それに外貨建て商品を買う、日本の国債を売るという戦略です。
 この本は、なぜこのような運用方針をとるのか、現在の日本(および世界)の経済情勢をどう見ているのかをやさしく語ったものです。インデックス投資のような話とは真っ向から対立します。当たれば、運用益はすごいものがあるでしょう。当たるかどうか、どう考えるか、藤巻氏を信用するかというのが問題です。
 第1章「マネーはもうジャブジャブだ」では、日本銀行が紙幣を増やしたことを解説しています。
 第2章「マネーはどこに消えたのか?」では、ベースマネー、マネーサプライ、インフレなどについて藤巻氏の見解を述べます。
 第3章「経済政策には何があるか?」では、金融政策、財政政策、為替政策について述べます。
 第4章「日本の財政はいかに悪いか」は、文字通りの章です。
 p.92 では「財政赤字問題というのは5年後、10年後の日本を考えたときの最大の問題」と述べています。乙も同感です。そして、政府が取り得るのは政策ミックスだということで、消費税上げと年金制度の変更、それに穏やかな資産インフレを組み合わせて実施するというアイディアです。なかなか現実的です。
 第5章「長期金利は今後上がるか下がるか?」では、藤巻氏の見通しは、長期金利が急に上がることもあるだろうということで、これが固定金利で借金しようという主張につながってきます。
 p.129 では、債券先物を売るとか、金利スワップで固定金利の支払いなどという手段が示されます。個人としては、なかなかこういうことはできないでしょうが、藤巻氏にはこのあたりの解説を書いてもらえたらおもしろそうです。
 第6章「為替はどうなるか?」もおもしろかったところです。
 pp.147-148 では、円キャリートレードが行われているという話をウソだと断定しています。銀行は元本保証のお金を預かっているから、リスクの高いヘッジファンドにお金を貸すはずがないというのです。貸すなら相当の高金利になるはずだというわけです。むしろ、ドルの先物買いをするのだそうです。
 藤巻氏のいう円キャリートレードは狭い意味であり、新聞などでいう円キャリートレードは広い意味なのかもしれません。
 p.154 では、これからの日本の経常収支の赤字にともない、円安、長期金利高を予想しています。
 p.155 では、期末要因のウソについて述べています。期末になったからといって、ヘッジファンドがお金を送金するためにドルを売ったとか、日本の株を売ったとかいううわさが流れることがありますが、そんなことはないというのです。なぜならば、すべて時価会計をしているからです。
 これらの話は(これらだけではないですが)いずれも「なるほど」という感想です。乙は、普通の新聞記事や書籍には見られない鋭い視点だと思いました。
 第7章「不動産マーケット」と第8章「株のマーケット」もわかりやすい解説です。
 第9章「いま世界経済はどうなっているのか?」では、30年ぶりの好景気であり、BRICs 諸国が躍進しており、アメリカ経済も順調だとしています。だからアメリカ株を買えという話になるのですね。
 p.195 と p.210 では、サブプライムローン問題について、何ら問題はないという見通しを述べています。「そんなにアメリカ経済に悲観的ならアメリカ株を売って見ろよ」というのは、すごい主張です。昨今の世界同時株安を考えると、まさに、「売っておけばよかった」といえるように思いますが、どうなんでしょう。
 第10章「今後の日本はどうなるか?」は、マクロな見方が述べてあって、ここもおもしろかったです。少子化やグローバル化によって、終身雇用制(年功序列)が崩壊しますが、それは、必ずしも悪くないという考え方です。能力のある人にとっては、活躍の場所が与えられてハッピーなんでしょう。

 通読してみて、藤巻流の話がとてもおもしろかったです。もちろん、一個人の見解であり、これが正しいなんていえません。マーケットは、しばしば「行きすぎ」の傾向を示します。しかし、こういうのが経済学だとしたら、相当におもしろいと思います。
 ずいぶん先の話ですが、乙が退職したら、老後の楽しみで経済学でも学んでみましょうか。どこかこういうことにふさわしい大学はないものでしょうかね。


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2007年08月15日

前田和彦(2007.8)『5年後にお金持ちになる海外投資』フォレスト出版

 乙が読んだ本です。
 前田和彦(2006.8)『5年後にお金持ちになる資産運用』フォレスト出版
2006.9.20 http://otsu.seesaa.net/article/24035583.html
の続編といった感じです。
 第1章「知らないから損する! 意外と知らない外貨投資&海外投資の常識」では、海外投資は常に有利なわけではないということを説きます。それはそうでしょう。要は、何をどのように活用すればいいのかということです。
 乙が気になったのは pp.35-40 あたりで、海外口座は意味がないと書いてあることです。海外口座開設ツアーがはやっているけれど、ブローカーがいろいろ手伝ってくれるようでいて、実は手数料収入を稼いでいるという話です。しかし、それはビジネスとしてやむを得ないものと思います。
 また、ブローカーが死んだら口座開設者が大変だという話が出てきますが、乙はそうは思いません。だって、ブローカーは口座開設の手伝いをしてくれるだけであって、後の運用は自力でやるしかないのですから、ブローカーが死んでも、特に影響はないと思います。乙の場合、HSBC 香港との関係でいえば、口座開設時は某ブローカーにお世話になりましたが、その後、その人とは連絡がとれません。しかし、だからといって何も不自由はありません。だって香港では英語が十分通じるのですから、自分で銀行と直接連絡を取ればそれでOKです。
 もしも、英語によるコミュニケーションができずに海外口座を開設しようと考えている人がいたら、それはそもそも無理だと誰でも思うでしょう。
 pp.52-55 では、通貨を分散しようという話が出てきます。円と米ドルとユーロくらいがいいという話です。しかし、乙は、前田氏の考え方に賛成できません。乙の考え方は、すでにブログに書きました。
2007.2.23 http://otsu.seesaa.net/article/34452967.html
 第2章「誰も教えてくれない! 国内外の金融機関の基礎知識」では、海外のプライベート・バンクがどういうものかを説明しています。それと比べて日本の国内口座(のプライベート・バンク機能)が不十分であることを述べています。
 p.60 では、海外口座で債券を中途売却した場合、非課税ではなく、総合課税されると書いてあります。ここは重大な記述です。乙は自分の保有する米国のゼロクーポン債を途中売却するに当たって(まだ数年先の話ですが)この点は税務署に確認してみますが、前田氏は何に基づいてこういう解釈をしたのか、知りたいところです。この本では根拠が一切書いてありません。
 そもそも、前田和彦(2006.8)『5年後にお金持ちになる資産運用』フォレスト出版 では、p.154 に、米国のゼロクーポン債を(満期日の前日で)中途売却することで為替益を含めて非課税になると書いてあります。たった1年で制度が変わったわけでもないのに、こういう記述があることが不可解です。
 p.71 では「コンシュルジェ」という言い方が出てきます。これはここ以降本書中で何回も繰り返し出てきます。乙は、この言い方にも引っかかりました。繰り返し出てくるということは、ミスプリではなく、本人の思いこみです。
 普通は「コンシェルジュ」といいます。検索エンジンで検索件数を確認してみると、以下の通りです。
表記YahooGoogle
コンシュルジェ
84
91
コンシュルジュ
9,310
16,600
コンシェルジュ
1,660,000
2,630,000
コンシェルジェ
210,000
411,000
コンシエルジュ
870
210
コンシエルジェ
210
391


 「コンシュルジェ」はごく少ない数しか使われていません。きわめて珍しい言い方(さらにいえば、間違った言い方)であると思います。
 フランス語の concierge の発音は[konsierз](зは後部歯茎有声摩擦音のつもり)ですから、「コンシエルジュ」が近いものと思われます。
 前田氏はスイスのプライベート・バンクに勤務していたとのことですが、スイスであればフランス語も使われていたはずですから、現地でフランス語に接していれば、こういう言い方はしないものでしょう。
 第3章「賢い人は使ってるプライベート・バンクの使い方」は、資産5億円以上の人が読むべきところですので、乙はスキップしました。
 第4章「日本の金融機関から投資するときの注意点」では、銀行口座よりも証券口座を活用しようということです。それはいいのですが、4章の初めのほうには、海外口座否定論が書いてあります。前田氏によると、プライベート・バンク口座であればいろいろメリットがあるのだけれど、海外の一般口座ではメリットがないとのことです。
 この点は、乙の認識とはずいぶんずれています。乙は銀行口座としては HSBC 香港しか海外口座を持っていませんが、いろいろとメリットがあるように思っています。(もちろんデメリットもありますが。)これについては、今までにもブログでいくつか書きましたが、さらに順次述べていきましょう。
 p.113 で書いてありますが、「一般口座の場合、自ら銀行の窓口に行って手続きをするのが基本です。香港ドルを米ドルに両替したいなら、窓口に行き、書類で申請するなどの決まった手順を踏んだうえで、手続きをしなければなりません。【中略】しかも、窓口には日本語が話せるスタッフは用意されていませんから、言葉の壁もあります。」というようなことでは、銀行口座としても使い物にならないでしょう。しかし、今どきこんな銀行があるのでしょうか。(あったら、みんなから利用されずに銀行が潰れるだけです。)今やインターネットで取引するのが当たり前になっていますから、両替なんて、数分もあればネットでできてしまいます。ネットの言葉は英語ですが、それはしかたがないでしょう。そんなにむずかしいものではありません。前田氏の知識は、いったいいつのものなんでしょうか。
 第5章「海外口座を最大限活用しよう!」はプライベート・バンク口座の活用法なので、乙には無関係でした。
 第6章「可能性は無限です! 退職後の新しい生き方を求めて!」は、海外生活のススメです。まあ、この本が対象としているような資産5億円以上の人なら、こういうことも考えておくべきでしょう。乙には不必要な記述です。(しかし、富裕層の考え方を知っておくのも悪くないと思っています。)
 本書は、あまりおすすめではありません。少なくとも、乙は、前田氏を頼って海外投資する気にはなれません。5億円以上の資産のある人は、もう少し自分で調べた上で、適当なブローカーを見つけるべきでしょう。そのほうが安心だと思います。


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2007年08月12日

日本経済新聞社(2005.5)『なっとく! マネー塾』日本経済新聞社

 乙が読んだ本です。
 日経新聞の日曜日の「マネー入門面」の連載に手を加えてまとめなおしたものだそうです。ということは、乙は新聞掲載時に一通り読んでいるはずですが、そういうことはほとんど思い当たりませんでした。
 かろうじて、本書中のところどころに現れるイラストやツッコミの表現でそれがわかる程度です。忘れることって多いんですね。
 全体は@〜Hに分かれていて、それぞれ別のテーマについて解説されています。
 @ 概説編といった内容です。
 p.24 これまでは貯蓄は40代からでいいとされてきましたが、最近は「30代からこつこつ」が基本だそうです。しかし、乙のように、気が付けば30代ははるかに過ぎ去っていたという場合はどうしたらいいのでしょう。いろいろな年齢の人がいるわけですから、それぞれの場合に応じた書き方がされているとよかったと思います。
 A 株式編です。
 インデックス投資の話はなく、いきなり個別株の話になります。こういうマネー塾レベルの入門本を読む人には、最初に個別株投資をすすめるのはよくないと思います。そういう全体のバランスのようなものを考えると、本書の記述態度には疑問を感じます。
 B 投資信託編です。
 もっともなことが多いです。しかし、一方では、当たり前すぎて、読んでいてもおもしろくありません。
 C 外貨投資編です。
 為替の基本から始まって、外貨預金、MMF、外為証拠金取引などが説明されます。この章も当たり前の記述が多い気がします。
 p.104 には、外債のコストが片道1%だという話が出てきます。
 以前の乙のブログで書いたことですが、
2007.7.14 http://otsu.seesaa.net/article/47766706.html
乙はしんのすけさんの記事を読んで手数料が1%以上ということを知りましたが、ほぼ似たような話です。
 D 企業業績の読み方です。まあ株式編の継続といったところでしょう。Aに連続して配置したほうがよかったのではないでしょうか。
 E 金(gold)投資編です。
 乙は金には興味がないのですが、一応の金投資の解説にはなっていると思います。(一読すると、ますます金投資は魅力的でないように見えます。)
 F 保険編です。
 p.166 保険の手数料が高いという話が出てきます。保険料総額の 62% にも及ぶという計算が示されます。
 ちょっともどりますが、p.42 にも、生命保険は保険会社の手数料が高いという話が出てきます。合わせて参考にするといいでしょう。
 こういう話を聞くと、生命保険はなるべく入らないほうがいいという考え方に共鳴します。
 G ペイオフ編とH 税金編は、常識的な内容です。

 全体を一読して、投資に対する心構えや全体的な方針の話が抜けているという印象を持ちました。乙としては@をもっと充実させていいのではないかと思いました。裏返していうと、個々の金融商品に関する知識はよく書けていると思います。しかし、そのようなバラバラの知識だけでは「お金の鉄則」は学べません。洋食、中華から和食まで一通り見せられ「どれを食べてもいいですよ」といわれた気分です。回鍋肉を食べながら日本酒を飲みつつフレンチレストランの品定めをしているといったらいいのでしょうか。
 本書は「易しい入門書」といった位置づけです。当然のことが書いてあります。あまり読む価値はないと思いますが、初心者にはおすすめできるかもしれません。


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2007年08月05日

山崎伸治(2005.2)『「都市型シニア」マーケットを狙え!』日本経済新聞社

 乙が読んだ本です。「新たな消費マジョリティーの実像」という副題が付いています。
 本書は、投資の本ではなく、シニア層(団塊の世代や戦中派あたり)にどのようにマーケティングをするか(つまりものを売り込むか)を論じた本です。
 本書を一読して大変おもしろく思ったのは、ここに描かれたシニア層の考え方は、乙が普段考えていることにかなり近いということです。乙もシニア層に近づきつつあることがよくわかりました。
 なぜ、こういう結果になったかといえば、この本がシニア層多数に対する各種調査の結果に基づいて書かれているからです。
 p.17 10歳ごとの貯金・負債現在高が載っています。20代は経済規模が小さいですが、30代は負債が 700 万円程度にふくらみます。40代も同様ですが、一方では 260 万円ほどの貯蓄もあります。50代になると、負債 500 万よりも貯蓄 1000 万円がはるかに大きくなります。60代以上は負債が 200 万円以下になり、貯蓄が 2000 万円を越えます。実際、今までの乙の経験でもこんなものでした。20代は金がなくて貧乏でした。30代から40代は、子供が生まれたり、マンションを買ったりして、どうしても赤字傾向が続き、生活が大変です。しかし、50代になると、子供が巣立ったりして、生活がぐっと楽になります。まともに投資を考え、実行するのはやはり50代以上ということになるでしょう。ホントは20代から投資を考えるべきなのですが、周りを見てもなかなかそういう人はいなかったし(単に周りの人には語らないということだけかもしれません)、給料が低く、生活が苦しいという状態では、「投資なんて……」ということになりがちです。そこで、ある程度の歳になって後から人生を振り返って、「若いときに○○をしておけば良かったのに……」となるわけです。投資はその典型でしょう。投資はこつこつ数十年も継続すれば、それはそれは大きなものになるわけですから。
 p.60 でシニアがよく見るテレビ番組が挙がっています。ニュース・ドキュメンタリーで、「ためしてガッテン」や「プロジェクトX」など(今は見なくなりましたが)乙がよく見ていたものが書いてあります。
 p.62 では、外食でよく食べる好みのジャンルが書いてあります。1位が鮨なのは当然(!)として、2位は中華料理です。乙もけっこう好みです。
 p.118 夫婦別トイレが普通で、自宅にトイレが2個あるというのです。乙もまさにそうです。我が家では夫婦で厳密に区分しているわけではありませんが、何となく居場所に近いところに入るので、乙が1階、妻が2階のトイレに入ります。(それぞれのトイレにそれぞれの読みかけの本がおいてあります。)
 pp.128-129 では、子供が購入する際に全額お金を出してあげてもいいもの、孫のためにお金を出してあげたいものが整理されて並んでいます。なるほど、乙がもう少し年を取れば、こういうことを意識しなければならないんですね。
 p.131 では、家計は夫婦のどちらが管理するかが書いてあります。シニア層は妻が管理しているのですね。乙は、自分で管理しています。(投資するためには、そのほうがはるかにベターです。)
 p.136 では、将来のための資金の運用の分担が書いてあります。一応、夫側のほうが多い結果になっていますが、妻側という回答もかなりあり、家庭ごとに大きく異なっている(家庭ごとにばらばらだ)ということがわかります。

 本書を読むときは、いちいち納得・共感しながら読んでいました。まるで自分のことが書いてあるみたいです。
 特に、p.147 以降で、多くの夫婦が写真付きで登場しているところが具体的でおもしろかったです。自宅の中の写真が多数載っており、それぞれの夫婦の生活のしかたが手に取るようにわかります。まさに「目は口ほどにものをいい」ですね。
 本書で読みにくい点を一つあげれば、グラフの凡例がしばしば非常に小さな活字で表されていることです。たとえば、p.142 など、3行分の凡例が普通に読めるものでしょうか。若い人ならば大丈夫なんですかね。せめてポイントを2倍程度にしてもらえたら、シニア層が読むのも楽だったろうにと思いました。あ、この本は若い人が読んでシニア層に営業をかけるためのものだから、こういう小さな活字でもいいんですかね。

 本書は、山崎伸治(2007.4)『「団塊の世代」は月14万円使える!?』(青春新書)青春出版社
2007.7.1 http://otsu.seesaa.net/article/46332712.html
よりも前に刊行されたものでした。


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2007年08月02日

内藤忍(2007.6)『内藤忍の資産設計塾 外貨投資編』自由国民社

 乙が読んだ本です。「投資フロンティアを広げる外貨攻略法」という副題が付いています。
 「外貨投資」といえば、つまりは外国に投資することであり、乙は、自分が外貨投資をしていることもあって、大変興味を持って購入しました。
 第1章は「外貨投資の基本戦略」です。
 p.24 では、標準的なアセットアロケーションを示します。日本株式については「日本で生活していく場合、外国株式よりも日本株式に、資産がより連動した動きになったほうが良い」と考え、日本株式30%、外国株式20% という目安を示しています。
 乙は、内藤氏のようには考えません。「日本で生活していく」ことと「日本株式を保有する」ことは別のものだと考えます。基本的には、世界中のどこに住んでいても、同じようなアセットアロケーションをしてかまわないと思います。
 ま、アセットアロケーションには正解がありませんから、これはどうでもいい議論ですが。
 p.35 では、先進国の株式市場ではインデックス運用を中心に、発展途上国ではアクティブ運用を活用するのがよいとしています。この話は p.75 でも再度論じられます。これは大変おもしろい考え方でした。発展途上国ではアクティブ運用が向いているのかどうかは、さらにデータで検証してみなければなりませんが、一つの考え方として理解できます。
 第2章は「外国株式投資」です。一通りのことが全部書いてあるという感じを受けます。
 第3章は「外国債券投資」です。
 p.120 には、ゼロクーポン債を途中で売却するのは、売却できる価格がいくらになるかわからないので、売却価格によっては税金上のメリットが相殺されてしまうとのことです。それはそうかもしれません。しかし、乙は、償還日が近づけば、ゼロクーポン債の価格はほぼ額面価格に近づくはずなので、そんなに心配はいらないのではないかと思います。(しばらくして、乙の持っているゼロクーポン債がそうなったときに、実際、わかります。乙は、償還日の数ヶ月前に売却するつもりでいます。)
 第4章は「外国為替保証金取引」です。いわゆるFXです。
 乙は、FXを本格的にやっていませんので、今回初めて知ることがいろいろありました。
 p.162では、「例えば1ドル=120円で10万円の保証金を使い1万ドルの買いポジションを作った場合、使っている円貨額は10万円ですが、取っている外貨のリスクは120万円になります。」と書いてあります。乙は、リスクが○○円になるという言い方に引っかかりました。続けて、「為替レートが1ドル=125円になったら、持っている外貨のリスクは120万円から125万円に増えることになります。」と述べられます。もしかして、ここでいう「リスク」は普通の意味(価格の変動、標準偏差、ボラティリティ)とは別の意味なのでしょうか。
 p.165 も同様です。ここでは、外貨預金をせずに、為替保証金で外貨預金の代替運用をしようという趣旨のことを書いています。書いてあることは理解できるのですが、乙はそれを「リスク」と呼ぶことがわかりませんでした。
 第5章は「その他の外貨建て商品」ということで、ヘッジファンドや外国の REIT などが出てきます。日本では、あまりいい商品がないようなので、内藤氏のような書き方にならざるを得ないことは理解できるのですが、海外に直接投資すれば、もう少し違った見方ができそうに思います。(これは本書の対象外だとは思いますが。)
 p.200 内藤氏の「その他の資産の配分」が表となって出てきますが、表の中の「その他」が 50.7% もあって、なぜか内藤氏が秘密にしたいもののようです。一方では 2.8% しか投資していないものも具体的な商品名を出して比率を示しているのですから、「その他」の中にどういうものが含まれるかを示さないというのは変です。いわば半分隠していることに相当します。
 第6章は「外貨商品活用のポイント・為替の世界を知る」ということで、内藤氏のディーラーとしての経験に基づき、為替の取引の実態などをかなり具体的に述べています。おもしろい章です。
 本所の各所に、CASE STUDY《私の方法》というコラムがあり、内藤氏が実際投資している具体的な金融商品名とその割合が示されます。内藤氏の実例ですから、大いに参考になります。
 残念ながら、本書ではあちこちミスプリが目に付きました。最初のほうだけ挙げます。
p.25 図1-2 日本株式 20%→30%
p.32 表1-3 6.4%→64%
p.34 表1-4 相関計数→相関係数
p.40 真ん中あたり「。。」→「。」
 内容の記述がしっかりしているだけに、ミスプリの多さが気になります。
 本書は、全体として、外貨投資に関する一通りの知識が詰まっており、有意義な入門書であるといえましょう。図表がたくさんあって、わかりやすく書かれています。本書は、これから外貨投資をはじめようとする人にとっては、いい教科書になるものと思います。
 しかし、乙にとっては「すでに知っていることを丁寧に説明された」感覚が強く、物足りなさを感じたのも事実です。
 乙が外貨投資を始める前に本書と出会っていたら、きっと高い評価をしたことでしょう。しかし、外貨投資を始めて、自分でいろいろ経験した後では、そんなでもないということになります。
 本との出会いのタイミングはむずかしいものです。本の評価には評価者の個性や読んだ時点での考え方が出てしまうのだということに気づきました。
 この本がいい本なのに高く評価できないというのは、そのような乙の現状を前提とした評価だということです。

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ラベル:内藤忍 外貨投資
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2007年07月30日

門倉貴史(2006.11)『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る』(宝島社新書)宝島社

 乙が読んだ本です。
 ワーキングプアというのは、働く貧困層ということで、年収200万円未満の人のことをいうのだそうです。現在の日本では、ワーキングプアが約550万人いるということです。本書は、その実態を描いたものです。
 第1章「日本の労働者の4人に1人は生活保護水準で暮らしている」では、ワーキングプアが増えている現状を描きます。実に多いんですね。
 第2章「働き盛りの中年家庭を襲う「ワーキングプア」の恐怖」では、会社のリストラなどによって中高年層がワーキングプアになる場合を述べます。この層は一番大変な生活をしているともいえます。
 p.72 には子供は金がかかるという話が出てきます。中高年サラリーマンの話であり、身につまされます。日本の教育費はホントに高いです。乙は二人の子供を大学にやりましたが、実際、かかった教育費は(塾も含めて)かなりなものでした。
 第3章「崩壊する日本型雇用システム」では、終身雇用制度や年功序列制度の崩壊の過程とその理由を述べています。正社員も「心のワーキングプア」になっている例が多いとのことです。
 第4章「非正社員で働く若者たち」では、フリーターやニートも含め、若い人が就職のスタート段階から非正社員になる傾向があることを述べています。
 第5章「「構造改革」による自由主義経済と民営化の果てに」では、ワーキングプアの問題解決のための政策をいくつか提言しています。しかし、いずれも実現がむずかしそうなものに思えます。
 p.188 では、支出税というアイディアが出てきます。収入から貯蓄を引き算し、それが支出ということで、それにもとづいて税金を算出し、個人が納税するというアイディアです。おもしろそうな考え方ですが、投資などの資産の購入は貯蓄に含まれるということになると、投資と消費の違いがややこしくなりそうです。投資用不動産の購入などでは、一応投資ですが、自分が住むことになれば消費です。このように、消費と投資の境界領域のものがたくさんあり、混乱しそうです。
 p.190 では、最低賃金の額を上げることが提言されています。しかし、これとても、ホントにそうなったら、企業が外国(労働者の賃金が安い国々)に出て行く、いわゆる空洞化の可能性が高まります。さまざまなものがグローバルに動く世の中ですから、日本人だけよければよいという考えでは通用しません。
 各章の末尾にはワーキングプアにインタビューした記録が2件ずつあり、全部で10件分が記述してあります。これは、各個人のたどってきた道を具体的に述べたものであり、強烈な印象を与えます。もしかすると、本文よりもこちらのほうがおもしろいかもしれません。
 日本は変わりつつあります。ワーキングプアの問題は、起こるべくして起こったものです。各企業とも人件費削減に真剣に取り組まざるを得ない現状があり、かつ、いざとなれば諸外国(特に新興国)の安い労働力を使うことも視野に入ってくるとすれば、ワーキングプアの解決は非常に困難でしょう。これからの日本はますます格差が大きくなっていくように思えます。しかし、それは社会の不安定化を招きます。みんなが幸せな社会はどのようにして築けるのでしょうか。そんなことを考えさせる1冊でした。
 乙は、若干の資金を投資に振り向けていますが、このこと自体、とても幸せなことであり、ありがたいことのように思えてきました。一方では、乙の子供たちがワーキングプアになりそうで、心配にもなりました。
 なお、門倉氏の個人サイトは http://www004.upp.so-net.ne.jp/kadokura/ です。興味のある人はアクセスしてみるのもいいでしょう。


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2007年07月27日

門倉貴史(2007.6)『ホワイトカラーは給料ドロボーか?』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。
 タイトルに引かれて買いました。
 しかし、この答えは第1章「本当に日本の生産性は低いのか」で述べられてしまいます。日本のホワイトカラーの生産性は決して低くないというのです。その意味で、ホワイトカラーを給料ドロボーと呼んではいけないことになります。
 第2章から先は、タイトルとは違った内容ということになります。日本人の働き方を、数字やグラフを挙げながら論述していくのはわかりやすいし、内容に問題があるわけではないのですが、やっぱり、こういうタイトルをつけるのは変です。
 第2章「残業はなぜ増える」では、サービス残業が増える理由を述べていますが、みんなが成果主義で競争している以上当然だということになります。
 第3章「ホワイトカラーの給料はどうやって決まるのか」では、給料が相対評価にしたがって決まる傾向があることを述べています。
 第4章「日本のホワイトカラーはどこへいくのか」では、終身雇用制度や年功序列賃金制度が崩れ、ホワイトカラーの中で格差が広がっていること、日本の最低賃金が低いことなどを述べています。
 全体的に、真面目で信頼できる記述のしかたですが、あまり新しい知見はなく、すでにわかっていることをデータを示しつつ再確認するような感じに受け取れます。
 若い人は、自分の将来を考える上でも、一読の価値があるでしょうが、中高年層は読まなくていいでしょう。乙もホワイトカラーの一員であるだけに、読まずにいられなかったのですが、ちょっとがっかりしました。
 ところで、乙がもらっている給料は多いのでしょうか、少ないのでしょうか。このブログは赤裸々に語る場でもないので、ま「人並み」ということにしておきましょう。私企業に勤めるサラリーマンで、役員ではありませんから、そんなに高い給料のはずはありません。人並みです、人並み。


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2007年07月24日

本山美彦(2006.3)『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』ビジネス社

 乙が読んだ本です。「米国の対日改造プログラムと消える未来」という副題が付いています。
 いろいろと衝撃的な話が書いてあります。
第1章 米国エスタブリッシュメントが進める日本改造
 アメリカが超党派で全力を挙げて日本をアメリカの思うとおりに改造しようとしていると主張しています。
第2章 「神々の争い」に敗れた日本
 欧米は、基本的にキリスト教が主流であり、その意味で価値観を共有し理解し合えるのですが、日本は宗教観が違うので、欧米からは理解できない国と映るというわけです。
第3章 日米投資イニシアティブの正体
 アメリカが日本を安値で買うためにどのような動きをしているかを述べています。
第4章 日本の「医療市場」が飲み込まれる
 乙は、この章が一番おもしろかったと思います。
 医療市場という具体例をあげ、日本がどのようにアメリカの言うことを受け入れてきたかを説明しています。
 p.96 では、「日本の大学は「米国の予備校化」する」と述べていますが、ここはちょっと言い過ぎではないでしょうか。弁護士資格や会計士資格を米国政府が米国大学の日本校卒業生に与えるようになれば、日本の大学は米国大学の大学院にどれだけ進学させたかで価値が判定され、確かにある意味での「予備校化」になりますが、日本の大学は弁護士や会計士を育成しているだけではありません。大学全体でなく、一部を取り上げて「予備校化」と言っても意味がないように思います。それを言い出したら中文学科は中国の大学(院)の予備校化を目指しているとか何とか言えそうに思います。
 pp.99-104 アメリカの医療事情について記述していますが、乙は初耳だったので驚きました。アメリカはまさに医療を金で買う仕組みが貫徹している国です。
 p.120 神戸空港の開設の意味として、東アジア有事の際、負傷兵が神戸空港に空輸され、空港周辺の再生医療機関で手術を受けるためだという「推測」を述べていますが、あまりにもうがった見方でしょう。こんなことのためにアメリカが日本に膨大な負担を押しつけるのでしょうか。同じ金を使うなら病院船を充実させるほうがはるかに効果的でしょう。
 pp.141 米国で営業していない日本の監査法人に対しても、アメリカの「公開企業会計監査委員会」(PCAOB)に登録させる、つまり日本の監査法人は日本の当局だけでなく米国からも管理されてしまうという話が書いてあります。こんなバカなことがあるのでしょうか。
http://www.kpmg.or.jp/resources/keywords/pcaob.html
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kounin/siryou/20060623/03.pdf
などに PCAOB の説明がありますが、アメリカの上場会社を監査する監査事務所だけを登録しているようです。ここは本山氏の勘違いではないでしょうか。
 pp.142-144 米国政府が日本政府に外資導入を積極的に要請している分野で、米国は自国の安全保障のために国防に関連する9分野で外国からの直接投資を禁止することができるという話です。こんな不平等なことがあるのでしょうか。
 「エクソン・フロリオ条項」をネットで調べてみると、
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/invest_02/
確かにそのように読めます。
 これは意外な大問題のように思えます。
第5章 「五つのレポート」が与えるアンダー・プレッシャー
 日本政府は、米国の方針に対して、抗議のポーズを示すだけで、本格的に反論しようとしていないという問題点を挙げています。
 p.157 米国の USTR の報告書に次のようにあるという話です。「日本に参入するのは米国の保険会社の権利であり、第三分野を外資に提供し、日本の大手の参入を阻止するのが日本政府の任務であり、そうした流れを作った上で、新種の自動車保険などを米国の会社に提供するべきである。」
 こんな勝手なことがあっていいのでしょうか。
第6章 世界経済を恫喝する「USTR」
 この章は、全体としておもしろくありませんでした。各種人脈などを長々と述べていますが、乙はそういうのにあまり興味がないのです。
 ただし、pp.216-220 あたりはおもしろく読みました。ロビイストはしばしば寝返るというのです。米国の USTR の一員として外国と交渉してきた人が、その後、外国企業の代理人になり、高額の報酬を得ているというのです。すごい話です。

 全体として、日米関係の不平等の実態が赤裸々に書かれていると思いました。こういう本を読むと、日本政府はまるで米国の植民地のように振る舞っているように思えます。どうにも日本の未来が暗く見えます。
 この事態に個人投資家としてどう対処するか。結論は一つでしょう。日本株に投資せず、米国株に投資するということです。ただし、もちろん、本山氏の主張に賛同すればという条件のもとでです。
 本書のものの見方・考え方は、原田武夫(2005.12)『騙すアメリカ 騙される日本』(ちくま新書)筑摩書房
2006.5.4 http://otsu.seesaa.net/article/17363116.html
などとも共通します。


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2007年07月21日

吉田和男(2001.10)『日本経済再建「国民の痛み」はどうなる』(講談社+α新書)講談社

 乙が読んだ本です。
http://palcomhk.blog79.fc2.com/blog-entry-251.html
で PALCOM さんに教えていただいて、この本を読むことにしました。
 内容ですが、日本の財政破綻について、まじめに議論しています。いくつかの条件でシミュレーションをして破綻の時期を推定しており、議論は納得できます。

第1章 財政破綻に向かう日本
 今のままでは日本は財政破綻に向かわざるを得ないという警告の章です。
第2章 「まず景気対策を」の嘘
 宮沢内閣での1992年の10兆円の景気対策も、細川内閣による1993年の補正予算15兆円の対策も、その後の小渕内閣の減税と何十兆円もの景気対策も功を奏しなかったことから、この政策が間違いであったことを論じています。
第3章 景気対策はなぜ役に立たなかったのか
 いろいろ重要な議論が展開されますが、結論は p.121 でしょう。公共投資でも景気が回復しないのは、日本の経済システムに問題があるからだというわけです。不良債権問題や過剰投資の償却促進などをもっと前倒しで行うべきだったというわけです。
第4章 日本経済「三つのシナリオ」
 この章で、「破綻ケース」、「歳出削減ケース」、「増税ケース」の三つについてシミュレーションしています。p.143 のグラフによれば、現状のままなら 2020 年ころに日本経済は破綻するとしています。
 ただし、p.142 で、2020 年度には日本経済がなくなってしまう、ついにゼロとなってしまうと述べていますが、これは言い過ぎではないでしょうか。p.143 のグラフを見ると、2020 年でも、実質 GDP は 400 兆円あることになっています。もしかして、吉田氏がグラフを読み間違えたのではないかと思いました。(乙が間違っていたらごめんなさい。)
 p.149 では、「人々が財政問題に気づいたときには、すでに手を打つには遅すぎるわけで、破綻に向かって転げ落ちるのを見守るしかない。」と述べ、人々の認識の遅れを問題にしています。きっとそうでしょう。
 では、そのとき、どんなことが起こるのでしょうか。
 p.150 では、人々が破綻を先読みして海外投資を行うようになること、そして、金利上昇、為替レートの下落が生じるとしています。まずは、為替レート、次が金利上昇、そうして財政破綻という順番だそうです。
 こんな話を聞くと、最近の円安が不安になってきます。海外投資の隆盛もこういう大きな文脈でとらえる必要があるのかもしれません。
第5章 サラリーマンの生活はどうなる
 p.162 財政破綻で賃金が低下し、p.166 生活水準が切り下げられると予想しています。厳しい覚悟が必要なようです。
第6章 これから政治がやるべきこと
 p.202 「日本のように、高度な消費生活を前提とした場合でも、偏った資源配分を10年も続けると、これがもたらす問題はどうにもならないものになる。」というわけで、ばかげた政策を見直そうと主張しています。
 吉田氏は、増税と歳出削減しかないと考えているようで、それは当然ですが、p.204 には、恐い言葉が書いてあります。「増税と歳出削減を組み合わせても、現在の制度を前提とすれば、とても実行可能な政策を提言できなくなっている。」というのです。うーん。日本の破綻は避けられないのでしょうか。
 pp.214-215 に、乙が一番感心したことが書いてあります。「日本の財政は累積赤字の問題で、ほとんど最終的な段階にまで来てしまった。政治家の仕事は、現在を犠牲にしてまでも将来の日本国民を守ることにあるはずなのに、将来を犠牲にして、今日の人気取りを行うという姿を見せている。これでは本末転倒である。【中略】選挙で落ちることを覚悟してでも日本を救わなければ、政治家になる意味はない。」何と明解な言葉でしょう。今の政治家に聞かせてやりたい一言です。おりしも参議院選挙の時期ですが、消費税を上げるといったのいわないのと低次元なレベルの応酬を見ていると、政治家のあり方が根本的に間違っているんじゃないかと思えてきます。
補章 供給側モデルによるシミュレーション
 残念ながら、この章は乙には理解不可能です。もう少し数字と数式を出して説明してもらえればいいのですが、新書を意識したのか、言葉による説明だけになっており、それでは、このシミュレーションを自分で計算することができません。自分で計算できるようでないと、説明になっていません。まあ、乙の能力が低すぎるのかもしれません。その場合は、シミュレーションの計算については、吉田氏を信じるしかないのでしょうね。

 この本の出版時期は 2001 年 10 月です。6年も前の本なんです。この6年間、日本は財政の面で何かが変わったのでしょうか。乙はそうは思いません。国の借金は積み上がるばかりです。
2007.7.16 http://otsu.seesaa.net/article/47959253.html
 もう、政策でどうこうなる時期を過ぎてしまったように思えます。
 新書ながら、とても(内容が)重い本でした。


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2007年07月18日

石井紘基(2002.1)『日本が自滅する日―官制経済体制が国民のお金を食い尽くす』PHP研究所

 乙が読んだ本です。
 もともと 1,700 円の本ですが、古い本なので、もう新刊は入手できないでしょう。amazon の中古で 8,000 円から 29,000 円もします。乙は、この金額ではちょっと買えないなあと思って、近くの公立図書館で借りて読むことにしました。
 表題がすごいです。インパクトがあります。
 でも、一番すごいのは書かれている内容です。
 内容は、きちんと数字が挙げられていて、説得力があります。このままだと本当に日本が自滅するのではないかと思わせます。
序章 真の構造改革とは何か――「もう一つの日本」を直視せよ
 p.20 構造改革の目的は国家体制を官制経済から市場経済に移行させることだと述べます。日本はそうなっていないのです。
第1章 利権財政の御三家――特別会計、財投、補助金
 財政問題を論じています。
 第1節「誰も知らない日本国の予算」では、特別会計の規模が大きく、国会の承認を得ないで官僚がいろいろ金を使っている状態を好ましくないものとしています。一般会計85兆円だけを見ていては財政の本質はわかりません。日本の本当の予算額は260兆円なのです。
 第2節「究極の“裏帳簿”特別会計」では、道路特別会計、石油特別会計、港湾整備特別会計などの問題点を描きます。p.54 では、特別会計の大きさが不合理であることを述べています。
 第3節「官制経済を支える“闇予算”財投」では、財投の問題点に切り込んでいます。
 第4節「50兆円をバラ撒く補助金制度」では、補助金の使い方のずさんさが示されます。
第2章 経済むしばむ“官企業”――特殊法人と公益法人など
 日本道路公団、都市基盤整備公団、住宅金融公庫などの特殊法人の問題点をズバリ指摘しています。p.115 では、日本は社会主義の国だといっていますが、こういう実態を考えると首肯できます。
第3章 公共事業という名の収奪システム
 高速道路、港湾、空港、農道、ダムなどの公共事業が以下にムダなことをしているか、克明に調べて記述しています。
第4章 構造改革のための25のプログラム
 構造改革の具体的な提案です。官企業を全廃せよ、国家予算を半減せよなどといったことが25項目並んでいます。日本の進むべき道が具体的に示されています。官僚の抵抗は大きいですから、ここに書かれていることがそのまま実現するとは思いませんが、それにしても、こういうことが提案でき、実行できる人(政党)がほしいなあとつくづく思いました。
 著者の石井氏は元民主党所属の衆院議員でした。本書を読んでいると、まるで共産党の議員かと思ってしまいました。それくらいに、政府・自民党(のやってきたことや考え方など)を徹底的に攻撃しています。本書は石井氏のライフワークともいうべきものです。
 石井氏は2002年10月25日に刺殺されました。
http://www.interq.or.jp/pacific/getjapan/jounal/ISIIKOKI.htm
犯人の自供はいいかげんなもので、不自然です。やはり、石井氏の調査におびえた誰かが石井氏を暗殺しようと考えたのでしょう。ということは、この本に書いてあることの一部は正確な指摘だということになります。
 日本国の借金はますます増えています。
2007.7.16 http://otsu.seesaa.net/article/47959253.html
 なぜそうなったかを考える際には、この本で書かれているようなことが重要だと思いました。
 今の日本を眺めると、石井氏の指摘がその後改善されたわけでもありませんから、日本はひたすら自滅への道を歩んでいることになります。


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2007年07月12日

上地明徳(2006.12)『ダマされたくない人の資産運用術』(青春新書)青春出版社

 乙が読んだ本です。
 200ページの新書(760円+税)ながら、きわめて明解に本格的な資産運用法を説いています。
 p.36 「投機家はラッキーで勝ち、投資家はスキルで勝つ」とあります。投資は長期投資であり、投機は短期取引であることを述べ、デイトレーダーのようなことはしないようにといさめています。
 p.108 日本は少子高齢化しますが、それでも、株式投資を続けて何の問題もないということです。そうかもしれません。しかし、日本経済が(原因は何であれ)めちゃめちゃになって、倒産したり、上場廃止になる企業が相次ぎ、時価総額がどんどん下がるような悲惨な状況になっても、株式投資をしていていいものでしょうか。乙は心配です。少なくとも、著者の上地氏のような楽観論ではすまないように思っています。
 p.114 「正規分布とは、平均を中心に標準偏差の±3倍を超える事象が起き得ない確率分布だ」と明言していますが、ちょっと違うのではないでしょうか。正規分布は、標準偏差の±3倍以内のところに 99.74% は収まりますが、それを越えるところにも、わずかばかり(0.26%ほど)分布しています。理論上は、マイナス無限大からプラス無限大までの値を取り得るのではないでしょうか。説明を簡単にしようという趣旨かもしれませんが、このあたりは簡単にしすぎているように思えます。
 p.135 インデックス・ファンドとアクティブ・ファンドを比べて、必ずしもインデックス・ファンド万歳ではなく、アクティブ・ファンドでもいいのではないかという意見が書かれています。これは普通の投資指南書の主張とは相容れません。優秀なファンド(・マネージャー)を事前に見分けることができると思う人は、ぜひそうするべきでしょう。上地氏はきっとそのタイプなのでしょう。乙は、自分にそういう能力がないと信じていますので、どちらかというとインデックス・ファンド派です。(そうはいいつつも、一部にアクティブ・ファンドを保有しているのですが、それはそれなりの事情があるのです。)
 読了して、新書とは思えない内容の充実ぶりに感心しました。分散投資の本はいろいろありますが、新書1冊でこれほど明解に語ったものは見たことがありません。資産運用を心がける人なら、だれでも一読するべき良書だと思います。


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2007年07月10日

『日本の論点』編集部(編)(2005.11)『10年後の日本』(文春新書)文藝春秋

 乙が読んだ本です。
 データを積み上げて10年後の日本の状況を予測する内容です。
 前書きも後書きもないので、ちょっとぶっきらぼうな気がします。目次のあとにいきなり本文です。
 10年であれば、今の傾向を将来に延長して将来予測するという手法でいいのではないでしょうか。
 数ページずつで、47項目について述べるスタイルなので、短くまとまっていて理解しやすいです。
 たとえば、次のようなことが論じられます。
p.10 貧富格差が固定化される傾向が強い
p.23 消費税は2ケタになっている
p.32 日本中のインフラが老朽化する
p.42 退職金、企業年金が危ない
p.55 団塊の世代が「背伸び消費」して貯蓄率が低下する
p.92 フリーターが高齢化し、500万人にも達する
p.105 引きこもりの高齢化が進む
p.196 2010年、国債の大量償還があり、財政が破綻するかもしれない
p.200 長期金利が暴騰し、ハイパーインフレが来る
p.204 中国経済がますますヒートアップする
p.210 BRICs が台頭し、日本の新しいパートナーになる
 他にも、いろいろな将来予測があるわけですが、全体として真面目に取材して、データに基づいて書かれているように思いました。ということはかなり信頼できるのではないかということです。
 ただし、1項目の記述がかなり簡単に過ぎて、もう少しページ数を使って説得力のある書き方にしてもらえたらよかったのにと思いました。よい意味でも悪い意味でもジャーナリスティックに書かれていると言えます。
 また、10年先の日本の予測では暗いものが多く、全体として日本はどうなってしまうのだろうかという不安がかき立てられます。このまま日本に投資していっていいのでしょうか。明るくない日本に過度に入れ込むことを避け、海外に投資したほうがいいような気がしてきました。もっとも、インデックス投資の考え方からすれば、こういう理由で日本に投資しないと判断することがむしろ問題なわけですが。


ラベル:10年後
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2007年07月08日

山田真哉(2005.2)『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)光文社

 乙が読んだ本です。
 「身近な疑問からはじめる会計学」という副題が付いています。
 どんな疑問か、取り出してみましょう。
1 さおだけ屋はほとんど売れなさそうなのに、次々と回ってくる。なぜ潰れないのか。
2 ベッドタウンに高級フランス料理の店がある。いつみても客がほとんどいないのに、なぜ潰れないのか。
3 在庫だらけの自然食品店がある。なぜ潰れないのか。
4 仕入れた商品を完売したのに怒られた。なぜか。
5 雀荘の店員と麻雀をやったら、その人がトップ賞をねらわずにゲームを止めてしまった。なぜか。
6 ある人がいつもワリカンの支払い役を買って出るが、それはなぜか。
 というわけで、なかなか疑問としてはおもしろいと思います。まあ、本の題名にもなっている「さおだけ屋……」が一番インパクトがあるように思いますが。
 それぞれの説明は簡単なものなのですが、それを書いてしまうと、ネタバラシになってしまいそうなので、止めておきます。
 5は、腑に落ちない点がありました。雀荘は、客の回転率を高めるためにさっさと勝負を終えさせて次のゲームに誘導しているのだというのが山田氏の解釈ですが、これはホントでしょうか。雀荘が店員の負け分を出してくれるならば、この解釈で何ら問題はないのですが、p.133 にあるように、雀荘の店員が負けた場合、個人的に負け分を支払うという仕組みならば、雀荘の店員はマイナスで終わることを避けるようにすると思います。店員にしてみれば、回転率を高めて店を儲けさせようとしても、負け分を個人的に払うのでは自分としてマイナスになってしまいます。レートにもよりますが、店員がそんなことをするでしょうか。
 6についても、乙は山田氏の解釈に従えませんでした。クレジットカードのポイント制度が影響しているでしょう。山田氏のこの議論は変です。
 1〜4についても、ホントかなあと思える面があります。まあ、山田氏の考え方・解釈もありうるというように考えておけばいいでしょう。
 全体として、身の回りのふとした疑問からお金の考え方を説明するという書き方はおもしろいと思いますが、結局、わかりきったことをやさしく解説しているだけのように感じられます。これが会計学の入門になるとはとても思えません。


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2007年07月04日

古橋隆之(2001.11)『納税者反乱』総合法令出版

 乙が読んだ本です。表紙には「賢い国際節税法」という副題が付いています。
 目次は以下の通りです。
第1部 世界の税金事情
 第1章 納税者の反乱
 第2章 オフショアセンター最新事情
 第3章 「税の競争」への規制
 第4章 日本の所得・法人税は高いか
第2部 国際税務から見たタックスプランニング
 第5章 日本の相続・贈与税
 第6章 相続税オフショア実践編
 第7章 インターネットと税金
 第8章 オフショア・タックス・プランニング

 第1章では、欧米諸国で納税者が海外流出する例をいくつか挙げています。
 第2章では、各オフショアの税制などを解説しています。
 第3章では、世界各国が国際的に移動可能な資本を自国に誘致するために、競って税を安くしようとしている実態を描いています。
 第4章は、タイトルが内容を良く表しています。p.103 のグラフでは、日本を税金が安い国としていますが、その後に続く解説を読んでいくと、必ずしもそう簡単な話ではないということになります。
 第5章は、相続・贈与税の話で、アメリカの制度などと比較しつつ、二重国籍や無国籍の話も絡めて、どうすると相続税や贈与税を節約できるか、述べています。
 第6章は、親から子供への贈与を行う際に、オフショアの会社などを介在させる方法をいくつか具体的に例を挙げながら説明しています。
 第7章では、海外の子会社などを通してインターネット上で商売をしているような場合の税務面での注意事項を述べます。
 第8章では、オフショアに会社を設けて、いろいろな制度を利用しつつ相続税・贈与税を節税する方法を具体的に例示しています。

 乙は、読んでいる途中で、「あ、これは自分に関係ないかな」と思ってしまいました。なぜならば、この本に出てくる例は、すべて資産家の例で、個人投資家には縁遠い話だったからです。たぶん、資産が数十億円以上あって、まともに相続税を払うことになったら大変だという人むけに書かれています。
 乙は、どうがんばっても、死ぬまでにそんな額の資産形成はできませんので、その意味で「自分に無関係」と思ってしまいました。
 本書によれば、親も子も5年以上日本を離れて海外に住み非居住者となっていれば、贈与税の対象にはならないとのことです。それはいいのですが、p.216 によれば、日本の会社の株式は、相続税では日本にある財産となり、株式所有者が海外に住んでいても、相続・贈与のときに日本の相続・贈与がかかるということです。取り扱い方(計算法)がけっこう細かく決まっているんですね。驚きました。
 数十億円以上の資産がある人は、本書のようなものを1冊読んで、概略の知識を得て、具体的には著者のような税理士事務所に個別に相談するのがよさそうだということになります。


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2007年07月01日

山崎伸治(2007.4)『「団塊の世代」は月14万円使える!?』(青春新書)青春出版社

 乙が読んだ本です。
 乙は「団塊の世代」よりも若いのですが、いろいろと親近感を感じる面があり、タイトルにつられてこの本を買ってしまいました。
 本全体としては、各種の意識調査を駆使して、「団塊の世代」がどんなことを考えているかを述べたものです。本書の大部分は4ページずつで、一つの質問項目の集計結果とその解釈から成っています。ただし、調査したときの回答者の人数とその集め方が書かれていないのは大きな欠点でしょう。(結果の信頼性に直結する問題です。)
 資産運用についても、いくつか質問項目があります。

p.22-25 総務省の「家計調査(貯蓄編・負債編2005年)」を引用し、次のような数字を挙げています。

    金融資産総額   負債   純金融資産
40代 1181万円 852万円  329万円
50代 1747万円 581万円 1166万円
60代 2367万円 224万円 2143万円

 50代後半の団塊の世代は自由に使える金を一番多く持っているということです。
 この感覚は妥当な気がします。乙が今までにそれぞれの年代で感じてきたことをぴたりと言い当てているような気がしました。
 ということは、これから60代になったらどんな感じになるか、それは本書の通りになるのでしょう。

p.130-133 団塊の世代は、リスク覚悟で積極的な運用を考えていることがわかります。特に男性がそうです。
 今後利用したい金融商品(預貯金以外)では、株式や投資信託、国債・公社債、外貨預金があげられており、積極性がわかります。
 ただし、調査の結果では、団塊の世代が短期志向なのが気になります。投資は、もっと長期的な姿勢で臨むことが必要なのではないでしょうか。それは、高齢になったとしても同じことだと思います。

p.210-213 団塊の世代は空前の退職金と親からの相続資産を持ち、金融機関などはそれをねらっているところだという指摘は、まさにその通りです。金融機関に騙されないように、資産運用はしっかり勉強しておかなければ成りません。

 読み終わって、乙の考え方・感じ方が「団塊の世代」とほぼ同じであることに驚きました。まるで自分のことが述べられているようです。
 ただし、ちょっとドキッとしたことは、p.148「50代女性の約半数は、いまの夫との「離婚」を考えたことがある」というところです。乙の妻もそんなことを考えているのでしょうか。気になって聞いてみましたが、「考えていない」とのことでした。(ホントかどうか、わかりませんが。)
 ともあれ、本書は、資産運用だけでなく、生き方や不安や興味などライフスタイル全般を扱ったものとして、大変おもしろく読めます。特に、団塊の世代、およびその前後の世代の人は一読しておく価値があるだろうと思いました。


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2007年06月25日

三國陽夫(2005.12)『黒字亡国──対米黒字が日本経済を殺す』文春新書

 乙が読んだ本です。
 武田邦彦(2007.5)『国債は買ってはいけない!』東洋経済新報社
2007.6.12 http://otsu.seesaa.net/article/44575093.html
で参考にされていたので、買って読んでみました。
 主張は簡単です。タイトルそのままです。今の日本はアメリカの(通貨)植民地のようだというわけです。それがどういうものかは本書を読んでみれば詳しく記述されています。
 ではどうしたらいいか。著者は日本が自ら客になって買物をせよと説きます。それはマクロに見れば正しい態度ですが、個人レベルで考えると、どんどんお金を使うよりは、どうしても節約して将来に残しておきたいと思ってしまいます。これがいけないことだと言われても、染みついた習性はなかなか抜けません。
 この本を読みながら、日本政府としてどう考えればいいかはある程度わかるものの、個人投資家としてはどうしたらいいかが示されておらず、この点に不満を感じました。こんな大事なことなのだから、せめていくつかの案なり、考える方向性だけでも示してくれれば良かったのにと思ったわけです。
 こういう本を読むと、日本経済の将来性は悲観的にならざるを得ません。日本の富を収奪しているアメリカに投資するのが正しい態度だというように読めます。


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2007年06月17日

週刊ダイヤモンド 2007.6.16 特集「金融商品の罠」

 乙が読んだ雑誌です。
週刊ダイヤモンド 2006.12.2 特集:「投信」の罠
2006.11.29 http://otsu.seesaa.net/article/28499518.html
に次ぐ、大変に力のこもった特集です。
 単行本でいえば、鈴木雅光(2003.1)『買ってはいけない「金融商品」のからくり』主婦の友社
2006.2.25 http://otsu.seesaa.net/article/13741873.html
のようなものといえるでしょう。
 特集自体は、pp.34-69 と pp.122-155 の 70 ページほどに渡ります。週刊ダイヤモンドはA4判の大きさですから、普通の本(A5判)に換算すると 140 ページ(+α)にもなります。なかなか読み応えがあります。これで 670 円というのはおトクでしょう。是非単行本化してほしいものです。これを執筆した記者さん(たち)は、とてもよく勉強しています。金融機関で経験したさまざまな対応については、たぶん、記者さんの直接の経験ではなく、いろいろな人の取材に基づくものでしょうが、各種金融商品の批判の部分は、記者さんが直接執筆したものであるだけに、勉強しなければ、こうは書けません。きっと裏方のブレーンをつとめた専門家がいたのでしょう。
 p.40 の「長期投資はリスクを縮小する」に対する批判はわかりにくいものでした。運用期間別収益率のブレのグラフが掲載され、運用期間が長期になるほどブレが小さくなっているようすが示されます。だから、長期投資はリスクを縮小するわけですが、一方、批判点は「運用額そのもののブレは運用期間が長くなればなるほど大きくなる」という点です。こちらもグラフを1枚示せば良かったのに、それがないため、何をいいたいのか、すぐには飲み込めませんでした。
 10年で平均収益率が 20.2%〜-7.5% であるということは、もともと 100 あった資金が10年で 629.6 から 45.9 になるということであり、20年で平均収益率が 16.3%〜0.7% であるということは、もともと 100 あった資金が20年で 2049.2 から 115.0 になるということです。前者は、ブレの幅が 629.6-45.9=583.7 であるのに対して、後者は、2049.2-115.0=1934.2 になり、後者のほうが前者よりも大きくなります。平均で見る場合と、全期間を通した結果で見る場合では、違ってくるということです。
 それに、p.40 の図の下にある注ですが、「計算期間1995年12月〜2005年12月、東証株価指数(TOPIX)に基づき算出。」とありますが、その次の文章と照らし合わせると、ここは「計算期間1965年12月〜2005年12月、東証株価指数(TOPIX)に基づき算出。」ではないでしょうか。
 乙がおもしろく思ったものは、p.123 で、期間延長特約付き預金の項で、銀行の粗利益を求めるところでした。預け入れ直後に解約する場合のその損害金の金額が銀行の粗利益だというわけです。なるほど、納得です。
 p.133 で、貯蓄性保険の付加保険料(保険会社の経費)を計算すると、約5%になるという話も大変有益でした。数字で示されると、納得できます。付加保険料というとかっこよく響きますが、投資信託の申込手数料のようなものですから、それが5%もあるということは、かなり高いということになります。
 全体として、この特集は個人投資家が是非読むべき文献といえましょう。週刊誌ということで、後日からでは、かなり読みにくい(図書館でないと古いものは保管されていないでしょう)のが問題点であり、その点をカバーするため、(必要なら、2006.12.2 特集:「投信」の罠 と合わせて)単行本化してほしいと思いました。
 週刊ダイヤモンドは、金融業界とは特に縁がないので、こういう特集ができるのでしょうね。それにしても、とても充実した特集でした。
 なお、この特集の中の一部を執筆なさっている山崎元氏ですが、
http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/ebd27918140889acfcc95beb47714635
で「逃げた(?)投信協会長(週刊ダイヤモンド「金融商品の罠」)」をお書きです。週刊ダイヤモンドの記事の補足説明になっているので、こちらも合わせて読む方がいいと思います。
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2007年06月12日

武田邦彦(2007.5)『国債は買ってはいけない!』東洋経済新報社

 乙が読んだ本です。
 国債の本かと思って買ったら、実は日本の金融の現状を描いている本でした。しかし、内容がおもしろいので、一気に通読してしまいました。
 第1章(pp.12-60)は「お金を吸い取る三つの仕組み」です。三つの仕組みとは、日本の国債を買うこと、アメリカの国債を買うこと、そして証券会社の勧める株を買うことの三つです。
 日本の国債については、pp.30-32 で買うと損をすることを丁寧に説いています。まあ、こんなに考えなくても、国債については、もう返す(償還する)ことは不可能だから個人は買わないというのは簡単に理解できます。しかし、銀行や郵便局に預けたって、結局、銀行や郵便局が国債を大量に買っているわけですから、間接的に国債を買っていることになるわけで、これもダメです。
 アメリカの国債を買うなという考え方はおもしろかったです。p.37 から説明されています。日本人がテレビをアメリカに売ると、アメリカ人は代金をドルで払います。ドルは日本では使えないので、アメリカ国債を買います。日本人の手元にはアメリカ国債証書が残り、ドルはアメリカ人に渡り、それをアメリカ人が使うというわけです。日本人がただ働きをして、アメリカ人が遊んでいるという構図です。p.45 では、それを称して、日本人はアメリカ人の奴隷だとしています。
 pp.56-60 あたりで、証券会社が個人投資家の金をかすめ取ってしまったことが説明されます。これを読むと、日本の証券会社のひどさにあきれてしまいます。
 第2章(pp.62-104)は「お金の原理原則」です。その最初に「血が通った物価」という話が出てきます。庶民の立場から物価上昇をとらえると、同じものを2時点で比較する物価指数だけではダメで、社会が豊かになっていくことについていくことと個人が年を取るにつれてそれなりの生活ができるようにすることを考慮して、1年で10%だという計算をしています。乙は、大変おもしろく思いました。今までの単純な「物価スライド」では考え方が不十分だというのがよくわかります。
 p.98 あたりでは、企業などでまともな利益は年3%くらいであり、それを超える利回り(たとえば 14%)を示すようなファンドは、他人が受け取るべきものをかすめ取っており、まともな利益ではないという考え方が書いてあります。しかし、一方では、p.98 に、配当3%の他にその会社の価値の上昇分(儲けをため込んだ分)7%があるので、年10%くらいは受け取れるチャンスがあると書いています。ですから、3%を基準とせず、10% を基準として考えてもいいのではないでしょうか。だとすると、14% というのは、そういうこともあるかなというレベルになるように思うのですが、どうでしょう。
 第3章(pp.106-140)は「お金の誤解」です。p.121 では「お金を貯める」というのは錯覚で、本当は「他人が使う」ことだとしています。正論なんですが、乙はこういう感覚を持っていなかったので、新鮮に響きました。
 第4章(pp.142-194)は「お金の現状」です。日本人がお金の使い方を知らずに、節約して、貯金して、余らせていることを描いています。
 p.148 には、こうあります。「かく言う筆者も一介の大学教授として給料をもらうが、(中略)私は今の仕事に満足している。お金があっても地下鉄で良い。ましてお抱えの運転手などを雇ったら面倒なだけで絶対にイヤである。質素でノンビリ、大学生協の昼食は450円で十分おいしい。」何だか身につまされます。乙は、クルマで通勤していますし、お昼は「大学生協」がなくて、さすがに450円では済まないので、もう少し高いものを食べていますが、基本的には、似たような感覚です。
 p.159 からはなぜお金が余るかを説明しています。個人は年金が不安だ、銀行は事業を見る目がなく土地を担保にしなければ企業にお金を貸さない、優良企業ほど慎ましい行動をするというようなことです。これでは、将来的にお金が余り続けるのは当然でしょう。
 そういうことが継続していくと、p.180 にあるように「借り手のない金融市場」が登場し、金融市場が崩壊し、お金は突如として腐ってなくなってしまうというわけです。乙は、どうも、この道が必然であるような気がしてきました。お金がなくなるとはどういうことでしょうか。乙は極端な円安とインフレというふうに解釈したいと思います。
 第5章(pp.196-236)は「誰でも儲かるお金の話」です。お金をふやすために、教育に投資せよ、(特に、子孫に投資せよ)と説かれます。説得力があります。次に、永久システムとして「株」に投資せよということになります。会社は、個人と違って年を取りにくく、たえず人の入れ替わりがあるから、一番いいシステムだということで株式投資をすすめます。
 その他にもいろいろな提案がありますが、それは本書を読むときの楽しみとしておきましょう。
 全体として、とてもわかりやすいと思いました。このように日本の現状を把握したとして、では、個人はどのように対処したらいいのかということを考えると、何ともやりきれない感じになります。逃げ道はなさそうです。世界がそうなっているのですから。
 マクロにものを見るために、おすすめできる本だと思います。


ラベル:武田邦彦 国債
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2007年06月07日

板倉雄一郎事務所(2007.3)『真っ当な株式投資』日経BP出版センター

 乙が読んだ本です。「短期トレードより長期バリュー投資がなぜ「真っ当」でかつ「儲かる」のか」という副題がついています。
 第1章は「「投資」とは何か」です。こういうところから説きはじめるのですから、単なる投資本とは一線を画すものといえます。
 pp.18-22 では、投資とは「確実な今」と「不確実な未来」を交換することだと説きます。すばらしい説明で、投資の本質をひとことで説明してしまいました。p.30 には、投資と消費がどう違うかといったことも説明されており、大変わかりやすいと思いました。
 第2章「「価値」とは何か」と第3章「株式投資は人への投資」もおもしろかったです。投資の本質を手短に説明するものとして有意義です。
 p.68 では、企業価値などをしっかり学んでから株式投資をするべきだと説きます。長期バリュー投資をねらう以上、こういう主張は当然でしょう。しかし、乙は、しっかり学ぶ時間もないし、インデックス投資を基本に考えたいので、あまり勉強しないで株式投資をしようなどと考えています。こういう態度では、著者からは怒られそうですが。
 第4章「「デイトレード」のなにが問題なのか」では、デイトレードの問題点をきちんと指摘しています。乙は、自分ではデイトレードをしませんが、著者がいうほどにはデイトレードを否定的には見ていません。そういうやり方をする人がいても不思議ではありません。デイトレードで金儲けをすれば、儲けた金を何かに使うことで、結果的に社会に貢献する面もあるでしょう。デイトレードが大きな損失になってしまえば、それは証券会社や他の投資家に儲けさせたわけですから、それも社会貢献の一種でしょう。デイトレードは、するもしないも、個人の判断です。
 あと、おもしろかったのは第7章「分散投資について」です。p.160 で、分散投資してもいいが、しなくてもいいと述べています。投資対象をよく知れば、分散じゃなく集中できるということです。乙は、そういうレベルで投資対象をよく知っているなどということはありませんから、分散投資を基本に考えていますが、一方では、(人によりますが)集中投資がいいということもあるように思います。
 この本は、全体として、投資にすぐに役立つようなことはないと思います。しかし、こういう考え方を知ることは意味があります。インデックス投資を心がけている人は、こういう本をどう読むべきか、考える必要がありそうです。
 なお、本書では、ところどころ、Q&A方式の記述が出てきます。この部分については、乙は不満が残りました。しばしば本文に書いてあることの繰り返しになっている例があるように感じたからです。


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2007年06月05日

森木亮(2007.3)『2011年 金利敗戦』光文社

 乙が読んだ本です。「日本国破産処理の現状」という副題がついています。
 今の日本の異常な超低金利を中心に、金利のさまざまな側面を描いています。日本国はすでに破産処理過程に突入したとしています。
 ではなぜ 2011 年なのでしょうか。
 森木氏は序章で以下の3点を挙げます。
(1) 現在、財務省が悲願としている「プライマリーバランス」の赤字解消がほぼ絶望的になること
(2) 自治体の破産が常態化し、貯蓄率がゼロになること
(3) 原油価格の高騰が続くこと

 乙が見るところ、これらはいずれも 2011 年という年を区切って問題になるのでなく、これからだんだん深刻な問題になるといった性質を持っています。したがって、「2011 年」という年には何ら意味はないと思われます。
 だいたい、こういう未来予測的な本は「数年後が危ない」と主張するものです。数十年後が危ないといっても、遠い未来のことのように思われ、誰も危機感を持たず、本が読まれない(売れない)だけですし、1年後が危ないといったら、本が売れている間にそのときがきてしまい、「ほ〜れ、見よ。だから著者のいっていることは正しかった(あるいは間違っていた)のだ」ということになってしまいます。これまた本が売れなくなります。だから数年先にしておいて、本がきちんと売れ、しかも、その時期になるころには買った人々はみんな本の内容を忘れるくらいの「適切な」時期を指定して危機をあおるというような書き方になるのです。
 この本は、序章+全8章で構成されています。乙は一通り読みましたが、序章「2011年問題」と第1章「金利をめぐる攻防」の約50ページを読めば、森木氏のいいたいことの趣旨はくみとれると思います。それ以降がムダだとは思いません。金利をめぐるさまざまな問題点を述べていて、有益な部分がいろいろあります。しかし、それらは森木氏の本来の主張とは別の面がかなりあります。
 第1章では、金利が 3.5% を越えると、国債の暴落が現実化し、国はデフォルトを宣言せざるをえなくなる可能性があると説きます。こうして、円安、株安、債券安になるというわけです。こうならないためには、国債を順次償却していく(つまりは借金を返す)ことが必要なわけですが、これに関して森木氏は官僚の今までの考え方を見てくれば、どうもそうはならずに、日本国が破産するしかないのではないかと見ています。
 森木氏の主張をそのまま受け止めて、個人レベルで考えれば、日本で株や債券を買ったりしているのは狂気の沙汰であり、海外に資金を移し、外国に投資する必要があるということになります。このあたりは、乙にはわかりません。投資家としては、国が破綻しても、しなくても、大丈夫なように考えておくしかないのではないでしょうか。つまり、海外投資もするし、国内投資もするということです。

 ちなみに、森木氏には、森木亮(2005.2)『2008年 IMF 占領』光文社
2006.4.16 http://otsu.seesaa.net/article/16624855.html
という著書がありますが、これについて、本書の中で(p.23)「幸い、私のこの警告は、危機感を募らせた財務官僚の延命策により外れる見込みであるが、事態はより深刻になったのではないか。」と書いています。はっきりいえば、2008年に IMF が日本を占領するという前著の主張(警告?)は間違いだったということです。森木氏は、たった3年後のことが見通せないということを明言しています。
 乙は、数年後、森木氏が『2011年 金利敗戦』をどう評価するかが楽しみです。
 また、森木亮(2007.2)『ある財政史家の告白「日本は破産する」』ビジネス社
2007.2.27 http://otsu.seesaa.net/article/34777467.html
という本もあります。森木氏の主張は一貫していますが、……。



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2007年06月02日

チャールズ・エリス(2003.12)『敗者のゲーム(新版)』日本経済新聞社

 乙が読んだ本です。「なぜ資産運用に勝てないのか」という副題がついています。
 第1部「資産運用の本質」では、資産運用で何とか儲けようとしていろいろがんばっていくと、そのこと自体が「敗者のゲーム」になってしまい、結局はインデックス投資に負けてしまうということを論じています。資産運用は「勝者を目指すゲーム」ではなく、「敗者にならないゲーム」だとしています。敗者にならないゲームとは、資産運用においてはインデックス投資ということです。
 p.19 資産運用は、最近数十年で「勝者のゲーム」から「敗者のゲーム」に変わってしまったと説きます。なぜならば、機関投資家が市場の90%を占めるからというわけです。なるほど。時代が変わったのですね。
 pp.25-39 アクティブな運用においては、次の四つのやりかたがあるとしています。
(1) 市場タイミングの選択
(2) 個別銘柄または特定グループの選択
(3) ポートフォリオの構成ないし戦略の変更
(4) 洞察力に富んだ長期的な投資コンセプトもしくは投資哲学
 これらはいずれも「他人の失敗の上に成り立つ」ものなので、長期的に継続することは無理だし、そういうのをねらっていくことはまずいということです。まさに、インデックス投資の本質を述べています。
 pp.48-54 有名投資家を多数抱えた投資の「ドリーム・チーム」がいたら、そこに資産運用を任せるべきだということになります。それは、つまりインデックス投資ということです。乙にはこんな考え方も新鮮でした。
 第2部は「運用理論の基礎」ということですが、ここも有益なことがたくさん書いてあります。
 pp.68-74 は時間について書かれています。長期投資ということです。長期ということでは5年や15年などの単位で考えることが多いが、個人投資家の場合でも、これでは短すぎてダメだということです。30年から50年以上を考えるべきだとしています。(乙は、そんなに生きていられません。)
 このことからうかがえるように、この第2部の記述は、個人投資家というよりも、機関投資家のことを念頭に置いて書かれているようです。そんなわけで、個人投資家にはやや不要な感じのする記述があります。しかし、投資について勉強するためには、こういう全体に対する目配りが必要でしょう。
 第3部「個人投資家への助言」は、まさに文字通り、個人投資家に読んでもらいたいところです。
 市場予測は難しいということ、インフレが最大の敵であるということなど、大事なことがいろいろ出てきます。pp.181-185 の個人投資家への十戒などもとても有益でしょう。
 pp.186-206 は「生涯を通じた投資プランを立てよう」ということで、50年以上の投資について書かれています。乙は、本書中でここが一番おもしろかったところです。
 個人は、80年かそこらで死んでしまいますが、家族や子孫のことを考えると、自分の人生だけが投資期間ではないということになります。したがって、年齢を重ねるにつれて株の比率を下げるというような操作は不要であるという結論になります。世代ごとの運用などはないのです。p.205 によれば、10年以上運用する資産はすべて株式に投資するのが正しいということです。
 乙は、15年ほどの投資を考えていましたが、著者の壮大なスケールには驚かされました。自分はどうしたらいいのか、再考させられました。(まだ結論は出せませんが。)
 pp.207-216 では、寄付や社会貢献などについて書かれています。子孫に莫大な資産を残す必要はないので、むしろこちらを考えるべきだということになります。それはそうですが、一方では、乙は15年後になってもそんなに莫大な資産を形成するわけではないので、こんなことまではとても考える必要はないとも思いました。予定では(計算上は)、乙の資産はそのころ数億円程度になるはずですが、そんな額ではここに述べられているようなことは無縁でしょう。数百億円以上の資産を持つ場合に考えるべきことかと思います。

 この本は、単なるインデックス投資の本というよりは、投資ということについて根本から考えさせる本ということになります。「すぐに役立つ投資の本」ではないけれど、ぜひ一度は読んでおきたい本と言えるでしょう。


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2007年05月24日

ラリー・E・スウェドロー(2002.5)『ウォール街があなたに知られたくないこと』ソフトバンク パブリッシング

 乙が読んだ本です。「インデックス・ファンドに投資して真の富を築くには」という副題がついています。
 ボリュームがあります。460 ページほどあって、一気に読み通せるものではありません。しかし、2520 円ということで納得できる値付けです。
 内容は、インデックス・ファンドのすすめです。類書はいろいろありますが、本書は記述が丁寧で、図表も多く、内容がわかりやすく、乙は非常に好感を持ちました。
 インデックス・ファンドがアクティブ・ファンドよりも優れていることが投資家に知られてしまうと、ウォール街の存在理由がなくなるから、ウォール街としてはそういうことを一般投資家には知らせないようにしているということで、「ウォール街があなたに知られたくないこと」=「投資に関する最も妥当な考え方」ということであり、趣旨はインデックス投資をしなさいということです。
 p.18 ミューチュアル・ファンドを選ぶとき、星の数に基づいてファンドを選んでもダメだ(でも、多くの人はそうやっている)ということを述べています。乙もそうやってきたので、苦笑してしまいました。
 p.69 新興国の株式は売買のコストが高いという話です。ETF などでも、新興国を対象にしたものは手数料が高いのですが、その理由はこんなところにあるのでしょう。
 pp.77-86 アクティブ・ファンドのコストのさまざまについて述べています。こんなにも多くかかるのですねえ。その中で、p.79 に「キャッシュのコスト」という話が出てきます。何と、乙が
2007.4.13 http://otsu.seesaa.net/article/38584050.html
で述べたことが書いてあります。キャッシュを持っていることがコストだという考え方は、わかりにくいかもしれませんが、乙は(自分で考えたことと一致したので)納得しました。
 p.104 銘柄とタイミングを読むことはマイナスだという話が出てきます。インデックス投資の本質を突いています。
 p.112 非アメリカ株の ETF として WEBS というのが出てきます。乙は、こういうのを知らなかったので、web で(検索エンジン経由で)見てみました。いくつかヒットしますが、説明を読んでもどうにもよくわかりません。もしかして、今は別の名前に変わったのでしょうか。有力な投資先だと思ったのですが。
 pp.134-137 ヘッジファンドはインデックスを越えられないという話が出てきます。それはそうかもしれません。しかし、そうであっても、インデックスと相関が低ければ、保有する意味があります。
 pp.196-198 カメの卵の比喩で、なぜ個人が小型株投資をして儲からないかを説明しています。大部分の小型株は失敗であって、ごく一部だけが大成功して大きく儲かるとのことです。今後成功するであろう会社(カメ)を事前にうまく見つけることがきわめて難しいので、結局、個人投資家が小型株を買ってもダメなのだという結論になります。インデックス投資ならば、全体に投資するので、こういう問題は避けられます。
 乙は、自分の経験からも、この話は大いに納得しました。(小型の)個別銘柄の株を買うということは、こういう意味でボラティリティが大きいということになります。
 p.221 セクター・ファンド(一部の業種に投資するファンド)はダメだとのことです。ETF でもセクターに投資するものがいろいろありますが、同じ議論が当てはまりそうです。
 pp.340-341 債券ファンドを避ける理由が二つ書いてあります。債券ファンドには償還期限がないから、金利が上がって債券価格が下がったときにそれを取り戻すことができないという考え方は非常におもしろいと思いました。
 p.350 S&P 500 だけでは分散投資にならないということです。乙もまったく同感です。アメリカ株の場合、いろいろな ETF を買うのがいいと思います。このことは乙のブログ
2007.4.17 http://otsu.seesaa.net/article/38986799.html
にもう書きましたが。
 p.354 EAFE も大型中心の指数なので、国際小型株のインデックス・ファンドを組み入れるべきだという話です。これまた妥当な指摘です。乙もそういう ETF を探しています。
 p.355 投資期間別に、最大の株式アロケーションが示されています。アメリカの本ですから「投資家の年齢」を基準とするなんてことはありません。これから何年投資し続けられるかということが基準になります。乙は、15年を考えていましたが、すでに14年になっています。その場合、80% だそうです。そうですか。株がそんなに多くていい(多いのがいい)とは思いませんでした。

 ともあれ、この本はとてもオススメできる本だと思います。金融機関に資産運用の相談をする前に、こういう本こそ読んでおくべきなのですが、それにしても、あまたある投資本の中で「この1冊」を選ぶのは難しいんですよね。

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2007年04月23日

本多静六(2005.7 再版、1950.11 初版)『私の財産告白』実業之日本社

 乙が読んだ本です。
 中身は二つの部分からなり、前半が狭い意味の「私の財産告白」で、後半が「私の体験社会学」というものです。両者は、かなり密接な関連があるので、1冊になっていてよかったと思います。
 本書は、本多氏が自分の生き方・考え方を語ったものです。その一部として、(特に前半部で)自分の金儲けについて率直に書いています。
 本多氏は相当な大金持ちだったようで、p.58- には「最も難しい財産の処分法」というものまであります。お金の場合は、あまりに持ちすぎると、こういうところも苦労するんですね。少なくとも、本多氏は子孫に残すという考え方はしなかったようで、大部分を匿名で寄付してしまったということですから、すごい話です。
 一番驚く話は四分の一天引き貯金法でしょう。多くの家族を抱えて大変なときに、貧しいときこそこういう貯金法でタネを作るという話なのです。ある意味で誰でも知っていることですが、それを愚直に実行したことはすばらしいことです。
 それにしても、お金がないときはごま塩だけでご飯を食べていたというような話を聞くと、本多氏の(実はその奥さんや家族の)苦労と努力は並大抵のことではないと思われました。
 本多氏は、東京帝国大学農学部の教授だった人で、370冊もの著書を書いたとのことです。
 乙が聞いた話では(どこかの著書に書いてあったのですが、出典を忘れてしまいました)、戦前の大学教授は、けっこうな高給取りだったとのことです。
http://homepage3.nifty.com/bunmao/LINK21.HTM
にも似たような話が書いてあります。戦前は、身分意識が強く残っていたこともあるのでしょう。現代の大学教授とは比べものにならないとのことです。
 それに、戦前は原稿料が高かったという話も聞きます。今は、雑誌の原稿料も相対的に安くなり(給料の賃上げは続いたのに、原稿料単価はあまり上がらないということです)、書いても小遣い程度にしかならないわけです。戦前の、しかも帝大教授が書いたものなら、今とは比べものにならないレベルの原稿料が出たものと思います。
 というわけで、本多氏の話はちょっとだけ割り引いて聞く必要があります。
 本多氏が専門とする森林学と関連するのでしょうが、山林投資で儲けた話は、当時の経済状況などもうかがわせてくれます。今では、まずありえない話です。
 株式投資についても、当時と今とで状況は大きく変わっているように思います。株式の本質は同じでも、投資家として考えた場合、同じ態度でのぞんでいいのでしょうか。
 いろいろおもしろい話を含みつつも、この本はやはり60年近くも前に書かれた(当時本多氏は85歳)本なんだと意識してしまいました。

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2007年04月20日

三原淳雄・木村剛(2006.3)『騙されない社会人のための株入門』DMD JAPAN

 乙が読んだ本です。表紙には「チャート分析に頼らない投資の常識」という副題が書いてあります。
 中身の大部分は、二人の対談で構成されています。その点では読みやすいといえますが、乙の好みでいうと、こういう対談は好きではありません。どうしても冗長になってしまうのです。実際に対談をした場合でも、その後にそれを整理して原稿化して、もう少し詰めてまとめればもっとわかりやすいのではないかと思いました。
 まあ、株の入門書の前に読むべき本という位置づけのようですから、今のスタイルでもいいのかもしれませんが。
 第1章は「失礼ながら、その投資本では儲かりません!」という題で、多くの投資本を切り捨てています。
 第2章は「日本のマスコミは「株」がお嫌い?」ということで、マスコミ(の記者)にちゃんと株を勉強するように言っています。マスコミの偏向した姿勢が一般の人々に株に対して悪いイメージを植え付けているということです。
 第3章は「株式投資の前に知っておきたいこと」で、監査法人や経営者などの意味を考えています。乙は p.112 からの監査の問題がおもしろかったと思いました。一度、監査法人が企業の不正を(なあなあで)見逃してしまうと、あとは一蓮托生で、次回に企業側から不正を持ちかけられても断れなくなってしまい、その企業と一緒に深みにはまってしまうということです。また、p.126 には「要するに、民間銀行がだらしないから、郵貯が肥大化したんだし、官業が民業を圧迫したなんて議論が幅をきかすんですよ。」などとあります。日本の銀行の問題点をズバリ指摘していると思います。
 第4章は「日本経済はこう変わっていく」ということで、今後の予測を述べています。乙はこういうところはあまり好きではありません。どうせ、将来予測なんていいかげんなものなんですから。
 第5章は「株式投資の王道はこれだ!」という題で、株式投資のしかたの原則を述べています。妥当な議論です。
 なお、巻末にはいくつか「特集」がありますが、乙は、その3番目「是川銀蔵は儲かったのか?」が大変おもしろく思いました。是川銀蔵(略称:是銀)は最後の相場師と呼ばれ、株の取引で成功し、長者番付一位になった人ですが、死亡時には24億円の負債を抱えていたということです。個人の一生を通して、大儲けとは何かを考えさせてくれます。普通には大儲けはできないものだと思います。
 また、「おわりに」の pp.286-288 ですが、日米の市場の違いについて触れ、日本は市場に対する認識がなく、政治家やマスコミがいかにひどい言い方をしているかを説いています。納得できます。
 この本は、全体として日本の株式市場の悪い点がいろいろ書いてあると思います。その中で株式投資をやっていくことは大変なわけです。乙としての結論は、「だったら日本で投資せず、アメリカで投資すればいい」ということです。アメリカはアメリカなりの問題点を抱えていますが、日本よりはマシなように思います。
 一番最後のページ(p.294)に、三原氏はこう書いています。「本書では筆者自身の過去の長い証券生活を通して感じたことを正直に述べてある。若いときに市場を正しく認識していれば、もっと違った人生だったのにという悔いも正直に白状している。」すばらしいことばです。乙も、今の投資に関する知識を若いうちに持っていたら、やっぱり違った人生を送っただろうなと思いました。


ラベル: 入門書 投資
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2007年04月16日

これからの資産形成を考える会(2007.2)『幸せになる投資戦略を探せ』講談社

 乙が読んだ本です。
 今(2007年)を基準に考えて、10年後にどうなっているかを四つのシナリオに沿って予想し、1997年に学生だった5人が2017年にどうなっているかを描いています。みんな40歳前後になっているわけですが、それぞれずいぶん違った道を歩んでいます。SF小説タッチですから、全体として軽い読み物になっています。
 四つのシナリオのどれが実現するかで、日本はまったく違った社会になっているものと思われます。どれが実現してもいいように、今から準備しておきなさいという趣旨なんでしょうが、それだったら、もっとコンパクトに書けるのではないでしょうか。
 乙は、投資の面から考えると、中身が薄いように思いました。
 内藤忍氏の「あとがき」の前半(pp.242-249)が一番読み応えがありました。長期分散投資を心がけようという話です。
 また、「まえがき」もおもしろかったです。学者でありながら同時に資産家でもあった本多静六氏のことが書かれています。『私の財産告白』という本があるそうで、乙は、これを読みたくなりました。
 というわけで、この本は、あまりおすすめではないと思います。


ラベル:投資 将来予測
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2007年04月10日

倉都康行(2006.12)『世界がわかる現代マネー6つの視点』(ちくま新書)筑摩書房

 乙が読んだ本です。
 現代のマネーを六つの視点からとらえてみようという趣旨です。その六つとは、目次がそのまま内容を表します。

第1章 投資時代への期待と幻想―資産運用の環境変化
第2章 ポスト不良債権時代―銀行主導時代の終焉
第3章 経済社会を動かすファンド―「ファンド主義」は定着するか
第4章 米国型金融システムの揺らぎ―強さと脆弱さの危うい均衡
第5章 多極化へ動き出すマネー社会―多様化する国際経済
第6章 金融と社会との対話―金融は役立っているか

 第1章が一番投資と関連すると思います。投資信託や分散投資、高金利通貨などを扱っています。ただし、新書ということもあって、記述の分量が多くないので、全体に中途半端な記述であるように思いました。
 第2章は金融行政や金融システムをめぐる話題で、時代が変わったことを実感させる内容です。
 第3章はヘッジファンドなどを扱っており、この章も投資と直接関連するといえます。ただし、ここでも踏み込み不足を感じます。
 第4章は米国の金融システムについて述べており、アメリカに投資することを考える上では、是非知っておく必要があるでしょう。p.160 で、米国投資家の資金が、アメリカ市場を嫌って、BRICs などの新興国に向かっていることを述べています。最近は、従来のアメリカの投資家と違った側面が現れてきているというべきでしょう。
 第5章では、新興国やオイルダラー、イスラム金融などが語られます。乙は、p.185 で述べているオイルダラーの行方が BRICs やヘッジファンドだということが興味深かったです。
 第6章では、これからの日本は投資立国も視野に入れるべきだというようなことで、大きな目でものを見ようとしています。
 全体として、おもしろい話題が扱われているのですが、全体にどうも中途半端な感じがしました。話題が分散している感じを受けます。各章を1冊分にするくらいでもいいのではないでしょうか。それなら、著者としても十分書き込むことができ、(読む方は大変かもしれませんが)充実した本になったことでしょう。(新書にいろいろ期待してもいけませんが。)

ラベル:マネー 金融 BRICS
posted by 乙 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする